「だが〝適性欠損〟なんて言葉はとっとと忘れろ。この銃こそがお前たちの適性だからだ!」

 そして集められた53名、

 その中で女性は私一人だった。


 理由は単純明快、頑強な肉体、この条件で男性と一緒にしごかれること想定して女性兵の多くが尻込みしたのだ。

 唯一の女性ということで集まった当初から色物扱いされた。

 冷やかしを受けても無言で耐える私にある人がこう叫んだ。


「今、彼女にヤジを飛ばしたやつは即刻帰れ!」


 恐ろしくドスの効いた力強い声に誰もが沈黙する。

 そこに私たちの教官となる人物が憤怒の表情で仁王立ちしていた。


「戦場で必要とされる人材の条件はたった一つだ〝敵に勝つこと〟そこには男性も女性も関係ない!」


 整然と整列している私たちを1人1人眺めながらその人が言う。

 筋骨隆々なガタイのいい男性に彼は言う。


「体力が有り余っても馬鹿はさっさと死ぬ」


 私の前で彼は言う。


「小柄だろうが非力だろうが勝機をつかむやつは必ず生き残る」


 そして彼は叫んだ。


「これから2週間、お前たちを徹底的にしごく。ついて来れる奴だけをここから先に連れて行く」


 彼は全員を睨んだ。


「他人を邪魔している余裕はないぞ」


 そして改めて彼は名乗った。


「お前たちの教官を務めるルドルス・ノートン準1級傭兵だ。元正規軍兵で兵器工廠の相談役も務めている」


 一見するとどこかしょぼくれてて頼りなさげな雰囲気があるが、一度口を開くと別人のように忖度のない本気の言葉が飛び出てくる。

 彼は即座に新部隊編成の理由を語る。


「現在、とある犯罪組織の制圧作戦が進行中だ。その準備段階として新型小銃による強襲制圧部隊を臨時編成する必要性に迫られた」


 そして兵器工廠の技術官の人たちがあるものを私たちへと配り始めた。


「お前たちにはこの新型小銃に習熟してもらう。目をつぶっても分解組み立てができるほどにな」


 そして彼は言った。


「ここに集まってる連中は全員、精術に適正のない連中だ。正規軍の現行制度の中では活躍の機会が制限されている。冷や飯食いを味わっている連中ばかりだろう」


 その言葉に誰もが息を呑む。適性欠損、その立場にあるものは男性でも悔しい思いをすることが多いからだ。


「だが〝適性欠損〟なんて言葉はとっとと忘れろ。この銃こそがお前たちの適性だからだ!」


 その言葉と同時に私の手に真新しい新型小銃が渡された。

 全く見たことがない新型銃。よくあるフリントロックの先込め式ではない。かといって後ろに蓋のついている後込め式でもない。

 回転式の弾倉があり、そこに弾を仕込むのだ。


「これはフェンデリオル正規軍の兵器工廠で開発された回転式弾倉を備えた〝リボルバーライフル〟だ。フリントロックではない雷管式は知っているか?」


 ここ20年でフェンデリオルの銃器開発は目覚ましい。叩くと火花が出る雷管式はすでに広まりつつある。


「これは雷管式をさらに推し進めた金属薬莢式だ。一度に7発、回転式弾倉に装填可能だ。一発ごとに弾を込めなおす必要が無い。戦場では威力を発揮するだろう。だがそのためにはこれを扱える人間が必要だ」


 私は思わず声を発した。


「その銃に自分のすべてを委ねるわけですね?」

「そうだ」


 そして彼は私に尋ねた。


「名前は?」

「失礼いたしました。クレスコ・グランディーデ伍長であります」

 

 彼は私の顔をじっと見て言った。


「覚えておこう」

「ありがとうございます」


 私はこの銃を手にした時、初めて自分が行く道先が見えた気がした。

 そしてそれから地獄の特訓が始まった。

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