バーチャルストラテジー・楽園の鳥籠

土呂

楽園の鳥籠

第1話

 俺は川原千歳。中学二年。


 夏休みとなり、VRフルダイブマシン、コネクターSPの発売日は明日となる。


発売日の1日前からPC系ゲーム取扱店で並んでいるわけだが。


「凄い行列だ。並ぶのが遅かったら、買えなかったかもな」


 俺の後ろには少なくとも50人は並んでいるだろう。


「確かにな。俺の言った通り、早めに来て正解だっただろ」


 こいつは俺の中学の友達、富田弘人。

中学一年からの友達で、一緒にコネクターSPを買いに来たのだ。


「そうだな。ところで弘人はコネクターSP買ったら、何のゲームやるんだ?」


「そりゃ、お前。フルダイブゲームだろ。現実世界では出来ないことやりたい放題じゃないか」


「まあ、そうだな」


 仮想世界とは言え、プログラムに設定されていないことは出来ないだろうが。


「なら、仮想世界の可愛い女の子とイチャイチャするに決まっているだろ!」


 ギャルゲーかよ!てか声デカい。何?現実世界では彼女作れないからって、仮想世界で一線越えるつもりか?


「確かに、ギャルゲーもあるけど、年齢制限あるだろ。コネクターSPで年齢を設定したら、俺らはR指定のゲームはプレイ出来ないんだよ」


「マジかよ!?いや、ちょっと待て。ならその年齢設定の時に、嘘の年齢を入力すれば、、ってあいたー!」


 俺は弘人の頭を軽くチョップした。問題発言の注意の意を込めて。


「わざわざゲームで彼女作らなくても現実で作ればいいだろ」


「いいよな、千歳は彼女いるし」


「別に。詩織は彼女じゃなくて、ただの幼馴染だ」


「んー?別にぼくぅ、詩織ちゃんのこととは言ってませんけどぉ?」


 うぜぇ。なんだよそのドヤ顔。そんなんだから彼女の一人も出来ないんだろう。


 俺は、はぁーとため息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。


「弘人、よく考えるんだ。人類初の仮想世界のゲームだぞ。俺たちはそこで剣を持って闘ったり、魔法を使ったり、空を飛んだり、何でもできる。若い衝動を抑えられない気持ちは分かるが、もっと夢を見てもいいんじゃないか?」


 ネットワークの起源、1967年のパケット通信から歴史が始まり、2035年となる現在。現実世界の摂理がVRの技術に追いついたのだ。現実世界では不可能なことを現実でできる。


「まあ、そうだなあ。魔法のある世界には興味があるな」


「おお、いいじゃん。何か使いたい魔法でもあるのか?」


「ゲームとかでよくあるステルス系の魔法あるじゃん。あれ使って女湯とか覗けないかな」


「風呂は現実で入るだろ」


 深夜の12時。あと9時間。

 昔ブームだった携帯型の育成ゲーム。あの時もこんな感じだったか。あの時は親が並んでたっけ。


人気ゲームを買うのも一苦労だ。


ベータテストの抽選には当たらなかったから、ゲームを未プレイのまま、商品の再入荷を待つのはあまりにも酷だ。だからこそ、この長い夜を乗り越えて、絶対コネクターSPを買いたい。


 ただ並んでいるだけなら暇なので、話し相手として、弘人を連れてきたわけだが。


「なあ、千歳」


左肩をポンポンと叩かれたので、振り向いた。


そして頬を指で突かれる。


「・・・」


「ヘッヘッヘ。引っかかってやんの」


 

 しょーもない悪戯でニヤニヤする弘人。

俺は本日2度目のため息。

ガキかよ。

だけど、相変わらず変だけど、面白い奴だ。


「まあ、そういうことにしてやるか。してやられたな」


「お、素直じゃないか。お前にしては珍しいな」


「今深夜だろ。こんな時間にごちゃごちゃ騒ぐつもりは無いさ」


 深夜1時。

普段なら就寝時間。

ベッドに横になっている時間帯だ。


足の疲労と睡魔。

忍耐力がいつまで持つか。


「ゲーム買ったらすぐ寝ようかな」


とにかく眠い。

雑談する相手がいて、助かったと思う。


「そういえば気になっていたんだが、ぶっちゃけお前と詩織ちゃんってどこまで進んでいるんだ?」


 「進んでる以前に付き合っているわけでもないし、進みようがないだろ」


「そうか?詩織ちゃんってお前といる時は他の人といる時とは違う表情をするというか、なんか2人だけの空間というか。とにかくただの幼馴染にしては仲良すぎなんだよ」


詩織との関係か。


「詮索はやめてくれ。それは俺と詩織の問題だ。今はまだそういった関係になる気はない」


「ほほぉ、「「今は」」ねぇ」


しまった。

今のは失言だった。


「とにかく、詩織と俺は別にそんな関係じゃないから。そんなことより俺は気になることがあるんだ」


「ん?モテる秘訣でも聞きたいのか?」


モテない男に言われても説得力ねぇ!

仮想世界でギャルゲーする男が言えるセリフか?


仮想世界のギャルゲーか。キャラクター攻略してるところを他のプレイヤーに見られるとか、恥ずかしくて死にたくなる。え?エロゲとかどうなるの?自主規制シーンとかヤバくないか。仮想世界の世界観がイマイチ分からない。


「モテるうんぬんはともかく、俺は仮想世界が現実になった時、世界はどうなる?」


「世界って?なんだお前、今どき戦争でも恐れているのか」


「違うよ。今はスマホが当たり前の世の中だろ。ただ、仮想世界は明らかに人と人を繋ぐツールとして便利だ。だが、明らかにネットと仮想世界には多くの違いがある」


「まあ、そうだな。仮想世界がネットの代わりになる日は遠くないだろうな。でも仕方ないだろ。そういう時代だから。時代の変化には逆らえないさ」


「確かにな」


俺は現実世界で生きる目的が見つかっていない。進路とか将来のこととか。俺はもしかしたら仮想世界に期待しているのかもしれないな。自分を変えてくれる世界が待ってるかもしれないと。


「弘人もギャルゲーばっかりしてないで、これを機にスポーツ関連のゲームをしたらどうだ?」


「スポーツだぁ?」


「だって、運動神経運動部よりは劣るけど、普通の人よりはできるだろ」


「うん」


「だから」


「おう」


「なんでもない」


「無駄に焦らすな!」


「冗談だって。ただスポーツできる男はモテるだろ。仮想世界なら弘人でもエースストライカーだ」


「おお、なるほどな!だが、なぜサッカー?俺野球の方が得意だぜ」


「あのな、サッカーか野球かなんて関係ないんだよ。要は男が熱心にスポーツに専念してる姿が女の子からしたらカッコいいんじゃないかって話」


「お、おう」


弘人は頷く。


まあ、実際に弘人がスポーツをして、仮想世界で女の子から黄色い声援を浴びても、女の子の中身はオッサンという悲惨な未来が待っているかもしれないが。


ネットとかでもなりすましとかよくある話だが、仮想世界でのなりすましとか、疑心暗鬼になるな。


 朝の日差しが昇り始める。

気がつけば時計の針は5時を指していた。


「日の光が眩しいな。もう朝か」


頭が空っぽ。真っ白な状態。

眠いを通り越して、もう眠気なんてない。


目の前に待っているのは、未知の世界への切手だ。


「なあ千歳。俺、夏休み全部使って、童貞卒業するわ。もう2度とお前と会うことはないかもしれないが、詩織ちゃんと仲良くな」


「お前、夏休み全部使ってギャルゲーするつもりだろ!少し冷静になれ!」


あと、無駄にウィンクするな。


俺はどのゲームをするか。


コネクターSPさえあれば、ソフトはdショップからダウンロード出来るので、好きなゲームをプレイできる。


「これより、VRフルダイブマシンコネクターSPの販売を開始したいと思います。お並びのお客様は順番に商品を購入して下さい。なお、コネクターSPの購入は1名につき、1台となっております」


長時間の待機で疲れ切った人達の目にハイライトが入り、活気が溢れ、ワイワイと賑やかになる。


「弘人。ありがとな。一緒に来てくれて」


「みずくさいな。気にすんなよ」


俺たちは無事コネクターSPを購入した。

















 















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