乙女ゲームの設定で私に義弟なんていなかったはずだけど、トキメキ止まらないので悪役令嬢辞めて義弟に恋していいですか?
雨宮レイ.
1.プロローグ
「ティア、今日から君の弟になるウィリアムだよ。」
私の8歳の誕生日。ニコニコと笑顔を浮かべたお父様に反して部屋の空気が一気に氷点下まで下がったのが分かった。あまりに突然の出来事に、普段優しく穏やかなお母様も訳が分からないと言った表情を隠せずにいて、お兄様に至っては顔に手を当てて呆れ果てている姿が目に入る。壁際に立つ使用人たちは態度や表情にこそ出てないものの恐らく居心地の悪さを感じているだろう。
背の高いお父様の脚にしがみついて自分の姿を隠しているが、細くもやしのような――ゴホッゴホッ……スタイルの良いお父様の後ろにすっぽりと全身が隠れられる訳もなく、確実にこの家の血筋ではない綺麗な金髪が目に入る。
恐らく鈍すぎるお父様とは違い、まだ幼い彼は歓迎ムードとは言い難い部屋の空気を察したのだろう。ギュッとお父様の脚にしがみついたまま顔をあげようとしない。それどころか後ろに隠れたまま出てこようともしないのだ。
――ある意味、賢くまともな子なのかもしれない。
空気の読めないお父様とは違い、彼は今の状況をちゃんと理解しているだろう。それもあって堂々と私たちの前に立てないのだ。……もちろん、彼の元々の性格もあるかもしれないけれど。それでも、私の周りにいる、ナルシストか!と言いたくなるほど自己愛と自己評価の高い堂々とした態度をとる男の子とは180°違う彼の態度に私はほんの少しだけ興味が湧いたのだった。
「初めまして、クリスティア・セリンジャーと申します。あなたの髪とても綺麗な色ね。良ければ顔を見せてくださいませんか?」
ぴょんっと椅子から飛び降りお父様の前まで歩くと私はドレスの布を少し掴んで丁寧にお辞儀をして挨拶をする。私が声をかけると隠れきれてない肩がビクッと揺れるのが見えたが、しばらくしてからゆっくりと覗かせた顔はまるで乙女ゲームの王子様の様に綺麗で思わず見惚れてしまった。
「……は、初めまして。ウィリアムです、ク……クリスティア様……」
キラキラと濁りなく輝く金髪に、パッチリとした大きな目は青灰色の瞳をしていて緊張からか少しだけ瞳の奥が揺れていた。肌は陶器のように白く綺麗で、スっと通った鼻筋と程よくぷっくりした唇は女子顔負けの美しさを放っていた。さらに男の子にしては少し高めの声だが嫌悪感なんて一切なく、むしろどこか心地の良い気分になってずっと聴いてたいと思ってしまったから不思議だ。
あまりの眩しさに言葉を失っていると、そんな私の態度に不安を覚えたのか私を捉えていた瞳に影が差すのがわかり慌てて言葉を繋いだ。
「よ、よろしくね!私の事は姉さんでもいいし、ティアって呼んでもいいわ」
「えっ、で、でも……」
「私たちはきょうだいになったのよ。だから遠慮は無用ですわ。その代わり、私はウィルって呼んでもいい?」
「は、はい……大丈夫、です」
そう言って首を縦に1度振った後、その整った顔から生み出されたぎこちない笑顔の破壊力はとんでもないもので。乙女ゲーム好きの私の心にズキュン!!と矢が30本くらい刺さった様な衝撃を与えたのだった――。
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