第2部
2-1
「いらっしゃいませー 何をいれますかー」と、私は明るい声を張り上げていた。もう、1ト月になる。あれから、高校を辞めて、あの島の店を閉め、おばぁちゃんの残してくれた貯金でアパートを借りた。京都のあの人が言って居た大学の校門近くのクレープ屋さんに雇ってもらっていたのだ。
あの人が言って居た、唯一の手がかり。住所も何にも知らない。ただ、私はあの人が好き。見えない糸をたぐってきたのだ。あの時、身寄りも居ないし、それしか、私には、他に頼るものがないと思ったのだ。
ここなら、あの人がお店の前を通るだろうと、そして、逢えるかもと思っていたのだけど、まだ、逢えていない。私の髪の毛も伸びて、ボーイッシュと言われるくらいには、なっていたんだけど。
そして、お給料の半分以上は家賃と光熱費とかで消えていって、おばぁちゃんが、よく作ってくれていた小麦粉になんかを混ぜて焼いたものばっかりで、お化粧も洋服も買う余裕が無くて、いつもジャージで過ごしていた。お店の人からも、もっとオシャレしなさいよと言われたけど、笑ってこれが良いのって誤魔化していたのだ。私、やっぱり、男の子なんだからと・・。
でも、間違っていたのだ。クレープなんて、殆どが女子のお客さんばっかーで、私は手が空くと表の通りを見ていたんだけど・・。男の人ばっかりを・・。
「カナミ 何やー 男ばっかー 眼で追っとるネ 欲しいんか?」と、同僚の瀬川くるみさんが声を掛けてきた。
「うぅん ちがうよー 男のお客さんも もっと クレープ食べないかなって 思って」
「そうかー でもなー この頃な カナミ目当てで来る人 何人か知ってるで― 可愛い男の子がいるって 女の子に人気あるんやでー でも、最近は 男ものぞきにきてるみたいやで 前は、女の子のファンばっかりやったけどな 男は、カナミが立っているの確かめてから来るからわかるんや」
くるみちゃんは、大学の1年生で4月からバイトしている。と言っても、他の女子大なのだ。私も、最近になって、ようやくクレープ焼けるようになった。オーナーは今年大学を卒業したばかりの、まだ、23才の女性
その他には、去年高校を卒業して、彼氏と同棲している
私は、お休みの日。大学の構内をぶらぶらとして、あの人を探した。そして、自然研究同好会 何人かの人に尋ねてみたんだけど、誰もが知らないと返ってきていた。そのうち、行きかう人から変な目でみられているような・・いかにも、部外者なんだもの。それに、男の人が連れ立って歩いて来ると、身体がこわばってしまうのだ。だから、ただ歩いているだけにした。でも、ジャージ姿だから、やっぱり、変な目で・・。私からしたら、もっと、汚い恰好の人もいるのに・・。ここの学生じゃぁ無いっていう負い目があるからなのか、それとも、見た目、年が足らないんだろうかー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます