第6話
レジェンドバトル。
一年前にサービスが始まった陣地取り対戦ゲーム。
スマホのアプリゲームで、5拠点のうち、沢山拠点を制圧したチームの勝ちとなる。
「詩織、そこの拠点確保頼む。俺は防衛と近くの敵をスタンさせるから」
「うん、分かったよ。6秒耐久お願い!」
詩織のヒーローが拠点確保してる間に、俺のヒーローが足止めする。
試合時間は残り30秒。
お互いに2拠点確保しているので、残り1拠点さえ取れば、俺たちの勝ちである。
「まずいな、このままだとタンクがワープで飛んでくる。なんとか、クールタイムが終わる前に、対処しないと」
「ごめん、これ間に合わない」
敵のヒーローがワープで残り僅かで制圧出来たであろう、拠点にワープされ、制圧を阻まれる。
「これは詰んだか?」
残された手段は必殺技だ。
俺のヒーローの必殺技で周囲の敵に大ダメージを与える。これを使うしかないのか。
「必殺。大噴火!」
拠点を中心に燃え上がる火炎が発生する。継続時間は6秒。必殺技を使っている時は、無敵状態になるので、敵の攻撃は効かない。
「今だ!拠点を確保してくれ!」
「はい!」
大噴火でタンクの体力を0にしつつ、防衛もできる。だが、この試合中必殺技はもう使えない。残り時間が少ない時に使うのが有効だ。
ゲーム終了。
3-2で俺たちの勝ちだ。
「やったな詩織。始めたばかりにしては上手いじゃん」
「えへへ」
詩織は照れくさそうに笑う。
レジェンドバトルはひと段落。
「そういえば、千歳君の家に注文したカードは届いた?」
「ああ、全部届いたよ。郵便受けにカード送られると、気分が高まるよな」
「ふふ、そうだね。じゃあ、一戦やってみる?」
「悪い、今日は疲れたから、別の日にする」
「ごめん、疲れたよね。分かった。また今度にしようね」
今日で夏休みは終わり。明日になれば、この楽しかった楽園のような時間は終わり、いつもの日常が始まる。1日の大半が勉強。家帰ったら何のゲームをしようか?
「・・・」
何か忘れている気がする。
そういえば、俺。
「なあ、詩織。ここは現実か?」
「急にどうしたの?」
コネクターSP。
俺が夏休みに買ったVRフルダイブマシン。
あれを使って以来、俺いつログアウトした?
恐らくしていない。
それどころか、現実とあまりに同化しており、仮想世界であることすら気づかなかった。
「2回目だよ」
詩織は言った。
「2回目?」
「そう、千歳君はこの仮想世界の最後の夏休みを2回繰り返している。明日になれば、また夏休みを繰り返すの」
「そんな馬鹿な」
全てが虚像?今がコネクターSPの仮想世界。じゃあ、今の俺はどこにいる?
「うぅ」
急に頭痛がした。
1回目の夏休みの記憶。
その時はずっと1人だった。
現実でも仮想世界でも1人。
夏休みに遊べる友達がいない。
寂しい。
「そういえば、あの時」
俺は思った。
友達とずっと遊べる夏休みを過ごしたいと。
その時、ゲーム音声から聞こえた。
「これより、バーチャルストラテジー楽園の鳥籠を始めます」と。
バーチャルストラテジー楽園の鳥籠。
市販のゲームにそのようなタイトルのゲームはなかった。
バーチャルストラテジーというカードゲームは発売されていたが。
よし、ここがゲームの世界なら脱出する手段があるはずだ。
なら目の前にいる詩織は?
ゲームのNPCにしてはリアルすぎる。
でも、元々の詩織ってどんな性格だった?
思い出せない。というか思い出そうとすると頭痛がする。
「なあ、詩織。いや、あんたは何者だ?」
「私はゲームマスター。あなたの願いを受託し、このゲームを管理してます」
目の前の詩織は偽物?
俺だけが現実の人間?
「なあ、ゲームマスター。俺はどうすればこの世界から現実世界に戻れる?教えてくれ」
「本当にそれでもいいのですか?」
「どういう意味だ?」
「貴方がこの先に待ち受ける運命。それを受け入れる覚悟が貴方にあるとは思えません。貴方はずっと遊んでいたいのでしょう。ずっと夏休みを満喫する選択肢があります」
あ。
思い出した。
俺は。
俺は。
「一生ゲームして遊んでいられる」
そうか。
一緒楽できる。
遊んでいられる。
カードゲームやプールで遊んだりできる。
以前の俺はずっとそう思っていた。
それが本当の望みだと思っていた。
「詩織…」
現実の詩織はここにはいない。
繰り返した夏休み。
最高だった。でも。
現実の詩織と話したい。
ようやくあいつの好きなカードゲームバーチャルストラテジーのゲームができるようになったのだ。現実で遊ぶにはバイトか小遣いでカードを買うところから始まるけど、それでいい。
「詩織、いや、ゲームマスター。どうすればこの世界から出られる?」
目の前に薄透明な画面が表示される。
「ログアウトをすれば、出られます。ただし、現実では夏休みの最終日です。以前の貴方はログアウトを拒否し、ゲームのリセットをしました。本当にログアウトしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。楽しい夏休みをありがとう」
体が宙に舞う。
天井を体がすり抜け、気づけば、高い空。
世界の終わり。
空から見ると、この世界は自分達が住んでる県内だけ領地が存在し、他県はもやがかかっている。仮想世界だから行動できる範囲は限られていたのか。
意識が遠くなる。
さよなら仮想世界。
「ここは、、、」
目が覚めると、自分の部屋だった。
そうか、戻ってきたのか。
ベッドで横になっていた体を起こし、勉強机にあるデジタル時計を眺める。
8月31日。
夏休み最終日。
ああ、ゲームのやり過ぎか。
「もう夜か。そういえば、俺夏休みの宿題を全くやっていないじゃん!今から急いでやらないと!」
楽しい時は有限だからこそ楽しい。
よく考えたら、あのままあの世界にいたら餓死していたかもしれないな。
しかし、バーチャルストラテジー楽園の鳥籠。俺はこのゲームを買った覚えはない。
そして、あのゲームの詩織。ゲームマスターと名乗っていたが、どうして詩織の姿で現れたのか。
最後に、俺がゲームにダイブしたのは1週間前。夏休みをゲーム内で2回繰り返した。
つまり三ヶ月以上はゲーム世界にいた。
このコネクターSP。
今起動したところバグとかはない。
「考えても分からないし、いいか」
俺はメラカミを開きバーチャルストラテジーのカードを眺める。
「マジかよ」
あの世界とこちらの世界で売られているカードの値段とほぼ同じなのだ。
気づけば、宿題のことを忘れてカードのリストを眺めていた。
いけないいけない。
手が止まらない。
ゲーム世界で作ったデッキに必要なカードを次々に注文する。
エターナルフェニックスデッキ。
完成したら詩織と対戦しよう。
「もう寝る」
宿題を今更やったところで、間に合わない。
先生に怒られるのは仕方がない。
でも、後悔はしない。
永遠に続く虚像の世界を繰り返すぐらいなら、これからの人生をどう楽しむか考える方がマシだ。
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