第130話 結婚というのは
思わず変な声が出た。
以前ローズ様が言っていた、私の運命の人の概要はこうだ。
『その者はどうやらつい最近まで王族だったようだな。その者が王族の地位を失ったのは……なるほど、これも何かの縁か。汝の夫によって地位を追われたと出ている』
それを、私はサクラ太后陛下のお子たちだと仮定した。
そして最近知り合った太后陛下の子と言えば……ダントリー様しかいない。
「うんめいのひとー?」
きょとんと首をかしげるアイに、私は苦笑いしてみせる。
「前も言いましたが、私はユーリ様の妻です。であれば、ユーリ様こそ私の運命の人ですわ。彼以外に運命の人などいりません」
確かにダントリー様は素敵な方だと思う。独身の頃だったら、もしかして占いの言葉に胸を躍らせ、気にかけていたかもしれない。
でも私は既にユーリ様の妻だ。
結婚というのは、契約だと思っている。
目の前に運命の人が現れようが、真実の愛が現れようが、目の前の人を愛し抜く。
つまり「あなた以外の人を愛さない」という約束を守り通すのが、結婚ではなくて?
「ふむ……。まあ汝がそう言うのならそうだろう。だが運命とつくほどなのだ、その引力は相当強いぞ。汝に抗えるとよいが」
「もちろん抗ってみせますわ。ぜひ見守っていてくださいませ」
第一、ダントリー様はようやく再会できたユーリ様の兄上なのだ。そんな人と恋仲になろうだなんて、何をどう間違えても絶対に嫌よ!
私が心の中で力強く決意していると、後ろから声が聞こえた。
「エデリーン」
ユーリ様だ。
振り向くと、ユーリ様はダントリー様と並んでこちらに歩いてきていた。
「すまない、兄上との話が立て込んでしまった」
「いいえ、気にしないでくださいませ。充実した時間になったのなら何よりですわ」
「ねえパパー」
そこに、アイの無邪気な声が響く。
「うんめいのひとってなあに?」
「運命の人?」
私はぎょっとした。
あっま、まずいわ。いえ、別にまずくはないのかしら? やましいことなんて何もないものね? でもダントリー様が私の運命の人だと言われていることが知られると、ちょっと、ううん、とっても気まずいかもしれない……!
私はぐっと眉間に皺を寄せ、覚悟をした。
「うん、あのね。ママが、パパのことをうんめいのひとっていってたの」
……アイ、ナイスだわ!!!
私は心の中で拍手喝采した。
いい感じにアイが聞き間違えてくれたおかげで、兄弟仲に微妙な空気が漂うのは免れたのよ! アイ、いつにも増して最高!
「エデリーンが私のことを……?」
その瞬間、ユーリ様の頬がポッと赤くなった。
「アイ、運命の人というのはね……唯一無二の、心から愛せる人なんだ。パパもママのことを運命の人だと思っているよ」
「ふうん」
それからユーリ様が私を見る。
「嬉しいな……まさか君が、私のことをそういう風に思ってくれていたなんて」
そう言ったユーリ様の顔は本当に嬉しそうで、私の良心がちくりと痛んだ。
う……本当はそうじゃないから、少し罪悪感……! いやでも、これから本当のことにしていけば、嘘をついたことにはならないわよね……!? ダントリー様とどうにかなる気だって、誓ってまったくないもの!
うん。これから本当のことにしていけば問題ないはずよ!
私たちのやりとりを聞いていたダントリー様が言う。
「ふたりが羨ましいな。僕もいつか、そんな女性を見つけられるといいのだが」
「汝の運命の人なら、もう出会っているはずだぞ」
「えっ」
ローズ様に突然話しかけられて、ダントリー様が驚く。
無理もないわ。このふたりは初対面だもの。…………そ、それよりローズ様待って! それ以上は何も言わないで!
私は遮るように身を乗り出した
「こ、こちらは魔女のローズ様と魔術師のアイビー様です。今、客人として王宮に招待していて」
「そうなのか。僕の運命の人がなんとか言っていたような……」
「乙女向けの恋占いですわ! ねっローズ様?」
お願いそれ以上は言わないで!
そう目で訴えた私の無言の圧が届いたのかもしれない。ローズ様はくくくっと笑うと、話を合わせてくれた。
「そうだ。乙女向けの恋占いだから、男は占わぬ」
ほっ……。ありがとうローズ様。このお礼はきっとおいしい食べ物で返すわ。
ダントリー様は残念がっていたけれど、私はほっとしていた。
ようやくユーリ様と本物の夫婦になれたばかりなのよ。面倒な色恋沙汰はこりごりだもの!
***
仕事のできる子、アイ。
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