7.とばっちりフラグの回避方法。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アルフレッド殿下とのお茶会当日。私は叫び声を上げながら目を覚ました。そして、起きて直ぐに顔を青くしたのだった。
「なんで……なんで私こんな大事なこと忘れてたの……っ!!!」
「お嬢様っ!?どうかされましたか!?」
頭を抱えていると私の声を聞き付けた侍女のリリアが部屋に駆け付けた。私に何かあったのかと思ったのか、ベッドに状態を起こして座っている私を見て上がり切っていた肩をスっと落とした。
「怖い夢でもご覧になられましたか?」
「あ、えっと、そうね、でもあまり覚えていないの。」
「そうですか。本日はアルフレッド殿下とのお茶会がございます。まだ少し時間はございますが準備なさいますか?」
「いえ……もう少し休むわ」
「かしこまりました。」
深くお辞儀をするとリリアは部屋から出ていった。それを確認すると私は慌ててベッドから起き上がり机の引き出しから紙とペンを取り出すと思い出した内容を慌てて書き留めた。そして書き終わると再び頭を抱える。
そこには大きな文字で【拗らせ二重人格王子!!!】と書かれ、重要!とでも言いたげにグルグルとまるで囲われていた。
自分で自分の記憶力が悲しくなる……いや、前世の記憶だから忘れている部分もあるのか……?なんで今更思い出すの、こんな大事なこと……。なんて考えても答えが返ってくるわけでもなく、ただ、目の前に突きつけられた事実に私は項垂れ頭を抱えたのだ。
――アルフレッド・フォン・クライシスはこの国の第一王子である。容姿端麗で穏やかな笑顔と優しい性格に婚約者として名を挙げたい令嬢は数しれず……と、ここまでは記憶にあった彼の情報だ。しかし、それは彼、アルフレッドにとって『表の顔』であったのだ。
この国の第一王子として生を受けたアルフレッドは幼い頃からそれはそれは大変厳しい教育を受けてきた。学問や剣術、全てにおいて完璧を求められるのは王子としての宿命であり、彼にとっての絶対だった。しかし、彼にも完璧になれない分野があった。それが魔術である。
この世界において魔術を使える人はほとんどおらず、その力の大小関係なく使えるだけで特別な教育を受けることが出来るほど優遇される特別な力である。現国王陛下に魔術の才能はなく、使うことが出来なかった。そして、息子のアルフレッドも魔術の才は芽を出さなかった。無いことが普通の世界である。そのため、無いことに対して別に責める者はいない。
しかし、神のいたずらか、9歳になった彼に突然魔力が宿り魔術の才を開花させたのだ。ただ、幸か不幸か、その魔力量は決して多いとは言えぬものであった。
しかし、周りは期待するのだ、魔術の才を持った王子であると。その過度な期待に応えようとしても魔力量は生まれた時に決められるため決して増えることは無い。さらに、彼は突然魔力が発現するという前例のないモノであった。そのためもしかしたら成長するにつれて魔力が増えるかもしれないと期待する者は多かったが、その魔力量が増えることは一向に無かったのである。そのため、彼にとってこの力は発現しなければ良かったのにと疎ましく思うものであった。
さらに、追い打ちをかけるように耳にした話が余計に彼のこの力をコンプレックスへと変えていった。その話の人物こそ、クリスティアの兄である、ユリウス・セリンジャーである。元々侯爵家の子息が魔術を使えるという噂は聞いていたが、自分には魔力はないから関係ないと思っていた。しかし、いざ魔力を持つとこれまで比べられることの無かった才を比べられるようになったのだ。
ユリウスの才能は宮廷魔術師を超える国一番とも噂されており、学園でも文武両道、全てにおいて優秀な成績を収めていたのである。これはまさに天才と言わざるを得ない。どんなに努力しても勝てることの無い、最初から結果の決まった勝負に彼は初めて挫折を覚え、彼の心はどんどん黒く染まっていった。
そして、王子としての重責、勝てない才能、周りからの過度な期待などが積み重なった結果、アルフレッド・フォン・クライシスは性格を拗らせたのである。
表の顔は一国の王子としての優しい顔である。
しかし、もうひとつの顔は酷く冷たい目をした狂気を宿した残酷な顔である。特に作中で残酷な描写は無く、あくまで設定として埋め込まれた裏の顔であるが、隠しイベントで悪役令嬢に対し彼はその酷く冷たい目を向け、悪役令嬢のヒロインに対する嫉妬を煽っていたのだ。
アルフレッドは自分より才能を持つユリウスを憎んでいた。そして、それは妹のクリスティアに対しても同じ感情を抱くようになったのである。
幼い頃は仲良く遊んでいた2人であり、9歳の時に両家によって正式な婚約を結んだ2人であったが、そんな経緯があり二人の間に距離ができ始めたのである。……そう、決してクリスティアが悪役令嬢になったからではなかったのである。
――想像できないだろう。私も初めてこの裏の顔を知った時は発狂したものだ。この話は全ての選択肢において正解を選び続けて出現する王子の隠れイベントによる内容である。
優しい王子とは似ても似つかない冷めきった瞳は彼自身の美しさが相まって酷く冷たいものに感じたのだものだ。さらに、悪役令嬢はただ純粋に王子を愛していただけなのに、ある日突然敵意を向けられるようになるのである。
その後ヒロインに出会い、才能なんて比べるものでは無い。と言われたことにより彼の心は浄化され彼はより一層ヒロインへの愛を深めるのだった。自分の心を救ってくれたヒロインへの愛を優しく囁くのがこの隠しイベントなのであるが……
なんてヒロイン贔屓なストーリーだ!!!!魔力に関しては悪役令嬢悪くないじゃん!!!とばっちりじゃん!!!
と、今だけは王子に悪態を着くのも許して欲しい。だってこればっかりは悪役令嬢悪くないんだもの。
王子のお兄様への嫉妬のせいで、私はヒロインに対しての嫉妬心を王子自らの手によって煽られた結果、悪役令嬢はヒロインをいじめる……
――ってこれ、王子がラスボスなんじゃね??
悪役令嬢上手いように王子の手駒として操られてね??
えーー……
状況を整理するとあまりの理不尽さに何だか一気に気が抜けてしまった。
しかし、王子の裏の顔まで思い出したのなら話は早い。王子はまだ魔力を発現させていない。つまり、今後の彼への私の対応次第では彼が性格を拗らせることを回避出来るかもしれないのだ。そしてそれを回避するという事は私へのとばっちりもなくなりフラグ回避に大きく近づくはず!!
一番の問題の婚約の話は、話題逸らしつつ上手いこと逃げてみよう。慕っている人がいるとでも匂わせておけばわざわざ自分以外の人を好きな相手を婚約者に選ぶことは無いだろう。
昨日までうだうだ悩んでいたのが嘘のようだ。今の私はやる気に満ち溢れている!!
今日の私の使命は、王子との関係を悪くすることなく、むしろ良好な関係を築いたまま婚約の話を遠ざけ、王子フラグをへし折ること!!!
「やってやるー!!!」
と、気合を入れたところで部屋の扉がノックされ私は慌てて机に広げられた紙とペンを引き出しに片付け返事をした。
「どうぞ」
「失礼します。お嬢様、そろそろご準備のお時間です。」
「分かったわ。リリア、今日もよろしくね」
「はい、お任せ下さい。」
そう言うとリリアの後ろから数人の侍女が入ってきてリリアを筆頭に私の本気の全身改造――もとい、侍女のプライドを賭けた全力の支度が始められたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます