戦女神の呪い 6

 クラリアーナが目を覚ましたというので、エルシーは彼女の部屋へ向かった。

 先ほどまで先客がいたそうだが、今はクラリアーナ付きの侍女のリリナとサリカの二人だけだ。二人はクラリアーナがフランシスの協力者であることを知っていて、エルシーがそれを知っていることもわかっている。


 クラリアーナが倒れて気を張り詰めていたようだが、エルシーは大丈夫だと部屋の中へ案内してくれた。

 クラリアーナはベッドに上体を起こした状態でエルシーを迎えた。


 いつもクルクルと巻いている髪は、寝ている間にほぐれたのか、緩いウェーブを描きながら背中に流れている。

 まだ少し顔色が悪いが、薬が効いたからか、気分はいいのだと彼女は言った。


「聞きましたわ。イレイズ様が拘束されたとか。あの方のせいではございませんのに」

「陛下によると、イレイズ様を守るためでもあるらしいです」

「そうらしいですわね。さきほどスチュワート様が教えてくださいましたわ」


 先客はスチュワートだったらしい。


「まったく、あの方は昔から心配症で困りますわ。先生によると、毒も命に関わるほどのものではなかったそうですのよ。もう普通に動けますのに、最低でも明日までは安静にしているようになんて……わたくし、早く起き上がって、真犯人を見つけなくてはなりませんのに」


 エルシーはびっくりした。

 クラリアーナは艶然と笑った。


「あら、だってそうでしょう? このわたくしに毒を盛るなんて、命知らずもいいところですわ。もちろん犯人を捕まえてとっちめてやりますの。スチュワート様もフランシス様も絶対に反対なさるから、言いませんけどね。エルシー様は手伝ってくださるでしょう?」


 だって、礼拝堂を汚した犯人を捕まえるのだと張り込んだくらいですものね、とクラリアーナは片目をつむる。

 もちろんエルシーは犯人を捕まえるつもりだったが、まさかクラリアーナまでそんな気を起こすとは思わなかった。


「でも、いいんですか? 寝ていた方が……」

「だから、もう全然平気ですのよ。スチュワート様が大げさなだけですの。それで、イレイズ様が疑われていることですけどね」


 目を覚ましたばかりだというのに、すっかり捜査をはじめるつもりらしい。

 リリナに促されてエルシーがベッドサイドの椅子に腰を下ろすと、クラリアーナはサリカにメモを取るように頼んで話しはじめた。


「フランシス様はイレイズ様を疑ってはいないそうですけれど、問題はイレイズ様が犯人だと騒いでいる妃候補たちをどう黙らせるかですわね。……イレイズ様が薬草園にいたというのが噂のもとになっているのでしょう? でも庭を歩き回るくらい誰でもすることでしょうし、イレイズ様はメイドと一緒にいたのではなくて? 彼女たちはイレイズ様が毒のある植物を採取しなかったと証言しなかったのかしら?」

「それについてですけど、もしかしたらイレイズ様が薬草園にいたというのは、わたくしが見かけたときのことかもしれません」


 イレイズが薬草園にいたところを見たという証言があるとフランシスから聞いた時、エルシーは昨日の昼のことを思い出したのだ。

 昨日の昼、イレイズは確かに薬草園にいたけれど、あの時はコンラッドと一緒にいた。彼なら、イレイズが毒のある植物を採取しなかったと証言してくれるかもしれない。


「それならばコンラッド騎士団長に確認すればいいわね。では次ですけど――」


 クラリアーナは一つ一つ情報を整理しながら、それをすべてサリカにメモを取らせて、満足したように首を振った。


「では、明日から聞き込み調査ですわね! ふふふ、捕らわれのお姫様を救う騎士はこんな気分なのかしら。絶対にイレイズ様を助けますわよ」

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