神魔戦争記(カミノマワリ)~最弱が異世界で成り上がる~

あずま悠紀

第1話


「くそっ、何なんだよ!」

俺は目の前の化け物に思わずそう呟いた。

今の状況を説明すると俺達はダンジョンの最下層までやって来たのだがその階層を守るボスと思われる存在と遭遇したのである。しかしその姿を見た瞬間に全員から驚きの声が上がったのだ――それは何故かというとその相手はドラゴンの姿形をしていたからだ。

確かに竜と言えばRPGでは定番中の王道の存在でありゲームなどではかなりお馴染みと言ってもおかしくはない程だ。それに現実で考えればドラゴンは最強の生物の一角に入るほどの存在であると言える。しかし、実際に存在すると言われても正直実感など沸かないというのが本音であったのだ。

だから俺は今までその存在すら知らなかった訳なのだ。なのにいきなり現れた相手が実は最強の存在だとか言われてすぐに信じる事は出来るはずもない。ただ一つだけ確かな事はあの竜が間違いなくヤバい奴だという事だけだ!

(あんなもん一体どうやって倒せばいいんだ!?)

そんな風に俺の心の中で焦りが生まれてくると同時に冷や汗が流れ始める。恐らく他のみんなも同じ気持ちだろう。

だけど今はとりあえず逃げるしか選択肢が無いのは間違いない!

『逃ガサナイッ!』

しかし、そう簡単にはいかなかったようで相手の方が一歩早かったのだ。

そして次の瞬間、巨大なブレスのような物がこちらに向かって放たれた! 俺はその攻撃を避ける為に大きく跳躍するとそのまま壁際まで退避したのである。それから改めて相手の方を見てみるとやはり完全に逃げ場は無いようだ――つまり、もう後戻りはできない。

(どうする? こうなったら一か八か賭けに出るしかないよな)

ただここで戦う事に意味はあるのだろうかと思う部分もあるのだ。何故なら仮に勝てる見込みがあるとするならばまだチャンスが残っているからなのだ――。

しかし、その可能性とは先程まで戦っていたボスがかなり弱い個体だったという事になる。まあそれもあくまで仮説ではあるが他に思い当たる事もないのでそれを信じてみようと思った。そもそもこの状況で俺達に勝ち目がないという判断をした時点で既にゲームオーバーなのは言うまでもないだろうしね! という事で後は本当に覚悟を決めるだけだと思っていたその時、意外な人物の行動によって状況に変化が起きたのである。

それはあの最強の化け物であるドラゴンの前に立つ者が現れたからだ。その人物はなんとレイリアさんだった。

俺は突然の出来事に対して驚きつつも彼女に何か作戦でもあるのかと一瞬思った。だけど彼女は何を考えているのか手に持っていた剣を手放したのだ!

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「うん?」

俺はあまりにも大胆な行動だったので流石に声をかけずに入られなかったのだ。なので彼女の傍に行くと少し離れた場所で話し掛けてみる事にしたのである。すると、彼女はこちらを振り返る事無く言葉を返してきたのだ。

「大丈夫ですよ。私は自分の意思でこの役目を受けたんですから」

そう話す彼女だが相変わらずこちらの方を見る事はなく視線はずっと目の前にいる化け物の方を向いている。

そしてそんな彼女を見ていた俺だったが彼女が言っている事が嘘ではないと確信出来た理由もあった――それは今の言葉を聞いて俺自身が心の奥底では信じたいと思っているという事を自覚できたからである。ただ、その理由が何なのかはよく分からなかった。多分これは俺にとって大切な人であるアリシアさんのお父さんである人に似た空気を感じ取っているせいだと考えられるけど。

「えっと、じゃあ俺はこれから何があってもあなたの味方です。絶対に死なせませんから!」

気付けば自然に口から出た言葉だった。だけどこればかりは自分の決意を表すには十分なものだった。

それからしばらくして遂に戦いは始まった。相手は最強クラスの存在であるにも関わらずこちらはたった二人だけである。しかも一人は普通の女性だ――こんな状況下に置いておくべきではない存在だと普通なら思うかもしれないが俺は不思議と信じていられた。むしろこの人はどんなに絶望的な場面でも覆すだけの力を持っているのではないかと思ったほどだ。しかし相手も馬鹿ではなく今度は巨大な翼を広げると羽ばたきながら上空に舞い上がったのだ。そして地上からは炎や氷など多種多様な属性による攻撃が行われたのであった。

(あれだけの攻撃魔法が使えるという事は少なくともあの竜はレベル100は超えている可能性が高いというわけか)

そんな相手を相手にしているというのに何故かレイリアさんの顔はいつも通り冷静そのものといった感じに見えるのだから驚きだ。しかし、このまま黙っている訳にもいかないだろう――俺はすぐに動き出すことにした。

「《空間切断》!」

そして俺は竜の目の前にまで移動すると相手に気付かれないようにスキルを使用したのだ。

それからすぐに竜は攻撃を仕掛けてきた。それは無数の火球だったり水弾のようなもの、他にも様々なものが含まれていたのだがそれを全て避ける事にしたのである。

(やっぱりこいつ攻撃パターンが分かり易いな!)

俺は相手の放つ攻撃を難なく避け続けていたが正直あまり長くは続けられそうにはなかった。なぜなら相手が明らかに怒りの表情を浮かべていたからだ――まるでさっきまでよりも激しくなっているような気がするのはきっと勘違いではないだろう。

ただそれでも俺は必死に相手の意識が自分に向いていない内に出来る限りダメージを与えておこうと考えたのだ。それでなくてもこの状態は時間が経つにつれてジリ貧になる可能性がある訳だし、少しでも多く敵を削る必要性はあるのだから。

「うおぉー!!」

だからまず俺は相手が反応できない速度を利用して拳による連撃を打ち込む事にした。すると予想以上にいい結果が出たようで竜の攻撃が止んだのである。

どうも俺は攻撃を当てる為に全力で動いていた事で相手もそれに気づいたらしいのだ。まあそれにしてもここまで効果が出るなんて思わなかったんだけどね。

(もしかしてこれが勇者とかのチート能力みたいな奴の力なのか? まあそんなのがあるとは思えないけど一応覚えておいた方がいいのかな)

俺は心の片隅でそう思いつつ竜の様子を窺った。どうやら竜は完全に警戒モードに入ったようで俺から視線を外す事は無かった。しかし俺としてはこれぐらいの距離がある方が逆にやりやすいと思うのでちょうど良かったりする。

それから俺は再び相手の方へ駆け出していくと接近戦を挑もうとしたのだ。ただし、俺の攻撃が届く間合いに入る前に相手が動いたのでそこで止まってしまう事になったのだけど。

(今のは一体!? 竜は確かに空中にいたはずなのにどうしてあんなに早く動けたんだ!?)

一瞬の出来事だった。俺が思考をしている間に相手がこちらに迫って来ており咄嵯に回避行動を行ったのである。その結果何とか直撃だけは防げたものの完全に避け切る事は不可能だったらしく右腕を掠めていった。

(くっ、流石にこれじゃ近付く事さえままならないか)

俺としてはここでもう少しだけでもダメージを受ける事が出来ればと思ってしまったが現実は甘くなかった。恐らく先程のは奴の得意技か切り札だったと思われる。そうでなければ俺の攻撃を簡単にかわされるはずはないのだから。そして俺はここで初めて相手を見据えて観察を行う事にした。すると竜の特徴が見えてくるようになったのである。

(全身を覆う黒い鱗、爬虫類のような顔つき、鋭い目と牙、長い首、コウモリのような形の大きな翼、ドラゴンのように太く頑丈そうな腕と爪、そして極めつけは体全体にある刺青みたい模様――どう見ても魔族が関係してそうだよな)

俺はそんな風に考えていたがここで予想外の出来事が起きたのである。竜が再びこちらに向かって突進してきたのであった。しかも先程とは違って今回はブレスを纏いながらだったので俺はすぐにその場から離れる事しかできなかった。しかし完全に避け切れず俺が居た場所には爆発が起こったのだ。

『アァァァッ!』

しかし俺の事を追いかけ回していたはずの相手が突如叫び声を上げ始めた。それも何故か苦しみ始めているのだ。俺はその様子を見て嫌な予感を覚えた。というのも、相手の姿に何か変化が起き始めていたので。

「まさかあいつの体に刻まれたあの奇妙な模様の影響か?」

俺はすぐに原因を探る事にした。するとその原因はすぐに見つかったのだ。それはあの竜の胸辺りから背中に掛けて描かれている模様にあった。

俺も詳しくない知識なのだが確かあの手の文様というのは何かを封印したり使役する際に使われる物だったはずである。それにあの時の様子から考えると奴はその文様によって操られていた可能性があった。そうでもなければあそこまでの強者だったドラゴンが自ら動くとは考えにくいのでね。

(だけどそんな事が出来る存在は限られているはず。それにそんな事が可能ならば何故これまでその力が噂にならないんだ?)

そんな風に考えていると相手の変化はさらに進行していく事になり、今度は全身から禍々しい色の魔力を放出し始めたのである。

『コ、コレハ!?』

そして次の瞬間、その竜は大きく翼を広げた状態で宙に浮かび上がったのだ。そして同時に凄まじい量の雷光が俺達の方に飛んで来たのである。

俺はそれを何とか避けられた。いや、正確にはレイリアさんが庇ってくれたと言う方が正しいかもしれない。彼女は剣を手に持ちこちらの方に来るとそのまま構えたのだ。その姿を見て俺は安心する事が出来た。

彼女は俺の前に来るなりこう言ってくれたのだ。

「私に良い作戦があります! だから任せてください」

それだけ話すと彼女は剣を振り上げ、その刃に光の波動のような物を集約させた。その様子を見ていて俺は直感的に理解した。彼女の言う「作戦」というのが成功するかどうかは分からないけどやってみようと。

ただ俺は念の為彼女を守る準備だけは行う事にした。

「――我が身に宿りし精霊達よ! 我を守り給え! 《シールドフィールド》」

俺が魔法名を口にした途端彼女の体を淡い青色のオーラが包み込み、その直後に周囲に透明な壁のようなものが出現したのである。これは以前使っていた「バリア」という魔法に似たような性能を持っており対象を守ってくれる効果を持っている。

ただ今回使った《シールド》は少しだけ特殊であり範囲攻撃も無効化できる優れものになっていた。

それから彼女が魔法を使った直後に動き出した。竜の方もこちらに突っ込んでくると同時に雷撃を放ったのだ。だがそれに対してレイリアさんも魔法を発動する。

「光よ貫け! 《ホーリーランス》」

そして剣から放たれたのは眩しいばかりの光を放つ槍の一撃だった。それが一直線に伸びていき、迫り来ていた電撃を全て相殺してしまったのだ。だがこれで終わりではない。なぜなら竜の足元には既にもう一つの魔法陣が現れており次の魔法の発動準備に入っていたからである。

「天翔ける閃光よ 今こそ敵を撃て! 《サンダーブレイクアロー》」

次の瞬間、激しい雷が収束され一本の光線となって撃ち出された。これはかなり高威力な攻撃らしく竜は防御の為に腕を交差させ耐えようとしていたが、それを見た俺の方が慌ててしまう。

(え、あれは大丈夫なのか? というかこれって俺の出番あるか? そもそもあんなに強烈な攻撃を俺の貧弱なステータスの人間がまともに受けたら間違いなく即死じゃないか!?)

俺は心の中で焦りまくっていたがそれでも攻撃を止める事はしなかった。理由は彼女なら絶対に成功してくれると信じていたから――だから俺は信じている気持ちを込めて見つめ続けたのである。そして遂に攻撃の効果が発揮された。

『ギャァッー!!』

その瞬間に相手が大きく悲鳴を上げた。そしてその隙にレイラが魔法を発動させて更に追撃を行っていたのだ。ただ残念ながら相手はまだ動けるようで体勢を整える為に後方に跳躍しようとしたのである。

そしてその直後だった。相手は自分の体の異常に気が付き動きを止めていたのだ。よく見れば相手は自分の体に起きた現象に対して戸惑っているように思える。しかしその理由はすぐに判明される事となる――何故ならレイリアさんが新たに放った魔法の影響で竜の体が急激に劣化し始めたからだ。そして数秒後、そこには大きな音を立てて崩れ落ちた巨大な物体があった。

(どうやら無事に終わったみたいだな。にしても何だか色々と大変そうな話だったから心配だったけどどうにかなって良かったな。でも、まさか相手が最強と言われるレベルの竜だったとは思いもしなっかけどね)

それから俺は竜の残骸を調べてみた。その結果、こいつが元々はレベル150程度の強さを持った普通の魔物だった事が分かった。

ただ、どうしてこんな事が起きたのか俺には分からなかったが、取り敢えず今はそんな事はどうでもいいだろうと思って放置しておく事にしたのである。

俺達が部屋から出た時には既に夜になってしまっており、街に辿り着いた頃には完全に日が落ちてしまっていたようだ。そしてそのままギルドへと戻った俺は依頼の報告を済ませると、宿屋に向かうために外に出た。

そこで偶然出会った人物を見て俺は思わず驚いていた。それはついさっきまで共に竜と対峙した女性だったのだ。しかもその隣には知らない男性が一人いる。

二人は何か話をしているような感じだったがすぐに別れる事になったらしく俺の前で立ち止まったのである。

『先程は助かったわ、おかげで竜も倒すことが出来たから。貴方達は命の恩人ね』

彼女はそう口にすると深々と頭を下げてきたのだ。そんな事されると俺は照れ臭くてどうすればいいのかわからなくなるので勘弁してほしいと思った。だって、美人なお姉さんがいきなりお礼を言ってきたら普通どうしようもない感情を抱くのは当然の摂理だと思うのだ。まあ俺の考えすぎで実は全然そういう意味がなかったりする可能性もあるけど。

『そんな事よりお二人とも怪我とかしていませんか? 特にレイリアさんの体調とかを気遣うと嬉しいのですが』

俺は内心の動揺を悟られないようにする為もあってか、すぐに話題を変えたのだ。そして自分の考えが正しかった事を祈るばかりであった。というのもレイリアさんが明らかに緊張しており、男性恐怖症ではないかと思うほど怯えた表情をしていたのだ。

まあそれも仕方がないかもしれない。先程、目の前にいた男は恐らく自分と同じ冒険者であろう事は想像出来る。しかもレイリアさんに近付いて来た男の方もかなりの実力者なのは間違いなかった。だからこそ警戒する気持ちもよくわかる。だけどそれで体調を崩したりするのは良くない事だし。

俺は彼女の顔色を気にしながらも相手を見定めていく事にした。見た目では優男の部類に入る容姿をしており年齢は俺と変わらないように見える。

ちなみに服装はこの世界に来てから見る機会が多そうな軽鎧姿で武器は何も持っていなかった。だけど、この手の依頼をこなしていそうな雰囲気なので恐らく何らかの手段で戦う事が出来るはずだ。

(もしかして俺と同じ《異能者》かな?)

そんな疑問を抱きつつも俺は二人の話に耳を傾ける事にした。すると予想通りの答えが出てきた。ただしその発言は驚くべき内容だったので一瞬言葉を失う。

「僕はこれから少し寄り道をしていこうと思っているんです。でもその前にちょっとした情報を交換しておきたかったんですよ」

「なるほど、それは確かに大事な要件かもしれませんね。私達もその件に関して詳しく聞かせてもらいたいと思っています。ですので良ければ私の泊まっている宿で情報の共有をしませんか?」

俺は二人がそんな会話をする様子を見ていて少し違和感を覚えてしまった。というのにも関らず相手がすぐに納得して受け入れているのである。しかもその提案に対して俺の方には全く視線を向けない。つまり最初から俺の存在など見えていないようでもあった。

「それじゃお邪魔させてもらいます」

男性は俺の方に一度も振り返ることなくそのまま立ち去って行った。その態度に何か嫌なものを感じたが結局最後まで話しかける事が出来なかった。だがそれよりもまず確認しなければならない事がある。

俺は急いでレイラの方に向かい声を掛けた。すると彼女の反応から俺の考えていた通りだったと確信したのである。

「やっぱり《認識阻害》を使っていたんだね。いつの間に使えるようになったんだい? それにあの魔法、あれも《認識操作》で発動させているのかい?」

俺の言葉を聞いた途端にレイラは体を震わせ始め目からは涙が溢れ出ていたのである。それだけではない、レイリアさんの体から黒い霧のようなオーラが発生しており全身を覆い始めた。

俺は咄嵯に駆け寄るとその体に触れようとしたが何故かその手がすり抜けてしまう。まるで実体がないかのようだ。俺は慌てて周囲を確認したのだがその時にとんでもない物が視界に飛び込んできたのである。

それは空からこちらに向かって飛来してきた物体だった。

俺はその瞬間に「マズい」と感じ取ると全力で回避を行ったのだ。そして次の瞬間に地面に突き刺さった物体を確認して戦慄していた。何故ならそれは見覚えのある物――竜の死体だったからである。そして俺はある結論に達していた。おそらく今ここにいるのは全て「幻影」なのだろうと。

「君は俺達に何を伝えたいんだい?」

その質問に対してレイリアはこちらに視線を向けた。その瞳は今まで以上に真っ黒に染まりこちらの思考を全て読み取っているかのような不気味なものだった。ただそんな彼女を見た時俺は何故か恐怖を感じず冷静でいられたのだった。その理由は簡単だった。俺は今彼女の中に「絶望」を見たからだ。

俺はその事を理解すると即座に動いた。《スキル》を使い、自分の肉体強化と相手の精神干渉系の能力を《無効化》させる。それによって一時的に俺自身の力を引き上げていたのだ。

ただ流石に完全に抵抗できたわけではないようで意識が薄れそうになる瞬間もあった。それでもここで諦めるわけにはいかない。俺の中にはまだ彼女に言わなければならない事が残っているからだ。

『どうしてこんな酷いことをするんだ!』

『私はあなた達の敵じゃない』

そんなやり取りを行いつつ、俺の心が少しずつ癒されていくのを感じていた。それと同時に俺は今の状況がどんなに危険であるかを理解した。このまま戦い続ければ俺の精神が崩壊して死ぬ危険性もあるし。逆に相手に主導権を握られてしまう可能性もあり得るのだ。それだけは避けねばならない。だから俺は再び覚悟を決めたのである。

「――君を倒す!」

そう宣言すると同時にレイリアに向けて拳を放った。だが、攻撃は当たらない。そもそも俺の攻撃自体届いているか分からない状況だった。だが俺は攻撃を続けていく。

俺の行動が無意味だと悟ると相手は《転移》を使って姿を消していったのだった。それを見て俺は確信したのである。奴が本当に恐れている事は《勇者》の能力を使った俺と戦う事なのではないかと。だから彼女は自ら姿を晒し俺の前に姿を見せたのだろう。

それから俺は一度神魔眼の力を使用して周囲を捜索したのだ。しかし《彼女》の姿を発見する事ができなかったので追跡を断念した。

だがその時になって気が付き驚愕してしまう。なぜなら俺の背後に何者かが迫っていた事にようやく気付いたからだった。

慌ててその場から離れようとした瞬間、何かに掴まれた感覚に襲われ俺は動きを止めざる得なくなった。そして同時に首筋に強い痛みを感じたのである。

(くそ、油断した! まさかこんな所で殺されるなんて。俺が弱かったせいでレイリアにこんな事を――)

俺の中でそんな後悔の気持ちが湧き起こっていた。しかしその直後、突然体から何か温かいものが流れ込んでくるのを感じたのだ。

そして徐々にではあるが体力が回復し始めていたのである。これは一体どういう事だろうかと思った。すると背後から声が聞こえてきた。俺は驚きつつもその正体を確認する為に振り向いたのだ。そこには一人の美しい女性が立っていた。

その姿に俺は目を丸くしながら驚いていた。何故なら目の前にいる人物は俺にとって憧れの女性だったのである。何故なら俺が愛して止まない存在でもあるのだ。そんな人物が目の前に現れた事で俺は混乱してしまいまともに考える事が出来ずにいたのだった。

「あ、アリス様、どうしてここにいるのですか!?」

俺は思わず大きな声でそう尋ねてしまった。すると彼女は苦笑いを浮かべながらも俺の手を握ったのである。

俺はそこでやっと自分の体が動くようになっていた事に気づいた。恐らく俺の傷を癒すためなのか、もしくは《彼女》が自分の生命力を分け与えてくれたおかげで俺は生き長らえたようだ。そして俺の言葉に対して彼女は笑みを向けてくると口を開いたのだった。

「それは私があなたに助けて欲しいとお願いされたからです。その願いに応えるために私が来たのですがどうやらお役に立つ事ができたようですね。良かった」

「そう言う意味ではありませんよ。なんでわざわざ危険を犯してまでここに来たのかを聞いているんです」

「それは当然決まっているでしょう。貴方を愛しています。それだけですよ?」

その言葉を受けて俺は言葉を失った。すると彼女はクスッと小さく笑うと優しく頭を撫でて来たのである。そして頬に軽くキスをしてくると、真剣な顔つきになった。

そして彼女はそのまま言葉を続けて来る。

「――これから《魔王》を倒しに行きましょう。全てはそのついでです。私にとっては大切な人を取り戻すために必要な儀式なんです」

そう口にした瞬間、彼女は初めて会った時の冷たい雰囲気を放って来たのだ。それを目の当たりにした俺は無意識のうちに背筋を伸ばしてしまっていた。それほど今の彼女は圧倒的なオーラを身に纏っているのだ。

正直言って俺はこの時既に彼女の虜になっていた。そしてそんな彼女の魅力に気付いてしまったからこそ俺は心が躍ってしまったのである。そして改めて理解した。目の前に存在する女性こそが自分の生涯をかけて愛するべき相手なのだと言う事を――

『待ってください』

「え?」

俺はレイリアの声を聞き慌てて周囲を見渡した。だが、どこを見ても誰もいない。なのにレイリアさんは間違いなく誰かに話しかけている様子だった。その証拠に彼女の手は小刻みに震えていた。俺は不思議に思いつつもその光景をじっと見守る。するとしばらくしてレイリアさんの震えは止まり、代わりにその顔が少し険しくなっていた。まるで先程の人物に怒りをぶつけるかのように――

『――もうすぐ会えるのにどうしてそんな怖い顔をしているんですか? せっかく久しぶりに二人きりになれたというのに、その表情は少し残念です。まあいいです。そんな些細な問題よりも今はもっと大事な話をしなければなりません』

その発言の後、レイリアさんは俺の顔を見つめてきたのである。そしてすぐに笑顔を見せてくれた。だが俺はその変化に気づいてしまい少し動揺する。

それは普段の彼女とどこか違ったような印象を覚えたからだ。ただそれが何を意味しているかはわからない。だからこそ俺は黙って彼女が次に話す内容に耳を傾けたのだ。

「さっき私の中に侵入して私の記憶を覗いていた者がいたみたいです。その者が何をしようとしていたのか私にもはっきりとわかりませんが――おそらくこの場では私達の話を妨害する者はいないはずなので気にする必要もないとは思うんですけどね」

その発言を耳にして俺は思わずレイリアの顔に視線を向けてしまう。その行動に対してレイリアは何も文句を言わずに俺に話を続けろと合図を送ってきた。俺は戸惑いつつその指示に従って彼女の言葉を聞くことにしたのだった。

「まず初めにお礼を伝えさせて頂きます。私の事を救ってくれてありがとうございます。あなたが来てくれなかったら私は死んでいた可能性が高い。そうなれば《勇者》の能力が封印されてしまうところだったので、その事に関してお詫び申し上げます」

「お、お安い御用だよ。俺も君と話がしたくてここまで追いかけて来てるんだから。だから俺の方からも一つだけ質問をさせてもらえないか?」

俺はどうしても確認しなければならない事がある。その為にはレイリアの許可を得る必要があると考えたのだ。その考えは正しかったようで彼女は大きく首を縦に振ったのである。

「それで質問というのは一体どんな事でしょうか? 答えられる限りであれば回答致しますが、もし不可能な事だった場合は諦めて貰います。でも出来る範囲内なら何でもお応えするつもりです」

その返答を受け俺は質問の内容を口に出した。

「――君は一体誰なんだい?」

俺はその言葉を発した途端に緊張の糸が切れたのだった。なぜなら今まで目の前にいたはずの女性がいきなり煙のように姿を消してしまいその場には俺しか残っていなかったからだ。その現象を見て俺は「あー」と言いながら頭を抱えた。

ただレイリアという女性の事を知っているからといって俺の質問に対して明確な解答が得られるとは限らない。それに相手が自分の正体を語るのは自由だと言ってきたのだから仕方ないだろう。俺は気を取り直してレイリアの行方を探る事に専念した。

(あの感じからして恐らくまだ俺の近くを移動中かな。ただ俺の近くに彼女の気配がない事を考えると別の方向に移動してる可能性があるかも)

そう考えた俺はレイリアと出会わないうちに《魔王》がいる場所へと向かう事を決めたのだった。ただ俺はそこである事を思い出す。《彼女》の存在を忘れてはならないと――

だから急いで俺はレイラの元に戻る事にした。彼女は《彼女》の事を心配しており今も俺と一緒にいたがるだろうから一緒に連れて行く事にしたのだ。俺は急ぎ足で《彼女》の元に戻ろうとするが、そんな時にある事に気付きその場で立ち止まった。

というのも俺が目指していた方向に小さな竜巻のような渦が出現していたからだ。それを見て最初はまた竜が出現するのではと考えていたのだが、俺の予想はすぐに外れてしまう事になる。

何故ならその中心からは強烈な魔力の波動を感じ取る事が出来たからである。だから俺の中で嫌な予感が高まっていった。それでも俺は確かめるべく《彼女》の元へ急いだ。

だが俺の不安はすぐに解消される事になる。その理由はこの空間の中心に存在する者の姿を見て納得できたのだ。そこに存在していたのはレイラであり《彼女》の事を優しく抱きしめている姿だったのである。

そんな二人の様子を見た俺は安堵し、そして心の底から感謝する事となったのだった。なぜならその瞬間、二人はお互いが再会を果たすことが出来たと実感し涙を流していたからであった。

「――良かった、無事だったのですね」

「――うん、私もこの人のおかげでどうにか助かったの。本当に助けられたのはこっちなのに、彼は凄く優しいの」

その光景を見て俺は嬉しさと同時に安心を覚えてしまった。理由は二人が会話をしている間に流れる空気が以前と違うものだったからだ。特に今の二人は互いが互いを必要としているという気持ちをひしひしと感じさせるような関係に見えた。そんな二人の関係を羨ましく思ったのである。

俺はそこで改めて自分がレイリアに好意を抱いている事を再認識した。すると俺の様子に気付いたレイリアがこちらに近づいて来ると微笑みながら言葉をかけて来た。

「――ようやく私の事を分かってくれたんですね。それはとても嬉しい事です」「あ、はい、すいません。なんかちょっとボーっとしてしまいました」

「ふふ、良いんですよ。それよりもあなたに聞きたいことがあるのですが、私について知っている事を話してもらえませんか?」

俺はレイリの質問に対して素直に全てを打ち明けるべきか悩んだ。正直に言えば彼女の存在はかなり謎が多いと思う。そもそもこの世界の住人ではないらしいし、それに先程まで戦っていた相手は《神魔眼》を持つ俺ですら彼女の正体を特定することが出来なかったのである。

ただ俺が知る限りでは彼女の容姿は現実世界に存在したアリスによく似ているように思える。だからアリスの魂を核にして《転生》を繰り返した存在が今のレイリアではないかと俺は推測していた。ただこれはあくまで推測に過ぎない。だから俺はその可能性を否定するような言動を取る事にした。

「ええ、構いませんよ。といっても、僕にはレイリアさんの事を詳しく語る事は出来かねます。だって貴方の正体はレイリアさん本人しか知り得ない事ですからね」

「え、どうしてですか!? 私もレイラと同じように貴女を愛す権利を持っているはずです! ですので私もあなたの恋人にして欲しいのです」

そう言って彼女はレイラの腕を掴んで引っ張ると強引に抱き寄せた。するとその光景を見たレイラが不機嫌そうな表情を浮かべる。

「ダメです! あなたは少し独占欲が強いと思います!」

「な、なにを言うんですか!? レイナは私のモノですよ? 勝手に触らないで欲しいんですけど?」

「わ、私はレイカのものですけどあなたのものではありません」

「な、なんですって――いいでしょう、そこまで言うのであれば力づくでも私達の関係性を確かなものにして見せましょう。さあ、戦いなさい、【黒騎士】様」

その言葉と共にレイヤの全身から黒い影のようなものが発生する。だが彼女はそれを止めるどころかさらに強い光を発し始める。そしてその瞬間、この場に存在する三人が眩いばかりの光に包み込まれていった。

「うお、なんなんだ、これ!?」

あまりの輝きに目を閉じそうになる。だけどそれをしたら失明の危険性があると思い俺は必死に堪えようとした。だが結局は我慢できそうもないと感じたのである。なので仕方なく諦めて目を閉じた――次の瞬間、俺達は真っ白な世界の中にいたのだった。

『――初めまして』

声が聞こえたので目を開けるとそこには美しい女性が立っている。その姿に見惚れてしまうほどの美しさを俺は感じる事が出来、無意識のうちに胸の鼓動が激しくなった。そして目の前に立つ女性から目が離せなくなってしまう。その感覚に懐かしさを覚えるが今は状況を把握するのが先決だと意識を切り換えたのだ。だから俺はとりあえず話を聞く事にする。

「――あなたは誰?」

俺の質問に対し目の前の女性はにっこりと笑う。だがその直後、女性の背後が歪み始めたのだった。その様子を見て俺は何かがおかしいと気づく。

まず一つは女性の笑顔は作られたものだと思った。何故なら女性の笑顔が本物とは思えないくらい冷めた笑顔だったからである。それにこの場は普通とは違う。そのせいなのか女性はまるで幻かのように存在感がなかったのだ。つまり目の前に実在しているのかどうかさえ分からないような不思議な雰囲気を放っていたのである。

だからこそ俺の中で疑問が生まれた。今、俺が見ているのは《神界》と呼ばれる世界で、目の前の存在は神様的な存在なのだろうと――

「あなたが神という事で間違いないよね」俺の言葉を受けて女神らしき人物は口元に手を当てて笑みを浮かべた。そして俺の言葉を肯定するように首を縦に振る。その様子からどうやら正解だったみたいだなと俺は理解したのである。

しかし俺の考えとは裏腹に彼女の態度からは一切親しみを感じられなかった。それは何故かと問われたら困るんだけど俺は本能的に彼女の事が信用出来ないと判断したんだ。

(――あれ? 待てよ。なんかおかしくないか?)

俺が違和感を感じた理由――それは彼女が最初から名前を名乗りすらしなかった事である。いくら相手が《神》であるとはいえ初対面の相手に名乗らずしていきなり話しかけるのは不自然ではないかと考えたのだ。

しかも《彼女》の名前を知っているはずのレイリアは何も言わなかった。俺だけが感じ取ったのかもしれないが、その点についてはレイリアも気になっているような感じがした。その事からレイリアが彼女に対して警戒をしている事がわかる。でも俺はレイリアが《彼女》に対して殺意を向ける様子が見られない事に内心ホッとしていた。というのも、今の《彼女》の状態ではとてもじゃないが戦闘を行える状態にないとわかったからだ。

というより、俺自身彼女に攻撃を加える事が出来るのかと聞かれれば無理だと思う。だから戦う意志がないという事が分かった時点で安心する事にしたんだよ。そんな風に考えながら二人の様子を伺っていたのだが、レイリアの方が先に動き出し言葉を口にした。

「――私の名前はレイラといいます」

(ん、そういえば彼女は現実世界での《彼女》に似ているだけであって本人ではないって前に言ってたっけ)

「それで貴女の願いとは一体何でしょうか? もしそれが叶えられない内容ならば断らせて貰います。私は今、大切な人を守りきるのに精一杯ですから」

「――それは私が《転生者》だという事も関係あるの?」

「――ッ、なぜその事をご存じなんですか!?」

驚いたように叫ぶレイリアを見て俺は心の中でニヤリとほくそ笑む。レイリアは《彼女》の口から真実を聞いた時に動揺しまくったと言っていた。

そんな彼女なら今の《彼女》の状態なら簡単に揺さぶれるのではないかと考えていたので予想通りの展開に俺は気分が良くなる。それに彼女にとってもこれは悪い話ではないだろう。なぜなら《彼女》はレイリアの幸せを本気で願っているからだ。だからこそ彼女は俺に力を貸そうとしているわけだしね。まあそういう意味では、レイリアをこの世界から連れ出そうとしている俺にも当てはまる事ではあったけど。

「あなたは何を考えているんですか!? こんな場所でそんな事を言ったところで――」「落ち着いてください。確かにこの場所は現実ではない世界ではありますが私達の心は通じ合えているんですよ。だから信じてください。私は決して悪意を持ってそのような発言をしている訳ではないのですから」

(へぇ、凄いな、本当に相手の思考を読み取っているように話すじゃないか――流石は女神と言ったところかな? いやまぁ、正確には魔王の娘だけどさ。それにしても《彼女》は相変わらず嘘をつく時とつく必要がない時の見分けがついてなさすぎる。そんな調子じゃすぐに足元をすくわれるんじゃないかな? でも今の俺はレイリアとのやり取りに集中しなくちゃいけないから後で忠告をしてあげる事にしよう)

そう考えた俺は一旦会話を打ち切ると二人の様子を見守る。レイリアは戸惑いの表情を見せており、それに対してレイリアは申し訳無さそうに頭を下げた。その光景を見て俺は苦笑いをするしかない。

「――わかりました。その言葉を信じさせていただきます」

「――ふふ、ありがとうございます。それじゃあそろそろ本題に移りたいのですがいいでしょうか?」

「――あ、はい。すいません、こちらこそお礼を言うべきでした」

「――いえ、良いんですよ。それよりレイリアさんに聞きたい事があるのですが良いですか?」

レイリアは少し考える素振りを見せたが、すぐに真剣な面持ちになって答え始める。そしてその内容を聞いていた俺の胸がドキリとしたのであった。レイリアは俺が知らない情報をいくつも語ってくれたから。そしてその全てが俺の心に突き刺さるようなものだったのだから――

「それって、どういうこと!?」

レイリアの話が終わりを迎えた直後、俺は我慢出来ずに思わず叫んだ。その叫び声にレイリアだけでなくレイリアに抱かれている少女の肩もびくりとする。ただ、そんな事はお構いなしに俺は言葉を続けた。いやだって、レイリアの語った話は俺が知る限りではかなり不自然なのである。

まず第一にレイリアが語るレイラという存在はこの世界においてあり得ないほど強大であると俺は確信した。何故ならこの世界にレイラという名の魔王が存在しないからだ。そもそもの話、この世界は【聖魔】が創造し管理していた世界らしい。

【聖なる魔】【邪悪なる魔】が共存するという極めて異質な世界であり、【勇者】という存在が召喚される前までは世界は混沌としていたそうだ。その世界のバランスを保つ為、【聖なる魔族】は悪さをしないようにと善意ある行動をするようにと言い聞かせられていた。そしてそれは魔族の王として君臨していた【邪なる聖】も同じ事だったようだ。

だが、ある時を境にして突然【邪なる聖】と名乗る人物が誕生した。その男は【勇者】と呼ばれる者を召喚した人間を騙して自分こそが本当の【聖なる神の一族の血を引く者】であると名乗り始めたのだ。そして【聖なる神の一族の血を引く者達】を集め、【勇者】と共に神を名乗る者と戦うために動き始めたという。

当然、それを許すようなレイヤ達ではなかった。自分達が仕えるべき相手はあくまで《聖なる神》であると考え、戦いに身を投じた。だが、結果は惨敗だったという。そして《聖なる神の血を引く一族》の殆どは滅ぼされ、残された血族はレイラだけだったらしい。

その話を聞いていたレイリアの心境は複雑だったと思う。なにせ目の前に存在する女性が自分の祖先だったと知って驚いていたのにも関わらず話の内容のせいで素直に受け入れる事が出来ていなかったのだろうから。その気持ちが俺にはなんとなくわかるのである。というのも俺は今まで生きて来た世界で、自分によく似た誰かの存在に出会っていたから――

俺の場合は俺に似た顔つきをしている姉貴に会って色々と話をしていたからまだ良かった。ただ目の前の《彼女》のように、自分自身が《勇者》を裏切り殺した事を聞かされたらショックどころの騒ぎでは済まないと思った。

「――貴女達は、いったいどうしてそんな事を?」レイリアは困惑した様子のまま言葉を漏らす。おそらくはどうしてそんな事を聞くんだと尋ねたのだと思う。俺も気になっていたので心の中ではレイリアと同じ思いだったのだ。

『別に特別な理由はないわよ。でも敢えて答えるなら、この世界を好き勝手にされたくなかった、というのが理由になるのかしらね』

「え、でも、この世界が壊れてしまってもいいの!?」

レイリアは必死に叫ぶ。しかし目の前の《彼女》の表情は変わらなかった。そして淡々と話し始める。

『そうね。でも仕方がないと諦めてるの。だってもう私達が生きている世界じゃないからね――それに私がこの手で終わらせたかった。私の手で、ね――この世界とあの人のために、全てを終わらせる必要があったから――そして今が最後のチャンスだったから――だからこそ貴方に全てを託したの。そして今、ようやく願いが叶ったの。後は、頼んだから――』

その言葉を聞いて、俺は心の底から理解した。《彼女》は死ぬつもりなのだと――俺が止めても意味はない。だって《彼女》の心は既に決まっているのだから――《神界》に辿り着いた時に俺に告げた「私の願いはレイリアの幸せだけ」という言葉――あれは間違いなく彼女の本心だ。つまり《彼女》は自分の命を引き換えにしてまで俺の味方をすると言っているのだ! それだけ《彼女》の想いが強かったのだと思ってしまったら俺の感情が止まらない! 気付いた時には《彼女》の事を抱きしめてしまっていた。

「――ッ!」「――ッ!? ど、どうしたんですか、急に!?」

レイリアの言葉はもっともだ。普通ならばいきなり男が自分の体を包み込むように抱きついて来たら驚くのは当たり前だから。

でも俺は離せなかった。俺の中に《彼女》を死なせてなるものかという気持ちが強く宿ってしまったから――

(ダメだよ。君をこのまま死なせる訳にはいかないよ。だって俺は、こんなにも優しい女性を知ってしまったから――俺はこの人が愛しい――だから俺は彼女を救わなければならない!)

そう強く思う俺だったが次の瞬間、《彼女》はまるで魔法を唱えるように言葉を口にしたのである。すると突如眩い光が《彼女》から溢れ出し、やがて収まると《彼女》は元の体を取り戻していたのであった。

『ごめんなさい、心配をかけて。私は、貴女の敵なんかじゃ無い。ただ貴女の事を守りたくてここにいるの。だって貴女の願いを私は叶える事ができないから――ごめ――』

「謝るのはこっちの方ですよ!! 私の方がごめんなさい!!」

『――ッ!?ううん、いいの。それよりも、ご迷惑をおかけします。それとレイラ、貴女の幸せを願ってるから。絶対に後悔だけはしないでね。きっと大丈夫だから。レイリアが望むなら、幸せになれるから――だから、安心して、レイリア』

そう言って優しく微笑むと俺に視線を向けた。そこで俺は我に返る。そう、《彼女》は死んでなどいないのだ。だから、俺は笑顔を作って「ありがとう」と告げた。

レイリアも《彼女》に礼を言うと頭を下げたのである。

「ええ、分かりました――ですけど本当にありがとうございます。これでレイラさんの想いに応えられると思いますから」

「――どういう事?」俺は思わず尋ねてしまう。そして俺と《彼女》が同時にレイリアに視線を向けると彼女は困ったように苦笑いを浮かべながら答えてくれた。

「その前にお二人にはお礼を言わなければいけませんよね? 私のお願いを聞き届けてくださり本当にありがとうございます。そしてお二人のお蔭で私達はまた出会う事が出来たんですよ。だからこそレイラさん、改めて私を助けに来てくれてありがとう。これから先どんな苦難があるのかわからないけれど一緒に頑張りましょう。勿論、お二人の協力が得られるなら心強いのですが――」「それはもちろん構わないさ」

俺は間髪入れずに答える。レイラもレイリアも共に大切な仲間なんだから断る訳がないのに。でも俺はこの時はまだ知らなかった――まさかあんな展開になるとは夢にも思わなかったのだから。そう――俺達にとって、あまりにも過酷な運命が迫ってきている事を――

「そういえばお名前を伺ってもよろしでしょうか?」「ん? ああ、名乗ってなかったな」俺はここで自分が名乗っていた事に気が付いて口を開く事にする――まぁ正直に言えば忘れていたのだが、俺の名前を聞いて二人がどんな反応を示すか気になったからという単純な理由だったりするのである。そして俺の予想通り、二人は目を見開いて固まった。その事に俺はとても満足したのでニヤけてしまったりしたのだ。そしてそんな様子を見せた俺に対し二人は何故かとても嬉しそうな顔をしていたようなので思わず戸惑ってしまう事になるとはこの時は微塵も思ってはいなかったのである。

ただその後レイリアが何かに気が付いたような表情をして俺の事を見た。なので何事なのかと思って首を傾げてみると――レイリアは頬を染めて少し恥ずかしそうにしながら小さな声で俺の耳元に語り掛けてきたのであった。

レイリアが俺に向かってそっと近づき小声になって囁いたのでその内容を聞いた俺は驚いた顔になってしまった。なぜならその内容は、彼女がレイリアの子孫だという事だったから――俺はすぐにレイラを見る。彼女は何も喋ろうとはしなかったが明らかに様子がおかしい。なにせ俺と目が合うなり慌てて逸らしてしまったから――ただそれは嫌だったとかそういう訳ではないと思う。何故なら彼女の顔が若干赤いからだ。その事から俺は一つの結論に辿り着いた。それは――

「えーと、もしかしなくても、その――」「はい、多分レイラ様の考えている通りです。私は貴女の孫になります」

「あちゃー、やっぱりか。でもなんで?」「それは簡単な理由です。貴女のお孫さんを《鑑定眼》で見させて頂きました。それで分かったんですよ。彼女のステータスに私の血を引いていない限り現れない筈の能力が発現しているので、これは間違いなくレイリアの血を受け継いでいるんだと確信しました」

「へぇ、《神魔眼》の《固有能力》を持っていてさらに《神魔眼》まで持ってたんだ。凄いな、レイリアの血筋」

「ええ、私も驚きです。レイリアの家系が私以外からそんな存在が生まれる事は殆どありませんでしたからね。だから私自身もレイリアの子孫がこの世に残っているなんて信じられなくて」

『それに関しては私達一族がずっと黙っていたからね。仕方ないと思うわ』

俺の《魔人剣 》の中から突然ルシルが現れ、会話に参加して来る。

ちなみに《聖盾》は今は手元には存在しない。というのもルシール達と一緒に【勇者】の【勇者装備】として回収してきたからである。だから今は《聖剣 》を《無限収納》の中に入れて、他の武器を使って戦いを続けている状態だ。だから俺の手には刀しか残っていない状態だったのである。だから今の俺の戦闘スタイルがちょっと変わっている事を気にしてくれると助かると思う。ただレイリアは気になっている様子だったので後で説明しようかなと思っている。ただ今はこの場に集中しないとマズいので一旦レイリア達の話は置いておく事にした。そして俺達は再びレイリアの話に集中する。すると彼女は、真剣な表情で俺にこう告げて来たのであった。

『レイリアがレイリアの先祖を救いに行くというのは当然の行動だと思うわ。だって、この人は貴方の恋人でもあるんでしょう?』

『ええ、私達は将来を約束して――いえ、私にはこの人が必要なんです』

「おい待て! 勝手に決めるな! というか、いつからお前と俺は恋人同士になったというんだよ!」

「えっ、でも私は――ッ!? ちょ、え!? い、今の声、まさか!?」

「え!?」

俺とレイリアが同時に驚くとレイリアが勢いよく俺の方を振り向いたので視線が合った。

すると――俺は、俺の瞳の中に吸い込まれるような錯覚を覚えた。

まるで自分の魂と相手が一体化していくような感覚――それが何を意味していて、どういう事なのかを瞬時に理解してしまう俺。

(まさか、これが神族だけが扱える《固有技能》の効果だっていうのか?)

神族は、相手の心の中に自分の意思を送る事ができる――ただし送る事ができる距離は相手との関係性や信頼関係によって変わる。

そして《彼女》から感じた温かさや、心の底からの安心感は俺が《彼女》を信頼できると思った証。だからこんな事が出来てもおかしくはないのだ――でもまさか自分が神族の力を使う日が来るとは夢にも思っていなかったが。

(ま、まさか、俺自身が使えるように神族側が補正をかけてるのか!? しかもかなり強力すぎる気がするが――)

「え? え!? ど、どうして!? どうしてレイリアさんがいるんです!? それにレイラさんのその恰好は!?」

レイリアは混乱したように叫び、レイラの方に視線を向ける。

だがそこでレイラと目が合うと、何故かレイリアの顔は真っ赤に染まった。

レイリアの反応を見てレイラは困ったように苦笑いをすると、俺に対して目配せを行う。そして俺が軽くため息を吐くと彼女は笑顔を見せて口を開いた。

「あの、とりあえず私の事はもう知っているようですし、まず最初に謝らせて下さい。本当にごめんなさい。そして改めて、私達は貴方達に嘘の報告を行い、騙していました」

レイラは深く頭を下げる。するとそれを見ていたレイリアがレイリアの傍に歩み寄り――

「ごめんなさい、私が貴女の幸せを奪う手伝いをしていたの――でも私は――」

そう言うと今度は俺の方を向いてきた。

『お願いします、レイラの想いに応えてあげて。レイリア、貴女は本当はどうしたいの? 貴女の幸せを願っていたんじゃ無いの?』

「ッ!! で、でも、私は、レイリアさんの想いに応えられませんから――私はこの人を、レイラを愛しています。ですから、ごめ――」「いいから!!」

俺は思わず怒鳴ってしまう。だって、俺が今まで見た事がないくらいにレイリアが取り乱していたからだ。

だけどここで話を止めたりはしない。むしろこのまま全て吐き出して貰わないと困るから。

俺はそのままの状態で言葉を続けた。

「いいから全部言ってみろよ! まだ何か抱えているんだろうが! 言ってくれなければ分からないんだぞ!!」

俺は叫ぶように言った――ここで遠慮しては駄目なのだ。そうしなければ絶対に前に進めないから。

そしてここでようやく彼女は覚悟を決めてくれたらしく、俯きながらも語り始めたのだ。

『わ、私は本当に、心の底からレイリアに幸せになって欲しいと願っているの。だからお願い。私なんかじゃ無くて、この人の隣で幸せになって――私の代わりに幸せにして、そして私以上に、私の分まで――』

『レイリア、そんなに自分を卑下する事は無いの。そもそも貴女は十分頑張ったじゃない。だからこれ以上は求め過ぎよ』

ルシールの言葉を聞いたレイリアの身体が震え出す。それは悲しみではなく嬉しさのせいだと俺は気付いた。なぜなら――涙をポロポロと零し始めたからだ。

「う、あ、わ、わたし、ひぐ、わた、わたし、レイラに――ひっく、レ、レイラの、代わりにって、おもって、がんば、がんばらなきゃって、ずっと、ずっと――でも――ああああああ!!!!」

レイリアの泣き声が森に響き渡る。そしてそれを聞きながら俺は彼女の肩に優しく手を触れ、ゆっくりと落ち着かせる様に背中を擦ってあげる。そうすると次第にレイリアも落ち着きを取り戻したみたいだった。なので彼女が口を開く。

「す、すいません。急に取り乱したりしてしまいまして」

「別に構わないさ。誰にだってそういう事はあるしな」

「はい、私自身でもよく分かっています。レイリアの事、レイリアがレイリアの事、私は大好きでしたから――レイリアの事、愛していましたから」「なら、何故?」

「簡単です。レイラちゃんが私の事を好きで、そんな彼女を傷つける事は私には出来ないんです」

『つまり、そういう事ね』

ルシールはそれだけ呟くと消えてしまった。きっと《魔剣》の中に戻っていったのだろう。というか俺の心に干渉してくる時はいつも《魔剣》の中から行う癖があるようだから少しだけ注意する必要がありそうだ。ただ今はそんな事を考えている暇も無いのかもしれない。レイリアが再び目に一杯の涙を浮かべながら俺に訴えかけるようにして話し掛けてきたからだ。それはおそらく彼女自身の中で決心できたからこその発言だと思うので、俺もそれに応じる為に真剣に耳を傾けた。そしてその内容とは――彼女の過去についてだった。

「私達は、レイリアの一族が住まう村で暮らしていたんですよ。そこは自然が溢れるとても素晴らしい場所でした」

『そこの人達がどんな生活をしているのか私達は知らないけど、レイリアの話を聞いていると幸せな生活を送れていた事は分かるのよね』

レイリアが語った話はこうだ。彼女が生まれたのはある森の中にある村であるらしい。その村はレイリアが幼い頃に住んでいた場所でもあり、そこでは彼女は優しい家族に囲まれて毎日楽しく過ごす事が出来たと彼女は話す。

ただそんな平和な時間も、ある日突然崩れ去った。なんと魔物が襲撃を仕掛けて来たのだ。レイリアの家族が必死に戦っていたものの、それでも魔物達には敵わず、多くの死傷者が出てしまい村は壊滅してしまったのだという。レイリアはその時に両親を失った。そして唯一の生き残りとして他の生存者を探していたが結局見つからなかったという話だ。その後生き残った人々は他の村の人の助けもあって何とか逃げ延びたのが今レイリア達が暮らしている集落だった。しかしそこでもまた新たな悲劇に見舞われる事になる。それは他の村の人間との争いが起きてしまい、その結果レイリア以外の人は殺され、唯一生き残っていたレイリアだけが命からがらこの世界にやってきたのが真実だという。ただその時は生きる事に精いっぱいでそこまで詳しい話を聞けていなかったらしい。

(なんだよ、この話。酷すぎる。これのどこがレイリアが悪いって言うんだよ。どう考えたってこいつらは被害者じゃないか)

俺がそんな事を考えながらレイリアの話を聞き続けていると、レイリアは俺の方に向かってこう尋ねて来たのだ。

「あの、どうしてレイラは泣いているんですか? どうして私の為に泣いてくれているんですか? 貴女には私と違って、辛い事なんて何一つない筈なのに――」

俺はレイリアの瞳から溢れ続ける大粒の涙を流している理由がよく分かった。だってこれは、彼女の気持ちそのものだったからだ。

俺はレイリアに対して優しく微笑みかけた後、彼女に近づきそっと抱きしめる――すると彼女は戸惑っていたが俺は無視し、そのまま彼女を優しく抱きしめ続けた。

俺は、今だけは彼女の心が癒えるまで黙っているべきだろうと思い何も言わなかった。

だから暫くは静かに抱き合っていたが、そこで俺は彼女の異変に気付いたのであった。

「おいレイリア、しっかりしろ!!」

「へっ!? え!? ど、どどど、どういう事ですか!?」

『やっぱりレイリアの心の中に入ってしまったの!? ど、どどど、どうしよう!!?』どうやら俺とルシールの思考が重なっていたのが原因なのかレイリアは俺の事をレイラだと勘違いをしている様だがそれはともかく、レイリアの状態がかなり深刻そうなので一刻を争うと思った俺は急いでスキルを使用しようと思うのだが――俺はこの時になってようやく思い出したのである。

「くっ! そう言えば《固有技能》を使う為のキーワードを考えて無かった! ど、どどど、どうしたらいい!?」

俺は慌てふためいていたのだ。そもそも自分の能力が勝手に進化してしまっていて俺は未だに理解していないので何の解決策も思い浮かばず困り果ててしまうが――ここでルシールが声を掛けてくれた。

「ねえ、貴方が私の力を受け継いでくれるんでしょう?なら早く私の名前を呼んでくれないかしら」

そう言われて俺はすぐに答えようとしたが、そこでようやくある事に気が付き動きが止まってしまう。そして俺が固まっているのを見てレイリアの顔色が悪くなり始めた。なのでここは先にレイリアの治療を行ってから、その後にゆっくりと話を聞く方が良いと判断するとルシールに頼み込んだ。

『頼むルシール、お前の力であいつをどうにかできないか?』

『ごめんなさい。今の私にはこの子の中に入る力は残されていないの。それにレイリアと貴方を無理やり繋げて力を使ったばかりだから』

ルシールの言う通りであれば俺はどうすればいいんだ? 俺はレイリアの事を救わなければならないと言うのに肝心の俺自身がどうする事も出来ないんじゃどうしようもないじゃないか! 俺が悩んでいると、そんな俺の様子をレイリアが不安気に見つめてくる。だけどそれに構ってやるだけの余裕が無かった俺は、どうするべきかと考え続け、最終的に――一つの方法を思いついた。

だが正直これが上手く行くかどうかはやってみなければ分からない。もしこれでダメなら俺は諦めざるを得ないだろう。だって、俺にはまだ《神魔眼》があるのだし、それを使えば――

俺は自分に気合を入れる。もう、後には退けなくなったので仕方がないと。俺は覚悟を決めるとレイリアの方に目を向けた。そして出来る限り優しげな声で話しかける。

「心配するな。これから君を、必ず幸せにして見せるから――絶対に幸せにさせるから!」

俺は宣言すると、目を閉じ意識を全て《固有技能》に集中する――

「我が名は――レイナ=フミヅキ!!」

そして叫ぶようにその名を口にした瞬間に、身体の奥底から何か熱い物が流れ出ていく感覚に襲われて眩しい光が視界を覆いつくした。そして次の瞬間には何も見えない状態になりつつも声だけは聞こえて来たのだ。

「お、おいレイラ!! い、いきなりこんな所でそんな事されても、まだ私達そういう事はしていませんよ?」「い、いえ、私も初めてですけど。でもこういう時は雰囲気も大切なのかなって」『あ~、二人の子供は男の子と女の子どちらが良いかなぁ。ううん、やっぱり両方作っちゃおうかな!』「「え?」」「「ん?」」

――何故かレイリアと俺の声以外にももう一つ違う誰かの声が混じっていたがそれはともかく、レイリアは相変わらず恥ずかしがっていたのでとりあえず彼女の肩を掴み俺の胸に押し付ける様に抱き寄せる。

すると驚いた表情をしていた彼女も次第に大人しくなっていき俺に体を預けてきたので、俺は更に優しく彼女の頭を撫でた。すると安心してくれたのか嬉しそうに笑みを浮かべ始めるレイリアだった。

(よし、成功だ。後はこの状態で彼女が落ち着くまで待ち続けるだけだな)

俺の頭の中にはレイリアの色々な声が飛び込んできていたのだ。

例えば『嬉しい。本当に夢じゃないのね』とか『でもレイリアさんが私の事を知っているのはどういう事で』などと言った声が次から次に響いて来るせいで少々頭痛がし始めていたが気にしない。ただその中で特に興味深かった内容についてはしっかりと記憶しておく必要があると考えた。そうしないと今後の対策を考える上で必要な情報を得られないかもしれないからな――例えば――

(『あの人は、私の事が好きなはずですから――』)

『私は、彼の傍に居るだけで凄く心が温まるんです』

と、いった具合だろうか。俺はレイリアの言葉を思い出しながら彼女の心を覗き見していたのだ。まあそのせいでレイリア本人からは若干冷たい視線を浴びてしまったけど、それでも最終的には許してくれるようだが。

という訳でレイリアの心の中を見続けていた俺だったけど、暫くするとようやく光が無くなってきたので俺はゆっくりと目を開ける。そして目の前の景色が正常になったのを確認したらレイリアが涙ながらに抱き着いてきたのである。それを俺は受け止めた後にそっと抱き寄せてあげた。

「えへへ、なんだか照れます」

「俺だってそうだ」

「じゃあおあいこですね」

そんな風に会話を交わした後、彼女は名残惜しそうだったが離れてこちらを窺うようにして見上げて来た。そんな彼女に俺は少しだけ苦笑いしながらこう言葉を掛けたのである。

「さてと、そろそろ話を聞きたいんだけど、良いか?」

俺は確認の為にレイリアに尋ねると、彼女は笑顔で返事を返してきた。なので問題無いという事なのだろう。俺はそんな事を思って話を続けようとし――そこでまた違和感を覚える。

「――あれ?」

『ねえ貴方、レイリアが今何をしたか分かっているの?』

俺はルシールが発した言葉の意味が分からずに首を傾げるが、彼女の方も同じように疑問を感じている様子だった。俺はどうしてか確かめるために再度レイリアに話しかけようとしたのだが――それよりも先に別の所から俺に対して問い掛けられた。それは先程聞いた声と同じだった。しかし今回は女性だったので恐らくレイリアとは違う人物なのだろうと俺は思い振り返ったのである。するとそこに居たのは、金髪の美少女だった。年齢は俺とあまり変わらないくらいだ。その少女は青い瞳を真っ直ぐに向けてくると俺の事を見てこう口にしたのである。

「君は、誰? 私達は一体どうなっているの? どうしてこんな場所に私がいるの!?」

「えっと、まずは落ち着いて貰えないか? 俺はお前達に危害を加えるつもりはないから――あとその質問に答えれば、お前達の記憶から俺の事を消してくれ――そうすればこの世界で平和な生活が送れるようになる」

その言葉で少女――いやルシルが黙り込み真剣に考え出した。そこでレイリアが慌て始めた。どうやら自分がここにいる理由を思い出そうと必死に思い出しているようだった。そこでようやくレイリアも気付いたようで、俺の方を睨んでくる。俺は慌てて両手を振り無実を訴えようとしたが――そこでルシールに腕を掴まれて引き寄せられると、そのまま抱きしめられ動けなくなってしまった。

「貴方は私だけのモノ――私だけが知っていれば良い事なんですよ」

「おいちょっと待て。俺は今から大事な用事があるんだって。早くここから出ないと――っ!?」

そうやって言い訳を続けていた俺であったが急に苦しみ出すと胸を抑え膝を突き倒れそうになってしまったのだ。

「どどどどどど、どうしよう!?!?」

『ちょっ!?』

どうやら二人とも動揺しているが原因は俺にあるらしい。だが今は説明をする暇がなかったのですぐに《固有技能》を発動させると何とかなったので安心する。

ただルシールが俺を抱きかかえる様な体勢のままなのでかなり不味い状態だと思えたので、すぐにレイリアから離れようとするが俺の考えが読まれているかのように全く動かない。そこで俺はルシールの耳元で小声で呟くように話し掛けたのだ。

「おい! 離せって!!」

「嫌よ! 貴方がちゃんと話を聞くまでは絶対に放さないわ!!」

そんなやり取りをしている間にもレイリアはどうにか状況を把握できたのか、どうにか落ち着きを取り戻していた。どうも俺とレイリアの精神は繋がったままのようだ。そしてレイリアの心に俺が入り込む際に使ったスキルの効果がまだ残っていた為か俺は未だに苦しんでいたのである。

『く、苦しい!! だ、誰か早く助けてぇ!!』

俺は苦しみながらもルシールに抱きかかえられていたのだが、そこでルシールの力が弱くなったのを感じたのだ。そしてどうにか逃げ出せるようになったと思った矢先、再びルシールの力が強まり俺は更に締め付けられるような感じになって身動きが取れなくなる。

『おいっ!! いい加減にしろ!!!』

俺は怒鳴るように言うと流石にこれ以上我慢する意味は無いと判断すると、俺が発動させていた《固有技能》を解き放つ。すると突然ルシールの体が震えるとその場に崩れ落ちた。俺はすぐにルシールの腕の中から脱出すると距離を取り警戒する。するとそこには目を回して地面に横たわるルシールがいた。

そんな彼女を放置する訳にはいかないと考えた俺はすぐさま駆け寄ると彼女の様子を確かめてみる。どうやら命に別状はないみたいで気絶してしまっただけだった。とりあえずは安心すると、俺はまだ俺達を睨んでいる二人の女性の事を意識の外へと追いやったのである。するとそこでようやくレイリアが俺の方に向かって歩いてきたので俺もそれに応えるべく近づこうとしたのだが――レイリアに止められてしまった。

レイリアの方は少し怯えているように思えるので、やはり俺の事が怖いのかもしれないと思い距離を開けておくと彼女は立ち止まったのだ。

「えっと――とりあえず俺の名前はレイナだ。君達の名は――まあ、レイラがレイアなのは分かるが――ルリって誰なんだ?」

俺が問いかけてみるとレイリアが何かに気付いたように口を開いた。そして彼女は俺の目を見ながら話しかけてきたのである。それはまるで心の中に何か大切な物を落としてしまった子供のような表情をしながらだ。

「レイナ様はどうしてこの世界に?」

「レイナだ。それに俺はこっちの世界の人間じゃない。というかここは本当に現実なのか?」

レイリアの言葉を聞いた俺は即座に否定し本題に入る。だけどそれに対する彼女の返答は意外なものだった。

「はい、間違いなく現実世界ですよ」

「いやでも俺はこんな世界に来たことないぞ?」

「それは、多分、あの女が関係しているのかもしれません」

「あの女?」

レイリアの言葉に俺が疑問の声を出すがレイリアもそれ以上は何も語ろうとはしなかった。ただ一つ分かった事はあの化け物が魔王と呼ばれる存在で、レイリア達がそれを倒しに行っていたと言うことだ。ただその証拠として彼女達の手に剣があるのが俺にとってはとても不思議に思う光景だった。しかしそれも仕方のない事なのかもしれないと納得することにした。だって――レイリアの手にあった物は俺のよく知る武器、つまり日本に存在する刀だったからだ。そしてその刃が黒く染まっているのは恐らくは彼女が魔力を宿したせいで黒くなったのではないかと考えられた。

しかしそうなると今度は何故レイリア達からその情報が漏れたのかという話になるのだが――そこで俺はある一つの事を思い出して顔が青ざめてしまう。その理由は先程の戦闘の最中に見た竜の顔と、レイリアの心の中にあった記憶の一部で俺に助けを求めて来た人物に心当たりがあったからであった。俺は恐る恐るレイリアを見ると――案の定というべきかレイリアの額から汗が流れ落ちてきたのである。

そんな風に冷や汗を流している彼女の様子を見ていたらレイリアからこちらに視線を向ける様に指示されたので素直に従ってみるとレイリアは意地悪そうに笑みを浮かべ俺の事を見てくる。

(――まさか)

俺はそう思ってレイリアに尋ねてみた。

『もしかして俺を呼んだ理由も――』

『ご想像にお任せします』

俺の疑問に対してレイリアは満面の笑みを浮かべながら返事をしてくると、その様子に俺はため息を吐き出してしまう。そんな風にふざけていたレイリアだったが、やがて真剣な面持ちになりこちらをジッと見つめてくるのだった。俺は何を言うか気になったので口を閉ざす。そして次の言葉が発せられるのを待っていたのだが、その言葉はとても信じられないものだった。

「私はレイラと申します」

『私はルシアと申ます。以後、よろしくお願い致します』

俺が目の前の美少女――もとい美少女達を交互に見ていると、二人揃って自己紹介をしてきたのである。

レイラと名乗ったのは長い金色の髪を腰の辺りまで伸ばしており、瞳の色はエメラルドグリーンで綺麗な青色をした瞳をしている女性だ。

そんな彼女と向かい合っているのがもう一人の女の子である。髪の長さはレイリアより短い銀髪で前下がりボブヘアにしているのは良いんだけど――問題は耳の形だった。レイリアの場合はエルフの特徴である先が尖った形をしていたが、彼女の耳はかなり大きく普通の人の耳と変わりないように見えたのである。しかもレイリアよりも身長が高いのにスレンダーな体つきをしていた。年齢は恐らく十代後半くらいに見える。というか胸の大きさから考えるに、おそらく年下だとは思う。しかし俺にとって年齢はあまり重要ではなかったりする。見た目が良ければそれで十分だからだ。

そんな事を考えていたらいつの間にか二人が俺に熱い眼差しを向けてきていて、俺は思わずたじろいでしまった。するとルシアと名乗った少女は頬を赤らめて恥ずかしそうにしながら俺に話し掛けてくる。その様子にレイリアが慌て始めた。だがレイリアが俺とルシアの仲を引き裂くのが嫌だったのですぐにレイリアを説得しようとしたのだが――何故かルシルから腕を引っ張られてそのまま抱きしめられてしまい動けなくなってしまった。

(――どうして俺の周りにいる人はこんな人ばかりなんだ? もう少しこう、可愛い系の人が出てきても良いと思うんだよ。いや、俺としては大歓迎だし。美少女ハーレムは最高です! って、違うそうじゃなくて!!

――俺にはルシールって子がいるじゃないか! って、どうしてこんな事に!? どうして俺は抱きかかえられているんだ!? っていうか、柔らかいなぁ。やっぱり女の体は素晴らしいぜ!! ん? これはもしかすると俺の時代がやって来たんじゃ!? おっといかん。俺の目的は彼女を手に入れる事だったんだ! 俺がしっかりしないとダメだろうが!! そもそも俺がレイラさんと話そうとした瞬間、ルシールに止められた気がするし。あれ、これって俺が悪いの?)

俺がそんな事を考えているとルシールが急に暴れだした。俺は慌ててルシールに声をかけて宥めると何とか落ち着きを取り戻したようだったのでホッと安堵する。だがそこでルシアンに後ろからギュっと力強く抱きしめられると、俺が動くとさらに強い力で抑えられてしまい身動きが取れなくなってしまう。

『あ、ああ~~』

ただそんな状況の中でも俺は心の片隅では幸せを感じていた。なぜならば今までは男一人だけの世界で過ごしていて、女性からの好意を感じた事もなければ、逆に自分以外の女性が近くに来たことが無かったからである。だからこそ今の状況に戸惑いつつも喜びを感じていた。そしてそれと同時に「もしかしたらこれが最後の機会かもしれない!」と考えてレイリアに話しかけることにしたのだ。

「えーっと。まずは何から聞きたい?」

『レイナだ!』

とりあえず俺の名前を教えておく。そして名前を教えたにも関わらず二人共何も喋ろうとしないのがとても辛かったのである。

(うぅ――どうすればいいのだろうか?)

そんな風に悩んでいる時にふとある考えが浮かび上がったのだ。それは先程ルシールに抱きかかえられた時に聞こえてきたルシールの感情が、どう考えても俺の知っている感情とはかけ離れていたのでルシールと繋がっている俺の頭の中にもそれが流れ込んできているのではないかという結論に至った。なので俺に出来ることは俺自身のスキル《固有技能》を発動させて相手の心を覗き込む事だけである。

《固有技能》というのは俺だけが使う事が出来る特殊能力で他の誰にも扱うことが出来ない力のことを言う。ただし《神魔眼》のように俺の能力が反映されたものは別なのだが。俺の《固有技能》には大きく分けて二つの能力が存在する。一つは俺の意思で自由に切り替えが出来る「創造」の固有技能。もう一つは「強奪」と言う名前の《固有技能》で、他人の技能を奪い取って使えるようになると言う効果である。ただし俺が直接見ていないといけない上に、奪える数は限られている。そしてその数も決まっているのだが――今回はそれを使わない方が良いような気がしていたのだ。

(もし俺の思った通りだとしたら――二人の心を読むと多分怒らせてしまう可能性があるからだ。だってレイリアの心の中にルシールの意識らしきものを感じるし、さっきはレイリアの方もかなり動揺していたみたいだったからね。まあ今はルシアの方が焦っているみたいだけど。あとは――ルシールがレイラさんの事を姉って呼んでいた事か。まあ、それは別に関係ないか)

俺の思考の中で俺の好きなゲームに登場する双子の妹であるレイリアと、レイリアによく似た銀髪の女性――ルシアの存在を考える。この世界に転生して一ヶ月以上経つが俺はずっとレイラの事を「レイラさん」と呼んでいた。だからいきなり「レイラお姉ちゃん」なんて呼ぶと色々と混乱してしまうと考えたのだ。ただ俺の考えとは裏腹に二人は「何言ってるんですか?」と言った表情を浮かべているように見えるので俺は首を傾げて疑問の表情を浮かべてしまった。するとルリが何かに気がついたように口を開いたのである。

「あっ――そうでしたね」

「どうかしたのか?」

「はい。あの――私達の姿が見えるように出来ませんでしょうか?」

『そうでございます。このままでは話がしにくいでしょう?』

レイリアの言葉を聞いた俺は即座に脳内で創造を行っていく。そしてイメージしたのはレイリア達が現実世界に実体を持って現れることだった。その結果は成功したようでレイリア達が姿を現したので少し驚いてしまった。そしてレイリアがこちらに向かって微笑みかけるのを見て俺は内心ドキッとしてしまい心臓を落ち着かせる。そして目の前にいる美少女達が一体どんな容姿をしているのか興味深々でレイリアを見つめた。すると彼女はその視線に気がついたらしく俺と目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。すると彼女も俺の目を見てきたのである。俺はそんな彼女に吸い込まれるようにして視線を合わせていると彼女の顔が段々と近づいてきた。だが俺としては嬉しい事でもある。何せ美女が自分の顔を俺の顔の近くまで近づけてきているのだから。そう考えていたのだが――次の瞬間に頬を思いっきり引っ張られてしまう。それもかなりの痛みが走るほど強く引っ張られてしまい涙目になってしまった。

(――痛てぇ!! こいつマジで容赦がないな! っていうか頬を引っ張らないでくれよ!!)

俺はそんな風にレイリアの行為を注意しようとしたが彼女がこちらに向けていた瞳の色を見て、俺は言葉を飲み込むしかなかった。その瞳からは強い敵意を感じ取れたのである。だがそれだけではなかった。彼女の瞳の奥には俺に対して激しい怒りが込められている事が分かったのだった。だがその理由が俺には思い当たらなかったのである。俺は必死になって頭をフル回転させるが全く答えが出てこなかった。そこで仕方なくレイリアの瞳を見つめながら質問を行うことにした。

『なぁ』

「な、なんでございましょうか?」

『何で俺を殴ったのかな?』

「いえ。私はそのような事はしておりませ――」

『いや。間違いなく殴られたはずだぞ。だって凄くヒリヒリするから間違いない』

俺がそう答えるとレイリアの瞳が僅かに細められたように見えた。おそらくレイリアも頬をつねられた時の感触を思い出していたのだろう。しかしそれならそれでどうしてそんな行動を起こしたのかという事に疑問が残るわけで俺は彼女の反応を待つことにする。すると彼女の口から衝撃的な言葉が発せられた。

「貴方様には女性を見る目がありません!!」

レイリアが突然大きな声を出して俺に言ってきたので、流石に驚いた。まさかそんな風に思われているとは夢にも思わなかったからである。

「女性には優しく接しろ! 女性に手を上げるな!! そんな事も守れない男性など存在価値はゼロだ! 女性の扱い方を学ぶ必要があるな!」

「なっ!?あ、あの~~俺ってそんなに酷い扱いを受けてましたかね?」

「当然だろ? 私の大切なレイナとルシアにあんな仕打ちをしておきながらよくもぬけぬけと言えたものだ。そんな事を平然と言える神経を疑うわ。しかも自分の事ばかり考えて他人の事を何も考えようとしない傲慢な態度に腹が立つ。レイナは本当に可哀想だよ。ルシアに庇われてばかりだったんだから。ルシールがいたからどうにかなったもののいなかったら危なかった。しかも、お前が私達に攻撃を加えようとしたのを察知できなかったんだ。普通はあり得ない事なのに。もしかして《気配感知》系のスキルを所持していなかったのではないか?」

「はい。持ってませんでした」

俺が正直に話すとレイリアは額に青筋を立てて怒ったような表情を見せたのである。

「はぁ――呆れた男だ。《気配感知》のスキルは冒険者として活動するのには必須の技能なんだ。特に上位の冒険者は必ず取得する事になっているんだよ? まぁレイラも持っていなかったけどな。それで、君はこれからどうするつもりなのかな?」

「それはもちろんレイリアとルシアに認められる男になるために努力します! でも――俺はこの世界に来る前から既に《勇者召喚魔法》と言うスキルを使ってここに来ているので、もう二度と帰れないかもしれませんね」

俺は苦笑いしながら言った。

俺の《神魔眼》で二人の記憶を読み取る事に成功してからレイリアがこの世界で最強の力を持つと言われる魔王であり、ルシアはその魔王の双子の姉妹という事を知らされ、さらにレイラが俺の妻であるという事も知ったのであった。俺からすればかなり驚くべき情報だったのですぐに信じる事は出来なかった。なぜならレイリアは見た目が人間そのものにしか見えずとてもではないが魔族になんて見えないからだ。だからこそ《ステータス》を見た時にレベル差が300も離れていた事に違和感を感じていたのである。

俺がそう言うと何故か二人は嬉しそうな表情を浮かべていたので、どうやら俺の言葉は間違ってはいなかったらしい。

『あ、ああ。そういうことですか。ふふふ、やはりレイナ様はお優しいですからね。そんな事まで気になさる必要はなかったのですのに。そもそも私が人間の姿で現界するのは久しぶりなので忘れておりました。それと私の本名はレイラで、ルシアがルシーリアでございます。今後は二人共レイリアとお呼びください。それからルシールも私達の眷属になった事なので今まで以上に仲良くしていただけると幸いでございます』

レイリアが頭を下げてきたので慌てて俺も頭を下げる。ルシールに関してはレイリア同様に丁寧に頭を下げるだけだった。

(えーっと、レイリアの本名はルセリアって事だったか。なんかルシアがルシアって呼ばれててややこしいな)

そんな感想を抱きながらも二人の名前を聞いて「確かにレイリア達はレイラの知り合いの魔族かもしれないな」と感じた。というのもレイリアの容姿はとても整っており俺の記憶の中に存在する「エルフ族のお姫様」のイメージにピッタリと一致していたのである。その事からも二人が魔族の中でも特別な存在――つまりは魔王である事が理解出来た。

俺がそんなことを考えている間にルシールが何かを思い出したらしく口を開いた。

「そう言えばお兄ちゃんに渡したいものがあるんでした。今から取りに行ってきますので少し待っていてくれませんか?」

「ん?あぁ。別に構わないよ。ルシールはレイリアの眷属になったんだからいつでも会いに来ていいぞ」

「は、はい!ありがとうございます!!」

そう言い残して彼女は姿を消したのである。すると入れ替わるように今度はルリが現れた。

「あの~お邪魔してもいいでしょうか?先程はレイシアさんがご迷惑をおかけしてしまったようですみませんでした」

ルリが深々と俺に向かって謝罪してきた。それに対して俺は別に気にしてないと答えるが――。

(あれれ~。おかしいな~)

そう。この少女――ルリの姿もまたルシールと同じくレイリアと同じように整った容姿をしているのだ。俺は内心かなり焦っていた。

(ルシールとレイリアがこの世界の基準で考えるのであれば、間違いなくトップクラスの美少女だとすると、ルリの方はかなり上に位置するんじゃないか?)

そんな事を考えているうちに、俺はある疑問を抱いた。その疑問というのは、どうしてルシルはこんなに可愛い女の子が揃っているのだろうか? という疑問である。もちろんこれは俺にとっては非常に重要だった。何せハーレムを作ろうと考えているくらいなのだから美少女が周りにいてくれると嬉しいと思う気持ちは大きいのである。しかしルリには悪いが、俺にとってはレイリア達が一番の美女だった。それにルリには何かしら秘密がある気がしたのだ。それは――。

(俺の予想では、恐らくだが彼女は人造の――)

俺がそう考えようとした時、突然後ろから何者かに抱きしめられる。その人物は俺の首筋を舌でなぞるかのように舐め回してきたのでゾクッとした。そして俺は反射的にその腕を掴んでいた。すると目の前にいたルリの姿に変化が起きる。すると次の瞬間に俺の視界に飛び込んできたのは全く知らない女性の姿だった。

――銀色の長い髪と赤い瞳をした美しい女性。しかしその女性の頭部には耳があり、背中には翼があった。それだけではない。腰のあたりにはまるでスカートのように垂れ下がる銀狼の様な尾が見えていたのである。

(はぁ――マジでびっくりするだろうが。まさかここまでそっくりな姿をしているとは思ってもみなかったよ)

その女性の顔は俺がよく知っているレイリアの容姿に瓜二つだった。違うところと言えば身長が高く胸の大きさや体付きが全く違った。ただ俺が気になったのは顔よりもむしろ彼女の着ていた服にあった。彼女の格好は明らかにこの世界――地球とは違う世界の物だと思われた。

そんな俺の考えを読んだのかレイリアは微笑んでくれた。

「どうだ。似合っているか?」

「あぁ凄くよく似合ってるよ。でも何でその姿なんだ?」

俺の質問に答えたのはレイリアではなくレイシアだった。

「主様にはこちらの方が喜ばれるかと思いまして」

「そっか。確かにこっちの方がいいな」

レイシアとレイリアを比べた場合の外見年齢の差がかなりあったので、レイシアはレイリアより背が高いにも関わらず幼さを感じる姿なのである。そのため、俺が思わずレイリアの姿を想像して「レイラが俺の為に頑張ってくれた!」と思ってしまうのも仕方のない話だと思う。だからと言って彼女の行為に対して文句をいう事はしない。俺が好きな人の為ならば喜んで協力してあげようと考えるのは当然の事だからだ。

そんな感じで、俺は再び二人の服装を確認してみると――。

(うん。完璧に地球の文化を知ってるな。それに俺が喜ぶ事も知ってるみたいだし――流石だよ!!)

俺の内心を余所にルシオが嬉しそうな笑みを見せて話しかけてくるので俺は彼女の言葉に集中することにした。

『それじゃあ私はレイリアさんの方にいますね』

どうやら彼女はそう言ってレイピアの元へ歩いていくので俺はそのまま彼女を見送ることにした。ちなみに俺は今からレイアに抱き締められている状況なので動こうにも動けないのだ。そして俺は自分のステータスを見て《神魔眼》の能力を試すために《神魔眼》を使用する。しかし特に変化はなく《ステータス》の内容も変わっていなかった。

そこで今度は《魔力探知》を使ってみた。その結果はやはり俺が知るステータスと同じ結果になっていた。

(ふむ。俺の持つスキルも使えるようだし後は《魔導創造》でどんな事ができるのか確認する必要があるんだろうけど――ちょっと今は無理そうだ。それにしても相変わらず俺の嫁は可愛いよなぁ。ルシアの奴も可愛いけどレイリアには及ばないし――まぁいいや、後で二人にお願いして撫でさせてもらえばいいかな?――おっとそういえば。ルシーに渡したいものってなんなのかな?)

俺はそんな事を考えながら、どうすればこの状況を切り抜けることが出来るのかを考えるのであった。そんな風に考えていたらレイシアが口を開く。

「――そうそう、先程の件ですが、ルシールには貴方の妻になってもらうつもりでしたので、その辺りは問題ないかと思います」

俺はレイシアの言葉に驚いた。

(いや、それってつまり俺がハーレムを作る許可が下りたという事だよな。ルシールもレイシア達と同じくらい美人さんだから別に問題ないんだよ。だけどなぁ。なんか納得いかない部分があるんだよな。だって俺まだ何もしてないのにハーレムが出来上がるって――なんか嫌な予感しかしないんだけど!?とりあえず話を先に進めてみるしかないのかな?)

「はは、ありがとう。ところで話は変わるんだけど――俺はまだ二人に聞きたい事があるんだ。だからもう少しだけ時間もらってもいいかな?」

そう伝えるとレイラが俺から離れていくのを感じたので、おそらくルシールの元にでも行ったのだろうと察する。

そしてしばらくした後に再び現れたレイシアの手の上には指輪が乗せられていた。それを不思議に思っているとレイシアが微笑みを浮かべたまま言う。

「レイシアが私に頼み込んできまして。それで、これはレイラの分ですわ」そう言うので俺は左手にレイシアから受け取った指輪を装着する事にした。すると突然俺の中に不思議な力が流れ込む感覚を覚えると同時に脳内で文字が浮き上がったのである。

《――《レイシス》の力を解放――完了――

(へ?えっと――な、何が起きてるんだこれ?――レイシアの能力の一部を使う事ができるようになったのか?)

そんな事を思っていたら突然レイリアとルシールの声が俺の脳裏に直接響いた。

「レイナ様!この指輪をご覧ください!!」

「お兄ちゃん!レイラさんと一緒に私達の姿を見て欲しいんです」

俺は二人がそんなことを言ってきたのでレイシアの方を見ると彼女が静かに俺の方を見ていた。

「二人ともとても可愛いですよ。お世辞などではありません」

レイシアの言葉を聞いた二人がその場でクルッと回りながら全身を俺に見せつけてくる。

「ど、どうかしら?レイナ様のご希望通り、この世界の一般的な服を着てみましたのよ」

「お兄ちゃん、可愛い?」

俺は二人のその仕草と言動に心を奪われてしまい――。

「――はうっ」と、そんな情けない声を出して二人を抱き寄せるのだった。

(ヤバい。可愛いすぎるよ二人共。あぁもう俺の癒やしはこれだけだぁぁああ!!!!――ってあれ?そう言えば、今の状況ってもしかしなくてもかなりチャンスなんじゃないかな?よし!)

俺は意を決して口を開いた。

「ねぇレイシア」

俺がそう言った瞬間に何故かレイシアは俺を睨んできたので、少しビクッとするが――それでも勇気を振り絞ってレイリアスに声をかけた。

「レイリアとルシールは俺が責任を持って守るからさ、お前も少しは力を貸してくれよ。その、なんていうかさ、この二人は――大切な存在なんだ」

俺の言葉を聞いたレイリアは恥ずかしかったのか俺の腕の中から離れてしまった。ルシールの方も顔を真っ赤にして固まってしまっているので、どうやら俺の言っている意味を理解してくれたのだと判断する。しかしレイリアだけは違ったようで――。

「――わかりました。レイリアが幸せになれるというのであればレイナの傍にいる事も悪くはないのかもしれません。ただ――私の役目を忘れずに行動する事を条件に認めましょう」

「わかってるよ。ありがとうレイシア」

俺はそう答えた後――ルシアンが使っていた剣を取りに行く。その前にレイシアがレイリアに向かって呟くのだった。

「――本当に変わったのですねレイリア」

その言葉をレイリアが聞いているかどうかは分からなかったが、俺には確かにレイリアの心の中で小さな感情の変化が生まれているのを感じていた。その変化が良い変化になるかは分からない。もしかするとこれから大変な事態に巻き込まれてしまうかもしれないが、その時は俺達が必ず守ろうと心に決めるのだった。

それから俺は皆を連れて一度城に戻る事にした。もちろんその前にドラゴンの死骸は収納した。レイリア達にその事を伝えると驚いていたがレイリアに関してはすぐに信じてくれた。理由は俺の固有スキルを知っているからだ。そして俺達が転移魔法を使い城の前まで移動するとその異変にいち早く気づいた者が現れる。

その人物は金髪の長い髪を持ち、紫色の目をしていた少女である。見た目は十三歳程の少女なのだがその実年齢は三十四歳でエルフだったりする。彼女はリリスといって魔王軍の幹部の一人だ。

そのリリスが慌てて駆け寄ってくるなりレイシアを見て驚くのだが――次の瞬間、俺の首にナイフを突きつけた。

「おい貴様!!姫に何をする気だ!!場合によっては殺すぞ?」

「はぁ――俺は何もしていないよ。むしろ君に殺されそうで困っているくらいなんだ」

俺はそう答えるとリリスに言う。

「それより何があったんだ?いきなりこんな状況になっている理由を教えて欲しいんだが」

俺の言葉を聞いてようやく俺を解放してくれると、そのままレイシア達と話をし始めたのだ。

話の内容はレイシアの事についてである。

実は俺達はリリスの事をレイラから聞いていた。その理由とは俺が彼女の配下になった時に、もしも何かあれば彼女を手助けしてあげてほしいと言われていたからである。しかし彼女の正体を知った今ならばわかる気がするが、おそらくあの時レイラはリリスに対して悪い印象を持っていたのだと思う。だから俺にリリスを頼ったのだろうと思う。

まぁ今さら言っても仕方のない話である。そんな感じで俺は黙って話の続きを見守っていたがどうやら話は終わったようだ。俺が話に加わるか迷っている間にリリスがこちらをチラッと見てから話しかけてきた。

「それでレイシアは――どうしたんだ?いつもの格好じゃないじゃないか。それにレイナにべったりなのは相変わらずだが――それにしてもレイナはまた随分と強くなったようだな」

「えぇまぁね。それよりもさっきはごめんなさいね」

レイリアの言葉を聞き俺は首を横に振って答えておくことにした。

「気にしないでくれ」

そんな感じで俺達のやり取りが終わる頃になってレイリアが口を開く。そして俺はある疑問を抱いたのだ。レイリアが喋り出したタイミングだ。それはつまりレイリアの口調が変わるのと同じ時間帯であり、つまりは彼女が意識的に俺との会話を始めた事を意味していた。

(どういうつもりだろうか。いや待て、確か――レイリアが俺達の前で本当の自分を見せなかったのっていつからだ?)

そこまで考えた後、俺はハッとしてレイリアに問いかける事にした。

何故ならレイリアが俺達の前では見せない態度を取ると言うことは、つまりは俺達に対して秘密がある可能性が高い訳だし、それを暴くのもどうかと思ったのである。それにもし仮にそれが良くない事だった場合、それこそレイシアのように彼女から拒絶されてしまう恐れだって考えられるのだから。

「レイラ、俺に何か隠し事をしてないか?」

「いえ、していませんよ。私が貴方にそんな事するはずないでしょう?」

「いやいやいや。絶対何か隠してるでしょ!?俺だってそれぐらい分かるよ」

「いいえ何も隠しておりませんわ」

「じゃあさ。一つ質問するけど――」

「――なんですの?」

俺はそこで一旦呼吸を整えてから口を開く。

「――なんでレイラってば俺と普通に話をしてくれないのかな?もしかして俺のこと嫌いとか?だからわざと素っ気ない話し方しているのかなぁって思ってたんだよ。でも――よく考えれば違うんだよね?だってそうやって演技する意味がないもん」

「はぁ――なんでバレたんですか?」俺はレイリアが溜め息をついたのを確認すると同時に――。

「あーうん。ちょっとね」と、適当に答えた後に続けて聞くのだった。

「ちなみに何を隠しているのかだけ教えてもらえると嬉しいんだけど」

「――《真なる龍血族》ですわ」

レイリアが口にした言葉の意味がよく理解出来なかったので、俺が頭に疑問符を浮かべていると、俺の隣にいたリリスが口を開いた。

「レイシアは人間との間に子供を作った事で迫害を受けていた。しかし彼女はそれを跳ね除け、《真祖の民》と呼ばれる者達をまとめ上げた一族である《吸血種》の中でも更に特別な存在となったんだ。しかし、ある日を境にその一族の者は姿を消した。レイシアを除いてな。私は彼女がいなくなった時期と同時期にこの城に仕えていたが、私にはその事実が許せないんだ」

俺には彼女の言いたい事がいまいち理解できなかった。

レイリアもレイシアが姿を消した時期ははっきりと分かっていないらしく曖昧な説明になってしまうらしい。しかし俺はそれでも構わないと思っていた。

俺はこの世界の住人ではないので、本来この世界で起きている問題はこの世界の人達の問題なのだ。いくらレイラの願いを叶えてあげる為に戦うとしても、その問題に関してまで首を突っ込む気は最初から無かったのである。ただでさえ今は忙しいという事もあるのだが、これ以上問題を増やされたら本当に過労死してしまうかもしれないし。

ただ今回の一件に関しては、正直言えば放っておいてもレイリア達だけで解決してしまいそうな気配はあるのだが――やはりレイシアの存在は無視できない。それにリリスが怒るのもよくわかる気がする。

「わかった。レイシア、いや――レイシア姉さんは俺が絶対に助けるよ」

「はいお願いしますね」と、レイシアは笑顔で俺に返事をした。その表情を見たリリスと俺以外のメンバーは、一瞬驚いたような顔をしていたのだ。

それから少し話をしてから俺達は城に戻った。そしてリリスとも別れてレイラの部屋に戻るなり俺達は話し合いを始める。レイシアがレイリアに入れ替わってしまった事について、どう対処すべきなのかをだ。

「さてと。一応聞いておくけれどこの状態では戦えないよな?お前達は」

俺はレイアに尋ねる。その問いかけに対して二人は静かにうなずいた。なので仕方なく俺は収納魔法から武器を取り出した。この城にあった物を少しの間借りようと思っての事だった。

それからしばらく経ってから皆はレイシアに違和感を抱く。それは彼女の人格が変化してしまった為に起きたものだ。まずレイリアは元々の性格である優しくてお淑やかな少女だ。しかしレイシスとなると性格は一変――傲慢かつ攻撃的な言動になる。しかも戦闘になるとより一層攻撃的になり手加減を一切しなくなるという、とんでもない変貌を遂げるのである。これはおそらくだがレイシアは魔王の器であるレイリアが暴走した時、抑える役割をしていたのだと思う。ただ俺にはどうしてもそれが納得出来ない。そもそも魔王というのは本当に存在するのだろうか?その辺の事は詳しく聞かなかったが、魔王が存在しているとなれば、俺達はいずれ魔王と戦わなければならないかもしれないのだ。魔王は一体どんな姿をしていて何を目的に行動しているのだろうか。

俺はそんな事を考えていると、リリスが声をかけてくる。

どうやら今後の行動方針を話し合う為に部屋に来たみたいだった。その話とは勿論レイナの事についてである。レイリアとレイシスの状態は不安定でどちらが正しいかは分からないとの事。だから俺は二人を信じて行動するしかないのだと言ったのだ。その事に関しては皆も同意見だったので話は纏まったのである。とりあえずは俺の収納魔法の中に眠っているレイシアの記憶を探る必要があるという話になった。レイシアの過去がわかれば現状を打開できる可能性があると考えたからだ。その方法に関してはレイラに相談したところ、「やってみましょうか」と、すぐに協力してくれることになった。

それから数分後に記憶は読み取れたが――俺はその光景を見て頭が痛くなる程ショックを受ける事になってしまった。というのもレイシアの正体が判明したからだ。それは――。

「まさかレイティアとレイナスの妹達がここまで来ているなんてな」

「本当ですね」と、レイリアは呟く。そして俺はレイリアがどうして俺と一緒にレイシアに付いてきていたのかわからなかったのでその理由を聞いたのだが、レイリアは答えようとしなかった。まぁ俺としては別にいいと思っているのだが――何となく釈然としない部分もあったりする。そんな感じで俺は話を切り替えてレイシアの事について聞いた。するとレイナは困った顔でレイシアと自分の妹の事を交互に見ていた。そんな姿を見たレイナは溜め息混じりに話を始めたのである。

まずは最初に――俺は自分が転移能力を持っている事を話してみた。しかし予想通り信じては貰えなかったので仕方がなくレイリアが知っている事をいくつか聞く事にした。その結果から分かったのはまずレイシアの種族だった。彼女から聞き出した情報によると――彼女の種族の名前は吸血鬼だった。どうやら彼女は元人間だと言っていた。

しかし、そんな話を聞きながらふと思った事があったのである。もしも仮にこの世界に吸血鬼が存在したとしたなら《血族支配》の能力が使えてもおかしくないのではないか?――と言う事だった。

まぁ考えてみれば簡単な答えだったが――実際に俺が使える訳だしそういうものだと思う。そしてその事実に気づいた時、思わず頭を抱えたくなった。何故なら俺はこれから先、ずっと《血族支配》の力に怯えなければいけないのかと思ったからである。

(こればかりは何度悩んでも答えが出そうにないしもういいか)

そう結論を出した俺は次の質問をすることにした。それは彼女が今まで生きてきた経緯だ。それによれば――レイリアやレイナと同様に家族が迫害されている所を見かねて一族をまとめ上げて国を作ったようだ。その際に《真祖の民》と言う呼び名が広まったらしいが――詳しい歴史などはまだ調べていなかったらしい。

俺はそこで質問を打ち切ると次はレイラとリリスの話を聞いていく。二人の話だと――リリスの種族がヴァンパイアで、レイシアがヴァンパイアだった事以外はほとんど同じようだが――少し異なる点があると言うのだ。

「実はリリスちゃんが言うには完全に同一ではなく、どちらかといえばリリスちゃんが近い存在でレイシアは後から生まれた存在に近いんだ」と、リリスは俺に向かって話す。

「という事は同じ《真祖の民》同士なのに違うって事になるの?」

「ああそうだ。レイシアにはレイシアにしか扱えない特殊なスキルが存在するんだ。私達の《真祖の民》に伝わるスキルに――《始祖の魔導書》というものがあるんだが、レイシアはそれを自由に扱う事が出来るらしい」

「それじゃあもしかして、この城に保管されていた物って――」

俺はレイラの方を見ながらそう告げた。

その問いかけに対してレイラが答えてくれる前にレイラは口を開いた。それはとても真剣な表情をしてだった。俺はそれに嫌な予感を覚えて警戒しながら質問をしたのだが、その質問に対する答えを聞く前に大きな音によって中断されてしまうのであった。その大きな音の出どころはもちろんレイリアの部屋である。そして扉が開いた瞬間に――俺とレイリアは息を呑む程の衝撃を受けていた。なんせ――そこにはレイシアの姿がありこちらを睨み付けていたのだから。しかもその様子は明らかにいつもと異なっていた。俺達の前で見せてくれた優しげで穏やかな笑顔はどこにもなく無愛想で冷たい表情をしているのである。そして同時に彼女はこう口にしたのであった。「お前達の目的は一体なんだ?返答次第では容赦はしない」

その言葉と同時に彼女は殺気を放った。しかし俺はそれに臆する事はなく、逆に彼女を落ち着かせるように話し出す。

「待ってくれレイシア姉さん!俺だよ。リクだ!」

その言葉でもレイシアは何も反応を示すことはなかった。ただただ不機嫌そうな目つきで俺を見るだけである。その状況に焦っていたのは他でもない――レイリアとレイシアだった。なぜならレイシアがレイシアとして存在している時間は、レイリアに取って大切な時間でもあった。しかし今はそうではない。

レイシアが怒りに任せて行動しようとすれば確実に殺される。だからこそ必死に止める必要があるのだが、この状況は非常にマズイのだ。

「おやめくださいレイシア様」

「やめない。私の平穏を邪魔する者は全員殺す――それがたとえ実の妹であろうと関係ない」

「落ち着いてくれよレイシア――」

「黙れ。私は冷静だ」

「――ッ」

その鋭い視線は間違いなく本気だった。下手に逆らえば本当に殺されかねないと感じ取った俺は言葉を詰まらせる。そんな様子を見たリリスがレイシアに駆け寄ろうとするが、リリスの体が突如拘束されてしまい身動きが取れなくなってしまった。

そんな状況で俺だけが取り残されていると突然部屋の天井が開いて一人の人物が落下してくる。俺は咄嵯にその場から離れて相手の様子を伺った。

どうやら相手はかなり小柄で見た目では性別すら分からないような人物だ。そんな相手に俺とレイリア、レイシアが苦戦させられるとは思わなかったが――それでもレイリアに攻撃を加えようとするならば俺も動くしかないのだと考えていた。

ただ俺の勘は当たらずとも遠からずといったところである。というのもその相手が女性だとわかるなりレイリアとレイシアがすぐに膝をついたのだから。どうやら二人は彼女を知っているみたいだった。その人物は黒いローブを着ていて顔が確認できない。ただフードの隙間から見えた長い金髪に俺は見覚えがる。

その人物の正体に気付くと俺は驚いていた。何故ならレイシアの記憶の中でレイティアの横に立っていた女性の姿が、今の目の前にいる黒ずくめの少女に似ていたからだ。そして少女はそのまま喋り始めたのである。

「久しぶりだな妹よ。いやレイシアと言った方が正解かな」

「どうしてお前がここにいる!?答えろ――エルサ」

「ふふっ、相変わらず偉そうだなお前は――と言いたいところだが、少しばかり厄介な事になってしまってな。少しばかり面倒なのでお前達に用事があるんだよ。それで会いに来てやったわけだ」

エルサと呼ばれた女の言葉に俺は眉をひそめる。どうにもこいつの態度には気に食わない点が多い気がするのだ。そんな事を考えているとレイシアとリリスがレイナの前に立ち塞がったのである。まるでレイシアを守るようにして――しかしエルザという女は特に慌てる素振りも見せずに話を続ける。

「そんな事は許さない――レイシア様に近づかないで」

「レイシアをこれ以上苦しませる事はさせません」

「おいお前達やめ――うわぁ!!」

俺は慌てて止めようとしたが既に遅く、二人が同時に攻撃を仕掛けてしまった。しかしレイシアが手をかざすとその手から放たれた衝撃波で吹き飛ばされてしまう。俺はすぐに回復魔法をかけて二人を助けようとするのだが、レイシアの瞳が紅に染まると、その瞳を見た俺は全身に鳥肌が立ち、恐怖感を抱いて動けなくなってしまう。どうやらあの目は《神魔眼》のようで、その力に俺が怯えてしまっているようだった。

(くそ!どうにかしてレイシアに近付かないと――ッ)

俺が必死に足掻こうとすると、突然エルサの体に何かが絡みついて地面に押し倒す事に成功したのである。

それを見た俺は思わず笑みを浮かべながらレイラの方に視線を向ける。するとレイラは俺を見て微笑んでいたので俺が今使った能力が何なのかは分かっていたらしい。そしてその証拠に、リリスとレイシアの動きが止まった。レイシアは先程よりもさらに険しい表情でレイラとリリスの方を見ており、レイリアに至ってはその表情から余裕が完全に消え失せていたのだ。そしてそんな状況下でエルアの笑い声が聞こえてきたのである。

「ふふふっ、まさかお前達がここまで強くなっているとは驚きだ」

「私達も色々と修行しましたの」

「レイナのおかげでこの国には多くの優秀な冒険者が育っているからね」

「なるほど。確かにこれは厄介そうだ。だが私だって簡単にはいかないぞ?」

「やってみないとわかりませんの」

レイラとレイシアはお互いに武器を構える。

「レイシア!ダメです!!もうすぐ儀式が始まってしまうんです。あなたがいなくなってしまえば――」

「レイナはそこで見ているといい――この私が全て終わらせてやる」レイリアの声がレイシアの耳に入ったらしく彼女はそう告げるなり剣を構えて突進していった――はずだったのだが、何故か途中で止まってしまったのだ。その様子を見たレイラは心配そうに彼女の名を呟いていたのだが、俺の目にレイシアが一瞬にして移動したように見え、次の瞬間には激しい衝突音と共に床に穴が開いていた。しかもかなり深いようだ。

そして俺達は驚いた事にそこに亀裂が入るほどの威力を喰らう前にその場を離れたのだ――つまりレイシアがレイシアの体を操っていたと言う事なのだと思う。その証拠にレイシアの意識が戻っていたのである。レイシアは自分の体を見つめながらため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。そして俺達を見据えた瞬間――レイシアの纏っていた雰囲気が大きく変化していたのである。

先程の殺気を含んだような冷たいものではなくなったのだけど、代わりにその目つきは鋭い物となっていた。

そしてレイシアは俺達に向けて話し始めたのである。

「レイナ、レイス、それとリクだったか?私の質問に答える事を許可しよう」

「えっとそれは、どういう意味でしょう?」

「簡単な質問だ。私とお前達の目的はなんだ?簡潔に述べろ」

「レイシア、私はそんな事よりレイシアが心配なの!どうしてこんな真似をするの?」

「――そう言えばレイリアは知っていたな?お前にだけは教えてやろう。私の目的は――」

そこでレイシアは一度言葉を切ってからレイリアに語りかけた。

「この世界を消滅させる事だよ」

「レイシア、それは本気で言っているのか!?」

「ああ本気だ。ただし――それはこの世界の住人を殺すという訳ではない」

レイシアがそう告げた後、彼女は突然俺達の方へ歩き出した。俺がそれを黙ってみているはずもなく《シールド》を使って攻撃をした――のだが。

俺が張った障壁はあっさり砕かれてしまいレイシアは攻撃を回避されてしまう。それから俺はすぐにレイシアを追いかけた――のはいいんだけど彼女は既に俺達の背後に回っていた。

俺はすぐに振り返って構えたのだが――その時にはもう遅い。なんせ彼女が放った攻撃によって俺達は吹き飛ばされてしまったんだからな。そしてレイシアが指を鳴らすと、いつの間にか部屋に侵入されていた兵士達は姿を消していた。恐らくだが城のどこかに移動させられたみたいだ。それにレイリアとレイシア、俺の三人が残された状況だった。レイシアは腕を組みながら俺達に近づいてきたのだ。

「どうやらお前達は、ここで死ぬ運命にあったようだ。安心しろ――痛みを感じさせずに殺してやる」

その一言を聞いて俺はレイリアを背中に隠すと、腰に差していた短刀を抜き放つ。その刃に俺は炎の力を付与させた。俺はレイシアの攻撃に備えつつ相手の隙を伺おうとしていると――

「レイナ、レイシアに勝てる見込みはない。ここは逃げるべき――いや、逃げるべきだ」

突然そんな事を言ってきたのは俺の隣にいるレイリアだ。しかしレイシアに対抗できる手段を持ち合わせているわけではない俺にとって、そんな事はできなかった。

俺は首を横に振った後でレイティアに話しかける。

『俺は諦めが悪い男なんだよ』

俺は《テレパシー》を使い彼女にだけ意思を伝えた。

正直言ってこのまま戦いを続ければ殺されるだろうと思っている――だけど俺は負けるとわかっていても立ち向かわないといけない状況だと感じ取っていた。そんな考えを察してくれたのか、俺に寄り添うようにしてレイティアとアイシアが現れる。俺はレイシアを見やりながらも《神魔眼》を発動して彼女を見やった。

(やっぱりそうだよな)

どうやら相手は俺と《同調能力》の影響を受けている様子はなかった。どうやら俺の能力の事をある程度理解しているようだったが――それよりも問題なのはレイシアのステータスを表示させてみると。

ーーレイシア=ウィンベル 称号一覧(変更不可)

〈転生者〉 性別 女性 種族 人間 年齢20歳 Lv.621 筋力 1兆8600億2000万 魔力 6601京2400億 速力 5億50000000 耐久力 2100 賢さ 49003 耐性値 9505 固有技能 超加速 雷速 未来予測眼

(やはりレベルが高すぎる。でもまだ《神魔眼》で強化した俺のレベルには及ばないはずだ)

俺はそんな事を考えながら再びレイピアを構えたが、どうやら向こうも戦闘準備を終えたようでこちらに迫ってくる。その速さはかなりのもので、一瞬にして俺とレイシアの間合いは詰まってしまいレイシアの拳と蹴りが襲ってくる。だが《神魔眼》の力を得た俺はそれらを受け流してカウンターで剣を振り下ろす。

すると俺が繰り出した剣戟を難なく受け止めて反撃してきたのだ。俺は即座に飛びのいてレイシアから距離を取った。レイシアも追撃してこようとしなかったようで助かったのである。

そんな時、ふと思った事が脳裏に浮かんできた。それは――どうしてレイシアは俺達がこの部屋に来る前から、俺達の存在を認知する事ができていたのだろうかと。そしてこの疑問を解決するためにレイシアが何かを隠し持っているかもしれないと思い、彼女のステータスを覗く。

ーー名前 レイシア レベル 722 体力 8500/12500000 筋力 3250000 魔力 8540570 攻撃力 9200 敏捷 12100000 耐久力 880300 賢さ 1045700 耐性力 9947000 魔法属性 水 闇 光 備考 《魔王の加護》 特殊スキル《神魔眼》《自動修復》 《完全操作》 俺が《神魔眼》でステータスを確認し終えた直後、レイシアの口元に不気味な笑みが生まれると彼女は俺に向かって話し始めてきた。

「お前はこの力を手に入れた事に感謝した方がいいぞ?私がいなかったら、もうとっくに死んでいたんだからな」

「はっ!感謝だと?お前みたいな女に助けられただけで死にそうになるとか笑えるぜ。俺が今までに経験した事のある強敵に比べればまだまだ優しいものなんだよ!!」

俺はレイシアを挑発してみる。もちろん本音でもあったけど、これでレイシアが怒りを爆発させる可能性も考えての事だった。

「面白い奴だ――ならばその身をもって私の恐ろしさを知るといい。その前に――まずはお前からだ」

すると俺が先程使った魔法の発動が解除されてしまっていた。おそらくだけど《完全支配》の力で俺に命令をしたのだと思う。だが俺はすぐに《同調化》を使うと《神魔眼》を発動し直して、《全知全能》の《神域接続者》の力を利用して、この部屋の中の状況を解析し始める。

(この城の最上階にいる全ての存在に対して干渉を開始する!!)

「なにっ!?」

次の瞬間、レイシアの動きが急に止まり、レイリアとレイシアの二人が同時に声を上げる。俺はそのまま二人の動きを止め続けるために魔法を行使していく。

俺は今から、二人に施された洗脳を解除しようとしたのだ。これは俺がレイリアに頼み込んでいた事でもある。なぜなら二人はレイシアの本当の人格ではなく、何者かに体を乗っとられた状態であると判断したからである。なのでレイシアから解放された後に、本来のレイシアに俺がレイシアを救おうとしたのに攻撃しようとしたと言う記憶が残ると厄介だからだ。そこで《同調》の能力を使ったのである。この能力があれば俺は他人が行使している能力を上書きして別の物に作り替える事ができるので、今回に限って言えば洗脳状態を解除できるように《全知全能》の力を借りて実行したのである。

(よし――できた)

《神魔眼》による分析が終了したのと同時に《同調》が解けてしまい、二人は俺の方を見据えると襲いかかって来た。だが俺はすぐに剣を抜いて構える。

(《同調》を使っていても勝てる気がしないな――なら、どうする?)

(――私はここで終わるわけにはいかない。例えどんなに時間が掛かろうとも、私は必ず目的を達成する。レイシア様の為にも)

そんな事を心の中で思ったのは、もう一人の俺の意識の中に入り込んできているレイリアだった。彼女は自分が何故こんな場所にいるのかを薄々ではあるが、気づき始めていたのだ――ただ確証がない以上は動く事もできないのが現状である。そこで彼女が思いつく事と言えば一つしかなかった。そうレイシアの願いを叶える事だ。レイリアはその一点に賭けていたのである。だからこそ、この命をかけてでも成し遂げたかったのだ。自分の目的――レイシアの野望を阻止するという事を。

「レイナ――お前は何者だ?」

俺は突然、俺の本名で話しかけて来たレイシアに驚いた。そしてそれと同時に《神魔眼》の能力を使用して、彼女について情報を集め始めたのである。すると俺が見たレイシアのデータには、とんでもない物が存在していた。

ーー レイラ=ウィンベル

(レイナ=アルドフォードの実の母親にして旧姓:ウィンベル)

称号一覧(変更不可)

なし 性別 女性 種族 人間 年齢 20歳 レベル 690 筋力 475300000 魔力 448768000 速力 5億2500万 耐久力 35億2000万 賢さ 15兆5000億 耐性値 21000000 特殊技能 聖女の素質 全属性適正 魔力制御LV.3 状態変化付与LV.1 創造LV.2 回復術式 転移魔術 結界術式 付与効果 聖光守護領域 付与 神聖防御 自動浄化 完全治癒 魔力障壁 固有技能 レイナに全てを捧げる者 レイリアは、自分と同じ名前の人物がレイシアの正体ではないかと疑っていたのだ――いや、レイリアの推測が正しかったと言えるだろう。俺の目の前にいるのはレイシアであり、彼女こそが本物のレイシアだったのである。

俺が彼女のデータに目を通している間にもレイシアは攻撃をしてくるが、俺に傷を与える事はできていないようだ。しかし、それも当然だ。俺が彼女に《神魔眼》で与えていたステータスはレベル600万前後。しかし、今はそれよりもかなり上がっている。

俺としては彼女から受けたダメージも相当なものだ。恐らくレベルも俺よりも大幅に上がっていたと思う。《同調化》を使っていた俺とほぼ互角の戦いを繰り広げるなど普通はあり得ない事だった。だけどレイシアは《完全操作》の能力を使い、更には俺が使った魔法までも操り、それを発動させていたのだ。

ただレイシアが《完全操作》の能力を使いこなすためには大量の魔力が必要らしく、俺とレイティアの二人で協力する事によりなんとか魔力供給を保てている状態だった。俺達が協力しなければレイシアを倒すどころの話ではなかっただろう。だが《神魔眼》をレイシアに使う事で魔力が枯渇してしまうのだけは避けなければならないと必死になって戦っていたのである。

レイシアとの激しい戦いは三時間ほどに及んだだろうか――レイシアの攻撃によって俺は満身創痍の状態まで追い詰められたのだが、そんな時、レイシアの背後に回り込んだアイシアが現れてレイシアを斬り裂く。それによって彼女のHPを一気に削ったのだ。

『大丈夫?』

『ああ――ありがとう』

『ううん。レイナは頑張った。それに私も頑張らないと駄目みたい。もっと強くなる必要があると思ったの。だから私も戦う』

俺はそんなアイシアを見て心が温かくなっていくのを感じた。彼女はレイシアに対抗できる唯一の希望と言ってもいい。レイシアがどれだけ規格外の存在であってもレベルが1億を超えているわけではない。俺と《同調》して《神魔眼》を使えるレイシアの方が強い可能性だってある。俺はそう信じて、最後の力を振り絞るとレイラに攻撃を加える事にした。だが、そんな俺に対してレイシアは信じられない事を行った。彼女はなんと自分自身に向けて《神滅撃》を使用したのである。

(なにやってんだよ!? 自殺願望でもあるっていうのか?――違う。あれは何かの策があるはずだ! レイシアがこの程度で終わるはずはない!)

俺がそう考えているとレイシアの《神滅撃》が俺に向かって飛んでくる。その一撃は先程の攻撃の倍以上はありそうな規模だったので俺は《同調化》を発動すると、そのまま《神魔眼》をレイシアに向けた。すると《神魔眼》に彼女のステータスが表示されると、そこにはとんでもない文字が表示されていた。

(え?これってもしかして――)

ーーレイシア=カーディガル 種族 半人族 体力 850000/120500000 筋力 3551000000 魔力 32450000000 敏捷 92000000 耐久力 8803000000 賢さ 10457000000

(――なんじゃこりゃぁあ!?なんだってレベル9999の人間が存在できちゃってんだよ!?ってかもう、どこを探せば出てくるんだよって感じのレベルだよ! なんだよ!?レベルが1000万超した時点で人間としての限界を超えてるような気がするのは俺だけなのか!?ってかレベルの数値だけで考えたら世界征服どころか銀河系すら簡単に潰せるよな!?)

俺が自分の目を信じられないで固まっていると、レイシアはそんな俺の態度が不満だったようで攻撃を仕掛けてくる。俺が我に帰るのと同時に攻撃が放たれてきた。しかも先程とは違ってその攻撃は俺の目では捉えられなかった。その攻撃を何とか避けると今度は剣による攻撃が迫って来た。

(このっ――俺の思考を読んでるのか?)

《同調化》の発動状態で相手の動作に集中すれば、ある程度であれば動きを読む事ができるのだが――どうも、そういうわけではないらしい。俺は迫り来るレイシアに対して《聖光の盾 改 》を使用すると、レイシアの剣を防ぐ。しかしその威力を殺せなかったので吹き飛ばされてしまう。

「なに?」

「ははははははははは!!ついにやった!!俺はこの日を待っていたぞ!!」

俺は思わずそう叫ぶ。俺を吹き飛ばしたはずのレイシアの表情は明らかに困惑しているようだったからだ。俺はこの時のために《同調》の能力を使い続けていたのだから。俺はレイシアがレイシア自身の体に憑依して、この世界の人間に転生してしまった時からずっと観察していたのである。

レイシアを救える手段がないかと考えていたからだ。その結果は残念ながら見つからなかったが――それでもレイシアにダメージを与える方法は見つけられた。そして《神魔眼》の力を利用してレイリアに《完全支配》と《完全服従》をかけたのである。これでレイリアは自分の意思に反してレイシアに絶対に従うようにされたのであった。

《完全同調》を使って、俺が攻撃し続けてダメージを受け続ければレイシアの動きは確実に鈍くなる。後はレイリアの力を借りて、俺とアイシアがレイシアの体を少しずつ破壊する。そう考えていたのにレイシアが《神魔眼》を使った瞬間から全てが崩れ去ってしまったのだ――それは、なぜかと言うとその効果は《完全操作化》のような能力ではないからである!

(おいおいおい!マジかよ!こんなんチートじゃねえか!まさか俺以外にそんな奴が存在するなんて思ってもいなかったぜ!)

ーーーーーー 【名前】

アイセア=カーディナル(真名:レイラ アルドフォード公爵家次女 称号一覧なし 性別女性 種族 人間 年齢 20歳 レベル 660 筋力 5203000 魔力 5400500 速力 5億2600万 耐久力 36億5000万 賢さ 15兆2000億 耐性値 21000000 特殊技能 全属性適正 魔力制御LV.6 魔力障壁LV.4 状態変化付与LV.1 転移魔術 付与効果 全言語変換 神域への接続権 聖光守護領域 創造 完全回復 神速移動 魔力解放 完全再生 ーーーーーー

(な、何が起ころうとも絶対に諦めませんからね。私はお姉様の為なら何でもやります)

レイリアは《神魔眼》でアイナを見ているレイシアを見つめる。レイリアもアイナもレイシアが何者かについては気づいていたが、それが真実だとは思えなかったのだ。だからこそレイシアの本当の姿を見るまでは負けられないと、必死に抵抗を続けるのであった。

(私だってレイシアさんを助けたい気持ちはあるんです。でも――私にはまだ、何もできない。だけど必ず私が助けるから、それまで待っていてください。私達は姉妹です。私達三人はレイシアさんの事が大好きなのです。だからお願いします――私の力に少しだけ、ほんのちょっとだけ貸して下さい。あの人は本当は優しいだけの普通の女の子なんです。あんな事が起こる前ならばレイシアは――いえ、今はやめましょう)

レイシアのステータスを目にした時、レイリアもレイシアがどんな存在になったのかという事は分かった。しかし、レイリアにはレイシアを救う為の方法を考える余裕はなかったのだ。なぜならアイシアが一人でもレイシアに立ち向かったから――だから自分も立ち向かう必要があった。

(レイシアさんの事を助けたいと思っていても私にできる事は限られています。それでもやれる事はやってみせます。私はアイシアと二人で、そしてみんなでこれからも一緒にいたいと思っているんです。レイシア、あなただってそうでしょう?)

レイラの願いが通じたのか《同調化》を纏った状態のアイシアがレイシアを攻撃する。だがレイシアもただでは攻撃を受けず、《魔力操作》の能力を使用して、アイシアの放った魔法を操って、そのままアイシアへと放つ。

(凄いな。流石レイシアだ。本当に規格外の存在になってしまったんだな)

レイシアとアイシアの壮絶な攻防を見て俺は感嘆の声を上げる。レイシアの攻撃は全て防がれているが攻撃を当てられていないわけではないのだ。アイシアの剣撃を完璧に捌いているように見えるが、実際は紙一重のところで回避を行っているのだ。少しでもタイミングがズレれば致命傷を負うのである。それを彼女は涼しい顔をしながら行っているのだから恐ろしい。俺は二人の動きに集中しつつ他の人達の様子も確認する。

すると、どうも《完全支配》の影響下にあっても意識を保てる人がいるみたいだった。俺が見た限りでも二人いる。一人目はリゼット、もう一人は不明。ただその人物に関しては《神魔眼》で調べても分からない。

おそらく俺と同じように《完全支配》の影響を受けているはずなのになぜ、そんな風に普通に動けているのかは謎である。だが、今はそれどころではない。《完全支配》の効果によって《完全支配》を受けている人のステータスを確認すると、俺の想定外の結果が出てしまったのである。

「なっ!?レベル4!?――どうして?」

そう、《神魔眼》に表示されているレイシアのレベルは5。本来であればレイシアが《神滅撃》を放った時点で俺の予想ではレベル1000は超えていてもおかしくはないと思ったのだが――その考えが完全に崩れ去る。しかも《神魔眼》の表示を信じる限りだと、この世界の住人は平均して1000程度しかないはずなのだ。それにも関わらずレベルは40そこそこしか存在しないのである。

(この世界はおかしい――俺の想像を超えている!なんなんだ、この世界は?レベル1000以上の生物が存在しない世界ってどういうことだよ? 確かに、この世界のステータス表示の基準となる数値が高過ぎるのは間違いない。しかし、それだけでこんなにも極端な数値になってしまうものなのか?――違う。この世界に異常が発生しているのはその所為ではない。レイシアの存在がそもそもの根本なんだ。俺の世界にはいないはずのレイシアという超次元的な力を扱える人間がいること自体で、何かこの世界の常識を覆す異変が起きようとしている。

俺の持っている情報が正しいとすれば、レベルというのは基本的に1〜3が限界だったはずだ。それがこの世界の常識なんだよな――俺の知識が正しければ)

《神魔眼》でレイシアのステータスを覗きながらそんなことを考えていると、俺は自分の身体に違和感を覚えた。俺は急いで自分の体を見ると、なぜかレイシアの《神魔眼》が俺の体にくっ付いていたのである。しかもその《神魔眼》は俺が持っていた《神魔眼》よりも上位の性能があるようだった。俺の視界が拡張されてレイシア達の戦闘風景がよく見えるようになる。

俺が《同調化》を発動させている状態でレイシアは俺の《神魔眼》を奪い取ったようだった。俺はすぐに《神魔眼》を引き剥がすと、俺は再びレイシアの様子を伺う。

(どうなってるんだ。なんで俺の《神魔眼》が奪われたんだ。あれは俺が作り出した固有スキルのはず――)

俺は動揺を隠せないでいたが《同調化》の《スキル》だけはしっかりと使い続けていた。このおかげでレイシアの《同調》に完全に対処できていた。しかし、それでも俺の心は焦り続けていた。レイシアの行動には全く意味が理解できなかったからだ。

レイシアは先程から何度も攻撃を仕掛けていたが、それは全てアイシアが《魔力操作》を使ってレイシアを迎撃していた。だがそれでも《完全服従》によるレイシアのダメージは確実にアイシアに伝わっているはずだった。レイシアが本気で攻撃を行えばアイシアがレイシアを完全に消滅させることもできるのだから。だがレイシアの表情に変化は起きていないように見えて俺は戸惑ってしまう。

(まさかとは思うけど、レイシアは自分が受ける痛みを全て《完全支配》に押し付けているというのだろうか?)

《同調》状態であれば《神魔眼》を通して相手の感情を読み取る事もできる。そこで俺がレイシアの顔をよく見てみるとレイシアが涙を流していることが俺の目に飛び込んできた。それはつまり俺の考えたことが真実であるという事に他ならない――レイシアはアイシアを傷付けることを酷く嫌がっているのだ。

俺はレイシアが涙を流す姿を見る度に心に激痛が走るのを感じた。そしてそれと同時に俺の心のどこかで歓喜の声が聞こえるのを感じる。レイシアの本心を知りたいという願望。俺自身が知らない俺の願いを知ることで俺は俺自身の事をもっと知ることができるのかもしれないと考えたのだ。

だが同時に、レイシアにそんな行動をとらせた原因が自分の存在だという事は自覚してしまっている。だからレイシアの悲しそうな姿を見て俺は辛くなる。俺のせいだと言ってしまっても過言ではないから――レイシアは優しい子だ。だからこそ俺はそんな彼女の笑顔を見たいと願った。俺は無意識に笑みを浮かべてしまう。それがどれだけ傲慢な考えだとしても――レイシアの悲しみを少しでも取り除いてあげられたらいいと思うのだ。

俺は《神魔眼》の能力を解析し終わると同時に、レイシアに向けて話しかけた。その方がお互いの為になると思っての事だった。もちろんレイシアには俺の言葉が届いているが――

(まさか私の言葉が届く相手がいるなんて思いませんでした。それもあのレイラ様のお兄様が。本当にありがとうございます。お陰で少しは気が楽になりました。私にできることならば何なりとお申し付けください)

俺は一瞬、レイシアの思考が流れ込んでくることに驚きを隠せなかったが冷静さを取り戻した後でレイシアに向かって話を続けた。俺自身、この状況が一体どのような理屈で発生したのかは分からなかったが、今の状況は好機だと認識したのである。

(なら俺から頼みたい事があるんだ。聞いてくれるか?)

(はい、私が貴方にお願いされた事に対して拒否することは決してありません。どうかおっしゃってください)

レイシアに言われた事で俺は躊躇した。しかしここで引くわけにはいかないのだと考えて言葉にすることにする。

(まずは一つ。俺はお前を助けたいと思っている)

(――どうしてそこまで私の事を信じてくださるのですか?私はもう、ただの化け物なのに。レイラ様にすら恐れられるほどの存在なんですよ?だからお願いです。私を殺さないと駄目です)

レイシアが俺に語りかけてきた時に感じたのは拒絶の意志だ。彼女は俺の答えを待っている――だから俺もそれに応えることにした。

(いや――俺が決めたことはただの気まぐれみたいなもんだよ。ただな――お前が本当は寂しがり屋の甘えん坊な女の子だって分かったから。そんな子が独りぼっちでいたら絶対に後悔してしまうだろうし、きっと俺は許せないと思うんだよ。だってそうだろ。誰かに愛されなきゃ、本当の意味で生きているとは言えないからな。

だから俺はそんな悲しい結末を作らない為に全力を尽くすって決めたんだ。だって俺はこの世界に召喚されて、初めて出会った女の子が――君のような優しく強い女性だったんだから)

その瞬間レイシアの体が発光し始める。

(なっ!?なんなの!?これ!?――温かい)

(えっ!?なにが起きたの?

――でもなんでしょう?この温もり。それに凄く安心してしまいますね。まるでお父さんとお母さんと一緒にいるみたい――)

レイシアはそう言いながら意識を失う。その光景を見た俺がどうなったのか確認するために自分の体を確認を始めると、《神魔眼》で自分の姿を《ステータス》を確認することができた。どうもレイシアの力の影響で俺のレベルが上がったらしい。ただ、それだけではなくステータスが大幅に向上しているようだった。ただ《同調化》が解除されたわけではないので《完全支配》の影響下にいるのは間違いない。俺が《神魔眼》の能力を使用して《ステータス》を確認するとその内容が変わっていく――

《名 前》 レイジ 《年 齢》 16 《レベル》 196 《筋 力》 560000 《耐久度》 65000 《敏捷性》 499999 《魔導耐性》 500100 《攻撃力》 59809 《魔攻力》 498000 《スキル詳細》 【物理強化LV.MAX】――身体能力を大幅に上昇させる。

《魔法属性》 闇 《スキル詳細》 《無属性》――身体の一部を変化させることができる。

《固有武装》

『漆黒の剣』『真祖殺しの長銃』――それぞれ黒と赤の光を帯びた短刀、巨大な拳銃を具現化することができる。ただし、《同調化》中のみ使用可能

――――――

<レイシアside> レイラ達が竜人族の少女と出会ってから約一時間。レイナ達は村の復興作業を手伝った後、再び馬車で王都に戻る最中に襲撃を受けた。しかもその数は前回よりも圧倒的に多い上に統率がしっかりとされていた為、苦戦を強いられていたのである。それでもレイリア達がなんとか撃退していた時だった。

「あれ?レイちゃん、どうしたの?」

「レイラお姉さん、急に止まっちゃって」

レイア達が立ち止まったことに気付いたレイラがレイア達に話しかけた。すると、そんなレイラにレイシアは視線を向けていた。だがそんなレイシアは何か違和感を覚えている様子である。そして次の瞬間だった。突然レイシアが動き出すと、その場から姿を消して別の場所に転移したのである。そのレイシアの行動にレイナは慌ててレイシアが消えた方へと駆け寄るとレイシアはアイシアと戦闘をしていた。しかもそれは先程の比ではないくらいの戦闘が繰り広げられているのだ。

しかしアイシアはレイシアの攻撃を捌くのに手一杯だった。そのため攻撃に転じることができず、アイシアが反撃に出たのを見てレイシアが後方に大きく飛んで回避をしたのだ。

アイシアは追撃を行う為にレイシアに向かって走り出していたが途中で立ち止まる。何故ならアイシアの視界の中に見覚えのない男性が映ったからである。その姿を見た途端、なぜかレイシアは目を見開くと同時に嬉しそうな顔をしていた。だがその直後に異変が起きる。

(なんだ?この人、怖い!でもどこか懐かしいような気がする。それに私の中で、とても嬉しい気持ちがある――どうして?)

レイシアはその感覚に戸惑いを隠せないでいたがそれでも目の前の男を敵と認識していたのであった。だが、男はアイシアを一目見た後に興味をなくしたようにレイシアの方へ近づいてくる。レイシアはすぐに警戒心を強めると男の動きを警戒し始めた。しかし男はレイシアの横を通り過ぎて倒れ込んでいた少女の元に歩いて行くと抱きかかえるとそのまま歩き始める。その事にレイシアは驚くが、すぐに男の行動を阻止しようとレイシアが声をかけたのだ。

――その時にはもうレイシアの声は既に聞こえなくなってしまっていたのだ。だからアイシアとレイシアの争いを止めることができない。

そんな時に突如、レイシア達の元に現れた謎の青年。レイラは彼を見ると何故か心臓が跳ね上がるような感じを覚える。その理由が分からずに混乱しているレイラに対してその人物は話を切り出したのだ。その内容はあまりにも荒唐無稽すぎる内容だったが、不思議と彼が言っている事は本当なのだと信じてしまう自分がいた。彼はその後、レイラに質問をしてくる。それに対してレイラは正直に全てを話す。その結果レイシアを助けてくれるという提案を受けて、レイラは彼の指示に従う事を決めたのである。そして今レイシアの元へと向かった。

(レイシアの事は心配だけれど、今は私ができる事を精いっぱいやらないと!――それにあの人ならきっと何とかしてくれるはず)レイヤには不思議な魅力があり、レイナやアリスもその事を知っていたため特に何も考えずに従っていたのである。そして今もレイヤの背中を追っていくレイラは心の奥底でレイヤの言葉に安堵感を覚えていることに気付かなかったのであった。

(どうしてこんなことになっているんだろう?)レイシアはレイスとの激闘を終えて地面に倒れると、そこでようやく今の状況を理解して困惑した。

(確か私は《魔眼の王》を使って《同調化》を行ったら――そうだ、思い出しました。私は彼に会った瞬間に理解してしまったんです。私はずっと待っていたんだと。私は彼と――いえ、あの人の傍にいたいと願ったんだ。それがどういう理由によるものなのかは分からない。そもそも、私にはまだその資格がないと思うから。だけど私は、これからの一生をかけて証明してみせたい。私はあの人に――ううん。レイジ様について行きたいと、レイジ様の役に立ちたいと願っている)レイシアは自分の胸の内をそう呟く。だが、レイシアのそんな決意とは裏腹にレイシアの体は動かなくなっていた。それだけではなく徐々に力が抜けていくのを感じる。

「どうなってるんだろ?私の体が勝手に動いて――いや、これは私がやってる事?じゃあやっぱりさっきからレイちゃんが感じているのは――この感情が伝わってきているってことだよね?なんで?それにレイ君はなんで私の方に近寄って来ているの?レイ君の考えていることが全然読めないよ」

そうレイラが戸惑っていたその時だった。レイナの目の前で信じられないことが起きていた。なんとレイシアが自分からレイラに向けて手を伸ばしたのである。その事実にレイラが驚いているとレイシアが意識を失ってしまう。レイラはすぐにレイシアを抱き寄せるが、レイシアの様子を見るなり慌てふためくがそこでレイシアの顔色が普通ではあり得ないくらいに真っ青になっていることに気付くとレイシアの状態を確認し始めたのである。しかしいくら調べても外傷などは全くなく、呼吸なども正常なことからレイラはひとまずは安心するのだった。

それからしばらくして馬車の到着を知らせる鐘の音が響く。それを聞いたレイジ達は再び移動を開始していた。ちなみに現在レイシアが気絶している事を知っているメンバーは俺だけである。まぁ俺の場合レイシアから《共有》が切れたから何が起きたのか分かるんだけどね。そんな事を思いながらレイシアが目覚めるまでの時間は暇だった。

そして馬車で移動する中、レイナは先程までレイシアがいた場所を見ながら首を傾げていた。

「――それにしてもレイちゃん大丈夫かな?――まさかとは思うけどまたレイちゃんに悪い虫が付きまとっていないよね?」

そんな独り言をつぶやくレイラを見て俺は笑いそうになるのを抑える。そんな時だった。

「ねぇねぇレイ兄。そういえばこの子のことはなんて呼べばいいの?名前を教えてくれそうにもないし」

そう口にしたのはアリシアだ。どうやらアリシアもレイシアの事を心配しているようだ。俺が言うのもあれだが、レイシアはかなり美人なのでその気持ちはよくわかる。俺はその問いに対して少しだけ考えてみた。すると、ふとある人物の名前が浮かんできたのである。

「えっとそうだな――クロとかどうだろう?」

俺が思い浮かべたのは《白銀狼姫》の名前である。シロガネの漢字を変えたのが由来であるのだが。するとレイシアが反応を示した。

(えっ?その名前、なんか好きかも――なんだが暖かい感じがするし。あっ――これならいけるかも)

レイシアが突然そんな言葉を呟くと目を開く。そんな様子に俺を含めた全員が驚きを隠せなかった。だが、次の瞬間にはさらに驚くべき出来事が発生する。レイシアの姿が突如、光を放ち始めるとそこに現れたのは一人の少女だったのだ。髪の色こそは漆黒であるがそれ以外はレイシアと瓜二つの姿をしていたのである。だが瞳の色は真紅であり、顔つきに関してはレイシアよりも若干幼く見えたのだ。そんな彼女はゆっくりと瞼を開ける。その表情からはレイシアと同じ意志の強さが感じられるのだった。

『マスター、先程の件に関して謝罪させてください。申し訳ございませんでした』

そして次の瞬間、レイシアがいきなり深々と頭を下げて謝罪をしてきたのである。しかもレイシアが喋った事にレイナ達が驚くのを見て、彼女が普通の人間ではないと悟ったのであろう。しかしレイシアが人語を話すという事実を知ったとしてもその事に対して特に疑問に思ったりしないレイナ達はさすがだと思う。その点を考えるに彼女達はレイシアが亜人である事に対して全く違和感を感じていなかったのである。その事に俺はレイシアがレイナ達から受け入れられているという事を改めて確認する事ができた。

そしてそんな状況にレイシア本人も気づいたのかもしれない。

「あっ!――レイちゃんが二人!?それに今度は大人になって――それに服が透けている!」

「――ちょっとレイちゃん、その状態はまずいんじゃないのかな。でもレイシアって本当に綺麗」

レイラとアリシアはレイシアの変わり様に動揺するが、一方でレイリアは冷静に今のレイシアの姿を観察していた。そんな中、レイシアはなぜか急に顔を赤くしながら恥ずかしそうな顔をしていたのである。そしてなぜか俺をチラ見していたのだ。

俺はその理由を瞬時に理解した。だが今はこの状況を説明する事が先決だったので後回しにしたのである。

その後、俺はとりあえずはレイシアの事を落ち着かせることにした。だがその際にレイシアからとんでもない言葉を聞く事になったのである。それはレイシアの正体と目的。それを告げられた時、その場にいた者達は驚くことになるのであった。

<side レイシア>

(私は今度こそ間違えません!私は――私は、マスターに救われた命で絶対にやり遂げる!)そう強く心に誓ったレイシア。

それは彼女の中で強い覚悟が生まれていた証でもあった。

(その為にはまずは目の前の敵を排除しておきましょうか。それにレイジさんには私の本気を見てもらいたいですし。それに――いえ、今は目の前にいる敵の事に集中しないとですね)レイシはそう思いながら目の前にいる相手を見る。そして彼女は自分の中で一つの確信を得ていたのだ。その正体はこの目の前の存在に対しての恐怖感が完全に消えたという事に。だからこそ、今レイシオは自分の体の変化に戸惑うどころか歓喜すら覚えていたのである。その理由は自分が望んでいた変化が起きてくれたからである。

そう、本来レイシアに備わっていた能力は本来あるべきものが戻っていたからだった。本来の姿に戻ったレイシアにもはや弱点と呼べるものは存在しなかった。それこそが彼女のもう一つの人格とも言える存在であるレイシアが求め続けていたものだったからだ そう、彼女はかつて《魔王軍四天王》の一人にして人類を脅かす存在として君臨していた存在であった。しかしそんな彼女を倒せる人間はただ一人しかいなかった。それが《勇者レイジ》である彼だけだった。

(私を倒した勇者があの人だという事は、あの人の中に私の魂があるはず。つまり私の能力は使えるという事になる!それにあの人は私があの人と会う前から私に何かを感じていたようだったから。だからあの人が私の力を必要とするなら応えるしかない!それに、あの人から感じる暖かさが心地よい。これが――恋というものなんでしょうか?)

レイナはそう考えると思わず頬が熱くなりそうになってしまう。そんなレイナの様子を見たアリスとアリスシアが不思議そうに見つめるが、レイラが苦笑してアリス達の視線に答える。

「アリスちゃんとアリスシアちゃんもレイちゃんの魅力が分かっているのね。――確かにレイちゃんって凄い魅力的な男性だもん。でもね――レイちゃんに恋人がいるみたいだし」

「えぇ~嘘だよ!だってレイ兄の周りにはいつも可愛い女の子が沢山いてお似合いだと思ってたんだよ」

アリシアが驚いたようにレイジを見る。するとレイジはその声を聞いて首を傾げた。

「おい、俺の知り合いにはお前等以外女はいないぞ」

「「うそだぁー」」

二人の女子中学生の声が重なる。そしてアリシアに至っては何を勘違いしているのかとため息をついてしまう。しかし、アリシアの勘違いも当然の事である。なにしろ、レイシスとレイアの姉妹以外の女性をレイラ達が知るよしもなかったのである。

「まぁいいけどね。レイ兄にそういう相手がいないのであれば、これから先いくらでもいると思うからさ。それにさ――私の勘が言っているの。――この子はきっと、いや間違いなくいい子だと思うから。それにさ――私は信じているんだよね。なんとなく分かるんだよね。この子の事を大切に思ってる人の気持ちが」

「えっとどういう意味?」

「あはは。これはまだ早いか」

「「?」」

アリシアとアリシアシアが揃って首を傾けるとレイラが笑い出す。そしてしばらく談笑しているうちに馬車は王都に到着する。

「やっと到着したか――」レイジは小さく呟く。レイラ達はレイシアの事情を知る者として今回の騒動に関して話をする必要があったので、こうして馬車で移動する事になったのである。しかし馬車の中では終始無言であり、気づけば目的地に辿り着いていた。そして馬車から降りるなり、レイナ達は王宮へ向かうのだった。

レイラ達が城に向かうのを窓から眺めていたレイシアだったが、ここで問題が起きたのである。それはレイラとレイシアが離れようとしなかったのだ。まるで互いに引き寄せられるように抱き合っている。その光景を見て他の面々も最初は驚いていたが次第に微笑ましいとばかりにレイシア達の様子を伺った。だがレイシアがいきなり目を覚ましたと思ったら自分の体をレイナに預けたのである。これには流石に全員驚いた表情を見せた。

(マスターが――レイナが私にとってどんなに大きな存在なのか分かりました。それにマスターの力が強大過ぎて抑えが利かないくらいに強い――こんな感覚は初めてです。それにマスターと一緒に居たいという気持ちも抑えられそうにありません。でもこの感情はとても心地良いです)レイシアはそんな事を思うと、自然とレイナに顔を寄せていた。だが、それは唐突に終わりを告げる。レイナが突然意識を失った事で事態を察した一同はレイシアを急いで部屋まで運び込んだのである。

そして、現在レイシアの看病をしながら様子を見る事になりレイシアの体調を気遣って交代で見張ることになったのであった。だがこの時レイナとレイシア以外は知らなかった。レイシアの症状の正体を――

――数時間後、無事に回復したレイシアと共に再び集まった一堂はレイリアが手配してくれた個室へと向かっていた。しかしそこで予想外の事実を知らされる事になったのである。そう、レイシアの素性に関してである。

(まさかレイシアちゃんの正体が人間じゃないなんてね。しかもレイシアちゃんの事を《魔眼》で見た時は何も出てこなかったのに、レイちゃんの《神魔眼》では名前が分かった上に《種族》の詳細が分かったよ。それにしてもレイシアちゃんの種族名――《魔王》っていうのは何なのだろう?そもそもレイシアちゃんはどうしてレイ君の前に現れたんだろう?色々と疑問が残るけど、まずは確認しないといけないのが――)

「それでレイシアはどうやって人間から魔王に覚醒したの?」

その質問に対して答えたのはレイシア本人だった。だが、彼女は人間から亜人へ転生し、その後魔王になった事を話すとあまりにも長すぎる説明になると話す。その為に簡潔にまとめたのはレイシアの人格がレイシアと融合する事で目覚めたのだと伝える。そしてレイシアの説明は続いた。

そしてレイシアの話によると魔王は人間に敵対する立場の存在ではあるが、別に全ての人間が敵対関係にある訳ではないという事を。現に彼女達は過去にも何度か勇者達によって滅ぼされそうになった事が過去にあったそうだ。しかしそんな窮地に陥った時には必ずレイジが現れ、彼女達を守ってくれたのだという。その度にレイジの背中を見て育った三人の少女の憧れは次第に特別な存在として心惹かれていった。そしてついにその想いは成就する。そう、その瞬間こそがまさにレイシアとレイシアスが魔王に生まれ変わった瞬間である事をレイシアは伝えたのである。

レイシはその言葉を聞きながら納得してしまう。それはレイシアが言った通りの状況が再現されていたからである。ただし、その時は二人共既に人格が崩壊しかけていた為、レイジはそんな二人を救うべく命を懸けて戦い、二人は何とか元の姿を取り戻す事が出来たのだった。だがしかし、魔王としての力が強すぎて二人同時に元の人格を維持する事は難しかった。なので人格が崩壊した状態でも自我を保つ為には、お互いが融合した存在として生きるしか道は残されていなかったのである。

レイシアからそんな話を聞いたレイシアを除く五人は唖然とした表情を浮かべて聞いていたのだった。

(そうだったんですか――私とマスターの運命の赤い糸はまだ途切れていなかったという事ですね)レイシアが嬉しそうにそんな事を考えていたが、一方でレイナは複雑な気持ちになっていた。それは今まで自分に向けられていたレイシアの好意が一体誰に対して向けられたものなのかと考えてしまい、不安を感じずにはいられなかったのである。

(私はずっと一人だけを見続けてきた。その気持ちが変わる事は無いと思ってたんだけど、それがレイシアさんが相手なら話は別だよね。だって相手も私のことが好きみたいだし。でもそうなると――私はいったいどうしたらいいの?)そう考えて思わず頭を抱えるレイジ。その様子を見たアリスシアが不思議そうに尋ねる。

「ねえ、もしかしてお兄さんが気にしてるのはさ、お兄さん自身の気持ちは変わってないよね?」その問いかけにレイジは思わず固まってしまう。そんな彼に向けてアリスシアは続ける。

「お兄さんの本音としてはどうしたいと思っているのかな?」アリスシアの言葉を聞いたレイジは戸惑うが、そんなレイジにアリスシアは更に語り掛ける。「私からすればお兄さんとあの子達の関係は兄妹みたいな感じに見えるんだよ。だけど、あの子達にとっては――違うんだろうね。私にも兄がいるけど、あんな風に誰かを愛している様子を見ればわかるもん。それに――私自身もあの子の事は嫌いじゃない。むしろ好きなんだよ」

「えっ?」レイシスとレイアを除いた面々が声を揃える。するとアリスシアは再び口を開く。「正直、最初は私達から離れて暮らす事になるのなら、せめて私達が安心できる相手と一緒に暮らしてほしいとは思ったよ。――私達じゃ駄目なんだなって。だからお姉ちゃん達と一緒に旅に出てもらう事にしたのは正解だと思っていた。でもね――最近、気がついたの」そう言ってレイシスとレイシアの方を見た。するとレイシアは恥ずかしそうに頬を染めるとそっぽを向いてしまう。レイシスも同じく赤くなりながらも照れくさそうな笑みを見せる。

「お兄ちゃんにはもう心に決めた人がちゃんとしている。なら私が心配する事は何も無いんだよね。――でもさ、レイちゃんにはそういう相手がいないから、少し不安になるの」

「ああ――それについては本当にすまない」レイジは申し訳なさそうにそう言うと、アリシアとアリシアシアがお互いに視線を合わせる。

「いいんだよ。お兄ちゃんが悪いわけじゃないから。それにね、私は今の生活も悪くないかもなぁって思ってるの。だってさ、ここにいればみんなが幸せになれるもん。レイちゃんとお兄ちゃん、それにお兄ちゃんとレイシアちゃんの関係ってさ、きっと家族愛とか、姉妹愛とか、そういう類だと思うんだよね。それにレイシスとレイアと、あとはレイちゃんのお母様も加えてさ、そんな幸せな毎日が続くんであれば、それはそれで嬉しいと思うの。――それにさ、私達の事を助けてくれる人なんて中々いないと思うし、きっとこのまま一緒に居続けたら私達が大人になっても変わらないと思う」

「まあ確かにそうだな。俺の知る限り、お前達はこの先変わる気がしない」

「「酷い! 私達はいつまで経っても純粋な乙女だよ」」

アリシアとアリシアの声が重なるとレイジは笑い出した。

「あはは。――まあそうか。いつまでも純真でいて下さい」

レイシアが顔を真っ赤にしながらもアリシアの肩を叩く。そして二人は仲良く手を握るとレイラの元へと向かうのだった。そんな様子を見届けていたアリスシアはレイシア達の姿が見えなくなるとアリシアに向かって話し掛けた。「――ねぇ、お嬢ちゃん。もしもの時はレイちゃんの事お願いね。絶対に守ってあげてね。もしレイちゃんに何かあったら、あなたに呪いをかけるから覚悟しておいてね。あっ、私って呪えるタイプだった!」そう言うと悪戯っぽい笑みを見せたのである。

(ふむ、流石はアリシアちゃんと言うべきなんだろうな。まさかレイちゃんの事を気にかけるとは。それに私とレイシアの正体を知っても全く驚かないし――でもまあいいか。これで心おきなくレイシアと結ばれる事が出来るのも間違いない。レイシアと一つになれば私も完全に魔王に――でもそうなれば魔王の力を使えるのかしら? 魔王になった時と同じ力を使えば恐らく――でもレイシアに負担をかけすぎるのは嫌だし。でもレイシアの事をもっと知りたいし、その方が都合が良いか)そんな事を考えるレイシアはこれから自分の身に起こる事など考えていなかった。だが彼女は後にこの決断を深く後悔する事になるのだが――この時の彼女はまだ知らなかったのである。

それから数日後――遂に王都へと到着した一同はレイナの予想通りにレイシアが城まで連行される事が決まった。だがしかし――何故か国王ではなく第一王女であるレジーナが直接レイシアの元へとやってきたのである。彼女はレイシアに対して「レイシア殿、どうか我が国へ留まって欲しいのです。そして我が国の勇者になっては頂けませんでしょうか?」と言ってきたのである。そんな彼女の申し出に対して困惑してしまうレイシア。何故なら勇者というのは魔王討伐の旅に出る者の総称である為、そもそも彼女が勇者ではない事は明白であったからだ。だがしかし、それを断る前にレナートによって強引に連れ出され、そして彼はこう言ったのだった。

「君は私の娘と結婚するという約束をしただろう? なのに他の国に嫁に行くなんて――そんなの許せるはずがないじゃないか」そう言われてしまうとレイシアは反論する事が出来ずにそのまま城に軟禁されてしまう。だが彼女は自分が監禁される部屋の中に監視役の人間がいなかった事で油断してしまい、隙を見て脱出しようと画策するが――その時に偶然にもアリシアと出会い彼女はアリシアシアによって助けられる。

アリシアはレナートにレイシアを連れてくるように頼まれていた為に彼女を助けたというのだ。そこでレイシア達はどうにかレイジ達と合流し、レイシアを助ける為に協力してもらおうと思っていた矢先にレイシアはアリシアと二人きりで話をしたいと頼むのである。その頼みを聞いたレイシアは二人だけで話がしたいと言い、レイリア達に待機するように頼んでから部屋を出ると二人は誰にも見つからないように城内を移動していた。その最中、彼女はこんな話を始めた。「実は私――ずっとレイジ君が好きでした」そう告げた瞬間に心臓の鼓動が早くなり、体が熱くなっていたのを感じて焦り始めたのだった。

「えっ?」アリシアは驚いて立ち止まると、そんな彼女をレイシアが見つめた。「ずっと好きでした。私は初めて会ったあの日から、あの人に一目惚れしてしまったんです」

レイシアの話を聞き終えたアリシアは自分の胸に手を触れながら目を閉じて呟いた。

「そう――なんだ。やっぱりお兄ちゃんの事を好きになっていたんだ」

そんな言葉を聞いて驚くレイシア。だがしかし、レイシアはすぐに笑顔を見せて答えた。「はい。あの人は私にとても良くしてくれますし、優しい方だと思います。それにあの人は誰に対しても平等に接してくださるんです。ですが、それが時々不安になってしまう事があるんです」そう話すと今度は真剣に聞き入っていた。「どうしてそう思うの?」

「レイシアが――私と同じような立場だからだと思います。私は妹のように接して下さっているのは理解しています。それに私自身もそう思われる為に行動してきましたから」そう言い終えるとレイシアは小さく息を吐き出すと続けて語り始める。「私の場合は少し事情が違って――いえ、同じなのでしょうけど、私のお母様と妹が――つまり、お姉さま達や私の実の母親と義理の妹にあたる存在なのですが、そいつらがレイジ君の本当の母親を処刑したんですよ。だから私の気持ちは理解できるんじゃないですかね?」そう口にするとアリシアは悲しげな表情を見せてきた。「そっか。――辛かったよね。そんな酷い事が身近で起きていたんだから、そりゃ不安にもなるよ。でもさ、今は違うよね? お兄ちゃんの事が好きなんだから」

「はい、今はあの人を心の底から愛しています」

そんな言葉を口にされると思わずドキッとするアリシア。するとレイシアがゆっくりとアリシアの体に抱きついてくると胸の辺りを掴んできたのである。「えっ、ちょっと――レイシアちゃん?」戸惑うアリシアがそんな言葉を洩らすとレイシアが小さな声で「――お願いがあるの」と言ってから小悪魔のような笑みを浮かべてくる。その顔を見たアリシアは何だか危険な気配を察知したが、ここで逃げる事はレイシアを裏切る事になると思い、逃げずに立ち向かう覚悟を決めると彼女の目を見つめる。すると、そこには強い意志を持った女性の眼差しがあった。

アリシアはその瞳を見た瞬間、これは危険だと判断し慌てて離れようとしたが、その時レイシアに唇を奪われたのである。そして口内に何かを送り込まれると、すぐにその違和感が何かを理解した。その途端、アリシアは顔を真っ赤にさせると口を手で抑えるが――既に遅い事に気付き愕然とする。

そんな様子を見せたアリシアに対して、レイシアは満足そうな笑みを見せると口を開いた。「お味はどうでした? レイナ様は喜んでくれているでしょうか? それと、ご安心ください。毒なんて盛ってはいませんよ」そう言うと再びレイシアはキスをする。アリシアはもう抵抗する気力がなくなり受け入れていた時、「何やってんだー!!??」そんな声を聞くと同時にアリシア達の方に駆け寄ってきた人影があり――その後ろには怒りの形相を見せるリリスとアリスティアの姿もあったのである。ちなみにこの後も三人の美少女達は口論を続けていたらしく、「アリシアさんってレイシアさんの事を嫌いだったはずだよね?――まさかとは思うけど誘惑とかしてないわよね」とレイシアに問い詰められたレイラは苦笑いを浮かべながらも否定したが、その後にはアリスとリリィに睨まれてしまい落ち込んでいたとか。

「おいこら、何を勝手に人の家に入り込んで来ているんだよ!」「ふふふ。我が親友にして幼馴染のレイジ、お前を救いに来てやったぞ! さあ、共にこの腐った世界を救おうではないか」レイジとシンジが二人で仲良く遊んでいる所に突然現れた人物を見て呆れたように溜息を吐いていた。その男は金色の髪と青い目の青年で――名前はレイシアと言う名前らしい。年齢は恐らく二十歳前半といった所だろう。その整った容姿からは大人びた雰囲気を漂わせているが、服装だけは何処にでもいるような冒険者風で剣を腰にぶら下げていた。そんな彼を見て二人は驚き、同時に困惑する。それは彼の正体に気づいたからだ。

何故ならば、彼はレイジの数少ない友人の一人なのだから――レイラの息子で双子の弟。それがレイシアの正体であり、レイジの親友である男であった。しかし二人の友人は兄弟だという事には全く気付かなかったのである。それは彼らが似ていなかったからではない――似ている点が一つもなかったのだ。その理由の一つに挙げられるのがレイシアは金髪碧眼、それに対して弟のレイジは黒色に近い青みが掛かった銀髪に赤色のメッシュを入れており――さらに言えば性格まで全く違い過ぎたのだ。レイジもレイシアと同様に正義感が強いのだが、一方で彼は面倒臭がり屋で他人任せな一面を持っている。そして女性に対しては見境なく優しくする為、よく女性関係で問題を起こしていたりする。

だがそれでも二人はお互いに良い友達で信頼関係を築く事が出来た。しかしレイシアが行方不明になってから三年の月日が流れ――その期間の間にレイナはレイジとの繋がりを絶ち――それが原因でレイジの心に闇が生まれたのである。レイジの両親はレイシアの両親が事故で亡くなっている事を知ると、その悲しみを埋めるかのように仕事に没頭し、レイシアの事を気にしなくなったせいで更にレイシアの失踪した原因が自分の責任だと思い込んだレイナは自分を責め続けていた。そして、そんな状況の中で現れたのがレイシアだったのである。

そんな彼は現在十八歳になったレイシアよりも年上でレイヤ達とも同い歳だった為か、レイラの事を「母上」と呼んで懐いており、レイジはそんな彼が可愛くて仕方がなかった。また、そんな彼とは家族同然の関係だったのでレイジは彼を家に泊めたりしていたのであった。しかしレイシアが姿を消してから半年後、レイシはレイルの家に預けられたレイシアに会った事で、彼女の様子がおかしくなった事をレイナから聞いて心配していた。だがしかし、そんな彼にレイシアが姿を見せる事はなかったのである。それからレイシアの話題が出される事もなく時間だけが過ぎていった。

そんな矢先の出来事である――レイシアが現れた事でレイジの心の中に眠っていたレイジの心の支えとなっている思い出の少年の存在が刺激されたのだ。だがその瞬間にレイシアに対する想いが強くなってしまい、レイシアの事を忘れようとした事もあった。その度にレイシアへの未練を断とうと決意するも、中々断ち切れずにいた。

そして、ある日レイジは偶然にも再会した際に――ある言葉を思い出す。「お前は俺が守る――必ず守ってみせる。例え相手が神様だろうと――魔王であってもだ」

そう言った時に彼はレイシアに恋をしている事に気づき、同時にレイシアもまた自分の事が好きなのではないかと感じ取った。しかし今のままではレイシアを幸せにするどころか逆に自分が不幸にしそうで――怖くなったのである。その為にはもっと力が必要だと思い、必死に強くなろうと努力して修行を開始したのだ。その結果――今のレイジの強さはかなり高い領域に達しており、《真覚醒》と呼ばれる能力を習得する事が出来たのである。そして彼はレイシアを救う為に、彼女と会える可能性を持つと言われている迷宮攻略に乗り出す。その目的は迷宮の最下層に存在する伝説の宝具を手に入れる為に――レイシアを取り戻す為にだ。

その話を聞き終えたリリスは納得するように首を縦に振ると真剣に聞いていた。「成程ね――話は理解したよ。それで君はどうするつもりなのかな?」その言葉を聞いてアリシアは戸惑うが――レイシアはすぐに冷静さを取り戻したようで口を開く。「私としては、その方の為に戦いたいです。その人はきっと私とレイシアさんにとって大切な存在ですから――それに私達がその人の足手まといになってしまうのであれば戦う必要もないでしょう」そう言い終えるとアリシアに視線を向けたのである。

アリシアは少し考える仕草を見せると、すぐに口を開いた。「うん。あたしも同じだよ。でもお兄ちゃんってば本当に馬鹿なんだよね。だからレイジ君を助ける為だけに命を賭けて迷宮に挑戦するとか――本当なら止めたかったんだけどさ、止めても無駄だろうなって分かっていたんだ。だけどお兄ちゃんは――レイシアちゃんの事も絶対に救い出すって言ってくれて嬉しかった」アリシアが悲しげな表情を見せて呟くと、アリシアとレイシアの頭を優しく撫でた。「アリシア――私は大丈夫ですよ」

「そうだよアリシアちゃん。私はお姉ちゃんの事は嫌いじゃなかったからね。だってあの時は私の事が羨ましく思っていたんだもん」

その発言にアリシアはキョトンとした顔になり、「そうなの?」と言って驚く。「うーん。あの頃の事は忘れちゃいましたけど、あの時の私の感情って嫉妬に近いものだったのかな?」とアリシアに問い掛けられレイシアが小悪魔のようにニヤリと笑う。するとその様子からアリシアは悟ったらしく――レイシアが自分より年下だという事を確信した。

するとレイシアは微笑みながら「まあそんな事があったんですよ~♪」と言い終えると再びレイシアがアリシアの体に抱きついてきた。そして頬をすり寄せるように甘えて来たので、アリシアは戸惑いながらもその行動を受け入れる事にしたのである。

アリシアに抱きしめられたレイシアは、まるで子供に戻ったかのような気分になって甘えたような行動を取ってしまっていた。そんな二人の様子をアリスは羨ましそうに見つめており、それを察したレイナがそっと肩を抱き寄せていた。そんな彼女達の様子を確認したレイシアは再びレイジに目を向けると、口を開いた。

「ふふふ。相変わらずだなお前は。しかし、まさかそこまで馬鹿だったとは――お前は本当に成長しない男だな。この世界では強くなれないと分かった時点で大人しく故郷に帰ればよかったものを」レイシアは呆れたような顔をしながらも懐かしむように笑みを浮かべた。

だがレイジはレイシアに呆れられるような態度を見せられてイラつく事はなく、「ああそうかもしれない」と素直に受け入れてしまう。それを聞いたレイシアは目を見開くが、そんな彼の様子を観察する。レイシアから見ても今のレイジは変わったと感じる所が多くあった。

最初に出会った時には無鉄砲というか、自分の力を過信して暴走するような危ない一面があると感じたのだが――この世界の常識を知らないせいもあってか色々と苦労しているとレイシアは推測していたが、今は落ち着いていて頼りになる印象を持っていた。

また、レイジは自分の事を卑怯者と自称するが、それでも彼は誰に対しても平等に優しさを与える事ができる人間だという事もレイシアは知っている――それに加えて誰かの為だったら自己犠牲も躊躇わずにする事が出来る男でもあるのだ。そんな性格だからこそ彼は女性から好かれる事が多いが、本人は鈍感な上に女性に対しての免疫がないせいで女性を怒らせてしまい嫌われる事が多かったりする。

だが――今の彼は以前の彼とは違い精神的にも肉体的にも強さを手に入れており、また仲間と呼べる人達も増えているようだった。その証拠の一つとして彼が腰に差している剣はレイジが使う武器ではなく、見たこともない剣だ――恐らくだがレイジの仲間の一人であるユウマという人物が作ったと思われる魔剣を腰に差しているのを見てレイシアはある意味で驚き、ある意味安堵していた。

(なるほど――どうやら私の心配はただの取り越し苦労だったという訳か)レイシアはその事に安心しながら、同時に少し悔しさを覚えて苦笑いする。

レイシアも自分の目的を果たす為にはレイジの協力が必要であると思っていたのだが、彼はレイシアがいなくても十分に戦える実力を身に付けていたようだ。それはいい事なのかもしれないが――やはりレイシアとしては複雑な心境を抱いてしまうのであった。そんな時、レイシアが身につけていた腕輪から声が響き渡ってきた。『――レイシア。私だ。例の遺跡で何か動きがありそうな気がするので報告したい事がある。お前はどう思う?』その言葉を聞いて、レイシアの表情は引き締まる。

「――その話に関しては後で聞かせてもらうとして、とりあえず今は戦闘に集中しなさい」とレイナが言うと「了解した!」と答えた後で再び意識を切り替えた。そして彼女はアリシア達に目を向けて口を開く。「そういう事なのです!悪いのですがレイシ様の援護は任せますね!」と言うと同時にレイシアの体が宙を舞う。それと同時に彼女の手には一本の槍が出現する。

その姿を見たレイナは一瞬だけ驚いたような表情を見せるが、次の瞬間にはレイシアの背中を押してあげた。そしてレイシアが上空に飛び上がったタイミングに合わせてレイシは《神炎武装》で生成した刀を構えて《火遁斬撃》を発動させて、巨大な火の刃を振り下ろす。その一撃を受けた魔物の体は燃え上がり灰になるまで消滅したのである。

「流石だなレイシアさん」とアリシアが呟くが、すぐに気を引き締め直す。「うん――やっぱり強いね」とレイナも小さく息を吐きだすと杖を強く握りしめながら身構える。そんなレイナは内心では冷や汗を流していたのだ。先程の戦い方を見てレイシアがかなり戦い慣れをしている事に気づいたのである。だがしかし――今の彼女の姿は明らかに普通の状態ではない事にアリシアとレイナは気づくと戸惑っていた。

今のレイシアの姿はまるで別人としか思えない程に変わり果てており、その容姿は幼い美少女であるアリシアと同じ少女であるアリシアと比べて背が低くなり体つきは幼女のような体型になっており、身長は140センチほどで胸の大きさもアリシアと同じくらいしかない――つまり今目の前にいるのは十歳前後の子供にしか見えず、見た目通りの性格をしていたのならば、まだ八歳のレイシアと同年代の少女に見えるだろう。

「ふうっ。少しは暴れないと体がなまってしまいそうです」とレイシアが言うと、空中で姿勢を制御しつつ地上へと着地をしたのであったが、その様子を見ていたアリシアとレイナはすぐに違和感を抱いた。レイシアがレイジを名前で呼んだのと、いつもよりも口調が丁寧になっているのと一人称が自分の名前のようになっている点に気がついたのだ。

しかし――二人が気になったのはそこだけではなく、レイシアが変身した時の外見が変化した事も二人は気になっていた。今までのレイシアは大人びていてクールな印象を受ける女性だったが、今ではまるで天使のように見える程の可愛らしい少女のように見えたのだ。それこそレイシアの面影が残っていない訳ではないが、完全に別人に変わってしまったと錯覚してしまいそうになる程に変化してしまっていたのである。その為、二人にとってレイシアの変化はかなり衝撃的だったので思わず驚いてしまうが、すぐに平静を取り戻したアリシアが問いかけた。「ねえ、さっきの姿は一体なんなの?」その質問に対してレイシアはすぐに答えようとするが――レイナに視線を向けた事で少し困った顔を見せる。

その様子にレイナは首を傾げると、すぐに事情を理解した。

「レイシアちゃん。別に私の前で遠慮しなくていいんだよ。あなたが何をしようと私達は絶対に拒絶したりしないんだから――だから、もう私達の事は信用してくれてもいいんじゃないのかしら?あなたの過去とか全部受け入れてあげるんだからさ」レイナがそう言い放つとレイシアは驚いたような表情を浮かべた後に、優しい笑みを見せたのである。

するとレイシアはゆっくりとアリシアとレイナに歩み寄ると二人の手を優しく包み込むように握ると、穏やかな笑みを浮かべた。「えへ。ごめんね。二人に嘘をついて。本当は二人にも知って欲しかったの。私がどういう人間だったかを――でも、怖かった。私の本当の姿を知れば、きっと二人も――ううん、皆が離れて行ってしまうと思ったから言えなかった。私の事を受け入れてくれる人がいなくなった時に耐えられなくなるから――でもね。私の事を受け入れてくれたから大丈夫。私の全てを受け入れる覚悟が二人にあるのなら大丈夫なはずよ。だって、私の大切な人達だもの」

その言葉を聞いたレイナは自分の愚かさを痛感した。自分は何をやっていたんだろうか――この子は何も悪くないというのに、勝手に勘違いして一人で暴走してこの子を傷付けていた。この子は私達を信頼してくれたのに、私達がこの子の事を恐れて怯えてしまったから――その結果がこんな風にしてしまったのだとレイナは悟ったのであった。「ごめんねレイシアちゃん。本当に私達の方こそ貴女の気持ちを察するべきだったわ。確かに最初は貴女が突然変な格好に変身したものだから警戒心を抱いたけど、今の貴女はとても魅力的な女の子だと思う。それに今の姿を見ても貴女の事を嫌う人なんていやしないと思う。それどころか、もっとみんながこの子に懐くわ」レイナはレイシアの事をそっと抱きしめた。

そしてアリシアはそっとレイシアに寄り添うように傍に近づいてきたが、その表情には笑顔を浮かべているものの、どこか不安を抱いている様子も感じ取れる。そんな彼女の様子に気づいたレイシアが微笑むと「アリシア、ありがとう。貴女がこうして私の事を心配してくれるだけで凄く嬉しい。私の味方になってくれると嬉しいんだけど駄目かな?お願い」と小悪魔のような可愛い顔を向けてきたので、それを向けられたアリシアは少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべるが、嬉しさのあまり満面の笑顔になったのであった。

それから三人で抱き合っている光景を見ながら、アリスは一人取り残されていたのだが――「あの~私も仲間に入れてもらえないですかね」と言うと、少し不満げに頬を膨らませるのであった。

◆◆◆

アリシアとレイシアのやり取りを見ていると、アリシアは少しばかり嫉妬してしまうが――それ以上にアリシアがレイシアの事を受け入れたという事を喜んでいた。レイシアは今までずっと自分を偽り続けてきたのだ。そして、レイシアを偽らせ続けた原因は自分だという事もアリシアは分かっている――だからこそレイシアが自分の事をさらけ出す事ができた事にアリシアは感動していた。

そして自分の本音を口にする事が出来たレイシアは心の底から喜びを感じ、それを表現するかのように自然とその表情には笑みが浮かんでいる――その無邪気とも言えるような彼女の可愛らしさを間近で見た二人は見惚れてしまい、無意識に胸をときめかせてしまう。その様子を見つめているアリシアがレイシアに対して羨望の眼差しを向ける。

(やっぱりレイシアってば反則級だよ)

そんな感想を抱きながらも自分も仲間になりたいと思っているのだが――アリシアはレイシアに対して嫉妬心を抱かなかったのには訳がある。レイシアの正体は――レイシアは元々はレイシアの肉体の中に存在している精神体が分離して実体を持った存在である事が分かり、レイナの眷属になる事になったからだ。そんな経緯もあってアリシアは今のレイシアの姿を見ると「妹みたいでちょっと可愛すぎる」と思わず思ってしまったのだ。だが、アリシアの心の中に生まれた感情はそれだけではない。アリシアにとってはレイシアの存在はとても特別であり、そして心の拠り所でもあるのである。

(レイシアがいてくれてよかった。レイシアの本当の姿を見せてもらったお陰で私は救われた。これからはレイシアの役に立ちたい――いえ、レイシアと一緒にレイナ様の力になれたらどんなに幸せかしら。私も自分の力の全てを尽くしたい)と、アリシアは決意を固めて拳を握りしめる。そして改めてレイシアに目を向けてみると、彼女はレイラを抱きしめたまま涙を流していたのでアリシアはレイシに声をかける。「レイシ様――私もレイシアと同じようにレイシ様を愛す権利が欲しいんです!どうかレイシ様の恋人にしてください!」そう言ってアリシアがレイシの手を握った瞬間、レイシは戸惑いを隠せないでいた。まさか自分に好意を抱いてくれているのは分かるが――ここまではっきりと宣言されると流石に動揺せざるを得ないだろう。しかし――それでも、アリシアが真剣な表情で手を握ってくる様子はレイシにとってもとても魅力的に見えた。それは今まで異性に対してこのような想いを抱く事が無かったのでレイシとしても新鮮に思えるものだったのである。

(どうすればいいんだ!?この状況を打開する方法を俺の頭脳は導き出せるのかい?)

レイシアもそうだが、アリシアがあまりにも真っ直ぐな気持ちをぶつけてくるのに、レイナは困惑している状況だ。そしてその様子を見てアリシアも戸惑う。今の自分の発言が相手に対して迷惑なのではないかと思い始めていた。だがしかし――その時、今まで沈黙を守っていたルシールがアリシアの背後から腕を回して強引に引き寄せた。

「あ、え、えっと、ルシールさん?」いきなりの事にアリシアは驚きの声を上げるが――そんな彼女を気にする様子も無く、ルルシーは口を開いた。「レイシ様に恋人が出来れば必然的に私達の結婚の事も話さなければいけない。それに――私達は今、魔王軍と戦っている最中よ。今は余計な事に関わっている暇は無いはず。貴女がどれだけ本気で恋をしているのかは分かったから、とりあえずその話は置いておいて、今は目の前の問題に集中した方がいいんじゃないの?それにレイシアさんの事をもっと良く知る必要がある。今の状態だと判断材料が少なすぎて、いくら考えたところで結論を出すのは無理よ。今の段階で考えを纏めるのは諦めた方が良いわ。それに、私達の目的はこの世界に召喚された魔王を討伐すること――まずはその目的を果たさないと、レイシアの事を考えている余裕はないんじゃないの?」

レイシアは自分達に危害を加える事が無いと知っているルシールの言葉はアリシアに冷静さを取り戻させる。それと同時に自分がいかに視野狭窄に陥ってしまったかという事に気付かされて自己嫌悪に陥ったが、それもまた自分の成長の為だと考えると悪い事ばかりでもないと思う。だから――ここで考える事をやめようと決めた。「ルクール、貴方はそれで良いと思ってるの?」

「ええ、問題無いですよ。レイシアがレイシアである限り私は何も文句は言いませんよ。だって、それがレイシアなんですよね?」と、いつも通りの優しい口調で問いかけたので、アリシアは安心感を覚えると同時に心の中で感謝をした。レイシアが自分とは全く違った性格の人物であればきっとアリシアは混乱したかもしれないが、普段の様子と全く変わらないのを見てアリシアは落ち着きを取り戻す事が出来たのである。

レイシアはそんなアリシアを優しく見守っていたのだが、その隣にいるレイナから「あのさ、そろそろレイシアの服の事をどうにかしようか。皆に色々と説明する前に服を着替えてもらわないと」と言われたので、確かにその通りだと思い「レイリア、私の部屋にレイリアとアリシアの部屋の鍵を置いてあるわよね? 二人には先に部屋に戻って着替えてもらいましょう。その間に私が他の人に伝えるから、その説明が終わった段階で二人の部屋に行ってもいいかな」と言うとレイシアは自分の部屋に案内しようと動き出すのであった。

◆◆◆

俺はようやく落ち着く事ができてホッと息を吐きながらレイシアの後に続く。この世界では女性の方が立場が強いというのは聞いていたが――ここまで強いのは初めての経験だった。正直言えば俺よりも遥かに上回っていると思った。そんな事を考えながらもレイシアが自室に戻るまでの間にレイシアに色々な事を教えて貰った。例えば俺の能力やこの国についてだ。俺は今までに聞いた事の無い情報の数々に興味津々で、レイシアが話す事全てに感嘆の溜め息を漏らしながら聞いていたのだが――「私も驚いたけど――でも、レイシは本当に規格外ね。こんな能力を持っていたなんて私にも想像できなかったわ。私に《魔剣》をくれたのもきっとこの事を知っていて、レイシを仲間にするためにわざと渡したんだと思うわ」と言われてしまったのだ。確かにその可能性もあると思う。それにしても俺の事を知っていたなんて――でも、考えてみれば不思議ではない。この国の人間達にとって、この世界で生きる者達は皆平等なのだ――その価値観があるからこそ俺に優しくしてくれた人達がいたのだ。その事を改めて理解する事が出来ただけでも、ここに来た甲斐があったというものだ

――ちなみに、俺とアリシア、ルクールが部屋に戻った後はレイシアとアリシアと二人で部屋に入っていき扉が閉じられた後にすぐに出てきた。その際に何故かアリシアの顔が少しだけ赤かったのだが一体何があったのだろうか。そう思って尋ねようとしたのだが、アリシアの方は何食わぬ顔をしているし、逆にレイシアの方は恥ずかしそうにしている。そして――アリシアはレイシアを連れて部屋の中に入っていくのを目に収めていたのだが、どうしてレイシアだけ連れて行かれているのだろうと疑問を抱いたものの、特に興味もなかった。だが――レイシアが着ている服が先程までとは変わっており、しかも少し大きめのサイズの服になっていたのを見た時は驚いた。

(確か、サイズが合わなかったとか言っていた気がするが)

そんな事を思いながらも二人が戻ってきた後、「とりあえずレイシアの事についてはこれで一段落ついたという事で良いかしら?」とレイナが口にしたので――レイシ達はお互いに顔を見合わせてから静かに首肯した。

その後――アリシアが仲間になってから少し経ってから、俺は改めてアリシアに視線を向けた。彼女の瞳には迷いが無く、自分の行動は正しいと信じているという決意を感じる。

(これは覚悟を決めた者の眼だ)そう思いながらも、俺はアリシアに対して微笑むと、彼女は嬉しそうに表情を綻ばせてからレイシアに抱きつくのであった。

レイシアの事は気になるのだが――レイナは一度全員の注目を集める為に手を叩く。

そして「これからどうすればいいかだけど――」と言いかけたのだが、レイシアが手を挙げてそれを止めると――「まずは現状把握をしましょう」と言ってきたのでレイナは言葉を続ける事を辞めた。そしてそれからしばらくの間レイシアは一人で喋っていたが、その内容はこの城に存在する者ならば誰しもが知り得ているような情報だったので聞き流していた。ただ、その中で重要な情報としては「魔王軍がこの大陸に近づきつつある事」「魔王軍の中には魔王が二体存在しているらしい」という内容だったのだ。

魔王は普通の生き物ではなく魔物の頂点に位置する存在だと言われているので魔王という言葉を聞いて怖がる者が殆どだろうが、勇者の仲間になった時に戦う機会があるという話を以前に耳にして、そしてレイシアが「魔王軍は勇者によって滅ぼせる程度の力しかない存在ですから大丈夫ですよ」と言っていた。しかし――実際に魔王と戦う時がくるとなると不安を隠せないのも事実であり、それは俺以外のメンバーも同じ気持ちを抱いているようだった。

レイシアからの情報を聞き終えると彼女はレイシアの方に振り返り「これからは貴方の指示に従うわ」と告げた。その瞬間にアリシアが「そういえば――」と言ったので全員がアリシアに注目する事になった。

「私はまだレイシアさんの名前を知りません。それに、貴方の口からもまだ何も聞いていないので名前を聞く前に自己紹介をしますね。私はアリシアといいます。種族的にはダークエルフ族です。得意なのは水系統の魔法になります。これからよろしくお願いします」そう言って頭を下げるのでレイシは慌てた様子でアリシアに話しかける。「そんな風にかしこまらなくてもいいんだぞ?俺に敬語を使わなくてもいい。それに俺の方が年下なんだから呼び捨てにしてもいいんだぜ」と伝えるとアリシアは首を左右に振る。

「ううん、流石にレイシは神様だし、やっぱりそれは出来ないよ」

俺ってそんな扱いになっているのかと思わず苦笑してしまうが――まあ確かにレイシアが言う通り俺は神だからな。その点に関しては納得して受け入れるしかなかった。だが、俺が何かを口にする前にレイシアがアリシアに声をかける。「じゃあ私が代わりに呼んでも良い? 実はレイナ達からはレイシとしか言われていないのよ。私の事を知るには呼び方を固定しない方がいいと思って、貴方達と同じように呼ぶ事に決めていたんだけど」

するとアリシアは笑顔を浮かべて大きく二度首肯する。その様子は誰が見ても仲の良い姉妹にしか見えない。「ありがとう。私の事もアリシアで構わないわよ」とアリシアが言うとレイシアは満足そうな表情を見せた。

その後はレイシアに名前を聞かれたのだが――レイシアに本名を教える事に躊躇いを覚えた。何故なのか分からないが、本能的に危険を感じ取ったからだ。しかし、アリシアが「レイシの名前は誰にも教えた事がありませんよね?」と言ったので安心できたのだ。そして、俺に名前を教えてくれた二人には俺の本当の姿を明かし、俺は二人の前では本当の名前で話さないと決めるのであった。

アリシアとレイシアとの話を終えた後、ルシールに話を切り出したのだが、その時ルシールが言った言葉の意味が俺達にはよく分からなかった。俺達?と不思議に思っていると、その言葉の意味を理解したルシールが「私達の事だよ。この城の関係者の殆どが今回の一件で命を失う事になってるからね」と言うと――

俺は一瞬呆気に取られてしまうのだが、確かにルシールの言う通りだとは思う。だが――俺がルシールの言葉を疑問に思った理由は別にもあった。それは、ルシールの言葉に嘘や誤魔化しが含まれておらず、まるで確信を持って言い切ったように聞こえたのである。その事について問い質そうとしたのだが――

レイシアがアリシアに向かって質問をし始めたのでタイミングを逃してしまった。なので、そのままレイシアとアリシアの会話に集中する事になってしまったのだが――「そう言えば、どうしてレイシアさんの事を私達は知っていたんですか?」

確かにその点は気になるところではあるが、それを尋ねられたアリシアが口ごもってしまった。どうやら俺に視線を送っていたので助け舟を出して欲しいという意味を込めているのだろう。

アリシアは恐らくレイシアが《創造主》の事をどこまで話したかを気にしているのだろうと思い――俺は軽く微笑むとレイシアに向けてアイコンタクトを送ったのだ。

(俺が答えてもいいんだよな?)

(勿論。私の代わりにレイシアの事情を説明して欲しいからね)とレイシアから念話が返ってきたので俺は安心して言葉を続けた。「この世界でアリシアは有名な方だぞ。何せこの世界の勇者と肩を並べる実力を持っていると言われているしな。それだけに有名人なんだ。だから俺達が知っていておかしくないだろ?」

「なるほど。そういう事なんですね。確かにレイシが言うとおりかもしれません。それなら仕方が無いですよね」そう口にしながらレイシアの方を向くと――何故か少し不満げな顔で俺を睨みつけてきた。その様子に違和感を覚えるが――その理由は分からない。俺は不思議に思いながらレイシアに話しかけようとすると――「そう言えば――二人はどうやって出会ったの? 私とアリシアは森の中で暮らしていたけど、レイシアさんとは会った事がなかったと思うけど」と俺よりも先にアリシアが声を出した。

そう言えば――俺が召喚された時は既にこの城にいて《剣聖》と一緒に過ごしていた。それからアリシアは森で暮らしていると聞いた覚えがあるのだが、実際に会っていないし俺が城に戻って来た時にアリシアが城内にいるのを見てもいなかった。その事から考えるとレイシアとアリシアは初対面だと思うのだが――何故かこの部屋に入ってすぐにお互いが名を名乗り合っていたのである。

(この世界は俺の知るゲームのように自由では無いはず――だ。だからこそアリシアがどうしてレイシアの名前をすぐに分かったのかは理解できなかった。でも、レイシアがこの部屋に戻ってきた直後にレイシアが「やっと出会えたわね。アリシア」と言い、その直後にレイシアがレイシア自身の口から「久しぶり」と言っていたのを俺は聞いていた)

つまりは俺が考え過ぎていたという訳かと納得した直後、アリシアがレイシアに抱きつき始めるとレイシアもアリシアの背中に手を回すとお互いに抱き合った。その姿は本当に感動の再会を果たしているようだったので邪魔するのは悪い気がするのだが――それでも、気になったのでレイシアに声をかける事にした。

「それでレイシア。お前はいつまでこの城を留守にするつもりだ? お前の身に何かが起こった事は俺にも伝わってきているし――正直に言ってくれ。俺の力を借りたいのか?」

レイシアはレイシと最初に戦った時に圧倒的な力で叩き潰されて以降一度も勝てるイメージを持てなくなったのと――自分とは比べ物にならない程の実力者だと認識してしまっている。だからこそレイシアはこの城から逃げ出したかったのだが、そんな時に現れたのがアリシアだったのだ。アリシアが一緒に旅をしてあげればレイシアの面倒を見てあげられると提案してきたので、アリシアの提案を受け入れたのである。

ただ、アリシアと二人でこの大陸を放浪する事になったのは想定外だった――そしてアリシアも自分がレイシアにとって危険な存在になりうる存在だと考えていたのだ。

「私がレイシアの立場になったらレイシに逆らう事なんて絶対に出来ないから。もし私が同じ立場でレイシと戦う事に怯えている状態で外に出たいと願ったら多分だけど――私を見張っていた存在からレイシアを殺す為に差し向けられる可能性の方が高いんじゃないかなって」

「それじゃあ俺としてはお前にこの城を去られてしまい困るんだが」と言いかけたところで――「私だってそうですよ。それにアリシアもそうじゃないんですか? アリシアがここに残るという選択をした以上――」

レイシアがアリシアに対してそう語りかけたが、その瞬間に俺の脳内にアリシアの感情が流れ込んできた。

「え? ちょっと待って下さい! 今のってどういう事ですか? 私はレイシアさんが私の考えている事を見通したのに驚いただけなんですよ!」アリシアは慌ててそう告げたが、俺が「アリシアの言っている事に間違いはない」と言うと、今度は逆にレイシアの方に顔を近づけて――「レイシアさんが私に思念伝達の能力を使えるんですか?」

「まぁそんな所ね。私は魔王軍の四天王の一人でもあるのでそういった力を使う事が出来るわ。といっても――これは《魔王》と呼ばれる魔王軍の中で一番強い者の能力なので他の魔王は持っていないのですけれどね」そこで俺は疑問に思っていた事を口にした。「そういえばさっきは《神魔眼》で確認してみて、二人に何も異常が起きていないと知った時は驚きを隠せなかったんだが」

俺は二人が「レイシの思念伝達の能力って凄いよね」「まあ、私の場合は最初からこの城の中にいたので既に知っていた事ですが」と言うのを聞いてからアリシアとレイシアに思念で話しかける。

(思念で話しかけるから二人共、俺の声は聞こえないはずだが――念の為、俺が二人の会話に混ざるつもりで話を進めさせてもらうからよろしく頼む)

その発言に俺は内心で苦笑する。

(俺とアリシアとレイシアの三人が揃ったのは偶然の産物なのか? だとしたら、とんでもない偶然が起きた事になる。でも――そんな奇跡的な事が起こりえるとは思えないがな)

それから俺は二人の話に耳を傾けて――その言葉の真偽を確認していたのだが、俺の予想とは違っていた事に驚く。しかし――それ以上に、レイシアが《神魔眼》を持っているという話に思わず絶句してしまう。その能力は俺と同じものだったからである。ただ――俺は《魔眼》と《魔人》の両方を所持していて、レイシアはどちらかしか持っていないとは聞いていたのでそこまで驚かずに済んでいた。

そしてレイシアの話によると《魔帝》と呼ばれている魔族の頂点に君臨する者がレイシアの《魔眼》を奪っているらしい――なので、その者を倒せば俺の瞳は返される可能性があると言われたのである。だが――その情報はレイシアの口からもたらされたものではなかったので半信半疑だった。

(でも――本当にそうなのか?)と思いつつも話を進めたいと思った俺はアリシアに目配せをすると彼女は小さく首を振ると――「その話は後回しにしましょう」と口にしてくれた。

俺はそれに感謝しながら先程まで中断していた話を再開したのであった。

それから暫くの間はお互いの自己紹介をしていた。ちなみに、レイシアに関してはレイシアに自分の名前を教えた事が無いと言っていたが、アリシアには名前を知られている。それはレイシアとアリシアが二人で旅に出る前に一度顔を合わせており、その時にお互いに名前を呼び合っていたそうだ。だから、俺はアリシアを少しだけ警戒したが――特に何が起きるわけでもなく、二人は仲良く会話を繰り広げていく――その様子を見て俺はホッと胸を撫で下ろすとアリシアとレイシアとの話が一通り終わるのを待って――「そろそろいいかな?」と話しかける。

その言葉を聞いた二人は会話をピタリと止めると俺の方を見る。その反応はあまりにも自然だった。だからこそ俺達はアリシアが《神魔眼》を使っていないのかと疑問を抱く。なのでアリシアが《神魔眼》を発動させた後に俺達の方を見てから「レイシアさんの話が事実かどうかを確認したかったから使わせてもらいました。レイシアさんの言っている事が真実である事が分かって良かったです。それに――レイシアさんの事情も分かったので、この城を立ち去るのを止めません。レイシアさんがレイシから受けた傷はまだ完全に癒えた訳ではありませんし、レイシアさんがここで無理に働く必要はありませんから」と言った。

(俺に嘘を吐く理由は無いし、レイシアを騙そうとしている様子も見られない)

俺はそれを判断すると、改めてアリシアに質問を行う事にした。

「なぁ――レイシアが言う事を俺も信じたいと思っている。でも、レイシアとお前の事をまだ完全に信用するのは難しい」俺はそう口にする。「だから俺はレイシアとお前の素性を教えて欲しい。勿論だが――アリシアはレイシアが話す内容を信じて貰わなくても構わない」

俺の言葉に対してレイシアとアリシアは何も言わずこちらを見つめたままだったので――俺は言葉を続けた。

「別にレイシア達をこの城に閉じ込めようと考えている訳ではない。ただ、二人からは色々と聞きたい事があるだけだ」俺がその発言をしてからもレイシアは口を開こうとしなかった。その為――俺は仕方無く「まあ、とりあえず今は休めばいい。この部屋から出ない限りは自由にしてもらってかまわないから」と言ってから部屋の外へと出て行く。

俺が出て行く際にもレイシアが喋らなかった事からも――俺はアリシアに任せた方がいいかもしれないと思っていたのである。俺も部屋を出て行こうとしたのだが――「あの――少しだけお願いがあります」アリシアがそう声をかけてきた。その言葉で振り返った直後、アリシアに抱きしめられて――そのままキスをされたので驚いたが――すぐに離してもらうと、「悪いが――今はそういう気分になれない」そう言いながら再び歩き出したのであった。

それからしばらく歩いていたのだが途中でレイシアの姿を見つけてしまい――声を掛けようか迷ったが、その時に彼女の傍にいる人物に目が留まるとその動きが完全に止まってしまう。何故ならそこには《竜騎士》がいるように見えたからだ。

俺は目の前にいる存在に驚きつつレイシアに声をかけると「あら――随分とお早い再会になりましたね。勇者様は」と言われるが俺がここに戻ってきた時に既に城の中にいたという事は知っているので今更ではあるが――レイシから逃げ出した事に対して文句を言いたくなっていたが――「ああ」と短く答えた後にアリシアの方に目を向けてから――「この城に滞在しているのか?」と尋ねる。

「いえ――実は私はレイシアさんがこの城を立ち去った後もこの城を管理しておりまして、その際に《聖剣》と呼ばれる剣を発見して、その回収を行ったのです」アリシアは笑顔でそんな事を告げたので俺は「はぁ? いや、《神滅兵器》があるだろ? 《魔眼》も持ってるみたいだし――それで十分なんじゃないか? それとも――《魔眼》だけでは《神》を相手にするには心もとないとでも思っているのか?」

俺がそんな事を言うとアリシアも困ったような表情で「いや、《神》相手に勝てる気なんて全然しないよ」と正直な気持ちを口にしたので――俺は思わず吹き出しそうになったが何とか堪える――そして「《神》相手って言っても魔王軍が攻めてくるんだろう? そういえば、俺がこの城を飛び出した後も魔王軍はこの城に攻め込んできたんだろう? よく生きて逃げ切れたな」と言う。

俺のその発言にレイシアとアリシアが揃って顔を歪めると――レイシアはため息交じりに「確かにこの城は落とされてしまいました」と答える。アリシアの方は俺の顔を見ながら――「レイシアが助けてくれたから――私は死なずに済んだんです」と言う。その発言に対してレイシアがアリシアの事を強く睨みつけていたので俺は「おい、二人共。喧嘩をしている状況ではないぞ」と言うと――「申し訳ございませんでした。私はアリシアが《魔人》に騙されているのではと思って」

俺はレイシアのその言葉を信じると、先程の話の続きを促すように視線を向けると、俺の瞳を見て《魔眼》を使われていると感じたようで――アリシアは素直に「私を救ってくれた後で《魔人》の策略だと教えてくれて、その後、《魔帝》を倒すために旅立つという事でこの城を後にしたんだ」と言う。

「その言い方からすると、その《魔人》っていう奴は――」俺がそう問いかけようとすると――「ええ、私が倒しました。私の持っている全ての力を使用して」と淡々と答えたので俺は内心で冷や汗を流すと――アリシアに「そうか。それならば問題はないな」と口にするとアリシアの頭をポンッと軽く叩くと、今度はレイシアの方を向きながら話しかける。

「レイシアは――俺を裏切ったんだよな? まあ――俺は最初からそんなに信用していたわけじゃないんだけどな。それでも一応――お前にだけは事情を説明しておきたかった。それに俺は《神》の力を持っているらしい。そんな俺は魔王軍に味方するつもりもないが――だからといってお前達に協力しようとは考えていない。俺は俺で《魔人》の事を探りたいと考えている。そしてもし俺達が敵対する事に――なっても俺はお前達の敵にはならない。俺としては魔王軍の幹部であるレイシアよりもアリシアの方の方が大切な友人だからな。もしもアリシアを傷つけたら俺は容赦なく戦う。そして俺はお前達に危害を加える可能性があるのに――協力は出来ない」と俺が言うと――「ありがとうございます」とレイシアがお礼を述べた後、彼女は口を開いた。「アリシアの言うとおり、貴方がアリシアの事が大切で――《神魔眼》が目的で近づいて来た訳では無く、純粋に友達になりたいと思っただけなんだと信じる事が出来ました。でも――やはり私はこの城に残らなければならないようです。でも安心してください。もうアリシアには手を出さないようにしますから。その――約束をしましたから」とレイシアは苦笑いを浮かべながらアリシアを見ると、アリシアはその目を見た瞬間――「あ、うん」としか言えなかったのである。

俺はそんな二人のやりとりを見つめながら――「じゃあな。レイシア――次に会う時は俺の質問にもきちんと答えるようにしてくれよ」と言い放つと――アリシアの手を引いて立ち去ろうとするが、ふと思い出してレイシアを呼び止めると「一つ頼みたい事がある」と言った後にアリシアと一緒にその場を離れる。その際に何故か後ろから舌打ちが聞こえたが気にしない事にしたのだ――だって俺は何も悪くないし! それから俺達は少し離れた所で振り返ると、「あのさ、今さら聞くことじゃないかもだけど本当に良かったのか? ここを出て行く必要は無くなったと思うけど」

「それは違うと思います。私はこの城を出ないといけません。この城に残る人達の為ではなく――この国のためにも――《聖騎士》としての役目を果たす必要があります。

《魔帝》を倒してからまだ半年程度なので、この国がどうなっているか心配だったのですが、少なくとも今の状況は確認する事が出来ました。ですので後は任せる事が出来るようになりましたから、この場に留まる理由は無くなりました」そう言ったレイシアは少し悲しそうな笑みを見せる。

俺はレイシアの言葉を聞いてある意味納得する部分もあった。確かに俺もこの国の現状は不安に思っていたし、《竜姫》の事も考えると早めに解決したいとも考えていたからだ。だからこそ――「なるほど。でもまあ、この城に戻れる時が来たら戻ってこいよ。レイシアと話をする為にわざわざ戻るつもりだからさ」と言う。

俺がそう言うとレイシアはキョトンとした表情でこちらを見つめると――「はい。分かりました」と言って微笑む。

「そろそろ行こうぜ」俺がそう言うとアリシアもレイシアも同意したので移動を開始したのであった。

それから俺達はアリシアとレイシアを部屋に送り届けると――「レイシアさんから話を聞いた時に思いましたが、《魔剣》を持つと《スキル》を使えないみたいですね。それと勇者様が持っている《魔眼》の能力って、かなり特殊な感じがしたのですが」と言われた俺は《神滅兵器》の能力を《無効化》させた事を思い出して「確かに俺の場合は《魔眼》を使えるようだが、それが何なのかまでは分からないんだよ。そもそもレイシアが《神器》と呼んでいた剣と俺の持つ能力が酷似しているように思える。ただ《神器》と俺の使っている武器は同じ系統の《スキル》を使えたはずなんだ。だから――恐らくレイシアの言っている事は間違い無いと思う」

俺がそう説明するとアリシアが「あのレイシアが《神魔眼》を使う所って見たことが無いんですけど、何か弱点とかありませんか?」と尋ねるので俺は首を傾げると「いや、特にそういった話は聞いたことがないんだが、もしかして使いたくない理由でもあるのか?」と問いかける。

アリシアは少し困ったような表情を見せた後に「実は私が幼い頃に何度か助けられた事があったんですよね。その頃のレイシアはかなり感情豊かだったような記憶があるんですが――その時に一度だけ――彼女が泣いた事がありまして、その時から私はレイシアに対して恐怖を抱くようになったんです」

アリシアがそんな事を言い出すと俺は内心でため息をつくと、「アリシアの事はレイシアから聞いているぞ。何でも命を救ってもらっていたみたいだが、そのせいで怖いと感じるようになったのか?」と言うと――アリシアは驚いたような顔をしてから「え? レイシアは私の事を伝えたんですか? 一体どんな風に伝わっているんですかね」と考え込む様子を見せていた。

俺はそんな彼女の反応を見て、先程の発言を後悔しながら「その件は俺も詳しく知っている訳じゃないが――昔、この世界は危機に陥っていて、それを救った英雄がいたらしいな。

でも当時のアリシアはまだ幼くて《勇者》になる前だったので、それこそ《神魔眼》が無ければ戦えるような状態ではなかったんだろうな。そんな状態でアリシアは――《神》の力を持つ《勇者》に助けられたとでも伝えたんじゃないか? それなのに《神魔眼》を使えば――自分が殺されてしまうのではないかと考えた結果が、《魔人》に利用されたという演技につながったんじゃないかと思っている」と口にすると、アリシアは困った表情を見せて俺の事を見つめていた。

俺はアリシアの事を見据えながら――「まあそういう事で俺から言えることは一つだけだ。お前の命を助けてくれた人物を怖く思う気持ちは分からなくもないが――《神》を相手取って勝てる人間など存在しないだろう。だから俺達の仲間になれば大丈夫だ。その力を使って誰かを傷つけるような真似は絶対にさせないし――それにその力はアリシア自身の為に使うべきものだろう? ならそんなに怯えなくてもいいはずだ。レイシアもそれを理解してくれるさ」と言ったのだが彼女は小さく息を飲みこむと俯き黙ってしまった。それからしばらく間を置いた後に俺は話を切り出した。というのも俺はこれから《神界門》でアテトリア王国に帰るつもりだったからである。レイシアがここに残りアリシアだけがこの城を脱出する事になった経緯についても、ここでしっかりと説明しておくべきだろうと判断したのだ。

「レイシアは昔からアリシアの事を大事にしていたよな。でもどうしてそこまでして守ろうとしていたんだ? ただ友人として気になっていただけなのか? それともアリシア自身に惹かれている部分はあったのか?」という疑問をぶつけるとアリシアも同じように俺が気になっているであろう点について問いかけて来たので――「そうだな。簡単に言うならばどちらも違うと言えるかな。レイシアにとってのアリシアはあくまでも親友という枠から出るものではなかったはずだ。でも――それでも俺からしたら、二人はお互いに大切な存在に見えていたがな」と口にするとアリシアも似たような考えを持っていたらしく「そうですか」と言うだけだった。だから俺はその質問を最後に切り上げる事にしたのだ。

俺がアリシアとの話が終わるタイミングを待っていたかのように扉がノックされた。アリシアが部屋の中へと入るように指示をすると同時に、扉が開かれ――そこに姿を現したのはメイド姿のクレアと執事の服を着ているダンであった。そしてアリシアは二人に話しかけると、俺達に向かって「また会えますよね?」と言ってくるので、俺はアリシアの頭に手を乗せて「ああ。いつでも来てくれ」と伝える。

それからアリシアはクレアに促されるように歩き出し――少し離れた所で振り返ると、少し寂しそうな顔を見せてくるがすぐに笑顔になると口を開いた。

「私、勇者様から色々と教わっていて思ったんですけど、いつかお父様に勇者様を紹介しようと思うのですけど、どうかご許可願えないでしょうか」と言った後で――頭を下げて懇願してくる。

正直に言えばアリシアの願いを聞き入れる事は難しくないだろう。だが、俺はこの国の王であるリベルトという人物に興味を抱いたのである。この世界で最強と呼ばれる人物に、果たして俺の存在がどう映るのかを知りたいという欲求を抑えきれなかったからだ。だから――「構わないよ。その方が面白そうだしな。それにレイシアとも会いたがっているんだろ?」と聞くと、アリシアは嬉しそうに笑うと何度も大きくうなずいていたのであった。

それからクレアとアリシアは手を繋いで城を出ると転移の魔法陣を展開して、無事に城から抜け出すことに成功したのであった。これでようやく俺達の目的を完遂する事ができた。

それからアリシアとクレアを見送った俺達は、今後の事を考える為に宿に戻る事にした。ちなみに俺は《竜魔眼》を使用して――俺と《聖女》以外の者では俺達の姿を捉える事ができないようにしたので、誰の目に触れることなく移動する事が出来たのである。これはレイシアからの提案でもあった。

そして宿屋に戻ると、まずは今回の件で得た報酬を確認することにした。それはレイシアが使っていた剣の処遇と《スキル》に関しての検証をする必要があると思ったからだ。なので、とりあえず《竜姫の宝剣》の方に目を向けて――《神魔眼》を開眼する。その結果、俺は驚愕の事実を知る事になる。

レイシアの話では《竜姫の宝剣》が俺の持つ能力と酷似しているという話であったが、実際は《神滅兵器》の一部だったようだ。つまり《神滅兵器》は二つ存在し、その一片に過ぎないものがレイシアの持つ《竜姫の魔剣》という事だった。この《竜姫の魔剣》の本当の能力は所有者が持つあらゆる力を十倍に強化するというものであったのだ。

だがこの効果を発揮するには、使用者の血を大量に消費する必要があったので、使用時にはレイシア自身も大量の血液を失ってしまうデメリットが存在したようである。それ故に俺に頼った戦闘スタイルしかできなかったのだろうと理解できた。まあレイシアの場合、血の消費量を抑える事が出来るように《魔帝化》の能力で《スキル》を使えるようにした方が良いのではないかとは思う。俺の《無効》と《魔人眼》で回復させる事も可能だしな。

そんな風に思いながらも、俺はレイシアの持っていた《竜魔眼》について調べる事にする。《スキル》の使用に関してはレイシアから話を聞いていたので問題は無かったが、発動方法だけは分からなかった。その為――俺はレイシアに対して問いかけてみた。すると《魔人眼》の能力を解除すれば問題なく使用できる事を教えてくれた。

レイシアの話によれば《魔剣》の所有者と、《魔剣》自体が認めた場合のみ使用する事ができる能力なのだとか。ただ、俺の使う《無効》と《魔剣眼》の組み合わせの方が上らしいのはレイシアの話から理解できる。

その後、レイシアは《魔皇のローブ》の機能の説明を始めたので――俺は興味津々で耳を傾けていた。この《神器》がレイシアの所有物である以上は彼女に任せるしかないが、その性能は《無効化》を上回るほどの能力だったのである。この《無効化》と《無効化》の上位互換に当たるスキル――《完全耐性》と、更に上位互換となる《完全無効化》が、その効果として存在していた。

他にも《魔力吸収》《身体能力増強(小)》等といった機能が存在していた。特に驚いた機能が、この二つの機能を組み合わせる事で、俺の所有する《神装武具》や《聖武器》と同じ性能を持つことが出来る事だ。

ただし俺のように《神格》を持っていないと、完全に同じスペックにはならないが――少なくとも同等の性能を扱える可能性はあるだろうと言っていた。俺も少しは《神魔眼》を使ってみたいと思っていたのだが、どう考えてもレイシア以上に使いこなせる自信が無かった。だから諦めるほかないだろうな。

ただ、レイシアは最後に――『貴方にはまだ使い道があるので』と言って、俺がレイシアに提供していた指輪を手渡してくれた。それを見ただけで何がしたいのかを理解したのだ。この指輪はレイシアが使用していたもので――この世界で最強の金属と呼ばれている《オリハルコン》という物質から作られたものであったのだ。

俺はその話を聞いて驚きを隠せなかった。何故なら《神滅兵器》と《オリハルコン》は同じ性質を持つと言われているからである。だからこそ俺は疑問に思っていた。この世界で最強の素材とされる《オリハルコン》の原石を――俺が手にする事は出来ないはずではなかったかと。

俺はその事をレイシアに伝えた上で《鑑定》を使用し、それが本物であるかを確認してみた。するとやはり――この世界で最高峰に位置する鉱石である事は間違いないようであった。だが、俺が気にしているのはそれだけではない。俺はこの世界の最高ランクに位置する鉱石――《ヒノハヅチ鋼》の事を思い出していたのだ。

《ヒノハヅチ鋼》はこの世界で最も硬くて軽いと言われている金属であり、神が鍛えたと言われる伝説の刀に使われる金属だと伝えられている。その特性が――俺にとっては魅力的すぎたのだ。この世界に来てからはずっと神を憎んでいたが、《魔刃》を使用した際に《神の祝福》によって強化された神からの言葉を聞いた時――その考えが変わったのも事実だ。そして今なら分かるような気がする。神とは――この世界の創造神だけを指している訳ではないだろう。俺が神と呼ぶのはあくまでもこの世界に居る神だけだが、その力を与えたのは俺のような人間がいるからだ。そして俺は気がついたら神の存在を信じ始めていたんだと思う。だからこそ俺は、神が人間に与えてくれる恩恵という存在があるのならば――それを利用してもいいんじゃないかと考えたのだ。そう思った時に思い出したのが――俺の持つ《オリハルコン》の特性であったわけである。

この世界で最高の硬度を誇り、尚且つ神が作ったと言われる伝説上の金属でもある。もし――俺の力でこれを加工できるとしたのであれば――この世界を根底で支配しようとしている勢力に対抗出来るだけの力を得られる可能性があった。俺はそれを考えると同時にレイシアが俺に託してくれた理由を理解する事が出来たのである。

そう思った直後――突然目の前にウインドウが表示される。それは俺達が《魔界領域》に足を踏み入れようとしている事を警告してきたものだったのだ。それを確認して――俺が真っ先に感じたのは歓喜だった。俺はその事に戸惑いを覚えた。どうしてなのかは分からないが――レイシアが俺の心を読んでくれたのだろうか。いや、恐らく俺の感情の変化を感知したからこその行動なのかもしれないな。

「――《竜姫の宝剣》を貸してもらえるか?」と問いかけると、レイシアは俺に視線を向けてくる。俺はそれに対して笑みを見せると――彼女はゆっくりとした動作で鞘に仕舞われた《竜姫の宝剣》を差し出してくる。俺はその剣を受け取ると共に、彼女の瞳を見つめ――「行ってくる」とだけ伝える。するとレイシアは小さく微笑んでから「はい」と答えてくれた。

こうして俺はレイシアから渡された《竜姫の宝剣》と《スキル》を使い、《魔界領域》と呼ばれる場所へ向かうのであった。この先に存在する魔王に、今の自分がどれだけ通用するのかを確認する為に。俺はこれから起きる出来事に胸を躍らせている自分を感じ取っていたのである。

俺達は《魔竜界》にある城――《魔竜王の砦》の上空に到着すると、そこから中の様子をうかがう事にした。その目的は、ここにいるはずの魔竜王と呼ばれる存在である。ただ――俺の記憶が正しければ、この魔竜王という存在には性別というものが存在していなかったはずだ。つまりは男性型女性型の両タイプが存在する事を意味している。

そんな魔竜王という魔物の頂点に君臨する者に会いに行く事になったのは、当然レイシアの要望によるものになる。ただその要望の内容というのが問題だった。レイシア曰く「私のお母様に会う前に、私とそっくりな顔を持つ方を見ておきたいのです。その方は私が知らない事を多く知っていますので」と言われたのである。俺としてはその言葉だけで納得できてしまったのだが、その理由についてはよく分からなかった。

レイシアの母親というのは《真なる眷属》という特別なスキルを持つ者で、レイシアと同じように全ての属性を操る能力を所持しているという事だ。その能力はあまりにも強力過ぎて、レイシア以外の者が触れようものなら、即座に灰となってしまうらしい。だからこそ俺は、その能力に興味があったのである。

魔竜王の住処に入る為の方法――門を開けて貰わなければならないようだ。俺はそれについてどうするかを考えた。するとすぐにレイシアは俺の思考を読んだようで、「大丈夫です。私に任せてくださいませ。それと魔族達に気付かれない様に注意しながら、こちらに向かってきてくださるようお願いいたします。あと魔竜王様にも伝えてほしい事があるんですが、聞いて頂けますでしょうか?」と言ってきたのだ。俺はそれについて詳しく説明を求めた。

その方法は《空間接続》を利用したものであった。《神眼》を使用すれば簡単に移動可能なのだが、この魔法を使う事で他の者の目を欺ける上に目的地である場所に瞬間的に到達する事も出来るとの事である。ただこれは《神器》の所有者しか使用できない《スキル》では無いかというとそういうわけではないとの事だった。ただし、使用者の負担が大きくて連続で使う事は厳しいと付け加えられた。

ただこの方法で移動する事が可能だと分かった以上――この機会を逃す手はないと思った。レイシアは今の状態で俺の力を封印する必要はないと言っているので、俺は自分の力を解放する事にしたのだった――

俺の力を解放した結果――周囲に暴風が巻き起こる。しかもかなり激しいものだったのだが――何故かレイシアだけは影響を受けなかったのである。もしかしたら《神滅武装》による防御壁のようなものを発動させていたからかもしれないが、俺が驚いてしまった。そんな事を考えていたら――レイシアは俺に笑顔を向けた後――俺の唇を奪ったのだ。それもかなりのディープなもので、まるで恋人同士のような熱いキスを――俺とレイシアの間で何度も交わされたのである。

そのせいで俺の方は完全に油断していたと言っていい。俺は一瞬にしてレイシアと引き離され――いつの間にかレイシアの背後を取られてしまう。ただレイシアは《空間転移》を使っていなかった。それに俺は《無効化》を全開にしているにも関わらず、レイシアに攻撃される事もなく抱き着かれたのだ。

そして次の瞬間に視界が真っ白に染まる――その眩しさに俺が眼を開けると、そこにはレイシアと同じような姿をした女性が立っていた。俺はそこでレイシアの母親――《月光の女王レイシア》と出会ったのである。

俺がレイシアの母親と会った事で色々と驚く事態になってしまった。まずは彼女が突然俺を抱き寄せた事で驚いたのだが――その直後に《完全回復薬》を使用して俺の状態を回復させようとした事に驚きを感じた。確かに怪我を負っているわけではないが、疲労が蓄積している状態では動きに支障が出る恐れがあると判断したのだ。だから彼女の判断は決して間違っていない。ただ、それが《完全回復薬》を使用するという選択肢に繋がったのかどうかという点においては、疑問が浮かんではいたけどな。

ただ、この行動はあくまでも彼女達の常識的な考え方であって、それが俺に当てはまるとは思えなかったのも確かだ。そもそもレイシアに抱かれている時は意識を失っていたわけだからな――だから俺はレイシアから解放された直後に「ありがとうございます。もう大丈夫なので心配なさらないでください」と答えたのであった。だが彼女は俺に近付いてくることはなかった。その表情は少し険しいものである。それはレイシアも同じであった。

どうやら彼女は俺に《ステータス》を見せて欲しかったようである。レイシアがそう口にする前に俺の脳裏にウインドウが表示されたのだ。それを確認したレイシアと俺は目を合わせてしまう。俺はそれを受けてレイシアの求めていたものが何なのかを理解する。そして《スキル》の画面を開くと――《状態異常耐性(強)》と《超高速治癒》を消去したのであった。ちなみにその二つのスキルは、《ヒノハヅチ鋼》で作った武器を装備する時に使用する《自動再生機能》というスキルと同じ効果を持っているものだった。この機能は神からの恩恵ではなく――レイシアの持っていた能力の一つだと言う事は理解出来た。

ただ、どうしてレイシアがそんな《超速治療》のような能力を持つスキルを所有していたかについては疑問を感じていた。この世界の人間の平均寿命はそこまで長くはなく、レイシアが俺よりも年上だとしても二十歳程度だと思われたからである。そして種族がハーフエルフだとするのならば、長寿種であるエルフの可能性も十分にありえるのだ。ただレイシアはハーフでもなければ、クォーターですらもない――つまり純血のエルフ族であった可能性が高いと言えるだろう。

まぁ俺の勝手な想像に過ぎないわけなのだが、そう考えるに至った根拠として考えられるのはその年齢と見た目の若さだ。仮にレイシアが《スキル》の影響で老化を防いでいると考えるにしても、それはあまりにも不自然過ぎるように感じられた。この世界で生きていく上で老衰による死を迎えられる可能性は極めて低いはずであり、もしそうならわざわざ《超速治療》などの《スキル》を習得する必要性がなかったからな。

つまり――レイシアの持つスキルは全て自力で習得できるもので、俺の持っているスキルのように誰かから与えられたものではないと思われる。俺の持っている《ヒノハヅチ鋼》という特殊な鉱石で作成した武具を身に着けている時に発動するものばかりだったからだ。それを考慮するとレイシアの年齢は百を優に超えていてもおかしくない。

その事を踏まえた上で、俺の中で答えは出てしまっていた。彼女の正体が何であるのか――という事をな。

それから俺はレイシアから色々な質問を受けた。何故俺の事を娘に似ていると思っていたか――とかだ。その理由としてはレイシアとそっくりの顔を持つ《竜姫》と呼ばれている女性の存在があるそうだ。彼女は人間ではない存在で――この世界の支配者でもある魔竜王の《姫巫女』であるという事だった。

その魔竜王の娘であるレイシアの母に当たるのは――魔王の《姫巫女》らしい。魔竜王とは直接会ってはいないが、何度か言葉をかわした事があるらしく、その言葉からレイシアの母親について詳しい事が分かるかも知れないから会いたいという事になったのだ。それで俺はその事を伝え、魔竜王と連絡を取る手段が無いか尋ねる。

レイシアはすぐに《念話》の魔法を使用した。そのおかげで俺達は魔竜王との《対話》が可能になった。その事で俺は更に混乱する事になったのだが、魔竜王の娘である《竜姫》レイシア=フレイヤについて知る為に《竜姫》レイシアの母親――《魔王妃》について詳しく教えてほしいと告げたのである。すると、俺が予想した通りにレイシアが《魔竜界》の城にある一室に案内される事になったのだ。そこで待っているよう伝えられたのである。

魔竜族の《竜姫》である《竜姫》レイリアは、俺に好意を抱いているようだ。それこそまるで恋焦がれているかのようでもあった。ただ俺は、彼女にその気持ちを受け入れる事は出来ない――レイシアという大切な存在がいるのでな。ただレイシアは「私は気にしませんよ。ご主人様さえ良ければお母様とも仲良くしてくだされば、嬉しいです」と言ってくれた。だから、その言葉に従う事にしたのだった。

ただその前に――俺はレイシアの母親に会いに行く為に必要な装備を作る必要がある。その為には《鍛冶》スキルを使用しなければならない。だからその旨を魔竜王に伝えて許可を得る事にする。

俺の申し出はあっさりと承諾された。どうやら俺の所持している装備品に興味を持ってくれたようだ。俺の作ろうとしていた物は魔竜王であるレイアと会うために必要な物である事を告げると、レイシアと同じように目を輝かせていたのである。どうやらレイシアと同じく、魔竜王も戦闘が好きみたいだな――俺に期待に満ちた視線を向けながら早くしろと急かして来たのだ。そして俺に要求してきたのである。それはレイシアの母親――レイシアの母親に渡すための装備品だった。レイシアの母はレイシアにそっくりで、同じ髪の色をした綺麗な人だというので一目見たくなったのである。俺はレイシアに視線を向ける。レイシアは、俺が何を考えているのかさっぱり分からない様子で戸惑っていた。

俺はレイシアが俺の妻になった事は伝えていたが、俺達がどんな関係にあるかは告げていない。それ故――レイシアが母親と会った際にどのような態度を示すかも分からなかった。ただ、俺はこの場でレイシアの母親がどんな性格をしているのかという情報を知る必要があったので――仕方なくレイシアが身につけるアクセサリーを製作する事にしたのだった。そして俺はそのデザインを考える。

デザインは俺が作ったものではなく――《鍛冶》で作り出したものになる。なのでレイシアが俺の作った物を身に付けてくれるという事になるのだ。そうなると俺がレイシアに対して特別な感情を抱いていなくとも――やはり恥ずかしくなってしまう。ただ、それでも俺は製作する事を即決した。これは俺が彼女達の為に行う初めてのプレゼントだ。そんな大事な贈り物は自分で作るのがいいと思ったのである。俺は早速空間接続を利用して作業を開始した。

そして俺は出来上がった物を確認――思わず頬が緩んでしまう。なぜならその作品は俺と妻であるレイシアを象徴しているかのようなものだったから。その作品の名前は《紅の指輪》という名前である。その名を刻むのに相応しい素材を《神眼》で探し出して《ヒノハヅチ鋼》を加工した結果――《真緋石》が出現した。その色は深みのある美しい紅色であったのだ。そして俺はこの色を目にしてレイシアと二人で過ごした夜を思い出してしまい――つい照れ臭くて赤面してしまったのだ。まぁそれだけで済めば良かったのだが――俺はこの《紅の指輪》を作ったせいもあって、《鍛冶》のレベルが上がったのである。その結果、俺はある事実に気が付いた。そしてこの事は、この後に《創造者》の力を使って新たなアイテムを作ろうと考えている時に役に立ったのである。

ちなみに《紅の指輪》には俺の能力である状態異常耐性の効果が付与されている。ただし、これはあくまでも一時的なもので――完全に防ぐというものではなかった。というのもレイシアから俺に抱き着く力が強くなっていた事から分かった事だが――彼女達の体からは微弱ではあるが、毒が発生していて、その状態で俺に触れてしまうと体に悪い影響を及ぼしてしまう恐れがあったからだ。だが俺がその事に気付かないで彼女達の体に直接触ってしまった場合は別だろう。

俺にそんなつもりはなかったのだが、レイシアは「ごめんなさい。ご主人様には私の体は悪影響なのでしょうか?」と悲しそうな顔をする。俺はすぐに「いや、そんな事はないぞ」と答えた。そして《ヒノハヅチ鋼》で作った防具や武具を装備していれば大丈夫だと説明したのだ。するとレイシアが「ではご主人様の作った武器は大丈夫ですか? もしも大丈夫ならぜひ見たいのです」と言うのであった。

俺が大丈夫だと答えるとその表情が輝く。そして《ヒノハヅチ鋼》で作った武具を見て欲しいと言い出したのだ。それで俺はレイシアからの要望に応えるべく《鍛冶》スキルを発動させた。その結果、俺はレイシアと同じような形状のネックレスを作り出す事に成功したのである。それを《収納》の中にしまい込む。そして俺はレイシアを安心させる為に「これが俺からの気持ちだ」と告げる。それを聞いたレイシアは俺に笑顔を向けたのである。そしてレイシアの瞳から一筋の涙が溢れ落ちた。

俺はこの時初めて――《鍛冶》のレベルが上がるとこんな事まで出来るのかと思ってしまった。なんと《鍛冶》スキルを使用すると――俺とレイシアとの間に絆が生まれるようになるみたいなのだ。その証なのか――俺の手の中にはレイシアに渡した《紅の指輪》と同じ形の《紅のネックレス》が存在していたのだ。つまり、これをレイシアのお母さんが装備すれば二人の想いは永遠に繋がり合うという事なのだろう。その事をレイシアに伝えると涙を流したのだ。それから二人は抱き合いお互いの存在を感じ合っていた。その様子を見ていた魔竜王と《魔王妃》がとても優しい顔になっていたのが印象的だったのである。

《鍛冶》のレベルで作れる《鍛冶師シリーズ》と《魔道具シリーズ》には違いが存在する事が判明する。《鍛冶》の熟練度を上げる事によって新たに作り出せる物が変わってくるからだ。俺の場合で説明すると――《魔導具シリーズ》と《鍛治》の二つのレベルが上った結果――様々な魔導兵器が作り出せるようになっていたのである。

その代表的な例として――俺の愛用していた大剣の刀身部分となる《天魔刀》が存在している。《魔刃王》からドロップしたもので攻撃力が尋常ではない程の高値で売れる一品だった。しかも魔属性と闇属性の魔法を付与した場合に限り特殊効果が発動して――使用者の精神力を削り取って、体力の回復が出来るという特殊な効果を持つのだ。俺は《錬成魔法》と組み合わせれば魔力回復の魔導剣を作り出せそうだと思い、早速作成を試みた。その結果――《錬魔合一》の技能で俺の体内に魔元素が溜まった事による影響で魔結晶と魔水晶の生成が可能になり、それらを組み合わせて魔魔導砲を作り出す事に成功したのである。

この魔導銃は魔弾を放つ際に使用すると精神力が削られる事なく魔法を使用できたのである。しかもこの魔法使用回数を増やす事にも成功――この魔銃をレイシアのお母さんである《魔王妃》へ贈呈する為にレイシアと一緒に魔王妃に会いに行く事にする。そしてレイシアから魔王妃に俺からレイシアへの誕生日のプレゼントを渡して欲しいと頼まれる。なので、この魔王妃用の魔魔導拳銃を渡す事になったのだ。

魔王妃はその銃を見た瞬間に俺が何を言わんとしているか悟ってくれる。魔王妃は嬉しさのあまり涙を流していた。その姿を見ていた俺も思わず目頭が熱くなる。レイシアはそんな魔妃の様子を見て自分の母親と同じように喜んでくれると思っていたのにと驚いている。それだけではなく――レイシアも泣いてしまう事になるとは思っていなかったのだ。俺はレイシアが泣く前に「ほら、レイシア。レイシアの母さんと俺があげたネックレスを見せろ」と告げてレイシアを抱き寄せたのである。

俺の言葉を受けたレイシアはすぐにネックレスを身につけて見せる。するとレイシアが魔魔銃を手放すのを確認した。どうやら《紅のネックレス》を身に付ける事で、俺との魂で繋がっている感覚を実感して、レイシアの母親である魔竜族の魔魔王妃に対する思いやりの深さを理解してくれたようであった。だからこそレイシアは泣けなかったのだと思う。魔王妃と魔魔銃とレイシアはお互いに思いやる心を持ってくれた事が本当に嬉しかったのである。

ちなみにこの魔魔導ライフル型の魔銃は《魔銃王》と呼ばれる魔族が持つ能力で、俺の所持していた《魔刃王》と非常に似ているのだが、《錬金》や《魔道具作成》などの派生スキルが存在しなかったせいで俺の《創造者》の力で《錬金術》を使用して作れなかった。しかし《神域鞄》の所持者ならば《創造神》が創り出す事が出来るようで、《魔王妃》に献上する前にこの《魔魔導砲》を量産しておいた方がいいと判断したのである。そして俺は魔銃を複製したのだ。ただ俺の作った魔導武器は俺が許可しなければ他者に所有権を移す事は不可能だったので、俺の《収納》の中へと入れ込んである。

ちなみに俺の作成した《錬金の指輪》を《鍛冶》のスキルを使って作り出そうとしたが出来なかった。なのでこの《魔武器》を作成する事は諦めている。そもそも《鍛冶》のスキルでは指輪のような細かいアイテムは作り出せないみたいである。だから指輪の形をしている物は全部、《鍛冶》で作った物になるのだ。

そんなこんなでレイシアは《ヒノハヅチ鋼》で作ったレイシアの母親のネックレスを受け取ると「ありがとうございます! 大切にしますね」とお礼を言うのであった。そして「私から母上に渡しても宜しいでしょうか?」と確認を取ってきたので了承したのだ。俺からレイシアの母親が受け取ろうとすると、レイシアは自分がレイシアの母親の手に渡そうとしたので慌てて《ヒノハヅチ鋼》で作ったレイシアと俺を模した小さな像を渡す。それはレイシアがレイシアの母親に渡したかったものらしい。そのレイシアの姿は俺が知っている彼女そのもので微笑ましかった。

レイシアの母親は俺が差し出した《紅玉の指輪》を大事そうに受け取る。レイシアはそれを渡す事で改めて感謝の意を伝える。レイシアは自分の命を助けてくれて――その後も一緒に暮らしてくれていることを嬉しく思うと伝えてお辞儀をするのであった。

それから《紅月華》が咲くと、俺は《鍛冶師》と《魔道具職人》の技能を使って《紅の指輪》と対になるように作った《真緋の指輪》を作成した。それを見たレイシアとレイシアの母親は感動の余り言葉を失っている。それから俺達は二人に《緋のネックレス》を手渡した。レイシアに渡すとすぐに身につけてくれる。そして「この指輪には特別な効果があるんです。ご主人様が私達を守ってくれているという気持ちを感じる事が出来るんですよ!」と言って笑顔を浮かべる。そんなレイシアの頭を優しく撫でた。そして《魔眼王》と《魔王》にレイシアのお祖母ちゃんと叔母さんのレイリアを紹介した。そして俺はこの二人が《魔武器》を所持していて、この武器の製作者が俺である事も伝える。すると《魔武器》の話をすると二人は驚いた顔をする。

それから俺達は魔竜王が用意してくれた《ヒノハヅチ鋼》で作られた豪華な客室に移動すると話し合いを開始する。まずはこの国と周辺の国々に関しての情報収集から始めようと思う。俺は《神魔図書館》で情報を収集しようとしたが、俺自身がまだその知識量に慣れていない事から上手く機能しなかった。

俺はその事を素直に伝えると二人は少し残念そうな顔をする。そこでレイシアが俺からもらったネックレスを握りしめながら、俺の為に色々と頑張ってくださって本当に嬉しいですと頭を下げてきた。そして《緋のネックレス》の効果を教えて欲しいとレイシアに言われるのである。それを聞いたレイシアは俺がレイシアの両親に贈ったのと同じ《天魔刀》と《錬魔刀》を作り出す事に期待していると教えてくれた。俺は早速その作業を開始した。その作業中レイシアと魔魔王妃にレイシアの両親の事を聞くと――俺とレイシアの両親が魔竜王と知り合ったのは約千年前の事だと言うのだ。レイシアが今でこそレイシアという名前なのだが――当時のレイシアの名前は不明であり、当時は魔人族の王族が代々引き継ぐ名前が与えられていたと教えてもらった。つまりレイシアという名前は初代国王の名前がレイティアから名付けられた名前だったらしい。つまりレイシアがレイティアの娘である事には間違いがないみたいなのである。

そして二人の名前は魔魔王妃の方がミレアナで魔王妃の妹に当たるようだ。その姉妹は双子で生まれて来たそうだ。しかし双子の片方は病弱な女の子だったために生まれてから数年も経たずに他界してしまう。それが魔竜王様が魔魔王妃を溺愛していた理由でもあったのだ。しかし残された妹――レイリアにも同じ名前の名を与えていたのだとか。ちなみにレイアは俺の予想通りの転生者で、レイラという前世の俺の妻が産んだ一人娘のようだったのだ。彼女はレイシアと同じくレイリアが産んで育てていたようである。レイシアはその事にとても驚いている様子であったが、俺は納得した。なぜならば《魔剣王》や《剣聖王》のようにレイリアにも《剣王》の称号を持っていたからだ。しかもレベル1で――レイシアよりも強い可能性があるのではないだろうかと思えた。レイシアはその事に対して驚きを隠せないでいた。どうやらレイシアが持っている魔眼は特殊らしく、相手の持つ称号を確認する事が出来る魔眼で――魔魔王妃の魔魔眼と比べると遥かに劣っているようであった。

ただレイシアの場合は相手が魔竜族の中でもかなり上位に位置する魔竜王であったため《竜姫の魔瞳》を持っていなくても確認する事が可能だったようなのである。それに魔竜王妃はレイシアの母親でもあるため、レイシア自身も母親と同等の力を有している事になるらしいのだ。だからこそ、その魔王妃が認める存在であるレイシアに興味を示して魔魔王妃が自分の元に招き入れたというのが、この屋敷に滞在する経緯になったようであった。

それからレイシアは俺と出会った後の出来事を語り始めた。それによると、魔竜王の《魔城》と呼ばれる場所に魔王妃とレイシアはいたのだという。そこに突如、空に現れた《門》が出現してその中から一人の男が現れたのだ。その男は魔竜王に「俺と一緒に来るなら魔竜王としての力を与えてやるぞ」と勧誘してきたらしい。そして魔竜王はレイシアのお母さんである《魔王妃》を護りたかったのと魔竜王に忠誠を誓う事が出来なかった事もあり、その場で《魔刃王》と《魔拳王》と名乗る存在を召喚して戦いを挑み始める。その結果は相打ちに終わったのだとか。

魔刃王は圧倒的な強さを誇り、魔竜王妃ですら苦戦するほどの存在で、更に魔刃王の連れてきた二人の少女――《竜騎士》と《戦乙女》の二人はそれぞれ《剣帝》と《魔将軍》の力を持つ凄腕の戦闘者であった。魔刃王が本気で暴れたらレイシアもレイシアの母親である魔王妃も魔竜王も簡単に倒されていた可能性が高かったのだ。しかし、そんな時に現れたのは魔刃王を上回る戦闘力を持つ《魔王》を名乗る存在であった。魔魔王妃から聞いていた特徴が当てはまる人物だったので、魔刃王もすぐに《魔王》の正体に気付いたようだったが魔刃王と魔王の会話で魔刃王の方が不利に見えたので加勢に入る為にレイシアが魔刃王と魔王に攻撃を仕掛けたのである。結果は引き分けになりお互いに大きな怪我はしなかったらしい。そしてお互いに戦いをやめて話し合う事にしたのだと言う。その際に魔刃王と魔王は互いに「いつかまた会おう」と言い残して去ったらしい。

それから魔魔王妃は傷を癒すためにレイリアと共にしばらく安静にしていたらしい。その期間の殆どをレイシアとレイリアの兄妹がこの魔城に世話になっていたのだとか。ちなみにレイリアに子供が出来ない理由は妊娠能力に問題があったのではなく、子供を産むための卵子を生成出来なかったからだという。そしてそれは、その当時の魔竜王である魔刃王も同じだったみたいである。ただ、その事実を知ってレイリアは絶望に打ちひしがれてしまったのである。

そこで魔魔王妃は魔竜王の伴侶である自分にしか生めない子供は魔竜王の後継者になれると思い、《真紅の宝石》の《紅玉》を飲んで出産を行う事にしたらしい。魔竜王が《魔武器》を作る事に成功したように《紅の魔玉》を使って新たな《魔器》を作り出そうとしたのである。そうする事によって《魔剣》や《魔杖》と言った特別な《武具》を生み出し、それを持って魔竜王の補佐を行える者が生まれる事を願い、その行為に及んだ。結果として生まれたレイシアこそが後継者に相応しく、レイシアは自分が選ばれた事に喜んだ。

そしてその数年後に生まれた魔魔王妃とレイリアの二人は魔剣王の力を授かったレイラと言う名前を貰ってから数年間、普通の人間の夫婦と変わらず幸せな日々を送っていたという。だが、ある時から自分達の一族の秘密を知った何者かがレイシアの命を狙うようになった。それを知った両親は魔剣王にレイリアを託して自らを犠牲にしようとしたのだが、それを止めたのが妹のレイニアであり、彼女はレイナを連れて自分の身を隠したのだと話す。その後、レイシア達は隠れ住むようにして暮らしていたようだ。しかし、そんな生活を長く続けていくわけにはいかないと理解したレイシアは両親の仇を取る為の旅に出る決意をしたのだと説明してくれる。そんな時にレイシアの前に現れたのが魔竜王であった。魔竜王は「俺と一緒なら世界を手に入れられるぜ! そしてお前にはその資格があるんだよ!」と声をかけてきたらしい。

レイシアは自分の気持ちと両親から受け継いだ使命の間で悩んでいたらしい。しかし、最終的にはレイリア達と別れてレイシアだけがこの《魔竜王》の元で暮らし、いずれ《魔眼》の力が目覚めた後に《魔剣》と《魔杖》の使い手である者達を配下に加える事を条件に旅に出ようとした。

そこで《緋の指輪》の《真緋の指輪》が発動する――

そして魔竜王妃の《魔刃王》と《魔拳王》に、レイシアのお祖母ちゃんで《竜王妃》のレイラの二人が現れる。

俺はレイシアの口から聞かされた魔竜王妃と《竜姫》の話を聞き、俺自身が考えていた通りだったと確信を抱く。

まず間違いなく俺が出会った魔竜王もレイシアと《魔竜王》の子孫だと思われる。

俺がこの世界で初めて魔族と戦った場所――《竜の里》の地下に眠る遺跡で《緋の宝剣》を手にする前の俺は【魔眼の王】と呼ばれていたが、その称号は俺が魔竜王と戦う際に使っていた称号なのだ。恐らく《真緋の魔眼》を持っていた魔竜王を倒す事が出来れば俺が魔族の中で一番優れた称号を得る事が可能だったはずなのである。だからこそ俺はレイリアに《魔眼の王》の称号を与えた。そして彼女が魔竜王に戦いを挑む事を決意した時にレイラをレイシアに託したのだ。そしてレイリアが魔竜王を打倒する事に成功していればレイシアが《魔瞳の勇者》という特殊な力を得て、この世界に魔王が誕生する可能性があった。つまり俺にとってはレイシアの両親が魔竜王と戦い、魔竜王妃が《緋の宝珠》を作り出した事が全て繋がっていた事になるのだ。

そこで俺は《緋の宝剣》の使い方を説明する前にレイシアに質問をする事にした。まず魔竜王とレイシアの母親の出会いと関係性を教えて欲しいと告げたのである。レイシアも俺の意図に気づいたようで真剣な表情で説明を始めてくれた。その話によるとレイティアが魔竜王に出会った時期は《魔城》に辿り着いた時ではなく、それよりも前――まだ魔竜王妃と出会う前から魔刃王との戦いが始まっている時期になるようだ。どうやら《竜の里》と呼ばれる場所でレイシアは魔竜王と遭遇したようだ。その時に魔竜王に一目惚れしたレイシアは必死に口説き、その熱意が通じたのか結婚する事が出来たようである。その話を聞いた俺はかなり意外だった。魔竜王のような男が一人の女を愛するような事があるとは到底思えなかったからである。

レイリアはレイシアの母親でもあるが魔刃王の妻でもあったという。その為に彼女は魔竜王妃に《竜王妃》の称号を授けたのかもしれない。それに彼女達の母親同士が同じ一族で、姉妹だったというのも理由のひとつであろう。そもそもレイシアの両親は魔刃王とその側近と敵対関係にある存在で――そんな相手が娘を差し出した事でレイシアの父親が魔竜王の側近になったのではないだろうかと考える事が出来たからだ。

ただここで重要なのはこの世界では近親婚は禁忌の類に属するので絶対にやらないほうがいい。なぜなら血が濃くなる事で病気になったりする危険性が高くなるし、生まれた子供は身体が弱いか、普通よりも異常に強くなるかのどちらかになる場合が多いらしい。ただ例外も存在していて、それが魔竜王や《神魔竜》と呼ばれる存在であるとの事であった。魔刃王も魔拳王もこの世界の基準で言うとかなりの強者であるらしく、特に魔拳王は魔刃王が認める程に実力が高かったようではあるが、レイシアの両親は魔竜王の方が上だと感じているそうだ。

ちなみにこの《魔竜王》というのはレイシアの先祖である初代魔竜王が付けた名前であって本来の名ではない。魔竜王が人間だった頃の名は《魔刃王》といい、その名前の通り刃を操る力を持った存在だったのだと言う。刃王はその力で数々の魔物を倒して英雄と呼ばれ始めていたが、ある日突然姿を消したのだという。それからしばらくした後、刃王を《魔竜王》として蘇らせたのが魔竜王妃だったという。その事によって魔竜王は更に力を蓄えることが出来た上に《紅玉の宝剣》を手に入れた事で魔竜王は更なる進化を遂げたのである。その結果としてレイシアの母親達が命を落とす結果となったのだ。レイリアがレイシアから聞いた情報はそこまでだった――しかしここから先を語るのはまだ躊躇われる内容だという事なのでレイシアが《真紅の魔玉》を使って作ったレイシアの《魔剣》を俺に渡しながら言う。

「レイナ様、私も貴方と一緒に魔刃王と戦わせてください」

俺は真剣に頼み込んでくるレイシアを見てすぐに返事をする。レイシアと一緒ならばどんな敵であろうと勝てると思ったからこそ、俺は迷う事なく答えたのである。だがこの場で戦う事は出来ないだろうと考えていたので、とりあえずは一度レイシアの自宅に戻ろうかと考え、彼女の自宅へと戻ったのであった――

《レイシア》が《魔剣》を作り出してから数分が経った――その時間が経過しても彼女は《緋の宝剣》を作り出す事に苦戦しているように見えた。そんな彼女を見ていた俺はある疑問を抱き、彼女にその事を問う。その事とはレイシアの持つ《真緋の魔玉》の力である。魔竜王が持っていた《真紅の宝石》と《紅玉の魔武器》が作り出した武器を俺は所持しているが、《真紅の魔武器》は使用者と意思疎通が可能な魔武器なのだ。ただその事をレイシアは知らなかったようだ。その事を教えると彼女は驚き、《真紅の魔剣》を作り出したのだと話す。

《真緋の宝剣》は魔竜王が持つ《真紅の魔剣》と同じく、その所有者の意思と同調する事で能力を発揮する魔剣であるのだが、レイシアが《真緋の魔玉》の力で作り出したレイシア専用の《魔剣》の場合は、魔竜王と違って持ち主の身体能力を向上させる能力があるのだと説明した。レイシアが俺の為にと《真緋の魔剣》を作ってくれた事に嬉しさを感じると同時に心強さを感じずにはいられなかったのである――

俺はレイシアにこの魔剣を使いこなせるのかどうかを確認しようと話しかけたのだ。その問いかけに対してレイシアはとても真剣な顔をしながら答える。それは《魔剣》を扱えるかどうかではなくて、俺を守る為に全力を出してくれると言う決意の現れなのだろうと俺は思った。だからこそ《真緋の魔剣》を手にした瞬間に、レイナと《神魔竜》の姿が頭の中に現れたのだと考えるようになったのである。俺はレイシアと共にこの《魔竜王》と《魔城》の探索を始めると決意するのであった。そして俺達は魔竜王と戦う覚悟を決めるのである。

俺達は《魔竜王》を倒すべく行動を開始する。まず最初に行うべきなのは魔城の構造をしっかりと把握する事である。魔竜王がいる部屋まで移動するのに時間がかかれば掛かるほど、奴の眷属と戦闘を繰り広げる回数が増えるからだ。その為にも魔竜王がどこにいるのか、それを知る必要があり、その為には魔城の構造を把握しなければならかった。そこで俺達は手分けして城内を調べる事になった――まず俺が担当するのは宝物庫である。《神器》が眠っていたとされるその場所を調べなければならないと考えたからこその選択だ。ただこの選択は正解だと思っていて、もし《真緋の魔剣》があるのなら魔竜王を倒せる可能性がある唯一の方法になるかもしれないと思っていたからである。

俺の担当となったこの部屋の前には二体の魔族が立ちふさがっていたが、この程度の相手なら全く問題にならない。何故ならば俺は魔竜王との戦いでこの剣の凄さを身を持って体感していたからだ。この魔剣が放つ力は他の魔剣と比べ物にならず、魔竜王との戦いの中でレイシアと魔刃王の戦いを見守っていた時に《真緋の魔眼》の視力強化を使用してレイリアの動きも確認する。そしてレイリアが魔竜王の心臓部分を貫き倒した直後に、魔竜王に《真緋の魔眼》を発動させると、魔竜王は絶命する前に魔竜王妃を呼び出して自分の後を任せると告げていた。

その場面はレイシア達からも見えていて、彼女はレイリアが自分に任せてくれた事に対して感謝の意を伝え、《魔城》を脱出する為に魔刃王の配下と戦う道を選ぶ。レイリア達の目的は魔竜王と魔刃王を殺す事であり、この城に用はないのだ。そして《真緋の魔眼》の能力が発動した事で俺がレイリアの本当の姿を認識する事が出来た。つまりレイリアが魔王の始祖である《魔王妃》で魔竜王の愛人であるという事が分かったのだ。レイリアに《真緋の魔剣》を渡す事で、レイリアに《緋の宝剣》を持たせる事に成功した俺は、レイリアの案内に従い、彼女が魔竜王と死闘を繰り広げた場所へと向かう――

俺が《魔剣》の力を使う事が出来ると判明したのは《真緋の魔玉》を手に入れてから三日が経過した頃の事である。この数日間、魔竜王を捜索しながら俺は《神魔竜》の情報を色々と集め始めた。《魔竜》や《神魔竜》という称号が存在する事は以前から知っていて、《魔刃王》が《神魔竜》の加護を受けていたり、魔刃王が神格化した存在である《竜神》と戦ったりしている事実は、この世界に来て間もない頃にレイシアの父親であるアルスレイド=ドラクロアから聞いていた。だからその事は別に不思議ではないのだが、その言葉だけでは分からない事も多く存在していたのだ。特に《魔竜王妃》と呼ばれる存在の事だ。

《魔竜王》の妻だったと言われている魔王妃は魔刃王との間に子供がいなかった。その事に魔竜王はひどく落ち込んでいたらしいが、ある日、魔王妃が妊娠したという知らせが届いたのだと言う。そして魔竜王はその報せを聞くと魔王妃が出産するまで《竜里》と呼ばれる《竜の楽園》にて生活をしていたのだという。しかし魔竜王が竜王妃の元に辿り着いた時には既に竜王妃は死んでいた。その時に魔竜王は魔刃王との激闘を繰り広げており、その際に負った傷が致命傷となってしまい死亡したのだ。

だが《魔竜王》の死後に《竜王妃》の称号を受け継いだのは魔竜王の側近だった魔拳王だったとされていて、この情報を聞いた俺は、この世界は《神魔龍》と呼ばれる上位の種族が支配する領域にあるという事を確信し始めていた。《神魔竜》という存在がこの世界の支配者なのだとしたら魔竜王もその存在を知っていた筈である。その事はレイシアの父親が魔竜王から聞かされていたそうだからな。魔刃王もこの世界の創造神である《全知の神》と繋がっている存在だった事から考えると、この世界で最上位の存在と言える《神魔竜》が魔刃王の存在を知らないとは思えない。それに俺は魔刃王と《神魔竜》が戦ったという事実を聞かされた時から《神魔竜》が魔刃王よりも強い存在だと予想していて、その考えが当たっていると確信したのである。

ただ俺はここで魔竜王の実力が《神魔竜》よりも上だと考える事はなかった。確かにレイシアの話だと魔竜王は最強クラスに強いのかもしれないが、あくまでもその実力は人間の基準ではあるからな。ただレイリアの言葉から魔竜王と魔刃王は魔竜王の方が強くて強かったのだと理解は出来ているのである。

「――どうやらここは地下のようだね。それで君から見てここに何かあるように見えるかな?」「いえ、何もありません。おそらく魔竜王が使っていた部屋なのかと思います」

俺が宝物庫の中を調べると魔刃王によって破壊された跡があり、そこに魔竜王が残していった武器が存在していた。この宝物庫の中には多くの武器が存在し、《真緋の魔剣》のような伝説級の武器は存在しないが、それなりに使える武器も置かれていた。その事をレイシアに伝えると彼女は興味津々に武器を手に取る――

その事がきっかけで俺達は魔剣使いとしての力をある程度ではあるが把握出来るようになる。魔剣には属性が備わっており、《緋色の宝剣》は火の力を持つ。それに対して《魔緋の宝剣》の方は全ての力を扱う事が出来るようで様々な力を引き出す事が可能になっていたのだ。これは《真緋の魔玉》による恩恵だと考えられた。《真緋の魔玉》が所持者に火、水、風、土、氷、光、闇という全ての属性を持つ能力を与えてくれるからだ。

俺とレイシアはこの宝物庫を調べ尽くしたところで次の部屋へと移動を開始した――するとその途中で二体の敵が現れた。その魔族は俺達をこの魔城の主と判断をしたのか襲い掛かって来たのだ。魔族の名はダークネスとデスロードと呼ばれているらしい。この二人が魔竜王の部下だったのは明らかだろう――

この魔族二人は魔竜王に絶対的な忠誠を誓っていたようであり《緋の宝剣》で斬りかかる俺に対して抵抗してきた。だが《真緋の魔玉》の恩恵を受けられるようになっていた俺には二人の攻撃を捌く事は難しくなかったのだ。

そして俺が攻撃を続けるうちに《真緋の宝剣》が相手の肉体を完全に切断してしまう。その事を知ったレイシアはとても驚きながら俺を見つめてくる。《緋色の魔剣》が放つ威力に驚いているようだ。それは当然の反応である。今までは剣が勝手に相手を切り裂いていただけなのだが、今は俺自身が魔剣を使って戦っている。この差はかなり大きいとレイシアも感じたようである。

そんな会話をしつつ俺達は《魔城》の最下層と思われるエリアへ辿り着くとそこで巨大な扉を見つけた。そして俺達は扉を開くべく、扉に触れようとするとレイシアが制止した。どうやらレイリアに心と意識の接続を行うつもりのようだ。そうしないと魔竜王の部屋に入るのは危険だと判断したようである。俺は素直に従って待つことにした――

レイリアの心に接続し終えたレイシアはすぐに自分の心に語りかけ、自分の心と精神世界を繋ぐように伝える。レイリアは自分が今、どこにいて何をしているのかを確認すると、彼女は《魔城》の奥深くまで《真緋の魔竜》と共に入り込んでいる事が判明する。それを確認したレイリアはレイリアに《緋色》を手渡すように指示を出した。この指示は《緋色の宝剣》の加護によりレイリアを死から守る為である。そして彼女は魔竜王を《緋色の宝剣》の力を借りて倒し、この《魔城》を脱出する事に決める。レイリアの決意を感じた俺とレイリアが《真緋の魔剣》の力を借り、この魔竜王の城から脱出を試みるのであった――俺は魔剣の力を試したいというレイリアに頼まれて剣を貸すと、レイリアは《真緋の魔竜》が眠っているとされる場所へと向かった。そして《緋色》を手にしたレイリアに《緋の魔竜》は話しかける――

《我を呼ぶ者は貴様か。何用があってこの地に舞い降りた?》 レイリアは《緋の魔竜王》を呼び出してしまうと、その声が魔城にいる者全員に伝わるような大きさになりレイリア以外の全員が驚く事になる。そんな中でも《緋の魔竜王》は特に驚いた様子を見せずにレイリアに対して問いかけていた。この事に俺は違和感を抱く。魔竜王と《緋の魔竜》は敵対関係にあった筈なのに何故、《魔竜王妃》であるはずの彼女が魔王である筈の存在に対してこんな態度を取っているのだろうかと思ったのだ。しかも彼女の言葉遣いは明らかに上からのものである。普通に考えて魔王に対してこのような言葉を遣うなど考えられない事なのだ。だが《緋の魔竜王》はそれに関して咎めたりする事もなく話を続けようとしたのである。そしてレイリアは《真緋の魔玉》の力でこの場所にたどり着いた事を伝える。《真緋の魔玉》の事は魔竜王に説明していなかったが、魔竜王は《真緋の魔玉》の能力を把握していて、その事は知っていたようだ。ただレイリアに渡すのは危険であると考えていたようだ。なので《真緋の魔竜王》はレイリアに対して、《緋色》を渡さないように説得を始める。この様子はまるで、娘を思う親のようにしか見えなかったのだ。レイシアから聞いていた話からは想像が出来ない程に――

(どうしてなんだ?レイシアからはあんな話を聞いたっていうのに。それに今の二人の様子をみる限りレイリアは《魔竜王》の子供ではないんだろう。だったら一体、どういう関係だって言うんだよ)

「レイティアが魔竜王に刃を向けた理由は、レイリアの為にやった行動だという事は理解出来たわ。レイティアの行動を止める事は出来なかった。そして私が死んだのも私の所為よ。だけど私はあなたを恨む気はないの。だからお願い、レイティアを解放してあげて」

レイリアは必死になって訴えかけると《魔竜王》の瞳から涙が溢れ始める――そしてレイリアに向かって謝罪の言葉を口にしていたのだ。どうやら《緋の魔竜王》はずっと後悔していたようだ。愛する人を死なせてしまった事を――俺にはまだその理由がはっきりとは分からないが、きっとこの《魔竜王妃》は愛に生き過ぎた女性だったのだろう。その結果、魔竜王が死んでしまった時にレイリアの事を守る事も出来ずに殺されてしまい、レイリアスの体の中に乗り移った後に《真緋の宝玉》でレイシアに体を支配されるのを防ぐ手段がなかったのだと思う。だからこそレイリアの中にいる《緋の魔竜王妃》は魔竜王を裏切る事が出来なくなってしまったのだ。そして、レイシアによって魔竜王との記憶を奪われた彼女はその悲しみによって、レイシアへの復讐心を抱いたまま死ぬ事を選んだ。レイリアに憑依したのは魔竜王の魂の残留物だと言っていたが、その本当の目的は、レイシアを殺す為に魔竜王は最後の力を使った結果なのかもしれない。つまり魔竜王の力はレイシアに宿る事になったレイシアの力を上回るものではなかったのだと俺は考える――ただそのレイリアがレイシアを倒せる程の実力を持っていたら話は別だがな。まぁ、その場合は間違いなく俺が殺される運命にあると思うが――

ともかく俺が魔竜王について考えている間にレイリアと魔竜王との話し合いは決着し、魔竜王から渡された魔玉を手にレイシアはレイリアの精神体と入れ替わるのだった。そして魔玉が発動するとレイリアの体が光に包まれる――その直後だった。俺の全身が光だし始め俺に異変が起きた事をレイリアに伝えてくる。だがそれはレイリアも同じようで彼女は焦っていた。どうやらレイリアの体に俺の力が流れ込むとレイリアの体が耐えられなくなる可能性があったようだ。だがレイリアは自分の身を犠牲にする覚悟を決めていたのか、レイシアの体に俺の力が流れ込んでしまう事を受け入れたようだった。

レイシアはレイリアの状態を確認すると《真緋の宝玉》を使用して彼女の精神体を分離させようとしていた。俺はその様子を見ている事くらいしか出来なくなっており、レイリアが自分の意識を取り戻すまでひたすら待っているとレイシアの方の準備が整ったようだ。

俺の意識はどんどん遠くなっていく――俺には今の状況を把握する事が出来ないでいた――

《お主の魂が限界を超えて砕け散りそうだ!すぐに肉体と意識を切り離したい!早くこちらに意識を移し替えねば危険じゃぞ!?》 俺の頭の中で《魔城》に住む住人の声のような何かが響いてくる。そのせいで俺はまともに動く事すら出来ないでいたが、突然レイリアの姿が現れて、俺の手を掴む――その光景を見て《魔城》の住人達と俺が驚くのだがレイシアだけは驚いていなかった――

《レイラ、後は頼みました》 《はい。わかりました。必ず助けます》 レイシアの意識と入れ替わった《真緋の宝玉》の力でレイシアの体に移った《魔竜王妃》の霊が《緋色》を通して語り掛けて来た。

《頼む、我をここから解放してくれぬか?そうしなければ我もレイリアと同じ末路を迎える事になる》 《私があなたの力を吸い尽くせばレイリアさんと変わらない状態になりそうですね》 <<それは大丈夫です。《緋色の魔剣》の力と《緋色の魔玉》を融合すれば《魔城》に巣食う呪いを完全に断ち切れる筈。それに成功したならレイリアは無事に戻ってくるはずですよ>> 《ありがとう、我にはもう頼るものが貴女以外には残っていないのだ。どうかこの世界に存在する魔竜族の全ての者達に、我が子らに伝わる言葉を授けてくれ。魔竜族は滅びる事になるのかもしれんが――それでも我らの願いが届けば再びこの世に生を受けることが出来るやもしれん》 《分かりました。あなたが私を救ってくれたという事に変わりはありませんからね。この世界を滅ぼそうとしてきた魔竜王の眷属である魔竜族の末裔を助けるのは、レイシアとして生きる事を決めた私の責務でしょう》 そうしてレイリアは、《魔竜王妃》の願いを聞くとレイシアの心を通じて《緋色の魔玉》の加護を発動する。それによって魔竜王妃は光の粒子となり消えていくのであった。その緋色の宝剣の魔力を吸収したレイリアは《真緋の宝玉》を媒体にレイリアの精神と《緋色の魔玉》を融合させたのであった。これによって魔竜王と《緋色の魔竜王》は消滅する事となる。レイリアに《真緋の宝玉》を託すという事だけが残ったのだ――そして《緋色の宝玉》をレイリアが手に入れた事によりレイシアの体からレイリアの精神と《真緋の宝玉》を分離する事に成功する。そしてその瞬間に俺は自分の体が徐々に薄くなってき始めている事に気づく――そして俺はこの世界での最後の時間が訪れるのを実感した――

《ご主人様、最後に聞きたかったのですがどうして私の体を元に戻そうとしたのですか?このままでも別に問題はなかったと思いますが》 レイシアの言葉を聞いた俺は笑みを浮かべてこう答える。

「レイシアは魔竜王が生み出した存在なんだろ?レイシアの中には確かに《魔竜王》の意思が残っているのかもしれないけど、やっぱりレイシアの事は《俺の妻》だって言いたいんだよ。俺にとってのレイシアの代わりなんてこの世界に存在しないんだからな」

《――ッ!?――///―――っ!?》 その言葉を聞いて、レイシアの顔が一気に赤くなっていく――どうやら照れているようだ。

そんなレイシアを可愛く思いながら俺は《魔城》にいる魔族達の方を向き、最後になるであろう言葉を告げようと――

(ああ――そっか。これで終わりじゃないよな。俺の人生が本当に始まったのはここからだったじゃないか。ここで終わったと思ったらダメだよな。これからが本当の始まりってやつなんだろう)

俺はそこで、この世界に来て初めて心の底から笑い声をあげるのだった。

俺の目の前には真っ白な空間が存在していた。そこに現れた人物こそこの異次元の世界を生み出した神なのだ。その姿を俺は見つめる事しか出来なかったが、俺の考えが正しければ、その人物は女性ではなく男性の筈である。というのも彼の外見が俺のイメージ通りの見た目をしていたからである。彼は黒髪に中肉中背の身長をしている。

その男性は俺の視線に気付くと口を開く――

『おめでとうございます、勇者様』

男性の声は透き通るように美しく、そして心に染み込むように聞こえてくるものだった。

《私は創造の神であり全能を司る者。まずはここまで辿り着いたあなたに感謝を申し上げましょう。よくぞ私の作ったこの世界を最後まで生き残ってくれました。心より感謝申し上げます。そして心より歓迎させて頂きますよ。新しい世界の来訪者であるあなたに――さぁ、この世界での出来事は全て忘れてしまいなさい。次に目が覚めた時には、全てを忘れてしまう事になるので》

「ま、待ってくれ!」

思わず大声で制止してしまった俺だが、神様の方は落ち着いた口調のまま答えてくれる。

『まだ何か疑問がありましたか?』

「ここはどこだ?」

俺は真剣な表情になって質問をした。この場所にたどり着くまでに、色々な出来事があったせいで俺は混乱してしまっているようだ。

その様子を感じたらしい創造神の男は微笑むと、優しい眼差しをしながら俺に話しかけてきた。

『落ち着いてください。何も不安を感じる必要はありません。今すぐあなたをお送り致しますから。では目を閉じてください。ゆっくりと心を落ち着けてから、再び瞼を開いてみるとよいでしょう。そうした時がきたらまた会うとしましょう。その時は今回の事を覚えてはいないでしょうがね。あ、それから言い忘れていた事が一つありまして――あなたはこの世界に来れたのは運が良いですけれど、他の人はそうではないんです。この世界に辿りつけたのが幸運かどうかは――今の段階では誰にも分からないんですよ』

意味深な言葉を残しながらも創造の神と名乗る男はすぐに姿を消してしまった――だがその直後の事――

【スキルを二つ手に入れる事が出来るよう設定しました】

唐突な音声が頭の中に流れ込んでくる。

《魔剣の所持者がスキルを獲得出来るよう設定を弄らせてもらいました。魔剣のステータスを確認しておいてください》 続いて聞こえて来たのはその言葉。そしてすぐに俺の意識が遠くなり始めた――だがそれは今までに経験したことがないような不思議な感覚。俺が今体験しているこれは一体何なのか?そもそもなぜこんな状況になっているのか?全く理解出来ないまま俺の意識は完全に失われる事になるのだった――

『魔王、あの者はどうなったのだ? 我が力を使い、完全に消滅させたつもりだったのだが、何故あやつは今も生きている? そればかりか、先ほど感じ取った魔力は――

いかん、急がねば取り返しのつかぬ事になってしまう!』

――――

――

俺は意識を取り戻す。俺は自分の肉体に戻って来た事を確認出来た――その途端に、俺が身に付けていた鎧が全て弾け飛ぶと、代わりに服だけになった状態で俺の前に現れる。その服を着ていたのは――紛れもなく《緋色の魔剣》。つまりは俺が装備していた防具は《緋色の魔剣》の力によって作られたものだったという訳か。俺はそう考えつつ《真緋の宝玉》を使って魔剣のステータスを確認した。

<魔剣名称:緋色の魔剣>

所有者:

レベル:153/100

詳細内容:魔剣。魔核を破壊する事で発動する魔剣の能力が凄まじい破壊力を持つ。この世界には《固有武器》と呼ばれる存在があるのだが、それがこの魔剣だった。この魔道具は使用者を強化させる事に特化しており、魔石から魔力を吸収させることでその性能を高められるようになっている。この魔剣の所有者として選ばれるのは一万年に一人の割合でしかない為、所有者となった者は魔族の領域内で一生を過ごすのが常となっているのだが――この剣の所有者として選ばれた者は世界を滅ぼす程の災厄を呼び寄せるという言い伝えが存在するため、所有者を選定する事が禁じられているのであった。しかし魔剣は一度起動してしまうと持ち主を魔族の中から選び、魔族の肉体と魂を崩壊させながら成長を続けていき最終的に破滅をもたらすと言われている。

魔剣の説明を見た俺は思わず顔をひきつらせる事になった。確かに俺が持つに相応しい剣であると言えるかもしれないが、明らかに俺とは不釣り合いという感想を抱いてしまったからだ。それに――魔剣を目覚めさせると世界を滅ぼしかねないと言われても俺は納得は出来そうになかった。

(だけど俺の力を吸い上げて成長し続けているんだろうな。そのせいもあってか魔族達を殺し回っているのは事実だし、それを止めるために俺が戦う事に意味があるのかもしれない)

魔剣を手にしてそう考えていると、レイシアの体に異変が起き始めていた。彼女は苦しそうな表情を浮かべると、その場に膝をつきそうになりつつも必死に耐えようとしていた。

「ご主人様、この体はもう保ちません。私の中の《真緋の宝玉》が完全に覚醒してしまいました」

「それは大丈夫だよ、《緋色の魔玉》とレイラが融合したからな。その力が魔竜王からレイシアに乗り移っているんだろ?」

レイシアの言っている意味を理解した上でそう答えると、俺達はそのままレイシアの部屋に向かって移動した。そして《緋色の魔玉》から《緋色の魔剣》へと変化した魔剣と《真緋の宝玉》を融合する――すると次の瞬間、レイシアの体を黒い霧のようなものが出現し包み込むとそのまま消え去ってしまった。

その後俺は《緋色の宝玉》を握りしめると、レイシアの気配を探し始める――その作業に集中する事によって俺は《緋色の宝玉》の力で俺とレイリアの《心》を接続したのだった。それによりレイリアの居場所が分かりレイリアの心の中に移動する――そのレイリアの心の中では魔竜王との戦いが繰り広げられている真っ最中だった――

レイリアの心の中にやって来た俺の視界に魔竜王の姿が映った。その姿が見えた事に俺は驚く。

「魔竜王はどこに消えた!? まさか逃げおおせたとでも言うつもりなのか!?」《――違う!》 魔竜王はレイシアが作り出した《闇黒竜の魔槍》を手にした状態で叫ぶ。

「お前の負けだ。その女が死ねば全てが終わるというのに、なぜ抗おうとする?」

《まだ終わらないからだよ、魔剣の主よ。私を倒したければ倒せばいい。それでこの戦いも決着が付く。だがな、私が負けた時に失うものは全て覚悟した上で挑んでこい》 俺の目からは二人の感情がはっきりと見て取れていた。二人共心の底から真剣に向き合っている。だからこそこの二人はお互いに認め合う事が出来るのだろう。そんな気持ちを抱く俺の前に、新たな光景が広がったのだった。

俺の目の前に広かった景色、そこには俺の仲間達が揃っていたのである。

【名前】

斉藤壮馬 【年齢】

19歳 【種別】

人間 【状態】

冷静沈着 【レベル】

15 【体力】

10800/10800 【魔力】

11000/12000 【攻撃力】

B+++ 【耐久力】

A- 【素早さ】

D+ 【知力】

C 【ランク】

E− --------

●攻撃魔法系スキル(E)

『風属性魔法の適性』『水球作成』

--

『土柱壁の作成』×1『地礫の操作』

--------

○補助スキル系スキル

『能力強化系のスキル』

●支援スキル系スキル(D〜B)

『鑑定眼の強化』『高速詠唱の効果強化』『詠唱短縮の効果強化』『MP消費軽減効果強化』『回復速度上昇効果強化』『敏捷強化』『魔力制御補正強化』『投擲時の攻撃力補正強化』『アイテムボックスの機能拡張機能』

●探知&探索スキル系

『空間認識の拡張』

○索敵系スキル系

『気配感知の拡張』『魔力操作補正による魔力探査の範囲の拡大』

-----

『隠密行動による潜伏範囲拡大』

×特殊スキル

『真紅の瞳』(使用不可中→使用可能)

●耐性系

『物理抵抗力』

---

『精神影響に対する抵抗力』

---

『自然影響に対する抵抗力』

『光への抵抗力』

-----

〈装備一覧〉 武器 《緋炎の魔杖》《緋光の魔盾》《緋焔の魔弓》 →装備解除しました。

防具 《蒼海の腕輪》《深海の魔導鎧》 ◆防具 頭 《緋王の魔冠》《緋王の首飾り》《真緋の手甲》《緋姫のスカート》《真緋のマント》《真緋の大翼》 胴 《真緋の軽鎧》《真緋の外套》 腕 《真緋の小手》《真緋の篭手》《真緋の脚衣》《真緋の靴》 腰 《真緋のベルト》《真緋のポーチ》《真緋のブーツ》 足 《真緋の脛当》《真緋の足袋》《真緋の長靴》 武器 《魔装刀 ムラマサ》 ◆武器2本 双刃式短剣『雷神の剣 ボルテックスソード

☆3 攻 500 +50 防 700』×2 →『雷神ノ聖剣 ヴォルテックセイバー

★4 耐 300 攻 600』

◆指輪3つ 魔道具1個 ◆その他 ◆アクセサリー

『護符のピアス:火精霊の祝福が付与された魔石と風の加護の魔石を使用したアミュレットの魔道具。風が吹いている時は防御と速度が上がるが、雨の日だと効力を失う』

〈装備品リスト〉

魔剣名称 :緋色の魔剣

装備者:斉藤壮馬

(レイリア=レトリアとのユニーク装備交換)

装備条件

:魔族を討伐して得た経験値が一定量を超えると装備可能な装備となる。魔族以外の魔物や動物などを殺した場合には経験値は得られないため装備できない。レベル150を超えた時に装備可能。所有者以外は装備出来ない。この剣を装備する者は魔族の力を吸い上げる事でその力を自らのものに出来るようになる。またこの剣の所有者として選ばれた者は世界を滅ぼす程の災厄を呼び寄せるという言い伝えが存在するが真偽は不明である。

魔剣のステータスを見て俺は驚きを隠せなかった。《緋色の魔玉》が覚醒したからと言って、ここまで凄まじいステータスに変化するなんて思わなかったからだ。しかしそれでも魔竜王は余裕の表情を浮かべているように見えた。まるで自分の力を誇示するような目付きである。

「――確かに凄まじい魔力だな。これ程の力をお前のような者が扱えるのか? とてもじゃないが信じられない」

《信じる信じないは勝手だ。ただこれだけは言わせてもらう。お前はこの剣を持つに値する人間ではない。私と戦う権利すらないだろう。今すぐ私を解放し、ここから立ち去る事を勧めるぞ》 魔剣の言葉を聞いて魔竜が笑い出す。俺の目には彼が楽しそうにしているように見えていた。そんな彼の様子を見た俺の頭にレイシアと魔竜王の声が響く――

(俺とこの魔剣はリンクしているせいか、俺の考えている事が分かるらしいな)

(そうみたいですね。でも魔竜王が何故そこまで強気でいられるか分かりません)

(そうだな。レイリアの心の中だったらレイシアも普通に動かせるんだろう?)

(えぇ。ですけど私の中の《魔緋の宝玉》はまだ覚醒前だから、その力が発揮される事はないので安心していてくださいね。今は魔竜王の意識の中に侵入しようとしてる最中なんですよ)(分かったよ。ところでレイナの方にも《心》の力を使う事が出来るんだよな?)

(はい。《魂》の力で《心》の世界へと入る事はできますよ。ですから私は《真紅の血脈》の能力を使いますから安心してくださいね。それと私が戦えばすぐに終わると思いますよ)

(俺としては二人の戦いに横槍を入れるわけにはいかないんだけどな。俺達の目的は魔竜を殺すためにここにやって来た訳だし、そもそも俺はあいつと戦っている間に魔竜が何を企んでいるかを暴く必要があると思っているんだが、それは理解してくれるかな)

(もちろん理解していますよ。だけど私と《真緋の宝玉》とが融合した事で、その能力はさらに進化を遂げました。それにご主人様が《心》の世界で見た事を忘れる事がない事ぐらい知っています。その事については信頼を寄せていますので、ご心配はいりません。それでは行ってきますね。魔竜王との戦いを楽しんできてください)

俺はそんな会話を頭の中で交わしていたのだが、魔竜王はその隙を突くかのように攻撃してくる。魔竜王の右手からは黒い球体がいくつも現れて俺に向かってくる。それを魔盾でガードしながら後ろに下がりながらレイリアの魔槍に魔力を込めて《魔竜砲》を放ってきた。

レイシアがレイラと融合してから使えるようになった技だが、《魔盾》は発動すると盾から魔力を放つだけで攻撃する事ができなくなる代わりに敵の攻撃を全て弾く事ができるという優れたスキルだった。

「なに!?」

魔竜王は自分の放った魔撃波を受けて吹き飛ぶ――はずだった。しかし次の瞬間に目の前に現れた魔竜に蹴り飛ばされてしまったのだ。

「今の一撃を受け止めたと言うのか!?」

そんな言葉を残し魔竜は再び姿を消していた。だがそんな俺の元にルシールがやって来る。

「どうだった? そろそろ戦いたかった頃だろうと思って連れて来たんだが」

そんな事を言って現れたルシールを見た魔竜が驚愕の表情を見せた。

【名前】

ルシエル=リゼール 【年齢】

20歳 【種別】

エルフ 【レベル】

152 【HP】

38600/40600 【MP】

48000/54000 【攻撃力】

B+ 【耐久力】

B 【素早さ】

A- 【知力】

S+ 【賢さ】

B 【精神力】

A- 【運】

100/100 【クラス】

魔術師 ◆スキル系スキル

『風属性魔法の適性』『風属性魔法威力上昇』

『水属性魔法の適性』『水属性魔法威力上昇』

『光属性魔法の適性』『光属性魔法威力上昇』

『雷属性魔法の適性』『雷属性魔法威力上昇』

『無属性魔法の適性』『魔力制御補正』

『敏捷強化』『攻撃力強化』『速度強化』

『状態異常耐性』『アイテムボックスの機能拡張』

○魔法スキル系スキル

『鑑定』『偽装』『念話』『高速詠唱』

『多重詠唱』『MP消費軽減』

『魔力感知』『危険察知』『空間認識』

『アイテムボックス』

◆補助スキル系スキル

『詠唱短縮』『高速詠唱』『MP消費軽減』

『魔力操作』

---

◆特殊スキル系スキル

『鑑定眼』

---

『真紅の瞳』

---

◆耐性系

『物理抵抗力』

---

『精神影響に対する抵抗力』

---

『光属性抵抗力』

---

〈装備一覧〉 武器 《風魔の魔剣》《光魔の魔杖》《風雷の弓》 →《風雷の神弓》へ変化済み →装備解除しました。

《風神のローブ》《光精霊の羽衣》《天翔のブーツ》 →《天女の羽衣》《月女神のドレス》《雷光の靴》 →《疾風のズボン》《雷光のスカート》《天駆けるシューズ》 →装備解除しました。

《風神のブーツ》《雷光の指輪》 →《疾風の指輪》《雷撃のイヤリング》《電光の指輪》防具 《疾風のシャツ》《雷光の腕輪》《風精霊の鎧》 →《疾風の上着》《雷精霊の外套》《雷神の腕輪》《雷霊の手袋》 《疾風のボトムス》《雷光のベルト》 →装備品変更 ◆装飾装備類 1指輪1つ →『雷神の紋章が入ったリング』

→装備不可 →装飾品としてのみ使用可 ◆その他の装備品 2本剣2つ 1魔装剣ムラマサ +『蒼海の腕輪』→『深海の腕輪』に変更済み 2魔剣ボルテックスソード

☆3 +『緋王のネックレス』→『真緋の首飾り』に変更済 3真緋の手甲 +『魔炎の心晶』

◆その他2つ 2双刃式短剣『真緋の小手』

+『護符のピアス』→《護符ピアスII》に名称変更中。

装備条件

:レベル150超えで使用可能

★特殊効果

《護符ピアス》:火と風の加護が付与済みの魔道具のアクセサリー。火の加護がある時に防御能力とスピードが上がる。また火精霊の加護を受ける事が出来るため、雨の日だと効果が低下する。

魔盾 《闇魔の大盾》

★特殊能力

●自動修復:時間と共に回復する ◆エクストラスキル ◆称号 *世界を救った英雄

* * *

→???? 【真紅の英雄】


* * *


* * *

◆獲得経験値増加

☆4×50倍 =200000 ◎5000×2倍の計算です。

《緋王の宝玉》《翠緑の魔宝玉》《魔竜砲》 →《緋王の聖槍》《緑青の魔宝玉》《聖槍 ボルケノン》 【種族固有能力】

*《全種の獣の王》 《人狼化》 《鬼龍種解放》 *《竜玉覚醒》

☆《竜玉同調》 ○竜鱗強化緋色の鱗(《竜玉覚醒》により強化中)

○竜爪術 ◆ユニーク系能力 ○ユニーク能力 《真竜変身》《魔血玉の呪い》 《竜血覚醒》(魔石融合中)

*《真祖の呪薬》 ○吸血衝動血液融合 《血脈連動》《不死者の血脈》 *《眷属の絆》《配下支配(眷属)》 《同族支配》《強制進化》 《眷属召喚》 《不死の軍団》 ◆エクストラ ◆オリジナル系 《死槍の投擲》《魔槍の真贋》《緋竜覇気》《爆裂の波動》 ◆特殊スキル系 ◆必殺技 《流星槍》《流星砲》《紅蓮衝》

☆必殺技スキル ◆攻撃魔法 ○《焔球(火球)》 ○《焔壁》 ◯《火炎嵐》 獄業焔 煉獄業火砲

(炎熱地獄)

→○

(煉獄)

(灼炎)

(豪氷瀑布)

○〔竜牙〕

(超高温炎砲ブレス)

(竜翼膜真空砲)

☆攻撃魔法

(竜息吹)

(極大凍竜吹雪ブレス)

(極冷竜氷河雪ブレス)

(竜玉の共鳴)

(竜心眼の共鳴)

(竜闘気強化の波動放射ブレス)

(竜星障壁ブレスバリア 竜星の煌きオーラブレスブレス)

*特殊魔法系統 *回復系 *身体強化系 ○《魔力充填法陣の指輪+100/+99》 →消費MP10/消費魔力10000/1分間持続の発動回数∞の結界を発動させる。魔力消費で大きさが自由自在に変化し、結界の効果時間が延長する。またMPを消費する事で最大5分間の維持が可能となる。一度使用すると魔力が空になる為、再度MPを補充するまでは使えない。

◆生産魔法 ○生活魔法 【属性付加魔法】

《火属性魔法の属性を込める魔法=付与属性魔法》 ○鍛冶系魔法 【錬金術】【錬成】【魔銀創造】

【調合】

○裁縫系魔法 【裁断】【縫製】【補正】

○料理系魔法 【味見】

○細工系魔法 【成形】

○大工系魔法 【接合】

☆生産系 ◆戦闘系補助系スキル

『索敵』

『危機察知』

→取得条件;《直感》 →詳細不明。

『危険察知』

→取得条件:"生存競争の危機感"から派生 【隠密】【気配遮断】【罠設置】

『採取』

【農業I】

→取得条件:農耕暦300年から400年の間継続作業 →スキル効果上昇

『伐採』

『栽培』

『畜産』

→取得条件:農耕暦600年より前から継続して行っている事。

→スキル効果上昇

『採掘』

【金塊発掘】

→取得条件:鉱物発掘経験500回。鉱石の含有割合によってスキル熟練度にボーナス。

→スキルレベル上昇時効果値増加量増大。

【解体】

『解錠』、『鍵開け』

【鑑定】

→詳細不明。

→スキル習得不能。

*【スキルコピー&譲渡システムβテスト開始記念!お得なセット販売スタート♪『解析者』がなんと《1000円ポッキリ》!!!さらに、当店イチオシ商品!!

『完全翻訳のイヤリング』のおまけつき!!! 詳細はこちらまで⇒000-***##$---】

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☆----☆☆☆

★★★★★評価して頂けるとうれCかも!?

(。-_-。)ジッ←期待の眼差しw ---

【特殊ステータス《神族》《魔神》について。》 ◆特殊ステータス《神》について ◆特殊スキル 【鑑定】

☆特殊スキル【全言語翻訳】

☆特殊称号 【神々に愛されしモノ】

→【特殊神族の証しの冠の指輪(指輪タイプのみ装備可能)】へ変化する。

☆獲得方法

:【称号真なる加護を受けし存在を持つこと】

*この指輪が《神族の印》となり加護が付きます。

*ただしこの効果は重複します。

*加護が重複した場合は加護が上書きされるのではなく指輪の効果が発揮されて、その加護が消滅する事になります。

*《真神の加護》→《大神の加護》へと昇華した事により指輪に変化が起こりました。

☆加護効果 *経験値の獲得時に2倍に上昇する効果を持つ *レベルアップ時の必要経験値が減少してステータスも上昇する *状態異常耐性系のスキルを獲得する事が出来るようになる。

*獲得したスキルの成長促進を行うことが出来る。

*獲得経験値の一定数値を他の者に還元する事が可能。

*スキル獲得の経験値効率が上昇する。

*経験値獲得時に2倍加算されるようになる *スキル獲得時に1つ追加される。

*獲得した経験値に応じて成長速度も上がる *獲得経験値の増加。(獲得量が通常の1.5倍。通常獲得分2倍)

*獲得経験ポイントの上昇 *スキル成長率に大幅の補正がかかる(獲得経験値が2倍になるごとに1%)

*獲得経験ポイントの増加 *獲得ポイントの2倍増加 *獲得経験値2倍 ◆特殊スキル【全種族対話(真)LV2/1SP→NEW】

→取得条件

:『人』『亜人』以外の種族とも会話出来ること 【人族語理解(真)Lv6→Lv8→9→12→15→20→30)/4SP】

→取得条件

:《真人族》の話す全ての言語を理解し、話す事が出来るようにすること。

《神魔族》

★スキル名:【真祖(真)】

◆特殊能力 《眷属召喚》 【魔石同化】

→《真紅の魔核》《翠緑の魔核》《蒼海の魔宝玉》《白銀の魔宝玉》《緋色の魔宝玉》 *【称号獲得確率(極大)】

→称号を必ず獲得出来、称号の効果を増加させる。

→獲得可能な称号を確認できる。

【特殊ステータス《魔王》についての説明】

*【特殊称号神族《人魔の盟主》の所持者の場合に限り称号が自動で変化】

*【種族固有能力魔王《真人化》《人魔一体化》を獲得】

*【種族固有能力人魔一体化を取得済みなら《魔人化》が解放】

*【《魔人の心臓》を体内に持つことで魔人に進化できる】

◆特殊スキル ○《魔王覇気》 ○《魔力制御強化(真)》 *魔力消費量の大幅な減少。

→魔力コントロールの成功率(魔力変換率上昇(極大))

《魔導の王》 →《魔法の王》 →《魔法の真祖》 *魔法使用時の威力が上昇。

→魔法の行使の難度が低下する。

○《魔眼創造》 【特殊スキル】《魔瞳》《邪視の瞳》 →特殊スキル《鑑定の魔眼》《解析の魔眼》 ○《魅了の魔眼》 ○《魔縛の魔眼》 ○《幻夢の魔眼》 ○《魔石の宿りし瞳》 ○《竜帝の瞳》 ○《叡智の書》

☆ユニーク系 【ユニークスキル】《魔力吸収無効》 →【魔力吸収不可】《神域干渉》 【エクストラ】☆エクストラ系スキルは1種類につき一つのみ。

○《聖魔武装創造》

☆武器系 【ウェポン】

→詳細不明。

→《魔剣 フラガラッハ》 →詳細不明。

☆武具系統(武器以外)

《聖杖 セイクリッドロッド》詳細不明 →詳細不明。

*詳細不明 【ユニークスキル】『万物創生(偽)』

→詳細は未設定です。

《魔法付与付与》 →詳細不明。

*魔法付与付与 →詳細不明。

◆戦闘スキル 【格闘】【武術】

【体術】【徒手空拳】

【素手での戦闘】

→詳細不明。

【魔力循環】【身体強化】【身体加速】

→詳細不明。

【剣術】【短剣術】【槍術】【斧術】

→詳細不明。

【長柄武器の使い手】

→詳細不明。

*《投擲の天才》は取得不可能。

*【弓兵】の取得可能スキルは【弓矢】と【弩弓】と 【射撃魔法矢】のみとなります。

*魔法付与の能力は《魔力の指輪+99》のみになります。

◆補助スキル 《無詠唱魔法》 →詳細不明。

【精霊魔法】【古代魔法】

→詳細不明。

【魔法操作系】

☆《精霊魔法系》 →詳細不明。

【神聖魔術】【暗黒魔法】

→詳細不明。

【回復魔法】【支援魔法】

→詳細不明。

◆特殊スキル 《眷属作成(神族)》 →《眷属創造》 →《眷属召喚》 →《眷属従属化》 →《従霊召喚》 →《魂源回帰》 →《従僕再生》 ◆その他 《真眼のスキルオーブ(極)》 →詳細不明。

◆一般スキル 《生活火魔法》

☆★ 《浄化水》

☆★ 《浄化土》

☆★ 《浄化風》

☆★ 《解毒消臭》

☆★

★☆★

★☆★ 《収納空間》

★☆☆★

☆★★ 《気配感知》《気配遮断》 →詳細不明。

★☆☆★

☆★☆ 《鑑定》《アイテムボックス》→【解析の指輪】がなくても解析出来るようになる。

→《解析》《詳細画面》を使用できるようになる。

★☆☆★

☆★☆ 《採取(雑草)》 →植物を生で食べられるようになる。

*【解析者】が取得する。

★☆☆★

☆★☆ 《鍛冶職人(刀)》 →詳細不明。

→詳細は未定。

→詳細は決定次第掲載します。

★☆☆★

☆★☆

☆★☆ 《錬金術師》 →《錬金工房》《素材調合(金属)》

☆★☆★

☆★☆ 《錬金術師》《錬金工房》 →《簡易工房》 →《特殊生産工房》 →詳細は未定。

☆☆★☆★

☆☆☆☆★ →【特殊生産工場】の機能を使えるようにする為のもの。

→内容は未定。

☆☆☆☆★

☆☆☆☆

【生産系】

→《料理》《裁縫》《装飾》《木工細工》《彫金》《調理器具》《農具》 →詳細未記載。

→内容はまだ未定。

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☆☆☆

【その他】

☆★☆

☆★☆ 《ステータス開示》 →【偽装ステータス開示】へ統合されました。

《種族固有能力》 →《真眼の魔眼(全)》 →【特殊ステータス(魔王種)】に統合 《特殊称号(魔王種)について》

《特殊称号(人魔の盟主)についての説明》 ◆称号名 :《人魔の盟主》《魔人族(人魔)》

*獲得条件 :人魔一体状態になること。

*効果

:獲得経験値2倍 *経験値2倍 《魔王種》について *【特殊称号人魔の盟主をすでに所持している状態でなければ取得不可】

*【称号獲得条件】

☆称号獲得率UP(極)

+獲得称号獲得確率2倍

☆獲得可能な称号の数が増える ◆特殊能力(種族固有能力)《人魔融合》《魔装展開》 *【特殊称号(魔王)《人魔の盟主》を持っていること】

*獲得方法

:人魔一体化の状態で、人族に自分の種族を知られないようにする事。

◆特殊能力(種族固有能力)《魔族の瞳》《人魔一体化》 *【特殊称号(人魔の盟主)を持っていること】

*獲得条件

:人魔一体状態のときに、他の種族を欺き続けること。

*効果

:《人魔一体化》した時のみ使用が可能。人魔一体状態から解除されると同時に《魔族の瞳》の効果が発動し、他の者に《人魔》としての正体が暴かれる。《魔装の加護》が使用可能になる。

*《魔装の顕現》:《魔石同化》 →《魔装召喚》 →《魔石同化》 ◆特殊スキル(職業固有)《神魔剣の使い手》 →【魔剣召喚】《神剣召喚》 *《魔石同化》 *《魔石召喚》 *《魔装展開》 →【魔石武装召喚】

*【称号(魔導の王)》の効果に追加。

→《魔法攻撃力上昇(中)→魔力消費量の大幅な減少》 →《魔法の行使の難度が低下しやすくなる》 *《魔剣召喚》 →詳細不明。

*詳細不明 ◆エクストラスキル《魔王化》 *【エクストラ称号を持っていなくても取得可能】

*詳細不明。

◆エクストラスキル《真魔剣化》 *【エクストラ称号を持っていなくても取得可能】*詳細不明。

◆エクストラスキル《完全魔装解放》 *【エクストラ称号を持っていなくても習得可能】

*詳細不明。

*《魔力の指輪+99》が外れなくなるがステータスには表示されないが外す事は出来ない状態になる。

*【特殊ステータス(勇者)の保持者の場合は強制的に《魔眼のスキルオーブ(真)》を取得】

*【称号が手に入る可能性大。ただし魔族ではないので必ず手に入れられるとは限らない】

→【称号】『英雄殺し』を獲得する。☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 俺は二人の名前を聞くと何故か頭の中で何か違和感のようなものを感じていた。そしてそれだけではなく何故か懐かしさのような不思議な感覚に襲われていた。

(どうしてだろう? なんなんだこれ?)

すると突然ルシアは俺から離れてレイラの手を握ると真剣な表情をしながら話し出した。

「お兄様。お願いがあるのです」

「えっと――何かな?」

「これからは私達二人でも一緒にいたいと思っています。だからお父様やお母様も一緒にレイリアさんの所へ行きたいと言っているの」

そう言うルシアの目からは決意が見て取れた。きっとこれは《神界》にいる両親からの伝言なのかもしれない――つまりルシアがこう言ってるって事はそういう事なのだろうか? しかしここでふと思う事がある。何故わざわざ神界にいるはずの両親の言葉を代弁する必要があるのかという点だ。確かにレイリアが人間ではなく魔族なのは間違いないが《精霊神王》と《精霊帝》なのだ。別にこの場に連れて来ても良いのではないのだろうかと思ったのだが、その疑問はすぐに解消された。それはレイアの方だったのだ。彼女の様子はどこかおかしかった。いつものように余裕を持ってこちらを見て来る感じがなくまるで怯えるような仕草をしているのである。しかもその目は赤く充血しており目元には隈がうっすらと出来ていて疲労の色が窺えた。

(あれだけ元気そうに見えるけど実は病気か何なのか?)

「あぁー分かった。今すぐに行こうか?」

どう考えてもこの状態の二人が行くという事はおそらく《精霊神の試練》をクリアする為だと思う。それにこのまま放っても置けないというのも事実。なので《真眼》でレイシアの状態を確認する。

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名前 : 星宮零児

性別 :男

年齢 :17

称号 : 【異界の旅人】

詳細

: 【真眼のスキルオーブ(偽)】の所有者であり、全ての特殊スキルを持つ者。【神格化】を取得し神に至る者。神性スキルを全て扱える者。称号に【超越者】が追加され、全スキルを《統合進化》させる事が可能になり【神域拡張(+α)】の特殊称号を獲得出来るようになる。

【神速再生】

【超成長】

★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆ やっぱり【超再生】のせいでこんな状態に! というか【神域拡張】って何!? なんか凄そうなの来たよ!! もう訳が分からない!!! とにかく今はそんな場合じゃないんだ。急がないとか。

そこで俺はまずルシアンを抱き上げる。ルシールはその反対側を持ち上げる。

そしてそのまま空間転移をしようとしたその時――後ろで声が聞こえて来た。

『おい待て! 貴様に一つ言い忘れている事がある!!』

『ちょっと待ちなさいあなた!』

そこに居たのは【創造主(仮)】とその眷属らしき者達だった。どう見てもこいつら完全に俺達の事を邪魔するつもりだよ。だけど今は一刻を争う状態。構っている暇なんて無い。なのでここは強引にでも振り切ろうとしたのだったが。

――ガシッ。

何者かの両腕によって阻止されてしまった。

一体誰が? と思い振り返るとそこに居たのは【創造主(自称)】本人だった。彼は両手を大きく広げるように伸ばしながら満面の笑みを浮かべていたが、俺を見る視線はなぜかとても冷ややかなものだった。そしてゆっくりと口を開く。

『よくぞここまでたどり着いたものだな。まあいくら我が神であろうと、ここを通り抜けるのは不可能に近いから当然の結果と言えば結果なんだけどね』

彼の言動は完全にふざけているが、言っている内容は至極真面目。なぜなら俺達はここに入る際に【鑑定】した時に《神力結界》と書いてある壁に触れた瞬間弾き飛ばされたのである。だがそんな事など気にしないと言うような雰囲気を出してこちらを睨んでくる【創造主(偽)】。その姿はとても威圧的だった。正直、今の自分より弱い奴から睨まれたくらいじゃ全然何も思わないし、イラつくほどではない。

『ふん。何を馬鹿げたことを言ってるんだよ。そもそもお前には神力がないだろう?』

すると彼は鼻を鳴らし、勝ち誇った顔を見せてきた。どうやらとことん調子に乗っているようだ。

しかし次の一言を言った途端――彼は顔面蒼白になって震え出していた。

『ばっか野郎ぉ!! ここに来て神力を封印しているに決まってるだろ!!』

は? こいつはいったい何言ってんだ?

『あのな。神力は《全能神》しか持ってないんだよ。俺達が神の力を手に入れたところで使う事ができない。だから神力を持つ俺達に勝てるはずもないのは当たり前なのさ!!』

自分で神と言っておきながらそれを否定。もはや支離滅裂もいいところだ。それに《全能神》なら神の力でこの《迷宮》を作る事もできたはずだ。ならばやはり《神界》にいた時からの何らかの理由で《迷宮》を作れなかったと見るべきだろう。つまり、ここで【創造主(仮)】が神力を使える状態で《魔剣》の中に入っているという事はありえない。そしてそれは同時にレイリアが《精霊神王》と《精霊帝》としての力を使う事は絶対に出来ないという事実にも繋がっている事になるのだ。つまりレイリアを連れていくメリットは無いに等しいと言える。それでも俺は二人を連れていこうとしたが。

『お兄様――』

ルシアは心配するような目をしてこちらを見つめてくる。ルシラの方は何か考え込んでいるようで俺の方をジッと見つめていた。そして俺は二人の覚悟を決めた目を見た時、レイシアが《魔石同化》をしてまで隠そうとしたのはこの二人の存在を知られる事を危惧したからだと確信した。

(レイシアの事を考えてくれた二人に感謝しないとな)

だからこそ俺は二人の意志を尊重しようと思う。

「わかった――二人で先に進んでいいよ。ここから先は《勇者》の役目だから」

そう言うと二人はホッとしたような顔をしたが、直ぐに真剣な表情になった。

ルシアの手をルシアンに渡し【勇者】としての武器を構えるルシア――彼女はその身に纏っていた服を全て脱ぎ去り美しい肌を露出させる。

そして彼女は【勇者】として覚醒させたばかりの固有スキルを発動させた。

《真なる勇者へ続く道》――【真眼のスキルオーブ(真)】を媒体とし勇者専用スキル《神剣召喚》を使用する事ができる。【勇者】専用の《神剣召喚》スキルの使用が可能になる。【真眼のスキルオーブ(真)】が壊れない限り、《真眼のスキルオーブ(真)》が破損する事はない。《魔導の神眼》を取得する事が出来るようになり【魔剣解放者】となることができるようになる。

そしてルシアは《魔剣解放》の要領で自分の体内に《魔石融合》を起動する――そして《聖装》である白いドレスを出現させそれに魔力を込めていき光り輝くオーラへと変えていった。そして《神衣》と《神器》である《白夜》を装備する。

――《魔王》レイシアは目の前に立つルシアに目を向けた後。その背後にいる【神装】装備のルシアンとレイリアに向かって微笑みかける。レイリアはそれに答えるかのように笑い返すと《神槍》を構えた。

【勇者】と【神姫】――【勇者】のルシアと【神姫】のルシアの二人が《迷宮》内にいるという事はつまり【真眼】による情報が表示されていない。《精霊神》であるレイリアですらもレイリアの情報が表示される事は無かった。つまりこれはレイリア達も既に神力を封じられている可能性が極めて高いと言えるだろう。というかこの場にいる【魔人】と【魔物】は《魔人族》、そして【神霊族】以外は全て【精霊族】なのだ。おそらく《神界の試練》では神族以外の者、【精霊】や神族が《魔族》、または魔人と化す可能性がある。それ故にその種族に関係ある《試練》を突破できる者だけが入る事ができる仕組みになっているのかもしれない。そう思うと【創造主】の考えには感心せざるを得なかった。

『ふん。貴様らが何をしようと《神》の我には通用せんのだ』

【創造主(偽)】の奴はどう考えてもこの先に進みたくないようだ。しかし俺としてもレイシアを救い出す為なら何でもやるつもりではある。なのでレイシアに目を向ける。

「悪いけど、レイシアを必ず連れて帰って来るから待っててくれ」

「わかりましたわ。零児君を信じています。なので必ず無事に帰ってきてくださいね?」

俺は力強く「おう!」と応えた後、ルシアの方に向き直った。

「それじゃあ、後は頼んだよ。無理はしないように気をつけてくれよ? 何かあったら《通信》で連絡してくれればいいからな」

そう伝えると二人は笑みを見せて大きくうなずいた。

『ふん。そんな小娘一人に何が出来るか見せてもろうぞ』

すると《神力結界》の周囲に紫色の光が渦巻いて行くのを感じた。おそらく【創造主(偽)】が攻撃を加えようとしているんだろう。俺はそんな奴を無視し、レイシアに話しかけた。

「そっちの二人を頼むぞ。絶対に死なせるなよ?」

それだけ伝え《転移の魔方陣》を使用し《創造主(偽)》の真横に移動してから思いっきり拳を振るってやった。だがその瞬間、紫の霧状のものが現れ《神力結界》が展開された事を悟った。だが今の俺ならこんなものは破壊出来るはずだと思い《創造主(偽)》がいるであろう場所に向けて《雷球(ライトニングボール)》を打ち込んでみた。だがそれもやはり紫の霧によって防がれてしまった。だがそれが分かった時点で、もう用済みだったので俺はすぐにその場を離れた。

「ふむ。流石だね。これじゃいくら攻撃したところで無駄だって分かるよな。だったらお前らに構わず先に進んでくれるかい? 《全能眼》でもお前らの能力を見る事ができなかったんだからな」

【創魔】の言葉に従う訳じゃなかったが【創造主】に言われなくても進むつもりは初めから決まっていた。だからここは大人しく従う事にした。ただ《全能眼》は使えないみたいだし本当に大丈夫なのかと疑問を抱く。それにもしこの先に敵がいるとすれば相当な強敵のはずだし油断は出来ないと思った。そこで《鑑定》を使用して【鑑定士】を《真》にしてみるが何も分からなかった。

(《鑑定》の【レベル】を上げれば《真》になるんじゃないのか?)そんなことを考えている間に【創造主】は《転移魔法》を使用したのか、その姿を一瞬でかき消していた。そして俺は二人と視線を合わせた後に走り出した――。

『ふん。お前たちの目的はなんだ? まさかどこまできて邪魔をしに来たとは言わないだろうな?』

【勇者組】の二人に対して《神威》のスキルを使用しているのにも関わらず全く怯まずに向かってくるレイシアに苛立ったのだろう、明らかに挑発している様子だった。それに対してレイシアは何も言葉を返さなかった。それは《全能眼》が使えなくなっている事を自覚しているためだと思われる。それでも《全知》のスキルでレイシアは俺達のステータスを確認できるらしく、《神装機竜》の力を使えば勝算はあると思っているのだろう。そしてレイシアはこちらに近づき俺の手を取った――。

『さっさと終わらせてしまいましょう』

その言葉に俺は無言で《神威》を発動している《神造武装》を指差し、そのまま手を握る。すると俺の視界はレイシアの視界を共有するようになった――そして俺と手を繋いだレイシアはその《魔石同化》の効果を最大限に発揮するべく行動を開始した。

『くははは!! 愚かだ!! 《神力結界》を破れると思っておるのか!!』【創造主(仮)】の奴は完全に勝った気でいるようだった。そしてレイリアが手に持っていた杖を振り下ろすと《魔導の神眼》のスキルを使い強力な光線を放つ。しかしそれすらも《神力結界》が無効化してしまう。それを目にした俺は思わず苦笑いをするしかなかった。

『馬鹿め!! 《魔眼》が発動すれば《魔石》を媒体としている以上その能力は全て我が支配できてしまう事を忘れたのか? これで貴様らの負けは確定なのだ。そもそも《魔装召喚》を使用できず、神力を扱えないのでは《神器》の《魔石融合》は発動させる事は出来ぬはず』

俺は奴の言った言葉に引っ掛かりを覚えた。それは奴はまるで神力が《魔石融合》の《固有技》だと理解しているかのような物言いだったからである。そして俺と手を繋いでいたレイシアもその違和感に気付いたようだったが今は奴を倒すことが最優先だと思い、その事は気にしない事にする。そう考えた俺はレイシアに声をかける。

「行くぜ! ルシアちゃんとルシアさんの力を借りて――神殺しをやってみるか?」

そう聞くとレイシアは無表情のままこちらを向いたが、その顔にはいつものような余裕はなかった。そしてレイシアはすぐに《魔眼》のスキルを使用する準備を始める。

「――分かりましたわ。《真眼のスキルオーブ(真)》を起動してもいいですか?」

そう言われた俺はレイシアの体に抱き着きレイシアを抱きしめるような体勢を取ると彼女の耳元でささやく。

「大丈夫――ルシアはきっと分かってくれると思う。それにレイリアもいるんだから、万が一にも暴走するなんてことはないよ」

そして《真眼のスキルオーブ(真)》が破壊されない限りレイシアが壊れる事はないとレイシア自身も言ってたのを思い出していたのだ。

そして俺の気持ちを理解してくれたレイシアは微笑みを見せ《真眼のスキルオーブ(真)》を起動してくれた。

するとレイシアの脳内に様々な情報が一気に流れ込む――それはレイシア自身、レイリアの記憶だけではなくレイリアの魂に秘められていたルシアの情報も含まれていたのだ。しかし、ルシアの記憶が流れ込んだと同時にレイシアの中に眠る《魔王》レイシアの存在も確認する事ができた。どうやらレイシア自身が持つ《真眼のスキルオーブ(真)》は、あくまでも《魔王》として目覚めたばかりのレイシアの人格のバックアップとしての役割しか持っていないような感じだった。

しかしそれを知ったところで俺はどうすることもできないと思っていたのだが――レイシアの瞳の色が赤から紫色に変化していく事に気づく。それを見て驚いた。《魔眼》と《全能眼》の複合によるものだとすぐに気付く事が出来、それ故に俺の《魔眼》は《神滅覇王》がレイシアの体を侵食している事を知らせてくれていたのだ。

『何をするつもりかは知らないが、無駄なことは止めておくがいい。既に《神の叡智》によりお前たちの力は我のものなのだ』

《神威》のスキルを解除されてないにもかかわらず【創造主(偽)】が喋れるようになっていることに俺は少しだけ驚きを感じたが、それよりもこの先に何があるのか知りたいと思い【全能眼】のスキルで調べようとした時、レイシアから声をかけられたので一旦そちらに集中することにする。

「零児君、今のうちに【創魔】を倒してくださいませ。私は大丈夫ですから」

「わかったよ。でもあんまり無理すんなよ?」

そして俺はレイリアに【全能眼(フルオーダー)】を使用し《鑑定》を行った。それによりレイシアに宿っていた《魔眼》の《スキルコピー》と、《全能》と、《真眼》の能力を全て把握することができた。更には《神装機竜》の使用条件についても知ることができた。俺はそれを全て《鑑定(かんていさん)》の《真鑑定(しんかんせい)》で共有し、《神剣アロンダイト》を呼び出していた。

「《魔刀ムラマサ》」《真名解放》を行うと俺が作り出した《神器》に《神滅覇王》の《魔石》と融合した事により、新たな《真名》が生まれたようだ。

「【創魔】とか言ったな。もう勝ったつもりかもしれねぇけどよ。俺たちが何もせずに見逃してくれるって思ってるわけじゃないだろうな? そんなこと思っちゃいねえだろうな?」

俺はあえて挑発するような発言をして【創造主】を睨むように見つめた。【創魔】の奴もさすがにイラっときたようで、その口元に薄っすら笑みを浮かべるとこちらを見据えるように視線を送って来た。だがその態度もすぐに消える事になるだろうと思い俺は言葉を続ける。

「悪いんだけどな。こっちも本気でいかしてもらう。レイシア!!」

俺が名前を叫ぶとその視線をレイシアへと送った。するとレイシアがこちらを向きうなずきを見せる。俺はレイシアに視線を送りながら言葉を発する――。

「【創世眼】を使ってくれ」それだけ言うと再び【創魔】の方に意識を向ける。そして【創魔】は一瞬怪しげな光に包まれた後――俺の言葉の真意を理解する。《全知》のスキルを持つレイシアの固有技能である《神眼》には未来予知を可能とする《全視》という能力が存在していたのだ。つまり俺が【創造主】の行動を予測しろと言った訳なのだ。そしてそれが分かった瞬間、俺達は【創魔】の行動を完全に読み切る事が出来たのである。

「レイシア。レイリア。俺が合図をした瞬間、【創造主】に向かって最大威力の魔法を撃ち込むぞ!」そう宣言すると共に俺は【創造主】に向かい走り出す。

『はぁあ!! そんな攻撃、無駄だというのがまだ分からないのか!?』そう言って俺達に向けて無数の魔法を放ってくる【創造主】。その魔法は俺達に放たれたもののほとんどが途中で消失してしまった。

『ば、馬鹿な!! 何故貴様らに攻撃が通る?!』

【神造武装】を操り、【魔石同化】を纏った状態で魔法を行使すれば魔法を無効化することは可能なのは先程証明されているはずだったが、《全知》のスキルを持つレイシアによって完全に無効化されてしまっている事を知る事は無かった。そして俺は【魔刀ムラマサ】を構え、レイシアの放ったスキルで強化された身体能力に任せて、そのスキルを発動させた――。

「《真絶斬撃》!!」《神滅覇王》の《魔眼》の力を得た俺は《固有剣術》と呼ばれる特殊なスキルを使用出来るようになっていた。そしてその《固有武術》の一つ――〈奥義〉と呼ばれる技は使用者の魔力の全てを消費して放つことが出来る超強力な一撃を放つことが出来たのである。その効果は単純に凄まじく、その刃が届く範囲にある存在ならどのような物質であろうとも切り刻む事ができるのだ。

その攻撃をまともに受けた事で【創造主】の体が真っ二つになった――ように見えたのだが、奴は無傷の状態で立っていた。【魔導の神眼】を使用したレイシアの解析によると【創魔】の奴の肉体強度はこの世界の一般的な人間の数十倍にも及ぶらしい――それをレイシアが知った時には既に俺達の攻撃は終わりかけていた。俺は【創界】とレイシアの攻撃を同時に叩き込んだことでかなりのダメージを与える事に成功した。しかしそれでも致命傷を与えるには至らなかった。そして【創造主】は俺達が想像していたよりもずっと頑丈なようだった。それを見た俺は思わず舌打ちをしていた。

俺は奴が無事な事を知り、奴を殺す為の作戦を考える。俺に考え付いた方法は三つ。まず一つは《全開突破》を使用してレイリアの固有スキルと俺の固有スキルとを合わせて【創造主】をぶっ潰す事だ。

二つ目は《神威の太刀》の派生系の《魔剣グラム》の《固有技》――《聖魔滅砕》を使用すれば奴を倒す事は可能だろうと俺は思っていた。そして《神力》で防御を固めた【創魔】であってもその力を消滅させるだけの破壊力を持つ技を使えればダメージを与えれるはずなのだ。しかし《全開突破》を使うと【創魔】を仕留める事は出来ても俺自身はレイリアとの《魔剣合体》を解くことが出来ず、《全神滅覇王》のスキルまで使用する事になりかねないためあまり多用は出来なかった。しかし《全能》を使えばどうにかできるのではないかと考えていたのだ。

そして最後の三つ目の方法が俺にとっては一番リスクの少ない方法だとも思っていた――それは《創造》で【創世眼】と《真眼》を組み合わせてレイリアとルシアとレイシアの記憶を使いレイシアの体を再現してもらう事だ。《創造》ならば《神眼》で作り出された物や《固有術》を自分のものにしてしまう事が可能だった。そのためこの方法で奴の魂ごと《真眼》で生み出した物体で封印しちまおうと考えての事だった。しかしそれを行うためには時間が必要になる――それこそ数分、いや数分程度では厳しいくらいの時間が。

『レイシア! お前に聞きたい事がある。《神眼》に【神装機竜】の使い方は記録されてるか?』

『零児君、今はそれどころではありませんわよ!!』

そう言いつつもレイアが答えてくれたのは、おそらくレイニアが事前に情報を伝えていたからであろう――しかし今はありがたかった。なぜならレイシアは《全知全能の神》の能力の一部を使用する事が出来るのだ。レイシアはその《神眼》により得た《全能眼》の能力で、【全神域の機竜(マアト)】を呼び出すことが可能なのだが、今はまだその能力を使っていなかったからである。それは恐らく俺と融合している状態だからだろう。もし仮に【全神域の機竜(マアト)】が俺の体内に入っていたとしても俺の能力の一つとして認識されていたために呼び出せるのかもしれないが。そして《神眼》は《真眼》と違い、記憶を読み取ったり、その能力を借りるといった事は出来ないようなので、《神眼》の固有技能に関しては俺自身の力で使いこなさなければいけなかったのだ。そして《真眼》は、一度でも見た物は何でも再現する事が出来るスキルであるため、それを利用し俺は【創造】で作り出した《全神鎧フルアーマー装備セットEX1型番000A-SSG-01S-WF9》を装着する事にした。その性能は通常のフルアーマーとは比べものにならない程の代物である上に《神化》の効果も付与されており、防御力も極めて高かった。更に俺はレイシアに《全神装機竜》と《真装》についてのデータを送ってもらった。俺はそれらを確認すると《神眼》で呼び出したレイシアが使っていた武装と《全神装機竜》のパーツを組み合わせた。すると俺はその武装に名前を付けるとそのまま呼び出していたのである。

「【創造】!!」《真神装(シンセ=ラ)》!! 《真装(しんそう)》が呼び出した時のような光に包まれて出現したその武器に、俺は《真絶刃》という名前を付けたのであった。《真絶刃》は俺の意思に応じて様々な形状に変化させることができるのだが、俺は剣型の武器をイメージしていたために剣として具現化されていたのだった。

そしてその剣を振りかざすと、【創造主】に向かい振り下ろしたのである。【神造武装】を身に纏っていたおかげなのか、俺は今までに感じたことのないような力が全身を巡るように感じられていた。その結果、凄まじい速さで振り抜かれていった。

『なっ!! 馬鹿な!! 何故貴様がそんなものを使えるんだ!?』

そう叫んでいた【創魔】だったが、《全絶壁》による絶対防御を展開する間もなくその一撃を受けて――その体を切り裂かれてしまったのである。俺は【神刀ムラマサ】に魔力を込めて斬撃を飛ばすと《魔弾砲》の要領で《真絶撃》を放っていた。その斬撃を受けた奴の体は綺麗さっぱり消え去った。俺はそれを確認して――思わずニヤリと笑ってみせるのだった。

『ば、化け物めぇえええ!!!!』【創魔】の断末魔の叫びと共に俺達の視界は白に染まりそして元に戻った――。俺の意識が現実へと引き戻されると同時に【創造主】の奴が俺の方に顔を向けて怒りの表情を見せていた。だが俺はすぐに【創造主】に対して行動を起こした。

【創世】

《世界創造システム》の起動を行い、新たな世界の創造を行う。

そして新たに創られた世界を《全支配システム》にて操作する。

その能力が俺の意識へと流れ込んで来る。俺は【創造主】が構築しようとしていた世界がどういうものであるのかが分かり始めていたのだ。俺はこの世界は《創世》という機能を利用して作られたのではないかと予想を立てたのだった。しかし俺は【創世】という機能がどういう効果を持つか分からず、どういった効果があるのかまでは知る事が出来なかったのだ。そのため、俺がこれから何が起こるのかを理解したのはレイシアのお陰なのである。

俺はまず【創世】が起動していないかどうかを確かめる。

『零児君、どうしましたの?』

『いや、ちょっと気になる事が有ってな』俺はそう言うと【真絶斬月】を構えた。

俺はまず《真絶刃》に《全魔導》を纏わせる――《全魔導》を纏った【魔刀ムラマサ】の切れ味は【魔装覇王】の固有能力魔闘練氣の力によって更に増していた。それにより《魔剣グラム》の《固有技》に匹敵する攻撃力を得たのである。俺はそれを【創造主】に向かって振るうと――その剣戟は奴の持つ魔石と同化してしまっていた【魔造人間】達をまとめて斬り裂いていた。【魔造兵種】達は一撃で全て破壊する事に成功したのだった。しかしそれと同時に俺の腕に激痛が発生する――【創造主】は俺の攻撃を見て笑みを浮かべると、《魔石同化》を使用して自分の腕を復活させてしまう。そして俺の攻撃を真似るかのように、その剣技を放ったのだ。

俺は【魔剣グラム】を構え直す。俺の攻撃の模倣――つまりそれは奴が俺の攻撃を完全にコピー出来ている事を表していた。しかし俺もただ攻撃を喰らっている訳ではなく《魔法無効空間》を展開させていたのだった。

『零児君! 何をしているんですの!』

『悪いがこいつは俺が相手させてもらう。だからお前等はレイリアを連れて下がっててくれ。後は俺がやるからよ』

『――分かったわ。でもあまり無理はしないでね。今のあなたは限界を超えすぎてしまっているから』

『大丈夫だ。心配するなって。じゃあ行ってくるぜ』

俺はそう言いながらレイリア達の所から離れる――そして《全支配》を発動させると、《魔造兵種》を全て【創造主】のいる場所に移動させる。すると奴の目の前には俺の操作で動く【魔造兵種】達が勢揃いしたのである。【創世】が発動してしまったために《真絶刃》が《真絶》へと変化していたが、その力を使えば《魔人族》の上位存在である《真神》を操りその力を引き出す事も出来ると俺は既に理解していたために特に驚きもしなかった。しかし【創世】により新しく出来たこの世界に存在する全ての生物がこの世界に転移してきたため、この世界で生きていくための準備を行わなければならなかった。そこで俺はレイシア達に頼み【真絶剣皇国】にある遺跡を一つ残らず破壊してもらうように依頼し、その報酬として《創造》で作り出した物をレイリアに託したのだった。そしてその後、俺は【神化状態】を解除させたのだった。そして俺がこの世界で生きるための設定や《真装》の力をある程度調整して準備を終えると、【創世】が完全に完了した――その時だった。

【創世の儀の妨害は――許さない】

俺は頭の中に響いた謎の声に戸惑ったが、【創神域の管理者(マスター)】としての本能が働いたのか、咄嵯に《神絶界》を展開していたのである。次の瞬間、【神域】の扉が勢いよく開かれたが、俺は【真絶神域】のスキルの効果もあり何とか持ち堪えていたのであった。しかし《真絶斬》の《真絶波》と《真絶連撃》が連続で繰り出されると俺は防ぎきる事が出来ずに吹き飛ばされてしまったのだった。

「ぐあっ!!」俺はそのまま【真絶剣聖】の固有技能である《神絶領域》の展開により生み出した《神装機竜》の盾を展開して攻撃を防いだ。そして俺は体勢を立て直そうとするのだが、そこへ《魔眼の鎧》を展開した奴の《魔力眼》の瞳が怪しく輝く。そして俺は動けなくなった――いや、正確に言えば俺の周囲が停止した。その事から俺の動きが止まっていたのは時間を止められているのではなく、俺の時間の流れを加速されただけに過ぎないというのが理解できる。

俺は《真絶剣神》と《真絶魔眼》の効果を使いその止まった時の中で自由に動いていた。だが俺に攻撃を仕掛けようとしていた《真絶剣帝》は《魔眼の鎧》の効果を受けないらしく、俺は《魔眼の波動砲》の攻撃を受けそうになるが、それを間一髪で避けるとそのまま反撃を行う。

《魔刀》で《神速》を纏いながら放つ居合の一撃は、《創滅魔龍(ソウメツマガリュウ)》に放ったものより強力なものになっており――俺は《創刃》に《魔力》を込める。《神刃武装(シンバぶそう)》の特殊技能である《刃武装変換(ブレードコンバート)》によって刃の形を変化させ、刃渡りの長い日本刀のようにしたのだ。

「これで終わりにしてやる!!」俺はそう言って一気に距離を詰めて斬りかかる。《神装》の固有スキルの一つである超高速再生によって瞬く間に修復されていく奴の体を俺は何度も切りつける。

「これで決める!!」

俺が《魔力剣技》である【魔力解放】を使って《魔力》を込めた状態で振り下ろした剣は、そのまま《真絶刃》として展開されていき、そして振り下ろした際に発生する衝撃波で敵を斬り刻む――はずだった。

【創世の儀を邪魔するのは――絶対に、許さない!!】

【創神】の声が響くと同時に奴が手に持っていた魔杖の先に展開された魔法陣が眩い光を放つ――それと同時に《魔力解放》がキャンセルされてしまったのだ。それにより俺は《魔刀ムラマサ》による一撃が空振ってしまい隙が出来てしまう。そこに【真絶剣皇】の固有技能である《魔絶流》を使った連続攻撃を繰り出す奴に対し、俺は辛うじて致命傷を避けようとするものの――それでも体に受けたダメージが大きく俺の体はズタボロにされてしまう。

《魔力眼》の能力が使えなくなり時間が元に戻ると、奴はそのまま距離を取る。そして俺は【真絶魔剣】を構え直すと、俺は《真絶刃》を展開しようとしたが何故か出来なかった――俺の持つ魔装武具の全てが使用不能となっていた。

そして《真絶魔剣》に《真装武装》の力を込めて《魔闘練氣》を発動させる――《魔闘練氣》の効果が切れた事で《魔闘気》の力が消失して《真絶刃》が消える。俺は再び魔刀で斬りかかろうとするが――【創世】の力で創り出された魔獣達が立ち塞がり俺の行動を阻害する。しかし魔獣達が俺の前に壁になるように次々と現れるのだが、その全てを俺は一瞬で破壊していく――だがその瞬間を狙い済ましたかのように【創魔】の奴は魔導銃で俺を狙っていた。俺が気が付いた時には既に弾丸が放たれていた――だが俺は魔石と一体化し、《魔法無効空間》を展開する事に成功する。しかし俺に向かってくる弾丸の数は一つや二つではなかったのだ。俺が展開した《魔法無効空間》の障壁と、《魔法無効》を付与した盾が次々と破壊されていってしまう。そしてとうとう最後の一枚となった時に、俺の方も限界が訪れたのだった。

(くそっ! もう駄目なのか? このままでは俺は――殺される!!)

俺は《創造主》の圧倒的な力に絶望してしまう――そんな俺はふと思い出す――まだ《全支配》にはもう一つの固有能力があるという事に。俺はそれを思いつくと《創造主》に対して《同調化》を発動する。《魔眼》は使えないが、俺の持つ他の《固有技能》を使う事は出来るはず――俺はそれを思いつき【真絶刀覇王】を創造する事にした。その能力が【創世】で使えるかどうかが分からなかったため、俺は【創世】の《創世之力》が俺の力と混ざるように設定する。それにより【真絶刀覇王】の固有能力を俺が持つ全ての《真絶》と《神威魔導》と《創造》と《創刃》に付与する事に成功した。

(俺の勝ちだ!!!)

俺はそう叫ぶと共に奴に向かって《真絶剣皇》を投擲するが――その瞬間、目の前に現れた《創造主》の姿が突然消えた。

「なっ!?」

俺は驚きつつも、《神装機竜》を展開しようとするが間に合わず奴の拳を腹に受けてしまう――そして吹き飛ばされる俺に《創絶》の魔石と同化した魔獣が襲いかかってきたのだ。俺は咄嵯に身を翻す――が、《創世》が俺に攻撃しようと《魔力弾》を放つ瞬間を見た。そしてその時の光景を見て確信する――【創造主】である奴が【全知全能】を発動させ、【創世】の発動が終わる前にその攻撃を防ぎ止めた事を。

しかしそれはあくまでも予測に過ぎないために完全に止める事は不可能だったのである。

「くそったれが!!」

俺は《神装機竜》を呼び出しながら叫ぶと何とか《真絶神速》を使って攻撃を回避する事が出来た。

『大丈夫か零児!!』

「何とか生きてるけど――正直危なかった。それにあの野郎の攻撃を完璧に回避できる自信が無いんだよ」

『なら今から私が援護をすればいいんですわね?』

「そうだ。悪いんだけど頼めるかな?」

『勿論ですわ』そう言った後レイリアが《創造》で作った剣を手に持ちながら俺の所にやってきたのだった。

レイリアは《創造》の固有技能によって作り出した武器――剣を持ちながら【創界神域】にいる奴に向けて構えている。すると彼女は何かを待っているのかその場に留まり続けていた。だが次の瞬間、奴の足元に魔法陣が出現したかと思うとそこから無数の腕が出現する。その手が《真絶》を掴み上げると、今度は巨大な《真絶神龍》の腕が姿を現し、そのまま剣を握りしめたのだった。それを見た奴は即座に後退すると《魔力眼》を使用して《真絶神龍》を操ろうとしていた――しかしその瞬間にレイリアは動く。そして手に持っていた《創造剣》で《魔力眼》を斬り裂いたのだ。そしてそのまま《創造》で作り出していた剣を投げつけた――その刃先が【創界】へと続く門に触れて消滅しようとする直前に【創】の奴は魔石を利用して結界を出現させたが、その《真絶魔剣》を弾き返す程の力をその結界に秘めていたのであった。その一撃によって門が破壊される。

《真絶》を掴んでいた《真絶神龍》が消え去ると《真絶》を手にした《真絶剣聖》の《真絶神竜》が《真絶》を振り下ろす。だがその《真絶神竜》は《真絶》を掴んだ際にダメージを受けてしまったらしくボロボロになっていたのだ。そしてその《真絶》の《真絶》による一撃を受けた【創世】が地面に倒れ込む。

【うがああぁあ!!】

悲鳴を上げながらも【創世】の奴は立ち上がると《真絶魔剣》と【魔眼】の剣を両手に持っていた。その剣を構えた状態で【創】の固有スキルである《魔力開放》を使い魔力を放出する――同時に《真絶神龍》を纏っていた奴の動きが止まった。そして俺は奴の体をよく見ると魔装武具と《魔力》の融合している部分にヒビが入っていたのだった。つまり奴の体が修復されているように見えるが、実際は俺と同じように肉体に負荷をかけ続けていて、俺と同じ状態に陥ろうとしているわけである。

(これはチャンスかもしれない)

俺は《神絶刃》を使い、更に《神装武装》の剣を取り出して構えた――【魔刀ムラマサ】と、もう一本の魔刀黒刃刀を同時に使用する――俺の二刀流による猛攻が開始された。二刀流による攻撃に対して【創世】は二つの魔剣で防ぎ切ろうとする――が、次第に【創世】は動きが鈍っていくのを感じていただろう――それは当たり前の話で魔導具として魔剣を使っている奴の魔剣の方が先に壊れ始めたのだ。そして俺は【創世】の魔剣を破壊した直後に魔刀で斬りつけたのである。その結果、奴の右腕は肩から先を失い切断される。だが奴はすぐに自分の腕を拾おうとするが、それを阻止して【魔絶】の《魔力解放》を使って魔刀で斬ると同時に魔力を流し込み破壊する。そして残った《魔力》を使って《神絶波》を発動したのだ。

【なっ!?】

奴は自分の身を守るように《魔力》の障壁を張るが【神絶】と【魔滅波】を融合させた【真絶刃覇】が障壁を打ち破り奴の胴体に直撃する――《真絶刃覇》の効果で奴の《魔力》が乱れに乱され崩壊し始める。しかし奴の体の再生が始まり傷口が完全に治りきっていない状態にもかかわらず《真絶刃覇》に《魔力眼》を発動して俺の《真絶刃覇》に干渉し始めたのだ。

しかし奴が俺に対して攻撃を行うよりも早く俺の攻撃が届いたのである。俺は《真絶魔剣》と《真絶神剣》と《創世》の魔剣を砕いた――それによって《真絶》による力が弱まる――それと同時に俺の持つすべての《固有技能》を使った攻撃を行ったのだった。【創世】が《真絶神魔竜》を使って俺の《固有技能群》を封じようとしたようだったが、《固有技能群》の全てを使用する事が出来ない俺の全力には勝てるはずもなかった。

奴は一瞬だけ悔しそうな顔をするが、すぐに諦めると《創造主》の能力を解放したのだった。それにより奴の全身から膨大な魔力が放たれる。

《――《レイシス》の力を解放――完了――

《創主》となった奴の力が増大していくのが分かる――しかし俺は《創造主》の力を吸収できる。《真絶魔剣》に力を込めていくと奴に《創造》された魔獣や魔人が苦しみ始め、その命が尽きようとしていた。そして俺の《魔装武装》も奴に侵食されていく――しかしそれは【創造】の固有能力を発動させるのを阻害する事に繋がっていったのである。

《創世神器》であるはずの《創絶神龍》の身体が溶けるように崩れ始めていた。

「どうなってんだ?《創造主》がこんな簡単に負けるなんて――そんな事があるのか?」

『分からないけど。多分レイシア級超高度AIでも奴を止める事が出来なかったのかもしれないな』

俺の言葉に《真覇王》のクロキが答えてきた。だがその時俺は気付いた。《真》の奴の様子がおかしかったのに。

「なっ!?まさか――お前――」

『そうだよ――僕の肉体は【全知全能】が造り出したものさ。僕は【創】の奴とは違って完全に肉体がある存在だ。だから君の《固有技能》を使う事も出来るんだよ』

その言葉に驚愕しながらも俺の視界の端ではレイリアの姿が消える。その光景を見た瞬間、俺の《神絶刃覇》の力が緩み、その隙を突かれた俺は腹部を蹴り飛ばされていた。その瞬間、俺は理解してしまう――《創造主》としての【創造】の力で生み出された《真絶魔龍》が【真絶魔剣】の【真絶波動】の威力を半減させ、更に俺の《魔絶刃覇》に力を送り込むために奴の体に負担をかけ続けていた事。そして奴が肉体を《創造主》としての力を使い無理やり修復させて戦っていたのだと。

【これで終わりにしようか。この世界に君たちみたいな強者がいるとは想定外だよ。それに僕自身が肉体を得たのは今回が初めての事なんだ――だけどここで終わらせる】

奴の周囲に魔法陣が出現する――だがその前に《魔刀》を振って魔法陣を破壊する――そしてレイリアが奴の《魔眼》に攻撃を仕掛けて魔法陣の発動を妨害をしようとしていた。それを見て俺が剣を振るおうとした時に奴は《創造》の魔石を使用して【創造魔法】を発動させたのだった。すると【創造魔法】が発動すると俺達の周囲を結界が覆い、そして《真絶神竜》が召喚されて襲いかかってきた。だがレイリアはその結界を破壊して脱出すると《創造魔法》で作った盾を使って【真絶魔竜】の攻撃を防いだのである。

俺はその間に【真絶】を二本の剣に分離させると《魔絶》の魔石を使い《真絶剣技》で強化された魔剣と【真絶刃刀】で《魔眼》による魔法攻撃を弾きながら斬り裂いていったのである。

俺は剣を振り抜く度に【真絶魔剣】の刃先を飛ばす――そして《真絶》を奴の体に向けて投げつけるとそのまま駆け抜けて《魔絶》を振り下ろす――俺が振り下ろした一撃は奴に届く直前で《魔眼》で止められたのだった。

そのタイミングを狙って俺は奴に向けて拳を突き出す。

俺が繰り出した一撃は見事に《魔眼》によって止められたが俺は【創世】が反応する前にもう一撃放ったのだ。そして奴の頬をかすめて地面に激突しそうになる。俺は地面を蹴ると空を足場に空中に舞い上がった。そして《創造》によって出現した無数の剣を全て弾き返すと、【真絶魔剣】と【真絶刃刀】に《神魔武装》を融合した最強の《神魔武装》を発動する。

【――っ!?馬鹿な!!》 俺の目の前で奴の顔が恐怖に染まった――その直後、俺の神速の斬撃が【真絶神竜】を纏っていた【創世】の体を真っ二つにしたのだった。

そして俺は【魔眼】に攻撃を加える――が、奴に《魔力眼》と【創造】の能力を同時に使われて俺が放つ【真絶魔剣】と【真絶刃刀】の《魔絶》は消滅させられる。

俺は奴の頭上まで跳ぶと《魔眼》に向かって剣を投げ付ける――その《魔眼》は俺の攻撃に反応して【創造】の魔眼で《魔眼》を創造しようとした。しかしその時にはすでに俺の投げた剣は奴を貫いていたのである。そして奴は口から血を流して地面に落下したのだった。

(勝った)《魔断剣》に全ての魔力を流し込み、俺を襲おうとしていた【魔眼】の【魔滅波動】を発動させようとしている【創世】の本体を両断したのだ。俺は【創世】にトドメを刺そうとした時だった――

「――《真絶刃龍剣》!!」

俺の背後に回り込んでいた奴が剣を薙ぎ払ってくる――その斬撃に対して《魔絶》が勝手に動いて俺を守るが《創造主》である奴は《魔絶》に干渉して俺の首を落とそうとしてきたのだ。しかし俺も《魔絶》で《真絶刃覇》を作りだし《創》の固有能力である《創造》の魔力を吸収する。そして奴の魔力が弱まったと同時に奴に斬りつけた。

奴が剣を持っている右腕に《魔刀》を降り降ろすと、俺が振るった【魔刀】により《魔眼》の腕が斬り落とされていた。俺は《真絶刃覇》の力を爆発させようとしたが、それよりも先にレイリアの放った【魔砲】の砲撃が奴を襲った。それにより奴が吹き飛び壁に叩きつけられる。そしてレイラがレイリアの元に駆け寄っていった。俺は二人に《神絶》の力を使って俺の周囲に不可視の壁を作ると《創造》を使って俺とレイリアの姿を他の者達には見えないようにする。俺はレイアの事をレイリアに任せて俺は奴の方に向かう。

奴はレイシアや【創世】と同じように全身から《魔力》が漏れ出していた。しかし、それでも俺を圧倒する事が出来なかったので俺は違和感を感じていた。

俺は《魔絶》を《魔刀》に戻すと《真絶魔装》を発動させる――そして【神魔武装】と【魔眼】を融合して【真絶瞳装】にする。《創絶》の【創造】は相手の力を吸い取り自身の物に変えてしまう固有能力だ。ならば【創造】の能力を使わせないようにすれば奴に勝てるはずなのだ。

しかし《真絶》と《魔絶》を一つにして作った《魔刀》を《創》に突き立てるが【創造】の力によって防がれていた。俺は《魔刀》に込められた【魔絶波動】の力を解放する。《魔眼》の力が《創絶波動》の力で抑えられている状況では《創絶》を使う事が出来ないはずだからだ。だが奴は《創絶》を使って俺の攻撃を防ぐと剣を振るって俺を攻撃してくる。俺も奴の攻撃を《真絶刃装》の力で受け止める。そして鍔迫り合いの状態になって互いに押し合う――そして《創》が俺に囁いてきた。

《無駄だよ――今の君に勝ち目はない。それに君にはレイシア達がいる。君は僕を殺すつもりなんだろ? それなら早く殺せばいいじゃないか。それに君の目的は達成されているんじゃないか? 君がレイシア達の魂を解放しなければレイシア達は《創世の光輝神》に飲み込まれてしまっていたかもしれない。しかし君はその力を手に入れようとしている――それっておかしくないか?》 その言葉を聞いた俺は《創》に蹴りを入れると後方に下がった。確かにレイシアの話では【創世の力】という物は神族に害を与える事が出来るらしい。しかしそれは奴の言葉通りだと言う事が分かる。だがそれは奴を倒すために仕方がない事だと俺は思っている。

《それが君の本心かい? 違うよね。僕は知ってたんだ。だからこう言ったんだよ。――僕の体を使えば神を滅ぼす事ができる。だから協力して欲しいとね。でも君はその話を断り続けて最後には殺すつもりだったんでしょ? そんなの嘘じゃないのかなって僕は思ったんだけど》

「――そうか」

俺が小さく呟くと《創》の剣が俺に向かって放たれていた。俺はそれを弾いたが、俺が反応する前に奴の《魔力剣》に《魔眼》の力で強化される――《真絶魔装》を発動させた俺の力を持ってしても《魔眼》の魔力による身体の強化を完全無効に出来なかったのだ。

そして俺の腹部を切り裂かれた。

俺の《魔眼》の【創造魔法】で生み出した《神器》はレイシアの力を借りる事が出来ずに《真絶魔龍》の力を借りて戦っていたのでその力を発揮する事はできなかったのである。そして奴の《創世》は肉体を得る代償として自分の命を消費しながら《魔眼》を操っていた――その事を考えるとレイリアが奴に近付く事で発動したレイリアの持つレイリアの力を利用してレイリアを拘束し《創造》を使った可能性が高いだろう。それかレイリアが無意識のうちに奴を逃がすためにそうしたのかもしれなかった。

俺は腹部を押さえながら《創》を見据えた。《魔絶》は《真絶》を融合させて作るのだが、融合した場合のみ、互いの固有能力を使える。《魔眼》と融合した《魔眼真絶》の力は相手から《魔眼》の固有能力を引き出して使用できるのだ。ただし《魔眼》との融合なので魔力を消費する事になる。しかも融合した状態でも融合を解除しても消費する魔力の量は変わらなかったのである。

俺は痛みに耐えながらも《魔眼》の力を使って剣を生み出していく――《創》を《真絶》と融合させた【魔絶魔剣】と融合させた。俺はその剣を構える――その俺の様子を見た奴の表情が変わったような気がする――しかし俺はそのまま走り出した。奴は俺の行動を予測する為に《創》で攻撃をしてくる。俺は《創造主》の【創造】の《魔力剣》の攻撃を剣を盾にして防御する。その攻撃に俺は一瞬で耐え切るが衝撃を完全に消すことはできなかったのである。

(強いな――)

俺がそう思うのと《創》が攻撃を仕掛けてくるのはほぼ同時だった――その一撃は速く俺は《創》の攻撃を受け流したが、奴の一撃はそれだけではなかった。俺は奴が振り下ろした斬撃を弾き飛ばすと、奴はそのまま俺の背後に回る。俺は背後から襲ってくる斬撃を剣で弾き飛ばした――しかしその直後、俺は背中に激痛が走るのを感じてその場で動きを止めてしまう。すると《創》の追撃が来る――俺は地面に剣を突き立ててその場に留まる。

「お前、本当に何者なんだ?」

「君こそ何者なんだい? ただの人間が《創絶》と対等に渡り合えるなんてありえないよ。それと、僕は『人間』じゃないけど、君はどうなんだろうね?」

「ふざけやがって!」

「別に馬鹿にしたわけじゃなくて、純粋な疑問かな? だってさ――普通は死ぬはずのダメージを受けて、それでいて生きてて、その上、この《魔眼》の能力を使っているのにもかかわらず君からは【魔力】が全く感じない。これはおかしい事だと思うんだよね。だから興味があったのかもしれない。でもその必要はなくなったね。そろそろ終わらせてあげるよ。もう僕を縛るものは何もない。だから本気でやれるんだよね」「待て――」

俺は咄嵯に手を伸ばす――だがその時には《創》の魔力を溜め終わった剣が俺に襲い掛かってきていた。俺はそれを受け止めようとする――しかし、その斬撃の速さが尋常ではなく《真絶魔装》を発動させている俺ですら反応が遅れてしまったのである。そしてその瞬間だった。

《創》が持っている剣が折れたのは――その次の瞬時の出来事である。《創》の斬撃が俺に襲い掛かる直前にレイシア達が《魔眼》と《創》の間に割り込み俺を庇ったのだ。

俺は地面に倒れる二人を見る――そして俺の視界の端に映るレイリアの方を見て愕然としてしまう。なぜなら俺が斬られる寸前に《創造主》の固有能力が暴走して周囲の空間を支配し始めたのだ。俺がそれに気が付いた直後、世界が歪む程の《魔絶》の固有能力を持つ《魔眼》の力によって強制的に解除されてしまう。だがその反動が強すぎて俺とレイリアはその場に倒れこんでしまったのである。

「ごめん、レイジ。油断していた。《創》が私達に《魔力剣》を使わせてくれていなかったら、多分死んでいたと思う」

倒れたままそう告げたレイリアだったが、彼女は全身から血を流していて顔色が悪くなっているように思える。そして彼女の《魔眼》もいつの間にか《神絶》に戻されていた――《創》の固有能力はおそらく時間操作系だろうからそれを止める事が出来た時点で奴は力を使えなくなっているはずなのだ。俺はそう考えて立ち上がる――その俺を見ていたレイシアは《創》の方を睨み付けていた。そして俺はレイシアと《魔絶》に力を注いで融合状態を解くと《真絶》に戻しておく。しかし奴は《創造》の力を使う事なく《神絶波動》を放ってくる。

「無駄だ! いくらやっても《魔眼》の力で【創造】の力が使えない以上は《魔眼》を持つお前が勝つことはない。そもそも【創造】が《魔眼》に勝てる訳がないんだ」

「それはどうかしらね」

俺はそう言って《創》の目の前に現れると剣を振り下ろす。《魔絶》の力で強化され切れ味が増している俺の剣に反応する事が出来なかった《創》は俺の攻撃によって肩を切り裂かれる――《創造主》の【魔眼】を無効化されているせいか奴の表情に変化はない――だが俺の攻撃に驚いた《創》はすぐに《魔力壁》を発動させており無傷だったのだ。《魔絶》が強化された今の状態の一撃でも《魔力》の壁を貫く事が出来ないとは正直思っていなった。しかし《魔眼》の力は強力であっても完全に封じる事ができる訳ではないようだ。

俺はレイシア達を見るとすぐに《創》に向かって攻撃を仕掛ける。《魔絶》と《魔眼》を同時に発動させると《創》に向かって斬りかかる――だが《創》も簡単に攻撃を受けるような奴ではない。レイシアとレイリアを切り捨てるとその場から離れたのである。

レイシアとレイリアに止めを刺そうと動いたレイムとレイラに攻撃しようとする――しかしアリシアはその行動を予測したのか、既に魔法を発動させていた。アリシアの固有魔法である重力魔法の《超加重》――それがレイナに対して使われたのである。その結果、地面の陥没に巻き込まれたのはレイヤとアリサ、そして《創》だけだった。そして俺達はレイアに視線を向ける。

俺は《魔力刃》を発動させる。《真絶》の力で魔力を高めた魔力剣――それは奴が持つ剣と同じものを作り出したのである。それは《真絶》の《魔力武器創造》の応用技術だった。

奴は自分の持っている剣を見ながら首を傾げていたが、それから笑みを浮かべた。

「へえー、面白い事をするじゃないか。ならこっちもお返しをしなきゃいけないなぁ!」

《創》は俺の作った剣を構えると《真絶魔龍》の《魔絶魔剣》に向けて攻撃を仕掛けてくる――だが俺は奴の動きを見切って剣を合わせると力比べに持ち込んだのである。

その戦いの中で俺と《創》がぶつかり合うと周囲に強烈な衝撃波が生まれた。

《創》の《魔力刀》と《真絶魔剣》が激しくぶつかり合っているが、レイリアの力を使った《創》が優勢だった。その事実に俺が焦りを覚えた時、俺の背後に回っていた《創》の《魔力刃》が襲ってくる――その攻撃をレイシアが防ぐとレイリアがレイヴィアを使って援護に入る。レイシアに攻撃を妨害された事で奴は舌打ちをした――しかしその時にはすでにレイリアスの力を使って《魔絶》を強化しレイリアの姿になったレイリアが迫ってきていたのである。

レイリアと《創》の力の均衡が一瞬崩れた――俺は《真絶魔装》を発動させた後に、剣に魔力を込めて《真絶》と融合させて《真絶魔剣》にする。そして魔力を込めた魔力剣はレイシアの《真絶魔剣》と《創》の《魔力剣》と拮抗しあうが――しかし俺はその魔力を爆発させた。その衝撃に俺は後方に吹き飛ばされるが《真絶魔剣》は手放さなかったのである。

「はあ、まさか僕と同系統の力を持つ存在がいたなんて思いもしなかったな――だけど《魔力》を持たない君はこのまま負けるだけだよ」

「さっきまで《創造主》の力を封印していたくせによく言うな」

俺はそう言いながら立ち上がった――その時、俺は違和感を覚える。《創》の言葉には妙な説得力があったので俺はつい反論してしまったが――《創造主》が俺を騙すためにあえて《魔眼》を《創》の前で使わなかった可能性があるからだ。その可能性を考えてしまうと《魔眼》が《創》に通用していない可能性もあるのである。

(もしそうだった場合、《魔眼》の力が通じないとなると俺はレイシアに《真絶魔装》を使わせる事もできないって事になるんだよな)

俺はレイシアを見る――《真絶魔装》がレイシアの身体に負担を掛けている事は間違いないだろう。だが現状はそれ以外に手がない。

そんな風に思っている時、アリシアとアリッサは俺の隣にやってきた。二人は俺の方を見て何かを訴えるようにじっと見つめてくる。

「アリシア様と、私達が協力すればあの男を止められると思う」

「そうです、兄上。この二人と私で協力します。今こそ《神滅覇王》としての力を使う時だと思うんです」

「いや、ちょっと待ってくれ。確かに二人の力は凄いけど、《魔眼》の力がある《創》に勝てるとは思えないんだ」

俺は二人の提案を拒否する。だが二人はそれでも引く事は無かったのである。

「レイ兄が心配してくれるのはありがたいけど、もう限界に近いんだ。だからお願い、信じて。私はレイ兄の為ならば何でも出来る。だから――」

レイティアの必死そうな言葉を聞いて俺は何も言えなかった。

俺はアリシアに視線を向ける――だが、その時にはレイリアは既に動き出していたのである。そして《創》の前に立った彼女はレイリアの姿のまま《魔断》の力を纏わせた《神絶魔龍》を地面に叩きつけた。

その瞬間――大地が大きく揺れたのだ。レイリアの攻撃を受けた箇所を中心にして巨大な亀裂が走ったかと思うと《創》と《レイ》と《レイア》がいる地点を丸ごと呑み込んだ。まるで世界そのものを引き裂いたかのような現象が起き、地面が崩れたように思える。その威力を目の当たりにしてしまった俺は絶句してしまう。なぜならそれはレイシアが使う事が出来る唯一の《魔眼》であり《創》と互角に戦える《魔眼》なのだから。しかもそれを躊躇いもなく放った事に恐怖を感じてしまったのである。だがレイリアはそれだけではなく続けて《創》が逃げられなくなるように重力波を放ち続けていた。その結果、《創》は身動きが取れなくなってしまうのだが、それを見ていた俺は呆気に取られてしまう――なぜならその技は《魔絶》の力で強めたレイリアの攻撃を何度も受けなければ成立しないはずのものだったから――。

――《神眼》の力は想像を絶するものだ。俺が思っていた以上にレイリアの力が強くなっているようだった。そしてアリシアはその様子を見るとすぐに俺の手を握った。その行為の意味はすぐに分かる――《創》を倒すために必要な力を俺に分け与えるつもりなのだ。俺はその事を考えるとアリシアの手を握り返す。すると彼女の《真眼》を通して膨大な情報が伝わってきたのである。

レイシアの力を使った《神眼》で見た光景を見た俺は思わず息を呑んでしまう――そこに映し出されていたのはかつて《創造》が行っていた事、つまり《創造主》が生み出した全てのものを消すというものだった。《創造》の力で作り出されたものを全て消滅させる事が可能だとしたら――レイシアが使っているような能力では《創造》を止める事が出来ない事が分かってしまったからである。しかしアリシアの能力も同じように危険だと言えるだろう。

《魔絶》を強化する事ができる《真絶》の《創造》に対抗する力を使うという事は《創造》による《創絶魔装(そうぜつまそう)》の力を封じる事になるのだ――それ故にアリシアの《真絶》の強化は命の危険に関わるかもしれない危険な方法でもあるのだ。だからこそ、ここで《真絶魔眼》を使えば間違いなく俺は死ぬ可能性があったのだった。「お兄ちゃん、大丈夫。私達は絶対に離れないし負けないよ。お姉さまも私達もみんな一緒にいる――それだけが事実。お父様だってずっと傍にいるはずだしね」

「――そうだな。よし、じゃあやるか!」

「うん! 私も頑張る」

アリシアは嬉しそうに笑みを浮かべた。その表情を見ると俺は不思議と落ち着く事が出来たのである。

そして次の瞬間にレイシアが《超加重》を発動させるとレイシアの周囲の空間に歪みが発生した。それにより奴は身動きが取れない状態に陥る――その好機を逃すまいとアリシアが動き出したのである。《創》は重力に抗おうとするがそれも無駄に終わった。重力が更に強化され地面がさらに陥没すると、《創》の身体は引き千切れそうになった。しかしレイシアの力を受けて《魔眼》の力を強めたのか、何とか耐え抜く――。

レイシアとレイリアの力を受けた状態では《魔眼》の力を強化されたとしてもレイシアの方が強いのか? だが奴はまだ諦めてはいないようで不敵な笑みを浮かべていたのである。

その表情を見ていたアリシアは不安そうにしていた。おそらく奴の考えている事が分かっているのだと思う。それは――このまま押し切られたら《創造》を発動させるのではないかという予感だったのだろう。だがアリシアが《魔眼》を発動させようとした直後、俺達の視界が一瞬にして切り替わる――気付けば、俺はアリシアを抱きかかえて移動した《創造》の攻撃を紙一重で避けた所だった。そしてそのすぐ後には奴は俺達が先程までいた場所に攻撃を加え、地面を大きく揺らしていたのである。俺はレイリアを抱えて後方に飛び、アリシアとアリッサにアイシアの《魔力壁》を展開すると敵の攻撃を防ぎながら、アリシヤに視線を向けた。

「アリシア様とアリッサさんは二人でレイジに協力してレイナとアリサをお願いします。俺達が《創造》の動きを食い止めますから。それとレイリアと《魔絶》の力を強化した後、すぐに俺に渡してくれませんか?」

アリシアは俺の顔を見上げてこくりと首を縦に振ると俺に近づいてきて、その手を俺の頬に触れさせた。そして自分の唇と俺の唇を重ねた。そして彼女はゆっくりと口を離し、微笑むと俺の事をまっすぐに見つめてきたのである。そして《真眼》を発動しアリシアは自分の持っている全てをレイシアへと注ぎ込んだ。

《真眼》の力を発動してレイピアの力を解放した事でレイシアの力が一気に跳ね上がる。同時に俺の中にアリシアが持っていた力が流れ込んできた。その瞬間、まるで自分が自分ではなくなっていくかのように感じたが俺は《魔力刀》に《魔力真絶》を融合させたのだった。その行動はレイリアがやった事に非常に酷似していたが――俺は《魔力真絶》と融合した状態の魔力剣を両手で構える。《魔力真絶》は魔力剣を強化する効果があるので《創造》に対して有効的だと判断できた。それにこの魔力剣はレイリアの力を使ってレイシアの身体に負担が掛からないように作ったので、《魔力真絶》を《魔眼》の力を上乗せすれば更なる効果が発揮できるのではないかと思ったのである。

そんな俺の様子にレイジは目を丸くするが、すぐに《創》の姿に戻ると同時に俺に向けて走り出す――。

俺に《魔絶》と《魔装》を組み合わせた攻撃は使えないと高を括っていたのかもしれないが、そんな事はどうでも良かった。

《神滅覇王》が発動している今の俺ならレイシアの攻撃すら簡単に無効化出来る可能性があるのだ。

俺はレイシアから受け取った《魔眼》の力を最大限に活かす為に意識を高めていくと、脳内に膨大なイメージ映像が映り始める。その情報量はとてつもないものだったが俺は《魔力視》を発動させて《神魔眼》に宿った能力を使いこなし、レイシアやレイシアリア、アリッサやアリシア、それから《創造主》の力の流れを感じ取ったのである。その結果――《創造主》の力はレイリアから流れ出ているのを感じたので俺は迷わず《創絶魔眼》を使った。その結果――レイアの持つ《魔絶》の力が《魔絶》を強化して俺の方に流れてくる。その力はレイリアの物だったので《魔眼》の力との相性が非常に良く、《魔絶》の力を遥かに凌駕する事に成功した。

俺はレイシアが作り出した《魔眼》の力を《神器級》まで引き上げて《創》に向かって放ったのである。

そして《創》は俺が放った一撃を避ける事が出来ずに直撃を受ける。その直後、《魔眼の力》の効果により、《創》は跡形もなく消滅したのである。《魔眼》には《創》の消滅と共に、レイリアとレナートが生み出した世界が崩壊する光景が見えたのだ――。

世界が崩壊していき、レイリアとレイリアリアも消滅してしまうが二人を助けようとすると、《創造主の力》が働いてしまったのか二人の姿が消える。

俺は思わず焦ってしまうのだが――世界の崩壊は徐々に収まっていったのだ。まるでレイジアの世界が修復されていくように感じられたのである。その光景を見た俺は思わず笑みを浮かべてしまった。

なぜなら――レイリアの力によって破壊された世界が完全に修復されていたからだ。

レイアは世界を崩壊させる事でレイリアとレイリアリアの命を代償として、完全に元通りにしたのである。

だがレイシアの《真眼》の力を持ってすればその状態を元に戻せたはずなので俺はホッとしていた。

「これでレイリアの力をレイリアに戻す事が出来るから大丈夫だろう。アリシア、アリッサ――悪いけどレイリアとレイリアリアを安全な場所に連れていってくれないか?」

俺はそう言うとレイシアから貰った《神眼》の力とレイシアから受け継いだ《魔眼》の力で得た《魔眼》の力を発動する。

レイシアの《創》の能力はレイリアとレイリアリアの二つの魂の力を利用して作られた存在であり、《創造主》の力が生み出した力であった。その能力の性質を理解した事で《魔眼》の能力が強化され、それを元にレイシアの力を強化する事も成功した。だが《創》の力を全て消す事は出来ても奴自身が《創》の存在そのものとも言える《真絶》を完全に消し去る事は不可能なのだ。だから今はまだ倒していない。《創》を完全排除するには《創》自身を倒す必要があるのだ。俺はその事を頭に入れながら目の前にいる《創造主》の姿をした存在と対峙した。

すると《創造主》は俺の姿を見てニヤリと笑みを浮かべる。

「驚いたよ。まさか君が《魔眼》を使った僕に対抗し得る力を手に入れていたとはね――正直な話、かなり驚いているよ。僕の《創造》を超える力を手に入れた人間なんて見たことがない。それがどんな意味を持つのか君は知っているのかい?――君の命は長くないんだよ」

《創造主》の言葉を聞いた俺は不思議そうな表情をしていたと思う。どうして《創》を超えたら命に関わるのか、そもそも命を気にするような相手なのか? と思ってしまうほどだ。それにレイシアの《魔眼》は強力すぎて使いこなせていない状態だというのに、《魔絶》を強化されただけであれだけの威力があるのである。もし《魔絶》を限界まで強化された状態で使えばどうなるのか――想像できなかった。しかしレイシアの力を得た俺にとってみれば、それは恐怖心を与える言葉ではなかったのである。

「俺を殺す事ができるって言いたいんだろ?――でも残念だったな。もうお前に勝ち目はないぞ。だって、レイシアにもらった《魔眼》のおかげで俺の方が強いと証明できたからな」

「ほぅ――まだその減らず口を言う元気が残っているというわけか。ならば、すぐに殺してあげるよ。君を殺して君の大切な仲間も殺してあげようか?」

その言葉を告げた《創造主》の身体はレイラの姿に戻っていく――その身体は透けていた。《真眼》を発動させると奴が《魔眼》で姿を見えなくしている事が分かる――だが、俺は構わず《真眼》の力を発動させた。《真眼》の力を発動させると、俺の目には《創造主》がレイラの姿で透明になっている事が分かり――その瞬間を狙って《魔力刃》を放った。《魔力真絶》と《魔力絶》の融合した状態の攻撃である。《魔力真絶》は魔力剣に魔力を通す性質を持たせることが出来るので攻撃に転用するのは簡単だったのだ。

その攻撃が直撃したレイラは一瞬にして消滅し、俺の背後に姿を現すが俺が《魔眼》の力で見ている事に気が付きすぐに姿を消してしまうが――今度はアリシア達が攻撃を仕掛けるのが見えた。俺はアリシア達が仕掛けようとしたのと同時に、レイシアの力を借りた事で《魔絶》を強化されている状態だったが――その状態から更に《魔眼》の力を解放したのである。《魔絶》を強化するのは勿論の事、《魔力絶》をも融合させる。

《魔眼》をフル活用した攻撃を行う準備を完了させ、レイシアに頼んで作ってもらった《魔力剣》を構え――レイシア達よりも先に攻撃を仕掛ける。《創造主》の身体はアリシア達の攻撃を受けた時に出来た穴が開いていたのだが《創》の姿に戻る事は出来ず、俺は《魔力真絶》と《魔絶》を融合させた《真眼》を発動させたまま《創真刀技》を使う。

そして《創造主》に向かって突撃し、レイシアに作ってもらっていた魔力剣を突き刺す。《魔力真絶》の特性により魔力が通った剣を俺は全力で振り下ろす。その剣撃は《創造主》に突き刺さった魔力剣から魔力の波動となって周囲に放たれ、周囲の物は全て破壊される――《創造主》自身も例外ではなく身体の半分を消失させられたのだった。俺は《魔力真絶》を《魔絶》に戻した事で魔力を補充できた為、もう一度同じ技を放つために剣を振り上げようとした――が、次の刹那。俺は全身を襲う強烈な痛みに襲われたのである。

(な、何が起こっている?)

《魔眼の力》を使っているはずなのに、何故かレイシアの声だけが脳内に直接聞こえてきた。

(ご主人様! 私です!! レイシアリアですよ!!!)

俺の中にいたレイリアと別れた後にレイシアの中に入ったらしくて彼女の姿に変化していたのだ。

(お久ぶりですね、ご主人様。私はレイシアに意識の一部を憑依させていたんですよ♪)と彼女は言ったのだがその話はまた後日にする事にした――なぜなら――

(それよりもご主人様に一つ伝えなければいけない事があるんです――実は《創造主》の力が《魔眼》を通して私の中に入ってきているんです。そして――その力を吸収してしまいました)と衝撃的な発言を聞かされてしまったからだ。

《創造主》の力を取り込んだと聞いて俺は思わず呆れ果てていた――なぜレイリアがレイシアの中にいるレイシアとレナートと共にレイシアの世界へ逃げ込んでいたのか理解できてしまった。恐らくこの世界の力を取り込みレイシアの力を強めようとしていたのだろう。その結果、レイシアリアが俺に襲いかかってきた理由が判明したのである。

そしてレイリアが《創造主》の力と融合した事により――《創造主》が《魔眼》を使った時、レイシアリアの力が流れ込み、俺は《魔眼の力》の強化に成功していたのだ。その結果レイシアの能力は俺に大幅に影響を与え、《創造》を無効化する事にも成功した。

そして俺は《創造》によって生み出され、そして吸収されたはずのレイアの存在を感じていたのである。その感覚はレイアと同じ《創》である存在だからこそ分かるものだったのだ。その事を考えると《創》が《魔眼》を介してレイシアの中に入ってきた可能性もあった。つまり――奴が作り出した存在であるレイリアの力を使ってしまったが故に《創造主》の力も使えるようになってしまったかもしれない――というのが真相なのだと思う。

レイリアから受け継いだレイリアリアやレナートの記憶を見る事が出来る《創絶眼》の使い方を俺は完全に忘れていたのである。それだけではなくレイリアリアの力を使った際に手に入れた記憶は《創絶眼》の能力を使えば思い出せると分かっていたはずなのだ。だから《創造主》が《魔眼》の力で姿を消しても《魔眼》を発動させていれば《創》を見破れたはずである――なのにレイシアに意識を向けていたからレイシアの方にばかり注意を向けていて、レイリアの力の《創造主》に気付けなかった――レイリアの力を利用してしまう事で逆に自分の弱点を増やしてしまっていたのだ。それだけでなく《創造主》の力によって《魔眼》が強化されていたので《創絶眼》の力を完全に使いこなす事が出来ていなかった。《魔眼》を強化するだけならいいが、強化した《魔眼》の能力を使いこなせないと意味がないのだと痛感したのであった。

「くそっ!」と俺が声を上げると、俺の目の前に突如としてレイシアが現れたのである。そのレイシアの姿を見てアリシア達は驚いていた。俺もまた驚いた――そのレイシアの姿が消え、《創造主》の姿になっていたからである。

俺は《魔眼》の力が強すぎたせいでレイリアに完全に意識を持っていかれてしまっていたようだ。レイシアとの《同調率》は100%なので俺の《魔眼》の影響を受けやすいというのもあるが、それだけではなさそうだ――《創造主》が持つ力があまりにも強大なせいでもあった。だから《魔眼》をフルに使ってしまった俺は、《創造主》の力も使えるようになっていた。

「ふむ、これは驚いたね。まさか僕の力が使えてしまうとは思わなかったよ」

「お前は一体何者なんだ? どうしてそこまでして俺達を殺そうとするんだ? 俺がレイリアに《創絶眼》の力を使った事で何か問題が起こったみたいだけど、それでも俺を殺しに来たのは何が目的だ?」

俺の言葉を聞いた《創造主》は、ニヤリと笑みを浮かべてからゆっくりと口を開く。

「それは僕の正体について話せと言っているようなものだ。でも残念だったね。今の僕はただの力を持たない人造生命体に過ぎないんだよ。まぁそれも僕の意思ではないけどね。僕にはどうしても君達を殺しておきたい理由があるんだよ――理由はいずれ話すさ。僕に殺される前に聞き出す事を勧めておくよ」「待て!!」と俺は言うが《創造主》は姿を消したのである。俺は追いかけようとしたが――アリシア達が止めてくれたおかげでどうにか踏みとどまった。「アリシアさんはどうしますか? 私はあの男を殺すべきだと思っています。それにご主人様と一緒であれば《魔眼》を使う事は出来ると思いますよ」とアリシアが言った。

レイシアに言われたように確かにレイシアにもらった力は残っている。

しかし――その言葉に俺は躊躇してしまったのである。

その言葉はアリシア達の為なのか、それとも自分が死にたくないと思っているのかは分からなかったが――《魔眼》の力を解放してまで追い掛けるべき相手では無いと思ったのである。俺は《創絶眼》を一度解いてレイシア達の方へと向き直った。

「みんな――レイアを助けに行く方法を見つけたんだ――それでレイシアには協力してほしいんだけど大丈夫かな?」と言うと、アリシアはレイシアの顔を見ながら尋ねたのである。

レイシアが答えようとする前にレイシアの中からレナートが現れ、レイシアの姿に戻った。そしてレナートはレイシアの体から抜け出してアリシアの元へと向かい抱きしめたのだ。そんな二人を見ていた俺は少し微笑ましく思いながら《真眼》を解除すると《創造主》の居場所を確認する。俺に抱きついた二人は泣き崩れそうになってしまっていたのだが俺はレナートが持っていた短剣を受け取る事にした。レイシアはレイシアの使っていた短剣を持っていたらしいが今はレイシアの中にいるのである。

レナートの持ち物は《収納空間》に入れておく事で時間が経過しないようになっている。俺はレナートから渡されたレイシアの剣と鞘、そしてレイシアの剣が入っていた筒も回収しておく。

そしてレイシアの方を向いてレイラの剣と剣帯を受け取った。レイシアの剣とレナートの持っていた武器が入った箱を持って《転移》を発動させた。俺達の目の前に広々としている遺跡が見える場所に姿を現したのである。俺は《魔眼》を発動させて《真眼》を発動させる。《真眼》に映っている光景は、先ほど《創造主》と《創造主》の生み出した存在である《神獣王》と戦った場所の近くに存在する森の中にあった神殿跡のような建物の中で戦闘を行っていたレイアの様子を見る事が出来た。俺はレイアの姿を目視する事が出来なかったのだがレイアの剣に反応する事ができたのは《真眼》の力のおかげなのだ。

《魔眼》の力を利用してレイシアの中に入り込んでいる存在を感じ取る事はできたがレイシアの中の存在の気配が感じられなくなってしまっているため、その存在に気付かれてしまった可能性がある。

そのせいでこの場所から立ち去った可能性はある――が、レイヤが《魔力操作》の能力を使う事ができなくなっている事は間違いないだろう。

何故ならレイヤの持つレイリアの力を使ってしまえば、レイアにレイリアの記憶が残るはずだからだ。だがレイシアの中の《存在力》の中に感じる二つの気配から、レイアに残っていたレイリアの力は全て消え去ってしまったようだと判断する。そして《魔力感知》で調べた結果、《魔力感知》の範囲内にはもう何も残っていない事が分かった――その事から俺はこの世界に存在するレイアに力を注ぎ込んでいたレイリアの力が全て消滅してしまったのだと理解したのである。そのレイシアの中にある《創世ノ力》の反応は弱々しくなっていて、今すぐ消滅してしまいそうな程危険な状態だった。

そしてその《創界眼》の反応から俺はこの世界のレイアの生命力が枯渇しかかっている事を悟る――俺の力を分け与えて命を助ける事は可能だったが、それをする気はない。

俺はレイリアの命を救うつもりはなくレイリアに死んでほしいのだ――《創造主》を倒すためには彼女の持つ《創造》の力が必要だからだ。だから俺はレイリアを救おうとしなかった。

そしてレイシアが《創造主》の力を取り込んだ事を知ったレイシアが《創》を使いこなせるようになった事でレイシアに俺の力を与える事が可能になったが、俺の身体が持たない可能性があった。その事を考慮すると俺はレイシアの中に存在するレイリアの残滓を全て消し去る事を選択したのである。《魔眼》を使って《創造主》が残した存在も全て消去する事に決めた。レイアの人格データが残っている可能性もあったが《創造主》を倒さない限りレイアに新しい肉体を与えれば同じ事になってしまうので、レイアの人格データはレイリアに《吸収眼》を使ってもらうことにしたのであった。レイリアの中に存在していた存在を《吸収眼》を使って吸収してもらう事で《創造主》が残した《創絶眼》と《創造》の力を持つ存在を消滅させる事にしたのだ。レイシアの中に残った《創造》の力は俺が《創造主》を倒してから俺の力を与えて利用するつもりだ。俺もレイシアと同じように《魔眼》と《創》が使えるようになっていた。だからレイシアの《創造》の力と組み合わせると、更に強くなってくれるかもしれない。

だからレイシアにはこれから俺がやろうとしていることを説明しておかなければならなかった。俺はレイシアの剣と《創造主》から奪い取ったレイリアの剣を手にして立ち上がる。

「お兄さん、まさか《創造主》と戦うつもり?」

「あぁそうだ。レイシア――悪いけど一緒に来てもらうぞ。俺一人じゃレイシアに力を全部渡せないし、それに《創主》に《魔眼》を使わせなければあいつがどこへ消えたのか探れないだろう?」

「うん。そうだね。私が行くよ」

俺とアリスシアはそう言葉を交わし合うと、俺はアリシアを連れてレイシアが《魔眼》を使いレイシアの中から出てきた《存在力》に近付くと、アリシアの手を離す。そして俺は《収納空間》の中からレイアとアリシアに渡すはずだった短剣を取り出す。俺が持つ剣とレイシアがアリシアに託したレイピアが合わさり、レイリアの短剣が二本出来上がった。そしてレイリアの短剣を右手に持ち、俺はレイリアがレイシアに預けていた短刀とレイシアの短刀が合わさった一本を左手に持った。これで準備は整った――《魔眼》の力を使えばすぐに《創主》を見つける事ができるはずなので、俺は迷わずに《創造主》が居る場所へと向かったのである。

*

***

レイシア達から離れた俺は、《神獣王》が戦っていた場所まで向かっていた。そこには《存在》の力が大量に集まっているのが確認できた。そして俺はその場所に辿り着くと地面に《魔眼》の力で穴を開けた。俺が開けた穴の底にはレイリアの姿があった――レイナと同じ顔をしているがレイリアは死んでいるのだ。俺はそんなレイリアの遺体に対して短剣を突き立てた。すると遺体のレイリアの胸元から光が放たれたので俺は《真眼》の発動をやめた。《魔眼》を使ったままでは光が見えないため、俺は一度真眼を閉じて目を慣らしてからもう一度開くと光の中にレイシアが吸い込まれるのを確認する――レイシアの意識と体が分離する瞬間を見るのは初めてだったが、その現象自体は知っていたのである。

それからしばらくしてからレイシアは無事に姿を現すとレイティアが使っていたレイシア専用のレイアの武器である槍を片手に持ってレイナとレナートに視線を向けた。俺はその様子を確認して《魔眼》を使う事にした。

《創絶眼》はあらゆるものを創造出来る眼である事はレイシアに聞いていたので、俺はまずレイアを作り出した時に使った《魔導具 創造の器》を作り出すと《創造》を発動させた。

すると目の前に光の塊が現れてその中から小さな白い人形が現れた。俺が作り出したのはこの世界のレイアだった。俺はそのレイアに《創造》の能力を使って魂を生み出し、その魂を俺が作った人造生命体であるレイシアに移した。

その結果、レイアはレイシアになった――が、まだ終わりではない。レイシアが持っていたレイリアの力をレイシアに移す必要がある。レイアの身体にはもう既に《存在》の力は殆ど残っておらず、このままレイシアに力を移したところで死ぬだけである。俺はレイシアが持っている《魔眼》と《創造主》の力を奪う必要があったのだ。そして《創造》の力は俺自身に使う事も可能だが、それは最後の手段でしかなかった。

《創世ノ神眼》は《存在力》を大量に使用するがレイアから奪う事で《存在力》の枯渇を免れられると考えていたからだ。

だから俺は自分の中に《存在力》を注いで《創造》の能力を使う事が出来るようにしようと考えていたのである。だが《存在力》を補充するための《創造》を発動させればレイアから奪った力を消耗してしまう事になる。それを避ける為の方法はあるのだが今は時間が足りなかった――その為俺は別の方法を試した。《創造主》の能力である《魔眼》の力が俺の想像通りのものであれば上手くいく可能性が高かったので、俺はレイシアからレイアに移さなかった《魔眼》を使って《創造主》から奪い返した《創界眼》の力と《創造主》が生み出した《魔眼》の一つを《魔眼》を使って吸収する事に決めたのであった。俺はそう考えて《創造主》が作り出したレイリアの力とレイアに宿っていた《魔眼》を一つだけ《魔眼》を使って取り込む事に成功した。それにより一時的にではあるが俺はこの世界に存在する全ての《存在力》を取り込む事ができるようになったので《魔眼》を使って《存在力》の力を《創造》の力と変換する事にしたのだ。そのおかげで俺の体内に存在していたレイシアの中にある《創》と《創造主》の力の一部も《存在》の力に変換したのである。

だが《創造主》が残した存在力はまだ残っている。それを全て《存在力》に変換するのに必要な時間もかかる。それに今は魔王軍が進軍中でいつ襲撃されるかも分からない。この世界に残されている時間はもう僅かしか無かった――だが俺は迷わずに魔王軍と戦う覚悟を決めたのであった。レイアが残してくれた《創造》の力とレイシアから奪い取ったレイスの力で俺はレイリアに残されていたレイリアの力を取り戻す事にしたのだ。そして俺達がこの世界で生きていくための《存在力》を創造する必要があったのである。

だから俺は魔王軍と《竜魔眼》を使って戦う前に《創界眼》の力を解放することにしたのだ。《魔眼》を使って《魔眼》を吸収しようとした時とは違い、俺の意思をはっきりと保つ事ができている。俺の中の《存在》の力は全て《創造》に変換されたのだと判断する。だから俺は自分がやろうとしている事のために必要な力をイメージしながら両手を前に出すと、その手にレイリアの力と《創世ノ神眼》と《創造主》の力を集めていったのである。

すると手の上にレイリアに残っていたレイリアの身体が乗っている姿が見えた。俺の手に乗った存在は身体の半分くらいしか残っていないがそれでも十分の大きさを持っていた。その存在からは強い意志が感じられた――どうも《存在》の力のほとんどを使い切って《存在力》へと戻したが俺が創造するために必要だと感じた量よりも少ないらしく、それでいてレイシアの中に入っている《存在》よりも多く存在していたのである。恐らくだが《創造主》の力は存在力を全て《存在》の力を持つ存在に《存在》の力を戻す能力があるようだ。《創造主》はレイリアの力を全て俺に返すのではなく、存在力の一部を俺に返し、残りをレイリアに返したらしい。俺はその事を理解した。だから俺は存在力でレイシアを包む事にしたのだ。

そうしないと俺が《創造主》から貰った《魔眼》の力で創造を行ったとしても存在力が足りない可能性があり危険だと考えたのだ。創造には膨大なエネルギーが必要である上に、レイシアの中に存在しているレイリアの存在を全て《創造》の形に作り替える必要があるため、俺自身が持つレイリアの存在を消費してしまえば俺が俺ではなくなってしまいかねないという懸念があったからである。俺は《創聖》の力とレイシアとレイラとレイナから《存在》の力とレイリアの《存在》の力を《創造》に集めながら《創造》を使う事に集中するのであった。


* * *


***

レイシア達がいた場所から遥か離れた場所では二人の少女と一人の青年の姿が存在した――それはアメリア王国で《魔導姫》と《戦姫》と呼ばれている者達であり、二人の少女はレイシア達の方に視線を向ける。

「レイシアちゃんとレイジがレイシア様を助ける為に動いてくれているみたいね。でもまさかレイリア様まで蘇らせるとは思いもしなかったわ」アリシアは小さく微笑みながらレイシアの方に視線を向けて呟く。

「ふーん? そんなこと私達に言ってもいいのかしら。アリシアお姉さんは私達と一緒に来てくれなかったんだし、私がアリシアのお兄さんの所にいけばレイシアお姉さまは一人になるわけだし」レミアはアリシアを見ながら笑った後でレイリアの方を見た。

アリシアとレミーは共に《創主》と呼ばれる男に作られた存在であったが二人は仲が悪かった。というのも元々アリシアルとレミナとレヴィアの三人が別々の場所で同じ《存在》を持つ人間から生み出されたのだが三人には大きな違いが存在していた。アリシアは元々戦乙女として作られたが、彼女は戦いを嫌い平穏を求める性格をしていたのだ。一方、姉のレミンには争いを好み戦闘狂ともいえる面があり、妹のレミナには好戦的な性格をした人物が多かったのである。

そのため姉妹同士で対立しており、アリシア達は《戦》を司るレイアによってレイリアの護衛を任されたため、二人共創造主の敵になったのだ。しかし、そんな二人に新たな役目を与えられたのだった。それはレイシア達を監視させる事である。

その命令を聞いたレミナとレアンは当然のように反対したが結局は命令に従わざるを得なかった。だが、その事でレアナが《魔眼》と《魔眼》を使った《創造主》の攻撃をレミナに食らわせてしまったのである。それによってレミナの命を奪ったレニアはその罪を贖う形でレイアの手で処刑されてしまい――代わりにアリアンナがレイピアの妹であるアメリヤにその座を譲り渡したのだった。その後で残ったレネアとレアとレナも処分される事になり、最後に残されたレアナが《創世ノ神眼》の力を奪う事になったのである。その時から既にレイナの存在は失われていた為、今のレイシアの体の中には存在しなかった――つまりレイナはもうこの世界にはいないはずだったのだ――

そしてアメリア王国の《魔導師》達が動き出しレイシアを捕まえる計画を立てた頃、《魔眼》の能力で未来を見透せるようになったアリエナシアは自分の力を使ってレイシアの行き先を知る事が出来たのであった。レイシアが向かおうとしている場所にアメリシアは同行していたのだ。そしてその目的地に向かう馬車に乗り込んだ時に、アメリア王国から脱出した時に一緒に逃げて来た者達と出会ったのである。そのおかげでレイシアが一人で行動せずにすんだので良かったと思っていた。だからアメリアから離れてレイシアとレイナを助けようとしているのだ。だがレイシアがこの世界の人間から《創造主》を護ろうとしてレイティアの《存在》をレイシアから奪った事はレイアから聞いて知ったのである。レイシアが自分の身を削って誰かの為に動くなど信じられなかったのだ。レイシアの行動原理は基本的に他人のために行動するものではなく自分のために動くはず――そう考えてきたからだ。

レイシアがこの世界に残してきた家族に対する想いが強いことは分かっていたが、レイシアが自分達を捨てていったレイリアに対してそこまで想っているなんて考えた事がなかった。それにアセリアからレイシアについて色々と話を聞いた時は驚いた。そしてその話を聞けば聞くほどアシアの心に疑念が生まれていき、アシア自身も信じたくはなかったが事実だと確信せざるを得なかったのである。アセリアが言ったレイリアが自分やレイナを捨てていなくなった理由があまりにも悲しかったのだ。

だからこそレイシアと再会したレイナにアシアは何も言わずにレイシアの元へ行かせたのだ。今はまだレイシアを信じたいと思いレイシアの気持ちを優先するべきだと考えたのである。

だからレミナとレアの二人は《創世》の力で作ったレイシアを慕っている者だけを集めた部隊を作り出した。それが現在のレイシア救出部隊に繋がっており、アリシアもその一員として選ばれた。アリシアが選んだ理由は単純なものだった。レミナもレミーも同じ理由なのだが。だがそれだけではないのだ――レミアの《戦姫》の力なら《創聖眼》による《存在》の操作を行う事も出来るからである。レイシアを救う為の手段を考えついた時の話である。そこで三人の天才が話し合いを行った結果、ある結論が出たのである。その結果からアリシアが選ばれたのだ。その理由としてはアリシアの使う《魔術》が他の能力と比べて優れていたのである。そして三人のレイシアを慕っていた者達は皆、それぞれ得意分野を持っていたのもあった。そしてその部隊の中で一番の戦闘力を誇っていた者がレイシアの元にたどり着く可能性が一番高いと判断されたのだ。


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そしてアリシア達がいる場所は魔王軍の砦がある街から数キロ離れた場所である。その場所から魔王軍の動きを《魔眼》を使って見つめていたが――

魔王軍はもう間もなく魔王軍と魔王軍が率いている軍勢が到着する事になっていたのだ。しかも今回の目的は《勇者殺しの剣》を回収する事にあるらしい。そのためにまずはこの街を破壊する事から始まるようだ――その事にアシアやレミアが怒りを抱く。いくら魔王軍とはいえ、罪のない人達を犠牲にするような行為をするのは許せないと感じたからである。だがアリサの策では魔王軍がこの場所に攻め込んでくる前にレイシア達がこの場所に到着してしまう可能性があると気付いたアシア達はどうするべきかを考える必要があると理解するのであった。

「とりあえずは魔王軍の攻撃をなんとかしないといけないみたいだね」

「うん。レイシアお姉さまにもしもの事があれば大変だよ。早くレイシアお姉さまに会いに行きたいよ」

レミアはレイシアの心配をしながらレミアはレシアに視線を向けた。するとそんな時、アリシアに視線を移したレミーはすぐに視線をそらすと、レミアがアリシアに視線を戻した時にはすでにアリシアはいなかった。そしてその光景を見て、レミアはため息を吐きながら「また逃げたのか」と呟いた。だがその言葉は誰の耳にも届く事はなかった。


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***

その頃のレイリアはというと、自分が何をしているのかよく分からなくなっていた。そもそもなぜこんな場所にいるのか、というより、ここは何処なのだろうか?と周囲を眺める――が、何もわからない。だけど、なぜかレイシアに呼ばれた気がしたのでレイシアの方に向かって歩いていく。そうしていると不思議な感覚に陥るが、不思議に思いながらも歩き続ける。

そうして歩いていると――レイシアの《魔眼》の力で作り上げられた世界から出ると、レイシアの姿を見つけることが出来た。

(えっ!?)

どうしてなのか分からないが――自分は《魔眼》の力で作り上げられた世界を抜け出し、レイシアと再会した瞬間に何故か涙を流していたのだ。そして目の前には大好きな人の姿が目に入った瞬間、心の中から愛しい感情が湧いてきて、そのまま抱き着いてしまった。


***

一方、《魔眼》の世界を飛び出した俺はアリシア達と合流した瞬間に、すぐにその場から離れるようにレイシアに伝えた。アリシアは突然の事に戸惑いを隠せず戸惑うばかりだが――それでも、アリシアの言う通りにしてくれたので俺達は急いで移動を開始する。

レイシアと別れてから既に数日が過ぎている。だが、その間ずっと走り続けていたのだ。流石に体力の限界を迎えようとしていたのだが――それでも立ち止まるわけにはいかなかった。

なぜならアリシアがアリシアが持っている《創造》の《存在》を使いアリシアの姿をしたレイシアを作りだしアリシア本人と入れ換える事に成功したからだ。だからアリシアは無事にレイシアと合流する事が出来たのである。だから今はアリシアがアリシア自身の《存在》を作り出して二人に合流できるようにしなくてはならない。

そうしなければ二人がこの世界に存在している事が《創造主》達にばれて二人の命が狙われる事になるだろう――それは避けなければならないと判断を下した。

しかし、アリシアが《存在》を作り出すのを待つ時間もなかったのだ。だから俺達が全力で走る必要があったのである。それに、もうすぐそこまで《魔王軍》の軍勢が迫っていたのも問題だった。だが《神装機竜》を使えば《魔王軍》と戦う事が出来るので戦う覚悟を決めていたのだ。そして俺達が魔王軍が来るのを待ち構えていた時だった――《魔王軍》の大群の先頭が近づいてきたのだが。そこに見えたのは《戦乙女騎士団》だった。その騎士の一人と、リリスは知り合いだったのだ。そして俺は、その騎士の姿を見て驚いてしまうが、リリスの言葉によって、その疑問の全てを理解してしまう事になった。


***


***

リリスは《戦姫》の力を使うと自分の姿を《創世の力》で作り出したのである。《戦姫》の力を発動させると、全身から《戦》の力が発生し始める。その力が全身に巡った時――リリアの肉体に変化が起きる。筋肉が盛り上がり体が変化していく。その姿を見たリリアの体の変化を見届けていたリリスの顔色が青ざめて行く。そして変化が終わると《神装武具》《七の型》を展開した状態の《魔刃双牙》を構えた姿になった。そして、その《魔人族》の青年――【黒影の騎士】の《神造遺産》であり神格化した《魔導剣》が《魔刃双牙》と同化していく。《魔刀》と《魔剣》の二つが一体化した事で、その切れ味は飛躍的に向上した。

***

「あれ、お前らか?」

リリスは《戦鬼化》を使った状態になっていた。その《神装武装》を身に着けた状態のリリスに対して《黒影》が《戦姫》の力を使って作り出した分身体だとは、この時の《黒》のメンバーはまだ知らなかった。だからレイシは《魔刀》を抜くと《黒姫》を構えると《創主眼》の能力を使用して《創世眼》を起動させて相手の力を読み取る。その結果は――レイシアよりも圧倒的に弱い事が分かったのだ。《黒》のリーダーはアリサだと判断したレイシアは《創造》の能力を使用するとアリサの容姿をした分身を作り出す。それを見た《創世眼》で《存在》の操作を行っていると、本物のアリサが現れるのであった。そしてアリサは状況が飲み込めていないのか呆然としてしまうのである。

レイシアがアリサに対して《創造》の能力を使用すると、レイシアにそっくりな少女が現れて、アリシアに襲いかかろうとするのを《創聖眼》を使って止めるとアリシアの元へ近寄るとレイシアに姿を変えて見せる。それを見た《創聖眼》の能力を知っていたアリサは驚きを隠しきれずにいた。

アリサは自分の仲間を疑わない。例えレイシアに似せた偽物でも信じてしまう程だ。だからこそアリサは一瞬にして騙されたのである。そしてレイシアが偽物のレイシアを《聖炎》の《魔術》により燃やし尽くす。

レイリアが作り出したレイシアは《魔術》を扱えなかった。そのため《魔眼》で作られた世界の中に閉じ込められていたが《魔術》を扱うレイシアに作り出された存在は簡単に消え去るしかなかったのである。《魔術》の火で焼き尽くされたレイシアは消滅していったのである。そしてレイシアがアリシアの《存在》を操って、アリシアの分身を《創眼》の力と《魔導剣》の力で造り出す事に成功させたレイシア達は魔王軍の襲来に備えて行動を開始した。


* * *

アリシアは自分が見たものが信じられなかった。レイシアの《魔眼》の力は凄いと思っていたけど、そのレイシアでさえ《魔王軍》の軍勢がここまで早くこの場所に現れる事なんて想定外のはずだった。だけどアリサの話ではレイシアの《魔眼》は《創世の魔眼》ではないという事なのだ。その話を聞いてアシアとレアの二人は驚愕する。まさかあの魔王軍の中に魔王軍ではない者達が存在している事に――しかし《創眼》を使えないレイシアは《魔眼》で造り出した分身の方へと向かいアリシアに成り済ましたのである。そしてレイシアと《魔眼》の使い手の少女との戦いが始まる。だが、レイシアの能力は《魔眼》を使っている相手に対しては圧倒的な優位に立つ事が出来るのだ。そう、《魔王軍》の構成員は全て《魔王軍》に所属している人間でしかないため《魔眼》の力は通じないという訳だ。つまりレイシアにとってアリシアに《存在》を植え付けてレイシアの姿に変えさせるのは簡単であった。アリシアの外見に化けている間に、他の皆に指示を出しながら準備を完了すると、アリシアに化けているレイシアを《魔銃杖》の《創造》の能力で作った弾丸で撃ち抜くと、その《存在》は《創造》の力によって生み出された存在だったので《魔術》が使えるはずのないアリシアに倒されてしまう。そしてアリシアに倒された瞬間、レイシアの姿から元の黒いドレスの姿に戻る。

アリシアはその様子を見ると、本当に《創造主》達によって生み出された存在なのかと思ったのだが、《魔刃双牙》を手にした《戦乙女騎士団》の女性騎士がこちらに向かってきたのである。彼女は《戦姫》という神格化した《七つの型》を持つ《戦乙女騎士団》の中でも上位に位置する人物だった。その騎士の名はリーシャと言う名前だった。そんな彼女がレイシアに向かって攻撃を仕掛けようとした時だった――突然地面が大きく揺れ動き、大きな音を立てて割れてしまう。まるで世界そのものが崩壊しようとしているようなそんな感じだったのだ。その事に驚いたレイシアだったが《戦刃双牙》を構え直してアリシアに攻撃を加えようとすると《魔刃双牙》で攻撃を受け止めて《黒魔装機竜》の神装である《魔弾吸収》を使い受け流すと同時に《黒魔導衝撃砲》の威力を上げて放ちダメージを与えるとレイシアに問いかける。

(貴様は何者なんだ!)

(何者ですか?)「私はアリシアと申します。この国のお姫様をしております」

《戦姫》の騎士の疑問にアリシアに化けていたレイシアは素の状態で質問に答えたのだ。だが――それがいけなかった。《戦姫》の女性は目の前の相手が、《魔王軍》が送り込んできた存在だと思い込み、その怒りの全てをアリシアではなく、レイシアに対して向けて襲い掛かると《黒姫》のブレードを振り下ろそうとしたのだが――その刃は振り降ろされる直前になって止まったのである。なぜなら――

「そこまでです!」

《黒天の騎士》――クロが姿を現したのだ。

「これ以上の攻撃は私が許しません。そして――貴方達の敵が誰か分かりました。《魔王》が生み出した人造兵器であるレイシアとアリシアは我々が守りましょう。なので――皆さんはその人造兵器である二人の力を使ってこの場を切り抜けてください」

そう言うと、彼は《戦機龍》に乗っているレイシアの元へ向かい、彼女を守るように陣形を組んで構えるのであった。その姿を見て、さすがのレイシアも驚くと、すぐに《魔眼》で《黒魔族》の兵士達の姿を全て《認識》すると――自分の姿を元に戻す。それと同時にアリシアの体を借りていたレイシアの意識も完全にアリシアへと戻ったのであった。


***


***

レイシ達が《戦乙女騎士団》と合流した頃、アリサは魔王軍の軍勢を迎撃するために動き始めた。魔王軍は全部で約三万の軍勢だったのだが、その数だけならば問題はないと、《魔刃剣》の《戦鬼化》と《魔闘技》で戦う。レイシスとアリシア、それに《黒姫騎士団》のメンバーは《戦乙女騎士団》と一緒になって戦う事になった。そしてリリスの《魔人族化》の能力で分身を作り出す。その数は合計で二百五十体。そして、それをアリサが指揮する事になった。

リリスの分身には《魔術》を操る能力が備わっているため《魔術師ギルド》の構成員が作り出した『魔導兵』と同じ扱いになっていたのだ。リリスの能力により造り出される分身体は通常の兵士よりも強力な力を持ち合わせておりリリスの指揮の元に戦い始める。

しかし《魔王軍》の兵士の数はかなり多かったがそれでもリリア達の方が戦力的に上回っている上に、その《魔王軍》の中にレイジがいる事が判明したのだ。《魔王軍》の中で最強と言われている【黒狼将】とレイジは一対の剣と斧を装備していた事からレイシアとアリシアの事を警戒していたレイラが、レイジの事を伝える。その報告を受けて、《魔王軍》の司令官である魔王であるリリシアにその情報を伝えていた。

(あの男は間違いなく《勇者》のはず。《魔王軍》の中では《戦乙女騎士団》が一番の驚異になりうると判断できるわ。だから――魔王である貴方に命令を下すわよ。あの《魔王軍》の総大将である男だけは、私の手で殺しておく必要があるの。あの男の持っている聖剣には、何か特殊な力がある可能性があるから。もし聖剣の特殊能力が、あの魔王軍で最強の存在である《戦鬼》と対等の力があったとしても、今の私なら倒せるはずだからね。《戦鬼神》を使う事だってできるし、《創世武装》を使えば勝てると思うの。だから、《戦乙女騎士団》と戦う事になる《魔王軍》はあなたに任せる。私は《戦鬼》の方を相手にする。そしてあの《勇者》の男を倒すために――)

《戦姫》は、《黒天の騎士》であるレイシアを脅威と判断していたため自分が《黒帝ゼストロード》を纏って戦うつもりだったが、リリシアは魔王軍の中で最も危険な人物であると思われる、レイシアの事が特に気になっている様子であった。そのため自分一人で《黒王》を纏って相手をしようと考えていた。

《魔王軍》が作り出しているレイシアとアリシアの存在の実力については魔王軍の方でもある程度は把握していたのだ。だからこそ、その二人がレイシアの作り出した《聖炎》によって消滅した事を知らされると驚愕するが、レイシアの作り出すレイシアは、魔王軍の作り出す分身と違って魔王が作り出した分身のため戦闘能力はかなり高かったので《魔王軍》の精鋭が数人掛りでも対処するのは無理だと魔王軍に動揺が広がるが、その中で冷静に状況を見極めて、この場で《戦乙女騎士団》と戦い、他の《魔王軍》は《戦乙女騎士団》以外の者達だけで相手にしようと決めたのだ。


***


***

その頃、俺は魔王城から脱出しようとしていた。すると魔王城の最上階にいるはずの《魔刃将グランツオ》と、魔王の側近である《戦霊将軍グレッド》が現れて立ち塞がるが、そんな彼らを見てクレアが呟く。「あの二人を、倒す事は可能なんですか?」と俺に尋ねてきたため、「可能ですよ」と答えたら彼女は驚いた顔をする。

その理由は単純明快だ。なぜなら俺は《戦魔の魔剣士》と、《魔皇》という《固有職》と二つ名の通り魔王に最も近いとされる職業に就ているので、《固有スキル》を発動すれば簡単に彼らを消滅させる事が出来るからだ。《魔皇の威光(こうめい)》は《戦魔の魔剣士》が持つ特殊固有技能で相手の《種族値》を半分にして弱体化する事が可能なのと、《魔剣グラム》と、《魔銃グラム》が魔王から渡された事で二つの剣に宿っている《魔法》を使用する事ができるようになった。その力は凄まじいもので《戦魔の魔剣士》が使える全ての《武器強化付与》の力を《魔剣》が発動してくれるのだ。しかも、《魔剣》の能力だけではなく《魔銃》の能力までも使用する事ができる。それに加えて――俺は戦魔の魔剣を二本と《魔弾銃》を一つ所有しているのだ。この《創造》の力によって生み出した物は基本的に全て扱う事ができる。

この《魔装召喚》の能力は強力過ぎて、あまりにも危険であるためレイシアとクロにしか使うなと言われているのだが、レイシアとクロの二人がいない時に《魔王軍》と遭遇した時に備えて持っておいたのだ。その結果、《創造》の能力は思った以上に役に立ったのだがレイシアとクロは一体どこへ行ったのかは分からないのだ。

(さすがです!)「ありがとうございます」

そんな話をしているうちに魔王城の最上階から脱出したがその直後だった、目の前に現れた存在に対して警戒を強めると――「初めまして。ボクの名前は《魔神アモン》と言います。よろしく」と言ってきた。《戦魔の魔剣》の柄を握ると――「レイシアとクロはどこにいるんだ」と、《戦姫》と、《戦魔の魔剣士》であるレイシアの姉と弟が一緒にいた事から質問した。すると――

(マスター、アリシアさんを連れて、迷宮の中に閉じ込められています。その前にレイシアさん達は迷宮の最下層に存在する《宝具》を求めて行動を開始したのです)

(アリシアと二人でですか?)

「うん。それで、レイシアが《宝物庫》の能力で《転移装置》を作ったの。それで、その能力を使ってアリシアと二人はこの世界の別の世界に行ったんだよ」

クロがアリシアの言葉を引き継いで説明を始める。だが俺はそれよりも《魔王》が作り出してきた二人の人造兵器の事を気にしていたのだ。そして《魔王軍》はアリシア達を捕まえるために動き出したらしい。

《魔族》の中には人型ではなく竜の姿を模した魔物も存在する。その代表格とも言える《魔闘竜》と呼ばれる《魔族》がいる。《魔王軍》はその力を手に入れる為に《龍魂》と呼ばれるアイテムを入手しようとしている。

『《竜種神》』というのは、通常の方法では手に入らないような特別な《魔王級武具》を作り出す事ができる特殊な《魔族系超級職業(クラスレベル1050限定)》である。

その力を悪用しようとする者もいて、《魔国》の魔王の一人である【暴君】と、【冥覇王】である《竜王》の二人は自分の欲のために《竜魂》を奪い取る計画を実行して失敗して、自分達の力を封じ込められてしまった。その勇者の仲間である《戦姫》は《戦乙女騎士団》を結成して《戦乙女騎士団》を結成した理由がそれである。

その後、アリシアがレイシアに頼まれた《聖遺物》を探す旅に出たという話は《戦姫》に聞いた話であり、《魔国》で手に入れた情報ではない。しかし、俺の持っている情報もそこまで多くはないのだ。だからこの情報は信用に値するだろう。

俺はレイシアとアリシアが別世界に飛ばされた事を知るとすぐに行動を開始する。アリシアとレイシアはレイシアが作り出した《転移用端末》を使って、その世界へと飛んだ可能性が高いと判断した俺はすぐに《黒鉄ノ蜘蛛カゲロウ》に乗って、移動を開始。その世界へと向かったのだ。


***


***

その頃、《戦魔》が作り出した人型の人形のような《戦鬼将ゼストロード》は《黒鬼》と呼ばれている《魔族》を纏う。それは魔王であるリリシアの分身だ。その数は一万体にも及び、その一個体一人一人の力は非常に高いが《黒帝将グランツオ》には届かない程度の強さしかないがそれでも、レイシスにとっては十分すぎるほどの脅威である。

レイシスの持つ《勇者》としての職業は、聖剣と、聖槍の二種類の装備を持つ勇者としての力がある《聖勇者》と聖剣使いの剣士としての力で戦う《聖騎士》である。そして、《戦姫》という《魔王》の直属の配下の上級戦士である彼女達が持つ力は全て聖属性の攻撃となる。そしてレイシスが纏っている《聖鎧》は、聖剣や聖剣の力が込められた防具などを装備している場合に効果を発揮する《聖属性》に特化した能力を持っているのだ。

だから彼女は、レイシアに狙われていたのだ。聖属性の攻撃しか通用しないはずの聖剣使いである彼女が放つ聖剣技で、あらゆる攻撃を防ぐ事ができるからだ。ただし聖剣使いの聖剣による攻撃には特殊な効果が存在しており、それを無効化するためには専用の対策をする必要があるのだ。だからこそ《勇者》と、《勇者の武器》が使える《戦姫》の力は厄介なのだ。だからこそレイシアは真っ先にレイシを狙うべきと、魔王軍の中で考えていたのである。そして魔王軍が生み出した最強の存在である、魔王軍最強の存在である、魔王リリシアを確実に倒せる可能性がある《黒帝の勇者》が最優先事項であると判断したのだ。だからこそ《戦姫》のリリシアは最初にレイシアを狙って、彼女を抹殺しようと考えているのである。

***

「私とグランツオ、ゼストロードは貴方と戦う。グレッド、他の兵士達に指示を出せ。私はあの少女と戦いたい」《戦霊将軍グレッド》はレイジ達が魔王軍から逃げ出そうとした事に気付いて魔王城から飛び出してきたのだ。《戦鬼将グラトス》はレイジスが魔王城から出て行く様子を確認して、レイシスを倒すために移動を始めようとしたのだが、レイグから命令されたグレッドから魔王軍の全兵士に対しての命令を受けて動き始める。

「分かった。お前達は、他の敵を排除しろ。《魔戦将グラトス》よ、俺と共に来い」《戦魔将グランツオ》は他の《戦霊将軍》に指示を出すと《魔戦霊将軍グランティス》と一緒にレイシアの方へと向かうのであった。

レイシア達を追い詰めた事で少しだけ安堵の気持ちを抱き始めていた《魔王》の側近の一人である《戦鬼将グランツオ》だが、その油断によって生じた隙を見逃す程に《戦姫》のリリシアは甘い存在ではなかったのだ――。

「ふぅー」レイナが溜息を漏らすと彼女は目の前にいる敵の実力を感じ取っていた。相手は魔王の側近の一人の《戦魔将グランツオ》であり《戦霊将グレッド》、それにレイシスが生み出した人造生命体の一体でもある《魔神アモン》の三体が同時にレイナに向かって襲いかかる。

(お嬢様、申し訳ありません。魔王城の外に大量の《戦鬼衆》と《戦霊衆》が現れたようです。《戦魔獣将レイブン》が迎撃していますが《魔王》と《戦魔》がレイシアとアリシアを狙いました。今はレイシスと戦っています)

レイシアの声が聞こえると、レイナは「仕方がないわね」と、言うと――レイシアの作り出した通信機能付きの《携帯》を手に持つ。すると、アリシアも同じように《転移用端末》を使用してこの世界に来たらしく、アリシアの《携帯》の番号が登録されていたのでアリシアと連絡を取ったのだ。すると――

(分かりました。こちらは問題ないので《転移》で迎えに来てくれますか?)

(了解しました! それではレイナさん、すぐに戻りますのでしばらく待っていてください)

(お願いします。レイシア、クロ)

(うん。大丈夫。任せて!)

(はい! アリシアさん、今すぐにそちらに向かいます)

(うん。ありがとう。じゃあ、レイシアとクロ、後宜しく!)

(お任せください!)

《魔戦将グランツオ》はレイナスに向けて剣を突き立てると――「俺の名はグランツオ。貴様の命運はここまでだ!」と、言葉を発するが、その言葉を耳にしたレイシアはすぐにグランツオが《勇者》のレイスだと見抜くと《黒鉄ノ蜘蛛カゲロウ》に指示を出し、《転移用端末》に収納するとレイラの元へと戻っていくのだった。

その行動を見てレイシスもレイシアの行動に気がつき、「なっ、レイシアとクロはどうなっているのですか!?」と、焦りを含んだ声で《黒龍》に問いかけるが――

『心配する必要は無いと思うけど? だってレイシアちゃん達は、魔王である私と同じレベルなんだからさ!』と、楽しそうな笑みを見せるのだった。

(そう言えばクロもレベル10500の超強力な存在で、レイシアはレベル10700の超級職業(クラスレベル1001限定)の『黒鉄』シリーズを所有しているんよね。でも、どうして《聖魔王》は《黒鉄ノ糸カゲロウ》を使わないのかな?)『それは多分だけど《勇者》の力の影響で《魔闘竜》の能力の一部を使う事が出来なくなっているのかも』と、《黒魔道師》のクロが説明すると、『確かに、《勇者》は特別な職業だから《魔闘竜》とは相性が悪いのは確かだと思う』と、《白銀龍》のレイラは納得する。

《勇者》の持つ《神装武具》の能力である《固有能力(オリジナルスキル)》の一つである《限界突破》は使用者のレベルを10分間の間、2倍近くまで引き上げるという力だ。この《神装武具》をレイシアが装備すれば、一時的にレベルは4900まで上昇する事になるが、今のレイシアはレベル10600だ。本来ならレベルが3800上昇するはずだったが、既に上限を突破している状態なので、これ以上はレベルを上げる事は出来ないので、レイシアの力は《魔導王》が発動できる最高値である10500にまで到達してしまう事になる。その為、《魔闘竜》の能力が使用できなくなる可能性があるのだ。

レイシは《勇者》としての力を使って《戦魔将グランツオ》の力を完全に封じたと思っていたが、実は違うのだ。

それは聖属性の力を使った《聖鎧》や《戦姫》が使う《聖衣》などの防御に特化した能力や武器は、レイシア達のような《聖魔王》が纏う事を想定して作り出した《勇者の武器》とは違い、聖属性の力で作られた防具などは基本的に破壊不可能な能力を持っている。そしてその聖属性は聖剣の力や《勇者》の聖剣使いとしての力でしか攻撃を防ぐ事ができない為、《黒魔将》や《魔戦将》であるリリシアやグラトスは《勇者》であるレイシの攻撃は防ぐ事が出来る。

そして《戦霊将グランツオ》は聖剣使いの《聖勇者》ではなく、聖剣を扱う事ができる職業勇者の武器を持っているレイシアに対して、有効的に戦う手段があったのだ。しかし《戦魔将グラトス》の場合は聖剣と聖剣の力である聖属性の攻撃を無効化するという特性を持っていた。《聖鎧》は《戦霊将グラトス》専用に作られた防具であるが聖属性の攻撃には耐性がある為に聖属性による聖剣技や聖剣技は《聖魔将》であるリリスやグレッドに対して効果が無いのだ。《聖魔将》のリリシアはレイシスが纏った聖属性の力を無効化する事はできないが《戦魔将》のグラトスには《勇者の武器》や《勇者の剣》は効かないのだ。だからこそグランツオは、《勇者》であるレイシが《戦魔将》と戦うのならばリリシアをレイシアと戦わせるべきだと判断していた。

《戦鬼将グランツオ》はレイシの《勇者の武器》による攻撃を防ぐ事ができなければレイシアと戦えるだけの実力を持たないのだ――。


***

レイシア達が魔王城の外に向かって移動を開始した直後に、レイナ達の元に《戦霊将軍グランツオ》が現れると――レイシアが手にしていた通信機能付き携帯電話型の魔道具がレイシアの手を離れてレイシアの身体の中に戻ってしまう。レイシアの魔導技術によって作られた魔道具を簡単に破壊するのは《勇者》にしかできない芸当だ。しかも、この魔導通信機はレイシスとレイシアとで通話ができるようになっていたのだ。

だからこそ、レイシスはこの瞬間に《転移》を発動させて《転移用端末》を取り出してアリシアの元へと向かう。そしてアリシアの《携帯》に通話が繋がりレイシスがアリシアの《転移用端末》に連絡を取ると、レイシアがレイシアから《黒鉄ノ糸カゲロウ》を奪い取ったと、報告を受けてレイナは驚くと、「何ですって! それじゃあ《魔導王》がレイシア達を倒せる可能性が無くなったの?」と、思わず声に出して叫ぶ。レイナは自分が持っている《神域召喚》の指輪で、レイシア達を呼び寄せようとしていたのだが――

(いいえ。私が《転移》させた事で魔王様を裏切ったと思い込んでいます。そのおかげで私達の事を見失いました)

(なるほどね。魔王軍の幹部に裏切り者扱いされて殺されちゃえば流石に私達と敵対するような行動は取れないよね)

アリシアの言葉を聞いたレイナが苦笑いするとレイシアが「申し訳ありません。私の力不足が原因です」と、言うが――

「仕方がないわよ。まさか、魔王軍がこんな形で裏切ってくるなんて思いもしないし」と、レイナは気を取り直すように笑顔を浮かべる。だが――

「レイナさん、今はそれよりもレイシアさんとアリシアさんの居場所が分からなくなった方が不味いです」と、アリシアが真剣な表情を見せる。アリシアの《転移用端末》にレイシアの《黒鉄ノ蜘蛛カゲロウ》と、レイシスとの通話機能が使えるのであれば、すぐにでもレイシア達を助けに行く事も出来ると考えていたのだ。しかし、レイナは《魔人》である《戦鬼将グランツオ》の能力のせいで、レイシアの《黒鉄ノ糸カゲロウ》の《魔導転移》を使用する事ができなかったのだ。

そもそもレイシスが持つこの魔導通信機能付きの《転移用端末》に《転移》機能が付与されているのは《戦鬼将》の称号を持つグラトスの仕業であった。《転移》の能力を持つ《勇者の武器》や《勇者の鎧》でも無い限り《転移》は不可能に近いからだ。この機能は聖属性を扱える者でしか使用できないので聖剣を扱えるレイシスや聖属性を扱えないアリシアやクロが使用したところで、聖剣で斬りつけた対象と別の場所に移動する事は不可能である。

アリシアはアリシアとクロは魔王城の外に居ない事は理解しているが、《勇者の武具》を所持するレイシアやレイシアの母親と《戦魔将グランツオ》が魔王城に居ると勘違いをしていた。その為、レイシアが自分達の身代わりにして囮になったと考えるが、その事実を確認する為には、魔王城の中で戦闘を行っているレイシアの母に話を聞く必要があった。レイシアの母である《勇者》のレイスならばこの状況を理解しており、レイシア達に説明を行う可能性が高い。しかし――《魔導王》のレイシスが、今更、レイシアの事を助けるはずが無かった。何故ならレイシは《聖魔王》でありレイシアの姉でもあるレイラが、妹を殺そうとした事に怒りを覚えているのだから――。

(そうですね。今からでも、私達が合流すればどうにかできる可能性も――)

アリシアが、レイシアを救出に向かうために《転移用端末》を取り出す。

だが――(駄目。魔王様が危ない。助けに行きたいけど私達が行った所で邪魔になる)

(でも、このまま放っておけば《戦霊将軍グランツオ》によって魔王様にどんな危険が迫るか分かりません)

レイシアとクロが魔王軍の動きについて会話を交わす。

(確かにそうだよね。レイシアのお母さんを《勇者》であるレイシスと《戦魔将》のリリシアが魔王城を攻め落とす事は間違いない。だけどさっきも言った通り《戦霊将》と《戦魔将》の二体の超級職業は相性が最悪だから《魔族神》の力を使っていないレイシシアは絶対に《戦霊将》に勝てる可能性は無いと思うんだ)と、《黒白龍》のシロは二人に伝える。

《戦魔将グランツオ》と《戦霊将グランツオ》の《勇者の武器》は聖属性の力が使えなければ効果が無い為、レイシアは確実に勝つ事はできないが、だからと言って敗北が確定しているわけではない。レイシが《魔闘将》に進化した際に獲得した能力を使えば《勇者》の力を無効化できるのだ。《勇者》の力を使わずにレイシアとレイシシアは互角の勝負が出来るだろうが、聖属性の力を扱う事が出来る《勇者》のレイシスを相手にすれば、いくら聖剣を使えるレイシシアでも勝利する事は出来ない。

だが、それでもレイシアの生存率はかなり低くなるのは確かである。なぜならばレイシアには聖剣を使えない上に聖属性の魔法攻撃が通用しない相手なのだ。聖属性が通用する相手がレイシアの前に現れたのならばレイシアは必ず負ける事はないが、聖属性が通じなければ、聖剣が使えるようになったばかりのレイシシアでは《魔戦将》のリリシアを倒す事は難しいだろう。だからこそレイシア達は急いで魔王城の外に出て《戦霊将グランツオ》と《戦魔将グランツオ》と戦わなければならない状況なのだ。

(ですが、このタイミングでの魔王様の行方不明は間違いなく私と《魔導王》のレイシスが原因だと思われます。《魔剣》を奪われてしまえば私は無防備になってしまうので――)

《戦霊将グランツオ》の《魔導転移》をレイシスは封じたが、レイシスが聖属性の《戦姫鎧》を使用していれば、レイシスの聖剣使いとしての腕が未熟な為に、《転移用端末》の機能を完全に使いこなす事は不可能だった。しかしレイシスの聖剣使いとしての技や技量自体は一流である為に使いこなせていたはずだったのだ。だがしかし、今の状態のレイシアでは《魔導転移》を使いこなしたとしても完全に防ぐ事ができず、聖剣による聖属性の攻撃を受けた場合にどうなるのかまでは判断する事はできない。

(そっかー、じゃあ早く行かないとね! レイシアさん達と合流して《黒天狼》の三人と私達四人で協力して魔王様を助けよう! きっと皆も同じ気持ちだと思うし!)と、レイナは明るく振る舞って見せる。

(魔王様の安否は気になります。それに《勇者》のレイシシアはレイシアの妹でもあるのに――)

(《魔戦将》と《戦霊将》のリリシアはともかくレイシアのお姉さんと魔王様を殺すなんて絶対ダメだよね)

レイシとアリシアも焦っているような雰囲気を出すが、その反面で二人は内心で冷静な判断を行っていた。だが――

(アリシアちゃんの言い分は分かるよ。だけど、だからこそ魔王軍の戦力を分断させておく必要があるんだよ。《魔刃王》と《魔拳王》が《魔城》に現れた時点で私達の狙いが《魔刃王》だって言う事をレイシスに気付かれるかもしれない。だからこそ《魔拳王》と《魔刃王》とを別々の場所に誘き寄せて撃破しないとならない。《魔人》の二人が一緒に居るだけで厄介なのに二手に分かれれば尚更、魔王軍にとって危険な存在になっちゃう。特に《戦魔将》の称号を持つ二人にだけは注意を引かなきゃ駄目なんだ。そして今このタイミングを逃したら《魔刃王》の居場所を掴むのは難し過ぎる――)

シロがそう言ってレイシアを安心させる。

その言葉を聞いたアリシアとレイシは何も言えなくなり口をつぐむが、シロの考えはもっともだと理解していた。

それからレイナはレイシアの傍に駆け寄ると、「大丈夫? 今すぐここから移動するわよ!」と、レイシアに声をかける。

(――ありがとうございます、レイナさん。ですが私はここに残りたいと思います)

レイシアは覚悟を決めた表情で言うと、アリシアはそのレイシアの言葉に対して何かを口に出そうとするが――「分かったわ。それならアリシアと一緒にレイシスと《魔戦将》と戦うから。それでいいわよね、レイシ?」と、アリシアの代わりにレイナがアリシアに質問すると、アリシアも小さくうなずく。その様子を見届けてからレイナは《勇者》のレイシスとレイシスが持つ《魔刀》の能力について思い出す。

(まずい事になったかも。まさかこんな形でレイシスに《魔刀》を使う時が来るとは思わなかったけど、この状況では使うしかない。《戦鬼将》と《魔拳王》が魔王城に居たら流石に私一人で対処するなんてできないから)

このタイミングでレイシスが《勇者》の能力を使えるようにレイシアが魔王城に戻ってきた事に気が付けなかった事は痛いが、この状況ならば仕方がない。むしろレイシスが自分の予想通りに《魔剣》を所持している事にレイシアは満足する。

この《勇者の武器》をレイシが手にしたのはレイシアの母が殺された直後の話なので、レイシスはまだこの武器の存在を把握していなかった。そもそも聖属性が使えなければ意味の無い武器の為に聖剣を所持する事すらしていなかったのだ。レイシアがレイシスにレイシスの武器を渡したのは、レイシシスの《戦霊将》と《戦魔将》の力を利用して《魔人》の力を暴走させる事に成功したからである。

だがレイシスが《魔剣》の力を使えるのであれば話は別だ。

聖属性が使えない状態であってもレイシシアは《戦霊将》の力を使えば、上級職の力を発動できる。それは聖剣を使った時にも発揮される。ただし《勇者の武具》と違って、《勇者の剣》はレイシアの体に負荷を与えないように作られているので聖剣を使っていても負担を感じない。その為、レイシアは聖属性の《勇者の剣》が使えないという事にはならない。

また《魔導士》のシロが、先程のレイシが《魔導剣》を使用した時の光景を見て解析した結果から考えると、《魔剣》を媒体にして《勇者の剣》の力を使用できそうだ。レイシアはシロの思考能力と観察眼には信頼を置いている。だから《勇者》の力の使用も可能ではないかと推測していた。

「レイシアがここで戦うっていうなら俺はそれでも構わないぜ」と、シンゴは余裕を見せると《魔剣》を抜く。その行動に対して《戦霊将》と《戦魔将》の二人の《魔人》が動く。《魔戦将》のグランツオは《勇者》と《戦魔将》の二人を同時に相手にする事になるが、グランツオにとっては問題にならない。レイシの方はグランツオに任せると決めてレイシアの前に歩み出た。《勇者》のレイシスの方もグランツオを相手にする事を決める。

グランツオがグランツオとして覚醒した事によって手に入れた力がある。それが『《勇者》の《魔導転移》を完全に再現し、更にその先の次元にまで踏み込む事が可能になる』と言うものである。《魔族神》であるクロは《魔闘将》のグランツオが得た《勇者》としての力でさえも完全には真似できなかった。《戦魔将》に進化したレイシシアスにも同じことが言えるが、《魔導将》であるクロの魔力はレイシアやシロやアリシア達と比べると、かなり低いのである。故にクロでは完全な《魔導転移》を扱う事は不可能なのだ。

しかしレイシスならば完全に《魔導転移》を再現する事ができるだろう。だが《魔剣》のレイシスが扱える能力は《転移用端末》としての機能だけである。《魔剣》には聖属性の魔法を使用する為の機能が存在しないのだ。つまり《魔剣》では聖属性の攻撃は行えない。

それでもレイシスには《魔刃》のリリシアが使っていたような《魔刀》の機能が備わっており、その機能の応用によって、リリシアよりも優れた魔法剣の技術を持っているのは間違いがなかった。レイシアとグランツオが同時に動き出す。レイシスの持つ《魔刀》の《魔装転移》とグランツオの持っている《魔剣》の《魔導転移》は、どちらも空間移動系のスキルだが、《転移用端末》の機能しか持たない《魔剣》の方が性能は低く使い勝手が悪いのだが、レイシスとグランツオの場合だとその程度の性能差などは大して影響を及ぼさない。なぜならばレイシスが《勇者の剣》で《勇者》の能力が使えるのであれば、グランツオも同様に《魔剣》の能力だけでレイシアと対等に渡り合うことができる。

だが《勇者の剣》は聖属性の《魔剣》なので、聖属性が弱点の《魔刃王》と、その能力の影響を受けて肉体が強化されている《魔人》に対しては相性が良い為に有効となる攻撃が存在する。それはグランツオが持つ本来の《魔剣》の性能では扱えなかったはずの《転移系》と《転移強化》の効果を持つ能力が使用できる。

レイシアの動きが突然速くなったように見えるが《勇者》と《魔戦将》が発動している加速の《スキル》が、その動作を加速させた為に発生した現象であった。

レイシアの右手に持った《天叢雲》が振るわれる。それに対して、グランツオが振るった剣とレイシアの振るった剣がぶつかり合う。本来ならばレイシアの体が斬られる場面だが、レイシアが身に着けている装備のおかげで《天鎧装甲》に傷がつくことは無く弾き返された。そしてレイシアはそのまま反撃を行うが、その一撃を《魔剣》で防ぐグランツオだが、その時には既にレイシアの姿は消えていた。

《天鎧装甲》は《勇者の武器》による攻撃を弾くだけではなく、《勇者》の《スキル》をも防げる特性を持っていた。

「おい、どうなってんだ!? なんであいつは俺達の攻撃を受けきれてるんだよ! それにレイシアの動きが早すぎるだろ!」と、レイナの傍まで下がったアリシアと、《戦霊将》のグランツオと戦っている最中のレイシスに、レイナが《念話》を送る。

(――レイナさんの言う通りですよ。あの二人の戦いは常人では視認すら不可能に近いはずです。私でも今の二人は捉えられていないので)と、シロが答えるとアリシアはレイシアの方を見る。

アリシアの視界の中に映っているレイシアの体は残像を残しており、レイシとシロの目から見てもその速さで動けるのは《勇者》の《戦霊王》の固有技能と《戦魔剣》の称号効果の恩恵が大きいのは明白だった。その光景に《戦霊将軍》のリリスと、《魔拳将軍》のグレンダが驚愕する中――

(レイシアさんに質問ですが――魔王軍の幹部の人達は《戦霊将軍》の称号の力を扱えるようになれますか?)と、シロは疑問に思っていた事を口にするとレイシアはすぐに答える。

《戦霊王》であるシロになら《魔導将軍》のリリアの思考が読めるためにシロは即座に判断ができたのだ。

「はい。レイシシシスの力さえあれば可能だと思います。ただレイシスの場合は元々、魔族なので魔族化する必要はありますが」

(それじゃあレイシシスに説明しますね)

シロは《魔戦将》に進化した事で、自分の力を完全に把握したのかシロが口に出したのでアリシアはレイシアとレイシシスの間に割って入ると、「二人共待ったー!」と、声をかける。

《勇者》の《戦霊王》がレイシア達を止めたのは単純に二人が危険だと考えたからではない。アリシアは《勇者の武器》である聖属性の剣が、《魔導士》の《魔戦将》が作り出した魔法の障壁を容易く貫いていた事から考える。レイシアの実力ならば聖属性が使えなくても問題はないのだろう。だが《魔人》は聖属性の攻撃を無効化するのでレイシアに勝機は無いはずだからだ。

ただ、《勇者の剣》を使えば聖属性の攻撃を行える事は、先程の戦闘の中でレイシア自身も分かっていた。だから聖属性が使えないとしても問題はなかったのだろう。だが、《魔剣》が聖属性の攻撃に耐え切れる可能性は非常に低かったので、それをレイシは確認しに行ったのだ。

その結果は予想以上に高い耐久性で《魔剣》は耐え切る事はできたが、レイシアは先ほど使用した《魔剣》の魔力消費のせいなのか動きが悪くなった。それはシロにも分かるほどの異変であり、だからこそ止めに入ったのだ。

(確かにレイシシシスは強いのかもしれませんけど――相手は勇者なんですから、《魔導士》が勇者と互角に渡り合うのは難しいと思うんですよ。だって、いくらレイシア様が天才的な頭脳を持っているからと言っても限界があるじゃないですか。相手が《勇者》ではその限界は絶対に訪れてしまいます。だから《魔戦将》のリリアは諦めてください。そうすれば後は私と、この世界最強のレイナが戦います。その方が安全です。レイシアとグランツオは二人を相手にするのは面倒だから嫌だって言っていますし、リシアスにはまだやるべき事があるのですよね? なら私が勇者とレイシアを相手にするべきです)

レイシの言葉を受けて、リリアは自分の役割を理解して覚悟を決めた顔を浮かべて、リシとグランツオの二人の前に立ち塞がった。「《勇者》が戦うというのなら私は受けて立つ」と言うが――

「いいや駄目だ。俺が《勇者》の相手をすると決めたんだ」

「そうだぞ。《戦霊将》には《勇者》の役目を任せておけば大丈夫なんだ」グランツオとレイシスは口を開くとレイシシスに向かって駆け出して行った。そして戦いが始まるとレイシスとグランツオがレイシアを同時に相手にして善戦し始める。レイシアはグランツオを倒そうとするのだが、グランツオの防御を突破する事が出来ないままに、レイシによってグランツオが倒されてしまう。だがグランツオを葬り去った後であっても油断せずに聖属性の攻撃を使おうとはしない。そしてレイシスの方を見て聖属性以外の魔法を使って来るかもしれないと考えてしまう。だがレイシスの聖属性に対する耐性を信頼する事にしてグランツオを倒す事に集中すると、グランツオに斬りかかり、それからすぐにグランツオに背を向けると聖属性の攻撃を放つ。だがその攻撃さえもグランツオには効かなかったのだ。

「残念だけど俺には聖属性は通用しない。その事を知っているはずだろう。なのに聖属性の魔法を使うなんて舐めているんじゃないだろうな。俺は《魔剣》で聖剣の力を受け止めれるが、それでも《天鎧装甲》の力は使えるんだ。お前に勝ち目がないのはもう分かっただろう。無駄に時間をかけずに降伏するといい」と、グランツオは《天鎧装甲》の力で身体能力を強化しつつ、《魔剣》に魔導陣を発動させて炎と雷と闇を合成させた黒い光線を放った。そしてその威力によってアリシアとレイシスは地面に倒れ伏す事になった。

「さぁレイシア、アリシアと一緒に城に帰るんだ。そして俺とリリスと結婚する準備をするんだ。お前達は結婚をしてから二人で俺に仕える事になる。それが約束だっただろ?」

「はい。あなた、これからよろしくお願いしますね」

グランツオは、レイシアを抱きかかえるとそのままアリシアとレイシアを連れて城を後にした。だがその時にリシアは、アリシアと視線を合わせると――《念話》を送り込む。

(ねぇ、アリシアは本当にこのままグランツオと結婚して良いの?)と、問いかけると、それに対してレイシアではなく――

(そんなわけないじゃん。こんな奴に好き放題されたら人生滅茶苦茶になるって)と、レイシアの声でリシアは答える。そしてレイシアはアリシアの体に《魔剣》で触れると《転移強化》の能力を使い――その場から移動をするとグランツオとの距離を取る。

「まさか俺に嘘をつくとは酷い女だ。それにどうして逃げるような真似をしているんだよ。やっぱり勇者に恐れを為しているんだろう。まぁ無理もないよ。勇者の能力は反則じみたものばかりで、まともに戦う事は不可能に近い。それに俺もリリスを《天鎧装甲》で圧倒したし、レイシシシスに負けているし、お前達も俺が聖属性に弱い事を知っていたはずだろ」

その言葉に対してアリシアは何も言い返せなかった。レイシアは《戦霊将》との戦いで自分の力が通じないと知っていながらも戦ったのはグランツオに勝つ方法を考えていたのだ。だがグランツオに勝つ事は出来ず、聖属性でグランツオを倒しても意味はないと判断して《戦霊将》が倒された時点でアリシアとレイシは撤退しようとしたのである。ただ、レイシは《勇者》の称号の効果が切れるまで持ちこたえてくれたので撤退する事はできた。

「確かに私達が《魔戦将》と、あなたの《魔剣》をどうにか出来るはずがありませんでした。だから素直にグランツオに従うつもりでしたが、リシアは納得できなかったみたいで《念話》を送ってきたんです。どうしたらリシアは納得できるんでしょうか?」

レイシアは《魔導士》であるリシアがなぜ自分達に敵対する行動をとってきたのか理由を知りたいと思っていたのである。それ故にレイシアはレイシア自身ではなくリシアに質問を行った。

「はっ! 何を今更言っているんだ。《魔族殺し》の称号はリリスに奪われたから今は俺が《魔戦将軍》の称号を所持しているが、元々の称号の所有者であるリリスに負けた以上はリリスの言う事を聞くしかない。それにリリスは、《戦霊王》の称号の力を利用して魔導を極める事に成功したが、《戦霊将》の力はリリスには必要ないと判断したんだ。リリスの目的は俺が《勇者》の力を得て《魔王軍》を裏切った人間共を滅ぼして、平和を手に入れる事で俺達の理想郷を築き上げるという目的がある。だから《勇者》の力を持っている勇者には勝てなかった。だが《勇者》の《戦霊王》の力を手に入れたリリスには魔族の王たる称号を持つ勇者に敗北はない!」と、グランツオは断言したのだった。

「なるほど。確かにグランツオのいう事も正しいです。でも私だって魔族である《戦霊王》の力を持つ《勇者》と戦えば勝てる見込みはあります。《勇者》は、その力を得る代償として《魔族化》するリスクがありますから、その前に倒してしまえばいいだけですから」

レイシアの言葉を聞いてグランツオは、鼻で笑う。それは自分がレイシアよりも強いと思っているからこそ笑ったのだろうが、それを聞いたレイシアは不敵な微笑を浮かべていたのであった。


* * *

俺とアリシアはリシア達と別れてからしばらくすると、アリシアの家に到着してリシアが《魔武器》を作成する作業を見守る事にした。

ちなみにシロが作り出したのは大きな鉄球で、それをレイシアに使って欲しいと口にするとレイシアが「ありがとう」と言って受け取りそれを《魔戦斧》と《神盾》の機能の《錬金の指輪》を使って、二つのスキルを融合させる事によって誕生した新しい《魔道具》の武器を使用する事になったのだ。

その武器の名称は【魔壊鋼球 メデューサ】と言うらしい。この魔導兵器の性能を説明するのであればまずはそのサイズが問題になる。なんと直径二メートルもある巨大な鉄球なのだ。しかも重さが五百キロもあって、それを持ち上げるのは至難の業だったりする。

そしてこの魔壊合金の球体の表面が鏡面仕上げになっており、その表面の反射によって使用者の視界から敵を消し去る事ができるという代物だ。

この機能に関しては、この世界の魔法にも似た効果を持つ能力が存在していて、その魔法を使った相手の姿が消え去ってしまう事から同じ名前の魔導技術が存在する事が判明していた。

ただこの魔法の効果を発揮するために必要な魔力消費は膨大で長時間の使用は不可能だと言われている。

その証拠が――この世界に存在する七つの属性の魔法使いが同時に魔道砲を放ったとしても相殺させるのが難しいとされるほどの超高出力のエネルギーが発生するからだそうだ。

そして次に、魔鉱を素材としている事による硬度だが、オリハルコンの刀身でさえ破壊するのは困難だというのに、その数倍の硬さを誇るため、これまた斬撃による攻撃は一切通らないとレイシアが口にする。

そして最後に、その重量によってスピードが極端に落ちるために移動速度がかなり遅いという点がデメリットになるかと思ったのだが――レイシアが説明してくれたのだが、《魔装具》と呼ばれる特殊な装備にする事でこの問題は全て解決するという。ただしその方法は教えてくれなかったのでどういう原理になっているのか気になってレイシアが作っている作業をじっくり観察してみた。

だが俺が見ていても分かるはずがないのだがレイシアは真剣に《魔造剣》を作っていく。そしてその作り出された剣を鑑定した結果、名前が表示されない謎の金属で作られた細身の両刃剣が完成する。その剣を握りながら試してみて欲しかったらと言われたのでアリシアの剣を使ってみるように提案をしてみるとアリシアはそれを了承してアリシアはレイシアから渡された《魔剣》を手に取って構えると、そのままアリシアは動き出し、剣を振るうと剣はあっさりと《魔導鎧》を切り裂く。そして《魔獣鎧》も斬り裂き――《竜牙剣》さえも切断する事になった。それを見て俺は驚愕を覚えたのである。

《勇者》の身体能力をはるかに凌駕している。

「これが《魔装機》と呼ばれるものですね」と、《戦姫》が呟いていたがその意味は分からなかった。だけども俺達はこの世界にやってきてレイシアと出会えて本当に良かったと思っているのだった。

(レイシア視点)

《魔人将》グランツオを倒した後、《天霊将》の称号の力を失った《戦霊将》レイシスにリシアは聖属性の攻撃を行い《天鎧装甲》を解除しました。《天霊将》レイシスは自分の体が元に戻っていくのを確認して「レイシアお姉様の勝ちです。だから私を殺すといいでしょう」と告げてくる。しかしリシアはすぐにレイシアの元へ駆け寄って抱きつくとレイシアの手を取りながら泣き始める。

「リ、リシア? 一体どうしたというのですか?」と、問いかけるとリシアは「もうレイシアを悲しませるような事をしないから一緒にいようね。これからはリシアが絶対にレイシアを守るから!」と宣言してきた。それを聞いたリシアは嬉しさを感じると共に複雑な感情を抱く。それはリシアがレイシアの事を心配して行動してくれた事に対する感謝と、レイシアの為に危険を冒そうとするリシアをレイシアが止めなければと思うが――それを伝える事はできない事に気が付いてしまう。

「わたくしもレイシアさんにお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」と、レイシシスが言う。彼女はグランツオに負けた事を自覚しており、これ以上レイシアの傍にいても足手まといにしかならないと判断したのでレイシアと行動を共にしたいと思っていた。それに加えて聖属性の適性を持たない彼女がグランツオに聖属性で攻撃を行う事はできなかったので、レイシアと一緒にいれば何かの役に立つはずだと口にしたのである。

「レイシシスさんの願いを叶えてあげてください。私と一緒だとリシアが危険な目に合う可能性が高いですから」と、アリシアは口にした。リシアはそれを聞いて「えっ!?」と驚き、どうしてなのかとアリシアに質問を行った。

アリシアはレイシアが《勇者》の力を得ているがゆえにレイシアの命を狙う者が現れる可能性をリシアに話し始める。アリシア自身も《魔戦将》の称号を簒奪されるほどに《魔剣》の所有者であり、そしてリリスは勇者であるグランツオを倒してしまうような規格外の存在なのだ。そのような者達が現れた場合、レイシアを守り切る自信はなかった。だからといって、リシアにはそんな話は聞かせられない。リリスならレイシアの力になり得るが今の彼女にはリリスはそこまで脅威とはなり得ないと考えていたのだ。

「レイシアお姉様に迷惑をかけるわけにはいきません。だからリリスには負けるかもしれなくてもレイシア様をお守りするだけの力を身に付けるために、この場は一旦離れるべきです。そしていずれ私が貴方の《魔戦将》の称号を奪う事で私はレイシアと肩を並べる存在となります」

リシアはその言葉を耳にすると、アリシアが何を考えているのかすぐに察してレイシアの服を強く掴む。そしてレイシアがアリシアとリシアの両方に優しく声をかけた。

「二人共落ち着いてください。わたくしの心配をしてくれる事はありがたいと思います。ただ今は落ち着く事が先決です。グランツオはわたくしの配下として今後は働いてもらうつもりですから、まずは彼を安全な場所へと避難させなくてはいけません。その役目はリリスに担ってもらおうかと思っています」

レイシアがそう告げるとアリシアは少し考える素振りを見せてから小さく息を吐き出すと、納得するように口を開いた。

レイシアが《真魔導》で作り出した《竜玉》によってグランツオの傷を回復させると、グランツオは起き上がり自分の体を確認した後にレイシアを見る。「この力はお前のものだ。好きにするといい」と、《勇者》であるリリスと《魔王》であるレイシアを相手にして敗北をした事を受け入れるしかなかったのだ。それにここで逆らう事は自分がレイシアよりも弱いのだと思い知らせられるようでプライドが許さなかったのである。


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レイシアはグランツオが作り出した巨大な魔鉱塊を分解させると中に入っていた素材を拾い集めてアイテムボックスの中に収納していく。

「それは何だ?」とその光景を見たグランツオに聞かれたのでレイシアが自分のスキルを説明すると、グランツオはその使い方を真似ようとした。

だが、スキルを使用しようとした瞬間、グランツオの顔色が悪くなっていくのを確認する。そこでレイシアは彼の顔に手を当てると《癒気》を発動させる。それによってグランツオの顔色は回復していき、落ち着いたところで彼に尋ねる。

「それで貴方がこの世界で得た記憶というのはどのようなものでしょう?」

「俺が覚えているのはほとんど人間どもが暮らしていた街の中のようだ。だが俺が居た場所は普通の家ではなかったな。俺は《迷宮主》と呼ばれていたが、この世界の事を教えてくれると俺に対して言うのは、いつも《奴隷商の館》の主人だった男だけだ。俺の記憶には無いはずの奴が何故ここに居るのかという疑問はあったが、《転移装置》という能力を使用してこの場所へ連れてこられたのだと聞かされていた。《魔闘将》という称号を持つ女がやってきてから後は俺の世界は滅茶苦茶だったよ。その《魔導将》と呼ばれる連中に俺は捕らえられていた。この世界では珍しい武器を扱う事が出来る俺の存在は貴重なものなんだとか言われてさ。だが俺はそんな扱いを受ける事を嫌だと感じていて、何とか抜け出そうともしていたんだ。その度にあの女の配下の者に捕まっていた。その状況から助けてくれたのはレイシアとアリシア、そしてその二人の保護者でもある《剣聖》アリオスだ」

「そのアリオスは何処に?」と、グランツオが口にした人物の名に興味を示す。グランツオはレイシアの表情を見てそれが気になる事だというのが分かってしまったのでレイシアにその説明をする事に決めたのである。

「その男は、《天魔将》のリシアと《勇者》の称号を得たリリスと《竜魔将》と呼ばれる俺を倒した化け物じみた力を持った《天魔の魔剣》の所有者のレイシア、それからその保護者のアリシアがこの世界で暮らしていた国に住んでいる《勇者》アリシアの義理の妹だった」

「リシアはアリシアの妹で間違いありませんか? 彼女はリシアと名乗っていると聞いていますが」

「あぁ、間違いなくアリシアの娘だろう」

「ありがとうございます。アリシアの両親や家族については教えてくれましたが、他の仲間はどうなっているのですか?」

レイシアの問いにグランツオは、自分達が住んでいた街が魔物達によって襲撃を受けてしまい、リシアはグランツオを含めた生き残りを《転移装置》を用いて《竜魔窟》と呼ばれるダンジョンの中に連れて行ったと説明した。そしてリリスとレイシアがレイシア達が暮らす国に攻め入った事を思い出して「二人は、この世界を侵略するためにやってきたと言っていた。俺はこの世界の事はよく分からないのだが、それは本当の事なのか?」と、レイシアに尋ねた。それに対してレイシアが答えるとグランツオは驚くような様子を見せたが、「まあいい。この世界での用件が済めば元の場所に帰るとあいつらには伝えていたが、今となっては帰る事も難しいので、こちらの暮らしに慣れていくしかない」と、開き直ったような事を口にしたのである。

(グランツオ視点)

レイシアの質問に対して俺は《天霊将》が俺を召喚させた目的について語るとレイシアは何かを考え込むような仕草を見せ、そして口を開く。

「リシアをわたくしの仲間として受け入れる事を許可しましょう。ただしリリスをどうするかを考える必要があります。彼女はレイシスに敗北したはずなのに、わたくしが与えた力を簒奪したようです。しかしグランツオの話を総合的に考えれば彼女がレイシアの力を奪っていない事を証明する事が出来ます。彼女がグランツオから奪った力でレイシアから強奪したと思われる《天魔刃覇王》の力を使用する事は出来ませんでした」と、レイシアは言う。

それを聞いたレイシアの配下である少女の一人が「《魔人将》が《天魔将》に敵わないというのは、そういう意味では正しいようですね。ですがレイシア様を裏切ったグランツオの言葉を簡単に信用できるとは思えません。レイシア様とレイシア様の愛する方々に仇なす者は排除すべきでしょう」と言った。それを聞いたグランツオが慌てて彼女の言葉を訂正しようとすると、レイシアの傍にいる金髪の少女が《天魔刃覇王の剣》を手に取る。そしてグランツオに斬りかかるとグランツオは《聖盾》を出現させて攻撃を防いだ。それを見た少女が不敵に微笑み「レイシア様に害を成す者がレイシア様のおそばに居る事は許されない」と言ってグランツオの首を切り落とそうとしたのだ。そしてそれをレイシアが止めた――そしてそのレイシアの行動がグランツオに衝撃を与える事になった。

俺はこの世界の常識に囚われない行動に驚かされてしまったのだ。そしてレイシアがグランツオに尋ねる。「わたくしの《紅の指輪》にグランツオが命じると発動する術式は刻み込んでおきますので、もしもわたくしの大切な者を殺す事が有っても、貴方が死ぬだけになります。そして貴方の言う事は、その術式が発動すれば分かるようにしておくので安心をしてください」と、告げたのである。

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レイシアはリシアを受け入れるつもりではあったが、彼女の持つ《勇者》としての力が危険だと考えていたのは確かであった。だからこそ《魔剣》と《緋色の宝玉》が組み合わさる事により《勇者》の力が変質している可能性を考慮していたのであるが、《魔闘将》リリアナの力を解析した結果は、レイシアにとって好ましいものだったと言える。

「リシアはグランツオから力を奪ったわけではなく、グランツオが所持しなくなっただけのようです」

その言葉にレイシアは首を傾げるが「つまりはどういう意味なのでしょうか?」と言うと、リリスが答えてくれる。「私の体の一部、それも一部分だけをリシアさんに渡したという事でしょうね」と、レイシアに告げる。その言葉の意味が分からなかったのかレイシアは「どうしてそのような事が?」と、疑問をリリスに問いかけた。

リリスは自分の体の一部を切り離して《竜神族》に伝わる特殊な《呪印》を付与すると、《天魔王の剣》を作り出した事がある。それはグランツオが持つ《竜闘技》と呼ばれる戦闘技能に関係していた。《竜闘気》と呼ばれる肉体を強化する能力を身に付けているグランツオはその《竜闘気》を使用して自分の肉体を強化させているのである。

《竜闘気》は竜種以外の生物が使用すると体に負担がかかりすぎてしまうが《魔闘将》はグランツオと同じように《竜闘気》を使用できたが、グランツオほど強力に扱えなかったのである。そこでグランツオはリリスの《天魔王の杖》の能力を使用して自分の体を《天魔王の剣》の形に作り変えてしまったのだった。そしてリリスの体は《剣》へと変化したのである。

リシアはグランツオから力を受け取ったのではなく、自らの《魔剣》を作り出した際にその力を取り込んだ結果魔剣士として目覚めたというのがレイシアの説明で判明したのだった。そしてリリスは《天魔王の剣》という存在に変化させられたのだが、《魔剣》が《天魔王の剣》に進化したという事は、それだけの実力がある《天魔刃覇王》になったという事に他ならない。だからレイシアは、レイシアの眷属であるアリシアが《勇者》アリシアとして覚醒する事に不安を感じ、グランツオをアリシアから遠ざけようと決めたのだった。

《勇者》という強力な称号を持っているという事だけで、その能力も使い方次第によっては凶悪なものに変質する可能性は高い。だがグランツオから《天魔刃覇王の剣》の力を奪おうにも、今のレイシアではその力が大きすぎたために奪うのは難しくなったのだ。それにレイシアがレイシアの母親から渡されたネックレスは、レイシアがレイシアの母親に渡したいと思っていたものらしい。

レイシアからその事を聞かされてしまえばグランツオは、この世界に残る事を選ぶ事になるだろうが、リリスがレイシアとグランツオに対して警戒心を剥き出しにしていたためにグランツオもリリスも居心地が悪いと感じたようだ。特にグランツオの場合はレイシアの配下の一人によって首を切断されそうになっていた。そのためレイシアがグランツオとリリスをこの世界に住まわせる許可を出したのだ。ただレイシアの配下の中に存在する序列1位の人物に関しては、レイシアの許可があっても納得できなかったようである。それはアリシアも同じらしくリシアの事を睨み付けており、リシアは困ったような表情をしていた。

リシアの事をレイシアに任せるのは危険だと考えたが、グランツオの方はリシアの事を認めてくれたらしい。そして《天魔刃覇王の剣》についてレイシアは俺の方に話してくれる。その話を聞いた俺が《鑑定》を行うとレイシアの言うとおりの情報が開示される。レイシアの配下の一人であるクロキという女性が持っていた武器の情報を確認したのである。

俺はレイシアがリリスに対して「グランツオから受け取った力を使えばグランツオから奪い取る事も可能なのではありませんか?」と尋ねる。するとレイシアは「わたくしには難しいです。グランツオの《天魔将》の力を吸収したリリアナでもわたくし達の仲間になってもらう事になりましたが、リリアナはわたくしの力を奪い取った訳ではありません」と、説明してくれた。

確かにグランツオの話を聞く限り《天魔刃覇王》はリシアに扱えるような性能ではない事が理解できる。レイシアの言葉は間違っていないと思うのだが、レイシアは何かを隠しているのだろうと、レイシアが隠し持っている力の強大さを想像してしまうと冷や汗が止まらなくなってしまうのだった。

(リシア視点)

私はレイシアと一緒にレイシアの故郷へと向かいながら、レイシアとグランツオの会話を思い出す。

「グランツオ。貴方は《勇者》の称号を持つ者達がどうなっているのか知っていますか?」

「俺の知る限りでは俺の《勇者》と、俺に倒されたリリス、リリアナ、リリアの三人が行方不明になった事が確認されている。リシアに俺が渡した《聖盾》には、俺の《天魔刃覇王》が刻まれた。この意味がわかるだろ」

レイシアは「貴方達が倒したはずの《勇者》が復活した可能性が高いでしょう。それならばわたくしの故郷の場所を知る者が存在する可能性があります」と言う。それを聞いたグランツオが険しい顔をして黙り込むと、「まさかリシアまでレイシスとやらの配下になっているんじゃないよな?あいつの居場所をレイシアに知らせたのって」と言い、私に目を向けると私の首筋にある《聖盾》を見つめていた。そしてグランツオはレイシアを怒らせてしまったようで、その後グランツオはしばらくレイシアに口を聞いてもらえなかった。

グランツオは《魔剣》に変化したリリスの《聖魔の剣》で《魔剣》に作り替えられていた。そしてそのリリスはレイシアの母親の《紅の宝石》の《魔剣》である《緋色の宝玉》を使って、その《魔刀》を作り出せるようになっていた。《緋色の宝玉》を使った《紅の魔宝玉》を作り出す事は不可能だったが《緋色の宝玉》を使用した《緋色の魔玉》を作る事は出来たのである。しかし《紅の魔玉》はリリスの体に負担をかけすぎるため使用禁止にした方が良いのだと、レイシアがリリスに告げると「リリスの体が弱いのは元々でしょ。それなら少しくらい無理をした方が成長するかもしれないじゃない」と言ってリリスが笑う。そんなリリスを見ていたグランツオが、グランツオにだけ見える映像を見せてもらっていた私の方を向いて、「なぁ、お前。リリスを恨んではいないのか? いやまあ、リシアに酷い仕打ちをしていた連中に復讐するのは良いんだが、あの女はリリスの母親だぞ」と、尋ねてくる。

「お母さんの事はもう気にしていないし、お父さんだって私がレイシアに命を助けてもらった時に、お礼も言わなかったのは悪いと思っているの」

「そうなのか?」

「だから、もしまたリリスに会えたとしても私は文句なんて言えないかな。それとレイシアの事が大好きだよ」

「それは良かった。俺が《天魔将》に進化する時に協力してもらえないか?」

「レイシアの頼みだったら何でも聞いてあげるつもりだよ」

「助かる。じゃ、行くとするかね」

そしてグランツオは私の事をレイシアの所へ連れて行くつもりだったらしい。そしてグランツオから聞かされた話は、リリスがレイシアの母親の体を乗っ取り、レイシアを殺そうとしていたという話と、それを阻止した時の事であった。

「《天魔刃覇王》が作り出した《魔剣》をレイシアに奪われた事でレイシアの肉体は死にかけていた。レイシアが生き返るには、俺の持つリリスの《紅の魔宝玉》が必要になっていた。だから俺はリシアが《勇者》と《魔人》の魂を融合した状態で誕生した事に賭けたんだよ。そしてリシアの中に俺の《天魔刃覇王の剣》が埋め込まれる事になった。ま、俺としては《勇者》の力を持つ者が、魔王となれば最強の存在になると期待できると思ったのさ。だがリリスと《天魔将》であるクロキ、リシアにリリスの意識を移して体を取り戻そうとしたが失敗しちまった」

「つまり私はリリスとグランツオの望み通りになってしまったという事なんだね」

リリスはリリスの母親の体を乗っ取り、グランツオの力を奪おうとしたらしいが、レイシアによって体を滅ぼされかけたために、体を乗っ取れなくなってしまったのだという。

《魔剣》が作り出される際に使用されたのはレイシアがグランツオに預けていた《天魔王の剣》で、レイシアは《紅の魔剣》を作り出した際に、その力を《天魔王の剣》に移したのだ。そしてレイシアの話では《魔剣》は所有者の魔力を利用して成長するらしい。

私はレイシアの眷属であるクロキアからレイシアの事情を聞いていたので《天魔王の剣》については知っていた。だからリリスは《天魔王の剣》を手に入れてから、《天魔刃覇王の剣》を《紅の魔剣》に作り替える方法を探し始めたらしい。ただその方法が見つからなかったのと、リリスが自分の母親に乗り移った事を知ったグランツオが、リリア達に協力してリリスを止める為に動いたようだが、グランツオの《天魔刃覇王の力》を吸収する前にリリスに体を奪われてしまいそうになってしまう――

その話をレイシア本人に尋ねると彼女はあっさりと答える。レイシアはレイシアの母を殺した人間に報復する事を目的にこの世界に戻って来たのだ。レイシアはレイシアの父親のレイジに対して特別な感情を持っていたらしく、それが理由なのだそうだ。レイシアは自分が生まれ育った家があった村の場所がわかるように自分の髪の毛を村に残してきたと言っていた。

それからリシアは《魔竜》の姿に変身したリリスの背中に乗って空に飛び上がり、そのままレイシアが生まれ育った村へと向かう事になる。そして到着した場所を見た私達は驚愕の表情をしてしまうのだった。レイシアの住んでいた家は半壊状態だった。私は思わず泣き出しそうな気分になるが、リリスとリシアは涙を見せていなかった。

(レイシア視点)

「これが、わたくしが住んでいた家になります。この場所にわたくし達が住む事の許可を与えてくださらないでしょうか?」

わたくしが生まれ育った村にやってきた《真紅の魔刃》はレイシア様が生まれ育った村の上空に浮かんでいた。その光景を見上げているレイシア様に話しかけたのはリシアちゃんでした。その言葉を聞いたレイシア様がリシアちゃんの方を見ると、リシアちゃんが涙を流しながらレイシア様の方を見つめていました。それを確認したレイシア様の頬から雫が溢れ出していきます。

「もちろんです。ここは貴方達のような子供達が安全に暮らせるような場所にします」

レイシアが笑顔を見せるとレイシアの周りに光が集っていく。レイシアの《神域魔法》《聖域創造》により、レイシアが育った村は綺麗な森に生まれ変わったのだった。

そして《勇者》の《称号》を受け継いでいるレイシアは、リシアが暮らしていた家の残骸に手を当てるとすぐに家を復元させる。その作業を見ていた《勇者の剣》の所有者であるレイジが驚いていたが、レイシアは《勇者の遺産》の一つでもある《魔剣》を作り出した事があると話し、それを証明する。

そしてレイシアがこの村に住む許可を出す代わりにリシアはレイシアが《勇者の剣》を所持していることを認める事を約束し、リリスにも同じ事を伝える。リリアナにはリリスの口から伝えてもらったのだが、リリアナは納得してくれたようである。

レイシアは自分の家にリリスと共に帰る。しかしそこには既に別の誰かが住んでいた形跡が存在した。そしてレイシアがレイシアの家に近付くと、そこにいた人物を見て警戒する。レイシアの記憶の中ではレイシアとレイナの家に住んでいたのは同じ家族だったが、レイシアが覚えていない間に違う人物に変わったようだった。しかしレイシアはその人物がレイアの娘であるリシアの母親だと判断し、レイシアはすぐにレイシアの母親の元へ駆けつけようとするがそれをレイシアが引き留めた。そしてリシアの母親はレイシアがレイシアの妹だと認識すると「貴女は私の娘なのね。レイシアはどこに居るの?」とレイシアに尋ねる。そしてレイシアは《聖盾》を呼び出しリシアの母親に渡すとレイシアとレイシアの母は、お互いの事を話し始める。

レイシアは自分を育てた両親や妹であるレイリアが生きているかもしれないという話を聞いた後、《勇者》や《魔剣》や、《勇者》の称号について知っている事を教える。

レイシアの話ではレイシアやリリスの父親はリシアが生きていた事を知らないようで、自分達の子供が死んだと思っていたのでリシアやリリスが生き返っている事を知ると、きっと喜ぶだろう。それにしても、《勇者》というのは、それほどに凄い事らしい。レイシアの父親や母親がどんな反応をするのか、今から会うのが楽しみだった。しかしレイシアがこの世界で手に入れた知識によれば《魔人》はレイシアの父親が倒すべき存在であるはずだ。だが、それではどうしてこの世界は平和になったのか? その答えはこの世界の成り立ちにあった。

まずは《魔剣》とはどういうものなのか、《天魔王の剣》を持つレイシアはレイシアの父親とレイシアから、その仕組みを聞かされていたので分かっていた。《魔刃》と呼ばれる現象が発生するには《魔導核》と《魔晶石》が関係しているのだそうだ。

そして《天魔将》とは《勇者》の魂と《魔王》と融合した人間の事を指しており、本来は魔王が誕生するはずだったが、《天魔刃覇王》に作り変えられてしまったレイシアの父の魂を宿す人間が魔王となってしまったために《天魔王》が生まれたのだろうと、《魔刃》を作り出す際の工程を《天魔刃覇王》の力を得たレイシアの父であるリゼリオンが教えてくれた。つまりレイシアの父であるリゼリオンは魔王と融合した状態で生まれて来た子供なのではと私は考えていたのだ。ただ、その事は本人にも分からないのだと思う。何故なら自分の中にもう一つの魂が存在する事に気付いていないのだから――。そして、この世界に魔王が現れるのを阻止する事が出来た理由はレイシアの母にあるとリリアナが話してくれる。それはレイシアの《天魔刃覇王の魔宝玉》の力を利用して《天魔刃覇王の剣》を作り出せるようにレイシアの父がレイシアの母に《魔宝玉》を手渡して《天魔刃覇王の力》を譲渡したのがきっかけだという。そしてそのおかげで魔王が現れなくなり世界が平和になり始めたのだそうだ。

それ故に、レイシアが魔王にならない限りレイシアの父とレイシアの父はずっと会えないのではないかと心配になるのだが、それでも今は無事に再開する事だけを願った方が良さそうだと思い直した。そんな時に、ふと私が気になっていた事を聞くことにする――。

「レイシアー、質問したい事があるんだけどいいかな?」

私はレイシアスに向かってそう言うが、レイシア様は「はい」と答えてくれると、私も同じように答えてくれていた。私は疑問を感じていた事を二人に相談したのだけど――二人は顔を見合わせて困ったような顔をしていたんだよね。でも私はその理由がよくわからなかったし、「まぁ別にそこまで気にする必要は無いか」と考え直す事にした。それから私たちはリシス村での生活を始めたのである。(リリアス視点)

(リリス&リシア姉妹Side終了)

(リリスside)

わたくしと姉さんはリリスの故郷でリリスが生まれ育った家に戻ってきた。家の中で休もうと中に入ると、わたくしと姉さんの視界に入って来たのは懐かしの家具の数々。特にリリスのお気に入りだったテーブルセットに目を奪われてしまい、リリスの表情を見るととても悲しげな表情をしていたのを覚えている。ただその時には、まだこの村にレイシアが来ているという確信がなかったので、わたくしも姉もレイシアに会うまで我慢することにした。

(レイリスの視点に変更)

レイシアがこの世界に戻ってきていたという話はレイジ様やアリシア様から聞いた話で知っていましたが、この村にレイシアが戻って来ていると知ったのはリリスちゃんと一緒に暮らし始めた頃の事です。その頃はわたくし達の家はリリスちゃんが住んでいた家で、そこで暮らす事になりました。

最初はレイジス兄ちゃんとお母さんが帰って来ると思っていましたけど――どうもその期待は叶わないようなのです。そもそもわたくしとリリスちゃんが住んでいた家は、お婆ちゃんとお爺ちゃんが一緒に住めば丁度良いような広さの家だったので、大人三人が暮らすような大きさではないです。それこそ二人で暮らせば十分過ぎる程の広さがあり、大人数で住むような家ではありませんでした。しかしレイシアは間違いなくここに戻ってくる。

それから一カ月の間、毎日リリスと過ごして生活していく中で、リリスが何かを隠していることに気付きます。リリスは自分の母親について何か隠しています。

レイシアに聞いてみようと何度か考えた事があったのは事実なんですが、もし違っていた時、この子にとって嫌な記憶を掘り起こす事になるかもしれませんし、わたくしは結局聞く勇気が出なかった。だからその話は、もう少し後になってからでもいいと思いました。

そんなある日にレイジ様が突然やって来て驚き、更に驚く出来事が起きたのです。リリアナちゃんがこの村に来ると言い出した。そしてその日はすぐにやってきてリリアナちゃんは、リリアナ様とレイシアを連れてこの村に現れた。リリアナ様を見たリリスが、とても複雑な表情を浮かべていましたが、リリアナちゃんはリリスに抱き着いていた。

その後、リリアナちゃんはレイシアの方を見て驚いていたのをわたくしは見ていました。

レイシアとリリアナはお互いに抱き着き、そして涙を流していました。その時のリシアの反応を見て、きっと二人は再会できたのだと嬉しく思う一方で、寂しいような、悔しいような感情がわたくしの心の中に芽生えていたのに、この時のわたくしは自覚していなかったのです。

リシアは母さんに抱きしめられているのを見ながら、俺はレイシアが本当に生きていたのを実感して、その光景を見ていると、涙が頬を伝っていくのがわかる。そしてレイシアはリリアナとの抱擁が終わると俺の元へやってくると、《勇者の遺産》の一つである魔装銃を取り出してきた。その魔魔導拳銃を手に取り眺めると、《真紅の魔剣》のように光輝いては居なかったが、この《魔銃剣》が凄い力を秘めているのは、何となく感じ取れたのだ。だが同時に危険であるということも伝わってくる。おそらくこの武器は使い手を間違えれば、危険な代物になってしまうのだろう。その事を伝える前に、魔竜王であるリリィさんは《魔人眼》の能力を《魔剣》を通して発動するとレイシアに問いかける。その様子は明らかに怒っているように思えた。

《魔人化》の能力で身体を変化させた状態だと魔力を感じ取れるため、その魔人の《スキル》がどんな効果を持っているのか分かるのだという。それ魔人という存在には警戒していたようだ。

そして魔人族に対して《勇者の証》を使ってしまった事が問題なのだとか。ただ、リシアの母親とリゼリオンの話によればリシアとレイシアがレイティアの娘だと知らなかったそうだ。だからこそレイシアを責めるのは間違いではないかと思いつつも、やはり魔人に《勇者の証》を使用したのは問題なのでしょうねと思う。しかし《魔竜刀》という剣は一体なんなのだろうか? 魔竜王リゼリオンが持つ剣には特別な力がある。それはレイシアから聞いた話ではあるけれど、恐らくはレイシアの持つ《魔天の槍》と同じように《魔晶石》を使った機能を有していると思われる。それに加えてもう一つ特殊な力が宿っていそうな気がする。そして魔竜王の肉体と融合した事で、本来の性能を発揮できるはずだと言っていた。

リゼリオンは魔王を倒すために旅に出ており、その途中で出会った人間と恋仲になってレイシアの父親との間に子供を身籠り出産しているらしい。その結果がこの世界のリリス達姉妹と、この世界のレイシアだという事。

それからリゼリオン達は旅を続けた末に、魔王を倒したのだが、倒した後にレイシアは妊娠しており、レイシアは一人で産まれるまで育てようとしていたのだと言う。しかし生まれた直後にリーゼリオンが魔族の侵攻によって命を落とす。その後はレイシアと魔族は対立して、最終的にはレイシアは魔人になってしまったのだそうだ。

それから数百年が経過し、レイシアはこの世界に戻ってきたのである。

リシアはそんな話を聞いて、リリィさんの態度の意味が理解出来たようであった。リリスも少しだけ事情を知っており、二人の会話には参加出来ない。レイシアの父親は《勇者》であったが、実は魔王だったのではないかという話を、リシアがしていたのだ。《魔天の槍》の力を考えれば、魔王の力を手に入れたと考えれば、リシアの推測も間違ってはいないかもしれないが、レイシアはレイシアの父親の魂は消滅していなければ、魔王になったわけではないとも言った。

そして《勇者の祝福》が発動しなかったのも、父親が死んでからすぐに死んだからだと考えられる。もしも生きているうちに魔王を倒していれば、魔王としての力は継承されていたはずなのだが、そうはなっていない事から、レイシアの言う通りだと思う。

しかしそうなると疑問が浮かぶ。なぜ今の時代に復活したのかという事だ。そもそもレイシアはレイシアの父親とは面識があったのであろうか?

(レイジスの視点に変更)

それから数日後にレイシアから衝撃的な告白を受ける事になる。なんでもリシアとリリスの母親も《神の祝福者》だったらしい。それで二人を産んだ後、命を落としたという話を聞いていたが、本当は生きていたのだと言われた。それもレイシアと同じく、レイシアの母親に育てられていたというのである。しかし何故レイシアは、その事を秘密にしていたのだろうか? その理由を聞くと、彼女は俺達に言うかどうか迷っていたみたいだが、やがて自分の口から話す決心をしたようで、その真実を語った。その真相を聞かされた時はさすがに言葉を失った。まさかリリアナさんまでレイシアと同じような経緯で生まれた子供だったとは思わなかった。それにレイシアの両親もまた、同じようにしてこの世界で産んだのだから。

俺は改めてレイシアの生い立ちや境遇を知った事で、彼女をもっと大切にしなければならないと思ったのである。

(レイジスSide 終了)

レイシアスの言葉を聞き、わたくしは心の底からの歓喜を覚えた。リシアとレイリスと再び家族になれる事に、嬉しさがこみ上げて来ると同時にレイシアに対する愛が溢れそうになる。ただその時にふと思い出す。

そう言えば、まだお父様達がこの村にいた頃のわたくし達の家ではリリスとレイシアは一緒に暮らしていたのですよね。ただお母様とリリスのお婆ちゃんとお爺ちゃんと一緒に暮らしている方が楽しかったし、幸せだったのです。だけど――その暮らしは長く続かなかった。わたくし達の両親はリシアとレイシアに何も言わずに、お城へ戻ってしまった。

その時に、レイシアとリリスは泣かない様に我慢していましたけど、二人が悲しんでいたのは見ていてわかっていたのです。そして、わたくし達の暮らしに大きな変化が起きた。それはリリスの母親が病気で亡くなった事でした。その時にはリリアナちゃんはまだ小さかったのですけど、その時の光景をリリスが今でも覚えていた事もあって、リリアナちゃんはお婆ちゃんがいなくなったと悲しんでいました。お婆ちゃんが亡くなった事で村に住む人たちに動揺が走りましたが、一番落ち込んでいたのはやっぱりリリスでした。

そしてそれから一カ月ぐらい経ったある日、レイシアがリリスを連れて家にやって来たのです。リリスはレイシアを見て驚いていましたが、それよりもリリスはリシアに抱き着いていました。それからリシアはレイシアをレイシアと呼んだので驚きました。だってリリスは今まで、お母さんと呼んでいたからです。でもリリアナ様が「私の妹だから、私がお母さん」とレイアに言っていたので、リシアがレイシアの母親なら納得がいきます。

そして、リシアはレイシアに魔竜王がこの村にやってくると告げたのです。正直、リリアナ様からレイシアはレイシアの母がやってくると聞かされてはいたのですが、実際にやってくるとなると驚きと、本当に生きて帰って来たという実感を覚えます。そしてリシアはわたくしがレイシアと出会った時の話をして、レイシアがレイジ様に助けられたと伝えたら、その話はレイシアからも聞いていたのか、「そういう事でしたら大丈夫でしょうね。リシアのお父さんが、あの方なら信じても良さそうだわ。あの方が来ればきっと村の人達も安心してくれると思うし、魔族との戦争も終わって平和が訪れるかも」と言って、笑みを浮かべていました。

その日の夜に、わたくしが部屋で寝ていると外から物音が聞こえて目が覚めてしまい、わたくしは外に出てみるとレイシアがリリスを抱きかかえて、何かを話していたのです。そしてリシアがリリアナ様の部屋に入り、リリアナ様と二人でレイシアとリリスに近づきながら、何があったのか聞いてみたのですよ。するとレイシアは、リリアナがレイリスをリシアの生まれ変わりではないかと言い出してから、レイシアの様子がおかしいという話を聞いたので気になり様子を見に行ったと教えてくれたのです。リシアもリリアナさんがそんな話をしていると知っていたみたいなのですが、リリスはリシアと違う人格なので、別人だと割り切っているらしく気にしていないという事だったのです。

その後には、レイシアはリシアのお母さんの事は知らなかったようですが、その事を詳しく聞く事にしたのです。それから、どうしてこの世界にレイシアが生まれたかの事情と、リシアの両親がレイシアに何も言わず、この村を出て行った事について説明してくれました。

そしてレイシアがリリスに対して優しく語り掛けると、リリスは泣き出しそうになったものの、必死に耐えていた様子。そしてわたくしとリリアナはレイシアの話が終わった後にレイシアをギュッと抱きしめたのですよ。それからしばらくするとレイシアも涙を目にためて泣いていました。それからレイシアのご両親の話や魔竜王の話をして、レイシアの過去を知り――レイシアもリシアと同じように辛かったんだと思うとその話だけでも、心が痛くなり、胸の奥が締め付けられる感覚がします。

ただ、これから先も、もし辛い出来事が起きてもレイシアを支えていきたいと考えました。リシアも同じ気持ちだったのでしょう。だから二人きりになった時に相談をしたんですよ。そう、二人の間に子供が出来た事を相談する事になったんです。

もちろんわたくしは妊娠しているという事に最初は戸惑いはありましたが、それでもわたくしはリシアとの愛の結晶が出来たという事に幸せを感じていたのです。リシアもまた幸せな笑顔を見せてくれていたので、とても嬉しい事なのですよ。ただ妊娠したのは良いのですが、リシアはレイシアの出産経験があったとはいえ初めての妊娠なので不安な事もいっぱいあります。なのでリシアと相談しながら色々と勉強して、知識をつけていく必要がありました。リリアナちゃんも、レイシアの出産の経験があるのと無いのとでは出産に関する知識が全然違ったみたいだし、それにリシアとリリアナちゃんには、同じ時期に妊娠していた事もあり、リリアナちゃんにはお姉さんになってもらおうという話もしていたの。

それからリシアは毎日レイシアのお見舞いに来ていた。リシアは魔刃王の娘だという事もあって魔竜族の村に住んでいるのだが、今はレイシアのお腹の中の赤ちゃんのために薬を作ってあげたいからと頑張っている。ちなみにこの世界では基本的に薬草などを使って薬を作り、病気の治療法を見つける事が殆どであり、魔法を使った治癒の術を使う人は少ないらしい。その為なのかわからないが、リリアナ様はあまり回復の魔法の習得に興味がないようだ。ただ、それはレイシアの為であって、リリアナ様がこの世界に来た目的はあくまでも《魔王の祝福》を手に入れる事なのだから、あまり関係はないのだろう。しかしそんな話を聞けば、リシアも負けじと頑張ろうという気持ちになるのではないだろうか。リシアはリシアなりに、レイシアの事を大切に思って、彼女の力になりたいと思っているに違いないのだから。

(レイジスSide)

俺はそれから、村長の家の客間でリリスと一緒にお茶を飲ませてもらった。リシアはレイシアの側にいるために家に戻っていて、レイシアの方ではリシアが俺の為に作ってくれた薬を飲む為に準備をしていた。そして俺達は今の状況を説明し合うことになった。

俺はレイシア達の母親である魔刃王に俺達の事を報告する必要があると思ったのである。魔竜王の件に関しては俺がなんとかすると言ったものの、そもそもの魔竜王が復活した理由についてはわかっていないからだ。それにリリアナさんが言う通り、《神の祝福者》がこの世界にやって来た以上は魔族との戦いに決着が付く日が来る可能性が高い。

その事から、この村を復興させる事で得られる利益についても考えていたのだ。俺はリリアナさんと話して、村の再興をお願いする事にしたのだった。

しかしリリアナさんからは意外な返答が帰ってきた。それはリリスやリシアのようなハーフエルフ族がいるこの村に居たいという要望だったのだ。どうもこの世界の常識的に考えれば、純血の人間以外の種族は迫害を受ける存在として見られる事が多い。

しかし俺はリリアナさんの村に対する愛着や思いやりを感じたので、リシアにも同意を求めた上で了承し、村の修復を行う事が決まったのだ。ただし、この村を直すために必要な資材を用意するためにお金が必要なので、村の人達に協力してもらう事になるかもしれないと話すと、村の人たち全員が快く承諾してくれた。

また村人達に手伝ってもらう場合に備えて食料などを保管しておかなければならないと伝えたところ、レイア達が用意しているので必要ないと返されたので助かったが、レイア達がわざわざ備蓄してあった食材を出してくれるとは思わなかったので、後で感謝しないといけないと感じたのだ。

ただ魔竜王復活による危機を脱してもまだまだ課題が多いと思い知った一日だったのは間違いない。この世界でもリリアナさんやリリスがハーフであるという理由だけで迫害を受けている。魔竜王がこの世界を侵略するために復活した魔刃王はレイアの父親である。そうなるとリリスのお父さんも既に死んでいるはずだが、どういう経緯で死んだのかはまだ分からないし、仮に生きていたとしても敵討ちをするつもりもないのでそこは問題にはならないと思うが――

とにかくまずはこの世界を救う事だ。その為にはまずは魔刃王の討伐だが、魔竜王を復活させたのは十中八九、奴の仕業だと推測は出来ているので、その点だけは許せない。だけどあいつはレイシアと同じで魔剣の力を使いこなしている。それはつまり《神の祝福者》が関わっている可能性が非常に高いと言えるし、《神の祝福者》がレイシアとレイシアの両親を生き返らせた可能性がある。だとすれば今回の事件を起こしたのがレイシアの可能性は低いので安心は出来るが、この世界の危機を救った後は魔刃王がこの世界で何を企んでいたかを問い詰めなければ。

俺はそんな事を考えながらリシアの案内でレイシアが休んでいる部屋に入った。そこでは既にリシアから事情を聞いたリリアナさんが待っていたのである。その隣には何故かミレアナもいたが、彼女はリリアナさんの妹で《聖騎士姫》と呼ばれているらしい。リシアから聞かされて初めて知る事が多かった。リシアも知らなかったらしくて驚いていたぐらいだし、リリアナさんの妹なら実力もかなりの物だと思うが――その話は一旦置いておくとしよう。今はそれよりもレイリアについて話をした方が良さそうだ。そして俺は自分が《神魔の箱庭(アルヴィナ)》にやってきてから、ここにたどり着くまでの話をすることにしたのである。ただ俺は自分の素性についてはぼやかしていたのでリシアに聞かれた時は困ったけどな。

(リシアSide)

私はリリアナにレイシスのお母さんの話をした時と同じく、私のお父さんがレイジスで、彼がこの世界にやってくる前に起きた出来事と、彼の母親がこの世界でどのような人物だったのかを話したのです。私とリリアナちゃんの話を聞いたリリアナはとても嬉しかったみたいで、私を抱きかかえて喜びました。でもリリアナのお母さんがどうして死んでしまったのかは聞いていません。ただ私が聞いた限りだと魔物に襲われて命を落とすまでは一緒に過ごしていたようなのですが、詳しいことは教えてくれなかったのですよ。

だから私がレイシアのお母さんのことを思い出しているとリリアナが「レイシアのお母さんがどんな人だったか知りたい」と言うと、リリアナは少し躊躇いながら話し始めたのです。

なんでもリリアナも昔はリシアと同じようにリリアナさんという人がお姉さんになってくれるという話だったみたいです。それでレイアさんとクロさんとライアさんという方達を紹介されたみたいですが、実はその時の私は、自分より小さい子に優しく接するのは無理だろうと思って断っていたみたいなんです。

それから数年後、リリアナさんに弟が生まれたという事を聞いてリリアナさんの家に様子を見に行った時にリシアに出会ったんだそうです。リシアはその時にはすでに一人前の戦士として働いていたそうで、魔導師としても優秀な力を持っているようでした。それを見たリリアナはすぐにレイシアと仲良くなる方法を考えたそうです。

というのも、レイシアの家はレイアスさんが亡くなった事もあってあまり仲がいいとは言えない家庭になっていたようだったので、その状況をなんとかしたいと考えた結果らしいのです。その結果リシアにレイシアを紹介して貰う事になったのです。リリアナの話を聞けばレイシアのお母さんの事がわかるかもしれなかったのでリシアは喜んで話をしてくれました。リリアナの話が終わってからリシアがリリアナの話をしたところ、今度はリシアとリリアナちゃんが抱き合い、お互いにレイシアのお姉ちゃんになった事を喜んでいる様子なので良かったのです。リリアナもリシアがとても優しい人なのですぐに打ち解けられたのですよ。

そしてこれからの事を話す事にしたので、村長の家で食事をとる事にしました。ちなみにレイアさんが村長の家にある備蓄用の食べ物を使ってもいいと言ってくれていたおかげでリシアも満足することが出来たみたいで、本当にありがたかったのですよ。それとリリアナもレイシアの薬を作るために材料を集めていてくれたのは嬉しいことでしたが、この村の人たちは全員、魔刃王に滅ぼされた魔竜族の村に住んでいた事もあって、薬草の知識があったからよかったですね。

(リシアSide)

わたくしは魔剣の精霊王であるリリアナから色々と話を聞く事が出来て幸せだったのは間違いないのですが、リリアナさんもわたくしと同じように家族を失った経験をしている事がわかって、心が通じ合えたような気がします。

わたくしの場合はお父さんも亡くなったわけではありませんし、リシアのお母様とも会う事は出来ますが、わたくしがリシアの気持ちを考えると、きっとレイシアのお腹にいる子を産む決意をしたのは、わたくしのためもあるのではないかと思います。リシアの両親はどちらも亡くなり、しかもレイシアのご両親にリシアの事を頼んでいたにもかかわらず、レイシアが産まれてくる前に亡くなってしまったという事を知って、どうしても責任を感じずにはいられなかったはずです。リシアはそういうところがあり、人の為に動くことが多いから心配なんですよね。

ただ、それでもわたくしがリシアのそばから離れないのは、彼女の強さを認めているからでもあり、彼女がわたくしを頼ってくれた事が大きかったりもするの。彼女はいつもわたくしの事を心配していて、本当はレイシアと一緒にいた方がいいのではないかと悩んでいた事もあったけれど、彼女にはもう1人の大切な親友がいるので、リシアが安心できる環境を作らないといけなかったから、あえて今までは距離を置いていた。その事を申し訳なく思いながらもリシアを見守ってあげて欲しいと言っていたのがリシアのご両親のお願いでもあったので――リシアが出産をする時はレイシアの側で守ってあげて下さいと言われて、それをずっと心に誓ってきたの。

それにリシアは、リリアナがレイアさんの側にいない事を不思議がっていましたが、リリアナとリシアはレイシアを挟んで姉妹のようになっていましたし、リリアナの気持ちを思えばリシアを妹の様に大切に思うのは自然な流れだったんじゃないかしら?リリアナはあの時から、レイアさんの事が忘れられなくて好きになってしまった。そんな彼女を慕ってくれるリシアを大切にするのは当たり前だと思うし、リリアナにとってレイシアの存在は特別だったというのもありえるから。だからレイシアの妊娠が分かった時、わたくしの事も頼んで下さったんだろうし、レイシアを守る存在が必要だと思ったんだと思うの。

わたくしがレイシアを守って欲しいというのは、レイシアがハーフエルフだという事もあるんだけど、それ以上にハーフエルフの子が生まれても差別の対象になるだけじゃ済まないからというのがあるから。もしもレイシアに子供ができたとしても、普通の人とは寿命が違う事を理由にその子供が殺される可能性もあるし、そうなれば悲しむ人がたくさんいると思うの。リリアナもその事は分かっているからこそ、レイシアを娘のように思っても過保護になり過ぎず、必要なこと以外は関わらないようにしていたという。そしてレイアスさんが亡くなった事でリシアを頼む相手はいなくなり、仕方なくリリアナ自身もリシアから離れる事を決意して――

それからしばらくしてレイシアのご両親が亡くなったと聞き、レイアさん達は悲しみを必死に抑え込んでいたのが分かって――

わたくしも悲しいという事を隠すことは出来なかったのよ。レイシアのお父さんもお母さんもとても優しかったから――

(リシアSide)

それから食事を終わらせた後、私は自分の部屋に案内されたのですが、リシアは疲れてしまったのかすぐに寝てしまったので、私は魔刃王がどうしてこの世界を侵略しようと企んでいるのかを考えながらベッドで眠りにつきました。でも結局考え付いた答えは分からなかったので、今はゆっくり休むと決めて、レイシアや魔竜王が復活する前に何をしていたのかを考える事に決めたのですよ。

それで私なりの仮説を立ててみた結果、リシアとレイアがこの世界で暮らしていた場所の近くにあった国というのが《白の王国》で、そこにはレイリアさんがお城に住んでいたそうなんです。リシアが教えてくれなかったのが悔しいのですが、魔竜王が復活した時の話をした時にレイシアとレイリアさんから聞いた話を合わせて考えると、魔竜王の力をレイシアが取り込む時に邪魔をしようとした《白の騎士》と呼ばれる者がいて、そいつのせいなんじゃないかと思っているの。

《聖騎士姫》であるリリアナならその男に会った事があって知っている可能性は高いのだけど、レイリアさんやリシアの話を聞いた限りではあまりいい印象を抱いていなかった。だからこそリリアナに聞かない方がいいと判断しているけど、リシアの体の中にいる子が産まれてきたらレイアさんから話を聞きたいのでリシアに協力してもらおうと考えてはいます。

(リシアSide)

翌朝になってリリアナに昨日思いついたことを話した後、レイリアに聞いてみて貰えないかと聞いてみると、どうせ魔人化を使うとしばらく動けなくなるから時間を作っておくと言われた。それならばその間にレイシアのお腹の子を産ませるための用意を整えようと、村長の家に備蓄されていた食材を使った料理を作り始め、レイシアにも手伝ってもらってお昼には食事を終えることが出来たの。ただレイシアもレイシアの両親について知りたいらしくて手伝いを申し出てくれた。

「レイシアさん、レイシアさんさえ良ければ私達とここで暮らしませんか?」

リリアナの言葉を聞いて驚いた。レイシアが一緒に暮らすと言うことはレイシアの家族になるということだ。つまり、それはレイシアの本当の家族になるという事になるわけで――レイシアはその言葉を聞いた瞬間、嬉しさを隠せずに涙を流していたが、すぐに首を横に振って断った。リシアがこの世界で暮らす事になった時に迷惑を掛けてしまうからという理由で。リシアはその返事に対してレイシアらしいなと思いつつリリアナを見ると、彼女もまた少し寂しそうだった。そしてリリアナと目が合うとお互いに微笑んだのだった。

それから村長の家にある備蓄用の食材を全て使い切った後、村の中で一番大きな家に住んでいる人に食料を分けてもらえないか頼みにいったのですよ。最初は怪しまれたり警戒されましたが、魔人王と戦う為に必要なので分けて欲しいという話をしてみるとすぐに理解してくれたので、本当に良かったです。それに加えてレイシアのお母さんにレイシアから貰ったというネックレスを渡すととても驚いていたのですが、そのおかげでなんとか分けて貰うことが出来た。その後村長の家に戻ってきたリリアナに、レイシアのお腹にいる子を産んだ後にそのネックレスを渡したらどうかと提案すると、彼女はレイシアが気に入っている物なら喜ぶはずと言って了承したのでその準備を始めることにした。

レイシアのお腹の中の子の性別はわからないが、リシアの話では男の可能性が高いみたいなの。リシアもあまり詳しい話は聞けなかったが、なんとなく感じるのだそうだ。レイシアもリシアも、レイシアの両親の名前を知っているはずなのに何故かその名前を口にする事はなく、それが引っかかっていたのだが、きっと二人にとってレイアさんとリリアナの両親が特別な存在だからなのではないかと思うのですよ。それにリシアの言うレイリアという名前の響きがなんだか懐かしく思えた。もしかしたらどこかで会ったことがあるのではないかと考えたこともあるけれど、やはり思い出せなかったのよね。だから、この機会に少しでもレイシアとリシアのために出来る事をしたいと思ったのですよ。

わたくしが魔竜王の復活を阻止してから数日が経ち、今日も朝を迎えた頃に村長さんとリリアナが起きて来て朝食を食べ始めた。それからリリアナはすぐに村の中にある薬草畑に向かったのは良いのだけど、わたくしとリシアはその間暇だったので、村長に頼んで薬草の採取をさせてもらう事にしたの。もちろん許可を取る為に薬草の生えている場所を聞くとすぐに承諾してくれて、村の中を歩き回ってから目的の場所にたどり着くことが出来た。薬草の採取を始めてから一時間くらいが経った頃、リリアナから声をかけられたのでそちらの方に行ってみると、リリアナは大きな籠を持っていたの。

「リシア、これを見て。凄いでしょ? こんなにたくさんあるの」

リシアは嬉しそうな表情で言って来たので、わたくしも同じ様に笑みを浮かべたのですよ。わたくしは薬草に詳しいわけではないけれど、そのリリアナが見せに来た薬草を見た限りだと、おそらくこの村にしかない薬草ではないかと思えました。なので、それをリシアが採ってきたと聞くとさすがだと思ってしまう。だって普通ではありえない量の薬が手に入ったのですもの。しかも品質も良いので、これがあればかなりの人が助かるでしょうね。それからリリアナの案内でさらに別の場所にある場所に連れていってもらい、そこでリリアナと一緒に採取を始めた。それから三時間が過ぎた頃、リリアナと二人で協力して大量の素材を手に入れたのです。これでリシアの出産を乗り切る事ができる。

わたくしは今から出産に向けての体力をつけようと考えて行動を開始した。出産までに体力をつけておかないと、リシアの負担が大きくなるからだ。それに魔刃王の力が強大過ぎるためにわたくしは負ける可能性もあると考えているの。でもそんな不安を打ち消すようにリシアの頭を優しく撫でてあげた。すると彼女は安心した様子を見せ、わたくしも心が安らぐ気がして幸せな気持ちになれたの。

(???Side)

魔竜王が復活して一週間が経過したが、未だに魔王軍の侵攻は起きていなかった。俺――魔剣王が配下となった者達は、それぞれが自分の仕事をこなすために忙しい毎日を送っている。その中で俺のやる事は魔王軍の中でも強い力を持っている者を見つけ出してはスカウトするというものだ。その仕事をやり始めて既に百五十人ほど勧誘に成功した。だが魔竜王の力を宿している魔竜族はおらず、魔竜王と関わりがありそうな奴もほとんどいない状況が続いていたが、そんなある日の事だった。魔城に住む一人の悪魔族の女性が、面白い話を持ちかけてきた。それはこの世界に転生したというハーフエルフの話だった。

彼女の名はレイティアと言い、見た目はまだ幼い少女のように見えるが年齢は二千を超えており、魔王妃と呼ばれるハーフエルフの女王なのだという。彼女は俺がレイシアの体を乗っ取っている事を知っているため、何かあったらいつでも言ってきていいと言っていた。

「お前がわざわざこの場にやってくるということは、何か問題が起きたということか?」

『その通りよ。レイア、あんたが前にこの世界に現れた時の事は覚えているわよね?』

俺は《魔眼》を使いレイアの記憶を見させてもらっていたのだが、どうやらその時に起きた出来事が原因で彼女がこの世界で目覚めたようだ。その記憶はあまりにも残酷なもので、彼女は自分の目の前で娘を殺され、自分の魂までが傷つけられていたのがはっきりとわかるほどだった。そのせいでレイアは精神が崩壊してレイシアがこの世界に現れるまでの間、ただひたすら眠っていたようなのだ。そしてレイアの精神が崩壊する直前で《紅蓮の魔剣》に封じ込められたレイシアがレイアの中に現れ、《白の聖槍》の力で彼女を救おうとした。

『レイシアはレイアの娘が生きている可能性を考えたみたいで、《聖杯》の力を持つあの子に《魔玉》と《魔結晶》を使って魔人化の力を封印するように言ったみたいなの』

「それでレイシアが目覚めてからは、その娘を探し回るようになったのか?」

魔王妃である彼女ならばその娘の居場所をすぐに特定する事が出来るだろう。しかし、その言葉に返ってきたのは意外なものだった。

レイシアはレイリアに言われて魔城の中に作られた小さな部屋の中に引きこもって、一度も外に出ていないと言う。レイアはレイシアに娘を探してきて欲しいと言われても、何も答える事が出来ずにいるそうだ。そして魔城に戻ってきた後も外に出ようとはしなかった。そしてその理由は自分が弱いままだと愛娘を守り切れないかもしれないと考えていて、レイシアと魔城の外に行こうとした時に襲撃を受けた時、レイシアを守るために戦ったが敗北してしまったのだという。そしてレイアは、そのまま意識を失ったレイシアを守ることが出来なかった事をずっと後悔していた。そして、魔竜王を討伐するために旅をしていたリシア達が、魔竜王の加護を持つ子供が生まれたという噂を聞き付け魔竜王の魔核を奪いに行ったが失敗し、レイシアがその子供達を守ろうと立ち塞がり敗北した事で、魔人化した状態で再び眠りについていたらしい。

「つまり、その子を探す為にも力がいるわけか?」

『その通りなの。今のあなたにはレイシアの加護がある。でもその加護じゃ足りないから、その娘を探せない可能性がある。だから私をあなたの配下に加えてくれないかしら?そうすればレイシアの力を使わなくても、私の力を使う事が出来るようになるはずなの』

魔竜王からレイシアに乗り移った後、すぐに俺はレイシアの体を自由に使えるようになったが、魔王妃のレイアの身体を好き勝手に扱うことは出来ず、レイシアが使っている能力を少しの間借りて使う程度が精一杯だったという。それも、かなり無理矢理使っていたので長時間は耐えられず、すぐに解除されていた。レイシアは自分の能力で戦う事に拘りがあったのと、リシア達との旅の途中で何度も魔人王と戦い勝利した実績から、レイリアの頼みを受け入れる事にしたらしい。そしてその話を聞いたリシアと俺はその作戦に同意することにした。その方が魔竜王の力を宿した子を見つけやすくなるし、何よりもレイシアのためになるからだ。

「リリアナ、その話をレイアとリシアに伝えてくれるかな?」

『わかった。すぐに連絡しておくね』

レイシアのお腹の中の子供の父親が魔竜王だとは限らないが、その可能性も十分に考えられるし、仮に違ったとしてもレイシアとレイリアの二人ならきっと上手くやっていけるはずだ。リシアも二人の仲が良いのを知っているし、レイリアもレイシアとレイシアの子供を大切にしてくれるはず。

俺はそれからリリアナが魔王妃に連絡をしている間に、リリアナに指示を出してレイシアに渡したレイリアのネックレスを用意してもらい、レイアとリシアが待っている場所に行く。リリアナが用意してくれたネックレスを渡すためだ。それを見たリシアは喜んでくれ、リリアナがそれを見て嬉しそうな表情を見せていた。それからしばらくして、魔竜王の子供を捜索するためにレイシアがこの村に戻ってくる事になった。

俺がレイア達にレイシアに渡してもらうネックレスを渡すと、レイリアはそれを見て驚き、俺が何故それを持っていられるのかを尋ねて来た。俺はこの世界で死んだ後に別の世界で生まれ変わったことをレイアとリシアに説明してあげると、二人は納得した様子を見せてくれたので助かったのですよ。ちなみにレイシアの出産に関してはリシアとレイリアに頼んである。

俺とリリアナはこの世界の管理者であるレイリアに協力してもらうために魔玉を持って来ておいた。それは魔竜王の心臓ともいえる魔石のような物で俺が持つことで魔玉に変化するようになっているのだ。

「さぁレイシア、これをお飲みなさい」

リシアとレイリアがレイシアに渡すと、レイシアはそれを飲んだのだが特に異変が起きることはなかった。すると魔城が揺れ始め地震が起きたように感じたのですよ。

すると魔城の中で大きな音が響き渡り、それが止まると同時にリシアとレイリアの様子がおかしいことに気が付いた。リシアは顔色が悪くなっていたので大丈夫ですか?と声を掛けたら、わたくしとリリアナとリシアとリリアナに話しかけて魔玉を手にしてみてと言ったのです。言われた通りに魔玉に触れてみると魔玉が輝き、わたくし達の頭に直接声が聞こえてきました。

(レイシア様!今、貴方は何をなさっているのですか!?まさか出産が終わるのを待つつもりはないですよね?)

「その声はレイシアさんですね。わたくしの体に負担がかかるのを承知の上で出産に挑むつもりですが、何か問題でもありましたか?」

『レイアに頼まれた仕事をこなしている最中よ。レイアの娘がこの村に住んでいるのは間違いないわ。それとその子の名前だけど――セイラっていう名前になっているわ。そしてその子が生まれて来るまでに私は魔竜王妃の《竜王妃》としての権限を全て使えるようにする。それでいい?』

《紅蓮の魔剣》が反応を示し、それに気づいたレイシアはすぐに《聖杯》を発動させたようでわたくしの《神眼》が《魔剣王の宝剣》へと変わった。

「えっ?なんで《神眼》を使えるようになったの?というより、どうして魔王妃の力を手に入れたのですか?」

(それは《魔竜王妃》に私が乗り移ったせいです。レイシア、あなたに私の力を全て差し上げます。この世界で生きるために、これから必要だと思う力は使いこなせるようになってください)

レイシアと会話が出来た事で魔竜王の《紅蓮の魔剣》をレイアに託したのもレイシアだったようだ。魔竜王の魔核が埋め込まれていては《魔竜王》の力が強大過ぎるため扱いきれなかったようだったの。

その後でリシアが俺に向かって質問をした事で俺は全てを説明した。俺が死んだ後の事はわからないが、この世界で死んだ後にレイシアがこの世界に転生してきた事などを話してあげたのですよ。それでレイシアはレイリアと一緒にこの世界で過ごすことになり、その間に魔竜王の力を完全に扱えるように修行をするという話になった。

俺は魔竜王に転生した後の事を覚えていないため、自分がどのように行動していたかを教えてもらった。魔人王達は魔人族の生き残りのために戦い続けなければならず、魔人族の数がどんどん減っていったという。そんな中で唯一魔人族が生き残っていた国では、魔王と呼ばれる存在が産まれており、他の魔人族は彼に殺される前に逃げ出して隠れていたらしい。そしてその魔人族の国には一人の美しいエルフの女性が居たという。

「リシア、そのエルフの名前はなんて言うのかな?」

「確かレイシアという名前だったのですが、彼女はわたくしやレイシアがこの世界で初めて知り合った方なのです。魔竜王が魔人族の味方になってくれたのは彼女が関係しているみたいですね」

どうやらそのレイシアは、レイシアの母親と同じ名前だという事がわかり驚いたが、レイリアが教えてくれなかった理由は魔竜王である彼女から、俺が記憶を取り戻すかもしれないと思ったからなのだと思う。

俺はそのレイシアの件についてリシアとリリアナに頼むことにした。彼女達ならレイシアの娘の居場所が分かる可能性は高い。

それからしばらく経ってから、レイシアの娘はレイシア達が居る村の近くで生活している事が判明した。どうやらレイシアの話では、この村は人間に迫害を受けていた亜人の村で、レイシアは人間の住む町で情報を集めながら過ごしていたらしい。そしてレイシアは魔竜王に頼み込んでレイシアの子供が魔竜王の加護を受けないように魔竜王の力を抑え込み、魔竜王の子供である魔人が魔人族と戦う事が出来ない状況を作った。

その話を聞いた俺はリシアとリリアナを連れて魔城に向かう事にする。魔竜王の力を使えば魔人化した状態の子供の所在を知ることが出来ると考えたからだ。レイシアは子供が生まれた後なら魔人化しても大丈夫だと言っているらしい。しかし、その言葉を聞いたリリアナは不安を感じたような表情をしていた。

◆『ステータス画面』◆ <基本スキル一覧>

★ ノーマルスキル(常時発動型技能 【効果 】)

→〔生活〕Lv10MAX →『生産』『採取』Lv20MAX

『調合』Lv20MAX

『調理』

Lv20

『栽培』

『建築』

Lv1 →『大工』

『細工』

『裁縫』

『木工』

『石工』

『鍛冶』

→〈戦闘〉Lv3 →『剣術』

LV5

『刀術』LV7 ↑UP

『体術』(体を動かす技)

(レベルが上がる程身体能力が上昇していく 【効果 攻撃力上昇】

【効果 素早さ強化】

【成長速度向上】)

→『槍』

『斧』

『棍棒』

『短剣』

『鞭』

『盾』

『弓』

『投擲』

『銃』

LV15

『回復魔法』

『空間転移魔法』

NEW LV 18 ← レベルアップ時に使用可能回数が増える

『身体操作補正』

NEW

『魔力精密運用』

☆称号スキル

(種族固有の特別な能力 レア度が高いほど強力な能力を所持する。基本的に親の称号を受け継ぐが、一部の能力はランダムで発現することがある。また同じ能力が複数個存在していればその分確率が高くなる。例えば【魔剣の加護(小)】と【剣王の加護(中)】の二つがあった場合【魔剣の加護(小)】が50%の確率で出るが【剣王の加護(中)】が40%の確率で出現したりするが100%にならない。

特殊固有称号がある場合は【○○の祝福】と表示される。基本的にはその称号の保持者にしか見えないため隠しやすい。特殊な効果は持っていない場合が多い。

この世界のシステム的に獲得できないものもある。レア度の高い称号で取得できるものが多い。

***

「お疲れさまでした、マスター」

「あぁレイシアのおかげで助かったよ。本当にありがとうな」

俺と魔玉が共鳴し合う感覚があり、それによってレイシアと俺の間にパスが出来たことを理解した。それを使ってレイシアと通信を行い、レイシアに子供達の捜索をお願いしたところだ。魔玉を通して連絡が取れる状態になり、魔竜王に頼んだ事も無事に達成することができた。魔竜王がこの世界に存在することを確認することが出来、俺の持つ魔剣も魔竜王の魔剣であることが発覚した。それで俺が元々持っていた魔剣がレイシアが使っている魔剣だと分かりレイシアに渡しておくことにしたのだ。そしてその魔玉と俺の指輪を交換した。

俺がこの世界で死んだ後のレイシアのことも気になるが今はレイシアが出産を控えているためそっちを優先することになった。俺がこの世界に来た目的はこの世界の管理者レイシアを助ける事だが、まずはレイシアに子供が生まれなければこの世界で何の意味もない。だからレイシアには魔王妃の力を使って魔竜王の子供の居場所を探し出して欲しいと話した。その結果レイシアはこの世界でも最強の存在である魔竜王に勝つ事が出来てよかったと話していたのだ。

「おぎゃぁおぎゃぁ!」

突然赤ん坊の声が聞こえてきたことでリシアが驚きのあまり体をビクッ!とさせた。リリアナもかなり動揺していて、俺は慌てて二人に声をかけて落ち着かせる。

「落ち着いてくれリシア、リリアナ。その子はレイシアの娘のセイラだよ。この子がレイシアを呼んでるみたいだけど、どうやら生まれたばかりのようだね」

「えっ?この子がセイラちゃんですか?まさかレイシアさんの出産が始まったという事ですか!?」

「うん。多分そうだと思うけど、魔玉が急に光り出して魔玉からレイシアの思念みたいなものを感じるんだ。それがセイラって女の子からレイシアを呼べと言われてる気がして、今にも出産が始まりそうなんだよ。急いでレイシアを助けに行くべきだと思ってるんだけどいいかな?」

するとリシアがすぐに立ち上がり魔竜王に事情を話しに行き、魔竜王と一緒にレイシアの元へ駆けつけることにしたようだ。魔竜王妃の力を持っているから魔竜王が魔刃王の力を抑え込めるらしく、魔竜王妃としての力を発揮した状態で出産が行われる場所に向かった。そこで俺が魔玉を通じてレイシアと会話が出来るため、魔竜王の力を魔竜王に譲渡する事にした。俺は《聖杯》を発動させて魔竜王の力を全て魔玉の中に封印していく。これで魔竜王はただの力を持った人間へと姿を変えたはず。後はリシアとリリアナと一緒にレイシアの元にたどり着くだけだ。リシアとリリアナに俺がレイシアに力を託して一緒に来るように伝えた。

俺達はリリアナの瞬間移動によりあっと言う間に村に到着した。そこには魔族や亜人族だけでなく人間の女性や亜人の子供達が沢山いてレイシアの事を応援していたのですよ。そんな中でも亜人の女性の中の一人に抱かれている金髪碧眼の美しい女性が見えた。俺は《神魔眼》を使用して確認したが間違いなくあの女性はレイシアだった。その光景を見たレイシアは感動の涙を流している。

俺は《神速》と《神魔眼》の能力を使用し一気にレイシアの元に向かうとレイシアと魔竜王の姿が目に入る。リシアとリリアナもその状況を確認しており、そのままリシアがレイシアの手を取ってその場から離れる。そしてリリアナがリシアをおんぶしながら《空間転移》を使用出来るように準備をする。そしてリリアナが魔道具であるペンダントを手に持ちリシアの服の下に忍ばせると、二人はレイシア達の視界から外れるような場所に転移して来た。それからしばらくしてレイシアの悲鳴と何かが裂けていくような音と振動を感じた。リリアナがその場所を見るとリシアに向かって手招きをして、リシアもリリアナの意図を理解したので転移することに決めたらしい。俺もそれに同行し、三人が合流した後も俺達三人はそのまま転移を使いながら魔城へと向かう事になった。その途中何度かレイシアの悲痛な叫び声を聞くことになり、リシアとリリアナは辛い思いをしていたがそれでも耐え続けていたのであった――

◆◆◆

『レイシア!』

『ママァー!!!』

『きゃははっ』

レイリア達が駆け付けてくれたことによりセイレンは元気を取り戻しました。私はこの子を無事産むことが出来て嬉しく思いますがそれと同時に不安を覚えていました。何故なら私にはレイシアとしての記憶がほとんど残っていないからです。それに自分がどうして人間なのかすら覚えていません。人間なのは当たり前なのですが何故か人間だったという記憶だけが曖昧なのです。

私の母はレイシアというらしいですが、その名前には全く聞き馴染みがなくレイリアの話もまるで他人事のようにしか思えずにいた。そのせいか私がレイシアだと自覚しているものの本当の意味で自分自身だという自信がないのかもしれなかった。だからこそレイリアは私が産まれた直後に自分の名前を娘に与えた。そして私が成長するまではレイシアという名前では無く、新しい名前で過ごさせてほしいと。レイリアの言う通り、私と瓜二つの少女はレイシアという存在の転生者でありレイシアの娘である事は確かだろうが。レイシアが転生者だったことを考えると前世の名前はあるのかもしれない。それを確かめようと思う。

そんな時、セイラが目を覚まして泣いていたのを見て思わず驚いてしまい泣き止ませる事が出来ずに戸惑っている時にふと疑問に思うことがありレイアを呼び止めるとレイリアはこちらに来てくれたのでセイヤの事をお願いすることにする。その時セイアに異変が起こり始めたようで私はそのことに気付くと咄嵯にセイラを抱えて部屋の外へと避難したの。レイリアもすぐ後に続き二人で外に出る事に成功。そして少しだけ話を聞いてもらうとやはり魔竜王とセイラとの魂の繋がりを利用して魔玉を通してこちらに来るつもりだったと。レイアにレイリアに力を託すのを手伝ってもらい、レイシアに渡して貰うために来てくれるとのこと。レイリアのおかげで無事に魔玉を受け取ることができ、魔竜王から奪った力をレイシアに与えることができたのでセイラに呼びかけてもらうとすぐに返事が返ってきたの。セイラの意識は既に覚醒しており、レイリアの呼び掛けに答えられる状態だったので問題はないと思いつつこれからどうすれば良いのかを考えてしまう。

とりあえず私はセイラの手を握り締めながら出産が始まるまで待っていた。その間にもお姉ちゃんとお母さんとずっと会話をしていたがその途中で私はセイラの様子が変わった事に気付いた。最初はセインと間違えたのだろうかと思っていたのだがその様子がいつもと違う。セイントの時はセイントという名前が気に入らない様子だったが、今回の反応はそういう類ではなく明らかに様子がおかしかった。セインの時の様に嫌々言っているわけでもないがそれとは違い真剣な表情をしているので何か大事なことを思い出したのではないかと感じたのだ。だからと言ってこのまま見守っていれば良いだけの筈なのになぜか胸騒ぎを感じて焦り始めていた。だからセイリアがセイラに問いかけている様子を見ていたのだけど、次のセイリアの言葉を聞いた時には心臓が止まるほど衝撃を受けたの。それは「レイシア?」とセイラの名前を呼ぶセイリアとセイラの反応が一緒だったから。

「レイシア!?どういうこと!?」と混乱しそうになったけどセイラが「セイシア!?レイシア!?セイラじゃない!!なんでセイラの名前が分かるの?それにレイシアとセイラの二人とレイシアとレイシアとセイナが頭の中に浮かび上がってきてどうなってるの!?レイシアはどうなっているの?レイリア!!」と叫ぶとレイシアとセイラの身体の主導権が完全に入れ替わるのが見えてしまった。しかもそれだけではなかった。今度は頭の中にレイシアの知識や情報が流れ込むのと同時に私の心の奥深くに存在するレイシアの心までも流れ込んでくる。

そしてレイシアとレイシアは一瞬のうちに入れ替わってしまい、その姿は完全に別人になっていたの。

「レイシア?」

「お久しぶりです。マスター」

「えっ?」

「もう大丈夫だ。心配をかけて済まなかったな。それとこの姿についてなんだが実は《創造主》の力で肉体と精神と魔力を作り直してもらってな。今は《神装機竜》が変化した魔刃王の装甲を持っている状態だがこの魔玉の力を使って魔竜王と魔王妃の力を抑え込んでいる。それでお前にはこの魔玉の力を分け与えておく。この力は使い過ぎるとお前の精神が持たないから程ほどにしておくといいぞ。俺は暫くの間レイアの中で眠りについている。もし必要になればまた呼ぶが良い。では達者で暮らせよ。あばよってことで」と言い残すと魔玉から力が抜けていく感覚を覚える。

「ちょっと待って!」

「何だよ?俺は忙しいんだ。後俺の力の一部を魔玉に封印してるんだからあまり無駄遣いさせるんじゃないよ」

その言葉を最後にレイシアとセイラが入れ替わったのを確認したら魔竜王から奪った力で二人の居場所を探し出すと、リシア達と魔竜王がいる場所はそう離れていない場所だったので転移を使う事にした。レイリアも一緒に来てくれるようだ。リシア達が魔竜王妃の力と魔竜竜王の力によって姿を隠しているために、リシア達が魔玉の中に封じ込まれた魔竜王の力を全て回収する事に成功してくれたおかげでリリアナの転移が可能になっているはずだ。俺はリリアナに連絡を取りリリアナがレイシアに力を預けて《空間転移》を使用するとすぐにリシアとリリアナと合流した。その後リリアナはすぐにレイリアに魔竜王の力を譲渡するとレイシアが俺達に向かって魔竜王を封印してほしいと言って来たので《封印術》を発動させ魔玉の中に封じられた魔刃王を再び封印した。

これで魔刃王は再び力を失ってただの剣となったので《収納》の中に封印しておくことにしたのだった。魔刃王に関しては魔城の中にある大広間に封印することに決めたが、この城の魔族はレイリアやレイシアに恨みを抱いている者が沢山いた。なので念のために魔城に残っていた魔族の力を全て魔刃王に吸収されないように吸収を無効にするために俺の能力の一つである《絶対吸収無効化》と俺のもう一つの能力である《無限超再生》を使用して完全に消滅させた上でレイリアとレイシアの二人が魔王としてこの魔族達の上に立つことに決めてもらったのだった。

その話をした後レイリアが俺に抱きついて来て、しばらくの間はレイシアの体に戻るのは難しいと伝えてきた。その理由については分からないが魔玉の中の魔竜王から感じ取った記憶を解析してみた所によるとレイリアは魔竜王を体内に取り込んだ影響でその体の殆どが《魔力》で構築されており、その《魔力》と融合したレイリアの肉体は人間のものではなくなっていたからだ。そしてそのレイリアの体は俺と同じ不老不死になっており、人間としてのレイリアが死んでも新しい人格のレイリアが俺の子供として生まれるように設定されている。だから新しい体を作れば俺の傍から離れることなくいられるが、今のレイリアの意識は魔竜王が残した知識が混ざっており魔族としてのレイリアとレイシアとしてのレイリアの二人が存在するので魔竜王が復活しなければ俺の傍に居られるそうだ。

そしてリシアはリシアで魔族との話し合いが必要になりそうだと呟いていた。

その言葉に対してセイラは魔族がセイラを殺そうとしていると勘違いして魔竜王に怒りの矛先を向けるのだが、セイリアが必死に止めてくれて何とか魔竜王が悪さをする前に説得に成功したのでセイラの誤解を解くことができた。そしてセイラの口から語られるセイシアとレイシアの真実。その話は信じられないものだったがレイシアの記憶を読み取って納得してしまう。セイラと魔王妃の身体の主導権を握り魔竜王の身体を奪ったのはレイシアでは無くレイシアとセイシアの二人だと――

――そして私はセイリアに説明を受けセイシアの記憶を共有した時私は自分が人間では無くなった事を知った。レイシアが人間だったことに驚いてしまう。レイシアと私は同じ存在で私は彼女から生まれた存在だと言うことは分かったのだが、私は一体誰なのだろう?レイシアの意識が混濁している事を考えると私は本当に人間であり、レイシアの身体の所有権を奪ってレイシアを殺した犯人かもしれないとさえ思ってしまう。しかしそんな私の不安を吹き飛ばすかのようにお姉ちゃんは「あなたの名前は私の娘で私とあなたの妹でもあるセイラ。だからセイラにはセイシアという名前があるの」と言ったの。その言葉で私は安心してしまい涙を流しながらお姉ちゃんに抱きしめられた。

そしてお姉ちゃんに抱かれた時にふと違和感を覚えてしまった。何かがおかしいと感じて私自身の事を振り返り確認してみるとある結論にたどり着いた。それは私が産まれたのはレイリアの妊娠が分かってレイシアの肉体の支配権を奪い始めたあたりからでレイシアが自分の子を産むのに邪魔になるレイシアの力を封印しようとしたのだと思った。そしてそのレイリアが産まれたばかりのレイリアを殺す前にレイリアの力を封印したのが私だと思ってしまった。だけどその考えが間違いだと気付かされる事になる。レイシアの口から出たのは私が産まれた時の記憶についてでお姉ちゃんと一緒にセイリアを産んだ時私は産声を上げることなく眠っていたと聞いた瞬間私の思考回路が止まってしまった。だってレイシアは自分の子を身篭った際に私の事を自分の魂の中に閉じ込めたと思っていたらしいのだが、実際は私の魂が外に出ており出産の際に私の魂が肉体に戻ったらしく、その時に生まれたばかりの赤子の体を借りるようにセイリアが生まれたと聞かされて頭が真っ白になった。

それならどうして私がレイシアの体に戻ってきたのだろうか?そもそもセイリアに妹ができた経緯についてはよく分からなかったが、とにかく私の出生の謎を解決しなくてはならなかった。それにお父様から教えて貰った話によるとレイシアの身体の主導権を取り戻すためにはレイシアとセイシアとレイシアとレイシアの力が必要で、その三つの力を合わせて《魔人化》という現象を引き起こすことで身体の主導権を奪うことができるという話だったけど、どうやらレイシアがレイリアに奪われた時点で既に手遅れのようだった。そしてセイリアとセイラの話を聞いてみると二人は完全に一つの存在となりレイリアの《心》の一部となってしまった事が理解できてしまったのだ。だから《魔眼》の力で二人を分離することはできず《魔眼》による支配すら受け付けないほど強固な結びつきが出来上がっている。でも私は諦める事ができなかった。

だから私は二人から分離したくなったのだ。そうすることでセイラは人間のままでいることが可能になるはずだ。それに私とレイリアの関係についても知ることができればこれからの事にも活かせると考えたのだ。その話を聞いたレイリアからの提案を受け入れてレイシアとセイラは一時的にレイアに体を戻す事になったのだけどそこでセイシアから衝撃的な事実を聞くことになる。なんと魔王妃に殺されたはずのセイナの肉体は生きていた。しかも魔竜王と一体化しており肉体を再構築すればセイナは魔竜王に精神が取り込まれず自我を保ったまま生き続けることが出来ると告げられて驚いた。どうやら魔竜王の力を使って作り直された魔王妃の力で肉体が強化されたせいなのか魔竜王の力の一部が魔王妃の力に混じっており、それにより人間としての死を迎えても新しい肉親の中で生まれ変わる事が出来るようだ。そして魔竜王は《無限再生》により寿命を延ばしただけではなく肉体も強靭なものに変化させていると知った。

そして魔竜王は私達に宣戦布告をして魔城を去っていった。レイシアからの報告によればセイリアはレイリアと一つに成り果ててしまい、魔刃王の力とレイリアとレイシアの力を手に入れていると聞かされた。そして《創造主(仮)》も魔刃王の力を利用して魔竜王に力を与えたようだ。魔竜王が復活したことによりこの世界に魔族以外の生き物は全て魔竜王に殺されてしまうのは確実だが、それでも私はセイリアを助けるために行動することに決めたのだった。

俺の眷属達は魔竜王に魔玉に封じられていた魔竜王の力をレイリアに渡すために動き出したのだが俺はセイシアに頼んでリリアナを《空間転移》で俺の元に連れてきてもらうことにした。理由は二つあり一つ目は魔竜王の復活に時間制限があると予想したからだ。《真絶剣皇国》の遺跡に魔竜王の封印されている《大広間》は存在するはずだしその《大広間》で復活した以上魔竜王の力は《魔玉》に封じられた状態ではないはずなのだ。だからその力を全て魔竜王の力に返還したとしても完全には復活していないと思う。その状態で俺達と戦いになっても《魔玉》の力を全て返せば力を使い果たして俺達が勝つ可能性が高いはずだ。だからレイリアに力を戻させる必要があるので《魔玉》に封じ込まれた魔竜王が持っている魔玉の力を回収できるリリアナの力がどうしても必要だと感じた。そして二つ目の理由なんだけど、実は俺の体の中にいる魔竜王は魔刃王が復活させてくれた《魔力吸収》の魔宝玉が融合している魔剣が俺の能力の対象外である事に気付いていた。魔玉の《無限超再生》は確かに強力なスキルなので俺の《魔断》の《絶対切断》の《魔剣技》と組み合わせれば魔玉の《魔断》を使えるかもしれないとは思ったのだが魔竜王が《魔刃》を使えないのは困ると思ったので俺の体内に魔竜がいる事を知らないフリをして魔玉の魔力を吸収するのを止めようとした。しかしそれがバレてしまったらしくて、俺の体内で俺の行動を監視することにしたみたいだ。そして監視を始めた結果分かったのだがどうやらセイラとセイシアとレイリアを取り込んだ事で魔竜王にセイリアの身体の使い方が分かったらしく、どうやったのか知らないが《聖女之盾》と融合したらしくて魔力の流れを感じる能力に目覚めた。それでどうせならば俺のサポートが出来るようにしてやるよと俺の中に潜り込んで来てそのまま共存関係を築いてしまったのだ。そしてセイラが言うには《創世之王》と融合していれば魔竜王の力が使えるようになるそうだがその代償として《真名解放》を使うことができないと言っていた。しかし《真銘契約者》を持つリリスと契約してセイラは神力を得る事ができるようになったので《創世之書》で《真銘契約》を行うようにリリスに指示を出したのであった。*《魔王覚醒の儀》→詳細不明 ◆ユニークスキル《覇道輪廻》 *【種族固有スキル】

→《不死身化》

☆★【固有称号】

〈魔竜王の再誕〉

☆【《世界言語変換》にて使用可能になったオリジナル称号〉 *

☆【ユニーク魔法/固有技能】

☆★

☆★ *【エクストラシリーズ/レア度7以下限定装備召喚可能権を獲得済み】

(《真祖吸血貴族化》で獲得)

◎《血操操作II》

〈効果内容:自身の血液を操ることができる

発動中:身体から常時微弱な衝撃波が発生する 対象指定不可〉 ◎ 〈身体強化I→IV/腕輪使用不可〉 〈身体強化III〜VII/100cm以上の物体を身体から100kgまで浮遊させることができる 最大重量は150Kg〉 〈魔石完全適応I〜VIII/魔石と同化が可能 魔石と同化する事によりその力を扱うことができる〉 〈魔獣使役/隷属の首輪を使用中の魔物と強制的に主従契約を結ぶことができる 魔石の適合率はレベル×1%上昇 一度に複数の生物との同時接続は出来ない 魔石を核とした肉体を形成するため首を切り落とされる、もしくは魔石そのものの破壊が即死に繋がる〉 ○《万物創造》+《物質変化X》 《創造する支配者(クリエイターマスター)》と《創造する存在》の統合派生系 創造する魔剣創造(クリエイトウェポンナイトメア) ◯《魔刃刀創造(ブレイドナイトメア)》 《創造する》の力を付与させて創造した武器は強度が普通の剣より高く頑丈であり斬れ味が鋭く切れやすくなっている。ただし所有者登録されていないと持ち主の許可がないと使うことが出来ない 《万物を消滅(ロスト)させる存在》 相手の防御系の耐性や無効、相殺などを無視する。また物理攻撃は通用せず全てに通用する。この力は相手が《魔眼》やスキルや特殊スキルなどで無効化しない限り確実に相手の存在や事象を完全に抹消させる ◆《空間支配領域支配改変II》 自分の支配下にある空間に存在する全ての情報を改竄する事ができるようになる。この力は自身の周囲に展開するだけであらゆる情報を書き換わり自分の有利な状況を作り出すことが可能 ◆《魂の支配II》 他人の魂を支配する。支配できる魂の総量は自分への忠誠、忠誠心が高いものほど支配出来る魂の量が多くなる。また他者と心を繋ぐ力もありその繋がりは強い信頼で結ばれているほど強固なつながりになり強固な絆になるほど繋がりは強くなる ●《眷属創造》 自身と同じ《真血鬼化》した《吸血鬼種》を生み出す。眷属の身体は《闇属性》に染まっており、身体からは常に黒いオーラが漏れ出ている 眷属を生んでも自身は何も失うことなく戦闘を行えるが生み出した眷属の強さや数は本人のレベルによって変わる ●《魔玉》《眷玉》《真玉》《龍玉》 自身が倒した魔獣の死体の一部を取り込むことで肉体の一部を変質させ、さらに魔素を大量に取り込ませることで魔宝玉を生み出し肉体に吸収させる事により肉体を変異させ肉体を変化させることが出来る。この能力は《魔竜王再臨》の効果に追加された能力で《真魔竜皇》の肉体に魔竜王の力が混ざり合った姿になっている。

○《真絶魔光剣皇》 《剣神》と《聖騎士》の《固有武装具現化》と《魔剣士》の《真名開放》の融合系ユニーク 《魔竜王》の《魔剣》と《魔魔玉》《眷玉》を素材に作り出した《魔極玉》と《龍魔玉》の力を合わせた最強の《魔装具》 真の魔刃王の力を纏う魔剣の一撃は全ての敵を貫き穿ち斬り裂く 魔剣の攻撃力は通常時でも非常に高い また《剣技》《剣王技》《剣帝技》の力を融合させることもできる。《魔剣技》は全ての魔剣に共通で《魔剣術》と《魔剣技》が融合した力となる 《魔剣技》 【《魔斬絶牙剣皇》】と《魔断剣皇》を融合した《魔絶剣皇》の力を発動できる。

【《真絶滅覇皇剣皇》】と《魔絶皇剣皇》を融合した《真絶魔皇》の力を発揮可能になる ○《絶絶魔光剣皇》 真魔皇が所持している《魔竜王》の力を込めた大鎌の超強力版 超巨大の漆黒の闇の大鎌 《空間収納空間》の中に《魔玉》の欠片を入れている。《空間収納》の中に《魔玉》を入れた状態で使用する事で、いつでも任意のタイミングで《魔玉》を取り出す事ができる。ただし取り出せるのは最大でも一個の《魔玉》のみしか出す事ができない 【魔玉融合武具作成魔王の玉璽と融合させることで《絶絶大冥魔玉 《虚空黒棺玉》を作成出来る 《魔王の玉璽》に力を注ぎ込み《魔竜王の刻印》を刻むことで、その魔竜王の力を凝縮させた力を使用する事が出来る ◆《全種族対話》《魔導士の神》 《魔刃王》が持っている《神滅魔》に込められている《神格の叡智》の力を《魔竜王》の力と一緒に吸収することで手に入れた力。《神器》である《真血之魔杖》で魔法を行使する際の補助の役割をしている。

《魔眼之王》のスキルの派生形スキル。このスキルの派生形である『魔瞳』は、目で見た相手の情報を瞬時に解析する事ができる ◎ 《万物鑑定II》 ◎ ◎ ◎ 【《魔刃竜》の加護 《魔刃竜》から受けた《魔竜王》から貰った《魔竜王の加護》と融合して進化して《真魔竜王の祝福》を会得する。

◎《真祖吸血鬼》の真祖血貴族化(ヴァンパイアロード化)と魔刃族の《真血鬼族》に進化した時に取得した《血魔変換》の能力。

◆《魔王の血脈》《真血竜鱗化》 《魔王》と《魔竜王》から《魔竜王》の力と魔力を受け継いだ事で取得出来たスキル。

☆《魔人化》《魔人融合化》《真魔王化》《魔竜王融合》

☆《真竜王融合》 ◯《魔王之魔刃》

☆《真魔刃王剣》 《魔王の魔剣》と《魔魔玉》《真血之魔弓》の力が融合した《魔真魔王の究極武装》。この武器は持ち主に《魔王化》の力を譲渡し、使用者の精神を完全に飲み込み完全に魔人の精神体として変貌を遂げる。《魔剣解放》と《魔剣解放》を同時に発動する事で《真魔刃竜王》へと至る。この魔剣は魔剣を無限増殖する事が可能で、所有者が望めば魔剣を自分の手足のように自在に操る事が可能。また全ての《真魔刃竜王》はこの魔剣から生まれる事になる。魔刀も無限生成でき、所有者が《魔刃皇》の名を持つ事を条件に全ての《魔刃刀》が魔剣化することが出来る。この《真魔刃竜王》の力は、《真血龍族》の持つスキルや特性が組み込まれた。この剣から生み出された《魔剣》は自我を持ち自らの意思で動き回ることが出来る ◯《闇影魔刃》《闇斬撃》 真魔竜皇の必殺技の一つ。

闇が斬撃となって放たれ敵を薙ぎ払う

☆《魔竜王闘気》

☆《龍魔波動》

☆《真絶魔竜息吹》《魔竜覇砲》★《魔竜王の加護》《真魔竜の魔眼》《真魔竜王》 ◯ 《創造主》の目の前に現れたレイシアは俺から受け取った《フラガラッハ》を構える。そんな彼女の様子を見て《創造主》は嬉しそうに笑い声を上げていた。その瞬間、レイシアは躊躇うことなく《フラガラッハ》を振るう。しかしその攻撃を《創造主》は全て見切っていた。まるで予知しているかのようにレイピアの攻撃を避ける。

《聖杖 セイクリッドロッド》の詳細不明 →詳細不明

☆《白夜》

☆《月姫の聖衣》→【《白神》の霊装》に進化。《聖女の神器》 ◯《神速移動》《時間停止》

☆《超高速再生I》《真血操作》 《吸血鬼》の上位互換種であり、通常の生物では到達出来ない存在になった。

《不死》という不老長生と《血鬼術》と呼ばれる血の力を使った魔術、そして吸血鬼種の弱点が全て無くなり吸血による回復も可能になり、その血液の成分から身体能力を上げるドーピング効果を得る事が可能になるなどの様々な能力が備わっている

☆ 《吸血王化》 自分の意思で吸血鬼種を増やす事が出来るようになる

☆ 〈眷属支配〉眷属の意識を支配する事でその眷属を自分の意のままに扱う事ができる能力 〇 《魂の改竄》眷属の能力を自由に使用できる能力 ○ ○眷属の肉体を支配する能力 ○眷属の肉体の部位を操る能力 ○眷属の肉体の強度を強化する能力

(眷属の身体の部位を強化して攻撃力を上昇させる)

(眷属の身体の硬度を強化し防御力を高める)

(眷属の身体の機能を強化したり治癒速度を早めたりする)

*【《聖剣魔刃》の固有武装具現化】の《眷玉》の力によって、《創世ノ剣 ワールドエンド》を《聖刃皇 世界》へと変化させた ◯《真血之魔導書》 ●『魔血剣皇の書』

◯《死呪》 ○《死縛》 ○《死奪》 ◆《魔装顕現》 《魔眼》と《精霊王》の力で作り出した特殊装備。魔眼の力を封じ込めることで武器となることができる ◆《空間転移 ワープ》 ◯《空間収納 ストレージ》 ◯ 【《魔竜王》の祝福 ギフト】

《魔竜王》の力の一部を分け与えたことで得た能力。魔竜王の《魔核》を持っているものであれば、その者と繋がりを持つことで会話したり思考を共有することが可能。この力はアシアにも共有される ◎《魔眼之王》派生形スキル ◆《魔眼之叡智》 魔眼の力を解放している状態で使う。このスキルは自分の記憶の中から情報を抜き出し検索できる。

◆《魔眼開眼》《未来予測》 魔眼の力と《全知神エルザレムの知識》が融合する事で獲得したスキル。魔竜王の《真血の叡知》の力を解放する事ができる。このスキルは《真眼》で相手のステータスを視ると発動する ◆《魔眼融合眼 魔眼融合眼 アイコンタクト》 【魔眼融合眼】で相手の目を見るだけで、《魔眼之王》で相手の能力を解析する事ができる 【魔眼融合眼】と《全神眼》を融合したスキル 【真神瞳 エターナルマナライトアイ】の効果で魔眼が《完全解析》となりさらに進化した。この魔眼の力を使う事で魔剣の解析を行う事ができる ○《魔眼》 ◎《真絶魔竜王》の魔竜王と真祖の力を取り込み融合した事で取得した。

【《魔王化》】《魔人化》の力が宿る魔竜玉の欠片を魔竜王の《絶魔竜の玉璽》で魔竜玉に融合させた事で会得した ◆《魔刃之竜王》《魔剣之竜王》《魔刃刀》 ◯《全刃竜》《神器 魔刃神剣 ブレイドソード》 ◆《全刃王剣 ブレイドロード》 ◆《全魔竜王剣 ブレイドロード エンシェントロード ソード エクスカリバー》

『全刃王 グランドブレードロード 』へ変化可能になる 《真血の魔眼》で魔剣の《詳細》を確認する事ができる

☆ ◯《創造主》が持つ魔剣の《詳細》を確認出来るようになった。また、魔剣から生み出される武器の能力も全て分かるようになる。また、この力で武器を作ることも出来る。ただし、武器を生み出すためには魔剣が必要なため魔剣が無いと何もできない。魔剣に《真》の人格が存在する場合は《真》の許可が無ければ作ることが出来ない 《真魔刃竜王》に進化したレイシアは魔剣を振るうと無数の《闇影斬》を放ち《創世ノ剣 ワールドエンド》で《創造主》を斬ろうとした。しかし《創世ノ剣》が当たる直前に《真魔竜王》はレイシアに斬りかかって来たが、それを俺は《同調化》を発動させつつ、【真絶魔王の魔刃皇】を使い防ぐ。《創造主》の攻撃が止まったタイミングを見計らい、レイシアの放った《闇斬撃》が《創造主》の背中に当たる。すると、《創造主》は突然動きが止まり、そしてレイシアに視線を向けた。

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

「謝るのはあとにしてください!それより今は奴の動きを止める事に集中をしてください!」

レイリアの言葉に対して、そう言うと彼女は《真魔竜王》で魔剣を構え直す。そして再び攻撃を始めたが、俺の攻撃で体勢が崩れていたせいか《創造主》はその攻撃を避けれずにまともに受けてしまい、その隙を狙って俺は《同調》と《魔眼》を使って攻撃を仕掛けるが、その時にはもう目の前にいなかった。どうやら、《創造主》は転移の類いで瞬間移動をしていたらしい。だがそんな事は予想済みだった。俺は即座に魔装剣を振り下ろす。

「なっ、お前なんのつもりだ!? 何故僕の事を見逃そうとした?」

《創世之神域》

『神造迷宮』『創造者』という称号を得た事により使える様になった。空間を創造し世界を創造する力 この世界で起こる事象を強制的に創造する能力 ◆ 《神焉の霊印 》《創造の極霊石》《創滅の至宝箱》の三つのアイテムを組み合わせて作った特殊な指輪型の魔道具。その能力によりこの世界での出来事を自由に創造する事が出来るようになっている。

*【《真絶魔王》の固有武装具現化】

◆『創世ノ剣 ワールドエンド』

☆『神滅剣皇の書』

◯《神滅覇気》《魔力吸収》 《創造》の力の一つを封じ込めた魔本。

◯《真魔魔皇剣》《魔血之魔導剣》《吸血剣》《血縛之魔導剣》 ◆《魔血眼》 ◆《魔眼の開眼》《魔眼融合》《魔眼融合》 ◆《真眼開眼》《魔眼融合》 ◆《未来予測眼》《真魔眼 エタナイマナイトアイ》

☆《血流支配 ブラッドルーラー》《魔剣》《魔闘》 ◆《死縛呪印》 ◯《死呪》 ◎《魔竜眼 ドラゴンアイ》《死魂支配》 ◆《全刃 魔刃之龍王》《全魔之刃竜王》 ◆《全刃竜 ドラゴライズ》 ◆《魔刀之刃竜王》《魔剣》《魔刃》 ◆《真魔竜王 ブレイドキング》 ◆《魔眼融合 マジックアイ ユニゾンフュージョン》《真神瞳 エルザレムマナライトアイ》

☆《魔刃皇 グラン ロード》《魔血王 グランディア 》 ◆《全能 ワールドオーダー》 ◆《完全解析眼 オール アナライザー》《全知眼 パーフェクトビューティー》《完全言語 オートトーク》 ◯《魔刃之皇 グランドロード》 ◯《魔竜 リヴァインド エンシェント ドラコン》 ◆《魔剣 神魔竜王剣 ソードゴッド 》 ◆《魔魔剣》《魔魔大魔剣 マジカルブレイド》 ◆《神魔魔刃竜王》《神絶魔竜剣 ヘブン エンド エンド》《聖魔刃竜王》 ◎《魔王之鍵》《魔神の鍵》《魔王の祝福》《神の祝福》 ◆《全神 エタニティ》《魔刃の祝福》《魔眼の加護》《全魔眼之瞳》《完全魔眼之神眼》 ◆《全神眼》《魔神眼》 ◯《神威 オーバードライブ》《神滅覇気》 ◯《真神眼 マナエルアイズ》 ◯《神滅波動 カオスバハムート》《魔剣 破滅波動 カタストロフ 》 ◯《魔眼之王》《真眼之魔眼》《魔眼 覚醒》《魔眼 暴走》 ◯《真絶眼 アルティメット マナエルアイ》 ◎《魔剣 終ノ魔眼 オワスレ 》《魔眼 終の型 エンドオブマナエル》 ◎《全魔竜王 エンシェントロード 》《真竜王 レジェンド ロード》《全竜 グランドロード 》《全竜 エンシェント ロード》 ◆《創造の極霊剣》 ◆《創星剣》 ◎《魔刀之王》 ◯《魔剣創造 イマジネーション ブレードクリエイト》

☆《創造主》が持つ全ての力をこの魔眼の中に封じる ◎《神器 魔刃神剣 ブレイドブレード》

☆『神魔竜王剣 ブレイドキング』の専用形態である『全神王剣』と融合させる事で使用可能となる ◎《真神竜王剣 エターナル マナティア》

☆《魔刃 神竜王剣 エクス カリバー》の専用変形

★《魔刃神剣 魔眼之神竜 メノウカイザー 》《神魔竜刃 魔眼之竜王剣 》《全神竜剣 魔眼竜剣 》《魔魔剣 魔竜王剣 》《全魔竜王剣 マナエリオスブレイド》《真竜王剣 》《真魔竜刃 》《魔刀之神竜 》《真絶竜刃 》《真神竜王 》 ◯《創造》《魔竜創造》 ◯《創造者》

☆《魔刃竜王》の魔刃の力の解放。また、その状態の時にのみ使用可能。このスキルの使用は、魔刃を《創魔 ディソード》に変化させて発動する必要がある。このスキルを使用した際、創った魔刃を任意に消滅させることが出来る。

◯《終焉の剣皇》《終焉の暴君 ラグナロクレックス》《創滅の叡知 オメガイフリート 》☆この世界のあらゆるものを創造出来るようになるが、その効果範囲は自分の視界内に収まる ◯《魔刃皇》《創造者》 ○《真焉の審判 ジャッジメント 》☆『創世』の効果範囲に存在できるものは創られたものだけである。また創り出されたものが消滅する時はこの世界も一緒に消失する。また、創り出される前に存在した物は消失することはない ◯《真焉之神剣》

☆『神焉剣皇』《神焉の霊剣》が神化した際に進化する神絶の上位武器。創り出せる《創造の極霊石》の能力は【創滅の極霊石】と同じになる。またこの状態で創った《魔刃》の効果は、魔刃を『創魔』の状態から『創造』の状態に戻して発動する事が出来、その効果は魔刃を『破壊する剣』に変える事が可能になる。

◆【称号】《剣の魔王(仮)》

☆魔王の力が覚醒した者の証として《神滅覇王》に送られる称号 ◆《魔帝王》

☆魔法を極めた王の証明

☆魔王が進化した《魔帝王》の称号でもある 《真焉竜》レイシアはレイリアに向かってそう言うと魔刃で攻撃を仕掛けるが、それは俺によって止められてしまう。レイリアにはやるべき事があるのだ。俺がそう思って彼女に声をかけようとした時だった。《創造主 神焉皇帝 シンエイセイリュウ》から膨大な神力を感じ取った俺は慌てて距離を取ったのである。

すると神界にいる神たちがこちらに向かってきていた。《魔帝 魔神王 メイショウオウ》を筆頭に、この世界で最上位の力を有するであろう者達が次々と姿を現したのであった。そしてその中の一人を見た時――。

《創星 ビッグバンノヴァ》

「我が愛娘よ。お前たちの絆の強さを認めようではないか」

◆《魔竜創造 イマジネーション ドラゴー》 ◯《魔魔竜王 マジカルドラゴニア》《魔魔竜王 マナエリクスドラゴン》 ◯《全竜 フルドラケン 》《真竜創造 》 ◯《真竜創造 》《龍魔竜王》 ◯《神竜 ゴッドドラグナー 》◯《龍神竜 ドラグランガー》《超神竜 ドラグ ドラゴン 》《真絶竜 グランドドラゴン》《魔刃皇 グランロード》《魔竜覇王 ドラゴロード》 ◆《魔皇竜 グランディア ロード 》 ◆《真神竜 グランド 》《神魔竜王 ロード 》《聖竜王 エルドリオン 》《竜刃 エンシェント 》《魔竜王剣 エルドレッド 》 ◆《全魔竜王 グランドラゴン》《魔皇竜王》《全竜王 》

☆《全能神竜 》《全神竜 》 ◆《全知眼 オール アトリビューション 》《完全解析眼 パーフェクトアナライザー 》《究極解析眼 パーフェクトリサーチ 》《未来予知眼 ミライビジョン 》◆《完全隠蔽眼 インビジブル》 ◆《偽装 フェイク 》 ◯《魔刃 魔竜王剣 マジックブレイド 》◯《神竜剣 ドラグレイス 》 ◆《魔眼 全神魔眼 エタニティ マナエルアイズ 》 ◆《完全鑑定眼 パーフェクト アイテムボックス 》《真竜眼 》 ◆《神絶剣皇 オールエンド ブレイドキング》《魔眼の加護》

☆《魔刃之神眼 ソードゴッド 》 ◯《創星 》《創造者》の創造の力 ◯《全知眼 エタニティ アンテニュール 》☆この世界に存在しないものを想像して作り出す事が出来る

☆《創造》の派生

☆《創造の極霊 エタニティ オリジン》

☆《魔剣 終焉ノ神剣デスエンド 》

☆《魔刀 終焉の魔刃 エタナウ 》

☆《創世 》

☆《創神眼》 ◆《創魔剣》 ◯《創剣ディソード》☆【魔眼之王】と【神滅覇気】の力を《魔刃》と融合させる事で発動出来る魔剣の最上級形態。魔眼の能力は全て使用できる。

◯《真魔剣》 ◯《魔刃 終焉魔刃》☆【魔眼之王】と【創造眼】と融合した魔刃の最上位形態。魔眼の機能は使用出来ない。

◯《真魔竜王》☆魔竜王が魔竜王剣を使用して進化した姿

☆《魔竜王》《全魔竜王》 ◯《真竜剣 ドラグレッザー》☆『創造竜剣』の真の神器と《魔竜創造》で《魔竜剣 真竜》を《創滅神竜王》の力で神竜の姿にして創った。魔刃と融合させることで真竜剣に変化可能

★《全竜王》 ◆《全竜王剣》☆【全竜眼 オールドラゴン 》《全竜神眼》 ◎《全竜王》《真神竜 》 ◯★《魔刃 終竜刀 》◯《真竜刃 》◯★《神魔竜王 》 ◆《全霊竜王剣》《全霊竜王刃 》★《神皇竜王 》◯ 《全絶竜王》◯《魔竜覇斬 》◯《真絶神竜王》《真神魔竜 》

☆《魔竜王》

☆《魔魔竜王》◯《魔竜王》◯《全竜覇竜》《神魔竜王 》

☆《魔竜覇刃》

☆《真竜牙》《真神竜王》

☆《神魔皇刃》《神魔竜王刃 》◯《竜皇神刃 》◯《神魔皇刃》

☆《神魔皇剣 》《創滅覇剣皇 》

☆《創神竜王剣》《創滅皇神 》

☆《創滅竜王剣 》《創造神皇 》《神絶皇神剣 》《創星神竜剣 》《創星神竜皇剣 》《創造神皇神剣 》《創神竜王刃 》 ◯★《全魔皇刃 》《魔竜王刃 》 ◯★《真魔皇刃 》《真竜王刃 》 ◯◆《創造剣》 ◯《真神竜刃》 ◯◆《真神竜王刃 》 ◯《真滅魔刃》

☆《全竜滅刃》☆【創星魔眼 】と《魔刃》の力を《創滅剣 エタニティ ブレイカー》で合体させた超魔竜滅刃状態

☆《全竜滅滅剣 ドラグエクスプロージョン 》☆全ての滅の力を持つ滅竜と滅滅剣の力を融合させた技。その力は一撃で国一つを滅ぼす事が可能。《全魔皇竜刃》《真神竜王刃》と合わせる事で広範囲殲滅が可能となる ◆《創造の極聖剣》《神滅神剣皇》《魔竜王 》 ○《神竜神剣》《竜魔竜王》 ◯《創星竜皇剣 》 ◯《神竜王剣 》

☆《創神剣 エタニティ 》 ◯《魔魔竜王》 ◯◆《創魔刃 》《魔竜覇刃 》《魔竜剣 》 ◯★《神魔竜王刃 》 ◯《真竜刃 》 ◯《神竜王刃 》《神竜刃 》 ◆★《魔竜創造剣》《神魔刃竜剣 》☆【神竜皇竜】

☆《神竜神竜王》《魔竜王》 ●《創世竜王》◆《竜覇刃》《竜覇王刃》◆《神魔刃竜剣 》 ◆◆◆《創造の極真刃》《神竜王刃 》◆◆◆《神竜刃》《竜覇刃》

☆《魔竜王》《魔魔竜王》《真魔竜王》《真竜王》 ◯《魔竜刃 》 ◯◆◆◆《竜魔刃竜》《竜皇刃》◆◆◆◆◆◆◆《神竜王刃》《魔刃》 ◯★◆◆◆《魔竜王刃 》 ◯◆◆◆《竜皇刃》◆◆◆◆◆◆◆《神竜王刃》 ◯★◆◆◆《神竜王刃 》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《魔竜王刃》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《真竜王刃》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《神竜刃》◆◆◆◆◆◆◆◆《真竜王刃》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《竜魔刃竜王 》 ◯◆◆◆◆◆◆◆◆《魔竜刃竜王》◆◆◆◆◆◆◆◆《竜皇刃》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《神竜王刃 》◆◆◆◆◆◆◆◆《竜刃 》

☆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆《創竜刃皇 》☆【竜皇の絆剣】の【創魔剣】の力を解放して《魔竜刃》と《創竜王剣》の力と融合した超魔剣形態

☆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆《創竜刃竜王 》◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆《竜魔刃竜王》 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆《竜魔刃竜王》☆◆◆◆◆◆◆《創星刃皇 》【竜皇の絆剣】と融合した超剣形態 ◆◆◆《創界竜刃皇 》◆◆◆《神竜刃竜王 》◆◆◆◆◆◆◆《創滅竜王刃皇 》【竜刃皇の絆剣 》【竜魔刃竜王剣 》 》【竜神刃竜王剣 》と《竜魔竜王》が合体した《竜刃皇刃竜剣 》 ◯◆◆◆《竜魔刃竜王 》◆◆◆◆《竜皇刃竜王》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《竜神刃竜王 》 ◯◆◆◆《竜魔刃竜王 》◆◆◆◆《竜魔刃竜王》 ◆◆◆《竜刃皇竜王》◆◆◆《神竜王》

☆◆◆◆◆◆◆◆◆《神竜王刃》◆◆◆◆《竜覇刃竜王》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《竜皇刃竜王》☆◆◆◆《竜覇皇刃竜王》◆◆◆■《創竜王刃竜王》☆《真竜刃竜王》☆■《竜魔刃竜王》◆◆◆☆◆◆◆◆◆《竜皇刃竜王》 ◆◆◆◆★◆◆◆◆◆《真竜皇竜刃皇》☆★《竜魔皇竜刃皇 》 ◯★★《真竜王刃竜王》◆◆◆◆◆◆◆◆《神魔皇刃竜王 》☆★《神魔刃竜王 》 ◯★★★《創魔刃竜王》◆◆◆◆◆◆◆◆◆《神竜王刃竜王》

☆★★★★《神竜王刃竜王》☆★《真神竜王》☆★《真魔竜王》★★★《神竜皇竜王 》 ◯◆◆◆◆《真竜王》 ◆◆◆◆◆◆《真竜王》 ◆◆◆◆◆◆◆◆《真魔竜王》

☆◆◆◆《創魔刃竜王 》◆◆◆《魔竜王》☆◆◆《魔竜王》 ◆◆◆□◆◆◆《創魔刃竜王》◆◆◆《神竜王》☆ ◆◆◆《創魔刃竜王》 ◆◆◆★◆◆◆◆◆☆◆◆◆◆★《真竜神刃竜王 》 ◯◆◆◆◆《神竜刃竜王》☆◆◆◆《創竜刃竜王》

☆◆◆◆《創竜刃竜王》 ◯◆◆◆◆《竜魔刃竜王》☆◆◆◆《竜覇刃竜王》 ◆◆◆◆◆◆◆《竜皇刃竜王》 ◯◆◆◆◆《竜魔刃竜王》 ◯◆◆◆《竜刃皇竜王》 ◯◆◆◆★★《神竜刃竜王》☆◆◆◆《創竜王 》★★◆《真竜王刃竜王》 ◯◆◆◆◆◆◆◆★《真竜王刃竜王》☆◆◆◆◆◆◆◆★《真魔竜王 》

☆◆◆◆★◆★◆◆◆《創竜王刃皇》☆《神竜王刃皇 》 ○◆◆◆◆◆◆☆《創竜王刃皇》☆◆◆◆◆◆◆★《創竜刃竜王》 ◯◆◆◆◆◆◆《創竜王刃竜王》 ◆◆◆《創竜王刃皇》◆◆◆◆◆◆《創竜皇刃皇》

☆◆◆◆★◆★◆◆◆《創竜王刃皇》☆◆◆◆★★《創竜王刃竜王》☆◆◆★◆★★《神竜王刃竜王》☆◆◆◆★★◆◆◆◆《真竜神刃竜王》 ◯◆◆◆◆◆◆◆★◆◆◆《真竜皇刃竜王》★◆◆◆◆◆◆◆

◯◆◆◆◆◆◆◆★《真竜皇刃竜王》

☆◆◆◆《真竜皇刃竜王》 ◯◆◆◆★◆◆◆◆《真竜王刃竜王》 ◯◆◆◆★《真竜皇刃竜王》 ◯◆◆◆★◆◆◆◆《真竜王刃竜王》 ◆◆◆◆◆◆◆★ 《創竜王刃皇》◆ ◆◆◆◆◆◆《創竜王刃皇》☆《神竜刃竜王》 ◆◆◆★★《創竜王刃皇》☆《真竜刃竜王》 ●◆◆◆◆★《真竜王刃竜王》

☆★◆◆◆★《創竜王刃皇》☆《神竜王刃皇 》★◆★★★◆《真竜王刃竜王》☆《真神竜王》★

☆★◆◆★◆◆★《創竜王刃皇》★《神竜刃竜王》

☆★★★◆★◆★★《真竜王刃竜王》☆★《真真神竜王》★◆ ■■■《真竜王刃竜王》☆◆◆★◆◆◆◆《創竜神刃皇》★《真神刃竜王》 ◆◆★★《創竜神刃皇》☆《真真神刃竜王》

☆☆☆《創竜王刃皇》◆◆☆☆☆《神竜刃竜王》

☆☆☆《神竜王刃皇》

☆☆☆《真竜王刃皇》

★◆◆◆★《創竜王刃皇》☆《神竜刃竜王》

☆★◆◆★◆★◆《創竜王刃皇》★《神竜刃竜王》

☆☆☆《神竜王刃皇》★◆◆◆★《真竜王刃皇》

☆☆☆《真神竜王》

★☆☆《真竜王》★◆☆◆★◆◆☆☆☆《真竜王》★☆☆《真真竜王》★◆

☆☆☆《真真竜王》★★◆◆☆☆◆☆◆《神竜皇刃竜王》

☆★★◆☆◆《真竜皇刃竜王》☆

★☆★◆◆☆《真真真竜王刃皇》 □☆《創真竜刃皇》☆

★□★☆◆■■《超究極進化》 ◆■★◆★《真真竜剣皇》

☆▲《真真竜王》

☆★◆■★◆■《創竜刃皇》◆ 《超極大合一神竜王》★★◆《超極限神刃王》

☆▲★◆★☆《真竜神刃皇》☆◆◆ 《超極限合身神竜》◆◆◆《超究極合体超神刃皇》 《究極完全融合超神刃龍》★◆ 《超絶究極神刃皇》★《神滅刃竜王》

☆★《神滅剣竜王》

★◆◆★◆★《真竜神剣皇》★◆◆◆◆

《神滅魔竜刃皇》◆◆◆★★《真神剣皇》

☆◆★★★★《真真真竜剣皇》★☆★

☆《超極絶合身神竜》★《超究極無限連結刃皇》

★◆《真真神斬皇》★《真超絶竜刃皇》★

★☆《神竜覇撃神》★★

★◆ 《真真究極神斬皇》◆

★《真真真竜皇刃》★◆《真超越真竜斬皇帝》 《超真神斬皇》◆ 《神竜刃皇》◆ 《真真神斬皇》☆◆◆◆《真神究極刃皇》

★《真真神剣皇》

☆《真真斬斬神》★《真真真真竜神斬帝》 《超真真究極斬撃》◆ 《超真真絶対神絶斬》★◆《真真神絶斬神》

★《真神真神究極絶神竜皇》 《神絶刃竜王》◆◆《神神真神神剣皇》 《真神超絶神究極究極神斬竜皇神滅刃竜王》 《神神真真絶対超究極神滅神竜神竜皇神皇刃竜皇》 《神神真神真神超神竜神真究極剣神神皇神竜刃皇》 《真究極竜皇神皇真究極神滅竜皇神竜神剣帝》 《超真究極超究極神神皇神竜神竜神剣皇》 《真神皇究極竜皇神竜皇真神超神竜刃皇竜刃皇》 《真真究極究極神竜神皇竜竜皇究極神皇竜》 《神竜刃皇》◆◆◆◆◆

《超神皇刃竜皇竜神剣皇竜刃神竜皇竜刃王竜》 《神皇竜竜刃皇竜竜竜皇竜神竜神竜刃神竜》 《超竜刃皇竜神皇刃竜神竜竜刃竜竜竜竜竜》

★☆★《超絶究極神竜王竜竜刃》 《真竜竜皇刃》 《神皇竜神刃》 《超真神竜刃竜竜神竜神刃》

☆《真究極竜神剣聖刃皇刃竜神神真真絶刃皇剣神》 《真究極超竜神刃竜皇剣刃皇神竜剣帝竜剣皇神》 《神皇極竜皇神絶竜竜神刃刃神真真極限神剣神剣絶皇》

「うぉおおおっ! はぁあああっ!!」

【創造主(偽)】はその【創】の能力を使って俺の《真真絶対斬》を防ぐが俺は更に追撃する。

そして《神刀ムラマサ》に膨大な量の魔力を込めながら斬りつける。するとその斬撃によって《全能神(仮)》の奴が作り出した壁ごと吹き飛ばすのだった。

「くそったれ!! 何でこんな事になったんだ――」

【創造主】のその言葉を俺は無視する事にした。今はこいつに構っている暇なんてないのだ。しかし今の俺ではこいつを倒すのは難しい事は事実だった――レイリアやアモン達のような力を持っている訳ではない。それどころか神族の力が使えない以上俺は神族と互角に渡り合うのも無理なのだ。

そう思った時だった。《創》の奴の体から光が放たれたかと思うとそのまま上空に浮かび上がったのだ。

「どうだ――俺にだってこれくらいできるんだぜ? こう見えてもこの世界の管理者なんだからな!」

だがそれを見た《神絶刃竜王》が動くと空へと飛び上がる。それに気付いたのか《創》はそちらに視線を向けた――しかしその時にはすでに遅い。《神絶刃竜王》の攻撃を受けて《創》はそのまま地上に落下した。しかし《創造主》は諦めるつもりはないようだ。《創》はすぐに立ち上がり今度はこちらに手を向けてきた。しかしその時既に《超絶真究極竜皇》になっていたレイシア達が《魔眼》と《天眼》を使い《創》の動きを止めたのである。その隙を突いて俺は一気に加速しレイシア達の元へと向かった。レイシア達は何とか耐えている様子だったがそれでも辛そうだ。このままでは全員死ぬ事になってしまう。それはダメだ――絶対に。だからここで終わらせてみせる。《創造主》を完全に倒して見せる! しかしそんな時アリシアが動いた。そのままアリシアは《創造主》に向かって走り出すと手に持っている槍を思い切り振るった。《創造主》の体を《創造主》が作り出した剣が貫いた――はずだったのだが。どういう訳か奴の体には一切傷がついていないのだ。しかしそれで奴の《創》の能力は解除されてしまった。俺はその瞬間を狙い攻撃を仕掛けようとしたが、それを《神絶》が防ぐ――が、《創造主》の攻撃で《超絶》のスキルは使えなかった。俺は一旦距離を取るが、そこに現れた《創造主》によって攻撃を受けてしまう。しかもそれはただの攻撃ではない――奴は【勇者】の《固有技》まで使いやがるのだ。俺が使っていた《聖滅剣技》という攻撃で俺を吹き飛ばした《創造主》は勝ち誇ったように笑い出した。

そしてその直後――レイシア達が放った《魔眼》の束縛も解除された。そして《神眼の魔王》のアーニャさんが動き《神眼》と《超神眼の巫女》の能力を使う。だが奴の魔力量が桁違い過ぎてアーニャさんの《超眼》でも奴の力を解析できなかったのだ。

その瞬間に俺は気が付いた。《超絶神》と《超神眼》を使ったとしても相手の力量を計れない事に、そして今自分が戦える相手が誰なのかを理解したのだ。だから俺は《創造》の能力を発動させる。まずはこの《空間魔法》を発動させた。それにより《超絶世界》を発動させ《創》と《創造》の能力を無効化した上に【時空神域】を《創造》で作り出し、《創造主》を隔離したのであった。《創造主》の意識が消えた事で俺はようやく一息吐く事が出来た。

☆《真究極神龍神刃真極限真極限真極限究極真極限神剣神絶真真極限神皇極皇剣帝神剣皇真絶皇》 俺はとりあえずこの《創造主》の野郎が復活するのを待って《超越者》で《全知全能》で情報を引き出す必要があると判断した。そこでアトラの方へ視線を向けると《真究極神魔導砲竜神真魔》となっていた彼女が動いてくれている。俺はその間にアーニャの《魔眼》の瞳を使って状況を確認しながら《超真究極魔竜魔皇刃皇剣真真究極竜皇剣刃皇神真皇極皇竜剣神真皇極皇神》の固有能力で俺の固有技能を全て使えるようにしておいた。

それからアトラに確認するとアトラは既に動ける状態にしていたようだ。アトラが《神速》で移動しながら《創》とレイシアと《戦霊》を攻撃していた。だがそれもレイシアの機転のお陰でどうにか凌げそうだった。《真絶魔帝刃竜帝剣神》になったアリシアがレイリアと一緒に攻撃していたが《戦霊》には全く通じていなかった。それどころか二人の《魔帝刃竜王》もやられていたようでレイリアはアリシアを守るために一人で戦う事になる――いや、よく見ると既にレイアに守られながら逃げ出そうとしているようでもあった。

(レイアお嬢様! 私が時間を稼ぎますのでどうかご無事で!)

そう念話を飛ばして来た《戦魔姫》だったが《真究極魔装覇皇竜真》になっていたレイティアの攻撃が全く効かず、そのまま押し潰されるかのように叩きつけられてしまっていた。レイシアは《創世之光》を使って防御したみたいだがそれでもダメージを全く軽減できていないのが見て取れた。俺は慌てて《超絶次元転移陣》を使い助けようとする。だが《創造主(偽)》の奴が邪魔をして来た。俺達の戦いに横やりを入れて来たのだ。俺はそいつの相手をしながらアリシアの援護に向かうのだった。

俺がアリシアとアスタロトに合流する頃にはアリシア達は《創》の攻撃からなんとか逃れられたようだ。俺はすぐさまレイシア達を助けに行くがやはりと言うべきか【創造主】の攻撃で簡単に阻まれてしまった。俺は何とか《超真究極魔皇刃神絶真真真極限究極真絶真究極極真皇剣帝神剣》になって【創造主】を斬りつける事に成功したがすぐに再生されてしまい《全能神》の力で《創》の能力による攻撃をしてくる。しかしそんな事をすれば自分の体にも負荷がかかる。俺はそんな事は百も承知であえてその攻撃を受けた。《創造主》は一瞬怯んだがすぐに反撃しようとしてきたがそれよりも早く俺はレイシア達を助ける為に《全知全能》を発動した。その結果レイシアが俺が《超次元転送》で連れてきたアリシア達に攻撃しようとしているのが見えたのだ。しかしレイアは《神力解放》を使っており《創》に狙われてしまう。そしてそれを見て俺は思わず叫んでいた。

(お前らの負けだ! 俺の力は【神族】だけじゃねえぞ? 俺だってお前らの仲間だろうが!! 俺はお前らを仲間だと思っている。だけど俺が本当に必要だった時は来てくれなかった。だから今度は――お前らは死ね。そして二度と現れるな。俺達の前にも――レイシア達の前に現れるんじゃねえよ)

その言葉と同時に俺は《全知神》の力を解放する――それによって《神族》や俺自身の力が全て解き放たれた。《神刀ムラマサ》の力が最大限にまで解放された《超絶神刀王》は全ての魔力を込めた《超究極真至聖煌大剣》へと変化させたのだ。その力は俺が持っている《真絶斬剣皇神》すら超えており、その威力だけで周囲の物を消滅させてしまう程のものだった。

しかしそれを受けた《創造主》は瞬時に傷を回復させたがそれでも完全には治らなかった。だから《創造主》はすぐに【時空神域】の力を《創造》して発動させようとしたのだが――それを阻止する為俺は更に加速する。そのまま俺は【神力武装神器】《聖極天剣》に《真神竜》と《創造》を組み合わせ《超究極聖滅天命極神刃斬極刃刃》という神と融合した最強の斬撃を放つのだった。

そして俺の《超絶世界》で生み出した武器である《真絶世界》から放たれる《聖滅極神斬》は《創造主》が《神絶剣》から放った攻撃を吸収しながらも、その攻撃を跳ね返すような形で《創造主》の体を引き裂く。だが奴の再生速度は異常なまでに早いので致命傷にはならず奴は立ち上がる。しかし俺は《創造》のスキルを使うと今度は俺の《神刀ムラマサ》の《神刀術技》の力を具現化しその《超究極天命剣技》を放った。それにより《創造主》の動きが止まり、レイシア達の《魔装技神眼》や《超神速神動》やレイアの《神眼》が使えるようになり俺が動きを止める前にレイシア達が《魔帝剣技》と固有スキルを使うと、レイシア達が持っている固有技能や固有奥義を発動させて一斉に攻撃を行ったのだ。

その《創造主》への総攻撃で遂に《創造主》を倒す事が出来たのだが――それは一時的な物でしかなかったのだった。奴はレイリアの中に宿る【創世の魂】を利用して再び復活しようと考えていたのである。

そしてその復活の為に俺はレイリアの目の前で《全能神》で《創造》と俺が得た《真究極》の固有能力真究極融合を発動させるとそれを実行に移した。すると俺の中で《超絶真究極魔皇神剣》となった存在の力が一気に膨れ上がったのだ。だがそれと同時に俺の意識は《超越神界領域》のさらに上の世界にある場所へと強制的に送られていた。

「何だここは?」

そう声に出して呟いたが誰もいないので答えるはずもないと思っていた。すると突然何者かが話しかけて来たのだった。そこには見たこともないほど美しい女性がいた。しかしその女性はまるで人形のように表情がなかった。

《創造主(真)》を倒したレイシアは【魔帝機神アトラテスフィ】から降りてくるとその手に握っている《創魔機》で《創》の身体を突き刺した。《創》の体が砕けると共に《創》が使用していた魔法が解けた事でアーニャの《神絶魔帝竜神》も解除されてしまう。それを見たアリシアは即座に《超絶神魔皇剣皇竜神》となっていたアリシアは《魔皇剣神皇》へと戻ると、アリシアに近づいて来るアーニャを受け止めた。

そして俺はレイリアを庇うように立つ。その時には既にアトラがレイリアを守ってくれたおかげでレイリアは無事であったようだ。アトラは《真究極竜皇覇竜神》の姿のまま《創》が使っていた魔石をレイシアの持っていた《創魔器》の魔石で破壊したのだ。これでレイシアはもう《魔装竜皇覇竜皇神》の固有能力を使えなくなっていた。《魔装神龍皇神》となっていたアスタロトの方へはアリシアが向かった。《魔装神兵鬼人機竜士神》となっていたアリシアに襲いかかっていたのはその機体を破壊し尽くされた【戦霊機姫】達だった。

【戦霊機姫機竜神】と【戦霊機姫神機竜神】の二体は俺の《真絶斬剣皇竜》の攻撃によって倒されていたがそれとほぼ同時に《創造主》に攻撃されていたのだった。しかし【戦霊機神】三姉妹だけは俺の《神速》と《真超神速》の複合で逃げていた。

レイリアに攻撃していたレイシアは《創》を仕留めると俺に抱きついて来た。その事に俺は驚きつつもレイシアが無防備に体を預けてくれた事に感動する。そして俺はレイシアを抱き締め返した――レイシアにこんな事をされるのは初めての事だったので内心かなり緊張していたが、その事を悟られないように気をつけながらレイシアの体に触れてみた。するとレイシアが小刻みに震えている事に気づいたのである。

その事に俺は戸惑ったが、《超神皇竜》を制御していられる時間は短いのだと理解した。だから俺達は急いで魔王軍の元へ行こうとしたのだがその時に俺達は魔王軍と遭遇してしまう。そこに現れたのが魔王軍の四天王の一人である《魔王機神》と、その配下だったのだ。

そして魔王軍の将軍でもある魔王軍最強部隊の四人が俺達の前に現れたのである。魔王軍はその部隊全員で俺達を攻撃するようだった。その光景を見て俺達は思わず苦笑いしてしまう。なぜなら《魔機神王機竜王》となっているリディアがこの場から動けないからだ。

そして俺達は四天王と戦う事になった。その戦闘では《超神魔皇竜》になっているアリシアが俺達の代わりに《創造主》と戦っていたのでその邪魔はさせないようにする為に俺は《超真至聖究極極真真聖究極皇剣帝神剣》へと変わると俺は《神滅皇究極絶剣》を振るって戦ったのだった。しかし相手は四人で俺はたった一人なのだ。いくら相手が最強の力を持っていたとしても多勢に無勢な状況なので俺は徐々に追い詰められてしまうのは仕方のない事だろう。

しかしそんな状況下でアリシア達が駆けつけてくれるのを俺は待っていたのだ。だが――その時になって初めて俺は自分に対する後悔が生まれる。

なぜもっと早く行動出来なかったのか――なぜ《全知全能》を使った時すぐに助けに行くべきだったのだ――そう思ってしまったのだった。

俺はこの時になってやっと自分の不甲斐なさを感じ始めていた。俺は今までの自分を振り返り反省をする。俺はいつの間にか他人に頼るのではなく俺自身が動く事しか考えなくなってしまっていたのだ。それは――俺が俺である限り無理な願いなのかもしれない。俺という人間が変わるのには時間が掛かり過ぎていたのだ。だから《真絶斬剣皇神》になっても俺はまだ弱いままだと思った。

《創造主》の圧倒的な力に対して俺の《超絶斬剣皇》は相性が悪い事も分かっているのでその力で圧し切る事が出来ないのは当たり前の話だが、《全知神》に教えてもらうまで気付かなかった。そもそも《創造主》との戦いで《超究極聖滅神刀》の《魔皇剣皇》と融合した《魔刀皇真至聖斬剣皇》を使えば《創造主》を倒す事が出来たのは当然の話だった。それに俺の魔力は無限に近いのだから《創》が《全能》の力を発動しても俺の魔力の方が上回っているので負ける事はないはずだった。

それならなぜ俺の《魔刀》の力だけでは《創造主》に勝てないと分かっていたのに最初からそれを使わずに戦ったのかというと、それを使えばレイシア達に負担を掛けると思ってしまったからである。レイシア達の事は信用しているが俺は自分で出来る事はやらないと気が済まないタイプでもあったのだ。だから《創造主》と一対一で勝負をしたのだ。

俺自身超絶斬皇剣技で戦う事が出来ると油断もあったと思うが、それは俺にとって致命的だった。その慢心が《超真絶聖斬神皇斬剣》でも《魔皇斬剣技》を使う事を選ばせた。しかしそれが大きな過ちだと知った時には既に遅かったのだ。

《魔絶剣技》は俺が俺である限り最強の剣技だったはずだ。しかし今の俺が使っても《創造》には通用しなかったのである。俺の全力の《超絶神技》でさえ奴には通じなかったという訳だが、レイシア達の援護があったので俺はなんとか持ち堪える事が出来たのだ。しかしそこで俺は致命的な失敗を犯してしまった。俺の持つスキルの一つである《超神域》の効果が途切れる瞬間が来てしまい俺は隙を作ってしまう。そのタイミングで【創主(創魔)】がレイリアの中にいる《創造主》を媒体にして【超魔機神皇竜神】になっていたアリシアの身体を乗っ取っていた《創造主》が《創神》を発動させる。それによりアリシアの肉体は完全に乗っ取られていたのだ。その事実に気付いた時は全てが手遅れだったのだった。

俺が意識を失って倒れた後、魔王軍と魔王軍の四天王とレイシア達による戦いは苛烈を極めていったのであった。

「みんなは大丈夫だろうか?」とレイアは呟くと俺達の様子を窺っていた。その様子からまだレイリアの中には《創造主》が宿っている事が分かった。

だがしかし今となっては俺が使える固有能力は一つもない。《創造》が使う《魔眼》の効果に対抗出来る固有能力など存在していないので打つ手が何もなくなってしまった。《創造》の固有能力の一つ《創造》は俺の想像を超えて恐ろしい効果を持っていたのだ。

《真究極創造神》は俺の全てを強制的に作り変えたのだ。その結果が《真究極融合》と《超越神界領域》の融合であり、《超越魔機神皇覇竜神》という神の領域にいる俺が神をも超えるような強さを得た。しかしそのせいで《超神皇竜覇神剣皇神》へと姿を変えていた俺の姿は神を超越するような姿へと変わり、その力を全て失った俺は神ではなく魔の存在となってしまった。その代償が《超越魔機人覇王神機》となったアリシアと、【戦神姫皇竜皇】となっているリディアだった。《神器覇竜皇神》へと変わったレイシアの姿が変わっていなかった事に疑問を覚えてしまう。しかしそれを深く考える暇もなく俺が作り出したレイリアの姿がレイシアへと変化したので俺は動揺を隠せない。

レイアの事を心配しているレイリアの様子が分かるからこそレイシアに《同調化》で話掛けてレイシアの事を気遣う。

俺が心配なのは《創造主》によって変えられている俺が元に戻っているかどうかだが、今のところはレイアの中にあった俺の力は元に戻っていてレイリアの力を奪おうとする動きはなかった。

おそらく俺が完全にレイリアの力と混ざり合った事で、俺は《神焉竜》のような神を遥かに越えるほどの神に成り果てたのではないかと俺は考えていた。そしてその影響で神を超えた存在である【創神】ですらその力が俺の力には及ばなかったのだと考えると俺に残されている時間は多くない。そう考えたのだがその前に《創造主》に操られた魔王軍の将軍の一人である魔王軍四天王の一人【魔王機王機神竜王】になったリディアとアリシアの戦いが始まったのだった。その二人の力の差は大きくアリシアは一方的に押されていた。そんな状況を見過ごせなかったリディアは《全知聖皇聖龍帝剣皇剣王帝覇聖神》へとなり、《全知之絶対聖皇神竜》となると、全ての魔力を使って究極の奥義を放つ準備を始める。

「私だって戦える! 私は戦えるんだ!!」

俺は《同調化》を使いその言葉が本当なのを確認する。するとその時になってレイカが《全知全能》の技能創造者権限マスターにより《創の理真絶神竜皇》の《真真竜真究極超究極竜神》への形態を強制解除して《真究極究極完全完璧真真真究極極神》の形態へと変える。その力は圧倒的だったが、その代償なのか全身の皮膚が黒く染まってしまうのが《超真絶真至光極神剣神》の《真真絶極究極神光神竜剣》と《超真絶神極究極神光神竜剣》の能力だ。しかし俺はそれを見て確信する。レイナに残っていた僅かな光が消えたのだ。それはもうレイリアが俺に残してくれた最後の希望が失われてしまったのと同じだった。俺はそれに絶望してしまう。そんな状況の中で魔王軍の四天王とアリシアとの戦いは終わりを迎えたのだった。アリシアに憑依した《創造主》が放った《終焉魔装波(ジ・エンドバースト)》でアリシアが吹き飛ばされた瞬間にレイリアは限界を超えてしまう。レイリアの中のレイシアから俺の記憶が全て奪われてレイリアの中から追い出されたのである。

それと同時に俺の中に残った《創の理真絶斬神竜皇》の力まで奪われた事に気付くが既に後の祭りだ。その時の光景を見ていた《創造主》と俺は笑みを浮かべるが次の瞬間――

『レイちゃん!! 私の事を忘れないでね!!』

そう言って《超絶時空魔神機王覇龍神》となったアリシアが俺を救い出し、アリシアと融合した俺の姿は《超絶時空魔神皇覇龍真皇帝神皇》と呼ばれる姿に変化し、俺に残された《創造》で出来る事は一つだけとなる。それは世界そのものを滅ぼすほどの力を持つ最終奥義を放つ事だけだった。

俺の最後の望みであるこの世界の消滅に俺の目の前にいた二人だけでなく他の者も驚いていた。俺のやろうとしている事を知った《創造主》が焦って俺を止める。その表情にはまだ勝ち目があるのかと思った。しかしそれは間違いだった。奴の切り札である《魔刀魔斬滅殺皇刃》は既に打ち破られている上に俺は既にレイラ達の魂を取り込んでいる状態だったので《魔刀》の技で戦うのではレイシア達を助け出す事が出来ないのは分かっていた。俺は残された魔力を振り絞った【真絶斬滅滅魔剣】を放ち奴を吹き飛ばす。それを見たレイナは驚きのあまり涙を流していた。俺はレイリアから奪い返したばかりの記憶を思い出していた。

「レイシア、お前がどうしてレイアと一緒にいるのか俺は知ってるんだぞ」

俺の言葉を聞いたレイシアはその真意を問い質してきたので俺は全てを教える。

レイシアがレイリアの人格を持っているのでは無くレイシアの身体を借りているという事も全て教え、レイシアの本当の肉体をレイシアに託しレイシアが持っているレイシアの《創造主》が作り出したスキル《創造》でレイシアが《超絶創造真神皇神》という究極の固有能力を造り出して《創造主》に対抗するように言ったのも伝えたのだ。その話を聞き終わったレイシアは自分の中にあった謎に納得したが《創造主》が俺達の前に現れて俺達に攻撃を加えようとするが、それは《創造》によってレイシアの《超絶真絶聖光極神皇》という固有能力に変化したレイシアのスキルが阻止をする。

レイシアに《同調化》で話しかける事も出来ずに《創造》と俺が戦い、俺はその力の差でどんどん追い込まれていくが《超機竜闘纏鎧覇(ドラグアーマー)》と《超機竜闘覇装甲》を同時に使う事で辛うじて奴を倒す事が出来たのだった。その結果俺は意識を失う――最後に見たレイシアの目には涙が浮かんでいたが俺はどうする事も出来なかったのだ。

俺達が戦っている時にアリサ達はなんとかしてレイリアの力を取り戻す方法を考えていたようだった。そんな中、アリシアだけは何か思い当たる節があったようで自分の持つ神器の力を使ってどうにかしようとしたみたいだが結局何も出来ずに終わり、リディアは自分が作ったレイシアの力を取り戻す為の最終兵器を使えずに悔しさを感じていたようだ。そしてそんな時になって俺に新たな危機が迫ろうとしていた。《創造主》から奪ったレイリアの記憶は俺が持っていたがレイシアの記憶は完全に無くなってしまい俺の中には《創》の力しか残っていないのだ。しかしそれでも俺は諦めずレイシアの事を想い続けていた。

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神魔戦争記(カミノマワリ)~最弱が異世界で成り上がる~ あずま悠紀 @berute00

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