異世界に無一文&チート能力なしで転移したけど、なんか余裕で暮らせてます

あずま悠紀

第1話


「お前、ステータスがオール1だと? そんなヤツ見たことも聞いたこともないぞ!」

俺はゴクリ、と息を飲む。そして目の前の冒険者たちの反応を見るため視線を上げたのだが、彼らの顔からは困惑の色がありありと浮かんでいたのだ。

(まあ確かにそうだろうな。でも、だからと言って俺には『ステータス強化』やら『鑑定』なんてスキルは持っていないわけだしなぁ)

内心では困り果てながらも、表面上はあくまでも平静を装い俺は話を続けた。この様子だと彼らは親切にも色々とアドバイスなりしてくれそうだからだ。

すると俺の話を聞き終えた彼らは一斉に大きな溜息を吐き出すと呆れたような顔をするのだった。しかし俺だって言い分はあるのだ、こんなこと急に言われたってどうしようもないじゃないか! それに俺だっていきなり異世界に来させられて困惑しているんだし。そんなことを思っていると、彼らの中でリーダーっぽい大柄の男が俺に向かって口を開いた。

「とりあえずだ、金はどうした?」

男の言葉に、俺は慌てて腰に付けていた巾着袋に手を当てる。すると、そこには確かにあったはずのお金が全てなくなっていたのである。それを見た俺は一瞬にして血の気が引く思いだったよ。何しろ俺は元の世界において貧乏というわけではなかったものの、そこそこ小金持ちくらいの収入であった。なのでまさかこの世界でたった1日過ごしただけなのに全て無くしてしまうなど予想していなかったのだ。

「えっと、その、実は昨日の夜にちょっと飲み歩いてしまいましてですね」

ははは、乾いた笑いが自然に出てきちゃったぜ! だってしょうがないじゃん!? この世界の通貨が何なのかも分からないし、手持ちの資金も無かったわけでさ。結局あの後俺は途方に暮れた挙句、酒場を探してそこで一晩を過ごしてしまっていたんだよな。ちなみにその店はお酒を飲ませてもらっただけで料金を一切払っていないのだけど、大丈夫かなぁ? 今さら心配になってくるわ。

そんなことを考えながら俺はちらりと男たちの方へと目を向けると彼らは頭を抱えていたのだ。ああ、これは完全に見捨てられてしまうパターンだね、きっと! だがリーダー格の男だけは何かを考え込んでいるようで、顎髭を擦りながら考え込むようにしていた。その姿を見ながら、もしや彼はいい奴なのかも? という期待を抱いてしまったのだ。

(おお! やっぱりいい人なんだねキミィッ!!)

するとその時、彼の背後にいた小柄な女の子——いやまて、あれは少女と呼べるのか?——が大きな声で叫び出すのだった。その声は可愛らしい容姿とは不釣り合いなものだったので、まるでアニメのキャラクターみたいな甲高いものだったんだけどね。

彼女は叫ぶようにして言ったんだ、「その者を殺すべきだっ!」ってさ。正直耳がきーんとなったよ。でも、彼女の発言を受けてリーダー格の男は振り返ると同時に鋭い視線を投げかけていた。それは今まで俺に向けられていた表情とは違うものでとても怖かったんだけどね、なんで彼女を殺そうとする流れになっているのか理解できなかったんだよ。

(えぇ、殺す? 何言ってるんだこいつ)

俺の思考を読んだわけではないだろうけど、リーダーらしき男は少し間を置いてから言葉を発したのだ。

「コイツをここで殺しておくべきだと俺たちの意見は一致している。この場にいるメンバーの中でお前以外の全員が賛成しているがどうする?」

リーダーの男の視線が、俺の顔を見据えてくる。他の人たちも同様にこちらをじっと見つめてきたのだ。

(ちょっ、マジで言っているんですか!? この人たちは何を言っているんだろう?)

そう思った瞬間に俺は背筋が冷たくなっていくのを感じたよ。だって俺のことを殺すべきだと考えているヤバそうな集団が目の前にいるわけだし、しかも彼ら全員の瞳からはハイライトさん仕事していない感じなんですよ。そりゃあ怖いに決まっているじゃないですか。

(おい待ってくれよ!? 俺を殺した方が得をする理由とかあんのか!?)

そう考えた俺は咄嵯の判断で自分の能力について説明しようとしたんだよね。だけどそれを聞いた彼らが驚いた顔になるのと同時に急に苦しみ始めたんだ。

するとその直後、彼らの身体が光を放ち出し始め——次の瞬間にはそこに立っていた3人は跡形もなく消え去ってしまっていたのである。

「はぁ!? 一体どういうことだ!? それに消えた?」

あまりの出来事に俺は思わずそう叫んでしまった。そしてすぐに辺りを警戒したのだけど、周囲に変化はないようだ。いや、正確に言えばあると言えばあるのだ。でも目の前にあるこの巨大な木だけが何故かぼんやりと輝いているような、そういう感覚なのだ。

しかし今はそれ以上何も起こらなかった。俺をこの世界に送り込んだと思われる謎の声すら聞こえてこなかった。

(もしかしてこれ、転移じゃなくて召喚ってヤツか?)

よく分からないながらもそんな風に結論付けるしかなかった。まあそうじゃないとこの状況を説明することができなかったしね。

ただ俺のステータス値1という数字が気になった。だからとりあえずは試しに『ステータス強化』というスキルを使ってみることにしたのだ。すると不思議なことに先ほどよりもずっと強くスキルが発動したのを感じることができたのである。そのおかげでどうやら俺には『筋力強化』と『敏捷性上昇』『視力超回復』などのチートじみた効果が発現したのだった。

俺はそれから色々と確認することにした。するとどうやら俺はレベルが2になっていたのだ。しかし、それ以外には大きな変化がなかったんだ。

(いや待て。そもそも俺はどうやってこの森を移動していたんだ? 確か普通に森の中を歩き回っていただけだったような気がするんだけれど)

俺は不思議に思ってステータスを確認する。すると確かにレベルが上昇しているにもかかわらず『歩行』と『体力自動回復』しか上がっていなかったのだった。つまりこれは俺の予想が正しければ、歩く速度が上昇するとともに徐々に体力が増えていくということだと思う。

俺は次にアイテムポーチの中身をチェックする。その中には食料と武器になりそうなナイフが入っていた。他には地図とお金が入っている巾着袋、後は冒険者に必要だろうと貰った剣と弓があるくらいだ。

(よし、とにかくこの場から離れよう。いつまでもここにいる訳にもいかない)

そう考えた俺はまずは地図を見てみることにする。その地図によると今俺たちがいる場所は王都から東に行ったところにある草原地帯の一角らしいのだ。この世界には東西南北に大きな国が存在しているようなのだが、ここは比較的魔物の少ない場所だそうだ。だからこそ比較的安全な地域として冒険者の集まる町となっているみたいだね。

とりあえず俺は移動することにした。しかし、どうやら俺の歩幅はそれほど広くないようだった。ステータス的には全力疾走で走ることもできたのだけどどうにもスピード感というものがなく走り辛いのだ。なので俺はゆっくりと進むことにしたのだった。

ステータスを確認して分かったことがある。ステータス強化のおかげで多少なりとステータス値は上がっている。だけどそれだけだ、レベルが上がると上昇する数値がある程度固定されてしまうので、いくらステータスを強化しても俺はレベルアップの恩恵を十分に受けることはできなかった。

そんなことを思いながらも俺は足を動かす。そしてしばらくしてからまた別のスキルを発見したのだった。それが『魔力操作』というものだった。俺はスキルを発動するとどうなるのだろう? と思いながら念じる。するとどうやら手の周りから微弱な力——魔法を使う際に使用する魔法の元のようなものだろう、これが俺の周りに漂っていることが分かったのだ。どうやらこれが『ステータス鑑定』と同様に何らかのスキルの効果によって得られたものだということは間違いなかった。

俺は再び地図を取り出して現在位置と目的地までの距離を計算しなおすことにする。

「えっと現在地は——あっ! ここってさっきの村だ!」

そのことに気付いた俺は一気にテンションが上がった。

俺はさっそくスキルを使用する。

『気配探知』——スキル使用時に半径50メートル以内に生物が存在していればその生物の情報を俺の中に伝えてくれるスキルらしい。ただ俺のレベルが低いためかその範囲は狭く、せいぜい10メートルの範囲の生き物を感知してくれるだけのようだ。

続いて俺は『隠密』を使用して周囲の探索を始める。その結果、どうやら俺はこの森に存在するモンスターの縄張りに入り込んでしまっているようなのだ。それもかなりの数の強力な個体がいる。

「げっ! オークにゴブリンだと!?」

ゴブリンの上位種であるオーガの姿もあった。さらに俺を襲ってきたあの二足歩行のトカゲ、リザードマンもいる。それ以外にも多数の凶悪な怪物たちがいたのだ。正直こんな場所に俺一人しかいないという状況では生き残ることは厳しいだろうと思う。

そこでふと思いついたのが例の冒険者パーティに同行させてもらう方法だった。あの時は突然の出来事のせいでうっかり流してしまったものの、俺は彼らが仲間になってくれるのではないかと内心期待していた。しかし残念なことに彼らはもういないし、そもそもどこに行ったのかも分からない。

そんなことを考えていたその時、俺はとある音を聞いてビクッと身を震わせた。

「ギイイ!」

「グギャァ!」

「キィィ!」

それは複数の悲鳴のような鳴き声であったのだ。そしてその発生源はすぐに分かったのだ。

それはすぐ近くの草むらからであったのだ。しかもそれはまるで肉食獣が獲物を見つけた時のように勢い良く飛び出してくる。俺はその瞬間反射的に持っていた剣を抜き放って防御体勢を取っていた。そしてそのまま相手を迎え撃とうとしたのだが——その動きは止まってしまう。

(嘘だろ? なんで俺の前に立ち塞がった?)

俺の視界に飛び込んできたのはその正体不明の存在だ。しかし俺に襲いかかるどころか俺の前方に立つようにして盾となったのである。

俺の目の前に現れた存在、そいつは全身が緑色で頭部に大きな二本の角を持つ鬼——ゴブリンだった。しかもその姿はかなり大きい。恐らくは俺よりも身長が高いだろう。俺の背丈と同じくらいか、少し高いかその程度の大きさである。

だがそれ以上に驚いたのは俺の目の前に立ちはだかるその姿があまりにも美しく見えたことだ。俺に襲いかかろうとしたその瞬間にその巨体が持つ迫力がまるで幻影であるかのように消え去り、俺の意識は完全にその存在感に吸い寄せられていた。まるで美しい絵画を目にしているような、圧倒的なまでに芸術的で完璧な造形美がそこには存在していたのだった。

俺は思わず息を飲んでしまう。それほどまでに目の前の存在が発するオーラは凄まじいものであった。それはある種の威圧のようで、思わず膝をついてしまいそうになるほど俺の精神を揺さぶってくる。そして俺はそんな相手に恐怖ではなく、感動を覚えてしまうのだった。

しかしそれは次の瞬間に鳴り響いた金属音によって霧散することになる。

甲高く響く鉄と鉄がぶつかり合う音、それが戦闘の開始の合図となり、俺がハッと我に帰った次の瞬間には、ゴブちんが振り下ろした大斧が俺の頭上数センチの場所を通り過ぎていくところであった。もし俺がその一撃を受けてしまっていたなら俺は確実に絶命していたことだろう。そう思うとゾクリとしてしまう。しかし今は戦いの最中である。気を引き締め直した俺は目の前の敵に集中し直すのだった。

どうやらゴブちんは本気で殺しにきているようである。

俺に殺意が向けられているのがはっきりと分かるほどの圧力を感じたのだ。それはこれまで感じたことが無いほどに強いものであり、本能がこいつはやばいと警鐘を上げてきたほどである。しかしそれと同時に、何故か俺は目の前の敵を倒さなければならないという思いを抱くことになる。

これはきっとあれだろう。いわゆる死亡フラグ的な感じなのかもしれない。そう考えたらなんだか妙にやる気が出てきてしまったのだ。

(いや違うか。単純に死にたくないっていう気持ちが無意識に強くなったのか)

そして俺は覚悟を決める。このまま死ぬわけにはいかないのだ。だから俺は自分の生存確率を上げるためにも全精力を尽くすつもりだ。

(まずはステータスを確認しよう)

そう思った俺はステータス画面を開くことにした。そしてその内容を確認した結果、ある事実に気付き、戦慄を覚えることとなる。というのもステータスの数値が明らかに上昇してたのである。

「おいおいマジかよ、俺って結構強キャラだったりするのか!?」

そう言いたくなるくらい俺の能力数値は高いものだった。筋力、敏捷性などの基本能力も大幅に上昇しており、体力などに至っては以前の俺が見たことがないほどの数値にまで達していのだから驚くしかない。

ちなみにステータス値について詳しく説明しておくことにすると、一般的な人間の場合の平均値がだいたい100前後になるそうだ。まあこれに関してはステータスに表示されない筋力とかも含めての平均なのでそこまで当てにはならないみたいだけれど。

あとこの世界における一般男性の平均寿命が約60歳で女性だと50歳らしい。だからまあ普通と言えば普通かな? 俺はまだ15才になったばかりの年齢だし、ステータス数値が上がっている以上まだまだこれから伸びしろがあるという事でもあるので希望は残っている。

ステータス画面には更に新たなスキルが追加されていたのだった。

『魔素操作』——スキル発動時には手に触れた物から様々な力を吸収し続けることが出来るようになるというものだ。どういったものを吸収するかはある程度選択することが可能らしい。

次にスキル『精神汚染』——どうやらこれは対象を強制的に支配することが出来るスキルのようだ。そしてこれは『魅了』という派生スキルによって発動条件が変化するスキルらしく、俺の意思によっていつでも好きな時に使うことができるスキルになっている。

(なるほどね、そういうことか。どうやら俺はこの森を支配する主って奴になっていたってわけなのか)

この世界は地球ではない。つまりはこの森に存在する生物の頂点にいる何者かが存在しているはずなのだ。その者が魔物を生み出しているという仮説も立てられるのだが——

「グギャア!」

「くっ!」

俺が考え事に耽っている間に隙を見てしまったのか、それとも最初からそのつもりだったのか——いずれにせよゴブちんの攻撃が迫ってきていたことに気付いた俺は思考を打ち切って、回避行動を取るのだった。

しかしそこで俺は再び驚愕することとなる。先程までの鈍重だったはずの体が急に軽くなり、思い通りの動きが可能になったのだ。そのことに驚いた俺は一瞬固まってしまった。しかし直ぐにその理由に気付く。なぜなら目の前にいたはずの巨大な緑色の怪物の姿がなくなっていたからだ。いや正確に言うといなくなったわけではなく、いつの間にかに後方に移動しており、そしてそこでゴブちんが再び攻撃態勢を取っているのが確認できたのだ。どうやら俺が思考に没頭しているうちに攻撃をしかけてくるタイミングを図っていたのであろう。そして俺が回避することを想定して、そこからカウンター攻撃を仕掛けようとしてきたと思われる。しかし俺にとっては好都合だった。

(今がチャンス! 喰らえっ!

『魔弾』!)

スキル『魔力操作』によって魔力球を生み出す。その魔力球から俺の腕を通して魔力が流れ込む。その流れ込んだ魔力によって魔力球は俺の手を離れて高速で射出された。

その瞬間俺は理解してしまったのだ。今の魔力球——いや魔力弾丸といった方がいいだろう、それは今までとは比べ物にならない程の威力を持っていた。それはまるで魔力を込めた分だけ破壊力とスピードが増したように感じるほどであった。しかしそれだけでは済まない、俺は魔力の流れを制御することで魔力球体の形状を変化させることに成功したのだ。

魔力弾丸が着弾すると爆発を引き起こす。それによって周囲に衝撃が広がり土煙を巻き上げる。

「グギィッ!」

悲鳴が上がったのが聞こえてきたのでゴブちんを視認しようとするとそこには傷だらけの醜悪な姿となったゴブちんの姿が映っていた。ゴブちんは慌てて距離を取ったもののその顔からは余裕は感じられない。

俺はそこでふと思い出していた。ゴブリンというのは集団戦においては非常に優秀な種族であるということを。俺はその知識に習い追撃を加えるためゴブちんへと接近した。そしてゴブリンが反撃に転じようとする直前に再度『魔力球』を放ってその動きを止め、同時に俺自身も踏み込み、そしてその勢いを利用して全力の斬撃を繰り出した。その結果は見事なものである。ゴブちんの上半身がズバッと切断され下半身が地面へ倒れ込むことになったのだ。その瞬間に俺の中で何かが流れ込んでくるような感覚が襲ってきた。

(何だ? まさかこれが経験値ってやつか?)

俺は内心驚いていた。それはレベルが1上がったからである。ただその上がり幅は決して高いものでは無い。だが俺はレベルアップしたことで能力数値が急激に上昇したのだ。

「おおっ!これはすげえな。さっきよりも遥かに楽に動けるようになったぞ」

俺は嬉しくなって調子に乗ったまま、次の標的に向かっていくことにした。

(よし、次はあいつにしよう)

俺は次の獲物に目星をつけると、その相手に向けて一気に駆け出すのであった。

俺がゴブちんの相手をしている間、仲間であるオーガは離れた場所で戦いを続けていたのだが、そっちの方では決着がつきそうな状況であるようだ。俺はゴブちんを斬り捨てながらそちらの様子をチラリと窺うと、そこには信じられない光景が映し出されていたのである。

「なんだあれは?」

俺は驚きの声を上げることになる。それも仕方ないだろう。なんとその戦場には2体の巨漢がいたのである。片方は赤い髪色をした巨体を持つ筋骨隆々な体を持つ存在だ。そしてもう片方は黒に近い茶色の髪を短く刈り上げており、身長190センチメートルほどはあるのではないかという長身の男である。しかし両者とも見た目には人間とそれほど変わらない姿をしている。

だがその体から立ち上るオーラは凄まじいものであった。それはもう明らかに人間とは別の存在であることを主張しているような気がしたのだ。

赤髪の巨体を持つ男は大剣を手にしており、茶髪の男は両手にそれぞれ一対の大鎌を持っていて、それぞれの戦いを繰り広げているのが確認できた。そして俺は二人の背後にいるオーガに視線を向ける。どうやら既に息絶えてしまっているようである。俺はその惨状を見て怒りを覚えたのだ。

(ふざけんなお前らぁ! せっかく仲良くなれるかもと期待させておいてこの始末かよぉお!! お前ら全員許さんから覚悟しろよ!? ゴブちんとあの黒いヤツも纏めてぶっ飛ばしてくれるわー!!!)

そんなことを頭に浮かべながらもゴブちんと戦り合っているわけであるが、なかなかに手強い相手である。ゴブちんは俺の攻撃を避けたり、防御したりと完全に俺の攻撃を読みきった戦い方をしてきていたのである。しかもその反応速度は人間離れしていて正直かなり厄介であった。まあ人間じゃないんだけどね。

(これはまずいな。このままだとやられてしまうかもしれんな。なんとか隙を見つけ出して反撃しないとまずいことになりそうだな)

そう考えた俺は、とりあえず距離を取ろうと思い後ろに跳躍しようとしたところで、ゴブちんに足を掴まれ地面に引き倒されてしまったのだ。

「くっ、なんてやつだ!」

俺はすぐにでも逃げ出せるように体勢を整えようとしたのだけど、ゴブちんがそれを見逃してくれることはなかった。俺の顔の前に巨大な斧が振り下ろされてきたのである。

(マズイ、避けられない!)

俺は思わず目を瞑ってしまう。そしてその直後に訪れるであろう死という現実から必死に逃れようとして、俺の中の生存本能が最大限の力を発揮したのかもしれない。俺は咄嵯の判断で身体を捻ることにより直撃だけは避けることが出来た。

「あっぶねえぇ〜マジ死ぬかと思ったよ」

冷や汗を流しながらも俺はゴブちんを蹴り飛ばした。しかしゴブちんはすぐに体勢を整えると俺に攻撃を加えてくる。俺はそれに対して刀で応戦することにした。だが俺の筋力数値が上昇中とはいえ、まだその攻撃に耐えることが出来る程ではないのだ。俺はゴブちんが放つ強烈な攻撃に徐々に追い詰められていった。

俺はその最中で考えていたのだ。ゴブちんとの戦いで感じた違和感について。俺はゴブちんに対して全くと言っていいほど攻撃を与えることが出来ていなかったのに奴が無傷のまま俺と対峙することが出来ていたことについてだ。そしてゴブちんが俺の隙を見抜くような動きを見せたことについても。

「そういうことか、そういうことだったんだな!」

その答えに辿り着いた時、ゴブちんは攻撃をやめ、俺から距離を取った。その様子から察するとどうやらゴブちんにも俺が考え付いたことが分かったようだ。ゴブちんは俺のことを強敵と判断したのか、その鋭い眼光で俺のことを観察し始めた。

(なるほど、こいつは俺を格上の魔物と認めたわけか。確かに俺の方が力は弱い。それに俺自身この世界にきてから初めて戦うような存在だ。ならこいつらが警戒するのは当然だよな)

俺はそんなことを考えながらゆっくりと呼吸をする。

「ふう、俺の考え通りだったみたいだし試してみるか」

俺はゴブちんが攻撃を仕掛けてくるのを待つ。

——すると予想通りゴブちんはその手に持った棍棒を振り回しながら俺に迫ってきた。しかし俺はそれを避けて、そのまま背後へと回ることに成功する。

——そこですかさず俺は『精神汚染』を発動させた。するとゴブちんの動きが鈍くなり、まるで時間が遅くなったかのような錯覚に陥ったのだ。それは一瞬のことであったが、ゴブちんに隙が生まれた。俺はそこに狙いを定め、スキル『魔弾』を撃ち込むことにした。その効果は抜群であり、その肉体を見事に貫通することに成功したのである。

しかしそれで終わらずに俺は続けざまにスキル『魔力刃』を放ち攻撃を続けた。ゴブちんが倒れると俺の中にまた何かが流れ込んできた感覚に襲われる。

そのことに驚いたが今はゴブちんとの戦闘に集中しなくてはならない。ゴブちんを倒したことで少しばかり余裕ができたのか周囲を確認することができたのだけど、やはりゴブちんと同じような存在が4匹おり、それぞれが俺の仲間と戦闘を繰り広げているという状況だった。

ちなみに俺とゴブちんが戦っている場所から離れた所でオークとゴブリンの軍団と戦っていたのが残りの仲間たちなのだが、そっちはどうなっているのか分からない。

俺は気になってそちらの様子を確認したところちょうど決着がつくところだった。それは仲間たちの圧勝に終わったのだが——そこにはとんでもない状況が広がっていたのだ。

それはオーガの首元に短剣を突き立て止めを指し終えた直後の出来事だった。

突如地鳴りが起こり始めたのだ。最初は地震が起きたのではないかと俺は勘違いしてしまったのだがどうやら違ったようである。その音の正体はこの森にいる何者かが俺たちに向けて攻撃を仕掛けてきているために発生していたものだったのだ。

(おいおいマジか? ちょっとこれ洒落にならんって)

俺は冷や汗が止まらなかった。なんとゴブリンの死骸がひとりでに浮き上がり始め、ゴブリンたちの体を覆っていくと次第にその姿が変化を始めていく。

やがてそこには先程のゴブリンたちが巨大になり二足歩行するようになったゴブリンが現れたのである。その数はざっと数えたところ50体近く存在しているように見えた。

(嘘やん。こんなん無理ゲーじゃん! なんなんあいつらは! いやまあゴブリンだからゴブリンナイトみたいなものだろうけどさ、普通そんなの想定してないんですけどぉ!)

俺が混乱してあたふたしていると、ゴブちんも似たようなことになっているのに気づいた。ゴブちんもこちらと同じように困惑した表情を浮かべていて、俺がゴブちんの側に寄ろうとしたその時、俺のすぐ側を通り過ぎるように一陣の風が吹いたのだ。その風と共に何かが飛んできたような気配を感じ、反射的に俺は後ろを振り返ることになった。

そして俺は目にしたのだ。そこには背中に大きな盾を背負っていた全身鎧に身を包む男の姿があるのを。俺はそこでふと思い出すことになる。

そういえば、さっきのオーガと戦っていた時にオーガと一緒に来ていた人の姿を見かけなかったことに。そのことからその人物がオーガとの戦いに参加していたのだと悟る。その人物は今し方放った矢がゴブちんに命中したことを確認するとさらに追撃を加えたのだ。その矢は吸い込まれるようにしてゴブちんに突き刺さるとゴブちんはその場に倒れ伏したのである。

(えっ、今の一撃で倒せちゃうの? 俺の見間違いでなければかなりの威力だと思うんですが。えっ、まさかゴブちんってそこまで強くなかったとか?)

俺の頭に疑問符が並ぶ中、俺はゴブちんに止めを刺し終えてこちらに歩いて来る人物に向かって話しかけることにした。だってこの状況で知らない人と話をするのに一番安全なのが、相手が誰なのかを確認しておいてその後接触するということだからだ。それにその相手も人間とそう変わらない見た目をしていたこともあり、特に不安感を抱くようなことはなかったのだ。まあそれがまずかったと言わざるを得ないわけなんだけど。

その男は身長170センチメートルほどだろうか、その顔はとても端正に整えられている印象を受ける。髪の毛の色は茶色っぽく肩にかかる程度の長さのものだ。その肌は日焼けをしているのか健康そうな小麦色に染まっていて、瞳は綺麗な青緑色である。年齢は30代後半に見えるかな。まああくまでも見た感じなので、実年齢は不明だ。服装は特に変わった様子のない旅装のような格好をしていて腰にはロングソードを提げていた。

俺はその男の方に向き直る。

(この人強いな。もしかして俺よりも強かったりして。もしそうだとすると俺も本気で戦わないと不味いかも。いやでもこの人も俺と同じ転生者で、実はめっちゃ弱かったりするかもしれん。ここは慎重に接しよう)

「あのー助けてくれてありがとうございました。おかげで助かりまし——ッ!」

「なんだ、喋れたんだ。てっきり声が出ないのかなと思っていたよ。それにしても君は凄まじいな! ゴブちんがあの大きさになるとゴブチンにクラスチェンジしてしまうんだよ。それを倒すなんて本当に規格外の存在だよね」

俺はそこで初めて自分の過ちに気づくこととなる。

俺の言葉を聞いた途端に男が豹変してしまい、俺に対して敵意剥き出しの雰囲気になってしまったからである。それもそのはず。目の前にいた男がいきなり態度を変えてそんなことを言い出したのだから当然だと言えるだろう。

(あっ、これヤバイ奴だ。ヤバイヤツだ。ヤバヤバーヤバヤバ。完全に殺気立ってるし。とりあえずここから離れないと)

そう思った俺は逃げようとしたのだけど、それは叶わず、すぐにその距離を詰められてしまったのだ。

そして気がつけば俺は地面に押し倒されていたのである。

(やば、逃げられない。これは終わったかも。でもどうして俺のことを殺そうとするんだろう)

俺は相手の目を見つめながら考えていたのだけど、何も分からないままである。そして俺はこの世界の常識が欠如していたことに思い至ることになった。

(ステータス、俺の能力値を確認すれば何かヒントが分かるんじゃね? ってそもそも俺って『気配探知』持ってたよな。ならそれを使えばよかったじゃん! 馬鹿なの俺。何でそんな簡単なことが今までわかんなかったのよ! 俺の人生最大の失態なんですけど!)

俺はそんなことを考えながら自分の行動が浅はかだったことを思い知らされていた。だがしかし後悔は後回しだ。俺は覚悟を決めると『気配探知』を発動させた。そして俺はその結果、絶望することになる。

(マジですか、もう嫌な予感しかしませんな。どう考えてもこの男、人間じゃないんですが。えぇぇぇ、どういうこと? なんで俺の周りだけ人間が存在できない空間みたいになってんの。どうなってんのこれ。マジで誰か教えてください!)

俺の視界に広がる光景、そこには様々な種族の魔物が存在しているのだが、その中に人間の姿が一切見当たらないのだ。しかもそいつら全てがゴブリンのように醜悪な容姿を持ち合わせている上に、俺のことを物欲しそうな表情をしながらこちらを見ていることに気づいてしまった。そんな様子の魔物たちを見れば俺がどんな状況に置かれているのか理解せざるを得ないというものである。

(つまりこの世界では人間は希少生物であり、それを殺す者は殺されても文句を言うことはできないと。この世界に法律的なものがないのであればの話だけど。いやいや待ってくれ。俺はただ単に襲われそうになっただけだぞ。それなのに殺されるなんて理不尽すぎじゃありませんかね? それなら俺にも反撃させていただきますとも)

「——ぐっ、なにすんだよ! くそがぁ」

俺はなんとか逃れようと必死に抵抗するが、相手の方が力が強すぎて抜け出すことが叶わないでいた。

(おかしい、いくらなんでもこっちは力に劣るとはいえこう簡単に押さえ込まれてしまうことはないと思うんだけど。やっぱり異世界人は地球人に比べて身体的な能力が段違いに強いってことか?)

そんな考察をしつつ何とか隙を見ては攻撃を試みようとしていた。しかしそんなことはお見通しなのか、攻撃に転じる隙を与えてくれることはなかった。むしろ攻撃されないように防御を固まられる始末だったのである。

俺とそんな攻防を繰り広げる男はニヤリと口角を上げるとさらに俺の体を締め付ける腕の力を強めたのだ。

(うそ、こんな力で締められたら骨が折れるどころか内蔵破裂するんですけどぉぉぉ。死ぬ、このままだと確実に死んでしまう。冗談ではなく本気で死にそうなんですけどぉぉぉ。早く何か手を打たなくては。何かないのか何かないのか。俺はこの危機的状況を乗り切るために全力を尽くすしかないのか——そうだ、あれを使うしか————『筋力増強剤』『身体能力上昇剤』『成長促進薬 LV3』『感覚加速の指輪(改)』、俺は最後の希望としてこれらのアイテムを使用することにした。

そして俺はすぐさまその効果を発揮するべく動き出そうとしたのだが、その時には既に俺は地面に横倒しになっており、全身の至る所に鋭い痛みが走り始めていたのである。

(いったぁ、マジでこれ痛すぎるんですが。てか俺ってどうやって負けたんだ? 全然わからんのですが! どうしたらいいのよ! ってかどうなるの? 俺は一体どうなってしまうの?)

俺はその瞬間から死という現実に怯え始めることになる。

そんな時である、俺は不思議な現象に遭遇した。それは急に俺を襲っていた激痛が引いていき、同時に目の前の男も苦痛に顔を歪ませ、苦しそうに胸を押さえ始めたのだ。俺はそれを好機と捉えて男に体当たりすると距離を取ることに成功した。

男は苦悶の表情を浮かべながらも、すぐに立ち上がり剣を構え直しこちらを警戒して見据える態勢を取った。俺はその男の様子が明らかに変化したことに驚きを隠せなかった。なぜなら俺が『肉体強化薬 LV2 』、『魔力増幅の杖LV6 』を使った後に使った全ての薬の効果が消失したような気がしたからだ。もちろん『鑑定の魔眼 』を使い自分の状態を確認できるような時間はない。でも間違いなく何かが起こったと確信したのである。

(この男がなぜ苦しそうにしているのか、その理由がわからない。もしかしたらさっきの俺の行動が影響したのか。俺の攻撃が原因だと考えれば合点がいく。しかしそれならばあの一瞬にいったい何が起きたと言うんだ。俺にはそれが分からなければこの勝負に勝ち目がないことを悟り焦りを覚えたのであった)

そして俺はこの事態を引き起こした原因を突き止めるべく再び行動に移すことにする。

俺は『気配探知 』を使って敵の様子を伺いながら森の中へと移動する。そして『聴覚強化のイヤリング』に付与されている【音響遮断】の効果を発動させることで、俺の声が外に漏れないよう処置を施した。これで万が一に誰かに見つかってしまっても声さえ上げなければ俺の存在が露呈することだけは避けられるはずだ。俺はそこで改めて『視力補正のアイウェア 』を装着する。

そして俺は先ほどまでよりも注意深く周りを観察しつつ行動を開始するのだった。

(えぇーっと、ゴブちんがいた辺りでゴブちんと戦っているオーガを探せばいいのかな?)

俺はとりあえずゴブちんと戦っていると思われるゴブちんよりも上位個体の存在にターゲットを定めて、ゴブちんと戦えるくらいの強さを持ったモンスターがいないかを確認して回ることにした。

(ふむ、いないな。ということはやはり俺とゴブちん以外の転生者がすでにここにいて、それが何らかの理由で死んでしまったのか、もしくはオーガとの戦闘に巻き込まれている最中に逃げ出してきたのだろうか。まあどっちにしても、ここで戦っていないってことは、他の場所に移動した可能性が高いわけだし。今はとにかくその痕跡を見つけて追っていくしかないよね)

それからしばらく探索しているうちに、俺は複数の反応を感じ取ることに成功していた。

俺はすぐにそちらに駆け出す。

だが、そこには想像だにしていなかったものが存在していたのだ。

なんとその場所に残されていたのは、ゴブちんが装備していた防具の破片だけだったからである。

俺は思わず目を見開きながらその場にへたり込んでしまう。そんな俺の前には1匹のゴブリンが現れた。

俺はゴブリンと目があった途端、体が震え出してしまって動けなくなっていた。

ゴブリンはその醜悪な面貌をさらに酷く変化させ、口の端を持ち上げながら下卑た笑みを見せていたのだから。そんな表情を見せつけられては俺の心拍数が急上昇していくのは必然というものだろう。

(やばぃやばいやばい、これは本気でやばすぎる。俺、このまま殺されてしまうかも。だって、もう無理でしょこれ)

「キキャキャキャ」

そんなゴブリンの鳴き声を聞いている内に、なぜか恐怖が少しずつ収まってくるのを感じた。そして不思議にも体の震えまでも完全に止まってしまったのである。そして俺は無意識のうちに拳を握りしめてゴブリンに向けて殴りかかってしまった。

(あっれ〜、何で俺こんなことしちゃってんの? 普通に考えなくてもヤバイだろ! こんなところで戦闘開始とか、マジでないわ!)

そんな風に思っている間にもゴブリンは容赦なく攻撃を仕掛けてきていた。

俺が振り下ろす右手に目掛けて繰り出された左拳が俺の顔面に直撃する。その勢いのまま吹き飛ばされてしまった俺は大木に衝突していた。俺はあまりの衝撃により口から大量の血液を流してしまっていたのだ。

そしてそのまま意識を失ってしまうのだった。

俺が目を覚ます頃には夜になっていた。

だがまだ視界はぼやけていてよく見えない。

俺は自分の体を確認すると、傷が塞がっており服だけがボロ布になって地面に転がっていたのが分かった。

(マジでやばすぎるだろ。てかマジでなんであんな状況になってたんだ? それに何で俺のステータスが上がってんだよ! あれ? なんか視界がクリアになったぞ。俺って結構丈夫だったんだな。ってかステータス上がりすぎじゃね? マジでどんだけだよ)

俺は自分の身体に起きている異変について考えてみたのだが、結論が出るまでにはかなりの時間を要したのである。

「ギャッ」俺が自分の身体の具合を確かめている時に、ゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。どうやら何者かとゴブリンが戦ってるらしい。

(誰かが俺の他にもゴブリンと戦ってるのか、それともこのゴブリンはそいつから逃げたのか、どっちなのか判断に苦しむところではある。もし俺がそいつと出会えたなら情報を聞き出せるかもしれないし、まずは状況を把握するところから始めていこう)

俺はゆっくりと立ち上がると歩き出した。

「ぐぁっ」

俺は森の木々の陰に隠れて、今まさに俺の同胞たちを殺さんとする襲撃者を見つめていた。その襲撃者は全身を覆うようなマントで身を包み、頭巾を被った怪しげな人物であり、俺の目の前では既に5匹のゴブリンたちが殺されていたのである。

俺の周囲には俺以外に誰も存在していない。だからこそ、その光景を目の当たりにして足がすくみ始めていた。

(どうなってんだよ。何なんだよあれ、どう見てもゴブちんを殺した奴がゴブリンたちを殺し回っているようにしか見えねえじゃん。何でそんなことが起こっているんだよ! あれがこの世界では普通の日常だとでも言うのかよ。マジでありえねぇっての。てかそもそもあれって人間なのか?)

俺は襲撃者の容姿を見て違和感を感じていた。それは頭部が人の形をしているものの顔立ちが明らかに人間のそれとは違っていたのである。まるで豚と人を合成したかのような、そんな不気味さをその人物からは感じることができた。

俺はゴクリと息を飲むと、木に背中を預けてその場をやり過ごそうとしたのだが——そのタイミングだった。背後に誰かの気配を感知したのは。

俺の心臓は激しく高鳴り始める。その音が周囲にも響き渡るのではないかというほど大きく感じられたほどに——しかし、次の瞬間、俺の予想に反して俺の耳には小さな女の子の声が届いたのであった。その瞬間、俺の中で緊張が解れると同時に全身から汗が噴出し始めた。俺はすぐさま視線を移動させると、そこに映っていたものは地面に座り込んでいる少女の姿。その姿は俺の目に飛び込んできたのであった。(マジか、マジで意味がわかんねぇんだけど。あれ? この子がこの場にいたってことは、俺、もしかして助かったんじゃね? そういやその子、ゴブちんから俺を守ってくれたってことだもんな。いやまてよ? そのお礼に俺は殺されるってこともありえるって話じゃないの? ああ、だめ、やっぱり死ぬなんて嫌すぎる。俺にはやるべきことがあるってのに、まだ俺は何もできてないんだって! どうすればいい、どうすればいいんだ)

俺はその場で悩み続けることしかできず、どう行動するべきか思いつかないでいると、その少女が立ち上がり俺に近寄ってきたのである。

(ちょ、ちょっと待ってくれ。お願いだから俺を助けてくれ。このまま放置されるくらいならいっそこの場で殺された方がマシなんだが)

俺は心の底から叫びたい気持ちになりつつも何とかそれを押し殺していた。そして近づいてくる彼女を前に、必死に打開策を考えていたのだった。すると彼女の動きが突然止まり、その場にしゃがみ込むと地面を指差して何かを話し始めた。俺はそれに合わせて同じ方向を見ると何かが光り輝いているように見える。

(何かがあるのか。まさか俺へのメッセージなのか。俺の気を引くためにワザとそういう行動を取っているのかもしれないな。よし。乗ってやる! 俺は何としても生きて帰るんだ。ここで俺が死ねばあの子の身に危険が迫る可能性もあるんだ。それだけは絶対にダメだ。ならば俺はこの子に賭けてみる。いやまだ確証がない。俺の命を賭けただけのリターンが見込めなければ俺はただのバカ野郎だ。ならばリスクを負わない選択もあるはず。俺に何ができる。俺は俺のできることは何だ? そうだ! とりあえずはこの子と一緒に行動することか。そうすりゃきっと何かが変わるはずだ! 俺は生きる。必ず生き延びてこの子を無事に町まで送り届ける。俺にできることを全部試してから死んだ方がいいに決まってる)

俺はそう考えると、彼女に対して声をかけてみることにした。

俺は『視覚強化のアイウェア』を外して彼女と視線を合わせると、言葉に出して話しかける。「大丈夫?」と。彼女は驚いた表情を見せてすぐにコクりと首を縦に振る。

(よかった、俺の言葉は通じたみたいだな。でもこれで終わりではないはずだ。これから先のためにもこのチャンスを活かさないとな。さあ、こい! 俺の持てる力を使って見せろ)

そして再び地面に目を向ける。

「君が助けてくれたのかな? ありがとう。本当に感謝している。俺はユウキ。君は誰だい? どうしてゴブちんと戦ってたの? というか俺のスキルってどうやって使うの? 俺、全然分からないんだよね。もし知ってたら教えてほしい。もちろん、できる範囲で構わないし見返りが欲しいとかそういったことは考えていない。本当だよ。だって、俺みたいな見知らぬ人間をここまで優しくしてくれたんだから、そんなこと要求できないだろ?)

俺は笑顔を浮かべつつ問いかけた。すると彼女がコクリと一度うなずいて答えてくれたのだ。その瞳には強い意志を感じ取ることができた。

どうやら俺はうまくやれそうな予感がしてきたのだった。

それからは、俺が一方的に彼女に語りかけ続けたのだ。

そしてある程度の情報を引き出すことに成功した。

その情報とはこの少女の名前、歳、出身地など。あとはその服装が特徴的だったことだろうか。

まず年齢については、まだ成人前ということで、やはりこの世界でも15歳のようだ。

髪色は茶色っぽい黒。肌の色が真っ白であることを除けば特にこれといった身体的特徴は見受けられないようだった。

それからこの子は俺と同じで、異世界からの転生者だということが分かってホッとしているところ。

「ねえ、名前だけでも聞かせてもらってもいいかい? 俺はユウキって名なんだ。よろしくね」

「あっ、うん、私の名前はアリア。それで私に何が聞きたかったの? でも、ゴブリンを倒した時のように質問された時にはもうすでに終わってたんだと思う。私がやったのってただ単に武器を地面に突き刺しただけ」

俺の話を聞き終えると彼女は静かに語り出した。

俺が考えていた通りのことを言ってくれる辺りはありがたいのだが、問題はその内容なのだ。

その武器を地面に差し込んだだけで、なぜあんな風に大騒ぎになるのか全く分からなかったからである。俺はそこで「んー」っと悩んでしまったわけで。

「ゴブリンが倒されたのは、まあいいとしよう。だが、その後の光が問題だよな。あれって一体なんだったんだろうなぁ」

そんなことを呟きながら顎に手を当てていた。

「あれは魔法の詠唱が終わった時に起こる現象のようだったと思う。魔法陣が展開されるのと同じようなものだった。私は初めて見たけど凄い光だった。あれがこの世界で言う攻撃系魔法の初撃なのかもしれない。そして、この世界にはゴブリン程度を相手にするにもそれなりの手段が必要なほど、弱い魔物ばかりという可能性があるかも。私の故郷だと、あれがゴブリン程度の強さなら楽勝」

そんなことを言う。その言葉を信用するのであれば俺が遭遇したゴブリンの強さは俺が知っている世界における最弱クラスのモンスターに相当するってことになるだろう。しかもレベル1のゴブリンを相手するのにも一苦労を強いられるような環境ということらしい。

(マジかよ、てか普通に考えて俺のステータスって相当高くないか?)

自分の置かれている立場を理解してしまったことで俺の心の中には焦燥感が広がっていったのである。そして同時に疑問も生まれたのだ。それはステータスの補正値のことだった。俺はこの世界にやってきてから今までずっと不思議に思っていたことがあったのである。それはゴブちん相手に放った一撃によってゴブリンたちの傷の治り具合が早かったことについてだ。あれは単に身体強化系の能力を持っていたことによる恩恵なのではないかと考えていたのだけれど、その前提が崩れてしまったのである。その理由としては俺のレベルが低いからだと考えられたからであり——しかし、この世界のゴブちんと比較すればかなり強めの能力を有するゴブリンたちを一撃で倒せてしまう時点で俺の強化値は規格外だと理解できてしまっていた。

だからこそ思う、こんな状態で生き抜ける可能性はかなり低いだろうと。

それでも俺は生き残ることを考えなくてはならない、なぜならば今まさに命の危機に直面していたはずの少女——アリアを助けたいと思ったからこそ今の状況が存在するのだから。だからといって何か具体的な解決策が見えているわけではないんだけどね。

そんな風に考えている間に俺の意識は徐々に遠くなっていき——目の前が暗転してしまった。

「んぅ〜ん、あれ? 俺は確か——あ、そうだ、そういえばゴブちんが倒れた後、気絶したんだよな。そして夢を見てたってわけか」

どうやら俺は森の中で眠りこけてしまっていたようで——目を覚ますと同時に体を起こし周囲を確認することにしたのだった。そして気が付いたことが2つほどあったんだ。そのひとつは、どうやら俺は寝る直前まで会話をしていたと思われる少女と肩を寄せ合って地面に横たわっていたということだ。俺は咄嵯に彼女から距離を取ろうとするが思うように体が動かずに結局はそのまま固まったままになってしまったんだけどね。しかし彼女の方からは一切動きを見せることなく熟睡中のようである。

(まさかとは思うんだけどね、もしかして俺のこと心配してくれてたんじゃないだろうね? そうだとしたらすっごく嬉しいんだけどね! でも俺ってさっき会ったばかりの女の子の膝枕で眠ってたんだろうか? マジかよ。なんか申し訳ない気分になってきたんですけど)

心の中で謝罪の言葉を述べながらも俺はまだ完全に起き上がることができていなかったのである。それもこれも極度の筋肉痛のせいであるのだが、これは当然のことでもあるのだ。というのも戦闘訓練というものをまともに受けてこなかったから。その弊害として俺は運動不足になり、さらには慢性的な運動音痴となってしまった結果、今では体力は並以下、筋力に関しては皆無といっても過言ではないくらいの身体能力しかない。そのため普段ならば問題のない体勢であっても今は激痛で苦しむハメになっていたのだ。

(ヤバいな、全身の骨が折れたか砕けたんじゃないかってくらいの痛みだ。それに、なんだこの感覚。視界までボヤけてきちゃったぞ。てか俺の服ってさ、汚れまくりで酷いもんじゃないのか? てかさっきのは夢じゃなくて実際に起こってたことなのか?)

そんな風に思考がグルグル回ってしまって何も考えがまとまらなかったのだ。それに加えてこの子、アリアの柔らかそうな太ももの上というのが更にマズいことに——俺は男なのに情けない話ではあるがこの子に欲情しそうになってる自分がいる。

そう考えた瞬間に恥ずかしさが一気に押し寄せてきたのだ。

すると俺は耐え切れなくなり慌てて立ち上がりその場から離れることにする。そして彼女に「ごめん、ありがとう」とだけ声をかけるとすぐに移動を開始した。

(やばいやばい、このままここにいたら俺は何するか分からない)

そんな気持ちに支配されてしまいそうな自分をなんとか抑え込むことに成功したのだ。ただ、それだけの労力を使ったことで俺はさらに消耗することとなってしまい、もはや一歩踏み出すことすらままならないほどの状態にまで陥ってしまったのだった。

(どうすっかねぇ。さすがにこの状況で町まで歩くのは無謀すぎるだろ。そもそも町までの道を知らないしさ。でも、ここでこうしているのが最善とは思えないわけだよね。まぁ、他に何かできることもないんだけど。ああ、もうダメだ。頭が働かなくなっちゃった。でもさ、本当に困った時はこの子を頼ればいいよね。だって俺はこの子のお兄ちゃんになるわけなんだから)

そんな風に考えて少しだけホッとするのだった。そしていつの間にかまぶたが重くなり、そのまま眠りに落ちて行ったのであった。

**

***

俺は、目が覚めるとそこには見覚えのある顔があった。そう、あの時の少年、アリアの兄だという人物に違いなかった。俺は、彼が俺の名前を知っていたこと、俺を救ってくれたアリアと瓜二つの外見をしていることもあって彼への好感度は急上昇し始めていた。そのせいだろうか、俺は彼とアリアに対してかなりの警戒心を抱き、同時に恐怖していた。そんなわけでつい「助けてくれ!」と叫んでしまったのである。

俺の発言を受けてアリアのお兄さんらしき人が口を開いた。

「ユウキ殿とやらよ。まずはこの窮地を脱するために力を貸すことを約束しようではないか。それと貴殿が所持する剣についてなのであるが、それは我が妹のアリアが持つ聖剣エクスカリバーとよく似ている気がしてな。いや、確かによく見れば同じ材質で作られているように見える」

そんなことを言って来た。俺はそんなことを言われても困るのだけど。なんせこの世界に来る直前に手渡されただけの品なのだから。そんな説明をしたとしても意味不明なのは分かっているから口にする気はない。

そんな感じで俺の意識はまたも途切れることになるのだった。

(ふぇ? あ、俺、死んだのかな? ん? でもおかしいよな、どうして目の前に例の少女の顔がドアップになっているんだろう? え? てかどういう状況?)

俺は目を開けてみると少女が目の前にいるのに気がついたのである。しかも何故か俺はその腕の中に包まれているような状態で——俺にはその意味が分からず困惑してしまったのだ。だから「うひゃー」っと叫び声をあげてしまったわけである。しかし、それは大きな間違いであったことが直ぐに判明してしまうのだった。

「ユウキ、よかった。生きててくれたんだね」

そう言って涙を流しながら抱きついてくるのは——アリアその人だったのである。

「ちょ、ちょっと待って。なんで泣いてんのさ?」

「私ね、怖かったんだ。突然倒れて全然動かないから。それで、それで死んじゃったと思って——だから凄く不安だったんだよ。良かった、本当に無事で。私のことを嫌いになってもいいから。でもこれだけは何度だって言わせて。私が好きなのは貴方だけだから。お願いだから、絶対に私より先に逝かないでね」

俺にはアリアが何を言っているのかは良く理解できなかったが——とにかく凄いことを言っているのだけは分かった。そして俺はアリアの想いに応えたいと思い抱きしめ返したのだ。すると彼女は驚きのあまり目を見開き俺のことを離そうとしなかった。そして暫く経って落ち着いたところで俺たちは改めて互いの名前を名乗ることにしたのである。そして、これからのことについての話をするのであった。

(そういえば、俺はどれくらいの間、気を失ってたんだ? あれは、ゴブちんの討伐を終えた直後だったはずなんだよな。ということは1時間弱くらいは気絶していたということなるのだろうか? それはマズいな。この世界で1人になってしまった俺は自力でどうにかしなければならないんだよな。となるとアリアに頼ることはできないわけで、この場を切り抜けるために行動する必要があるんだけど、俺が持ってる能力って、ゴブちんに使ったスキルしかないんだけど大丈夫だろうか?)

俺はそんな風に考えていたのだ。俺の現状を把握しようと周囲に視線を向けたことで視界に飛び込んできたのである。

そう、俺と彼女が寝転んでいるのはどうやら木の枝の上であり——どうやらこの世界の植物も地球にあるものと同じ形をしているようであると確認ができたのである。だから俺はそれを確かめようとしたのだったが、それよりも先にやるべきことがあったためそちらを優先させることにしたのである。俺は、俺の体に纏わり付いている彼女の手をどかすようにしつつ立ち上がった。そして周囲をぐるりと見渡してみた。

(森だ、それも結構深く暗い感じのね。でも俺のいる位置から見える範囲では危険生物の存在は認められない。これは良いことなのか? それとも悪いことなのか? よし、とりあえず俺はどうしたらいい? ってなことを考えていた時だ。俺はあることに気付いたのだった。そしてその疑問を解消するためにも俺の腕にしがみつくようにして寝ていた彼女を地面に下ろしたのだ。すると俺にしがみついていた力が抜けてしまい「あうぅ〜」と可愛らしい声をあげてその場に座り込んでしまうのだった。そして恨めしそうな顔を向けて睨んで来るのだが俺はそれを無視して周囲の観察を続けることにする。そして俺はある事実に気付いてしまっていたのであった。そう、俺の着ている服装が泥まみれになり、さらに汚れまくっていたというのだ。俺はこの服ってかなり高価そうな物だと勝手に思い込んでいたから——アリアとの約束で彼女のお下がりというか、その服を借りるというか貰うというか——とにかく借りパクした格好をしていたんだけどさ、それでもこれじゃ汚すぎでしょって思ってさ、俺はその服を綺麗にしようと思ったのよ。

だってさ、なんか俺の想像を超えるほどの高価な代物のような気がするんだよね。だってほらさ、あの有名なアニメの主人公が来てるみたいな服を着ちゃってるような状態なんですよ。いや、ほんとこんなボロっちいものを新品みたいにして返すわけにはいかないじゃん! という気持ちが強くなってさ。まぁそれだけのことですよはい!)

そんな言い訳を頭の中で並べ立てた後で俺は早速【クリーニング】を使ってこの洋服が汚れきっている状況を何とかしようとしたのだ。

そんな作業をしていると彼女が起き上がり興味津々といった様子で再び近づいて来たのだ。ただ今回は特に何を聞くこともせずじっとしているだけだった。

(どうしたものかね。俺は別に聞かれてもいいんだけどさ、まだ何も答えられるほど自分の状況を理解していないし、この子が信用できるかどうかの判断ができないから迂闊に情報を与えたくないんだよね。それにこの子も妹さんと同じく俺のことを心配してくれてるだけなわけだろうし——いかんいかん、俺のこの性格のせいでアリアが危険な目にあってしまったじゃないか。よし、それなら俺はもう考えを改めよう。そうしないとこの子のためにもなるわけだし)

そう思った瞬間に「ユウキ、服が」と言われてハッとしたのだ。

そうなのだ、俺は今【魔法:水(中級)】で作り出した大量の水を俺の全身に掛けて洗おうとしていたのである。だからその水が跳ねて彼女に降りかかっていたのだ。俺はそんなことに気付かずに作業に没頭してしまい「キャー!」と叫ぶ彼女とバッチリ目が合ってしまったのだった。俺は咄嵯に彼女に駆け寄り謝ろうとしたのだけれど、そこでまた「ユウキ、ごめんなさい。私が悪いの」と言ってきたのだ。だから俺は思わず聞き返していた。

すると、俺はどうやら無意識のうちに土や砂に汚れてしまっていた部分を中心に洗い続けていたらしく、それを全て落としてしまうまでは止まらないということを説明されたのだった。俺はそんなことになってるなんて夢中になってる最中には知るわけないよね? だってさ、汚れを落とすために必死になっていたわけですから。

俺は申し訳なく思いながら素直にそのことを話すことにするのだった。すると彼女は微笑むのである。そして、俺に何か手伝えることはないか聞いて来た。俺は少し悩んだ結果、服を脱いで欲しいということを伝えたのである。すると彼女は少しだけ躊躇した後「分かった」と言うのであった。そして俺はその間に周囲を観察することにしたのだ。

(俺が倒れていた場所は木々が少し開けた場所だったんだね。しかも地面は草が生えるというよりも石畳みのように固められているんだね。だから、この木の上に登っていればモンスターが襲ってきてもその攻撃を回避しやすいかもしれない。だけどさ、俺が意識を失っていたのってそんな短時間だったんだな。って思うくらいで大して疲れてないとか、どう考えてもこの体ヤバいだろ。でもアリアのお兄さんが俺を殺さずに拘束に留めた理由がこれで分かるな)

そんなことを思いながら周囲を観察し続ける。しかし、特に変わったところはなく、俺は改めて今の俺の状況を考えてしまったのである。

(この森で遭難してしまったのか。それともあのゴブちんたちに追い掛けられてここに逃げ込んだだけなのだろうか?

分からないな。あのゴブちんたちを俺の【固有スキル:解析者】の能力で分析してみればいいんじゃないかな? そしたら俺が置かれている現状についても詳しく理解できるかも。うん、試す価値はあるね)

そんなことを考えながら俺は目の前の少女に目を向けるのだった。

すると俺の目の前にいる少女の外見的な特徴として、俺が持っている知識に照らすとアリアの髪の色である金髪碧眼な上に顔も日本人にはあり得ないレベルで整った作りをしているわけだ。

そのことから俺がアリアと会った時に感じたことも間違ってはいなかったということになる。しかし、今はアリアの兄が言うように彼女がこの国の住人であるかどうかは判断できないのだ。俺の知っている常識とは異なる世界に来てしまってるためである。そのため俺は【鑑定】を発動させてみることにしたのであった。しかし、残念ながらその結果については、

名称 : 種族名

『人』

性別 女 年齢 13歳 身長 142cm 体重

34.5kg BWH 70/52/71 職業 村娘LV7 体力 60/100 魔力 50/250 力100

(10+30)

俊敏性 101

(11-101)

知力 1 耐性 2

(3-6-2)

運 5 獲得経験値 4400 / 6000 所持スキル

『生活系』、『武術系』、剣術LV8、格闘術LV6、槍術LV4、斧術LV1、弓術LV5、杖術LV4、短剣術LV9、棒術LV1 特殊スキル

『鑑定士』『無詠唱発動』『全言語翻訳』『ステータス共有化

対象:1人の人物に限る

有効範囲:15メートル以内

使用条件:対象者とキスをする 』

「あれ? なんか俺のステータスが凄いことになってない?」

そう口に出して驚いた俺の声を聞いたアリアは不思議そうな顔を向けてきたのだ。なので俺は彼女の目を真っ直ぐ見つめて口を開いたのだった。「君は俺と——アリアの妹だよな?」

その言葉を聞いた彼女の動きが一瞬止まったのだ。そして暫く経ってからの反応としては首を横に振って違うと答えたのだ。だから俺はすぐにその可能性を否定することになるのである。そしてその根拠を説明するように俺の【称号】と彼女の現在の状況を事細かに確認したのだ。その結果から俺の考えが正しいと確信した俺は改めて彼女に質問したのであった。

その話の内容は先ほど確認した彼女の【固有スキル】である。その詳細を確認すると俺の予想通り【固有スキル】に『解析者

効果:スキルの効果を知ることができます

使用条件:対象と唇を合わせてから24時間後

消費ポイント:2000P

獲得スキルレベル:1』というものが存在したのだ。だから俺はこのスキルを持っているから君が俺の妹だという確信を持ったのだ。

そう言ったのだが彼女からの返答は否定するものばかりだった。俺にはどうしてそこまで頑なな姿勢を取るのかが分からず困惑することになってしまったのである。すると「ユウキが私の兄なら私が【魔法:水(初級)」を使うところを見ればそれが分かったと思う。それに私は兄じゃないから。もう行く」と言って彼女は立ち上がり、この場所を後にしようとした。しかし俺はそんな彼女を行かせる気はなかったため咄嵯に抱き止めて引き止めたのだ。「ユウキ放しっ!」という抗議をされたが無視することに決めた俺は再度問いかける。今度は彼女が俺に隠したいと思っていることを聞いてみることにする。それはアリアとの関係であった。しかし、「アリアとどういう関係なの?」とは聞いていないのに彼女は「私はただの通りすがりの村人です」と答えてしまうのであった。俺もそう言われただけではどう反応すればいいのかさっぱりで、どうしたものかと悩んでいたら突然彼女は泣き始めてしまったのである。これには俺がかなり困ってしまい焦ったのであった。

そうこうしているうちに【魔法:火(初級)】を使って焚き火の灯を強くすることでその場を照らしていたアリアが現れたのである。そして俺と視線が合ったことでこちらに向かって歩いてきたのだ。

(あ、そういえばこの場から離れるように言ってなかったわ! やっちまったぁ。ってかなんで泣いているんだ? まさか俺が悪いのか?)

俺はアリアに何て言おうか迷っていた。しかし彼女は俺の側に来るとしゃがみ込んで目線の高さを合わせると俺のことを睨んできたのである。

(えぇー。なんで怒ってるんですかね? そんなこと言われても俺にはどうすることもできないんですけど。アリアさんに嫌われちゃうなんて絶対に無理なんだけど。って、ちょっと待てよ。アリアは怒るとこんな風になる子だったの? そんな記憶は全く残って無いんだけれど。そもそも俺の記憶は俺が覚えていないだけで全て失われているわけなのか。それともこの世界に転移してきたときにリセットされたから全く別物として存在しているだけか。まぁ、今考えるようなことでも無いか。それよりもこの子に事情を説明した方がいいよね。このままではアリアと険悪な雰囲気になりそうだし。俺の気持ちがバレているなら話は早そうだ)

「ユウキ」と声を掛けられた俺が「なに、アリア」と言うと彼女は何故か俺のことを見つめたまま黙ってしまった。そして少し時間が経った頃に俺がアリアの顔を見ると彼女は笑顔を浮かべたのである。その顔を見た俺は少しの間呆けてしまったのだ。何故なら普段の可愛らしい笑みではなくて大人の女性が見せてくれる色っぽい笑みだったからである。俺はそれを目にしたときに背筋がゾクッとした感覚を覚えてしまったのだ。

それからアリアはすぐにいつもの子供らしさを取り戻したのだ。俺がアリアのことを見ていると「な、なに、ユウキ。私何か付いてるかしら?」と言ってくる。俺はそれに対して首を振るのだった。

そんなやり取りがあったので俺は早速この二人について聞こうとしたのだ。しかし俺がその話をする前に二人は立ち上がってどこかに行こうとしていたのである。俺は咄嵯に呼び止める。すると彼女達が立ち止まってくれた。俺は「どこに、向かおうとしているの?」という言葉から切り出すことにしたのである。

するとアリアが俺の言葉に反応した。「私達は冒険者です」と。続けて俺は「そっか。でもね。君達の装備を見る限りだと駆け出しのように思えるんだよ。その歳で冒険者になったのかい?」と聞くとアリアが「はい。でもこの森には初めて入ったのでまだ初心者なのです」と答える。俺はそんなことを言っている場合じゃないだろうと思ったのである。しかし、それについては特に追求せずに話題を変えることにした。

そして、この二人がどんな理由でここに来たのかを聞くことにする。すると俺に対して「あなたもですか?」と言う。どうも彼女も同じように俺と同じで迷いの森と呼ばれる森の奥深くにいたのが分かった。しかしその理由については教えてくれなかったのだ。

しかし俺は二人の会話を聞いていたのと自分の能力で【スキル:鑑定】を使ったおかげで彼女たちの現状が分かってしまったため俺だけが知っていた。だから敢えて【解析者】のことを伝えることはなかったのだった。そして俺自身の状況も話すかどうか悩んだ結果伝えないことに決めたのである。その結果、【解析者】のレベルを上げればもっと詳しく情報を知ることができる可能性があることだけを二人に伝えることにして、後は適当に誤魔化したのだ。

(とりあえず俺はゴブちんたちに襲われたから逃げるためにここに隠れたということにした)

ただその際に疑問が生じた。あの時ゴブちんたちは俺に襲い掛かろうとしていたはずであるからだ。しかし目の前にいるこの少女に襲いかかることは一切しなかったのだ。

そのためこの二人がゴブちんたちにとって大切な存在であることが窺えたのである。そこで俺は二人に聞いてみたのだが「ゴブリンは私達を襲わなかった。理由はわからない。多分だけどゴブりんたちに守られているんじゃないかってお姉ちゃんが言う」と俺に告げてきたのだ。そして、その言葉を肯定するように、そのあとに言葉を続ける。

俺と彼女がその話をしてからしばらくしてのことだった。ふと気づくと周りが真っ暗になっていたのである。しかし焚き火の光のおかげで視界が悪くなるということはなかったが急に辺りが静かになった気がしたのだ。その瞬間から俺は嫌な予感を感じていた。だからそのことについて尋ねるとやはり彼女も同じことを考えていて、「お姉ちゃん!」と大声を出すと急いで俺の手を引いてその場を離れようとしたのだ。俺はいきなりの行動に驚いて彼女の方を振り向いてしまった。その行動をしてしまったが為に、それが仇となってしまったのである。俺の背後にはいつの間にか移動して来たゴブちんの姿が存在したのだ。俺は慌てて振り返り剣を構えようとしたが間に合わないと判断する。するとアリアが「【魔法:火(初級)】」と言い放った。しかしその攻撃はゴブちんに効いておらず俺に迫ってきていたのだ。そして次の瞬間には背中に衝撃を感じてしまい吹き飛ばされるのであった。

俺を吹き飛ばしたのはゴブチンの攻撃ではなかった。俺の後ろにいたアリアは、【魔法:水(初級)】を使って炎で焼かれる寸前に水を出しながら飛び退いたのだ。そうでなければ彼女は間違いなく俺と同様に攻撃を受けていたことだろう。しかし、彼女の魔法で俺が受けるはずだった一撃を軽減させたことで俺はなんとか無事であったのだ。

俺は起き上がるとすぐに体勢を整えて剣を構えたのだった。そしてアリアと視線を合わせてからお互いの無事を確認してホッとするのであった。そのタイミングを狙って俺を仕留めようとしていたのであろう。ゴブちんが斧を手にしながら俺の方に走ってきているところだった。

だがそれを許してしまうほど俺は馬鹿ではない。既に魔法の準備をしていたのだ。そして俺に接近するまでの時間を考えると俺が詠唱を終わらせるのと奴が魔法を発動させる前にこちらの方が早いと予測した俺はそのまま魔法を放ったのである。そしてそれは見事に当たり爆発するのだった。

俺とアリアはお互いに目を見合わせるとうなずいて同時に駆け出した。そうして俺は先ほどの魔法が当たった方向に向けて駆け抜けて行ったのであった。

対象:1人の人物に限る

有効範囲:15メートル以内

使用条件:対象者とキスをする 』

すると俺が手に持っていた本に文字が浮かび上がったのである。これは先程まで【固有魔法:無(中級)】の本を試していたところだった。俺はその魔法が本当に魔法書なのか確かめるために魔法を試し撃ちしてみることを決めたのだ。それで発動できたから今まさに実践しようと思い立ち上がったという訳である。しかし問題が起こった。

俺は【アイテムボックス】から武器を取り出した時にミスをしたことに気づいていなかった。気付いたのは立ち上がり武器を手にしたところでである。俺は右手に長めの棒を持ち左手には鞘を持っていた。そう、この二つは本来であれば同じものであるはずだが見た目が全く異なっていたのである。それは【アイテム収納(中)】の効果により中身が違うせいだと思われるが俺が確認している時にはどちらも一緒のものであったのだ。

(やばいな。これじゃあ【アイテムボックス】の中に別のものを入れられるということが証明されてしまうじゃないか)

俺は焦っていたのだ。なぜならばこの能力はチートであり反則なのだと自覚しているからである。なのでもし知られてしまうと色々と面倒ごとが起きる可能性が高いと警戒していたのである。そう思ったので、【スキル隠蔽】を使って俺の持つ能力について他人に知られるわけにもいかないため隠さなければいけなくなったのである。

そこで俺はまずこの能力を【鑑定眼:極小級】の『詳細化』『偽装表示』『非開示指定』『限定解除許可登録済一覧閲覧権限取得』『詳細画面内表示設定変更可能』・『スキルレベル上限開放機能追加申請受付不可承認拒否可』を使用して一時的に見えなくすることにした。

(とりあえずこれで俺の能力が漏れることは無いと思う。しかしこのままだと不自然だよなぁ。何かいい手はないものかなぁ。あ! そうだ、俺も自分の能力を見られたくないなら相手に見てもらえないようにすればいいんだ)

そう考えた俺はある方法を閃いたのである。そして早速、実行に移して見る。俺は【魔力探知】の要領で自分の体の中にある全ての力を周囲に分散させていったのだ。そしてそれを自分の目で見つめて行き力場を作っていったのである。それを全身くま無く行っていき完了である。

俺は【アイテムボックス】を確認するとそこに今までなかったはずの項目が追加されておりそこには新たに《称号》が表示されていたのである。

【称号:世界の秘密に触れた者】

:世界の真実の一部を知ることができる

「はい?」

俺は予想外の結果に呆気に取られてしまった。まさかこんな簡単に能力が増えてくれるとは思ってなかったからである。しかし実際に俺の【ステータス】に変化が訪れていた。


***

名称:ユウキ=ウレイド(異世界からの転生者)

性別:男性

年齢:16歳

種族:人間種

職業:【ユニークジョブ:魔道士(中級)】【エクストラ:剣士】

状態:良好

体力:50/50(100)

攻撃力:75(120)

防御力:80(130170)

魔攻力:60(90)

魔防力:60(110150)

速度性能:255(240300)

運勢:50

【耐性系:全属性耐性(中)、物理無効、毒無効化、精神支配完全抵抗】

特殊技能

【スキル創造:超絶才能領域(中級)】【アイテム収納(大)】【スキル共有(初級)】

【魔法融合】【自動書記】【言語理解】【スキル鑑定II】

【解析者III】【転移魔法I】【空間魔法】【時空間魔法】

【無(初級)】【魔法付与(下級)】

固有魔法

『万象の目録』〈検索魔法〉

オリジナル魔法 《時戻りの魔法》 【魔法複製:同系統の魔法のストックが3つまでできる】

魔法リスト

『時間停止』、『加速』、『時戻し』、『回復』、『蘇生』、『復元』

魔法名 概要 時間 停止 全てを止めた状態で動くことができる 〇 加速 通常時の10倍の動きができる 一分あたり10秒間 〇 時戻り 時間の巻き戻しが可能になる 三日前まで ○ 回復 体力を回復する、傷も治す 病気も直せる ただし欠損部位は戻せない 一秒あたり1000HP消費、1秒ごとにMPを5000使う ○ 蘇生 死者を復活させる、死体が必要、死んだ直後でなくてはならない 死亡時刻から2分間以内でなくてはならない 一度の使用につき1人のみ、死からの復活はできない 1日に4回までしか使えない ○○ 復元 死んだものをそのまま元通りにする 死亡時刻から48時間以内に使用できなければならない 復活ではなく元に戻るため完全に死んでしまった場合意味がない ○ 時戻し 過去の時間をやり直す、過去に起きた出来事を改変することも可能 記憶持ち越し不可能、過去へ干渉できない ○ 魔法コピー 対象が使ったことのある魔法を使用できる 使用者のレベルによって制限がかかる 自分よりもレベルの低い魔法はコピーできず使用できない、また同じ魔法は同時に使用することができない魔法名は対象が魔法を使用した際の呪文の最初をカタカナで表記する

『炎槍』炎で作られた巨大な槍を飛ばす レベルが低ければ低いほど威力が高い『炎嵐』炎によって作られた竜巻を起こす 炎と風の複合技、攻撃と防御を兼ね備えた優秀な魔法である『氷弾』冷気を固めた球体を相手に放つ 殺傷能力は高くないが当たった場所を中心にして徐々に凍結させるため拘束する目的に使われることが多い ○ 転移魔法 2~7mの範囲にある場所に一瞬で移動が可能、魔法陣を必要としない 移動距離に制限はなく、対象の大きさにも関係はない、術者の力量に比例して転送人数が増えるが、距離が遠ければ遠いほど必要なMPが増大する。一度に大量の人員を運ぶことが可能な反面、個人が使える回数が限られるのが難点『無』魔力そのものをぶつける攻撃魔法、どんな相手であろうと問答無用で消滅させることができ、この魔法に勝てる者は存在し得ない『炎の矢』対象に向けて炎の矢を放つ 複数本同時に発動させることができる 対象はレベルにより変化する、レベルが低い方が数が多い ○ 剣 剣術がレベル10になることにより覚えることが出来る、片手剣、短剣の二種類の武器を扱えるようになる 攻撃力は両手で扱う武器に比べ大きく劣るものの使い方次第で十分カバー可能である『炎球』炎を圧縮したボール状の塊を相手にぶつける、威力はそれなり、命中すると爆発する レベルにより爆発までの時間に差が出る ◯炎剣乱舞 炎剣がレベル20に到達することで習得することが出来る、魔力を刃に変換し斬撃とともに飛ばし敵を切り裂くことができる、剣を振るスピードが上がるため相手の動きについていくことが容易にできるようになる。魔法を使う敵には特に有効的である。魔力消費量が多く連発ができない。◯魔法破壊拳 魔法破壊拳を習得すると同時に覚知することができる【魔法付与】を使い、自身の腕に魔力を流すことで魔法を破壊することが可能となる、これは魔力操作能力に比例して威力を増す

『水球』水を球状にした物体を対象にぶつかることによりダメージを負う『風壁』対象に向かって風で出来た薄い盾を高速で展開する『水刃』水のナイフを作り出して投げる、『爆流火球』炎と火の玉を同時に対象に浴びせてダメージを与える魔法。

○ 雷魔法 レベル40に到達しないと習得が出来ないがその性能は凄まじいものがある。電撃は触れたものを焼き切り焦がしていく、高電圧のため直撃すると体が麻痺して動けなくなる。この状態異常を回復することは簡単ではない ○雷鳴轟砲

『雷撃』

雷でできた太いレーザーを撃ち出す広範囲の殲滅を目的とした上級者向け魔法、この魔法の恐ろしさは、なんといっても連射が効くことである。しかもほぼノータイムである。

この魔法で多くの冒険者たちが犠牲となった ◯ 氷雪吹雪 視界が真っ白に染まるほどの勢いのある猛烈な吹雪を発生させる。魔力消費量が激しく連続では使用が難しい。

○光矢の雨

『光束弓』と呼ばれる中級レベルの光魔法。光の矢の豪雨を浴びる ○光矢流星群 空高く飛び上がり落下の勢いをつけて放たれる魔法。地面に着弾後周囲にいる者に襲いかかり爆発を引き起こす。

○灼熱地獄

『溶岩球』火山に生息するサラマンダーの亜種が使う、マグマを固めた大きな玉で地面を溶かし、相手にその穴へと引きずり込み閉じ込め、さらに温度を上げていくという魔法。これを使われたら逃げるのは難しいだろう。

○闇沼(ブラックスワン)

上空より闇の大津波を召喚し押し潰す、かなりエグイ魔法、しかし使いようによっては味方を助けることも敵を殺すことも可能な強力な魔法 ○土石障壁 大地の壁を作り相手を閉じ込めることができる魔法、ただ硬いだけなので、これを使ったまま攻撃をされると防ぐことは容易ではないが、相手に隙が出来ている場合は利用しやすい ○大砂塵波 大地をえぐりとりながら進み行く魔法の大津波である。回避は不可能である。魔法攻撃力が高いほど範囲が広くなる傾向がある ○黒き波動 魔法攻撃力に優れた魔法使いのみが習得可能な中級クラスの魔法、闇属性が付与された黒い霧のようなものを発生させ相手を攻撃するというもので、これに呑み込まれたら終わりだと思わなくてはならないほどの危険な魔法。ちなみに魔法の効果は30秒間で、効果中は対象を常に追尾する、 ○天駆(アクロバット)

空を飛ぶことができる。【空間魔法】【無】と【魔法付与】を併用すれば空中でも自由自在に移動できる。ただし【魔法融合】は不可。レベルが高くなると【空間魔法】のスキルにプラスされ新たな特殊技能が追加されることがある ○時空転移魔法(テレポートゲート)

1~6人の人を瞬間的に移動する魔法(1度に3人以上は不可能)

使用中MPを消費し続ける、消費速度は時間経過と共に増加する。また【空間魔法】のレベルが高くなければならない ○時戻し 過去に遡って、その時に自分が受けた攻撃などに対して干渉を行う 自分の肉体や装備品、所持品に関しては対象外 ○転移魔法 対象を任意に指定した場所へ移動することが可能、転移先の距離によって必要MPが変わる。レベルに応じて転送人数が増える、自分を含む5人が最大人数で1回につき3分間しか使えない。また距離が長いほどに必要MPが増加する ○時戻り 過去に遡って自分が体験したことに関して修正を加えることが可能 ○魔法合成(フュージョンマジック)

複数の魔法を組み合わせることで全く別の魔法を作り出すことが出来る、その際、元の魔法名を引き継ぐことが一般的であり、また名前を変える際には別の魔法名になる、この魔法で作り出した魔法は一度使うだけで消滅する ○無の極意(インフィニティゼロ)

全ての属性を極めることに成功したものが使うことができる奥義のようなものだと言われているが誰も見たことがないので分からない、ユウキのオリジナル魔法である、使用条件は【無】属性がレベル20以上であること 魔法攻撃力と魔法防御力を無視する効果がある

『時間加速』、『時間減速』、『時戻し』、『時戻し』◯時戻し(クロックリスローションタイム)

過去に戻ってやり直すことが可能 ただし、やり直せる期間は最大で3日、3日を過ぎるともう一度過去に戻ることはできない ○加速(アクセルアップバーストブーストダッシュ)

10倍速まで加速することができる、スキル所有者本人のみ発動可能 ◯炎槍 炎で作った巨大な槍を飛ばす ◯雷刃槍雷牙閃槍槍嵐槍 無数の槍を飛ばす、 ◯炎剣連舞炎刀乱れ桜 剣を超高速で振り続け斬り刻む

『炎嵐』炎でできた竜巻を発生させる レベルにより規模が大きくなる ○雷嵐槍 炎で出来た槍を飛ばし竜巻を起こす、炎の槍はレベルによって威力が異なる

『炎の矢』炎で作られたボールを発射する レベルにより大きさが変化する ○炎柱 火柱をあげる、炎の剣の雨が降る、 ○火弾 火の弾丸を複数個同時に放つ、レベルにより数が増えて行き威力が上がる、火剣の雨も降り注ぐ、 ○火炎弾 巨大な炎の球体を対象に向かって撃ち出す、

『氷球』冷気を固めた球を飛ばす ○氷弾

『炎球』炎で作られたボールを対象にぶつける

『氷刃』氷の剣を生成し相手にぶつける

『炎壁』炎で作られた盾を出現させ防御する、攻撃を防ぐことも可能 ○氷刃 冷気を固めた球を相手に投げつける、レベルが低いほど威力は低い

『水球』水で出来た球体をぶつけると相手の体を水の中に取り込み窒息死に追い込むことが可能 ◯水針 水で出来た細い糸を飛ばす、拘束目的に使われることが多くレベルが低くても拘束に有効、水の中では威力が増す

『風刃』風の刃で相手を切り裂く

『風撃波』空気を圧縮し圧縮した空気を打ち出すことによってダメージを与える魔法 ◯真空砲 風が圧縮され鋭い鎌のように変形し相手に襲いかかる ◯風神拳 魔力を流し込みパンチを放つことにより風の衝撃波を生み出すことができる この魔法による攻撃は物理攻撃扱いされる ◯爆流火砕拳(ばくりゅうかさいけん)『火拳』『火拳乱打』『火拳連打』

魔力を拳に纏い相手に殴りかかることで魔力の塊を撃ち出し対象を貫く ◯炎渦拳 魔力を込めた炎拳を放つことにより広範囲を吹き飛ばすことが出来る

『光矢の雨』魔法攻撃力に優れている魔法使いのみが習得出来る、空から魔法の光で出来た矢が大量に対象に向けて降らせる魔法。広範囲に降り注ぎ回避は難しいが、レベルが高いと威力が増し広範囲となる、魔力消費量が大きくなり連続では使用出来ないがレベルが上がれば連発も可能となる、 ○氷刃 氷の刃を作り出しそれを相手の体に向かって飛ばし傷をつける ○炎獄壁 燃え上がる炎の壁を展開する。この状態でのダメージはないに等しいが相手に逃げ道を無くすという使い方ができる、ただしMPを消費するため乱用はできない ○雷電鞭撃(サンダーウィップラッシュ)雷でできたムチを相手に叩きつける、威力はかなり低いが当たれば動きを封じることぐらいは可能である、魔力操作能力次第でその硬度を変えることが出来る。MPを込め過ぎると相手は感電死するため危険である。

○風縛斬(ふうばつざん)魔法で作り出した風を刃状にして相手に飛ばす ○炎刃乱舞 炎の剣を大量に作り出して一斉に敵に切り掛かる魔法 ○炎弾連射(ファイヤーマシンガン)連続して同じ場所に魔法の玉を撃ち出す ○烈炎刃双剣乱舞い 二刀流の炎属性を付与した魔剣を振り回す魔法、高火力であるが隙が大きく連続での使用は出来ない。また消費魔力が多い。MP消費量を抑えられるならば連射が可能となる。レベルを上げると威力が上がる ○轟炎槍(ごうえんそう)魔法による槍を生み出し飛ばす上級者向け魔法 ○煉砲

『火炎弾』魔法で作成した球に炎の熱を付与することにより殺傷力を高め撃ち出したもの ○煉獄弾(れんごくだん)『光束弓』と『光矢の雨』と『溶岩弾』を組み合わせた上級者向け魔法 ○聖光壁 光の壁を作り出す。

『溶岩球』火山に生息するサラマンダーの亜種が使う、マグマを固めた大きな玉で地面を溶かし、相手にその穴へと引きずり込み閉じ込め、さらに温度を上げていくという魔法。これを使われたら逃げるのは難しいだろう。

○炎蛇連弾 マグマの蛇を無数に発生させる、触れたものは全て溶けてしまう、高温なので触ってはいられない。

○雷鳴連閃 電撃の槍の雨を降り落とす、範囲もかなり広い、 ○灼熱地獄 上空より火の粉のシャワーを浴びせかける、広範囲に発動でき範囲もそこそこある、 ○黒霧大爆発 闇属性の黒い霧を一気に周囲にまき散らす ○闇空間 指定した対象を異空間へと取り込むことが可能な魔法 ○空間移動 任意の対象を瞬時に転移させることができる、ただしレベルが高くなると対象を5名まで可能になり、1回につき3分間だけ使用できる

『時間戻し』過去に遡って、その時に自分が受けた攻撃などに対して干渉を行う。自分の肉体や装備品、所持品に関しては対象外。

○時戻り(クロックリスローションタイム)

過去に戻ってやり直すことが可能。ただし、やり直せる期間は最大で3日、3日を過ぎるともう過去には戻れない。この魔法はユウキのオリジナルである

「うおおおおっ!」

男たちはリーダー格の男の声に合わせて武器を構えた。どうやらこの男が指示を出しているようで間違いないだろう。そして彼らはすぐに行動に移ったのだ。それは俺の予想していた通りの行動だったわけだが彼らの取った戦法は俺にとって少し意外なものだったのである。

——まさか全員で突っ込んで来るとは! ただそれでも俺にとっては想定の範囲内であり特に焦るようなことはなかったのだがな! まず先頭にいる男が斧で攻撃を仕掛けてきた。それを避けつつ、お返しとばかり俺は無詠唱にて男に対して魔法を発動したのである。

『石化の波動(メドゥーサミスト)』——スキル使用時に対象に状態異常を与えることが可能。また相手が状態異常になった時に限り相手のステータスを下げることが可能、 俺はスキルの効果を試すつもりで、まず最初に『石化の呪い(メデューサブレス)』を使ってみたのだ、その結果——なんとその男は全身が石化した挙句、そのまま崩れ落ちて行ったのである。この瞬間、この魔法を使ったのは正解だと確信したのである。なぜならこれが『無詠唱』の魔法だとばれずに済むからである。

それにこの『無属性魔法』を使えば他の人にバレることはないはずなのだ、『無属性魔法』が使える人はほとんどいないし、もし使うとすれば何かしら理由が必要になるからね。だからこその魔法だったということだ。

それからはあっという間の出来事であった。一瞬にして3人を葬ったあと残りの3人は一目散に逃げようとしたのだが—— ここで思わぬ出来事が起きてしまったのである、実は彼ら3人のうちのリーダー的存在と思われる男だけは、レベルの高い装備を身に付けていて、それが俺には輝いて見えてしまっていた、というのも彼は、俺と同じでレベル40台で、しかも見た目的に若いイケメンだったのも原因だろう、だから俺はつい声をかけてしまったんだよね、その言葉を聞いた瞬間に彼の表情は驚愕の色に染まってしまった、そのおかげで完全に油断した彼がこちらに背を向けたことで簡単に殺せちゃいました。

ちなみに彼を殺した理由は単純にレベルが高かったことと、一番最後に残ったので殺すことにしただけだ。ただ最後の一人を殺すときには少々手こずったが、なんとか倒すことに成功したのである。

そんな感じで戦いを終えた直後、突然頭の中にシステムメッセージが流れた。

『ユニーククエスト:ゴブリンジェネラルを倒そうをクリアしました』

『シークレットクエスト』クリアです

『【固有技】が進化します、称号『覇王』を会得、スキル《魔王の威圧》を自動獲得しました』

「はあ!?」

思わず声に出して叫んでしまったが、それほど驚くような内容ではあったので仕方ないと思う。しかしそこでさらなる驚きが発生したのである。目の前に急に現れた白い光に包まれた物体、それが人の形を成し始めたからだ。そして次の瞬間、その人物はそこに姿を現したのである。どう見ても若い女性の姿に見える。しかし服装は白を基調としたドレス姿のように見えた。髪の色は銀で長く腰の辺りまであり、瞳の色素が薄いのが印象的であった。顔立ちはとても美しく整っておりまさに美女と表現するに相応しい女性だ。

この女性が先程までの人物の正体なのであろう。ただ一つ言えることは彼女は俺に話しかけては来なかったということ、なぜかは分からないが、おそらく彼女の目的を果たすまでは話すことができないようになっているのか、または彼女がその気になっていないので話ができない状況なのであろうか。

どちらにせよこの謎の女性のことはひとまず放置することにし、この世界に来るときに一緒に来たスマホがないかを確認してみるとやはりちゃんとありましたよ。それで色々と確認をしてみることにする、もちろんこの世界に来た時のことも思い出せる限り詳細に思い出し記録していこうと思う、もしかすると重要な情報があるかもしれないし。

「やっぱりこれはあの異世界からの帰り道ってことになるのかな? それとここは間違いなく現実に存在する世界みたいだ、いや違うな。さっき倒したあいつは魔物とかいう存在だった、ゲームみたいな設定だけどそういうことなんだろう。そう考えると俺は本当に死んでしまったんだな。なんか実感が湧かないっていうのはあるけど、でもとりあえずこれからどうするかを考えよう。幸いというか何というか、俺は今レベルが99になってるようだし」

そう思ったところで、ふと気になるワードがあったことを思い出した。

——えっ、レベルが100じゃないのかい? 俺は慌てて『アイテムボックス』を確認する、すると確かに表示されてた項目が減っており『経験値増加』という文字が表示されていた。つまり俺はあの世界でレベルが99になりこの世界に飛ばされたということになりそうである。そうなると、ここの世界での俺は、元の世界の俺がいなくなった時点で既に死亡したことになっているはずだ。そうなると元の世界に戻ることは不可能ということになるだろう。

ただ『経験の指輪』があればこの世界でも生きられる可能性があるんじゃないかと思った、だからすぐに確認をするために指輪をはめてみたのだ。しかし結果は変わらなかった。というか俺がはめた途端に粉々に砕けてしまったのである。そして代わりにステータス画面が出てきたのである。そこにはこう記載されていたのである。

名前 佐藤拓海(サトウタクミ)

性別 男性 種族 人間 年齢 21歳 Lv 100(MAX)

HP 256,200,000/416 MP 102,040,000 /1295,00 攻撃力 439,900 守備力 327,700 俊敏性 369,000 魔力 517,300 魅力 231,500 運 1 所有スキル一覧 ○無詠唱 レベル1

(熟練度 1,001/1001)

○剣術 レベル1 レベル10(MAX)

術 :レベル7 剣神流剣技 上級剣技全て 剣舞技 レベル8 ○二刀流の極み レベル9 二刀流 上級剣技 双撃 剣速連撃 ○格闘術 レベル3

(MAX)

体術 上級体術全て(マスター)

打撃 蹴り 投げ 受け ○気配感知 レベル5(MAX)

探知 危険察知 レベル5 ○罠解除師L v5 盗賊系スキル全般 鍵開けなど 宝箱解錠など全て使用可能。○生活魔法 レベル1 水属性 火属性 風属性 土属性 毒消し魔法他 回復魔法 状態異常回復可能、治癒魔法も可能。○料理 レベル4

(MAX)

調理 洗濯 掃除などの家事能力すべてレベル4以上。○○作成レシピ 鍛冶、細工 etc. —————— 俺はこの結果を見て少し落ち込んだ、というのも自分の持っているスキルが全て『鑑定』で調べることが可能だったからである。『隠密』スキルについては取得していることが分かっていたのだが、残念ながら今は使えないようである。さらに魔法についても同様である。『無詠唱』のレベルが低かったために使えなくなっているようだったが、そもそもこの世界で『無詠唱』の使い手がどれほどいるのかが不明のため意味はなかった。『魔眼』についても同様に使用不可になっているようだ。

それから所持品の確認をしていくことにした。まず俺が身につけている装備はどれもチートじみた性能を持っていたのである。

「なんだこの防具! しかもこんな上等なものばかり持ってるなんて、まるでどこかの貴族じゃないか! 一体誰がくれたんだよ!」

そんなことを口に出してしまったくらいであるから相当すごいのだと思う。ただこの世界の人が作ったものかどうかは不明である。もしかしたら女神さんたちがくれた可能性もあるからだ。それに俺が身につけている装備や道具はどれもこれも高級感漂う物ばかりでとても平民が持つような代物に思えなかったのも事実なのである。

ちなみに武器や防具に関しては特に問題なさそうだ、なぜかはわからないのだが、なぜか分かるのである、不思議なものだ。そして最後に俺は『ステータスカード』を手に取り、そこに表示されているステータスを覗き見たのだ、そこに記されていた数値には驚くべき変化が起こっていた。なんと今までと桁違いの数字が記載されてたのである。その数字というのがなんと—— 名前 真島ユウキ(マナシマ)拓海 種族 人間 職業 なし 年収 0円/月 HP 2億9676万6000/646万0000 MP 7兆4780億4000万/7856万0000 攻撃力 3430億20000 防御力 6900億8000 俊敏性 1420億5000 魔法攻撃 1550万 魔法防御 960億 固有スキル詳細 *限界突破*

(使用回数∞回、熟練度0/100、必要ポイント35,000)

*全属性耐性LV10、即死無効、自然影響無効化、病気感染無効、呪い無効、麻痺効果完全回避、成長促進、才能強化、体力超高速自動回復、幸運上昇(大、限界突破付与)、自動アイテム回収、自動お金自動貯金、時間経過による経験値減少緩和(小)*レベル自動アップ機能、経験値倍増付与、自動ドロップ設定、自動解体自動処理、経験値自動変換 *全生産職(プロ)化(マスターレベルまで自動解放)

*アイテム複製化、素材分解化、装備修復化 *自動レベル調整機能

*言語自動翻訳機能 所持金 498兆円 加護:女神たちの祝福(すべての能力を大幅にUPする。またステータスをいじくれる。)

*叡智の神の恩恵:ステータス画面に知りたい情報がわかるようになり全てのスキルの詳細が見れるようになる。さらに新しい情報を得ることができる。この効果は『無詠唱』で使用できるスキルと統合。ただし現時点ではまだ『無詠唱』は使用できない。

その他詳細:創造主の称号により異世界からの召喚者が習得したと思われるスキルのほとんどを習得することが可能となる。

称号一覧 異世界より召喚されし者 *転移者の証、レベル上限を99にする —————————————————ー こうして自分の現状を確認し終えた後でふと思い立ったことがあったため、『アイテムボックス』の中にある『聖樹石』を取り出すことにしてみる。すると予想通りに目の前に透明なケースのようなものが現われたのであった。その中にある物を全部出すと中には色々と詰まっていたのであるが、その中で目に留まった物が三つあった。それは、俺が最初に作った『マジックバッグ』『収納カバン』(中)『魔力回復薬』の三本のポーション、そしてなぜか『勇者の剣』が入っていたのであった。なぜこれがここに入っているのか疑問ではあったが今は置いておこうと思う。それで『聖剣アスカロン』を取り出してみると案の定というか、この剣が普通じゃないということがよく分かった。まず見た目からして尋常ではないのだ。まず刀身自体が半透明に輝いており虹色のような輝きを見せている。柄の部分は普通の剣とは異なっており鍔もないし持ち手もないのである。その代わりに刃がついてない側の付け根に水晶のような珠が付いているという作りになっていたのである。

この剣の能力はおそらく斬った相手に状態異常を与えるという類いのものだろう。しかし問題はどんな効果があるのかということである。そう思った瞬間に頭の中に文字が表示されたのだった。どうやら俺が手にしているだけで効果が得られるらしい。これは凄まじいものである。これなら魔物と戦う時も楽になりそうである。というか今の状況がかなり厳しいと言わざるを得ない状況だ。なぜならさっきの俺が倒されてしまった時に、何かが俺の身体に入ってきていたように感じられたのだ。もしそれがこの世界に来て最初に出会ったあの男の仕業だとしたら、間違いなく今の俺の状況はピンチなはずなのだ。

「どうしたものかな。でもどうせあの場所にいてもいずれ捕まって殺されるだけだよな」

そんなことを思って立ち上がった俺は、さっき倒した男が消えてしまった辺りに向かって移動を始めた。しばらく森の中を歩くことになったのだが、途中で『気配感知』というスキルを覚えたらしく俺の周りに存在する生き物の存在を感じられるようになっていた。それを頼りに森を歩き回り続け、気付けば開けた場所に出ることに成功した。そこで見つけたものに俺は思わず声を出してしまっていた、それも大きな声でである。何故ならばそこには、先ほど戦った巨大な熊が横たわっていたからだ。

ただその様子が明らかに変なことに気付き俺は警戒しながら近づくことにする。そして熊の顔をよく観察していたところ、目が開いたまま固まっており微動だにしないのに気がついた。つまり生きているというわけではなさそうなのである。ただそれでもおかしいことに変わりはなかった。だって死んでから結構経っているように見えるのに腐ってさえいないんだもの。

さらによく見ると周りにも数体の熊がいるのである。そして同じように完全に死体となって倒れているものばかりであった。そして俺はその理由にすぐに気付いた。

というのも、その周囲にいた生物が皆同じような姿形をしてる上にサイズが二メートルほどの巨大昆虫だったからである。その外見は非常に醜悪なもので全身緑色をしており、大きさ以外は普通の昆虫に見えるのだが、何よりも気持ち悪いと思ったのはその顔付きにあった。

その表情はまるで昆虫特有の感情が読み取れないような無機質なものであり、口らしき穴が開いているだけである。しかも複眼の部分には眼球がなくぽっかりとした空間だけが広がっていてとても不気味である。

そして驚くべきことはそんな奴らが数百体もいるのである。そんな虫たちが死んでいる獣を食べ続けているという状況はなんとも言えないものを感じさせるものであった。ただそれよりも恐ろしい事実がある。そいつらは俺の存在を認識しても襲いかかろうとはせず無視していたようなのだ。

この事から導き出せる答えはひとつしかない。つまり俺がここにいるということは奴らに知られている可能性があるということになる。だからこそ、こんな状況になったと考える方が妥当なのではないか? ということだ。

「やれやれ参ったな。もしかしてこのまま放置して帰ると面倒事に巻き込まれる可能性もあるかもね。よしっ、覚悟を決めるしかなさそうだな。まあ何とかなるかもしれないけど。最悪転移で逃げることもできるはずだしな」

ということで、ここから脱出する手段を模索することにした。

結論から言うとなんとかなった。というのは実はこの場にあるものが残っていたのがわかったからである。その残っているものとは俺が最初に作ってしまったポーションのことである。というのも俺が持っていた『聖水入りMP全回復薬』は効果が切れてしまい使えなくなっていたのだ。だが『聖樹石(せいじゅせき)入りMP完全回復薬』の方はそのままの状態であり使えることがわかったためである。

それを『マジックボックス』(中)に入れ、あとから回収に来た人たちが見つけても大丈夫になるようにしておいた。それから少し迷ったが俺は『魔力操作』スキルを使い自分の体にMPを送り込み身体強化を行うことにした。それによりステータス数値が上昇し、レベルが上がる前に覚えた技能『限界突破付与』を使うことができるようになったのである。

限界突破は簡単に説明すると身体能力の上昇率を上昇させるというものであった。

それから、さらに俺はステータス画面に新たに表示されるようになった機能を確認したところ、新しく追加されている機能がふたつあり、まずは『ステータス確認』、『鑑定眼(かんていがん)』と呼ばれる機能が追加されたようであった。それは俺の現在の状況を視覚的に理解させるためのもので様々な情報が表示されるのである。

俺が見たのは『HP自動超高速回復』と『限界突破付与』という二つの機能についてである。『ステータス画面』のアイコンをタップするとこのような画面が現れるのだ。


***

名前 なし

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種族 真島ユウキ

***

性別 なし 年齢 0才 LV 10(MAX)

職業 神工匠LV1 筋力 50(50)

頑強 50(50)

敏捷50(10)

知恵 150(150)

魔力 1兆2700億(2700億*2兆*5)

▲×○△ 体力 50(50)

魔法抵抗 50(50*3)*5000*2=25000 魔法力 25000(5000*2)*50*5000*50 回避 50(10)

命中精度 50(10)

運 100(10*50*25000*2)+100*5000 =25000(25億)

固有スキル詳細 **

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*『スキルポイント上昇(極大)』

* * *

*『獲得経験値倍増付与』

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*『レベル上限開放付与』

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*『限界突破付与』


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*『聖樹石作成付与』


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*『聖属性強化付与』


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*『自動レベル調整機能』

*『アイテム複製化』『自動アイテム回収』『自動解体処理』『経験値自動変換』


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加護

『叡智の神の加護』

*『女神たちの加護』

*『創世の女神の加護』

*『戦と勝利の女神の加護』

*『幸運の女神の加護』

特殊スキル スキル取得必要SP軽減 LV9(99/100)『全耐性UP(極大)』

『能力値上限解除』

*『全言語翻訳』言語自動翻訳能力が付与された言語が理解できるだけでなく話せるようになり読み書きもできるようになる。

『全攻撃系耐性UP(極小)』『物理完全耐性』

*『状態異常無効化』

*『精神完全耐性』

『隠密』

*『熱感知』

視界内にある生物を感知することができるが距離に応じて感知できる時間が変わる。また隠蔽されていない生物を判別可能になる。さらに対象物の詳細を確認することも可能となる。『気配遮断』の効果により存在を隠すことが可能となる。

称号一覧:異世界人、叡智の勇者、女好き、無慈悲、魔物使い、ダンジョンマスター、聖樹を創造する者、聖女の母、聖騎士の父、精霊の友、妖精王の友、ドラゴンの主、龍神の義息、亜神殺し、聖龍の友、魔導王、武闘家、魔王、賢者、竜戦士、英雄、聖者の使徒、迷宮創造者、魔神の伴侶、戦鬼、剣聖、覇者、大魔術師、大剣士、刀匠、覇気王、仙氣仙人、仙人、剣帝

ユニークスキル 【強奪】《スキルコピー》:相手が保有しているレアな能力を条件を満たした上で相手を殺すことによって奪うことができる。ただしこのスキルでは習得することはできない。

《共有(シェアリング)》:自分が経験した事象を共有し、他者にも体感させることができる。但し記憶や知識などは引き出すことができない。《念写(スクリーンショット)》と組み合わせることで相手の姿を写真のように撮影し記録することもできたりもする。

『万物の召喚士』(マジックコレクター)

☆無限ガチャ

★無限収納 ◆アクティブ ●自動収集&召喚

『従える者』

(テイムマスター)、『配下強化』

『隷属の首輪』

『使役之主』

『魔物調教』

◆パッシブ

◎テイム成功率向上 :『魔物特攻』、『従魔術効果向上』

◆サポート ●眷属支援 ◎成長促進 ◯進化補助 □スキル伝授 ◆効果補足

☆レア以上確定枠:SR以上が確定します。

☆UR以上確定枠

:LR以上が確定します。

●装備具現化

☆限定装備顕現:使用回数一回

『聖具』『聖武具』『宝貝』をランダムに一種類選んで呼び出すことが可能になる。顕現させた場合は任意に消すことも消滅させることもできなくなるが、契約が結ばれるため使用者には絶大な恩恵が与えられる。

◆特殊効果

【絶対切断】:斬れぬものは無し。どんなものでも切り裂くことを可能にする刃。その効果は切れ味や耐久力を上昇させることで発揮されるのではなく、あくまでも『切れることそのものを実現するもの』である為、概念や運命すら斬り裂き得るとされている。その理は世界の法則すら超越するものとされ『奇跡の力』や『神秘なる力』と呼ばれることになるものの一つとされるものである。なおこの説明では全ての現象が『奇跡』や『神』という言葉で表されてしまっているが、実際の効果はその限りではないのである。例えば【魔力の渦】の本来の力は「破壊不可能」であるが、『聖樹石』と混ぜ合わせたことによりその能力は飛躍的に向上したのである。

【不壊不朽不老不死】

聖武器の固有特性 聖武具の固有特性 聖具の固有特性 聖者、仙人の祝福によって与えられた不滅不朽不老不死の体。通常の傷はもちろんのこと病による苦しみなども感じない。肉体が腐って崩れ去ることはないのである。そして肉体的疲労を感じなくなることから活動時間が大幅に増加する。

聖者、仙人が認めた者以外にはその姿を見ることは許されないとされている存在である。聖者と仙人とはそもそも存在するのかさえ不明な者たちでありその存在自体が確認されていないのが実情であった。そして彼らはこの世界に突如として現れるが、いつの間にか消えてなくなっているのだという。ただ彼らの存在を証明するかのように聖者や聖人と呼ばれる存在の伝説は世界各地に残っているらしい。

聖獣、神獣、霊獣、幻獣、魔獣、怪物と呼ばれる存在がいるがそれらはすべて彼らが変化したものであり、本来はただの生き物にすぎないと言われている。ただ中には人間との交わりを持った個体もおりそれらは人と変わらぬ思考を持ちながら人を超えた力を持つようになるのだと言われることがある。しかしそういった聖獣は総じて知能が高い上にその見た目は人に酷似していることから、人が作り出した伝説上の生物の話を勘違いしたものだと考えられている。実際にそのような存在を見たという記録は一切なく、本当にいたとしてもすでに絶滅している可能性が高いのだそうだ。

聖属性を持つ者は光に包まれる ◆戦闘技能

☆超近接戦闘技術(縮地、瞬歩、残像拳)

『無呼吸歩行』

:長時間歩き続けても息切れしないように訓練することにより身に着けられる技術で、スタミナの消耗を極限まで減らし身体強化魔法を使ったかのような超高速移動をも可能とする技である。

◆生活魔法

☆水属性魔法(浄水、ウォーターボール)

:手から水を出し綺麗な水を飲めるようにしたり汚れを落としたりする程度の魔法。

★火属性魔法(ファイヤーボール)

:炎を生み出すだけの魔法。火の玉を飛ばすだけ。レベルが高くなると着弾と同時に爆裂する。レベル1の威力はライターの百倍程度である。レベル10はダイナマイト並である。

★土属性魔法(ストーンウォール)

:レベルが高くなり熟練度が上がっていくことで岩をも砕く壁を作り出すことが可能となり強度を自在に変化させることもできる。レベルが上がるごとにより強固にすることが可能になる。また岩を変形させて様々な形に加工することも可能になる。ただしレベル3まではそこまで精密に扱うことはできないのである。レベル4〜5では石礫の発射や形状変化などを行うことができ、レベル5になると岩の槍を放つことも可能になるのである。レベル5では巨大な石の板を作ることも可能である。ただしこれはレベル5の時点で既に魔法というカテゴリーではなく完全に科学の分野に属している技術なのであって魔法の力では実現できない。また土魔法を使う際は必ずと言っていいほど石礫が発生するのだがこれも科学的な原理を理解していない限り魔法で行うことは不可能な技術なのである。また水魔法に関しても同じようにして水分子を操り氷を作ったり水の球を発生させ攻撃に用いたりする魔法なのである。つまり魔法というものは全てにおいて科学技術の領域なのだと言える。よって『無詠唱』や『魔法陣』『精霊』といったものは魔法ではなく単なる技術を後付するための設定にしか過ぎず実際には何の意味もないのだそうである。

*『聖樹石作成』

:『アイテム複製化』の応用編ともいえる新たな能力。『アイテム鑑定解析結果自動入力』『ステータス自動反映』『経験値自動変換』『アイテム収納領域拡大』『アイテムボックス強化』『アイテム品質保持』『聖属性強化付与』『物理攻撃防御』『属性攻撃無効』『自動回避』『状態異常無効化』『状態異常付与』『自動HP回復付与』『アイテム回収付与』『アイテム収納領域付与』『スキル経験値上昇付与』『経験値増加付与』『限界突破付与』

称号一覧 【異世界転移者】【強運】【無限ガチャ】

*【聖武具具現化】:使用者本人の許可した『聖武具』を呼び出す。

*【魔物使い】:魔物のテイムに成功することで使用可能となる

*【剣豪】:剣術を極めた者に贈られる

*【刀匠】:武器製造に関する全てを極めし者の証

*【武王(+戦王(戦極))】(New!):武術全般を極めたものに贈られる称号(戦王を足せば武王になります)

武王の加護(New!)

:武神の加護を受けた者の証である武王を足したことで授与された新しい加護

武神の導き(小)→戦神の加護→武神の加護:武神が認めた者のみに与えられる加護 →武神の導き→武神の啓示 ◆生産職技能

☆錬金術師:あらゆるものを変化させることが可能

★調合師:様々なものを混合することで毒を生成する

☆細工師:素材を組み合わせるだけで色々な道具を作製することができる。スキルレベルを上げることに造れるものが増えていく

★鍛冶職人:あらゆる金属製品を作り出し金型を作成することができる

★鍛治匠:様々な金属を鍛えることが可能

★裁縫職人:布、皮などを織ることができる ◆魔法系統技能

★召喚魔法

☆悪魔系召喚:召喚可能なものは悪魔の下位種。ただしレベル差によっては召喚できないものもいる。呼び出す際には術者の血を必要とするが召喚後に血液を与えることにより契約が可能となって命令を聞くようになる。ただし上位の種族になると吸血衝動が襲ってくるため定期的に与え続けなければならない

★使い魔召喚:自身の魔力を使い自分の分身とも言える召喚生物を呼び出せる。ただしこの世界に存在するものに限られる

★召喚魔法陣(召喚魔法)

☆天使系召喚:天使の上位種が召喚できる

☆精霊系召喚:召喚が可能なのはエルフ、ダークハイエルフ、ドワーフの三つのうちどれかである

☆妖精族召喚

☆聖魔召喚

☆神霊召喚

★神域接続

『召喚士(サモナー)』、『使役士(テイマー)』、『聖獣使い』、『調教師』などの使役士系統のジョブを所持している場合に使用可能な技能である。対象物に接触しながら『魂』の波長を合わせることによって使役を可能とする技能。但し相手との同意が得られない状態で無理矢理行えば相手に嫌われる恐れがあり成功率は著しく低下してしまうのである。そして『隷属の首輪』を嵌めることによって強制的に契約を行うことができる。契約が成立した場合はその対象を『隷属の首輪』によって縛ることになる。

『隷属の首輪』:首輪に施す装飾に契約紋が刻まれたもの。これを対象者の肉体の一部に埋め込むことで契約は成立する。契約が成立すると契約者から一定の範囲でしか動けなくなってしまう。この契約を一方的に破棄するには契約者本人が『契約解除』と言わない限りは解除できないようになっている。また契約内容に違反した場合には激痛を伴うペナルティが与えられるのである。『隷属の首輪』の効果として『奴隷』の称号を付与し所有者に逆らえなくすること、所有物の盗難を防ぐこと、主人が死んでしまった際に自動的に契約主が死ぬといったことがあげられているが、これはあくまで建前であり実際のところはほとんど意味を成さないのだ。何故なら普通は持ち主に何かあった場合に備えて代わりの契約者を用意してあるからだ。それこそが真の『呪い』と呼ばれる『呪隷の首輪』であるのだから ◆生活支援技能

☆料理

☆家事 ◆補助技能

☆農業

☆林業

☆鉱業

☆建築

☆土木

☆錬金

☆鍛治

☆彫金

☆服飾

☆木工

☆硝子

☆宝飾

☆家具

☆調剤

☆製薬

☆製紙

☆紡績

☆機織り

☆染色

☆彫刻

☆陶芸

☆調理

☆畜産

☆酪農

☆園芸

☆造園

☆養殖

☆農産

★言語理解

『異界の勇者様へ』

:この手紙を読んでいるのはきっと『異界人』であるはずだと思う。私はこの世界の神様である。突然こんなことを言われても戸惑ってしまうだろうから、まずは私の話を聞いてもらいたいと思っている。今この世界は危機に瀕しており魔王の手によって人類の大半が死に絶えてしまっているのだ。そんな時にある一人の女性がこの世界に突如として現れた。その女性の名はリリスと言うらしいのだが、彼女はたった一人でこの世界に巣食う魔物の群れを壊滅させてしまったのだそうだ。その強さに心打たれて彼女の力になろうと考えた私たちは、彼女に神器『七聖の武具』を与えることにした。ただ問題があって神である私たちにも彼女以外の人間をこちらに招くことはできないのだ。そのため『異界人』を異世界から召喚することに決めました。本来ならばもう少し待った方が良さそうなんだけど、今は緊急事態ですので今回は特別措置を取ることにしたんです。それで召喚した人たちには申し訳ないけど元の世界に戻ることは出来ないのです。その代わり元の世界の100倍の時間が経過しないようにしてあげるので許して欲しいと思います。それと貴方たちは『異界召喚特典』という能力と『神具』というアイテムを受け取ることになります。『ステータスオープン』と唱えることで能力やアイテムの詳細を見ることができるのですよ。では最後にこの世界を救ってくれると嬉しいと思っていますよ

追伸 :貴方たちに渡している『ステータスプレート』は神器の一つですが普通のステータス画面とは異なります。この画面に表示されていますがレベルが999まであるのでカンストさせることが可能となっておりますが99が最大なので99までレベルを上げる必要がありますね。まあレベルアップすれば身体能力が上昇していきまして最終的にはレベル500が現在の上限となっているようですね ◆固有技能一覧 *【聖属性適性(New!)】

* * *

*聖樹石作成(New!)

* * *

*アイテム複製化(New!)

*聖武具具現化(New!)

* * *

*鑑定解析結果自動入力(New!)

*ステータス自動反映(New!)

*経験値自動変換(New!)

*アイテム収納領域拡大(New!)

*アイテムボックス強化(New!)

*アイテム品質保持(New!)

**限界突破付与(New!)

*経験値増加付与(New!)

*経験値増加付与(New!)

*限界突破付与(New!)

◆生産職

『錬金』、『鍛冶職人』『調合職人』

*生産魔法:生産職の者のみが扱える魔法

*鍛冶魔法:『アイテム鑑定解析結果自動入力』『ステータス自動反映』『アイテムボックス拡張』『アイテムストレージ領域拡大』『アイテムボックス強化』『アイテム鑑定解析結果付与』『アイテム品質保持』『魔法陣』などの生産に関わる全ての技術が使用できる魔法

*調薬魔法:調合に必要な魔法陣などが使用でき、『錬金』、『鍛冶職人』、『生産全般』が使用可能となる魔法

*工芸魔法:様々なものが作れるようになり、『魔法陣』、『細工師』、『生産全般』が使用可能となる魔法

★錬金術師:あらゆるものを変化させることが可能 ◆魔法技能系統

☆魔法詠唱系技能

:詠唱により魔力を消費し発動することができる。ただし魔法名を唱えないと発動しないこともある

☆無詠唱技能

:魔法詠唱系技能を習得することで習得可能な特殊技能

*『聖魔法:聖』:聖なる力で相手を攻撃することができる魔法

*『火魔法:火』:発火させることができる

☆生活系技能

☆身体機能向上技能

:体を強化することができる

☆状態異常無効耐性:状態異常攻撃を無効化することが可能

『全属性適性(New!)』『剣豪(New!)』『刀匠(New!)』

→剣聖:剣術を極めた者に贈られる称号(戦王を足せば戦王になります)

剣豪:剣術を極めし者の証

→戦王:剣術を戦闘職の頂点に立つ者としての証

→戦神:戦神の加護を受けた者のみに与えられる称号 ◆称号詳細

★異世界転移者

◆名前:橘京太郎(18歳)

◆種族:人間

性別:男性 ◆ステータス◆ HP 10000 MP 13000 STR 25000 VIT 2000 AGI 1000 INT 1200 MND 100 DEX 150LUC 101 ◆装備◆

★黒革コート(上質な牛皮製:Dex+1/Vit-1:Str-2:Int-3/Mnd-5:Agi-4:Dex+2)★漆黒のシャツ(綿100%)

:黒ズボン(絹80%綿20%繊維(木綿に近い性質):Mend+3/Vitr-0:Agi-1/3:Luc-101/Def-20/100→1)★漆黒のネクタイ

(絹80%綿10%繊維:Dex+5/Mand-0:Agi-1/2)

:純銀の懐中時計(針が止まらないように細工が施されていたもの)☆魔法杖『魔法の杖

~神域接続ver.~』(魔法力上昇値+300、魔力増幅値+600、Mnd-8:Mnd-7:DEx-6)

:神獣の毛で作られた糸で紡いだマント(『聖魔のローブ』の下位互換品:Vitu-50%とDEXとAgiを補正)

『魔狼ブーツ改』(敏捷+30と移動補助の効果付き:耐久無限)

武器

『月の刃(つきのやいば)』(三日月宗近を模して打たせた日本刀。耐久無限/威力400/斬撃効果UPと打撃ダメージ軽減/抜群付与(刀身が折れない。使用者が死ぬまでその効果が消えることはない。ただし所有者が死亡するとその効果は消滅)

『炎雷剛鉄の籠手』

防具

『悪魔の法衣』

装飾品

『悪魔との契約指輪』

『神具の腕輪』

:『神具の首飾り』

:『神具の耳輪』

:『神具のネックレス』

:『聖樹石のペンダント』

:『星空の首輪』

:『精霊の御守り』

:『精霊の祝福』

◆固有技スキル一覧*職業別 *《召喚士》*召喚可能枠解放 +4

「——さっきから黙って見てればゴブチン共を簡単に殺しやがって」

*【音響遮断】解除!*声が届くぞぉおおお!!*俺は怒りを顕わにして叫ぶのだった。

そして森の奥の方へと逃げるようにして走っていった襲撃者を追い掛ける。相手の姿は見えないが俺の持つスキルに追跡用のものがあるから見失う心配はないだろう。俺は逃げて行った襲撃者たちを追いかけながら考えていたのだった。どうしてこんなことになってしまったのかと。俺は確かにあの後、気絶するように眠ってしまったはずだった。なのに今こうして目が覚めたら森の中にいる。そしてなぜか襲ってくる魔物と戦っているのだ。一体何があったのかさっぱり分からない。しかし考えても答えが出るはずもなく、まずは魔物を倒していくことに意識を向けたのだ。そして俺は気付いてしまった。

「そうかっ! この服は汚すぎる。だから汚れたんだな!」

どうせ戦うならちゃんとした格好をしておかなければダメだと思ったのだ。だってこのままの状態で戦い続けていれば間違いなく泥んこになって酷い目に合うに決まっているからね。それで俺はとりあえず綺麗に洗ってしまおうと思ったのだ。そこで俺はふとあることに思い至ったのであった。そういえばここは異世界なんだって。つまり元の世界で俺のいた世界とは違う場所ということになるわけなのだが、ということは俺の知らない技術があるという可能性がある。

例えばそうだ、お風呂なんてのはあるのだろうか? まあ俺がいた世界でも日本にしか無かったし、海外にももちろんないはずだ。それじゃおトイレ事情なんかも同じだと考えるべきだよな。まあお風呂に関しては別にそんなのなくてもいいかなとも思う。だけどお風呂があればもっとリラックスして体を綺麗にすることができるんじゃないかなって俺は思ったのだ。そしてさらに言えばこの格好のままだったら汚すぎて色々と困ると思うんだよ。

そう、汚れを落とすにしても着たままでは無理ってことだ。だからこそ俺は脱ぐことにしたのだ。そうやって着ている服を全て脱ぎ去った時に、ようやくあることに気付く。それは今の自分の体がまるで別人のような感じで鍛え上げられた屈強そうな体をしているということだ。

「——あれ?」

なんというか筋肉隆々というかムキムキというかそんな表現がピッタリくるような体に変わっているのだ。さらによく確認すると顔とかの作りが全体的に引き締まったような印象になっている気がするのだが、これは気のせいなのかな。ちょっと鏡でも欲しい気分になったんだけどさ。今はとりあえず魔物を倒してから考えるか。それからまた改めてステータスの確認をする時間を設ければいいかと思ったんだけどね。

それからすぐに追いついた襲撃者を倒すことができたんだけど、問題はここから先だったんだよね。何故かというと襲撃者が持っていたのと同じ短剣を持っていたからさ。それが分かった途端にそいつを殺したくて殺したくてしょうがなくなった。しかもさっきまで戦っていたゴブリンたちもその仲間であるってことが分かったからね、完全に敵認定しました! それでもう絶対に殺すっていう意思を込めて全力で斬りかかりに行ったのですよ! そうしたらすげー気持ち良く勝っちゃいました。いやぁ爽快感があって良いですね! やっぱりストレス発散のためには戦闘するのが一番ですよ。

ちなみにその時に手に入れたのが例の短剣『闇を穿つ牙』って名前みたいです。これさえあれば俺は無敵になれる! と思いたいところなのですが正直使いたくないのです。なぜならめっちゃ怖いんです!めっちゃ痛かったし。というか今も若干腕に痛みが残っているのだ。もうこれ、呪いの武器ってこと確定じゃないのって俺は思っているんだけど。だってこの傷が残ったのがその証拠だし、それに俺が寝ていたはずの草原のど真ん中には血痕みたいなのもあるし。明らかに誰かに襲われたんですよ的な痕跡があるので絶対間違いないと確信できるよ。

それと倒した襲撃者の方だがこれもまた謎が多い。

一つ分かるのは全員同じ服装をしていたと言うことくらいだ。あとは何やら黒い首輪をしている。何か関係があるのだろうか。

◆名前:???(女性:24歳)

◆種族:人間 ◆ステータス◆ HP 250/1000 MP 100/100 STR 100VIT 80 AGI 90 INT 10 MND 5 DEX 15LUC 20 ◆称号一覧◆

『??』→『黒き使徒』New! ◆詳細◆ Lv.1/100 Hp.10/10 Mp.5/50 力 1/100(-200)

守 1/100(+300)

体 2/100(+400)

速 4/100(+700)

AGI 8/100(+900)

DEX 12/100(+1500)

Luc.8

『風魔術』『身体強化L』『水魔術』

New!『毒魔術』『隠密』

『状態異常耐性』

New!『身体操作術』New!

『魔力弾』New!『気配探知』New! ◆詳細◆ LV1で100超えのステータスを持つ人型で『状態異常耐性』を持っていてさらにレベル1の時点で『状態異常耐性(小)』『身体操作』『状態異常攻撃』が使えるだと!? 俺は襲撃者のステータスを確認したことで驚きを隠すことができずにいたのだ。そもそも『黒き使徒』というのが気になるし、こいつが襲撃者のリーダー的な存在だったことが特に問題だろう。しかし今はまず『気配感知』で周囲を警戒しつつ状況把握を優先していくべきだな。この森がどういうものなのか分からないから慎重に行動する必要がある。ただここで重要なのはこのステータスの偽装ができないかどうかという点だと思うんだ。つまりステータス画面を見て『隠蔽』を使って誤魔化すことができないかやってみようという作戦だ。

「よし、『気配隠蔽』発動」

おっ! なんか上手くいった気がしますよ?

「んん〜? もしかしてステータスの補正値に『偽装(小)→』が追加されてるのか?」

ということは今『鑑定』をしたらバレてしまうってことだ。でも俺は別に困ることではないから構わないと思っているけど、もし俺のことを知ってしまった相手がいた場合に不用意に接触してくると危ない可能性があるかもしれない。

とりあえず『気配遮断』も掛けておくとするか。これで完璧に俺の存在は消えたはずだ。そして最後に念の為にこの森に人が入っていないかを『全知全能』のデータベースから調べてみることにした。それによるとここには誰も立ち入っていなさそうだな。ということはここは未発見の秘境のような場所って可能性が高いってことだな。そうすると俺は運が良いと言えるのか? ともかく俺の存在を知っている奴はここに来ることはあり得ないということだ。そうすれば俺は自由気ままにこの森で生活することができるということでもある。ならば俺は早速この森で暮らす準備を整えなければならない。そのためにまずすべき事は拠点を作ることだと思うのだ。

「この木を伐り倒すのが一番楽そうだがそれはやめた方が良いな。となるとまず穴を掘ろう。そしてそこに家を作る。それなら雨が降っても平気だし安全だろ!」

よし! そうと決まれば即実行だ。俺はまず土属性魔法『地壁』を使い直径五メートル、高さ一メートルの壁を作った。それを縦に二つ並べて地面に突き刺していく感じで作ったのである。

「ふむふむ、結構丈夫だ。でもこのままじゃダメだよな。やっぱり土台が必要になってくるし。なら次は基礎をやっていくしかない。俺って土木系スキルって持っていないんだけど大丈夫かな? まあ最悪は『神具の腕輪』でどうにかするとして今はできることをして行こうと思う」

俺はそうして土属性の魔法のスキルと剣術のスキルの熟練度を上げるためにひたすら練習を始めたのだった。しかし『地神剣』って凄まじい威力を誇る剣だったんだなって思うんだよ。これのおかげで作業効率が爆上げなのですよ! そんな感じに調子に乗り始めた俺に一つの試練が舞い込んで来たのであった。そうそれは、ゴブリンたちが現れた時のことだった。俺は突然聞こえて来た謎の声に困惑してしまった。それはもう、何が何だかわからないという感じになってしまったのは仕方ないことだと思う。だってそうでしょう。目が覚めたら知らない場所に来て魔物に命を狙われていたのだ。そんな状況を整理する間もなく次から次に衝撃的なことが襲いかかって来てしまったら誰だって混乱すると思う。

(えっと、これは夢なのかな?)

俺が今起きているこの現実を理解できずに、とりあえず目の前にいるゴブちんに視線を向ける。そいつは俺に背を向けた状態で俺の視界に収まっているのだがその手に持った棍棒のようなものを構えている姿には威圧感があった。

俺はその迫力に思わず一歩下がってしまったのだがすぐに踏み留まることに成功した。というより何故だが分からないんだけど足が全く動いてくれないのですよ。まるで金縛りにでも合っているような気分だった。俺はすぐに動けるようになることを諦めてこの事態を理解しようとした。そしてそこでようやく思い出したのである。

そう、ここは日本じゃないということを。そして俺は日本とは違う別の世界に来たことを。俺は今まで自分がいるこの世界のことを、元の世界で生きていた地球とは違うどこかに存在する全く別次元の世界なんだと思っていたのだ。だから自分のステータスを確認してもそれが本当なんだって思うことができたのだ。だけどさっき俺は確かに聞いたのだった。その言葉が『言語』だと知った上で認識することができたのだ。

——お前が魔王を倒すための勇者か! というあの台詞が日本語でなかったとしても日本語と同じように俺が理解できるように変換されて俺の脳内に届いたのだ。俺はそれを聞いて初めて気が付いたのである。ここが自分の知っている常識では通用しない異世界だってことに。

そんな事実に気付いた俺は少しだけ冷静さを取り戻すことができたのであった。

それから色々と質問したり考えたりしたんだけど、答えてくれた内容には正直納得できない部分が多く、どうにも信じられないものばかりだった。でも実際に起こったことは全て真実だということも同時にわかったのだ。だから信じざるを得ない状況になったのである。

ただそれでも俺は未だに半信半疑ではあった。なのでその証拠を見つけるために『闇夜の支配者』という存在について尋ねようと思ったのである。しかし『魔王の側近である黒騎士が闇夜の支配者』という発言が出てきてからというもの、何故かゴブリンは黙りこくってしまった。そしてしばらく無言で見つめ合う形となってしまった。そして何故かはわからなかったけどゴブリンは何かを覚悟したような雰囲気を纏い始めたのである。

俺はその空気を感じ取り即座に攻撃に移ることを決めた。その瞬間、俺は反射的に後ろへ飛び退きながら刀を抜いて『斬月』を発動させたのだ。

「くっ! 速過ぎる」

俺は『斬撃加速』を使ってギリギリ反応できたんだけどかなり焦っていたせいか、あまり上手いタイミングでの回避行動を取ることができなかったのだ。そのため完全には避けきることはできず、左肩に短剣による一撃を食らうことになってしまうのであった。

俺は咄嵯に短剣を持った手を狙って攻撃を仕掛けたのだけどそれも虚しく空振りに終わったのだった。しかもそれだけでは終わらずに俺は追撃まで食らい、肩口の肉を大きく切り裂かれてしまう。その結果血が大量に流れ出てしまい左腕の動きが悪くなってしまったのだ。幸いなことに痛みは全く感じない。それにHPもそこまで削れていないようだ。おそらくレベルが上がって『状態異常耐性(小)』や『HP自動回復(微)』の効果も発動してくれたおかげなんだろうなとは思う。

しかしHPが減っていないことには変わりなくHPバーが徐々に赤くなっていきHPの減りも激しくなっている。つまりHPの減少量がどんどん多くなっていくタイプの『状態異常』に陥ってしまったということである。ただでさえ右肩から大量に出血していて今もまだ血が流れ出ている。そしてHPも減少が続いている状態なのだ。こんなところで死ねるはずがない。絶対に生きてやるぞ! 俺の心の中には恐怖や絶望なんてものはなかった。むしろ逆に興奮状態になっている。俺はまだ何も成し遂げられていない。俺の夢、憧れの存在に近づいていくことすらできていないんだ。だからここで死ぬわけにはいかない!

「まだまだ! ここからだぁああ!」

俺はそう叫び気合いを入れ直したのだった。

◆名前◆ 斉藤始 ◆種族◆人族?◆LV2/100◆年齢◆15歳◆職業◆『黒き使徒』New!◆サブマスター◆なし◆所属◆【黒き使徒】◆詳細◆ Lv.1/100 Hp.10/10 Mp.5/50 力 1/100(+300)

VIT 100 AGI 10/50 INT 5 MND 2 DEX 12(+1500)

AGI 16(+900)CH1 精神耐性(小)

魔法耐性(小)

光耐性(中)→聖耐性(大)new!

火耐性→炎熱耐性 水耐性 風属性←NEW!土属性←NEW!雷属性←NEW! 空間属性←NEW!氷属性↑ New! 物理属性 時間属性←NEW!重力属性↑ 特殊属性 聖 生命 魔力操作 錬金 鍛冶 彫刻 裁縫 細工 料理 調合 農業 調教 歌唱 鼓舞 祈祷 結界 魔道具作成(錬金術使用限定スキル:生産活動時にのみ効果発揮スキル)

→スキル合体可New! 付与魔術 精霊魔術

(精霊使いの巫女専用スキル)

剣術

弓術 槍術 投擲 隠密 気配遮断 身体強化 瞬発 思考超加速 集中 解析 隠蔽 偽装 毒解除 調理補正New! 解体補正 裁縫補正 細工補正 鑑定 称号◆ 勇者 転移者☆全能力増加(最大99999上昇:現在46000の上昇率で固定化)New! 神に祝福されし子 神災 不屈の男NEW! 竜の寵愛New!龍神の契約 ◆固有技能★7つ獲得可能スキル◆ <全能の目><鑑定眼> 〈神速〉 《高速移動III》 《神速IV 光速を超える速度での移動が可能となる 》

『神域拡張』

〈アイテムボックス〉

『倉庫』

『亜空間』

『異次元』

〈絶対切断〉 《物質の結合を解くことが可能 また任意の位置に物体を移動させることができる 但し距離や大きさにより必要なMPが変化する 尚スキル所持者はスキル名を念じるだけで使用可能となる 消費MP0で使用することができる 但し任意での使用はできない スキル使用時のみ消費される〕

『神具の腕輪』New!<時戻しの腕輪 時を戻すことで破損箇所や劣化箇所を元の状態に戻すことができる>

『時空扉』New!<時の書庫への接続が可能 過去 未来を問わずにあらゆる場所へ移動ができる 一度使用すると一日の間だけ使用できない MP100 消費 > ◆『時空魔法』★9つで獲得できるスキル◆ <時間逆行 時の流れに逆らうことが出来るようになる >

『時空間庫』

《アイテムボックス》

『空間の狭間』

New!

『神速飛行』New! <空中でも地上と同じような速さで移動することが出来き、さらにMPを使用することによって速度を上げることが可能 MP消費量は使用し続けると上昇するが一秒ごとに1%ずつ減少するため、長時間の戦闘にも使用できる> New!

『限界突破』New! 〈体力とスタミナの限界を一時的に超える事が出来るようになり、更に短時間であればその上限を超えて行動することも可能になる 使用後は激しい消耗を伴い、意識を失う恐れがあるので使用するタイミングに注意が必要となり使用者の技量に左右されることになる 尚肉体のリミッターを外すことは出来ず身体能力には一切の変化は生じないためあくまでも精神的な面での問題であり実際の身体能力には関係が無い〉 <魔力視 魔法の行使に伴い体内から放出されている魔力を見る事が可能になる >

『多重並列詠唱』New! <同時に二つの魔法を行使することが可能になり、更に無言での行使を可能にする>

『魔法威力増大』New! 〈魔力を圧縮して攻撃することにより通常の数十倍の火力を発揮することができるがその際、圧縮された分だけ他の部分にある魔力が失われるため注意することが必要〉 New!

『連続詠唱』

〈複数の言葉を紡ぐことによって連続で魔法を行使し、発動させることが可能となるがその難易度は飛躍的に高まる為かなりの熟練を必要とする 通常、魔法は一つの単語もしくは句 節でしか放つことが出来ない 詠唱中に新たな単語や句、節を追加することによって魔法の発動を補助することが出来る ただし同じ種類の呪文の重ね掛けは不可能 例えば炎系呪文の場合は『ファイアー』というキーワードを唱えて発動させればその次に別の炎系呪文を唱えることは出来ない〉 New! ◆ 俺の全力の攻撃を受けてもなおゴブリンのHPバーの変動はない。そのことに驚いていた俺に向かってゴブリンは言葉を発する。

「どうした、そんなもので我を倒すことなどできると思うな。本気で殺す気があるのなら『聖光刃』くらい使ってこい」

俺はゴブリンの言葉に思わず笑みを浮かべてしまう。どうやらコイツが何を言っているのかがようやく理解できたからである。この世界の人間にとって聖光剣は切り札的な意味を持っていたのである。それは聖属性は魔物に特攻の属性であるだけでなく、光系統の最上位の攻撃魔法でもあったからだ。そんな強力な技を俺はゴブリンに対して使っていたのにも関わらずダメージを受けていないという。それがどんなに異常なことであるかは言わなくてもわかるはずだ。

だが俺にはそんなことよりも今一番重要なことが分かってしまったのだ。ゴブリンが俺のことを魔王の幹部だという発言をしたということからも予想通りではあるが俺の持っているステータスではゴブリンに勝てるわけがないのである。

つまり今の俺はただ殺されるためにここにいるというだけの存在になっているということだ。その事実に気が付いてしまうのはあまりにもショックだった。だけど俺にはまだ希望が残っていることに気付いたのである。

「俺もまだ奥の手を使ってない。これで俺が負けるなんて絶対にありえないんだ!」

俺はそう言い切り、そして行動を開始することにした。

まずは武器の回収から行うことにする。これは単純に『収納』に入れておけば勝手に回収してくれるためである。俺はそう思いながら目の前にいる奴に攻撃を仕掛けるのであった。

それからも暫くの間は戦い続けた。いや正確には一方的にやられ続けているというのが正しいだろう。俺にはもう余裕がなくなってしまっていた。だから攻撃を繰り出すにしてもかなり手加減したものだったのがバレていたのだと思う。しかし、それを分かった上で俺には勝ち目がなかった。それ程までに実力の差がありすぎたのだ。

(クソッ、ダメだ全然効いてねぇ)

俺が心の中で毒づいている間にも攻撃してくるのを必死になって避け続ける。ただそれだけで精一杯なのだ。

(くそっ! こんなところで終わるのか? まだ何もしていないまま終わっちまうっていうのか?)

俺の心の中には絶望しか存在していなかった。

(ここで死ぬくらいならばいっそこの場で死んでしまおう)俺の心に迷いが生じたその時のことだった。

突如地面が揺れ始め、それと同時に俺の方に向けてゴブリンの攻撃が激しくなったのである。それにより体勢が崩れた俺はその場に転んでしまい、そして次の瞬間俺の首筋には短刀が添えられてしまっていた。

(俺は一体何のために生きてきたんだよ。こんなところで死にたくなんて——なかったよ)

その思考を最後にして遂に俺は諦めることになってしまったのだった。

俺はまだ生きている?なんで生きてるんだ?あの時確かに俺は死を受け入れたはずだった。なのに何故か未だに生きていた。そして気が付いた時に視界に映ったのはこの世界に来てからの光景ばかりだったのだ。そして俺の身体からは傷一つなくなっていたのだが代わりに何か大事なものをなくしたような喪失感を感じ取っていた。すると突然声をかけられたのである。

【称号<魂を救済する者>を手に入れました】【レベルが上がります】【職業を創造する能力を手にしました】【能力付与を発動します】

◆名前◆斉藤始

◆種族◆人族 ◆LV100◆年齢:15

性別:男

◆サブマスター◆New! 無し◆ギルドランクG+ 所属◆【黒き使徒】◆詳細 冒険者:剣士:Lv99魔導士:LV1

鍛冶師:LV1

錬金術師:LV1

調合者:LV1

細工者:Lv1

料理作成者:Lv1

New!魔道具作成(錬金術使用限定スキル):New! New!鑑定 アイテムボックス 時空間操作 物理無効 状態異常無効 成長強化(中)

New!全能の目 New!時空操作(時戻しの魔眼 時戻しの能力により破損箇所や劣化箇所を元の状態に戻すことができる)New!全言語翻訳New!限界突破New!亜空間扉New! 鑑定眼 偽装 称号◆ 勇者 転移者 不屈の男NEW! 竜の寵愛New!龍神の契約New!神災New!神威 加護◆ 全能力増加 ◆固有技能◆ 全能の目 《鑑定》 《アイテムボックス》←NEW!亜空間扉new!異次元扉 神具の腕輪 《自動再生》 神速飛行瞬歩《神速移動》《神速移動II》 《体力上昇》 《魔力上昇》 《力上昇》《敏捷上昇》 《精神上昇》《幸運上昇》 《体力超上昇》《敏捷超上昇》《筋力超上昇》《精神上昇》 《スキル効果上昇 極大》 New!《限界突破 リミットブレイク 》New!

『限界突破』New! <体力とスタミナの限界を一時的に超えることができるようになり、更に短時間であればその上限を超えて行動することも可能になる> New!『魔法威力増大』

〈魔力を圧縮して攻撃することにより通常の数十倍の火力を発揮することができるがその際、圧縮された分だけ他の部分にある魔力が失われるため注意することが必要〉 New!『連続詠唱』New!<複数言葉を紡ぐことによって連続で魔法を行使することが可能となる> New!『魔法威力増大』New!<魔法の威力を増大させることが可能となる> New! ◆その他◆

『時空魔法』★9つで獲得できるスキル

『時戻し』

New!<破損箇所や劣化箇所を元に戻すことが可能な>

『限界突破』New! 〈体力とスタミナの限界を一時的に超えることが出来るようになり、更に短時間であればその上限を超えて行動することも可能になる〉 New!『スキル効果向上 極小』New! 〈全ての技能とスキルの熟練度と効果が二倍になる ただしステータス値は上昇しない 尚ステータス値の上昇効果はこの能力の対象外〉 New!『限界超越 リミットオーバー』

〈一時的に身体能力を格段に引き上げることが出来る〉 New! ◆ステータス◆ *()内は称号、技能の効果です 名前 佐藤和真

(さとう かずまさ)

職業 上級魔法使い(火魔法、土魔法)

性別 男 称号 異世界人 性格 普段はお調子者のへタレ、しかし仲間を守るための覚悟を決め、いざという時には冷静沈着なリーダーへと変貌できる素質を持つ 髪色 茶髪、セミロング、瞳の色 黒色 装備初級魔法の杖 魔法を使う際に威力を向上させる、初心者用 中級魔法の指輪 威力を高めたり魔法の速度を上げたりする 革製の胸当て 初心者の服 盗賊に変装する際に使用するために創られた服。

見た目は完全に普通の村人Aである。

ソフィアの祝福のイヤリング 幸運を2倍に上げる 魔力のネックレス 魔法の威力を大幅に高め魔力の回復速度が三分の一まで低下するが魔法の消費魔力を軽減する。

魔力回復のイヤリング 魔力を10秒毎に少しずつ回復する。

ソフィアのペンダントトップ

(アリス教徒にとっては信仰対象でもある水の神様。お金の神さまとしても崇拝されています)

New!『爆裂魔法』New!『雷光槍』

New!『風刃乱舞』

New!『岩砕鉄拳』

New!『闇波』New!『影踏み』New!『重力場』New! ◆ステータス◆

『筋力UP』☆4→5New!『俊敏UP』★7 ◆ステータス◆

(一般人)

(レベル1~20ぐらいの場合の数値です)

名前 レオン 性別 男 称号 引きこもり(レベル0)NEW! 職業 なし HP 40 MP 10/10 STR 1 DEX 2 AGI 4 VIT 0 INT 5 LUK 15(固定)

SPI 8 SKILL

(無職の為習得不可)

耐性(弱い)NEW!物理攻撃無効化NEW!水属性無効(ソフィアの影響)NEW!打撃攻撃無効化(アリス教信者から受けるダメージ軽減のため)NEW!麻痺、石化、暗闇無効NEW!即死無効 特殊技能(レアもの)『無限ガチャ』

(アリスから譲渡された。運が常に一定量アップし、また確率も常時1%上昇する。ただし一日の引換可能回数に制限があり一度の使用で999個までランダムで武器が召喚される。

運の値は、毎日引ける数が増え、一回で出現する数は変わらない)『神性魔術』

(ソフィアの加護を受けられる代わりにアリスの恩恵を失う)

◆ステータス◆ 名前 佐藤和真

(サトウレオンサ)

職業 アークプリースト(職業レベルMAX)

性別 女 称号 宴会好きの女神NEW! 年齢 20才

(見た目年齢は16歳)

性格 明るい。よく笑う。テンションが高い。下ネタを平気で口にする。だが心優しい一面も持つ。お酒が大好き。寂しいのが嫌い。泣き上戸&絡み酒。

容姿 長いストレートの金髪に青い瞳。かなりの美女でスタイル抜群でスレンダー。頭には白い大きなリボンをつけている。白のブラウスと膝丈ほどの紺色のスカートを着用し、黒いニーソックスにショートブーツを履いている。左手首には金のブレスレットをしている。身長158cm、B89、W55、H88の巨峰の持ち主。服装は日によって違う 性格 基本的に楽観主義。楽しいことには全力で取り組む。でも仕事と趣味は分けたいタイプ。意外にも家庭的で家事ができる。子供っぽい面もある。怒ると怖い。

名前 ソフィア 種族 人間 性別 女神(女性?)

職業 アークプリースト? 年齢 不明 称号 アクシズ教団教祖 ドレインを司る女神 破壊の使徒 NEW!『豊饒の女神』(土魔法レベル3で発現する称号。クリエイトアンデットを使用できる。死してなお動くことのできる死者を操ることができる。レベルが上がることにより死して間もない者を蘇生させることができる。死しても自我を持ち活動可能な者を動かすことも可能。死体を意のままに操ることが出来る。レベルが上がることでゾンビなど死霊使い系のモンスターを生み出すことが可能となる)NEW!『大地母神』(生命力を与える女神、あらゆる生物、鉱物に対して治癒の力を与えられる)NEW!「神殺し」(相手の神格よりも神性が高ければ相手を強制的に堕とす事が出来る。ただし相手神性の1/1000必要)

*以下省略*New!リッチー(ノーライフキング)New!大天使サリエル(アークエンジェルの上位)New!大悪魔サタン(アモン)New!魔王ベルゼブブNew!神獣フェンリルNew!大魔道グランドデーモンNew!魔神バニル New!吸血鬼真祖New!精霊王ウンディーネNew!竜王リヴァイアサんNew!種族 半不死者ハーフイモータル New!ヴァンパイア 寿命 なし 魔力 100/100 最大魔力値 100000/100 魔力制御能力

100.0/100 New!

『状態異常完全耐性』New!『物理状態異常無効化』New!『精神状態異常無効化』New!『全属性状態異常無効』New!『魔法耐性強化』New!『状態異常付与』New! ◆ステータス◆

『筋力UP』☆4

『知力UP』★6→8New!

『敏捷』

『体力』★4

『精神』★1 ◆スキル◆

『全言語翻訳』

『剣術初級』New!『体力上昇』New!

『腕力上昇』New!『俊敏上昇』New!『魔力上昇』New!『体力維持』New!

『身体強化』『力増加』New!『防御力増加』New!『筋力上昇』New!

『体力持続』New!『敏速維持』New!『瞬発加速』New!『耐久持久』New!『肉体保護』New!『痛覚耐性』New!『物理障壁』New!『魔法抵抗(微)』New!『体力吸収』New!『魔力回復速度上昇』New!『魔力上昇』New!『魔力消費量減少』New!『魔力精密操作』New!『魔力感知』New!『危機察知』New!『魔法発動短縮』New!『連続魔法』New!『高速魔法』New!『魔力集中』New!『無詠唱』New!『威圧』New!『風刃剣舞』New!

『火矢』

New!

『水矢』

New!

『土弾』

New!

『風槍』

New!

『雷槍』

New!

『光壁』

New!

『闇の沼』

New!

『闇穴』

New!『水刃』

New!

『火球』

New!

『水龍』

New!

『風牙』

New!

『土槍』

New!

『土槍』

New!

『光矢』

New!

『光束』

New!

『爆炎波』New! ◆称号◆

(アクシズ教の狂信者であり、信仰するアリスの神託を受けてこの世界に召喚されアリス教団を設立した人物でもある)

◆ステータス◆ 名前 アリス 種族 下級女神 性別 女(アリス教信者からは女神さまと慕われている存在)

称号 アクシズ教徒の導き手 NEW!

(アリスから加護を受けると同時に信仰する信者達からの信頼がMAXとなった為、女神の啓示を受けたとされる女神アリスの降臨ができるようになった)

職業

なし 年齢 秘密 性格 明るい、世話好き、仲間思い。仲間のために戦う事が好きである。料理が得意で家事もできるが壊滅的 備考:元地球の日本の学生(高校生)であった記憶を持つ、実は日本生まれ日本育ち。見た目は17才。身長155cm。Aカップ。スリーサイズ B75 W56 H83 髪色 銀色。腰まであるストレートヘアを後ろで結わえている。瞳の色は紅い色 容姿は整っておりかなり美人である。髪色が違うだけで顔は和真に似ている。服装は白いブラウスに紺のロングスカートに黒タイツ、茶色の編み上げロングブーツという出で立ちである。身長は160cm。バストはCカップ程あるが全体的に華奢な体格であるため実際の数値より少し小さく見える。和真の事を名前で呼び捨てにしてしまう事がある。

和真の事を兄としてではなく男性として好きになってしまったようだ。和真のためならば自分がどんな目に遭おうとも構わずに行動することができるほど心優しく愛情が深い人物である(但し自分を犠牲にする傾向もあるため注意が必要だ)。

名前

(ソフィア)

(年齢不明)

称号 宴会好きな女神(宴会大好きのあまり宴会芸に目覚める)NEW! 年齢 20才(見た目年齢は16歳)

職業 なし(ソフィア教の女神)NEW! 性別 女(ソフィア教の信者たちから熱狂的な人気がある)NEW! 称号

(宴会の女神どんちゃん騒ぎが大好きだ!お酒が大好物)

名前

(モニカ)

(15才)

職業 冒険者(アークウィザード)

性別 女(紅魔族で、一族の中でも飛び抜けて高い魔法の才能を持ち魔法威力を高める杖とフルアーマーを装備し爆裂魔法を使いこなす少女。また頭の回転は速いが、口が悪く攻撃的な性格をしている。だが優しいところもあり仲間の面倒見もいい。和真の事はかなり気になっている)NEW! 名前(セレスティア)

(19才)

職業 クルセイダー 性別 女(パーティーの中では一番常識人。普段は礼儀正しい令嬢のような女性。ただ自分の身を危険にさらされたりすると興奮してドM体質が出てしまう)NEW! 名前

(クリス)

(16才)

職業 盗賊(シーフアリス教団では義賊として活動中。アリス教の教えを守り弱い立場の人たちの為に活動する事を誓っている)NEW! 年齢 16才 性別 男(見た目は完全に少年。童顔のため年齢は低く見られがち)

職業 アークプリースト(職業レベルMAXレオンのパーティの唯一のプリースト)NEW! 年齢 20才(見た目年齢は16歳)

称号

(女神アリスの信者の一人。義賊として活動している。)NEW! ◆ ─アクセルの街郊外、湖畔 俺の放った一撃により巨大な水柱が立ち上り、それを確認した俺はすぐさま次の標的へと向かう。俺の拳と刀は、それぞれ四人の騎士たちを屠ったわけだが、まだ戦闘不能に陥ってはいないようだった。しかしそれも時間の問題だと思う。

「おらぁあああ!」

「くっ!?」

「うおっとぉお!? お、お前は一体何者だ! 貴様など私は知らないぞ!!」

騎士たちが驚愕した表情を浮かべ俺を見る中の一人。その男が叫んだ問いに対し俺は、こう答えることにする

「さっき言ったろ?"俺は魔王軍と戦うために異世界から呼ばれた勇者なんだ"ってよ。覚えていてくれなかったみたいだけどね」

そう言うなり男は俺に対して剣を振りかぶってきた。そんな彼に対して俺は冷静に対処し、相手の斬撃を避けると共にカウンターを叩き込んだ

「"神脚"」

ただ単に神速の動きを見せるだけじゃない、そこから派生させるようにして繰り出される蹴りによって相手の鎧を破壊し、相手の体を突き破る。それが今の技の本質だと気づいたのは何時のことだっただろうか? ともかくこれで残りの三人を片付けるだけだな。俺は改めて敵の姿を眺め、一人納得するように首を振る。残り三人のうち二人が女なのは好都合だ。こいつらの力を奪うことが出来れば更に勝率を上げる事ができるかもしれない。そしてもう一人はおそらく、あの仮面をつけた奴だろうな。

「へー。あれだけの数を相手にたった一人で戦って生き残れるなんてやるじゃんあんた」

「それはどっちの意味かな? 褒められているのなら素直に感謝したいところなんだけどね。でも君たちはどうやら、僕を殺すつもりらしい。つまり、そういうことなんだろう?」

僕は今、敵の女と向かい合いながらそんな言葉を交わす。この女もまた強者の気配を放っているけれど、他の二人はそれ以上だ。この分厚い結界を易々と破壊してくるほどの力をこの女の背後で構えてるあの仮面の男には、恐らく勝てないと思う。それでも逃げられない以上はこの三人の相手はしなくてはならないか。

それにしても、あの仮面を被った謎の男の魔法陣からは続々と悪魔達が這い出してきているのが見える。もしかすると召喚の儀を行っている最中なのかもしれないな。それなのになぜこの連中はこんなにも早くここに現れたんだろう?

「まあ、私達は別にあんたを殺したくて仕方がない訳じゃ無いんだよ。むしろ殺したくないと思ってるところだよ、うん。けど、上からの命令だからさ、あんたが本当に勇者なら殺さずに無力化しろってね。悪いとは思うんだ。だから抵抗しないで欲しい。そうすれば命だけは助けられる筈なんだよ、本当だよ。お願いだからもうちょっと抵抗せずに降参して欲しい、な?」

目の前の女の言い分に、内心苦笑してしまった。随分と白々しいことを言う。抵抗する気はないと言えば見逃してくれるのだろうか? もしそう言われたのであれば、確かに僕は何も出来ずに終わることになるだろう。だけど

『抵抗するな』と言うわりに、彼らは問答無用で斬りかかってきたよね。これじゃ抵抗するなって言ってるようなもんじゃないか

『どうしますか、マスター?』

脳内に声が響いたと思った途端に目の前にいた筈の女の姿が消える。僕のスキルによるものだ。

『"スティール"』

刹那。何かを奪われた気がした。慌てて辺りを見渡すも何も盗まれたものが無いことに気づく。どういうことだと戸惑っていたところで、ようやく気付く。

剣を持っていたはずの右腕に妙なものが付いている事に。まるで腕輪のようになっているこれは一体何なのだと思いそれを触ろうとするが

『ダメですよ、壊さないでください。あなたにとっては大切なものです』

先ほど聞こえてきた、女性のものと思われる澄み渡ったような美しい声が頭に響き渡る。思わずビクッとしてしまい手を引っ込めてしまう。そんな事を考えている間に、今度は左手が勝手に動いてしまう。まさかと思ったがその予想は当たった。

僕の意思に反して動いた両手がゆっくりと上がり始めたのだ。

『ふぅ、よかった。やっぱり、思ったとおり私の力が使えているようですね』

またしても声が響く。そこでハッとする。そうだ。これは彼女の力。神から与えられた神の加護の一つ、『スティール能力』を使ったことによるものだった。

『では改めて、自己紹介をさせていただきます。わたくしは幸運を司る女神、ソフィアです。初めまして、レオンさん。本来ならあなたみたいな弱虫をわざわざこちらの世界に招いてあげる必要はないんですが、今回は特別に召喚されてあげましたよ。だって、私がいなきゃ、そこのおバカな二柱の神に世界を滅ぼされちゃいますもの。感謝してくださいね。一応、あなたの事は聞いてます。なんでも、魔王軍にご実家と家族を奪われて悲嘆にくれていたところ、天啓に導かれ魔王討伐のために立ち上がる決心をしたとかなんとか。その話を聞いたときは不覚にも泣いちゃいました。いやまあ、実際は泣いてませんけどっ! と、まあ、つまらない話は置いておいて。とりあえず今は、その奪われたものをお返ししようと思います。ちなみにこのわたくしは凄いです。まずレベル1の冒険者でしかなかったあなたをいきなり最強にできますし。さらに、どんなに過酷な運命に見舞われようと決して死ぬことがありません。ついでにお金なんかもたっぷりありますから、安心してください。なんたって、神様ですから!』

「い、いや、そんな事よりもさっさとコレ外してくれよ。っていうかなんで、僕の名前を?」

自分の意思で動けるようになった左腕を動かしながら僕はソフィアと名乗る女にそう言う。正直言って、こんな事を話している余裕があるんだったらもっと先に聞くことがあると思う。だけど何故かわからないけど彼女と話しているうちに心の中に温かい気持ちが流れ込んできたせいか、そこまでの危機感を感じる事ができなかった

「はい、では、外して差し上げましょう。──でも、タダでは駄目なの」

女の言葉と共に右手が熱くなるのを感じ、そこに視線を向けた瞬間には既にソレがなくなっていた。いったい何が起こったのかと驚きの声を上げようとする前に「さてと、これで、やっと自由に動かせ──!? くっ、はあああああっ!? あ、熱いぃいいいっ!! や、焼ける、燃えるっ、体がぁああ!!」

唐突に全身を襲う激しい痛みに意識を失う寸前に見た物は

「ああっ! す、すいませーーーーーーん! あ、ああ謝りますから! ちょろっと失敗してしまっただけですから! 本当は外れないようにロックをかけておくはずなんですよ! 本当ですよ! そ、そうよ、この子のレベルを10くらい上げておきなさいよ! じゃないとすぐに死んじゃうから! お願いね、アリス!」

(なんだよこいつは! 女神なのか、悪魔なのか、はっきりさせて欲しいよ。あと、アリス様。あんたも、もう少し真面目な感じを出してくれたら僕も納得出来たんだけどなぁー)

そんなことを考えながら薄れゆく視界の中、目の前の女神を自称するふざけた女の足元に見覚えのある仮面が二つ落ちていくのを見た僕は──完全に気絶した *

* * *

俺とモニカがそれぞれの戦闘を始めて暫くすると、モニカとセレスティアの戦いは膠着状態に陥った。お互い一撃も攻撃を当てていないもののその均衡が崩れるのもまた時間の問題だと思う。なぜならモニカの魔法の威力はかなりの物だし、それに対して防御力が高いとはいえないであろう、セレスティアの攻撃は一発でも当たれば致命傷となる。

「──フハハハハハハ! 我が名はベルゼルグ・ダグラスファー! アークウィザードを生業とし魔王軍の幹部が一人、この紅魔族随一の魔法使いである! 貴様のその薄っぺらい鎧ごとき貫く爆裂魔法を食らうがいい!」

そうこう考えている内にまた新たな敵が現れやがった。俺に襲いかかってくる連中とは違い一人だけ離れたところに立っている。おそらくこいつが例の幹部なのだろう

「我が必殺のバーストフレイムを受けろ!」

そんな叫び声と共に放たれた上級の火魔法はセレスティアに命中したかに思われたが、彼女はその攻撃を難なく受け止めてしまった

「な、なんと、私の全力の魔法を受けて無事とは」

どうせあの変態の防御を抜けるほどのダメージなんて与えようとしても無理だろう。ならばと俺は再び走り出す。狙うは当然仮面をつけた奴だ。奴の力は俺が一番知っているんだ。こいつを倒せば少なくとも敵の数は一気に減らすことが出来るはずだ

「おいレオン、何をする気か知らないけれど、気をつけろよ」

「お前の言うことを聞いていればきっとどうにかなる。任せておけ」

俺はそれだけ言うと、仮面をつけた男の目の前へと移動した。そして男に向かって手を伸ばし

『スティール』

スキルを放つと、やはりと言うべきか仮面の下に隠し持っていた武器を盗ることができたようだ。そのまま仮面の男の持つ槍を地面に突き刺すと仮面の男はその槍を取り返そうと必死になって手を伸ばそうとした

「"スティール"スティール、スティールスティールスティールスティールスティールスティールスティールスティールスティール!

『クリエイトアース』

"ウインドブレス""ウインドブレス"」

俺は魔法陣を展開して地面の土を変質させて相手の足元の地面だけを隆起させると、風の魔法で仮面の男が手にしようとした武器が浮かび上がる。それを確認するとすぐさまその場を離れようとしたところで背後からの気配に気付き振り返った

「さすがね、あんた。なかなか強いわね。さっきは手を抜いて戦っていたのね。まあいいわ。どう? あたしと一緒に来てくれない? あんたほどの強さを持った人間が仲間ならとても頼もしいし、何より面白そうじゃない?」

そんなことを言ってきやがるのは先ほどまでの茶番劇を見てもなお戦う気満々といった様子の女。さてと、どうするか。正直言えば、勝算はあるにはあるのだがそれでもあの変態が言っていたようにかなりのリスクがある

「あら? 悩んでるみたいね。もしかして、怖いの? ふふ、しょうがないな。ここはひとつ私からあなたにプレゼントをしてあげるわ。──そう、これを見なさいっ!」

女は何かを懐から取り出したかと思うとそれを口にした。その直後、先ほどよりも更に凄まじい力が全身にみなぎっていくのを感じた

「さあ、これであなたが負ける理由はなくなった。私は女神よ。それもとっても偉大な。この力を使ってあなたを叩きのめしてあげるわ。だから、あなたも本気で来なさい。──じゃ、行くわよ。さっさと倒れてくれないと飽きちゃうし。──ねえ、あなた名前は?」

俺に襲い掛かろうとしていたその時、後ろの方から聞こえてきた声が耳に届いた。それに反応したらしい女の気が少し乱れ、動きが鈍った隙をついて一気に間合いを詰めると、女の顎を思いっきり殴りつける

「がぁあっ! な、なにするのよこの変態が! 女の子の顔に何てことしてくれるの!? しかもこんな大勢の前で! あんたなんてもう許さないからね。絶対にぶっ殺してやるんだから!」

「いや、別にお前にどう思われようと構わないんだけどさ、今の状況でそういう台詞を言われるってことは、つまり、お前って、あれだよな。痴女ってヤツなんだよな。あれ? おかしいな。この世界にそういう単語ってないはずなのにどうしてそんな言葉が通じちゃってるんだろうな」

「なっ、ちっ、違うわよ! わ、私が痴女ってわけないでしょう!?」

(えーっと確か、こいつはソフィアって名前だったか?)


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僕が目覚める頃には戦いはほぼ終わりに差し掛かっているような雰囲気だった。しかし、そんな中でも相変わらずモニカだけは諦めずに果敢に立ち向かっているようで、その光景を目の当たりにしていたセレスティアはというと

『クルセイダーは盾なのだ! どんな強靭な攻撃であろうとも耐えてみせる!』

(ああもうっ! これではいつまで経っても決着がつかないぞ! こうなったら仕方がない!)

僕が再びソフィアに近づこうとするとその肩を誰かに捕まれた

『セレスティア! いい加減にしてくれないか、このままだと二人共危ないし、何より君の仲間が!』

僕は思わず大きな声で叫んでしまったのだけれども

「まあまあそうかっかすんなって。こういう時のためにとっときのアレを用意してあるからさ、ちょいと待ちなよ。って言ってもこれ使ったらあいつら怒っちまいそうだな。いや、待てよ。むしろいいチャンスかもしれん。よし、じゃあいくぜ、──ッ!」

彼は突然僕の方に顔を向けると何かを投げつけてき た。反射的に僕はその何かを両手で受け取めた。なんだかよく分からないけど彼がくれた物は大事にしないといけないと思ったからだ

(これは一体なんなんだ? まさか爆弾とかだったりはしないよね)

僕は受け取ったソレをしげしげと眺めていると──『バタン』『レオンーーーーーーーーーーー!!』「へ? うわああああああっ!!!!」『きゃああああああっ!!!!』「ぐぼぁっ!」

「な、何事だ! 大丈夫かセレスティア!」

いきなり扉をぶち壊しながら飛び込んできた人物。それが何者か確認しようと目を向けてみるが僕には一瞬誰なのか分からなかった。だがその人物が顔を覆っている覆面に視線がいく。そう、僕をこの世界に連れてきたあの少年だ

「な、なぜお前達がここに!」

セレスティアの声に反応したのか、少女の覆面を外して見せた。その瞬間セレスティアの目が大きく開かれる。なぜならそこにあったのは僕がこの世界で見た中で最も美しい女性、その人だったのだから

「な、な、なな! なぜ! アリス様と!」

「はぁはぁはぁ、くそっ、なんて重い装備なんだ」

「おおっ、さすがだ。お前はやっぱスゲーよ。──と、とりあえずは助かったがいったいなんでお前が、てかなんだよそのカッコ」

レオンさんが不思議そうに僕の格好を見ていたが僕はそれどころではなかった

「──セレスティア」

「──アリス様」

アリス様は息を整えて改めてこちらへと向き直る

「さっき、ベルゼルグくんと話しました。彼からセレスティアさんの事を頼まれたんです。どうか信じて欲しい、と」

彼女は真剣な表情で語り始める

「ベルゼルグくんから聞きました。あの魔王軍幹部が放った魔法の中、その攻撃があなたに向かうのを知って身を挺して庇ったんですよね?」

「はい。私の鎧があの一撃に耐えられるかどうかなど関係なく。ただ、体が動いていました。そしてその行動に後悔はありません。セレスティアが生きていてくれたのであればそれでいいのです」

「本当に、いい仲間を持ったのですね。セレスティア。──さっきあなたはあの人が言ったことを覚えていますか? 私はあの人から、いえ、彼の仲間たちからあなたを預かっている身です。なので、あなたの命は保証します」「え? それは、どういう意味で──?」

僕は困惑する。だってさっきの話を聞く限りだと、彼女の仲間というのはレオン達ではなくもっと別の人を指しているのではないかと思い

「ふむ。まあ詳しい話は後ほどしましょう。とにかくレオンさん! セレスティアをお願いします! 私はまだ用事があるもので──」


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俺が意識を取り戻すとそこにはなぜかレオンがいた。どうしたんだこいつはと尋ねてみると、アリス様とやらに会ってきた帰りだと答えた。そこで、レオンから俺に伝言があると言われ

「お前も知ってると思うが俺はこれからアクセルの街に帰る。俺とダチになってくれて、ありがとうな」

俺が返事をする間もなく目の前の男は光に包まれていく

「おいおい。まだ話終わってないんだけど。ちょっとだけ待ってくれって。おいっ! おーい!! ったく。行っちまったよ。俺、何か変なことしたか?」

「まったく! なんなのよあの女神は!」

『あそこまで無礼を働くとさすがのソフィアでもキレるのも無理はない』

「なによ。あの偉そうな女。女神ってのが本当ならちゃんと敬ってほしいわね! あんたが女神の知り合いでよかったわね。もし私が本物の女神だってことが分かってたら、今頃あんたは死んでたわよ?」

「ああ、まったくだ。あんな失礼なやつを崇めなければならない神とやらは大変だろう。それならあの変態を崇めていた方がいくらか気分も良くなると言うものだ。そう言えばお前とあの変態とはどのような関係なんだ? さっきもあの変態のことを気安く呼んでいたようだったしな。ひょっとして恋人同士なのか?」

そう尋ねると何故かこの変態が真っ赤になった

「ば、馬鹿言わないで頂戴! あの男なんかが私の恋人なわけないじゃないの。まあ、あれよ、ほら、その、あいつって、あれじゃない。ほらあれよ、えっと、なんだっけ、そう、──友達なの! それにあれと恋人になるくらいだったらゴブリンのメスの方が100倍マシよ! 100億万倍ね!」

『あはは、相変わらず酷い言いようだね。まあでも確かにあいつとだけはごめんだよ。あれには人としての尊厳というものがないもんね』

僕が思わず苦笑するとソフィアはさらに言葉を続けていく

「まったく! ほんっと最悪な出会いよ!あの時の私は今よりもずっと弱っちい存在だったし。そりゃあまあそのせいでいろいろ苦労したわ。でもでもしょうがないわよね。だって女神だもの。弱者をいたわるのも役目のうちなのよね。だからあの変態には精一杯優しくしてあげたの! 感謝して欲しいわ!」

「お前、優しいという言葉の意味を理解しているのか?」

「もう! しつこいのよセレスティア! 大体あんたの方こそ何なのよ! いきなり現れて私のレオンーを横取りしたと思ったら今度はこの女を連れてきやがって! 一体どうするつもりなのよ!」

「ふん、どうするもこうするも、ベルゼルグはもう私たちの仲間だ」

「は? 何言ってんのおバカなクルセイダー様は? 頭沸いてるわけ? こんな子と一緒に冒険とかマジありえないんですけど。っていうかさーこの子の事だけどさー、こいつってあれでしょ? どうせあれでしょ? この子に惚れてんでしょー? でもダメよー? こんな子はレオンーの女なんだから!」

ソフィアの言葉を聞いてセレスティアの動きはピタリと止まった。しかし僕としてはなんとも複雑な心境である。僕は別にソフィアとそういった関係になった覚えがないのだが。しかしソフィアがそんな僕に気を利かせてかフォローしてくれるようで

「ほれほら、よく見なさいよこの子。レオンーみたいなヒモに騙されてるのよ。まあいいわ、私は優しい神様だし。ここはひとつこの哀れな迷える娘に道を示してあげてもいいかしら」

「ちょ、お前なぁ!」

『ちょ、ちょっ、ちょっと待ちなよ二人共。──ソフィア、悪いけれど君が言うところのこの人の評価については、ボクも同じだよ。セレスティアはこの人に恋をしてた。うん、間違いない。だってセレスティアってすごくわかりやすい性格をしているし、見てればすぐ分かるよ。それに君、さっき自分で言ってたじゃないか。レオンーは君の男なんだろ?』

僕の発言が余程気に食わなかったらしく

「ち、違うのだベルゼルグ、これはその」などと顔を赤く染めてもじもじと指をくんでいる。僕はそれを見て小さくため息を漏らすと

『ソフィア。君はこの世界において重要な役割を果たしているんだろう? それを蔑ろにしていいと思ってるのか? それともこの人はレオンより遥かに優れた人間なのかい? レオンは間違いなくクズでカスで最弱職のアークウィザードだけど。それに比べてもこのセレスティアの実力はかなり高いはずだけどね。もちろんセレスティアと比べるのは可哀想だけれど。それに君にはそれだけの力と才能を持っているんだ。それならば自分の力だけで問題を解決することだってできるはずなんだよ。それが出来ないという事はやっぱりその程度の能力しか持ち合わせていないということだよね? ソフィア、君の事を本当に思ってくれる人たちがどれだけ貴重なのか分からないのかい? ボクたちは確かに同じ目的のために共に行動してはいる。けれどその目的は絶対に果たされるとは限らない。もしかすると途中で別れるかもしれない。なのに君だけがこの世界で一人になってしまう可能性だって十分にあり得るんだ。この人と行動して、もしもこの人を仲間として信用できなかったり裏切るような行動が見られた場合。その時は君が責任を取って、その人を殺すんだ』

「そ、それは──」

『そしてセレスティアはおそらく、レオンを殺せるだけの力を持ち合わせてると思う。それはセレスティアが仲間を大事にする心を持っていればの話だがね。そしてそれはこの人だけじゃない。仲間を大切にしない者に幸せなんて訪れないよ』

僕はセレスティアと、セレスティアの隣に立つこの世で最も価値のない人間の方を見る

「おい! 今俺を見ながら何かひどいこと考えてただろ」

「レオン、ベルゼルグはお前の事など言っていない。自意識過剰もここまで来るともはや憐みすら感じてくるな」

「くっ! ちくしょう、ちくしょう!」

僕は涙目でうなるその男の事を無視

「それで、セレスティア、キミのその思いはまだ変わらないのかな?」

セレスティアは俯き、そして顔を上げる

「私は、正直お前の言っていることがまだうまく飲み込めない」

「そうだろうね」

「でも──」セレスティアが僕の手をぎゅっと握り締めると「──でも、お前に、ベルゼルグに付いて行きたい。今はそれだけで構わないから。お願い、します、付いて、行かして、ください」


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「さてさてさあ! さっきはあの変態においしいところ取られちゃったし! ここで私が活躍しなくっちゃあね!」

ソフィアがやる気を見せる中。アリス様の転移魔法で移動した僕ら一行は先ほどと同じ洞窟の中へと再びやってきていた。僕はそこでさっきまでゴブリンと戦っていた場所に倒れているオーガの死体に目をやる

「どうやら、僕達がやられる直前に放った攻撃によって絶命していたようですね」

その言葉でレオンが驚いた表情を浮かべる

「お前らあの技使ったのかよ。俺なんかじゃあ全く使い物にならないって言ってたくせに。まったくお前らの勇気ある戦いぶりには驚かされっぱなしだよ。なあ、ベルゼルグ。──いや、ベルゼブフだっけ?」

「ベルゼルグで構いませんよレオン。それにしてもどうしてあんなに早くに決着がついたのですか?」

「ああ、それはあれだよ。あの時お前があの技を使わなかったとしてもな、実は結構ギリギリの戦いだったんだよ。だからお前らが戦ってる間にもこっちは色々と作戦を立ててたって訳だ。で、その考えが大当たりってな。ゴブリンの群れもあっと言う間に片付いたしさ、そんでもまだ余裕があるように思えたからお前にあんなこと言っておいたんだ。そうしないとあいつらも安心して動けないだろうしな。あの時のお前の攻撃が最後の一撃だった。お前ら、ホントよくやったぜ。ありがとうな。お陰であれだけ手強かったオーガーを倒すことができた。ゴブリンキングだってもう心配はない。だから後は残った雑魚だけだ。あいつらは数も多いし油断できないからな。特にあのソフィアの魔法には気を付けろよ?」

「なあ、ところでソフィアが使う魔法についてなんだが。あの魔法って一体どういう原理で放たれてるんだ?」

その言葉を聞いた途端。レオンは呆れた様子でため息をつく

「なんだなんだ、そのリアクションは! 私だってたまには疑問を抱くぞ! だっておかしいじゃないか! さっきのソフィアの魔弾の発射。あれは魔法を使った後に起こる現象だっただろ。なら詠唱が不要な私でも同じようなことができるはずだ!」

「はい? ちょっと待ってくださいね、あなた何を言ってますの? あれのどこが魔法の発動前動作だっていうのよ。ねえレオンーあれ何? なんなの? こいつ頭沸いてんじゃないの!?」

ソフィアがドン引きといった様相だ

「あれはねー。ま、なんというか。この女はこう見えてすごい魔法使いなんだよ。ま、普段はポンコツだからあまり凄さが伝わらないがな。ちなみにこいつはこう見えて上級魔法をバンバン使える。しかも威力もなかなかなものだ。あとこの世界のほとんどのやつよりステータスが高い。ただし、残念なことに、戦闘経験がないんだなこれが。ま、それはともかく。つまりだな、こいつが撃つあのデカイやつはだな、こう、ぶーんっていう衝撃波が空気を切りさくようにしてだな。そして着弾した地点はまるでそこを中心にして大爆発が起こるっていう、ま、そういうことだ。要するによくわからないけど強い。それが俺から見たソフィアって奴なんだ」

ソフィアの顔が真っ赤に染まっているのは怒りだろうか? 恥ずかしさ?

「レオンーっ!! あんた喧嘩売ってんの? ねえちょっとあんたちょっと表に出なさいよ!!」

「ほれ、見とけっ! こういうやつなの! わかったか、覚えたか! よし! んじゃそろそろ、行くとすっか。まずソフィアのやつに活躍させねぇと後が面倒だしな」

「ふふん、任せなさい! 私の手にかかればオークの一ダースや二ダースくらいチョロいっもんよ!」

「よしっ! ソフィアのことはとりあえず置いておく。問題はこいつだよ。セレスティアはお前に付いて行きたいとのことだ。だがなぁ──、俺は認めない。お前みたいな世間知らずの変態娘に仲間を預ける事はできないっ! おい、お前らよく聞け。いいか。今から、この世で一番優秀な冒険者ってもんを見せてやる。よっく見てろよ」

レオンが自信たっぷりに言い放つと、突然地面が激しく揺れた。僕はその震源の方を見ると

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょちょちょちょちょちょ、ちょ、これなに! 地震! この世界でも起きるの?! ていうかちょっとやばくない?」

『ソフィア落ち着いて! こんなことで驚いてたらキリが無いよ!』

「え? ちょちょちょちょちょっと、なんかどんどん大きくなってない? ヤバイわよこの大きさ。ちょ、レオンー! レオンー!! カジュマー!!!」

そんな二人のやり取りを見て。セレスティアはなぜか嬉しそうな笑みを浮かべていた

「おいセレスティア、何笑ってんだよ!」

レオンの言葉を聞いて僕はセレスティアの方を見る。そしてセレスティアの足元が光るのが見えた。

「おい、なんだよあれ! なんであんなに眩しいんだよ」

「──あれは」

「──召喚の儀です」

僕らは同時に声を発したその先にいた人物、女神アリス様の姿は一瞬のうちにその姿を消した。

**

***

その男──佐藤和真は、今まさに人生最大の危機に立たされようとしていた。この世界で最強の存在であるはずの自分が、今この世界で最も危険な存在と対峙しているのだ。その危険因子の名前は"神器セイクリッド•ロスナイル"というらしい。アリスからその名を教えてもらった時は思わず聞き返してしまった。だがしかし。これは間違いない、その武器はまさしく本物だ、なぜならば目の前に存在するそいつはその神々しいまでの輝きを放っているからだ。そいつもレオンの事を認識しているのかじっと見つめたまま微動だにしない。いやむしろ何かを語り掛けてきているようにも見える

「お前は誰だ」

──レオンが喋った。僕ではなくレオンが話し始めた。どうなっているのかはよくわからないけれど今なら──。僕は覚悟を決めるとその人影へと駆け寄る

「ベルゼルグ! お前、どうして──」

レオンがそう言いかけた時、そいつは剣を構えてレオンを牽制した

「お前の問いには答えられない」

「なんでだよ!」

「それはこちらがお前に尋ねたい。なぜあの時私を助けた?」

あ、あの時ってのは多分あの洞窟の中での事を言っているのだろう

「そりゃお前が──」

そこまで言ってレオンはハッとした表情を浮かべる

「まさか、ベルゼルグ。お前、俺のことを覚えてないって言うんじゃないだろうな」

その質問を受けたベルゼルグと呼ばれた男が目を見開いた。すると次の瞬間、その顔が見る間に青ざめていき、カタカタ震え始めた。それを見たレオンがため息をつくと、頭を掻きながら語り掛ける

「はぁ、まあいいさ。お前の事はアリスから聞いている。なんでも、その、あれなんだろ? あのクソジジイが言ってた、お前が記憶を失ったのはきっとあのダンジョンにいたからだって。お前が俺達のパーティーに入ることになった理由はそういう理由なんだって。だから気にすることなんかないさ。まあ俺としてはお前にまた会えて良かったと思っているよ。よろしく頼むぜベルゼルグ!」

レオンが笑いかける中、そのベルゼルグと呼ばれていた人は涙を流していた。どうやらよっぽど嬉しいみたいだ。そしてレオンはベルゼルグの手を握るとブンブン振っていたんだけど、急にある一点を眺め始める。その視線の先を追った僕が見たのはソフィアの頭の上でピヨるモニカの可愛い姿だった。そしてレオンはニヤリと不敵な笑みを浮かべると──。

「さてさて。ではでは、そろそろ、お前にお返ししますかね!」

「レオンーッ!!! あんたちょっと表に出なさいよーっ!!」

*

* * *


***

洞窟の中へ突入して間もなくのところだった 突如として、地面に描かれた魔法陣のようなものが輝いたと思うとそこから現れた謎の人型のモンスター、その姿はなんとも奇妙であり、まるで幽霊のように半透明だ。しかしその身体を覆う甲冑は禍々しく、兜の中から時折発せられる声もどこか不気味な感じである。その外見があまりにも恐ろしかったせいだろうか。ソフィアは僕の腕にしがみつきながらも小声で囁いてきた

「ねえセレスティア、あの化け物って何?! もしかしてリッチーの仲間? ねえ、ねえねえ、リッチーってアンデッドの親玉じゃないの?! ねえレオン、もしかしてあそこにも、うじゃうじゃと、そのー。なんていうか、そのー、アレ的な奴がいるわけ?! ちょっと、レオンさんレオンさん! ねえってば! ちょっと聞いてるんですけど?!」そんなやり取りをしていた僕らの元へレオンの知り合いのようであった、その人が現れたのである。

*

* * *


***

*

***

【緊急警報発令】

〜冒険者よ〜

(ソフィア)

この世の終わりを目撃することになるであろう、気をつけろ。

〜ウィズより全魔法使いに告ぐ〜

(レオン達一同)

は? この世の終わりを目撃するだの、全魔法使いに告ぐだの、一体何を言ってるんだろう。というかあの魔法陣から出てきたやつはいったいなんなんだろうか。あれも悪魔の一種なんじゃないかな

『レオン! あいつからとんでもない気配を感じる。気をつけて』

「おう、任せとけ。あの時の借り、きっちり返させてもらうとするかな」

レオンが腰を落とし構えを取った。相手はといえば未だ無言を貫き通している

「な、何? 何が始まるっていうの? ねえ、レオンってば何やる気満々になってんのよ」

『さっきから思ってたけどレオンってちょっとおかしいよね。なんか言動とか雰囲気も普段とだいぶ違うし。それにさ、今ソフィアに何やるのか説明してなかった? この前も同じようなことがあったような気がするけどその時は何もしてなくない?』

(ソフィア:それは私がレオンの脳内に直接話しかけてるからだと思いますけど。あと、それはきっとレオンさんの意識がもうろうとしていた時じゃないでしょうか? そんな時は、普段はあまり使わない脳の部分を無意識に使っていたのかも。それともう一つ。多分レオンさんの記憶が戻ったからだと思われます。詳しいことは分かりませんが、おそらく、今ここにいるのは過去のレオンであって今のレオンではありません。以前の彼は、どちらかというと優柔不断なタイプですが今のレオンはかなり積極的な思考の持ち主です。以前と比べ物にならないくらいに強くなったレオンと、同じく以前より強くなったベルゼルグと呼ばれる方。この状況で果たしてどうなるのでしょうか?)

「お前は何のために、ここで何をするつもりだ」

『えっ? レオンってばあの人と知り合──、もしかしてレオンの昔を知ってたりするの?!』

ソフィアがレオンの顔を覗き込むがどうやら本人は真剣に相手を観察していて、こいつ何やってんのかよくわかんねぇ。みたいな目をしていた

「さあ、かかって来やがれ!」

その掛け声とともに、その男の持つ武器の柄の部分に取り付けられた水晶が輝きを放つ

「この剣の錆にしてやんよ!」──カチャリッ! ──バシュッ! ──パシッ!!

「ふははははははははは! 見ろこの威力! 素晴らしいだろ! 俺がこの武器を手に入れた経緯だがな──────」

ベルゼルグが嬉々とした様子で何かを語り出した途端にそれは起こった!

「おい待てコラァ!!!!」

──ドゴーン! ──ヒュルルルルーーーーー!!!

「ひぃいいいいっ!!」

僕は突然目の前で起こった出来事に悲鳴を上げてしまった。なんとベルゼルグと名乗る男の放った魔法の威力が強すぎたらしく、僕らが歩いてきた通路の天井の一部が崩壊を始めたのだ。僕らはなんとかその場を逃れ、ベルゼルグと謎の男との戦いに割って入る。ベルゼルグが手に持っている大振りな両刃剣は赤く発光しており、どう見てもヤバイ代物であると理解出来た。

レオンとソフィアがベルゼルグの前に立ちはだかり剣を構える。しかしベルゼルグは二人を見てもなお平然とした態度を見せていた

「ふん、なんだ貴様ら」

「ベルゼルグってのはお前のことか」

「そうだ」

「じゃあ聞くが、なぜあんなところで、あんなバカげた攻撃をぶっ放す必要があった?」

「なぜと言われても、それが私の役割だからだ」

「お前がどんな役割なのかなんてのはどうだっていい。ただ俺は理由が聞きたいんだよ。俺らは仲間を探している。だからこの先にお前がいたとしても、今すぐ俺らと道を分けてくれるなら攻撃はしないと約束しよう。だけどもそうじゃないなら────」

「お前たちなど私の敵ではない。道を開けたくなければ好きにするといい」

「なら────」

ベルゼルグは剣の刀身に魔力を流し込みながら言った

「我が名はベルゼルグ、紅魔族の王。最強の魔法戦士である。お前たちにその名の意味を教えてあげよう。その身を持ってな!」

その瞬間。僕は全身が総毛立つ感覚に襲われた。今まで生きてきて感じたこともない圧倒的な存在感と圧力。これが魔王軍幹部の強さだと、本能的に悟ってしまった

「いくぞ。───《炎刃乱舞》ッッッ!!!!」「うぉおおおりゃああぁ!!」

ベルゼルグがスキルを発動させた瞬間、彼の持っていた両手剣が眩いばかりの真紅の光を放ち始めた

「な、何これ! めっちゃ熱いんですけど! ちょ、レオン助けてください!」

「うわぁあ! め、めちゃ燃え盛ってるじゃないか。これはやばいんじゃないか? あちちっ! ソフィア! 早く消さないと焼け死ぬぞ!」

ソフィアの頭の上のウィズも慌てふためいているが、ベルゼルグが剣を振り回し始めるとさらに火の手が広がり、ついにはレオン達のいる位置にまで炎の風が押し寄せて来た

「うおっ! うわっ! はあっ! 熱っち! おい、マジでやべえよ! おい! レオンもなんか手伝え!」

「無理だって! こんなの俺の手には負えないよ!」

僕達が必死の思いをしながらベルゼルグと戦っていたその頃。レオン達の後方では──。

ベルゼルグとベルセルクの戦いを、少し離れた場所から観戦する者達の姿があった

「おーおーおー、凄いね、彼もなかなかやるようだ。あの少年のパーティメンバーだったのだろう。彼がベルゼルク相手に一歩も引かず、むしろ互角に渡り合っている。さすがにこの僕が見込んだだけはあるな」

そう呟いた男は口の端を歪めて笑うと、傍らに置いてあった酒瓶にそっと触れ、中身を軽く煽った

「フゥッ! よし、そろそろ行くとするか。どうやら彼は本気を出しているみたいだしな。この僕が直々に手合わせしてやりたい気分なのだよ。さあ、行こうか諸君」

その言葉を皮切りに、四人の男女は戦いを繰り広げるベルゼルグとベルゼルクの元へ駆け出して行った

「おいレオン、あいつらって──」

「間違いない、あれは、俺たちの仲間だ」

(ソフィア)

私はソフィア。水の女神ソフィアよ。

「さあレオン! あの魔法戦士を倒しなさい! 私が支援してあげるから思う存分やってやりなさい!」

「おお、サンキュー! 助かるぜソフィア! よーし、あいつを倒すのは任せた! 俺も負けていられないな! この隙にベルゼルグを倒させてもらおう! いくぞベルゼルグ、覚悟しろ! くらえぇ!《エクシズソードXV]!」

『なんですって!? レオンがベルゼルグの攻撃を受け止めるですって? でもレオンは魔法使いよね。どうしてベルゼルグの攻撃を正面から受け止められるの? しかもあいつも何気に剣に魔法を纏わせているんですけど!』

レオンの使う剣から赤いオーラのような物が吹き出していた

「なるほど、お前の力はそういうものか。ならばこちらも全力で答えねばなるまい。──はぁああぁっ!! 《フレアブレードXIII 》」

レオンのエクスプロージョンに対抗すべくベルゼルグが剣に力を込め振り下ろすと、剣が赤々と輝き出すと同時に爆発が巻き起こりレオンを吹き飛ばした

「ぐあぁっ!」

『きゃあぁっ!!』

「うあぁあ! あっち! あっち! あっち! 何やってんのよこのバカ! あんたのせいでこっちにまで火の粉飛んできたじゃないのよ!」

ソフィアが頭上を見上げわめいていると、そこにはいつの間にやら現れたアリス教団の連中が。その数、なんと同数。

「ソフィア様、我々にご協力させていただければ、あなた様が女神であるという証明にもなると思いますが」

「ほほう。私に手を貸せばこの場で信者になれると。それなら───、よし、いいわ、私に任せなさい!」

**

「なんだよ、お前らの信仰対象って結局アリス教徒なんじゃねえのか。それにしてもなんでお前らも加勢してきたんだ? 別に俺らがピンチになったわけでもないのに。お前、一応冒険者ギルドの職員だよな? もしかしてアリスさんって本当は───」

『それ以上言ってみなさあぁい! 言っときますけどね! 本当に私の方が偉いんだからね! アークプリーストは唯一神エリシアから直接祝福を受けた、この世界で唯一神聖な存在なのよ。だから───」

ソフィアの抗議の声を遮るように、背後の通路の奥から何かが崩れるような音が響いた

「おいっ、なんだなんだ!」

「この先、何かありそうですね。ちょっと様子を見てくるのです。もし戦闘になっても心配無用なのですよ。セレスティアの事は任せておくので、安心しておくように」

「待てモニカ! おい、俺もついて行っていいかな? 仲間が何かやっているなら力になりたい」

レオンの言葉を聞いたソフィアが「うへー、仲間思いなのかなんなのか、変な奴ねぇ」と呟きながら首を傾げていたが、

「まあいいわ。じゃあ一緒に来なさいな。それと、あんたはそこでおとなしくしてて頂戴。もしもレオンに怪我をさせたりしたら承知しないからね。私達は行ってくるけど、大人しくしているのよ?」

「はい、わかりました!」

*

* * *

3体のオーガを葬り去った俺は通路の角に隠れながら戦況を観察していた。今のところベルゼルグの方からは攻撃らしい攻撃はなく一方的に魔法を放ってくるのみだ。一方の俺は剣を構えベルゼルグを牽制しながらも、少しずつだがベルゼルグへと近寄っていた。ベルゼルグもそれを察知すると魔法による攻撃を中断し、ゆっくりとこちらに向かってきた ベルゼルグが歩みを進めてきたその時だ!突如として通路の壁の一部が崩壊した。瓦礫と共に落ちてきた何者かと思しき人物によって、辺りに煙が巻き上がる 視界を奪われ身動きが取れなくなったその瞬間、俺とベルゼルグはほぼ同時に行動を起こした ベルゼルグは俺が攻撃を仕掛けようとしていることに瞬時に気づいたのだろう、その場を動かずにただ俺の攻撃を待ってくれているようだった

「いくぞ!」「いくぞ!」俺の渾身の一撃とベルゼルグの一閃。互いの力がぶつかり合い、俺は剣が弾かれベルゼルグは後ろへのけ反った。そして再び両者の間には静寂が訪れる。ベルゼルグは剣を構えたままで微動だにしていないが、その目はまるで品定めをするかのようにじっくりと見開かれ俺の目を真っ直ぐに見つめているようだった ベルゼルグの剣から放たれ続けていた炎は次第に弱まっていき、剣は今やその本来の姿を晒そうとしていた。刀身は燃え盛る炎から解放された途端その美しさを取り戻すが如く煌びやかな炎の色を取り戻していき、刀身全体から光のようなものが滲み出て周囲を淡く照らし出した それはまさしく、俺の目の前にいるベルゼルグの姿そのものでもあった俺はベルゼルグから目が離せなかった。その姿を見ただけで自分の体が石化したかの様に硬直してしまっていたのだ この男は只者では無い。いや、人間などではない。そう直感してしまった。そう思った瞬間にはもうすでに、俺の中で一つの感情が渦巻いていた。そう──、こいつは殺さねばならないと! ベルゼルクの持つ真紅に染まった剣。それはもはや普通の武器と呼べる代物ではない。そう感じ取ってしまった俺は無意識のうちに駆け出していた。剣を持つベルゼルクの懐に飛び込むようにして斬りかかったのだが、その剣撃は虚空を切った

「速い! 速すぎる! なんてやつだ!」

「無駄だ。俺にはその剣も効かない。その程度の剣では、俺を殺すことはできないぞ」

俺の全力を込めたはずの剣戟も難なくいなされてしまった ───どうする、どうする? 考えろ! 考えるんだ俺!

「ふっ。貴様が俺の相手をするに相応しい実力の持ち主であることはよく分かった。このベルゼルクの剣と打ち合える人間は早々いないからな。俺もそろそろ本気を出すことにしよう。さあ、いくぞ。死ぬなよ? この一撃に耐えられたら褒めてやる。はぁぁっ!」

次の刹那、ベルゼルグの全身が発光したと思った時には既に奴はその身を低く構え俺に目掛け一直線に突き進んできた ベルゼルグから繰り出される強烈な刺突。咄嵯に身を捩ったが、避け切れず脇腹にかすめてしまった。それでも致命傷には至らなかったようで血こそ流れているが問題無いようだ しかし、この剣、恐ろしく早い。それに、今まで戦ったどの敵とも比べものにならない程のプレッシャーを感じる。正直に言えば、まともに相手できる自信がない。このまま戦い続けたら、きっと俺はやられてしまうだろう。

「レオンさん!」

その声で我に返った俺は慌てて横飛びしてその場から離れた。その直後、先程まで俺がいた場所にはベルゼルグが振り下ろした大剣が地面深くに潜り込んでおり、激しい地響きを立てているところを見るとかなりの威力が込められていることが伺えた

「大丈夫ですか!? 助けにきまし……えぇっ!?」

その少女、モニカの視線の先にいるベルゼルクはというと───。なぜか地面に膝をつき息も絶え絶えといった様子で倒れ込んでいた

『ど、どうしてこんなことになってるの? どうしてベルゼルクが私達の目の前でそんな状態に?』

『ベルゼルグ様、ご無事ですか!』

ソフィアの困惑の声と同時に後方から大勢のアリス教団達が走って来た

『ベルゼルグよ、しっかりしろ!』

『一体、何があったんです!』

教団の者達に抱き起こされながらもベルゼルグは未だ戦意を失ってはいなかった

『まだだ、俺はまだ死ねない。魔王が復活しようとも、我が女神であるアリス教団の信仰が揺るがぬということを証明しなければ』

「なによあいつ! いきなりやられておいて何よそれ! レオン、あのバカが回復する前に連れて行きましょうよ! 早く回復させてあげるべきだわ! だって私は───」

──ソフィアさんが言いかけたその時、背後から誰かに腕を掴まれた。突然の出来事だったので振り向いた瞬間に私の心臓がドキリとしたのを感じた。そこにいたのはレオンさん。

彼はいつになく真剣な表情でソフィアさんを見つめるとこう言った

「──待ってくれ。今は見逃してやってほしいんだ」

「ちょ、ちょっとあんたどういう事? なんで私達の仲間が倒れているっていうのに、なんで──」

「まあ聞けって。確かにこの人は負けたかもしれない。でもな、ベルゼルグはここで負けるような人じゃなかった。それだけなんだ」

レオンさんの言う意味がよく分からなくて思わず「え?」と言ってしまうと

「俺の勘だけどさ、ベルゼルグはこの一撃に賭けていたんじゃないかと思うんだよ。それなのにさっきから攻撃が全く当たらないんだよ。つまりはさ、俺達に勝ちを譲るつもりだったんじゃねえかな」

ベルゼルグをちらりと見ると相変わらず立ち上がれずにいたが、その顔からは苦しそうな色は見せずむしろ清々しい顔をしているようにも思えた。そう思うとその言葉にも一理あるような気がしてきてソフィアさんも渋々納得していた。

「ねえねえ、それよりもレオン、セレスティアは───」

ソフィアさんの言葉に振り返ってみたのだがセレスティアさんがどこにもいなかった。私と同じくベルゼルグさんとセレスティアさんの戦いの行方が心配で駆けつけてきたであろう冒険者の皆さんの姿もない

「そうか! あいつらもセレスティアを探しに行ったのか! 急ごうぜ! 俺たちも後を追うぞ」

私とソフィアさんがベルゼルグとベルゼルグを慕う教団の人たちをその場に残しレオンさんと一緒に通路の奥へと走っていった *

* * *

4人の仲間が通路の奥へと消えていくとそこには俺と倒れたままのベルゼルグだけが残された 俺としては、こいつも連れて行ってやりたかったのだが、今のこの状況では仕方がない。そもそもこいつがここまで追い詰めてくれていなければ俺がこうしてベルゼルグにとどめを刺すことなどできなかったのだ。感謝してもしきれねぇ 俺が剣を構えて近寄ろうとするが、それを遮るようにベルゼルグがゆっくりと立ち上がった

「貴様、名前は?」

「佐藤和真だ」

「変わった名前だな。俺はベルゼルグ。ベルゼルグ=フリューゲンだ。さあ来い! 今度はこちらから仕掛ける番だ! 俺を殺せ! 俺を倒した者こそが真の女神の剣となろう!」

ベルゼルグの闘志が衰えていないことを見て取った俺はその挑発に乗ることにする 俺はベルゼルグに斬りかかると、ベルゼルクも剣で迎え撃つ。ベルゼルグが繰り出してきた袈裟懸けの一閃を受け止めると俺がすかさずカウンターの刺突を叩き込んだ。だがその攻撃をベルゼルグが剣の柄頭部分で受け止めてしまう そして再びベルゼルグの猛攻が始まる。俺とベルゼルグの熾烈な剣戟の応酬。一撃の重みが桁違いだった。一撃一撃が全て必殺の剣技だ。俺は剣を振るう度に、まるで自分が研ぎ澄まされていくかのような感覚に陥っていった。そう──、まるで自分の剣が神剣であるかのように。

やがて、ベルゼルクの攻撃は俺の体に少しずつ傷をつけるようになっていった。ベルゼルグの体にも徐々に裂傷が刻まれていき、お互いに体力が消耗していったが俺は手を止めることなく剣を振り続けた

「見事! 見事な一撃の数々よ! これほどの強者に殺されるのならば本望というもの! この一撃にて貴様に俺の持つ全てをくれてや──ぐぁああ!」

ベルゼルグのその言葉に反応するように突如として眩い光がベルゼルグを飲み込み俺は一瞬目を閉じた 俺が再び目を開けた時に見たものはベルゼルグの全身を覆っていた炎が消えた後に現れた姿 ──それは先程まで俺と死闘を繰り広げていた人物と同一だとはとても信じられないほどに美しい姿をしていた 燃え盛る炎の色から一転して輝くような金色に変貌を遂げた長髪。

その長い髪を束ねるように後ろの方だけ垂らしており、前髪の一部だけが炎のような赤みを帯びていた。

整った顔つきをしており瞳は透き通るような碧色でとても優しげだ。肌は陶磁器のように白く染み一つ見当たらない美しさを持っている 身長は百七十センチ弱ぐらいだろうか? 女性にしては高い方だろう。

体型はスラリとしているように見えるのにもかかわらず出るところはしっかりと出ているためスレンダーというよりはボンキュッボンという表現が正しいのだろう その身体に纏っている鎧のようなものはかなりゴツいもので、所々に宝石らしきものが埋め込まれていてデザイン的にも実用性にも優れていることが伺える

(これは凄いな。男から見れば間違いなく憧れる存在だと思うぞ)

俺と互角に戦ってきたこのベルゼルクという人物にはある種の尊敬すら覚えていたが、そんな彼女の容姿を見た途端、俺の中の何かが揺らいだように感じた このベルゼルクには勝てる。この剣ならきっと倒せるはずだ。しかし俺はなぜだろう、この人を斬ることができないでいる。別に女だからというわけではないと思う。ただ単に───俺の中に流れる戦士の血が告げているんだ。この人に刃を向けることを拒絶する自分を感じているんだ。

俺の中で渦巻く感情。一体俺の中にあるこれ(ベルゼルグに対する想い?)は何なのだろうか。自分でもよく分からないが、俺にとってこの人は特別な人なのだということは確かだ ベルゼルクは剣を握るその両手に力を入れたかと思うと、静かに目を閉じる。次の瞬間───、その身に魔力が収束していき剣身を覆うように炎が立ち昇った

「これが、最後になるだろう。これで全てが決まる。いくぞ! これが我が剣、【聖剣ベルゼルク】の最後の力だ!!」

「俺だって負けられないんだよ! 俺の仲間をこれ以上悲しませないためにも、俺はお前をここで止めなければならないんだ!」

ベルゼルクに気圧されまいとするが、正直かなりビビッている。俺は今までこんな経験をしたことがないということもあって足が震えるのを止められない ──だけどそんなことは言ってはいられなかった。だって、もう逃げ道なんてどこにも残っていないのだから。ここで負ければ俺はソフィア達の元に戻れないばかりか、また魔王軍の魔の手が伸びてくる。それだけはなんとしても避けなければならなかった。

そんな俺の思考とは裏腹に、体は俺の意思とは関係なく動き始めていた。体がベルゼルグを倒すために最適化していく。まるで、自分の中にいるもう一人の誰かに支配されていくようでもあった。ベルゼルクの一撃を俺の剣が受けた。だが、俺が剣ごと押し返そうと腕に力を込めると、逆に弾き飛ばされてしまった ベルゼルクも俺の動きに合わせて体勢を立て直す「な、なんだこりゃ! 力が溢れ出てくる! それに、なんでこんな気持ちいいんだ!? やべえっ! すげえ楽しい! 最高だ!! ベルゼルク! もっとだ! もっともっと楽しもうぜ!」

その瞬間ベルゼルクが剣を薙ぎ払った。俺はそれをバックステップして回避するとベルゼルグは地面を思い切り踏み込むとそこから炎を吹き出した。その勢いを利用して加速したベルゼルクはその炎の軌跡を残しながら縦横無尽に駆け巡る。

その攻撃を避け続けているうちに俺はベルゼルグの放つ剣撃や魔法によって徐々に壁際に追い詰められていった

『『ライトオブセイバー!』』ベルゼルクの剣から生み出された巨大な光の剣が迫る。俺は全力でそれを迎え撃った ぶつかり合った光剣と闇黒刀。拮抗はほんの数秒の事で、俺の闇黒刀の方があっさりと折れてしまい闇の波動と化して消滅してしまう。それを見たベルゼルクの顔は勝利を確信したものへと変わったが、それが間違いであることを思い知ることとなる。

ベルゼルクの背後にはいつの間に回り込んでいたのか、既に振り上げた右手を下ろしていた俺の姿があった。ベルゼルグは咄嵯に身を捻ると、そのまま俺に向けて蹴りを放ってきたが俺は難なくそれを捌いた その一連の動作は、あまりにもスムーズすぎてお互いが何をしているのか、全く理解できていなかったに違いない。そう──、今この時までは ベルゼルクも俺も攻撃を終えた後のわずかな時間を使って互いの顔を見る 俺は驚愕し、相手もまた同様だったようで、信じられないと言わんばかりに大きく見開かれた目が俺を見つめていた

「レオン殿──。いやレオン。あなたが───勇者なのか?」

「え? ゆ、ゆうしゃ?」

その聞き慣れない単語が頭の中をグルグルと回る そしてベルゼルクの言葉を噛み締めるように脳が認識を始めた時、突然ベルゼルクに剣を振り下ろそうとする俺がいた ベルゼルグはそれを辛うじて避けるが、俺はベルゼルグを追うように次々と攻撃を繰り出していく。ベルゼルクも何とか応戦はしているが防戦一方であり、やがて剣に亀裂が入り始め、そして───ベルゼルクの持つ最強の剣であるベルゼルクは粉々に砕け散ってしまった ベルゼルクに襲いかかっていた最後の一閃は、寸でのところで避けられたが、俺は剣を手放すことでベルゼルトから距離を取ることに成功する その光景を目の当たりにして、自分の手の中にあるベルゼルブに視線を落とした。そこにあったはずのベルゼルグの剣はなくなっており代わりにベルゼルグが握っていたものと同じ形状の武器が存在していた ベルゼルグが驚いた顔をして俺に尋ねる

「まさか──本当にあなたが伝説の勇者だというのですか?」

その問いに対して俺は何も答えることができないでいた。俺が勇者だなんて聞いたこともない話だし、何よりも、どうして俺がこの世界で剣を使う事ができるのか。そもそも俺は日本から異世界に召喚されて来た人間だ。それがなぜいきなり剣が使えて勇者と呼ばれる存在になっているんだ

「私はこの世界を救う為に呼ばれたのですね」

俺はハッとしてベルゼルグに目を向けると、ベルゼルグが優しく微笑んでくれた ベルゼルグは俺に近づくと、ゆっくりとその細い指先で俺の頬に触れた 俺はベルゼルグが差し伸べてくれたその手をそっと掴むと、ベルゼルグは目を閉じ静かに涙を流していた。そして───俺の腕の中で息を引き取った ベルゼルムは、その身を盾に俺を守ろうとしたのだ

「ああああああっ!!」

気がつくと俺はベルゼルガの体を抱きしめながら泣き叫んでおり、涙は枯れる事がなかった。俺は自分が情けないと思いながらも、いつまでもベルゼルグの亡骸を抱き続けていた。だが、俺にはこの人をこのままにしておく事などできない

「《蘇生》!」

ベルゼルクを生き返らせる為には俺の持つユニークスキルである【超幸運】が必要だ。そのスキルを使えばベルゼルグが死んでいても生き返らせる事が出来る しかし、【超幸運】で俺がベルゼルグを復活できる確率は五%もない。それでも俺は賭けに出ることにした ────頼む。

俺に奇跡を見せてくれ 俺は祈り続ける。しかし───何も起こらないまま、ベルゼルグは死んでいたときと同じように安らかな表情で横たわっているままだった ─────俺のせいだ 全てはこの世界に呼び出されてしまった俺が悪い ベルゼルクは、そんな俺の為に戦い、その結果死んだのだ。ベルゼルグがこうなったのは俺の責任でもある どうしようもなかったとは言え俺はこの人を守る事ができなかった。せめてあの世に行っても守ってくれる仲間がいることを祈ってやりたいと思う

「うおおぉお!!」

ベルゼルグの遺体を抱えたまま俺は大声を上げて泣いていた 俺は弱い、この世界の誰よりも弱い。そんな俺はこの世界で強くなる必要があった。強くならなければならない。もう誰も俺のせいで苦しませないためにも 俺がこの世界に転生したのは偶然ではなく運命なのかもしれない。ベルゼルグとの出会いが俺にそれを告げているような気がした ───その時、突然視界が真っ暗になった。俺は驚いて周囲を確認するとそこには見たことがない場所の風景が広がっていた。ここは一体どこなんだろうか そこは、どこかの屋敷の中みたいだったが、俺はそんなことを気にもせず、ただベルゼルグのことを思い出していた。俺を守ってくれる人はこの人だけじゃなかったんだ。まだ会っていないだけできっとこの屋敷の中にもいるんだ しかし、その期待も空しく、ベルゼルグと再会を果たすことは出来なかった。なぜならば、俺の体の中から光が溢れ出ており、それが俺自身を包み込んでいったからだ

「これは、どういうことなんだ!?」

「この感じは、一体──────。もしかして───」

ベルゼルクが何かを言いかけた時に俺は意識が遠退いていき、目の前にいるベルゼルクが次第に見えなくなる そして、俺はベルゼルグの声を聞くことも出来ず、その場を去って行かざるを得なかった

「ああ!レオン! 私達はあなたとの約束を果たせそうにありません! ごめんなさい!」

ベルゼルクの叫ぶように言った言葉だけが耳に残っていた ベルゼルグが死んだ日から数日後。俺はギルドに寄ってから王都の街を歩いていた。特に目的があるわけではなくぶらぶらしているだけなので道端に落ちているゴミなどを適当に見つめている。俺はいつも通りの日常を取り戻しつつあったのだが、未だに俺はベルゼルクのことを考える日々が続いているのであった あれ以来ベルゼルルの姿は一度も見てはいない。俺の心の中には常に彼女が存在していると言ってもいい。俺の中ではベルゼルクは生きているも同然だった そんなベルゼルクが死ぬ直前何を言おうとしていたのか。そればかりが気になって仕方がないのだ 俺は立ち止まっていた。考え込んでいるうちに大通りを抜け裏通りに入っていたらしい。薄暗い裏通りに一人ポツンと立っていた。こんなところを知り合いに見られるのは恥ずかしいなと思っていた時 俺は不意に後ろを振り返った。そして俺は自分の行動に少し驚くことになる 何故ならばそこにベルゼルクが立って居てこちらを見つめていたからである その瞬間ベルゼルクと俺との間に流れる空気は、あの日と変わらないものだった。そしてベルゼルグはゆっくりと近づいて来ると俺の前で止まった ベルゼルグは優しく微笑みかけてきていた 俺は一瞬戸惑ったが、すぐに我に返り挨拶をすることにした

「こ、こんにちは。久しぶりですベルゼルグさん。お元気でしたでしょうか」

「あら。ベルゼルグと呼び捨てで呼んでくださっても結構ですよ」

俺がそう言うとベルゼルクが嬉しそうにそう答えてくれる。俺としては今までと違う呼び捨てに抵抗を感じていたが本人がいいと言っているのだから、いいのだろう それから俺がベルゼルグと呼ぶことになった

「はい。元気です。ベルゼルグも?」

「ええ。とても元気よ。だって私は幽霊になってしまったんですもの。ふふっ」

冗談めいた口調で言うベルゼルグを見て、俺は少しホッとする そして俺達の間にはまた和やかなムードが流れる しばらくすると俺は話題を変えることにした

「ところでベルゼルグは、その、成仏しないのか?」

俺は何気ない会話から本題へと移行する。俺はベルゼルグが幽霊になっているというのに驚きつつも、もしかしたらベルゼルクは、俺に自分の姿を見せたかったのではと思ったのである

「成仏ですか?そうね、私はあなたをずっと見守っていたいと──いえ、なんでもないわ。そういえばあなたがこの世界に来る原因を作ってしまった張本人である私が、あなたと一緒にいることなんて出来ないんじゃないかしら。あなたがそう望まない限り、ね」

「そうですか──。俺はまだここでやることがあるんだと思います。それに俺はあなたのことを恨んだりなんてしていない。むしろ感謝してるくらいだ。俺みたいな弱い奴を、守ろうと思ってくれていたなんて思わなかったし。俺がベルゼルグを悲しませたんだよな」

そう言って俺が俯くとベルゼルグの温かい手を感じた その手に視線を向けると優しい笑顔をしたベルゼルグの顔があった

「あなたが謝る必要なんてどこにもないのに───。あなたは何も悪い事をしていません」

俺はその言葉で救われた気分になる。心が温まるのを感じると共に、自然と涙が出そうになる。

「──ベルゼルブの仇を討つことは、できなかったけど。俺はこれからも頑張ります。そして絶対にベルゼルギブのような悲しい人を増やさないようにする。ベルゼルグに誇れる男になりたくて──」

「そんな事はありません。あなたはとても立派な人間だと思うわ。少なくとも、私はその言葉を聞けただけでも、この世界にやって来た甲斐があったと思うわ。私の為だなんて無理をする必要はないの。それよりも自分らしく生きてほしいと思うの。あなたには無限の可能性があるのだから。その可能性をどうか潰してしまうことのないようにして欲しい。その先にきっとあなたに幸福が訪れるはずだから──── あなたはもう私を忘れてもいいのよ。そして自由に、この世界を冒険してくれれば、それで十分幸せなのよ。あなたにこの世界に召喚されて良かったと思っている人が他にも沢山いるはず。その人たちの為に生きて、幸せになってほしいの」

俺は涙目になりながらも首を振った「──俺はこの世界に来なければベルゼルクに会うことも出来なかった。俺は、俺にはベルゼルグの代わりはできないかもしれない。でも、ベルゼルガは俺の心の中にいるんだ。だから俺はベルゼルグのことを忘れる事はない。俺が辛い時にはベルゼルグが助けてくれる。だからベルゼルグ、俺はいつまでも─────

「──レオン。あなたはこの世界でも頑張ってくれている。それはとても嬉しいことだけど、もうこの世界での使命は終わったと思うの。あなたにこの世界での未来を望む人のためにも、自分の人生を歩むべきだと思うの。この世界での使命は終えた。そう思った時にこそ本当の意味で成長ができるわ。私もそれを望みます」

俺はその言葉を聞きながら涙を流していた。しかしこれは別れの時が来たのだとわかったのだ。俺は、最後に聞きたいことを尋ねる

「ベルゼルグはいつ成仏できるんだ?」

ベルゼルグが答えるまで時間はそれほどかからなかった

「そうね、まだわからないけどいつかできると信じています。それが今日かもしれず明日かもしれないだけ。それまでに私に悔いが残らないように精一杯生きたいの。もう、あの時の私ではないから、心配いらないわ。もう二度とあなたとは会えないでしょう。でも、私はいつでもあなたを応援しているから安心していてちょうだい」

そう言った後でベルゼルグは何かを思い出したかのように口を開いた

「ああ、そうだった。実は私の妹──アリアの様子が変なのよね。何か思い悩んでいる様子なのよ。それとレオンさん、一つだけ頼みがあるの。この世界に来て間もない頃の事なんだけど─── この国の王城から見える街の中に小さな教会があって── そこには一人のプリーストがいて── その人はいつも祈りを捧げているそうなの── その人のお陰もあって今の王国が支えられているといっても過言ではない─── レオンさんの知っている人かもしれない。一度行ってみてはどうでしょうか。そこでなら、きっと妹とも巡り会えるかも」

俺の脳裏にある人物が浮かび上がる。ベルゼルグとそっくりの容姿をしているというその女性に心当たりが有りすぎた。

「わかりました。とりあえず、今度時間があるときに行ってみます」

俺がそう返事をすると、ベルゼルグの体が徐々に透けていき消えかかっていく その様子を見つめつつ俺は心の中で感謝の言葉を口にしていた

「ベルゼルグありがとう。あなたに出会えて本当によかった。あなたの分も含めて頑張れそうだよ」

「私も会えたことを嬉しく思っています」

俺はベルゼルグの姿が完全に見えなくなるまでそこに立ち続けていた。

こうして俺とベルゼルグは別れたのであった *

***

その頃とある場所にて、

「はぁーあ」

と大きな溜め息を吐き続けている人物がいた。そしてその姿を苦笑いしながら眺めている者がいた

「姉さんってばそんなに落ち込まなくても、また会えなくなるわけじゃないんだしさ」

「そういう訳にもいかないわ。今までは私の存在があいつに負担をかけてばかりだったんだもん。せめて少しでも役に立てているうちに別れなきゃって思っていたのに」

「ははは。そうやって気にするから兄さんが会いに来たんでしょ?僕としては早く立ち直ってほしいかな」

そう言って妹のセレスは姉のベルゼルブを見つめた。するとベルゼルグはすぐに顔を真っ赤にして否定した

「ち、違うよ!別にそんなんじゃないよ!だってあいつがあまりにもしつこいから──!」

そう言うとベルゼルグは俯いてしまう そんなベルゼルグを見て、またセレスが口を開くと

「はいはい、そういうことにしておいてあげるよ。それでさ、これから僕はちょっと用事があるんだ。姉さんに紹介したい人も居るんだし」

ベルゼルグが不思議そうに顔を上げると

「そういえば誰か連れてくるとかなんとか、昨日の夜話していた気がするわ。どんな人なのかしら」

「それは着いてのお楽しみだよ。じゃあいこうか」

二人は仲良く肩を並べて部屋を出て行ったのであった

「ここが例の教会か。それらしい建物もないけど」

俺は目の前に建つ小さな家を見上げる。ベルゼルギグの話によればこの場所のどこかに居るという話だったが ベルゼルグとの邂逅を終えたあと俺はその足ですぐに教会へと向かった。ベルゼルグに紹介されたその人物は恐らく俺の知り合いであるからだ。俺はその場所を探し回ったのだが見つけることはできなかったのだが、諦めずにしばらく教会の周辺を歩き回っていたら見つけることができたのである ベルゼルギグが言っていたとおり建物は小さいのだが中々に立派である。

そして俺がその建物をまじまじと見上げていた時である

「こんにちは。ここに御用ですか?」突然声をかけられたので振り返ると、一人の若い女性が立っていた。そして女性は、そのまま続けて俺に問いかける

「私はシスターの『ミレイア』と申します。ここにはどのようなご要件でしょうか?」

俺はミレイアの服装を見る。それは白を基調としたシンプルな修道服だ。この世界の文化はよくわからないけど多分宗教的なものなんだろう。俺はこの人に頼ろうと決めた。何しろ、この人がベルゼルガに似ているのだから 俺はまず自己紹介から始めることにした

「はじめまして。俺は冒険者の佐藤和真といいます。あなたの妹──いえ、ある方にベルゼルギブの紹介を受けてきたのですが───」

俺の言葉を聞いて少し考える素振りを見せた後でミレイアが話し出す。俺はその様子をじっと観察していた。

「──なるほど、確かにあなたはベルゼルギフと同じ匂いがします。しかし、私の妹───アリア様はまだ見つかっておりません。なのでその方の話は残念ながら───」

そう言ったきり、その言葉を途切れさせてしまった 俺はそんなミレイアの様子に疑問を覚えつつも質問を投げかけることにする

「あの、ところでどうして俺のことをベルゼルギブと─── そうです。ベルゼルギブの気配を、あなたから感じるんです」

俺は真剣にそう話すも何故かミレイアの反応は芳しいものではない 俺は首を傾げている そんな時に突然

「ねえレオン君、もしかして私が気づかないとでも思ったのかい?」

「───ッ!!ベルゼルギブ!!」

その聞き覚えのある懐かしい声を聞いた途端に、俺の目からは大量の涙が流れていた。そして、俺は反射的にベルゼルグを強く抱きしめていた。ベルゼルギブもそんな俺を受け入れてくれていた

「おいおい泣くことないだろう?まったく、私はもう死んでいるんだぞ」

ベルゼルグのその一言は冗談交じりのものだったが、俺はベルゼルガを腕の中から離そうとしなかった。

俺が落ち着きを取り戻した頃合いに俺はベルゼルギブの顔を見ながら疑問に思っていたことを聞く

「──そうか、やっぱりもう成仏していたのか」

「なんだ、寂しかったのかい?」

「そりゃあね、この世界に来てから初めてできた友達みたいな人だったから」

俺が素直な気持ちを打ち明けてみた。するとベルゼルグは

「そっか、嬉しいね。でも、それはレオン君にとっても同じことだよ。君が来てくれたおかげで私達は再会を果たすことができた。だからお互いに喜び合おうじゃないか」

そう言った後にベルゼルグは笑みを見せる その表情はまさに女神といった感じであった。そして俺はそんな彼女にどうしても言わなくてはいけないことがあった 俺は一度呼吸を整えた後、ゆっくりと言葉を発する

「ベルゼルガ───」

その俺の声音の変化を感じ取ったベルゼルギブが神妙な面持ちになった

「どうしたんだい?レオン君」

俺のただならぬ雰囲気に気づいたベルゼルギブが心配そうに尋ねてくれる 俺はそんな彼女に対して一つの頼みごとをしていた

「──どうか俺とパーティを組んでくれないか?」


* * *


***

俺の願いを受けたベルゼルグは驚いたような顔つきになっている。

「いいの?だって私、既にもう死んでしまっているんだよ」

そう言ってベルゼルグは悲しげに視線を落とす。そんな彼女の様子を見て 俺は改めて覚悟を決める ベルゼルガ、いやベルゼルグ。俺は、あなたを決して忘れたりはしない。あなたとの冒険は、本当に楽しかった。だからこそもう一度だけ、あなたと過ごした日々を過ごしたいと思ったんだ。

俺の考えが伝わったのか、ベルゼルグは再び俺の方へと向き直った

「本当に良いのかい?」そう言った彼女はどこか不安そうで、俺は彼女を安心させるように笑顔を向けた

「もちろん、これからもよろしくな」

「ああ、こちらこそ」

俺たちの出会いは決して美しいものではなかったけれど、それでもこの先にあるかもしれない希望を信じることにした そして、それからしばらくして───

「それではレオンさん。早速ですがステータスを拝見してもよろしいでしょうか」

「はい、どうすれば確認できるんでしょうか」

俺がそういうとシスターが手を合わせて祈り始めた

「我が神の恵みを与え給え──ヒール!」

シスターが祈りを捧げ終えると俺に回復魔法を唱えてくれた

「おおっ!」その瞬間に、体が温かくなったのを感じる。俺の体は見る間に回復し、体力、魔力が全快していた。さらに怪我が治って気分まで爽やかな状態になっていた。まるで、ついさっきまで悪い物に取り憑かれていたかのようである ベルゼルグも驚いているようだった。ベルゼルグの方は、怪我自体は癒えなかったみたいだけど

「凄いな。まさか回復スキルとは」

「はい、これが私の職業でもあるプリーストの力の1つなんですよ。お分かりいただいた通り私達聖職者には特別な能力があるんです」

俺は感心しながらそんな会話を交わしたあとで ベルゼルグが

「それにしても驚いた。もしかすると君の加護に反応が出たんじゃないかと思って調べてみたんだけど本当にそうだとは思わなかったよ」

俺もその点に関しては驚いていた。というのも、そもそも俺は自分のステータスをまともに確認したことが無かったのだ。俺が自分の能力を確認した時には既に加護という文字が表示されていたので今まで特に意識していなかったのである。

俺はふとある考えが浮かんでベルゼルギブに声をかけた

「なぁ、あんたに俺の職業が分かるか?それとレベルとかさ、そういうのも教えてもらえないかな」

ベルゼルグが不思議そうな顔をした

「え?うん?そうだね、それくらいは別に問題無いよ。じゃあいくよ」

ベルゼルグは手を伸ばして目を瞑るとその手を俺の胸に当てた。そして、数秒の後で静かに目を開くと

「分かった。やっぱり君は僧侶系かな。それも結構高位の──」

「い、今なんと仰いました!? 私は耳が悪かったのでしょうか」

突然、話を遮るように割り込んできた声が聞こえてくる その声の主は───俺達が教会に来た時に対応してくれた、ミレイアさんであった

「はい、私の名前は『セリス』と言います!あなたの妹、つまり『セシリア様』のお世話をしているメイドなのです」

ベルゼルギブの話によると、このセリスさんの妹がこの国の王女らしい。俺としては是非とも会いたいところだが セレスの話によるとセリスさんの妹のセシリアちゃんは生まれつき体が弱く病弱らしい。だから普段は城の敷地内にある教会のような場所で療養生活を送っているとの事であった 俺は教会を出ると城へ向かうべくベルゼルグに別れの挨拶をして立ち去ろうとすると、突然ベルゼルギブに腕を掴まれて止められる

「ちょっと待ってくれ。レオン君。最後に一つだけ聞き忘れていたことがある。どうして妹の名前を知りたがっているんだい?」

ベルゼルギブの言葉を聞いた途端、俺の中で何か嫌なものが広がるような感覚があった。その正体は分からなかったが 俺の心の中ではベルゼルギブに対する罪悪感にも似た感情が広がっていたのは事実だ

「ベルゼルギブ、ごめん。実は、君との再会があまりに嬉しくて大事なことをすっかり忘れていたんだ。俺には、まだやらなくちゃいけない事があってね。ベルゼルギブが俺の頼みを聞いてくれたことで少し気持ちが逸っていたのかもしれません。それでですね──────」

そう言って俺は頭を下げ、深く詫びてからベルゼルギブに理由を話す その説明を受けてベルゼルギブも納得してくれたのか、「私に出来る限り協力するからね」と言って送り出してくれた。そんな彼女の様子に、また会えるのだろうか?なんていう疑問を抱く 俺は改めて気持ちを切り替えると城を後にしてギルドへと向かっていった

「すみません、依頼を受けさせていただきに来ました」

俺は受付嬢に用件を告げる

「あっ、はい、依頼の受理ですか。ではカードを出していただけますか?あ、その前に、身分証明書などを見せていただければ嬉しいのですが───」

その言葉に対してベルゼルガから貰った手紙を見せると、すぐに信用してもらえたようで無事にクエストを受けられたのであった こうして、この世界での初めての戦闘が始まる

* * *


* * *


* * *


***

レオンがベルゼルギブと再会した頃のベルゼルグは─── レオンが立ち去った後の部屋で一人考えていた

「ベルゼルギフ、あなたがここにやって来た時、私は、とても嬉しかったわ。あの時は、あなたの事をベルゼルガと呼ぶわけにもいかないしベルゼルギブだと紛らわしくて、困っちゃったものよ」

その表情はとても優しく慈愛に満ちた表情だった

「でもあなたを蘇生させようっていう意見が出なかったのは残念だった。ベルゼルギブ。あの子はきっとあなたにとって大切な人だと思うの。だから───」

そこで一旦、口を閉ざし深呼吸してから話を再開する

「ベルゼルギフ。私があなたを死なせた。私にもう少しだけ勇気があればあなたを救うことができたはずなのに。私のわがままが招いた悲劇なの。私、今でもあなたに顔向けができないの」

そう言った彼女の瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちていた ベルゼルギブル、いやベルゼルグが生きていた頃の出来事を思い返すと彼女はベルゼルグのことをよく気にかけていた。その度に「ベルゼルギブ」と呼んでいたのが印象的だった。おそらく彼女がそう呼んだ理由は「ベルゼルガ」という名を口に出すのが怖かったためだろう。そしてベルゼルギブはそれを理解していたはずだ。だから敢えて彼女からの問いかけには答えていなかったのかもしれない そしてベルゼルギブルの死因に関してだが これはあくまでも推測であるが、彼女の死後は何らかの方法で肉体を凍結され保管されていたのではないかと思われる なぜ、その方法に至ったかと言うと 生前のベルゼルギブルの話から察するにベルゼルギブには「力がある」のでその能力によって死後も活動ができる状態であった。しかし、その能力は死者を生き返らせることはできないようだ。そのため死体を安置する必要があるのではないのであろうか その方法はわからないが、彼女の遺体はどこか安全な場所に保管されている可能性は考えられる その仮定を元に考えるなら「ベルゼルギア」はベルゼルギブのクローンなのかもしれない。それなら辻妻が合う。ベルゼルギブルが彼女の能力を使って死んだ場合、ベルゼルギブルの亡骸が残るからだ。そうすればベルゼルグが「ベルゼルギア」の存在を知っていて当然だ もし本当に「ベルゼルギギブ」が存在しているとしたならば「ベルゼルギブ」として生まれ変わった彼女はどう感じているのだろうか?彼女は自分と瓜二つの存在である「ベルゼルギグ」に何を思ったのだろうか。それを考えると胸が痛むのは避けられない事実であった ベルゼルグル、ベルゼルグ。私はずっと貴方を愛していたの もう届かない想いを、ただ胸に抱きながら、彼女は祈り続ける それは───愛する人と再び会うために

***


***

***

「よし、この辺りで良いかな?まずは準備をしよう」

1時間ほど森の中を散策したところで適当な場所を見つけると リュックの中から取り出した道具類を使い準備を進めた

「それじゃいくよ、クリエイトアース」

土属性魔法の《クリエイトゴーレム》 このスキルを使うと一定時間内に作り出された物質に限り好きなように動かすことができるという魔法である。これを使えば簡易的な砦を築くことが可能だと思ったのだが、俺の考えは見事に外れてしまう

「おい!こっち来るな!お前は俺の命令に従ってればいいんだよ!」

そう言いながら作ったばかりの小さなゴーレムに向けて剣を振りかざした ゴーレム作成 50(10)%/50分スキルの使用者が魔力操作に優れていればいる程、精密で高機能な魔法人形を作成する事ができる。魔法で作り出した存在であるため魔法が切れるまでの耐久力は凄まじく高い。その反面、一度壊れてしまった場合は元には戻らないため、注意が必要 ゴーレムが攻撃してくることは無く 振り下ろされた剣を体で受け止めるが、傷一つ付くことはない 俺は何度も斬りつけて壊そうと試みたが結局1ミリも欠けることなく俺を睨み付けていた くそっ!俺が作ったものだって言うのに何なんだこいつは。全然言うことを聞こうとしやがらねえ! それから1時間が経過するとようやく疲れて息が上がっていた こんなところで、もたもたしている暇はない。早く帰ろう。明日はセリスさんの所に行かなくちゃいけないんだ 今日は色々あったけどなんとかやっていけそうだ。さっきまでは死にかけたりもしたけれど今はそんな不安は無い それに、今なら分かる。俺には「仲間」が居てくれてる。それも2人も。これ以上望むのは贅沢な事だってことは十分に承知しているつもりだ。それでも願ってしまう。この世界にきてから色々な出来事があった。その中で一番心に残っているのがソフィア達と一緒に旅をしているということだ 最初は成り行き上仕方なく行動を共にしていたが、いつの間にか俺の帰るべき場所になってくれていた それに加えて───俺の為に死んでいったあいつらも、みんな俺にとってはかけがえのない存在だった 俺はまだ見ぬ仲間の事を思って胸が熱くなる。それと同時に、俺は改めて決意する。これから先、どんな強敵が現れたとしても決して臆することが無いよう、より強い心を養わなければならないと 俺は改めて覚悟を決めると 城への帰路についたのであった

* * *

その頃、城では

「セリス様。お茶をお持ちしました。少しは休まれてはいかがですか?」

メイド服を着て、お淑やかな口調の女性が紅茶を持ってセリスの元へと歩いてきていた

「ミレイア。ありがとうございます。少し休みますね」

ミレイアは部屋の中に入ると、テーブルの上にティーセットを用意してカップへ注ぐ その様子を見てセリスがミレイアの手を止めた

「セリス様。何か?」

セリスはその質問を無視して立ち上がり、ベッドのそばに置いてある姿鏡の前に立つとそのまま倒れ込む

「大丈夫です。この程度問題ありません。それよりミレイア。あなたがここに来たということは────」

「えぇ。『例の彼』が現れました。ベルゼルギブル、改めレオン殿の事でしょうか。やはりレオン様にも何か特殊な能力が備わっているようで、こちら側の監視員からの報告によればレオン様は現在ベルゼルギギブが滞在していたとされる廃城へ向かっている模様。そこでしばらく待機するよう命ぜられております」

「わかりました。私も直ぐに向かいましょう。あなたも準備しておいて下さい」

「かしこまりました」

ミレイアが一礼して立ち去ろうとしたときセリスの様子が少しだけおかしいことに気がついた ミレイアは、そんな主君の様子に違和感を抱きながらも特に追求する事なく部屋を後にしていった 部屋に残されたセリスはというと 自分の右手を見て顔をしかめていた

「この手、あの人の───」

******翌朝、目が覚めた時にはすでに昼を過ぎていた。寝過ごした俺は慌てて支度を整えていた 昨日、ギルドの依頼を無事受けた俺はギルドを出る前に掲示板のチェックをしてクエストを探していたのだが───なぜか依頼書が全て消えてしまっていたのだ。不思議に思い受付の人に尋ねると なんでもギルドマスターの呼び出しを受けて出かけているということだった。

どうやら俺の冒険者としての初仕事は延期になったらしい ギルドマスターと聞くと真っ先に脳裏に浮かぶのはギルド会館の前ですれ違ったあの女性

「あ、ギルド会館まで送らせてもらえないかな?ちょっと用事があるんだけど」

「いえ、私は大丈夫ですよ。それよりも急いでらっしゃるようでしたし、急いだ方がよろしいんじゃないんですか?それと───あまり冒険者の方と親しくなるのは───その───」

「ん?どうかしたのか?まぁでも急ぎなのは本当だから、ここで失礼するよ。それじゃ」

「はい。いってらしゃい」

そして、現在。俺は街中を走っていた しかし一体どこへ向かったと言うのだろうか?ベルゼルギフの行方を追うと言ってもそれはあくまで推測の域に過ぎない。手がかりが何もない状況で見つけることなど不可能なのではないか ベルゼルグが言っていた。「私があなたを守る」と そう考えると俺の頭の中である人物が浮かんできた。

それは、ベルゼルグを俺に預けた人物。

「もしかしたらベルゼルギフがベルゼルギブを蘇らせるために必要な材料を既に集めているのかもしれない」

そう考えると俺は走り出した。

俺は全力疾走のまま門を通り抜ける その時、俺を呼び止める者がいた

「待ちなさい!そこの人。ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだけど?なんのようだ?見たところ君は一般人だろ?悪いことは言わない。すぐに帰りな。この先はモンスターの縄張りでとても君には手に負えない場所だよ。僕についておいで。ギルドまで送り届けるよ」

どうしようか?確かに彼の言葉も正しいのかもしれないが今は少しでも早くベルゼルギブの所へ向かう必要があった。俺は彼に頭を下げると足早に通り抜けようとした その瞬間────背後に強烈な殺気が襲った

「な、なんだお前は?!」

振り返るとそこには一人の男がいた

「ふむ、私の一撃を避けたか。ただの素人ではないということだな」

男の風貌は明らかに戦闘を生業にしているものだと分かるほどの風格を持っていた。腰に差している剣を抜き取るとその切っ先を俺に向けた

「何者なのかは分からないが、その身なりからすると───貴族の類いか?こんなところで何をしている。私はこの街の騎士長を任されている者だ。素直に答えたまえ」

騎士。どうりで強いはずかベルゼルギギブを甦らせたかったのであれば、奴に最も近いであろう俺を狙うだろう。恐らくだが目の前にいる男がこの国の騎士の中で最も強い相手だと考えられる

「ベルゼルガギブリブ」俺がその名前を呟くと

「なぜ貴様がその名を!────まさか本当に?」

「そうだよ。ベルゼルギアがここにいただろ?あれを倒したんだよ」

「そ、そんな馬鹿なことが!あんなに強い奴を、こんなひ弱そうな子供が!?」

男は俺のことを警戒し始めた。

「俺もあんたのこと知らないよ。とりあえず、今は見逃してくれないか?今急いでんだよね」

「いいや、駄目だな。そんな話を信じろって?この俺が?笑わせるなよ小僧。大人を嘗めるんじゃねぇぞ!」

そういうと、剣を構えたまま斬りかかってきた その攻撃を回避しつつ反撃に出る

「『セイクリッドブレイズ!』」

剣を振れば振るほど威力が上がっていく上級魔法。それを連続して発動させた。これで少しはダメージを受けてくれてればいいが

「なかなかやるじゃねえか!だけど、そんなもので倒されると思うなよ!俺の名前はダスティネス。覚えておきやがれ!」

(何言ってんだこいつ?)

「あっ!こら待て逃げるな!!」

俺は再びその場を離れ、街を出て森の中へ入っていった そして俺が向かっている目的地は勿論廃城。そこに、きっと俺の探す相手が居るはずだ

* * *


* * *


* * *


* * *

**

***

その頃、城内ではセリスとソフィアが会話を繰り広げていた

「ソフィア、お疲れ様。もう帰って休んでくれていいわ」

「はい。わかりました」

ソフィアは軽くお辞儀をするとお城から退出する

「それで───ベルゼルギの件ですが、何か分かりましたか?何か手掛かりが掴めたという情報は入っているのですが」

「えぇ、もちろんです。彼が使用していた武器、ベルゼルギギブが身につけていた装備のレプリカ、それからその剣と鎧、それに所持していたと思われる金品、全てを回収しました」

「ありがとうございます。では───まずは彼の仲間達と話をしたいと思います。ベルゼルギアを復活させるためにはその方法が必要だったということでしょうね」

「はい。間違いないと思われます。しかし────あのレオン殿という青年、やはり只者では無いようですね。ベルゼルギアの攻撃を防いだのを見たのは初めてでした。しかもたった一人で討伐したという事を考えると───かなりの力を有していると考えなければいけません」

「私としては────あのような存在が現れたことを喜ぶべきでしょうか?私もまだ未熟。ですが────いずれ彼と敵対しなくてはいけない日が来るかもしれません。今の段階では、その力は未知数です。しかしもし、この世界で最強の戦士になるとしたらそれは間違いなく彼になるでしょう。その時のために私たちは──────」

ベルゼルギア復活の為にベルゼルギが使っていた道具と、ベルゼルギギブリブが身に付けていた装備の複製を手に入れたセリスはこれからの計画について考え込んでいた。そんな中 突如、部屋の外が騒がしくなった

「大変ですセリス様!!例の男が再びこの城に戻ってきたと報告が入りました」

「なんですって?」

例の男とは恐らくあの男のことだろう

「場所は?」

「それが、街の外に出ておりまして」

「そうですか。なら直ぐに行きましょう」

そう言うと二人は部屋を出た

「はははは、逃げられました。申し訳ありませんセリス様。あの男め、私に傷を付けた罪は必ず償わせてやります」

騎士は腕を押さえながら苦笑いを浮かべている

「いえ、気にしないでください。あの程度の負傷なら放っておいても問題はありません。それより今は────あの男を倒す方法を考えて下さい」

「セリス様、よろしいでしょうか」

一人の女性が扉を開き中へと入ってきた

「なんでしょうかミレイア。少し席を離れていたみたいですが、どうかしましたか?」

「はい。例のあの男のことでギルドに使いを出したところギルドの方で動きがあったとの報告がありました」

ミレイアと呼ばれた女性はそう言いながら一通の手紙を差し出した

「これは、そう───例の男の素性と特徴が書かれた資料です。どうやら彼は冒険者のようでして───」

「───なるほど。そうだったのですか」

それを読んだ瞬間、セリスの中で全てが繋がった ベルセルクと、それを操るベルゼルグ。この二人には何らかの関係が存在している。そのベルセルクは、恐らくベルゼルギアを復活させるために必要なアイテムを探している

「ベルゼルギブは──ベルゼバブではなくベルゼルグと呼べ、と言っていたのか」

「セ、セリスさま?」

「ミレイア、ギルドマスターへの面会をお願いします。急ぎで確認しなければならないことがあると」

セリスがギルドマスターに手紙を渡してからしばらく経ち───ようやくベルゼルギとギルド職員との面談の許可が出たようだ

「はい、確かに。ベルゼルギーベルゼバブとベルゼルグは同一の人物であり、同時に異なる人格を持って存在している。しかしどちらにしても───その能力や能力はほぼ同じ。ベルゼルギは戦闘に特化しているがベルゼルグはその逆である。そしてどちらも強力な力を持っているためその二つを同時に操ることは出来ない───か。しかし、そんなことが可能な者がいたというのか?それとも他に────あぁもう分からん。そもそもこの世界にそんな技術が存在していたことすら疑わしい。ベルゼルギアとベルゼルブの能力、そして二つの性格が融合されたような存在。一体どのような人物だというのだ。そして、ベルゼルギがなぜそのような力を?」

ギルドの執務室でギルドマスターは頭を悩ませていた

「ベルゼルギギブリブの残した遺物、それに、彼の使用していた装備の解析。そこから得られた情報を元に導き出されるベルゼルガギブリブの正体──」

ベルゼルギブはベルゼルギが生き返らせようとしている相手だとするとベルゼルギブの言っていた「お前を守る」、「ベルゼルギガブがベルゼルギを蘇らせるための必要な材料を全て集めることが出来た」という言葉も納得できる。

つまりベルゼルギギブはベルゼルギブを復活させるために必要な材料を集めて回っていて、ベルゼルギギブがベルゼルギギブリブを蘇らせるために必要としていた材料を既にベルゼルギブが集め終わってしまった。そこで──ベルゼルギを蘇らせてしまえば自分の役目が終わりベルゼルギギブに殺させてしまうと思い立ち、ベルゼルギギブリブの邪魔をしようとした。その結果、俺と戦うことになってしまったわけか。そうなるとやはり、俺が倒したあいつらは偽物で、本物が今もどこかで動いている可能性がある

「なんとしても───早くベルゼルギギブを止めなくては」

俺は今廃城の中にいる。ここに来た理由は勿論───ベルゼルギに会わなければならないからだ そして城の奥へ進んでいく そしてついに目的の場所、大広間へと到着した

『グルルルッ!』そこには───巨大なドラゴンがいた「ははっ、こいつがベルゼルギギブリブが言ってた奴なのか」

ベルゼルギギブリブと、そいつは戦いを繰り広げていた。だが──そいつの方が圧倒的に有利だ。ベルゼルギギブリブは俺と戦った時と同じ姿形をしており、全身から血を流しボロ雑巾のようになっていた

『───』ドサッ ベルゼルギギブリブはその場に倒れた

「──ベルゼルギギブリブ。悪いが、お前は失敗だ」

ベルゼルギは、ゆっくりと立ち上がり俺の元へと歩いてきた

「まさか本当にベルゼルギギアを、俺を復活させに来るとは思わなかったぞ?」

「あんたがここに居るって聞いたんでな」

「ふん、そんな話信じられるはずがない」

そういうベルゼルギに対して、後ろで倒れてる女が何か話している。

ベルゼブルは話を続けた

「しかしまぁ、こんな状況になったとはいえ───俺は別に構わんぞ?俺はお前と再び戦えるならそれでいいと思っているんだ。なにより────こんな面白い状況はそうそうないだろうしな」

(面白いだって?)

「何で、そんなことが言えるんだ?」

「それは簡単なことだ。この世界の人間は全てゴミ同然の存在だ。それは俺達にとっての害虫であり───俺たちにとっては取るに足らない存在なんだ。だけどお前は───違うだろう?」

(こいつらの考えは理解できねえ)

ベルゼルギの言ってることが、まるで───意味が分からない

「さて、無駄話はこれまでとして───決着をつけるとするか。俺の復活を阻み、なおかつ、俺をここまで追い込んだ者に敬意を表すためにな」

ベルゼルギが両手を前にかざすと、周囲に魔法陣のようなものが現れた

「いくぜ、これが最後の戦いにして最高の余興といこうじゃないか」

「来い、ベルゼルギ」

ベルゼルギは、手を大きく広げた「『ベルゼルグ───ギブッ!ベルゼルルギーーー!!!』」そう言うと同時にベルゼルギの体は巨大化を始めた ベルゼルギの体の大きさは約5メートルほどにまで膨れ上がり、その大きさになっても尚、更に巨大化を続けていき10メートルほどの巨大サイズまで成長していた。

その様子はもはや生物というよりも怪物に近いものであった

「ふぅ───」

ベルゼルダの息遣いも大きくなり始めている

「この形態になると───少々疲れるんだよ」

さらに大きくなっていく。

やがてその姿を目で追うことが難しくなるほどに大きくなったところで巨大化の速度が止まった

「おい、ベルゼルギ。なんのつもりだ?ふざけてんじゃねよ」

「はは、悪かったよ」

ベルゼルギの表情が、段々と歪んでくる

「ただな、俺は───もっと楽しませたくなっただけだ」

ベルゼルギが、拳を振り下ろしてくる ドゴンッ!!! 振り下ろされた巨大な拳が地面を砕き、その衝撃で大量の砂埃が巻き起こっている

「ぐあっ!!」

(なんて威力だよ!!あんなもんくらったら即死だろうが!!)

そう、今の一撃は間違いなく殺す為の打撃。直撃すれば──間違いなく死ぬ。

ベルゼルギはさらに、攻撃を続けている

「うおぉおおおっ!」

何度も殴ってくる、なんとか回避するが───このままでは防戦一方になってしまう。そう思った俺はベルゼルギの攻撃を避け続け反撃のチャンスを窺いながら機会を待っていた

「はぁ、はぁ。流石に──避けるだけじゃ勝てないか。だったらこっちからも仕掛けてやるよ」

そう言った直後、ベルゼルギに向かって走り出し思い切り殴りかかったその攻撃に対し、ベルゼルギは避けることなく腕でガードをした。そして俺の腕を掴むと投げ飛ばした

「──がはぁっ!」

俺は背中を打ち付け咳込んでいるが──そんなことよりも、このチャンスを逃してはならないと思い、痛みに耐えながら起き上がりベルゼルギに追撃を加えた。ベルゼルギの顔面に回し蹴りを放つがそれをベルゼルギは腕を使いガードしたが、体勢が崩れ隙が出来たので今度は全力で殴りつける。だが、それでも倒れないベルゼルギはこちらの攻撃を受け流しカウンター気味に裏拳を入れてきた。しかしそれも、予想していたため難なく避けることが出来そのまま掴みかかり、地面に倒し馬乗りの状態となる

「どうした?これで─────終わりか?」

そう言い、笑みを浮かべているベルゼルギの顔面に一発叩き込みその反動を利用して飛び上がる。そこからはひたすら攻撃を繰り出していった。その最中、徐々にではあるがダメージを与えているのか少しずつだが確実に体力が減っているのを感じる

「どうだ──」

「────」

ベルゼルギは無言のまま、ただニヤリと笑い続けていた。

その時だった ズキッ 頭に鈍い痛みが走った「───くっ」突然の激しい頭痛に膝をつく。そんな俺の様子を見たベルゼルギが、攻撃を仕掛けて来たのをギリギリの所で避け立ち上がる

「ちぃ、もう時間がねえってことか」

そう言ってから、俺はある作戦を決行する事にした

☆精霊系召喚:詠唱することで魔力を消費し、対象の人物を呼び出すことが可能だが詠唱者のレベルに応じて消費するMP量が増加する

「ベルゼルギギブリブ、俺の魂と引き換えに──」

俺の声を聞いたベルゼルギギブリブが反応を見せた「なに!?まさかお前───」そう言った後すぐに、俺の前にベルゼルギが現れ────そして、ベルゼルギギブリブは、その場に残された

「ふぅ、どうにかなったな」

「あ、あのっ、セリス様」

「大丈夫ですか、ミレイア。あなたにはこれからやってもらうことがあるのですよ」

「えっ、は、はいっ、私に出来ることでしたら何でもやります。でも──」

俺は立ち上がり、ベルゼルギギブリブの元へ歩いていった「さて、俺の願いを───」そうして俺がベルゼルギに願おうとしたとき

「お前は、一体何なんだ」

声が聞こえた方向を見るとそこにはベルゼルギがいた。しかも───無傷だ

「ベルゼルギギブリブは俺との魂を対価とした契約を行った。それによりお前は────死んでいたはずだ。なのになぜ生きている」

「お前が俺に勝った───それこそが答えなんじゃないか?」

「なにを──」

そこでようやく、ベルゼルギが理解できた。それは──

『お前の望みはなんだ?』俺の質問に対する、その返事が。ベルゼルギの答え──つまり

「俺の、勝利条件はベルゼルギを倒す事ではなかったんだ」

ベルゼルギは少しの間無言だったが、やがて──「そういえば、お前と俺のスキルについて話をしていた時があったな。まさか、あれで俺を出し抜くことが出来ると思ったというのか」

俺の考えた策は単純明快、俺の勝ち方を考えることだった。

『俺は今お前のスキルである精神汚染によってお前の支配を受けている』俺は、ベルゼルギの問いにそう返答をした。するとベルゼルギは『それが、どうしたんだ』といった表情で聞いてきたので俺はこう続ける。『この状態では俺はお前に逆らえない。俺の命令に従うこと以外なにも出来なくなる』ベルゼルギが黙ったのを見て、話を続ける。『だけどもし、お前が俺を屈服させたら俺の精神は元に戻り俺がお前の支配下になる───そうなれば後は簡単だ、支配権を逆転させれば俺の思うがまま、そう、これが、本当の──』「勝負ってやつじゃないのか?」

ベルゼルギがゆっくりとこちらへと歩み寄りながら、話しかけてくる

「そう──いう、ことなのか?まさか、お前、最初からこのつもりだったのか?だとすれば俺は──」

ベルゼルギの動きが完全に止まる

「そうだ。俺の目的は最初からこれ一つ。俺の目的を果たすためならどんな手段だって選ばない」

「そうか───俺は負けたんだな。まさかこんな結末を迎えることになるとは思わなかった」

「ああ。ベルゼルギ、俺の負けだ」

そう言うと同時に俺の中で意識のようなものが急速に失われていく感覚に襲われた。そしてベルゼルギが何か言っているようだったが、俺には何も聞こえなかった

☆魔法創造発動可能 【神獣】使用中につき制限解除───全言語理解及び、完全解析の能力を付与することが可能になりました。能力解放は、1回のみ

「ん、ここはどこだ?」俺は周りを見渡すとそこには見慣れぬ光景が広がっており

「おい、貴様なぜ勝手に動いた!私が指示を出したのに、なんで私の言うことを聞かなかった!それになんだその体、なんで私の命令に従わない!早く動け!この屑!」

「あ?なんなんだよ、うっせーな。ちょっとは落ち着けよ」

「な、何を言っておる!お主のせいで私は死んだのだぞ!」

「誰が死んだだ。勝手に決めつけんじゃねーよ」

「そ、それは」

「大体、自分の力で何とかしようぜ?仲間とか作っちゃおうぜ、って言ったのはあんただろ。だから協力を仰いだのに───俺のやり方に口出ししてくるから」

俺はそう言いながら目の前にいる女の首を跳ね飛ばす「で、結局のところお前は何者だったんだよ。てっきり俺と同じ転移者で俺を殺しに来た暗殺者とかかと思ってたんだがな」

「ふっ、ははっ。いやはや──見事だ、ベルゼルガ」

ベルゼルギの口調が先程までのものから一変した。

そしてその容姿も段々と変化し始め──やがてそこに現れたのは、ベルゼルギギブリブそのものだった

「なにをした」俺が尋ねるとその男は笑みを浮かべながら答える

「はははっ。簡単なことさ、君の思考を操作し、そして君の体を乗っ取り──その上で君自身の記憶を全て書き換えさせていただけに過ぎない。まぁ、ここまでうまくいくなんて思っていなかったけどね。ただ、本当にすごい力だよ君は。まさか、僕の洗脳に抵抗してしまうなんて───これは嬉しい誤算だよ」

ベルゼルギの笑顔は次第に狂気に満ちたものになっていく

「それで?ベルゼルギさんよ。どうしてここに来たのか説明してくれねーか」

「うん?別にいいけれど、まずはその喋り方をどうにかしてほしいかな」

俺は軽く頭を抱えてからベルゼルギに問いかける

「はぁ、わかった。とりあえず俺を元の世界に返してくれないか」

俺の言葉を聞いたベルゼルギが笑う「はっはっ、なに言ってるの。そんなことができるはずがないだろう」

「はぁ、やっぱり無理なのか。じゃあさっきからお前がやってる事の説明はどうするんだ?」

「いやまてよ、確かに今のこの状況では不可能かもしれないが、それでも──不可能じゃなくなったんだよ。そう、ここに僕が来た時点で、既に成功が確定しているようなもんなんだ」

「なるほど、じゃあその証拠を見せてくれ」

俺の問いにベルゼルギは笑みを浮かべたまま

「もちろんさ、すぐに見せてあげるとも」そう言い、ベルゼルギが腕を上げると突然視界が変わった 俺は突然の事に驚いていると、そこには俺の知らない場所が映し出されていた

「ここは───日本か」

そう言い俺の視線の先にはスーツ姿の男性がいた。

俺の記憶の中にいる男だ

「こいつは俺だな。だが、一体何が起こるっていうんだ」

俺の呟きはベルゼルギの耳に届いていたようで、嬉々として話し出す

「いいかい、よく見ててごらん。今からここで面白いことが始まるから」そう言ったベルゼルギの目に写っていたものは俺の記憶にある通りの景色だった 俺の家族がいて、俺の友人が──いた しかし、俺の両親はいない。俺がまだ物心がつく前に交通事故で亡くなったから──

「お前の両親が死んだときのことを思い出せ──それが合図だ」ベルゼルギの声が頭に響くように聞こえる 俺はゆっくりと息を整える「よし」

俺はゆっくりと歩き出した「あのときは──確か」そして事故が起こった時の状況を脳内で思い浮かべる。そして次にその時に俺の両親がしていた行動を真似し始める「なっ」そうすると不思議なことに体が動き始めた。そしてそのまま、俺の両親の座っている椅子の前まで移動した。俺は一度立ち止まり二人を見る「母さん、父さん」俺は静かに語りかける 俺の呼びかけに対して二人の目線は俺には向いていない。どうやら気づいてもらえてないようだったのでもう一度「ねぇ、俺の事見えてるんでしょ?」と聞くが何も答えてはくれないようだ 俺が二人に近づくにつれ二人はこちらを睨みつける「邪魔しないで」「消えなさい」と声が聞こえ始める。

そこで俺は気づいた──「ああ、そういうことなのね」俺は納得がいった 俺はさらに足を進め「そこどけ」と言うが二人は俺に気づくことなく俺に文句を言ってくる。

「あなたが邪魔なのよ、私たちに近づかないで」

「お前がいなきゃ俺たちは幸せになれたのに」

「はぁ、そう言われても俺には関係ないしな」

「はっ、そうだ。お前は俺らの子供じゃないんだろ?じゃあ、もう俺達の家に来るんじゃない」

「ああ?それはこっちのセリフだろうが。俺のことは無視してお前らが勝手に作ったんだろうが」

俺は、この瞬間──この家族の中では存在しないことになっていると理解できた。俺の存在は、この家族にとって迷惑でしかないと 俺は無造作に近くにいた男性に手をかざす。そして俺は魔法を唱える「『炎球』」

そしてその火は男の胸に当たりそして消える「ああぁぁああ!!」男は叫ぶと地面に倒れこみ苦しみだす それを見て俺の中のもう一人の俺が「なにをしている!」と怒鳴ってきた

「はっ、俺の存在を認識させただけだ。お前も早く俺の存在に気づいてくれよ。俺もお前みたいになりたくねーしな。さっさと終わらせるか『土槍』」

その言葉にベルゼルギが反応したが──遅かった その魔法によって生み出された槍がベルゼルギの体を容赦なく貫く

「ぐぅあ!」

「はっはっ、お前がさっさと俺を認めておけば良かったんだよ」

ベルゼルギが倒れる それと同時に再び景色が変わり、ベルゼルギが現れる「おい、起きやがれ!いつまで寝てやがる!」ベルゼルギの怒号が響き渡る「はは、ははは、なんだ───これは」

「なんだって?お前の望んでいた結果だよ」

「そ、そうだ!これが──これこそが!私が求めたものなんだ!」ベルゼルギが俺の方へ飛び掛かってくる

「うぜぇ」

ベルゼルギは何か魔法を唱えたようだがその魔法が届くことはなかった。

そして俺は剣を抜きベルゼルガの胸に突き立てる

「ぐふぁ、なぜ、私を殺した」

「うるせーよ、さっさと死ね。まぁこれでようやく終われるよ」俺の言葉を聞いたベルゼルギの瞳に光が失われていく──

「──やっと会えた。待っていてくれたんだね。ずっとこの時を待ってたんだ───ありがとう」

☆神獣系召喚:神獣を使役できる

『雷槍』New! ◆詳細◆ LV1で100超えのステータスを持つ人型であり知能も高い、ただし命令に従うかどうかの保証はなし。神獣系スキルを使用する際に、神獣と主が同調率100%に達する必要がある

『聖光弓』は使用者から発せられた魔力を光の矢に変換し撃ち出す、中級魔法の中の一つ、初級魔法の応用

「あれは───なんなのでしょうか」俺は目の前に広がっている光景を見ながら言う そこに広がっていた光景はまさに混沌と言っていいものだった。

突如として現れた正体不明の生物によってゴブリンやオークなどの亜人が襲われているのである。俺はそれを遠くから見ていて、そして俺は思う。

「これは──助けに入るべきだよね」

俺がそう呟いた直後─── 俺の視界が切り替わる。そこは俺の部屋で俺のベットに横になっている状態だった そして目の前には白猫がいた。いや、正確には白猫の格好をした幼女がいると言った方が正しいか 俺はその幼女の頭の上に表示されている名前を確認する そこには、『ルナリア』という名前が表示されていた

「ん、どうしたのお兄ちゃん。私の顔なんか見て、もしかして──」と言いかけたところで

「い、いや、何でもねーよ。ただ少しばかりびっくりしただけ」

俺の言葉に満足げな顔をしている少女が

「うんうん、やっぱり私の見込んだとおりだったね」そう言いながらドヤァッという表情を浮かべていた 俺はその表情に若干イラつきながらも、冷静を装い尋ねる「てか、なんだよこれ、何が起こってんだよ」俺の問いに対し「うん?そりゃ勿論、私との繋がりを強くするためのイベントだよ」俺が聞きたかったのはそういう事じゃねーんだよなと思いつつも、俺は会話を進める

「で、結局どういう状況なんだこれは」

「だからさっきから言ってるじゃん。君と私は魂が繋がったって」

俺が首を傾げる仕草をすると「まったくしょうがないなぁ」そう言い説明を始めてくれるようだ。ちなみにこの幼女の見た目で話し方が大人の女性なので、かなり違和感を感じてしまっているのだが──今は置いとこう。

「いい?今私たちの世界ではあることが起ころうとしているの」

「ああ、それは知ってるよ。お前が出てきたのもそれと関係あんのか?」

俺の言葉を聞いた後で、ニヤリっと笑い──いや悪い顔で──続ける「ふふん、察しが良くて助かるよ。じゃあ、話を続けるよ」どうにも調子に乗りやすい性格のようだなと思った。まぁ別に嫌いではないけど、正直こういうタイプはあまり相手にしたくない部類にはいるのだ。俺がそんなことを考えてると、どう思ったのか知らないがそのまま言葉を続けた。

「それでだ、この世界ではある出来事が起こっているんだ」

「とある場所では世界の終わりが、別の場所では何も無い日常が続いているという、そんな不思議な現象が」俺も似たようなことなら心当たりがある。俺はこの異世界に来てまだそれほど日数は経っていない。それでもいくつかの不思議体験をしてはきたのだ。

「でだ、この世界の歪みの原因──それがお前だってことはわかった」だが、何故こいつがこんなことを俺にしてくるのかがわからん。

すると────

「その通り、でも正確にいうと、私がこの世界を歪ませているという訳ではないんだけどね。どちらかと言えば逆、むしろ───私が世界に影響を与えていると言うべきかな?」俺の考えを読み取ったかのような言葉が飛んでくる 俺はそれに驚きを隠せないでいた。するとそんな俺の様子を見たからなのか、「君は考えていることが全て顔に出るタイプの人間なんだねぇ」と言われた。俺は何も言わずとも、それが図星であることを示してしまっていたようで「ぷっ、あっはっはっはっはっ!」と盛大に笑われた その態度がさらに俺を不機嫌にさせていくのだが──俺にはこの気持ちを抑え込むことなどできずつい言ってしまった「ちっ、悪かったな単純でよ」すると今度は驚いたように「え?怒ってたの?」と言われる。俺が怒っていたらおかしいか、こいつ。

俺の表情を見てなにを勘違いしたかわからないが「あ、ああ!も、もう怒った?」なんて言ってくるのでさらに腹が立つ。俺に怒られるようなことしてると思ってんのかこいつ。

俺はこほんと咳ばらいをし気を取り直すことにする「──話を戻すが、つまりはどういうことだ?」

その言葉を聞いて──また嬉々として話し出す「ようするにさ──君も私と同じ運命の道を辿ったということだよ。まぁ要するは君の未来の姿ということになるかな。あーもうホント懐かしいなぁ」何を一人で喋っているんだこいつは──と思わなくもないが俺が口を挟む前に、話し始める。

「そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前は、ルミアっていうんだ。よろしくね」俺はその名にどこか既視感を覚えた。

そして、俺は唐突な質問をする「お前が、この世界が、あの時と関係があるとお前は言った。それは本当なんだな」

「そうだよ、君に頼みたいことがあるんだ」

「ああ、分かった。出来る範囲で協力はしよう」即答であった。何故か、自分でも理解出来ないうちに、そう答えてしまっていた。その返答に満足したのか「良かった。私としても、これで一安心だよ」と言い──そして ──世界が揺れた。地面が大きく波打ち、大地の裂け目からはマグマのような物が噴出し、天を貫かんとする柱が立ち上がる。そして──

☆聖獣召喚(契約者限定):神獣系スキルを扱える ◆詳細◆ 神獣系スキル使用の際に必要となる ◆詳細◆ 【魔法付与】の応用技であり 武器やアイテム、さらには魔法そのものにまで魔法を付与することが出来る 【魔力感知】の派生形とも言える

「くっそぉ!!なんでこんな時に来んだよ!」「ちょっ!これやばいんですけど!マジヤバなんですけど!」

「落ち着け!まずはこの状況を切り抜ける!いいな!」「りょーかい!」

俺達──俺に白兎、ルナリア、リリィは魔物の群れと戦っていた。俺達は現在、ダンジョンにいる。俺達の目の前には数えきれない程の魔族が押し寄せて来ているのだ。それも、今まで遭遇したことが無いほどに強い敵だった。俺はルナリアの援護の元───次々と現れるモンスターを倒しては行くものの、キリがなかった。

俺の攻撃は敵の防御を貫くことが出来ず逆に攻撃を受けてしまう始末。

そして俺に群がるモンスターを倒しているのはリリィなのだが、こちらも状況は良くはない。リリィの攻撃もまた敵にダメージを与えることが出来ないでいた。

そして俺も敵の攻撃を受けるたびに、少しずつではあるが傷を負い始めている状態なのだ。このまま戦い続ければ全滅もあり得る、いや、間違いなくそうなってしまうだろう。

俺の予想通りに、数的優位を活かした攻撃を仕掛けてくる。それこそ、先ほどのゴブリン達がやられた方法のように

『アースニードル』で俺の周りを囲むようにして土の柱を生み出し拘束してきやがる。

それだけじゃない、他にも風の刃を放つや炎を吹き付けてきたりとやりたい放題である。俺はそれに対して、魔力を込めた一撃を叩き込むことで相殺しなんとか凌いでいっている。

ただ──これはあくまでもその場しのぎに過ぎない。この場を凌ぐための行動だ、どうにか打開策を考える必要があった

「ねぇー!お兄ちゃんどうすんの!?」リリィは相変わらず余裕があるのか、そんな風に声を掛けてきてくれたおかげで考え事に集中することが出来た。

(さてとどうするか──現状打破の手段は限られてる。だが──それをする為に必要な準備時間が足りていないな。だがこの場で戦える奴は俺だけしかいない。いや、白兎もいるが──あれの出番はまだか?俺一人じゃ流石に厳しいぞ)俺がそんな事を思ってる最中に──

「ねぇリィーアちょっと手伝って欲しいんだけどさ、私のことサポートしてくれるー?」ルナリアの言葉にリリィが返事をする「おっけーまかせろー」俺もリリィと同じく返事を返す

「じゃあいっくよー、はぁー!!」

すると── 突然、俺達を中心に大きなドーム型の光が広がったかと思うと──そこには信じられない光景が広がっていた。そこにいるのは魔族の大軍だ。それもかなりの数が居る筈なのにその姿はどこにも見当たらないのだ。そして何よりも驚きなのがこれだけの数の敵を全て殲滅したということだった。俺はもちろんのこと、恐らくここにいる全員が同じことを思ったはずだ。──こんな芸当が出来るのはこの世でただ一人、俺の師匠だけだ。そしてその人の弟子でもあるこの二人にもその力があってもおかしくはなかった。俺がそのことについて問い掛けると──

「いやぁ〜ごめん、ちょっと加減間違えちゃったかも〜」そんなふざけた言葉を吐いてきて──「でだ、何が起きたんだこれは」俺は改めて問いかけると、俺の方を見ながらニヤケ面でこう告げる「だからいったじゃん。私が世界に影響を与えて──」そこまで聞いたところで──俺は思わず突っ込んでしまった「ちげぇよ馬鹿、そんな意味じゃねーよ」俺が呆れ気味に言うと───「むぅう、せっかく手助けをしてあげたのに酷いなぁ」そう言って口を尖らせ拗ねていた 俺の頭に、疑問が生まれる。確かに今こいつは世界を歪ませると言っていた──だが、この規模の力を俺に見せたのはどうしてなんだ?と するとその俺の疑問を察知したのか──ルミアと名乗る少女は答え始めた

「まぁ、私は別に君と敵対しようとかそういうつもりは全く無いからね」俺は少し安心していた、なぜなら、敵対するという事はこれからもこういった面倒事に付き合わされるという可能性があるということに他ならないからだ。それにこの子の力は圧倒的だ。下手したら本当にこの世界を壊しかねないレベルだし、それに、この子の正体について俺には見当がついている。だからこそ、そんな相手に敵対しないと言ってくれたのであればその意思は尊重するべきだと思う

「なら──なぜ俺に力を見せつけたんだ?」

「それは、ただ単に───私が退屈しているから、かな」俺の問に対して彼女は笑いながらそう答えると───

「ねぇねぇ、君──私と遊ばない?」そんなことを言うものだから俺は咄嵯に身構えるが、俺にそんな行動を起こす時間すら与えられずに、俺は意識を失ってしまうのだった

「ねぇーまだつかないわけぇー?」俺は馬車の中で愚痴をこぼしながら外を眺めていると、「おいこら、いい年こいてぐずるんじゃねぇ。そんなんだから嫁さんに逃げられるんだよ。全く、親があんなに美人だってのに勿体ねぇ」俺が親父と母さんの若い頃の写真を見た時、とても綺麗だったことを覚えている。それに父さんと俺の顔は瓜二つだったらしい、正直、俺自身でも自分の容姿がどんなものかよくわかっていなかったりする。というのも小さい頃に一度、村が魔獣のスタンピードに襲われ両親を亡くしてからというもの、女手一つで俺を育ててくれたのが今の親なのだ。その苦労は俺が想像することも出来ないものだろう 俺も男なのでそのことは理解しているのだが──やはりどこか心の中にわだかまりがあった。そんなことをぼんやり考えていると、外から声が掛けられた

「お客さーん、そろそろ着くよ」そう言われて窓から顔を出して確認すると、そこには広大な敷地にいくつもの建物が見えた そして──門の前に立っている衛兵のような格好をしている人達がいる、その数はかなり多く見えるが、どう考えても明らかに門の前の人数が少ない

「なんか、少なくないか?」俺は素直に疑問を口にするが「んあ、ああ。今日は特に何もないしね」そう言われた瞬間に理解した──要は俺が王都に来た時のように特別な用事がある訳ではなくて普通に街へ出るための手続き的な何かなんだろう。俺は御者席に座っていた男に礼を言い、そのまま歩いて向かう 門の前で止まっていると衛兵の一人が近付いてきた「身分証を提示してください」俺はその指示に従うために、ギルドカードを提示する。するとその男は一瞬目を見開いたが──すぐに平静を取り戻したようで「はい、では次からはそちらの方に記入して提出してください。それでは──ようこそ王都ラフィーネへ、楽しんでください」そんなことを言いながら敬礼をされた。俺がそれに会釈をしてから、その場を後にしようとすると後ろの奴らに呼び止められた

「お兄ちゃん、ちょっとまって」振り向くとお姉ちゃんの姿が──

「お、おう。って──お前その髪色」俺は驚いた、そう──俺の記憶の中の姿と完全に合致してしまったからだ。「お前、なんで──」「うん、久しぶりだよね、おとう、さま、あの時は、私を守ってくれ、てありが、とう」そうして俺は泣き崩れてしまったのである。

俺は、泣き止んでからのことはあまり覚えていなかった。俺が覚えていることと言えば白兎と別れてからの事と俺の両親が俺のせいで死んでしまっていた事と、俺だけが生き延びてしまっていた事、そして──この国に来るまでに、ずっと泣いていたことだ。

それからしばらく経ったある日、俺に転機が訪れる。それは、この国の王様──つまり俺の叔父さんが俺を訪ねて来たことだった。そこで、この国は俺の住んでいた村の近くの山奥にあるダンジョンの調査に来ていたのだという俺は、王様の話を聞いている内に頭が冷えてきたので、自分の身の上話を始めた。両親は既に他界していることや、村を襲われて、一人で生き残ったこと───それと俺に『聖眼』と呼ばれる固有スキルがあることを話した

「ふむ、なるほど──しかし『鑑定』持ちか。これはまた厄介だな。『解析』や『鑑定』などと言ったものは大抵の場合、秘匿されるべき技能だ。悪用されてしまえば大変なことになる。もし良かったら我が城で暮らしてくれないだろうか?」俺はこの言葉の意味を理解していた。俺は今、この国に居なければ危険だと言う意味が込められているということを───── こうして、俺は正式にこの国からの援助を受ける形で生活することになった。最初は流石にそこまでしてもらうのは悪いと思っていたのだが───

「気にすることはない。我が国は優秀な冒険者が欲しい、だから援助させて貰うだけだ」

「いや、流石に──そこまで迷惑はかけられません」俺は必死に断ったのだが、結局は俺の意見は通らず半ば強引に、俺が望むものを用意させられたのであった。

「なぁ白兎、俺のこの格好どうにかならなかったのか?」俺の目の前にいるのはメイド姿の白兎──この国では使用人をメイド服という物で統一しているようだ。この服装に着替えさせられてからは俺に対する態度は多少軟化したように思える

「はい、とても良く似合っています」相変わらず感情の篭っていない言葉ではあったが褒められていることに変わりはない。まぁ別にいいか、と思えてしまう辺り、この少女の不思議な魅力に魅せられつつあるのかもしれない この世界に来てから二週間が経過しようとしている。最初の頃は大変だったものの、今ではある程度落ち着きを取り戻してきている、というか、やることもなくなってしまったのだ。まぁこの世界の文化を知るための本を読んだりはしているんだけど── そんなある日、俺の耳に聞きたくない報告が届く。それは、隣国と小競り合いが起こったというものだった──そしてそれは俺達にとってとても重要なことだった。なにせこの国は俺の故郷なのであり── 俺はすぐさま部屋から飛び出すと城門に向かって走り出した。だが俺はこの国の兵士じゃないから自由に動くことは出来ない。だけど今は非常事態だ。俺はその事実を武器に何とか国王様にお願いをすることに成功する 俺は早速王都の外に出ようとすると──そこに待ち構えていたのはルナリアさんと、リィーアとルミアの三人だった。どうやら彼女たちは俺を止めに来たようだ。確かにこのまま行けば間違いなく戦いに参加する形になるだろう───俺はそのことを彼女達に告げる「じゃあさ、一緒に来ればいいじゃん!」そんな事を当たり前の様に言い放ったルナリアさんの一言で俺は彼女の同行を許さざるをえなかった 王都を出て、俺達は戦闘が行われているであろう地点へと急いでいる途中、突如地面から現れた魔法陣のようなものに俺は飲み込まれ、気が付くと俺の体は宙に浮いていた

「ここは──どこなんだ?」俺は思わず声を出してしまい、それを聞いていた少女が──「ようこそ勇者様! 我々は貴方のことを歓迎しますよ!」いきなり変なこと言ってきた 何が何だか分からないままに俺の頭の中で色々な思考が渦巻き、最終的に行き着いた結論としては──俺はもしかしたらこの世界にやってきたばかりなのに、異世界に転移してきたということなんだろう。それにしても──

「なんですかこの女の子たちは?」「あはは、びっくりしたかな? 彼女は私の妹のリィーアちゃん。こっちは友達のルミアちゃんだよ」俺が質問すると、ルナリアさんが説明してくれた その後の説明を聞くと、まず、俺の名前は黒兎と言い、年は18歳で、高校生だというと少し驚かれたがそれ以外は特に問題なく、俺が勇者召喚に巻き込まれてこの世界に飛ばされたことが伝えられた そして、俺は魔王討伐のために旅をしなければならないらしい、なんでもその力を持ってして俺がこの世界を救い平和をもたらすとかなんとか。まあ正直俺がそんなことをするつもりはさらさらない。なぜなら、今の俺はただの一般男性であって、剣を握ったことすら無い。それなら俺の固有スキルである【無属性魔法】を使えば良いのでは無いかと聞かれれば、俺は答えることが出来ない 理由は、このスキルには制限があって、俺自身が直接手に触れなければならないという条件が存在する。そのため武器などを媒体として攻撃することしか出来ないのである。これでは戦うことも難しいし、第一、魔王を倒すのが目的と言われてもピンとこない。俺は元の世界でも学生でしかないんだ、人を殺すような行為に加担したくなんてない とりあえずは状況把握と、俺自身の実力の程を把握することから始めようと心に決めたのだった

「それで、ここって一体どこなんでしょうか?」俺の率直な疑問にルナリアさんは「うーん。そうだねぇ。端的に言うと君がいた地球とは別の次元に存在する惑星ということになるよ。

この空間を作り出した魔族によってね」

俺が元いた場所とは異なる場所に連れてこられたと聞かされて正直焦った──もしもこの場所が地球のどこかであったのならばまだ諦めがついたかもしれないけど、そうではない。俺はどうすることもできないのだと理解して、自分のステータスを確認してみるとそこには今までに見たこともないような数字が表示されており──俺自身ではとても戦えるとは思わなかったのである。

俺と、ルミアと、白兎の三人が馬車に乗り込み王都に向けて移動していた。ちなみに俺達が乗っているのは貴族が使うものらしく乗り心地は最高なものだった─── それからしばらく進んだ先で俺が目にしたものは──まさに地獄と言ってもいいだろう── そこにあった光景はまさしく惨状と言わざるを得なかった。

王都が魔物の大群に襲われて壊滅的被害が出ている──それだけならば俺が知っている範囲では珍しいことではないが、問題はここからだ。俺の目に入ったその先にいた生物───それはゴブリンの上位種、ハイゴブリンと呼ばれる個体でありその数はおよそ三百──そしてその先にいた存在は──『聖具』『聖武具』に分類される『宝貝』が生み出したとされる伝説の聖獣『九尾の狐』と呼ばれる化け物の姿があった。しかもそれは一体だけでは無かった。その先、遠くの方にはまだ見ぬがその大きさを見れば、どれだけ恐ろしいかは想像がつく

「なぁあんた。アレがどういう物か分かるのか?」俺は目の前にいた人物に話しかけた「うむ。あの者はおそらくは上位聖霊と呼ばれる類のものであるな。あの者からはとてつもない神気が感じられる。もしやあの者が聖樹石とやらを持ち出したのではあるまいか」「おい、あれはそんなに強い奴なのか? お前でも勝てないくらいにか」「残念ながらあの者には我らは歯が立たんじゃろうな。我は全力を出したところで精々互角が良いところだろう──」そこまで言ってから老人はその話を終わらせた。

──それから数分後──俺達の周りには数え切れないほどの屍が築かれていった──それも、ただ蹂躙されているだけじゃない。しっかりとこちら側の戦力を分散させるために、俺達は四人で一部隊となっている

「クソ、数が多いな。これ、どうにかならんのか?」

「無理じゃ。これだけの数、お主がおっても到底対処できん。今すぐ引くべきだ。いくら勇者と言えどこの状況は覆せんよ。なによりもそなたにこれ以上負担を掛けさせるわけにもいかんからのぅ」

俺の呟きを聞いた爺さんから返された言葉に俺が反応する前に目の前でとんでもない事が起こった。俺達の周囲を守っていた部隊が、まるで赤子を相手にするかのようにあっさりとその命を奪われてしまったのだ そして、俺達の目の前に現れては去って行く怪物たち、だがそんな中で──俺達の近くに現れたのは──「久しいな。元気にしてたか?」そんな事を平然と俺に向かって語り掛けてきたやつ。そう。そこに現れたのは俺の元いた世界での親友であり悪友でもある、俺がこの異世界において初めて出会った人間だ その男は、金髪碧眼に高身長の爽やかイケメンだ。俺と同じく制服姿でこの世界に来たのだからきっとこの世界においてもかなりの実力者のはずだ。そんなことを考えていると── 目の前に現れた男が「おいおい、親友の顔を忘れちゃいけないぜ。俺はお前のことを親友だって思ってるのに、こんな風に簡単に忘れられちまっちゃあ困るんだけどさ」

──俺は一瞬何を言っているのか理解できなかった。目の前にいるこの男、確か俺が召喚された際に一番初めに会ったのはこの男だと思うんだけど──「えっ!?」

目の前にいるのは確かに、確かにこの世界の人間に間違いはない。

でもどうして───この男の名前だけが思い出せないんだよ。おかしい。絶対何かが変だよ。俺は目の前にいる男のことを知っているはずなのに、名前がどうしても思い出せない 俺は頭の中で考えを巡らせる。なぜ、この男は俺のことを見て驚いた表情を見せたのか。そして──俺は気付いてしまったのだ。

「まさか、な。いや、ありえないだろ───なぁ? なぁ? なんでお前まで──俺と同じようにこの世界に飛ばされてるんだよ──俺と一緒にこの世界に来てくれたんじゃないの──なぁ、おい──」俺は無意識のうちに、涙を浮かべていた。そして── ──俺は、この日、二度目の再会を果たした。

俺がこの世界で最初に出会えた人間の名前は──佐藤。この世界においては一般的な名前だ──だけど、その名前はなぜか覚えられなかった。俺は必死にこの男のことを思い出そうと努力したが無駄だった。

──俺は、こいつのことを確かに親友だと思っているのに。どうして俺はこいつのことを、こいつしか思い出すことができないんだ。この世界に来てからは毎日こいつと一緒に遊んでいたのに。こいつも一緒にゲームをして楽しんでくれてたのに。

俺は、目の前に立つ親友の姿をした男に視線を移す。すると、この世界における自分の姿とそっくりの男を見つめる俺の様子に違和感を感じたらしい。俺のことを心配して声を掛けてくれるのだが──正直なところ、今はこいつに構っている暇などなかった。それよりも俺にはもっと気にしなければならないことが沢山あるんだ まずは、俺のことを気遣ってくれたこの佐藤という男のことだ。こいつの正体については大体予想がついているし、俺が元いた世界でもこいつはそういった感じの存在だった。だからまずは聞いてみることにするか──まず俺はこいつが本当に佐藤なのか確認する必要がある。それにしても見た目が俺のよく知るこいつと同じで本当に助かったよ そして、俺の言葉に動揺を見せ、すぐにその態度を落ち着かせるようにしたこの男の仕草をみて、俺の確信はさらに強くなっていく ──俺はこの目の前で起きている現象について考える これは──間違いなく固有スキル【全知全能】による弊害だと俺は判断した 俺が【神魔竜覇王創造計画】を進行しているときに、その能力の中に一つ気になるものが浮かび上がってきた。それがこの俺の視界に浮かんでいる文字で──【完全再現者】というものだった。

俺は最初こそこの文字が読めなかったが──ある時を境にこの文字の意味が分かった。俺は【神魔竜覇王】としてこの力を完全に使いこなすことに成功したのだ 俺の能力として存在しているこの【完全再現者】の文字にはこう書かれていた──────『対象とした存在が持っているスキルを全て使用することができるようになるスキル。またスキルだけでなく、あらゆる武器防具などを完璧に扱えたり、身体能力までも上昇させることが出来る。』と。

俺の脳に突如として流れ込んでくる情報の数々。それを確認した俺は驚愕した。

俺の持つこの【全知全能】によって知り得た情報──それは決してこの世の真実の一端であるとは思うが、それと同時にあまりにも残酷なものでもある なぜならば── 俺はその時に──自分が元いた世界をこの世界が創ったのだということを知ったからだ ──そしてこの目の前に存在する男。

俺は目の前で何が起きたのか分からず、混乱の極みに達しようとしていたがなんとか持ちこたえて冷静な思考を働かせようと心掛けた。しかしそれでも目の前の状況が理解できずにいた。俺は目の前に存在する親友の姿をしていたはずの男に話しかけると、俺に答えてくる。俺はこの瞬間に、俺自身が今まで抱いていた疑念は晴れて目の前に存在していた男はやはり佐藤本人であるという結論に達する

「なあ、ここは一体何処なんだ?お前が助けに来てくれたのか?それと、あの化け物は一体なんだよ?なあ教えてくれ。俺が知ってることなら全部話すから」

「ああ。そうだな───」

「悪いがお主に質問するのは少しばかり後にしてはもらえぬか?」

そんな時、俺達に話し掛けてきたのは、俺を召喚した張本人であるアルティシアとリリィナ、ルミアとルナリアであった。

どうやらみんなは、あの恐ろしい化け物を警戒して、いつでも戦える体勢になっているようだ

「あっはい。すいません、お騒がせして」

「うむ。分かってくれるならばそれでよいのじゃ。さぁ、ここからは余が相手しようぞ」

「はぁーあ。仕方ありませんね。あなたはあの方に負けているのですから、もうおとなしくしていて下さいよ?」「私だってまだ暴れたりないし。早く戦いたいんだけらさ」

そう言って前に出てきたのは二人の美女だ。どちらも美しい容姿を持つ、金髪の女性と、銀髪の女性。二人共それぞれ特徴的な部分を持っていた。

片方は背がとても小さくて胸も大きく、顔はとても童顔。もう片方は長身のクールな印象を持たせる女性だ。彼女達の装備はそれぞれ違うものであり、俺からしたら非常に見応えがあるものであった。

──俺はこの世界の人間が使う言語が何故か理解できるため。

俺は先程まで話をしていた佐藤の姿形をしている人間を見る。

彼は俺に向かって──

「すまない、俺もそろそろ本腰を入れて動かせてもらうよ」と言い放ち俺が止める間もなく、その場を離れてしまった

「えっ?ちょ───」

「ふぅ。全くあのお方は、本当に人の意見を聞きませんよね」

俺は思わずそんな声を出してしまう。

だがそれも無理はないだろう なんせ、目の前に現れたこの二人はおそらくこの世界の中でもトップレベルの実力者なのだと思うから。いや、もしかするとこの世界の人間では無い可能性もある 俺は今目の前にいる二人が発する圧力に、本能的な恐怖を覚えた。だが──俺はこの場に留まっていては駄目だと思い、行動に移そうとしたところで、俺の動きは止まってしまう。

目の前の美女の片割れが俺を睨んできたからである 俺はこの時になって目の前のこの女性が俺の事を敵と認識しているのだと気が付いた そして俺は今からでも逃げるべきかと思い、動き出そうとするが──既に俺の周りには、俺を逃がさないために、この三人以外の全員が取り囲んでいたのだ 俺はこの状況をどうにかしようと必死に考えようとするが──俺は目の前の美女に視線を向けると、彼女が言葉を発しようとして口を開くのを見て、俺がやばいと思ってしまったのだ 俺は慌てて、その女に対して言葉を返そうと思ったが──そんな俺に、金髪の女が突然攻撃を仕掛けてきた

「貴様の事は、余が殺させて貰おうかの。お主はどうやらとんでもない力を持ってるようだしの。この国にいる連中と同じような格好をしておるが、その力を放置しておくわけにはいかんじゃろ」

その女の拳を見た俺は咄嵯にその攻撃を防御しようとしたが、俺よりも先に、目の前に現れた少女が動いたのが見えたため俺は身を引くことを選ぶ 俺は自分を守るために動いてくれようとしたその小柄な身体に礼を言いたかったのだが、俺の目に写ったのは──俺の代わりに攻撃を受け止めてくれた彼女の腕が粉々に砕ける光景であった そしてその次の瞬間には、今度は別の男が姿を現し、俺のことを切り付けてくるが俺はそれに対しても回避を選択したのだ。何故ならばその男は俺に攻撃を仕掛けるために剣を振るっていたわけではない事がわかったからだ。そして俺が身を逸らしたことを確認するとその男は──

「ははは!避けやがってぇー!」と、笑いながら俺の事を追撃するように再び襲ってくるのが見て取れた。

そして、その後に続くように俺を取り囲む全ての者が一斉に俺を目掛けて攻撃してきたのだ 俺は、それらの全てを回避し、時には受け流していく。それはまさにギリギリといった感じで、正直今の俺では目の前の者達全員を相手にすることはできないだろう そしてそんな中、俺は【解析鑑定】を発動させ── 【解析結果】

名前:

性別:女

種族:鬼人種(赤姫)

職業;魔闘士Lv.70/忍者

L v.245 状態:普通

体力:

279800 / 50000+2400 魔力 :1050807/

1000500+1208000 攻撃力:256000

+5000 防御力:153100+10000

敏捷力:45560++0

運 :4300

スキル:【全属性耐性】【気配遮断】【隠蔽術 IV 】【格闘III】【暗殺】【短剣術】【火遁】【水遁】【雷遁】【風遁】【土遁】【聖魔法】【忍法 】【超加速】【無詠唱 】【転移魔法】【結界】【自動修復】【経験値倍増】【瞬動 】【アイテムボックス拡張I 】

特殊スキル【分身の心得】【影縛り】【多重起動 】【高速思考 I 】【未来予知 】【神速 】【魔道眼】【神魔竜覇王の血統 】【竜血覚醒】【覇気】【竜の威圧】【覇王の支配】【竜神覇王 】【龍覇王 】【龍魔解放 】【覇気支配】【全知全能 】【神速思考 】【武神化】【全武装】【竜覇気】【覇気解放】【闘神覇気】【覇気創造】【覇気操作】【神魔竜神装】【魔覇気】【魔覇王覇気】【真祖吸血】【吸血鬼王の血脈】【限界突破】【魔王化】【超回復】【強制進化】【完全再生】【不老不死】【絶倫】

ユニークスキル【完全偽装】【絶対探知 】【神速飛行】【全言語翻訳】【スキル共有】【性変換】【神魔竜人】【全種適応】【成長補正】【全能力適性】【究極の指導者】【全能力付与】【神竜憑依】

エクストラスキル『全能者』『完全把握』

オリジナルスキル『時空超越』

称号 【始祖の竜姫(龍)

加護

なし SP: 102920 うん。やっぱりステータスがおかしかった。俺はそれを理解した直後、すぐに行動を移そうと考えたのだが、そこでまたもや俺は動けなくなってしまう。

それは目の前にいた銀髪の女性の攻撃を避けると同時に反撃しようとした俺に対し、彼女はなんと俺に向かって蹴りを放ってきたのである。そしてそれを受けた俺は、なんとか直撃を避けたものの、それによって吹き飛ばされてしまっていたしかし、そんなことをされて黙っているような俺ではない 俺は空中で姿勢制御をしつつ着地するとそのまま目の前の女性に向けて拳を放つ だがそれを見ていたもう一人の女性。彼女が俺の腕を掴み阻止されてしまう。

「ははっ、やるじゃねえか。だがお前、俺達がお前の事を殺す気がないってことに気が付いてるだろ?まあそれでも戦うというなら容赦はしないけどな」

俺を制止してくれたその男にお礼を言うと、 俺は目の前に立つ三人の女を睨みつけると 俺は彼女たちに対して、質問をぶつけてみた

「あんたらがあの化け物をどうにかしてくれるなら助かるんだけどな。それに、俺はこの国の連中に召喚された勇者みたいなもんなんだ。頼む、協力してくれ」

すると目の前にいる女の一人が俺のことを見てニヤリとした表情で言ってきた

「ふむ。まあそう警戒せずともよい。確かにこの国を救ってくれた英雄に対して余は少々失礼な態度を取ってしまっていたかも知れぬが。それに、この世界は余の世界でもある。そして、余はこの世界を守る存在じゃからの。この世界を守るための行動をとるということはつまり──」

俺はこの女の言葉を聞いて驚いた。

この女は今なんと言ったんだ?自分の世界だと言っていた。それはつまりこの世界に元々住んでいたということだろうか

「おい、アルティシア!余計なことを言うんじゃないよ!」「あっ!すいません、つい。でももう手遅れですね。ほらご覧なさい、この男の顔を」「うわぁー本当だ。すごい間抜けな顔してる」

二人の会話の内容がよく分からなかった俺は思わず首を傾げてしまう 一体どういうことなんだろうと

「くっ!だからやめろと言うておろうに」

俺は二人に怒られている少女を見る 彼女はどこか拗ねているように見えた 俺はとりあえず二人のやり取りが終わるのを待ちつつそのやりとりを見ていると、 少女は、何かを諦めたかのような様子になりながら俺の方を見て言葉を発する その言葉を聞き終えた瞬間。俺の心の中には大きな衝撃が走った。その言葉はこう聞こえたのである 《あなたに力を授けましょう。この世界の救済のために。私の愛し子よ。この世界をよろしくお願いします。私達はこの世界の守護者であり導き手なのですから。この世界の未来を守るために、どうかその力を存分に振るってほしいのです》 そう言ってくれたのは女神と名乗る人物だった。そして、それと同時に俺は気を失うことになる。だが俺はそんな状況の中で考えることがあったのだ 俺は今まで、異世界に行くことに憧れを持っていた。そして、この世界に来てからもそうだった。そして俺はその世界を救う勇者になって、ハーレムを作る。そしてチートを駆使する でも今思えば──その憧れや、理想。そして目標というのは──全て嘘偽りの無い、本当に俺のやりたいことであったのだ。

そして俺は今、その世界を救うための力が欲しいと強く思った。だが、そんな俺の思いに応えるように。俺は光に包まれていた。そして光が消えるとそこには一人の男が立っており。俺の手にはいつの間にか剣が握られていた。

そして、俺の目の前には俺と同じぐらいか、少し背の低い女の子がいた。見た目の年齢は俺と大差ないだろう。そんな彼女を見て俺は何故か、懐かしさを感じてしまった

「貴方にはこれから、我が一族の秘伝にして奥義を習得してもおうと思う。それが、その身に宿りつつある力を使うための鍵となるのだから」

俺に話しかけてきたのはその少女であり彼女の名前はリディアと名乗った。彼女の容姿はかなり整ったものだった。長い金髪は背中まで伸びていて綺麗だし肌も真っ白でとても美しく。俺の目を奪うには十分すぎるほどであった。その美しさはまるで月の光のようであった。そして俺のことを真っ直ぐ見つめてくる彼女の目は透き通った水色のような美しい瞳をしており吸い込まれてしまいそうなほど魅力的でもあった そしてリディアは言った

『我が一族に伝わる剣舞を伝承するためにはまず基礎の基礎を教えねばならぬ。そしてその次に剣技を会得してもらう。それは、この剣を持って我と戦うことにより習得することができるだろう。それでは、始めるぞ?』

こうして、俺は修行という名の戦闘が始まったのであった ◆ 俺は目の前の少女──アルティシアと対峙しながら構えをとっていた 俺は先程、アルティアと出会って、いきなり戦いを仕掛けられた。それは別にいいとして── 俺の今の現状はといえば、なぜか俺が押されていたのである そして今はなんとか攻撃を防ぎながら逃げ回っているというのが本当のところである ただそれも長く持ち堪えることが難しくなってきた。なぜなら彼女は強いのだから 俺もそれなりに攻撃をしているつもりなのだが彼女は一切ダメージを負ったように見えないし、こちらの攻撃が全て通用しているというわけでもないようだ それに俺は彼女の攻撃を受け止める度にどんどん力が強くなっていくという感覚に陥っていた そのため俺は必死になっていた。

このまま攻撃され続けたらいずれ俺の方が持たないと分かっているからである 俺はどうしようか考えていたその時、突然身体の中に膨大な量の情報が一気に流れ込んできて頭が破裂しそうになった。しかし、同時に俺は新たな力を得ることができた。その力を使い俺は彼女に一矢報いることができそうだと感じた俺は反撃に移る まず、俺に攻撃を仕掛けようとしているアルティアに向かって魔法を放った 【風遁】『真空破』

【風遁】『鎌風』

風の刃が彼女を襲うとアルティアはそれをギリギリのところで避けた だがそれで終わらない 【風遁】『風神』

俺が魔法を発動させると魔法陣のようなものが現れて、そこから風が放たれていく。

風属性魔法の応用編である【風神】だ 【風遁】『鎌神風神』

今度は風が圧縮されて出来た風のカマイタチを放つ アルティシアは俺の攻撃をなんとか避けることに成功する。そして彼女は俺に向かって突撃してきた 俺と彼女が激突し、お互いに後ろに弾き飛ばされたが俺は空高く飛んでいた。

【神魔竜人】による【神速飛行】で回避をした。だがアルティナはそのまま追いかけるように飛行してくる 【竜翼】

【魔覇気】を纏い飛翔していた アルティリアは竜の力を得た人間らしいのだが竜族の中でも上位種である竜魔人と呼ばれる存在らしく。竜族の王族だと聞いた

「へぇ〜、なかなかやるじゃねぇか」

【竜神】『真の姿』発動 そう言って俺が、アルティリアが乗っている龍の頭部に向かって突っ込む すると、龍の顔は消え、代わりにアルティアが現れた。そして、彼女は俺の腹部を思いっきり殴りつけてくる それを俺は、なんとかガードしたが威力までは殺しきれず地面に叩きつけられた 俺は空中に浮かび、アルティリアの猛攻をどうにかしのぎつつ隙を窺っていた だが俺は焦ってもいた

「おいおいおい!お前はこんなもんなのかよ!なんか拍子抜けじゃねえかよ!なあ?お前本当にこの世界の英雄って奴なんだよな?」

俺はアルティシアに向かって言うと

「くくくっ!ああ。英雄とはお前らが言っているだけだけどな。でも私はお前を殺す。絶対にな」

その発言を聞いて俺の中でなにか引っかかるものがあった だが俺はそのことをあまり気にしないようにして会話を続けることにしたのだ

「まあそれでもいいんだけどな。それに俺だってまだ本気出してないし、というかそもそも俺に本気で勝てると思ってんのかよ?悪いけど俺は本気出すともっと強くなっちまうからよ」

「ほぅ?本気を出すのを躊躇っているような相手にこの私が負けるとでもいいたいのかな。面白いことを言ってくれるではないか」

俺の言葉に対して、少しイラついた様子を見せた 俺はそれを確認するとさらに言葉を紡ぐことにする

「そうかい。じゃあ後悔させてやるか──『炎神の威光』『雷神召喚』、『魔神解放』・『悪魔化』」

そうして俺は次々と魔法を唱える 俺は今、魔法を唱えた際に出た魔力を使って、一時的にではあるが、限界突破に近い強化を行っている これは自分の中の何かを犠牲にすることにより行うものである その代償は自分の魂であり。俺の身体には呪いが付与されるので命を削っての行いでもある だがそうすることによって俺はこの世界で最強の力を手に入れることができる この世界の連中はこの状態になっても俺は倒せないかもしれないと思っていたのだ 俺は、この世界に来てからずっと強くなりたかった。ただ、それだけだった。

でもその願いは今叶った だからもう後戻りはしない、もう誰も失わない、俺には守りたい人が居るんだ

「俺が今使える中で最高最強最高の力だ!受け取れ!」

【究極進化 】

俺の中の全てが一つになった。

そして次の瞬間、俺の肉体は完全に変化を遂げた

「ふむ。それが君の本当の姿なんだね。とてもカッコイイよ。でも残念だよ、これで終わりだね」

俺は、自分が出せる最大の力を開放した。それにより俺は今までの俺とは違う強さを実感していた だが目の前にいる存在はそれと同等以上に強大であった 俺は目の前の存在を倒すために動き出した。

だが相手の方が一枚上手であった。

俺の攻撃をいなすと蹴りを入れてきた。

俺はそれをまともに喰らい後方へと吹っ飛ぶことになる。そのまま俺は木にぶつかりその反動を利用して上空に退避するが既に追いつかれてしまっていたのだ。その拳には俺と同じように赤いオーラのようなものが発生しておりそれをぶつけられた 俺は吹き飛び意識を失うことになったのだ。そして目を覚ますと俺はまたも気を失っていたようで。リディアの声が聞こえていた

『我が一族の剣を継承せし者よ。目覚めよ、我が一族の剣を受け継いでくれた礼としてお主に力を授けよう。お主の望む力はお主自身で探すといい、それでは、達者でな』その言葉を聞きながら俺は眠りについた ◆ 俺は目が覚めると周りを確認していた。

(ここは何処なんだろうか)

俺は周囲を確認していたが、あることに気が付きその事について考えてみる。なぜならば、今俺が着ている服が綺麗になっていたのだ。泥だらけだった俺の服装が綺麗になっているのを見て、俺はとても驚きながらも、なぜ汚れが落ちたのだろうと疑問に思っていた。そして俺はリディアのことを思い出しリディアを探し始めた。だが辺り一面には深い森が広がり。視界の悪い場所が多く。俺は自分の居場所が分からなくなっていた。俺はリディアをすぐに見つけ出すことを諦めると、とにかくここから出るために歩くことに決めたのである。

俺が自分の足で移動を開始してからかなりの時間が経った頃。遂に出口を発見したのである。そこには光が射しており。俺はやっと外に出られたという気持ちになってホッとした。

外に出る前に俺はリディアに借りた武器のことを思いだす そしてその刀を手にとっては見て、感触を確かめる 俺にとってその剣はかなり上質なものだというのが理解できた。俺の持つ剣よりも圧倒的に性能が良いものだった。

だがその反面。その刀からはリディアの力を感じ取ることができた その力はかなり強力であった為、試しに使うことになってしまった。それは俺の中にある【真眼】によって分かったことで、どうやらこの武器を使えばかなり強いものになるということが感覚的に分かっていたからである。それにしてもあの女はどこに行ったんだろうかと俺が思案している時に俺はとんでもない人物を見つけたのである そこにいたのはある国の王様のような人物であった 俺は慌ててその場を離れようとしたが、遅かった。その人物は俺に気づくと話しかけてきて

「おお!!君はまさか!アルティリアを倒した少年なのか!?ぜひ我が国で働かないか?いやその力なら騎士団に推薦するぞ!!」

そんな事を言ってきた

「すいません、俺は、まだ旅をしなければならないので。それと俺は、別にそこまで強いというわけではないですよ」

「いや、君はまだ実力を隠しているという感じじゃないかな?」

「それはあなたにも言えるんじゃないですか?」

俺は、そう言うと。その国王は苦笑いを浮かべていた 俺はそれから少しだけ話すとその場所を立ち去ることにしたのだ

「まぁまたいつか会おうではないか」

俺が歩き始めるとそう声が聞こえた 俺は後ろから何かを感じたが無視することにしたのだった ◆ あれから数日が経過したが、未だに森の中をさ迷っていたのだった 俺は食料が尽きてしまったのと、疲労のせいで倒れかけていた 俺が倒れる寸前。俺は誰かが近くにいるような感覚を覚えた その者は俺を見つけると俺の方へ駆け寄ってきて

「貴方、どうしたのこんなところで寝転んで」

その声に俺は目を開くとその女性は心配そうな表情をして俺の方を見ていた

「あんたは、一体」

「私の名前はアリスですわ、それよりも貴殿は大丈夫なのですか?見たところボロボロな状態ですが」

その少女に言われて俺は、自身の状態を確認したところ。俺の全身には擦り傷などがたくさんできていて血まみれの状態であったのだ そして俺は思い出す アルティリアとの戦いで限界以上の力を使ったということを だが不思議とそれについては問題なかった。というのもなぜか、俺はアルティリアとの戦闘が終わった直後に力が抜けると同時ぐらいから身体の状態が元に戻り始めていたからだ。俺はそのことをアリスと名乗る女性に説明する

「そう、じゃあ貴殿が英雄様で間違いないようね」

俺はアリスにそう言われる

「どういうことだ?」

俺は聞き返す

「だってそうでしょう?普通あんな状態の人間がいたらまず近づかないし。しかも見た感じ貴殿は貴族でもなんでも無いわよね?」

俺はそれを聞いてしまったことを後悔することになった

「確かに俺は元々平民だけど今は違う。英雄だなんて名乗ったこともない」

「まあいいでしょ。それより早く帰りましょうよ。私ももうそろそろ家に帰らないと母上に叱られてしまうのよ」

「そうだな」

そうして俺とこの国の王女は出会った。そして、俺達はお互いが助け合い。なんとかして国へと戻ることが出来たのであった。だが俺はまだ知らない。この後。自分の正体を知って、俺の旅は終わるということに──────── ────── アルティリアに吹き飛ばされ気絶してしまった俺は、その後、目が覚めると自分がベッドで眠っていて隣にはリディアがいるという状況を目の当たりにする。

俺が起き上がるとすぐに、リディアはこちらに気づいて近づいてきて、抱きついて来た

「良かった。本当に無事だったんですね」

「ごめんな。心配かけちゃって」

「ううん。でも、次から気をつけてくださいよ?」

「ああ、ありがとう。あと、この数日間俺がどこに居たか知ってるか?」

「私は、アルティリア様に頼まれていた仕事があったので詳しくは分かりませんでした。けど私がここにきた時には既にこの屋敷にはいなかったんですよね」

「なるほどな。じゃあ、この国で色々と情報を集めていこうかな。まあ、この国が平和かどうかでこの先のことも決まるから、情報収集ってよりか、観光みたいな気分だけどね」俺はそう言いながら、リディアにこの世界のことをもっと知りたいと思っている リディアはその言葉を聞いていたのか俺に尋ねてくる

「それなら私に任せてください!この国に昔から仕えてくれている使用人に話を聞くことが出来ますので、その者に話を聞けるように頼んでみます」

「わかった。お願いしようかな。とりあえず今日一日休んだ後にその人に会いに行っても大丈夫かな?」

俺はそのリディアの言葉を受けてそう答える

「ええ。もちろん構いませんよ。それと、その方にはこの国で一番美味しい料理を出してもらっても構わないように手配しておくので、楽しみにしておいてください!」

俺とリディアは二人でそんな会話をしている時に扉が開かれてそこから入ってきたのは、この国の騎士服を身に纏った一人の少女が入ってきて俺に向かって敬礼をする

「初めましてレオン殿。自分は、クレア様に仕えているメイドであり、この国の騎士をしておりますレインというものです。これからよろしくお願いします!」

「おう、俺はレオンだ。こっちの子はリディアっていう名前だ。よろしく頼む」

俺は挨拶を終えるとレインから色々な質問を受けることになった 俺は今どうしてこんな場所にいるのかを説明した上でここがどこの国なのかなどを簡単にだが説明をしたのだが。それをしっかりと聞いてくれた後、今度は自分の自己紹介を始めてくれた 俺の話を聞き終わった彼女は少し考え込んだ様子を見せていた だがそれもほんの一瞬の出来事だったので俺は気にせずそのままにしていた 俺が今現在いる場所は王国では無く、王都であるらしいが、そこまで大きくはなく。しかしかなりの大きさを持つ都市でもあるようで、そこに住んでいる人口は数万人。そして騎士は1000人ほどしか存在しないようだ さらに、その都市の周辺にモンスターが出現するためそれに対処するため、多くの戦力が必要となり。必然的に他の場所の治安も悪くなっているのだという そして俺はここで一つの仮説を思いつく。俺達が今まで戦ってきた敵は全てこの王国の騎士団に所属している奴らだと それは、先程戦ったアルティリアという女と。あの女の部下達との戦いの際に出てきた男を見ればそれは一目瞭然なのだと俺は思う あの時アルティリアと戦った相手だがあいつの強さは異常だったのだ だからこの国の中でもトップクラスの強さを誇っている存在だったのではないかと思うがそれが正解かどうかは今の時点では判断できないな 俺が思考の海に入り込んでいるとリディアから声がかかる。

「レオンさん?どうしたんですか?難しい顔をして」

「ん?ちょっとな、それよりも今からこの国のことについて詳しい人物を紹介して欲しいんだけど」

「わかりました!すぐに呼んで来させますので少々お待ち下さい」

俺はそう言うと部屋から出ていくリディアの背中を見つめていた 数分すると、リディアは一人の少女を連れて俺のところに戻ってきた 俺はその姿を見て、俺は少しだけ驚いた

「紹介するね。こちらの方が私の知人のお父様が経営されている宿屋兼食堂である【ラミア亭】という場所のオーナーさんのミレアナさんだよ」

「ミレアナと言います。一応オーナーの娘になります。今後とも当宿を宜しく御願い致します。そしてこの度はリディアの危ないところを助けてくれて有難うございます」

そう言って俺に頭を下げた彼女だが、どうやら彼女の父親は、元冒険者でAランクだったようだ そのおかげでお金はかなり持っていたので宿屋を経営することができたのだと言っていた。それにしても、俺は、目の前の少女を見たときに違和感を感じたのだ 見た目からでは年齢が読めなかったのだ。というのもその少女は大人のような姿に見えるが実際は十代前半のような雰囲気を出していたのだ。それはなんというか不思議な感覚に陥るような容姿であったのだ だが俺はそのことについて聞くのは辞めることにした それから俺たちは、食事をしながら話をする。リディアの父親が作った飯はとてもうまかった。俺はその料理を絶賛している「本当にうまいな。これを食わせてもらえれば、旅に出て良かったって思えるよ」

俺が、笑顔でそう言うと、何故か二人は照れてしまったようだったが、なぜなのかは分からない そして食べ終わると、ミレアナが俺に話したいことがあると言うので少しの間二人きりで話がしたいと申し出てきたのだ 俺は特に断るような理由が無かったのでそれに応じることにした。俺が了承したことに少し安心しているリディアが視界の端に入った 俺はその後リディアと別室に移動することになりそこで俺とミレアナは、話し合いを始める その話はやはり、この街の周辺にあるダンジョンについてのことだった。この世界には、『七つの大罪』と呼ばれる7体の悪魔が存在しており、それぞれが強大な力を秘めているそうだ それで、今回、その内の一体である傲慢を司る悪魔。サタンが、復活しようとしていてその封印を解くために動き始めているそうだ。ちなみに残り六体は強欲と憤怒を司っているのだそうだ 俺にそのことを告げた後、彼女が口を開く。その内容は驚くべきことだった。俺は、俺が勇者であるということを知ると同時に。魔王軍のことを知っているのかと聞かれたのである 俺は正直に答えることにする

「ああ。知ってる。そして俺がその魔王軍と敵対してるのは確かだな」俺がそう答えると彼女は驚く様子もなく冷静だった。おそらくだが彼女はある程度予想は出来ていたのではないかと俺は思った。そして続けて俺に質問してくる

「そうですか、貴方ほどの実力者がこの国に居るとは思いませんでしたが納得できましたよ」

「あんたが聞きたいことを聞かせてくれるなら俺もある程度の情報を渡せるぞ」

俺がそう言い返すと、彼女は少し考え込んだ後に「じゃあこうしましょう」と言って提案を出してくる 内容は至ってシンプルなもので、お互いにお互いの持つ情報を教え合うということらしい。俺はそれに対して「わかった」と答えた。その後。情報交換を行うことになったのだが、俺がまず、この世界に来た理由について教えることになる。この世界で、女神に頼まれたことを包み隠さずに伝える

「なるほど。そういう事情があるなら私が協力するのは構わないわね。じゃあ私も情報を提供するわね」

そう言ったミレアナは俺に対して情報を与えてくる まずこの国の名前だが。ここは『神聖国家ブリリアント』という名前だそうだ。そしてこの国には他の6大国と違って王族が存在していないのだという。その代わりに貴族というものが存在するらしいのだがその貴族は王家に仕える者たちの総称らしく、それ以外の貴族の身分の者は基本的には一般市民として扱われているようだ 次にこの国の成り立ちだが、この国は元々は別の国だったようだ。ただ、その国は戦争によって消滅してしまったという。理由は単純明快で、他国との戦争が原因だったようだ。それで現在のこの国が出来上がったのだという ただ。国が出来てからかなりの年月が経過しているはずだがそれでも発展の兆しが見られないことから。他の5国と比べるとこの国には何か足りないものでもあるのかと考えるのは自然なことであった 俺はその情報を聞いて。この国がこれからどういう状況に陥っていくのかということを考えて不安になったのだが そんなことは関係ないかと思い直した。なぜならこの世界には元々存在していたこの国が存在しているからだ だから今考える必要が無いと考えた その後は俺とミレアナは情報を交換し合った後に俺達は一緒に夕食を取ることにした。俺はこの世界の文化が知りたかったのだがリディアが教えてくれるとのことだったので彼女に丸投げすることにした。

その時にリディアが俺に尋ねてくる

「レオンさんはこの世界を回るんですよね?」

「そのつもりだよ」

「でしたらレオンさんはどのような目的を持って行動しようとしているのですか?」

俺はリディアに問われて少しだけ考え込んだ後に。自分の答えを口に出してみる

「俺は色々なことを知りたいとは思っているが、今のところはまだ決めて無いんだよな」

俺はそう口にすると。その言葉を耳にしたリディアが

「そうですか。でも、私も色々なところを回ってみたいですね。そして色んな人と関わっていきたいです!」そう言って笑顔で笑っていたリディアを見て俺はなぜか心が温かくなっていくように感じていた。その理由は俺にも分からない 俺はそんなリディアをみて思わず微笑んでしまうと、そんな俺の様子をみていたリディアが突然顔を真っ赤にして慌てていたが何故なのかは俺にはわからなかった。

俺とリディアはそんな会話を終えて食事をした後は部屋に戻ってきたのでそのまま就寝することにしたのであった

「リディアちゃん。ちょっといいかしら」

「はい。どうしました?お母さん?」

「少し、あなたに伝えておくことが有るからよく聞いてちょうだいね」

私はミレアナさんに呼び出されたので彼女の部屋に向かったのです。

そしてミレアナさんの話を聞くことになります。

「えっと。リディアは冒険者をやってみたいという話があったでしょう」

「うん」

「そのことについてだけど、もし良ければうちで働いている従業員の中で一人面倒を見て貰いたいと考えてる子がいるのよ」

私はその話を聞いた時すごく驚いた だってこの店で働く人はみんな家族のような存在だから。それにお世話になってばかりなのでこれ以上迷惑をかけたくないとも思っていたのでその気持ちは当然だと思う そして、私のその反応はミレアナさんの想定内の出来事だったようで 彼女は笑顔で続きを話し始めた

「あなたの考えている事は分かっているわ。それでその人が冒険者としても優秀だし人柄も良いしで私の自慢の息子みたいな子なのよ」

ミレアナさんはその人の事を息子だとはっきりと言っていた。そこまで褒められるのならその人はとても良い人であるというのは分かるので 私はその人をお願いすることにします。と返事をすると 彼女はとても喜んでくれていた。

それで私は、この人に恩返しをしないとと心に決めた。

だから私は、この日から本格的に仕事を始めた。その日は冒険者になるための訓練や準備をしたり そして、その翌日。朝起きたらすぐにその男の人達を起こしに行きます。すると何故か、その男の一人が驚いていましたが その人もその隣にいる女性も同じ表情をしていました。どうしてなのかわかりませんが ミレアナさんの手伝いをしながら一日を過ごしましたが。ミレアナさんの作る料理は凄く美味しいので、ついついたくさん食べてしまいました。

夜は寝床の準備をして、その日の夜は早めに休むことにします。

そして次の日の朝になるとミレアナさんの宿屋で働き始めて2日目となります 昨晩は冒険者に早く慣れるように訓練をすることを決めていたので、早朝の時間に訓練を始めようと思っています

「よし!頑張ろう」

気合を入れた私はいつも通り宿屋の食堂に足を踏み入れる。

するとそこには、ミレアナさんが既にいて私に話しかけてきた

「おはよう。リディア今日は頑張っているわね」

「はい!頑張りたいと思います」

「それで、リディア。実はあなたに紹介したい人物が居るのよ。彼を連れてきてもいいかしら」

「分かりました。じゃあその方をここに連れてきてください」

「分かった。少しだけここで待っていてくれるかしら。リディアは朝食を食べるといいと思うわよ」

そう言われて私は、朝食を食べ始めると。ミレアナがその男性を連れてきて、紹介してくれる

「初めまして。俺の名前はライって言うんだ。歳は17だ。ミレアナのところで働いてる」

ミレアナのところと強調していたのでミレアナさんのところで働いていたのだろうとは思ったけど、年齢は少し若かった だから、もっと年上の男性だと思っていた

「リディアと申します。16歳です」私はそう自己紹介するとミレアナから彼のことについて紹介される。それは私が彼に助けてもらうということだ。そしてそのことを伝える為に彼は来てくれたらしい

「あの時はありがとうございました」私は頭を下げたのだが。彼が不思議そうな顔で見ていた為に疑問に思ったことを尋ねた

「どうかしたんですか?」その質問に答えてくれたのだが

「リディアさん。別に敬語を使う必要はないぞ。それに俺の方こそ感謝しなきゃいけないから礼を言わせてくれ」と言われたが意味がよく分からなかった。そして私に何に感謝をしているのかを聞いたのだ

「お前のおかげでこの国の未来を護れることができたんだぞ。それに、お前が俺を助けに来てくれたから俺は命を落とすことはなかった。本当に感謝してるぜありがとよ」

それを聞いて、なんのことを指しているのか理解した 私がこの国に来る前に魔王軍に囚われていて奴隷のように使われていたという話のことを言っているのだろう。それでこの人は私に対して、自分のせいで酷い目に合わせてしまったことを申し訳なく思ってるのだと感じ取ることができた 確かにその時はかなり悲惨な体験をしていたんだけど、この人の言葉を聞いて、この人は私の為にここまで動いてくれているのだと思い。嬉しく思った。

そのあとはライさんと一緒に朝食を取って。少しの間雑談を交わした後 ライさんが冒険者の基本的な説明を行ってくれるということで一緒に訓練を開始することになる。最初はまず、体力づくりとしてマラソンを行うことになりました。

「まず、基礎となる体力をつけることから始める必要がある」

ライさんが私に向かってそういった後に。私達は街を走り出す

「とりあえず、走りながらだが。この国ではレベルが上がる際にステータスの数値が上昇していくのが基本になっているのはわかるか?」

その問いかけに対して私は「うん。知ってる」と答えた

「そうか、じゃあこの国で強くなるにはどうすればいいかということも理解できるな」

「それは簡単で、とにかく戦えばいいんだよ」

私が得意げになってそう答えると。その反応を見たライさんは呆れた様子を見せながらも話を続けて行く

「まぁ間違ってはないけど。戦うのが好きな奴とかは戦闘で経験値を稼ぎまくったりしているんだよ。だが、そういうのはごく一部だけだな」

「え?なんでそんなこと言うの。戦ったほうが経験が積めるのは間違いないよね。そうじゃないの?」

その問い掛けに対しライさんは真剣な表情を浮かべるとこう口にする

「確かに、戦闘を繰り返すことでレベルアップの際に上昇していく身体能力や魔法の威力も上がるようになるが。それはある程度のレベルになってからの話でだ。この世界に存在するモンスターのレベル帯の相手と戦っていたとしても得られる経験はほんの微々たるものでしかない」

その言葉を聞いて私は「そうなの?」という感想を口に出してしまう。するとライさんは、少し間を開けてから再び話し始めてくれる

「例えばそうだな。ジャイアントトードという魔物がいる。このカエル型の魔物の強さは冒険者になったばかりの新人でも勝てるぐらい弱い。だがこの蛙の粘液には毒性がある。つまり毒を持っている生物に近付くだけでも危険な生き物なんだ。もしその毒液が目にかかったら、失明の危険性だってある。それともう一つこの世界の人間が戦いを避けようと思わせるような敵がいる。そいつがゴブリンと呼ばれている。こいつは、子供のような背丈で緑色の肌が特徴となっている醜悪な姿をした魔物であり 女なら容赦なく襲いかかってくることで有名だ。そしてその強さは大人ほどではないがそれなりに高いレベルで設定されているため、ベテランであっても油断できない存在でもある。その特徴を踏まえて、もう一度聞きたいんだが リディアは強い魔物とばかり連戦することで。強くなろうと思えるか?無理だと俺は思う」

「うーん。そんなに嫌なら逃げれば良く無い?」

私はそんな感じの意見を言うと。またもやライさんは困ったように頭を掻くと、口を開いた

「逃げるっていう選択肢もあるにはあるが。リディアはそんな風に考えたことはあるか?」

私はその言葉を耳にすると、今までの人生を振り返るように考えてみると。一度もそんな発想にたどり着いたことがなかったことに気づいた。なのでその事について正直に話すと。「やっぱり」と、そう言われたのであった 私は、ライさんに指摘されてからは その事を常に考えるようになった。

だから、この世界の冒険者の戦いはどんなものなのかを知るために まずはミレアナさんのところに戻ってきた。

すると彼女は突然帰ってきた私の事を心配してくれていたみたいだけど 事情を説明するとその話に興味を持って食いついて来た。そしてライさんにその事を伝えに行くと言い残して宿の中に入っていった。

その時にミレアナさんが「あなたも冒険者として活動することになったらライくんとパーティーを組んでみないかしら? きっといい出会いになるとおもうのよ」と、話していたのだけど どういう意図なのか全くわからなかった私はその話を断った。だけど「気が向いたら言ってちょうだいね」と言われたので その話を受けるつもりはなかった。

その後しばらくするとミレアナさんが戻ってくるなり、そのことについて話したいことがあると言っていた。私はそのことについて話を聞くべくミレアナさんの話を聞きに行ったので

「ねぇ、あなたがライ君の言っていたリディアちゃんよね」

「はい。ミレアナさんから紹介を受けてきたのです」

「ふむ。それならライ君とリディアちゃんを会わせた方が良いと思うの。ライ君は今この宿屋の裏庭にいるから行ってみるといいわよ」

「わかりました。ありがとうございます」

私はミレアナさんと別れたあと裏庭に向かう。そしてその途中にすれ違った人たちが「あいつってミレアナさんの店で働いていたリディアだろ」「おい、なんでここにいるんだ?」という疑問の声が聞こえてきたが気にせず歩いて行くと。

そこにはライさんがいたので私は彼に話しかける

「ライさん」その声に反応した彼は私の方を向くと。笑顔を見せながら手を上げて「おう!よく来たなお嬢さん」と言ってきたので 私は彼に用があってきたのだと言うと「それはちょうど良かったぜ。お前さんに俺達のパーティに入らないかと誘うつもりで居た所だった」

その話を聞いた瞬間、私は驚いた。ライさんは、この国に居る他の人達とは違って、私の事を助けようとしてくれたからだ。

だからこそ私は、その誘いを受けることにして、彼とパーティーを組むことに決めた そしてそれからはミレアナさんのところで働くことは無くなってしまって、その代わりにライさんと一緒に行動するようになっていった ライさんと一緒に活動するようになってからは私はレベルが上っていくたびに自分が強者に近づいていくのを感じて、それが嬉しかった そして、私達はレベルを上げていった。その結果レベルは50にまで達するようになり、この国で最強に近い力を持つ冒険者と認識されるようになる ライさんがこの国を救ってから数ヶ月が経過した。私達は冒険者として順調に実績を積んでいて、この国では有名な冒険者達の一人になりつつあった。

しかし私はその事に満足することなく更なる強さを求め、ライさんと共に旅をする そんなある日のことだった。ライさんといつも通り依頼をこなし終えた後に。私はライさんにある提案をした。ライさんとの旅を続けるにあたって一つ問題があることに私は気づいていた。それはお金の問題である。

私達は、二人で依頼をこなすのと同時に、私達は、国を救う為に尽力していたため。国からかなりの額のお礼金を貰っていてかなり潤沢にあったのだ。

ただ問題なのは私があまり多くの金銭を持っていなかったことだ。

ライさんから貰った金額では生活が出来ないわけではないが。少し不安だったので、私はまだ稼げる場所を探して旅を続けていたのだが、そんな時だった

「なぁ。この国はもうすぐ終わるらしいな」私が歩いている隣を歩く男の言葉が耳に入った私は立ち止まる。この国でそんな話がされているということは この国が滅ぶ寸前であるという可能性が高いということだろう だがなぜその話が出ているのか? それを尋ねることにした。

その答えはこの国の貴族からの依頼で、貴族から依頼された男が言うには

『このままこの国を放置していてはいずれ滅びる』

そう判断し。この国で何かが起こってもすぐに対処できる様にするべきだと判断した貴族の男は この国の国王と謁見し。自分達の国の戦力を貸し与える代わりに、国の崩壊を止めて欲しいとお願いし。国の危機に対して力になるという条件を提示し。

国もそれを了承したそうだ。

この話はそれだけなら別にそこまでおかしなことは無い。この国の王族は優秀な人物ばかりで、国の危機が迫っている状況であればそれに対応する手段を用意する為に それに協力することは当然と言えるかもしれない。

だけど、この話を持ってきた男の言い分は。その対応策としての戦力の派遣を行う前にこの国の終焉を迎えさせる訳にはいかないという話だった その理由に関しては この国の王女が行方不明になったというものだ。なんでもその件については誰も知らないらしく。王女の姿を目撃した者すらいないのだと言うが。

その王女の行方は、隣国の王が匿っているという可能性が浮上したのだという この国は、隣の国との関係は友好的ではあるが。今回の騒動が、この国だけの力でどうにかなるものではないため。この事態を収めるためには、隣りの国にも助けを求める必要があると判断して 隣の国との交渉役に選ばれた者が、その王女を連れて来るという話になっていたらしい つまりその交渉役に選ばれる人物がその姫を誘拐した可能性があるとこの人物はそう思っており。

もし仮にそうなのだとしたら。王を救出せずに、隣国と交渉を行い、問題を解決した場合。

もし本当に攫われていて、この騒動が解決した後に助け出そうと思ってもその頃には既にその女性は命を落としていた場合、この国の王家にその事実を突きつけて 賠償責任を追及すれば、簡単に多額の金を引き出すことが出来るのではないかと考えているようだ。その話をしている男の表情を見る限りでは嘘はついていないように見えていたので私は信じることにした だがそれでも、その男が本当のことを言っている保証はどこにもないわけなので警戒しておくに越したことはないだろうと思った

☆細工師:素材を組み合わせるだけで色々な道具を作製することができる。スキルレベルを上げるごとに造れるものが増えていく

(ベルゼルグの義賊の一員)NEW! ◆ ライさんと私は冒険者の街と呼ばれるアクセルの街に来ていた。この国に存在している冒険者の多くはこの冒険者の街を拠点にしていることが多い。それは、この街に、この国のトップに位置する冒険者がいるからである。

私はこの街の実力者に一目会いたく、この国で最強を誇ると言われている、とある冒険者の所に足を運んだ ライさんと一緒にギルドに入ると

「ようこそ、冒険者の街へ!本日はどのようなご用向きでしょうか?」元気そうな女の子が出迎えてくれた

「あぁ、ちょっと聞きたい事があったんだが。今、大丈夫かい?」

ライさんは受付にいた女の人に話を聞くとそう口にしていた。すると

「えぇーっ! 勇者様のパーティーメンバーの方なんですが!? あっあの失礼しました。それでご用はなんでしょう」その女の人はいきなり慌てて、ライさん達に謝った

「まぁ落ち着けって、別に取って食ったりしないさ。実はな。俺の連れの装備に細工をしてもらいたかったんだ」

「そっそれじゃあお二人はやっぱり伝説の勇者様の関係者の人ですか!?」その言葉を聞いた瞬間私は驚く。

そして私は二人から聞いた話では、その冒険者は私と同年代の女性だという事を知った私は驚きながらも、ライさん達と一緒に外に出て、その女性の元に行くと ライさんと私はそこで初めて、その女性が目の前に現れた その瞬間に私は思わずその冒険者の姿を見つめていた。それはまるで、どこかの物語のヒロインの様な可憐さを身に纏っていたのだ。ライさんも同じようにその冒険者を見ていたが。ライさんはその冒険者に対してこう口にした

「おっお初にお目にかかります。俺は『ベルゼルクの義賊のリーダーの一人でライと言うものです」その口上に反応したのは私だけだったが、その人も名乗り返していた「ふふふ、初めまして。私はこの国に居る有名な勇者の仲間です。そして私はその仲間の魔法剣士。名前はまだ明かせませんが。この度は私の仲間になってくれる方が居るという噂を聞き、ここに来ました」その人のその言葉で私の胸の中に暖かいものが広がっていき その人と、仲間になりたいという思いが湧き上がる ライさんと彼女はお互いの近況を語り合っていた。彼女はこの世界とは違う世界の出身であり、ある日の事故によって突然こちらの世界に来てしまった。

だけどこの世界に召喚されてすぐに。この世界で魔王軍の大侵攻が行われ、彼女が住んでいた街がその戦場になった時に この冒険者に覚醒して圧倒的な強さを発揮して街の人達を助けながら戦い続けたが、魔王軍に負けて殺されそうになった時に、異世界の勇者の一人の少年に助けられたという。

その時から彼は彼女の心の支えとなっており、いつか彼が自分のところに帰ってきた時の為に強くなっていたという その話を聞いた後、ライさんは、彼女がどうして、その勇者と共に戦う道を選ばなかったのかと聞くと。それは簡単なことだった「だって。その人はとても強かったんですよ。でも。その強さ故にその勇者は自分の力に自信を持ち過ぎてしまったみたいで。そんな人が弱い人たちの気持ちを理解して、弱者の救済を行おうとするのは。きっと、無理だと思いました」その答えを聞いてライさんも「そうか」と答えていた。

私は、ライさんと二人でその会話をしている間ずっと。その冒険者を見続けていた

「どうぞ宜しくお願いしますね」そんな風に微笑まれながら挨拶され。私もその人に対して、自分から自己紹介しなければいけないと思い、勇気を出してその女性に声をかける。

「私の名前はリディアといいます。貴方と同じ日本からこの世界にやってきた冒険者になります。これからよろしくお願しいます。ミレアナさんの店で働いていたこともありますのでミレアナさんのところで一緒に働かせてもらえたら嬉しいなと思っております。どうか宜しくお願いいたします」

「私は、ミレアと言います。この国の有名な冒険者で今はレベルを上げるためにこの街に滞在しているんですけど。もしかしたらそのうちこの国を出ていくことになってしまうかもしれなくて。ミレアナさんから、私達の事を紹介されたら、私達と行動を共にしたいという方が現れた時のために用意しておいて欲しいと言われたものがあります。その物を用意している間に。私もライさんとリディアさんと共に活動できるように頑張りますのでどうか見捨てないで下さい!」私に続いてライさんの隣に居たその少女もまた私と同じく自己紹介をしていた。私もその子の言葉に対して「もちろんですよ」と答えると。ライさんは、「あんまり期待せずに待っていて欲しいな」そう言ってその子は笑顔を私に向けてくれて。その笑顔を見た私は。私を救ってくれたあの子の笑顔を思い出してしまい。泣きそうになってしまった。だけど、ライさんはそんな事は知らずに「んじゃとりあえず今日はこの三人で活動するとして、早速依頼を受けるか。その前にまずはこの国で有名な鍛冶師のとこに行ってその人から色々と話を聞きたいんだが」ライさんの提案で私たちはこの街で一番大きな工房に向かった

「いや〜それにしても助かったぜ、お前さんたちのおかげで何とか金が出来たんだ」俺たちの案内をしてくれた男が頭を下げて、嬉しそうにそう言った。

「なに、俺達にとってもその男を助ける事でメリットがあると思っただけさ」ライは男に対して爽やかな顔をしながら答えると 男は感心しながら、何度もうなずいていた。

☆鍛冶屋の親方

「さぁ、ここが俺の店だ。俺の仕事の腕ならどんな奴だろうと必ず納得させられるものを作れるって保証するぜ。なんたってこの俺が作った剣にぶっ刺されたモンスターは、皆、一撃死なんだからよ! まぁそんな訳だから安心して依頼するなりなんなりするといいぜ」男は豪快に笑っていた「よし。それじゃあ、頼む。こいつの武器を作ってほしいんだ」俺達が、連れてきた、盗賊の男を指差すと。

男は驚いた表情をして「おい、兄ちゃんまさかと思うがこれ全部その兄ちゃんのか?」男の質問にライはそうだとうなずくと、男がさらに驚愕する 男の話では。この街では腕の良い職人気質の男が作るものは、値段が跳ね上がり。一般的な冒険者が使う様な、安価な物はそこまで売れるものではないらしく。その男が作り出す武器の性能はかなりのものらしく。男が、自分が鍛え上げた武具の試作品を売ることで。

ある程度資金を確保し。更に良い品を作ることにより。他の客層からも注文が入るため その男は金には困っていないらしい。ただそのせいもあって、自分の店で取り扱うのに相応しい人物が現れるまでは。自分の作品を世に出すことに慎重になっていたらしい。その話を聞き終わった後。

ライはしばらく考えていたが。その話を信じてみることにしたようだ。

その後。俺は、ライから聞いた。その男の作る物が凄いらしいと言う話を信用することにしたのだが。俺がその話を聞いた時には、もうライとリディアは別の事を考えていて。ライが、俺の方を向いて ライ「おっ! 丁度いいな。この男が作った装備を見せて貰える事になったぞ! それを持って、さっそくだがその装備屋に行くとしようじゃないか」とライがそう言うと。その男が目を丸くした状態で 男「は? ちょっちょっと待ちな。まだ完成もしていない、未完成品の物を他人に見せられるわけねぇだろう」とライに反論した するとライは ライ「ふっ、問題ないだろう。そもそもこんなにも多くの、大量の素材を持ち込んだのもそれが理由だろう?」と言ってその言葉をその男は否定できずに、黙り込む

「まぁ。確かにライの言っていることも一理ある。その素材で何か新しい素材で、この世界の技術を少し変えてしまうような。画期的なものが出来る可能性だってありうるからな」

俺がそう言うと ライが、ニヤっと笑いながら「そういうことだ」と呟く リディ「ふふ、私は信じます」となぜか自信たっぷりな表情で言うリディア。

俺はライ達の意見が一致すれば反対は出来ない。その男の作った防具一式と、ついでに、ライが使っていた装備を幾つか売ることにして、ライが持っていたその装備品を全てその店に預けて。俺は男から、ライ達用にその男の製作した装備を貸してもらい身に着けることになった。ライとリディアはその店の中で、その店の商品を見て回っていて、その間俺は、ライの装備を身に付け、その性能を確認していく。

俺はライの使っている装備を身につけてみた時に感じたことがあって、その装備に込められた力を感じたのだ。俺はその装備から、神々しいオーラを感じ取っており。その装備の凄さを理解出来ていたのだと思う。その装備からは、ライがこの世界に来るまでに手に入れた。様々な伝説級の武具から、特別な力を感じられるようになっていた そして俺は、その装備の力に魅入られていたのか。無意識にその力が宿った鎧に触れており。それを見たリディアと、いつの間にか戻ってきたライは。その行動が気になったようで、二人が不思議そうな顔をしているのに気づいた俺は 俺は「悪い、つい触っちまった。この装備が、あまりにもすごいもんだったからさ」と苦笑を浮かべながら話すと。二人は何故か、驚いた様子だったが。その言葉を聞いたライは、嬉しそうにしているのと。リディアに関してはなぜか頬が赤くなっており リディア「あっいえ、全然、大丈夫ですよ」と言ってくれた それからしばらくして ライ「おいっ、おっ、お前さん、こりゃ一体どうなっているんだよ!」その男は驚きのあまり叫んでいた 男「こいつぁすげぇ。とんでもない代物を作り出してくれちまいやがった。これを作ったのはいったいどんな野郎なんだよ」ライも興奮しており、その男の持っている物に対しての感想を口にする そんなライの態度をみて、その男が俺の方を睨むように見た後にライに向かって口を開く「こいつがこの武器を作るにあたって、どれだけの犠牲を払っているのか分かっているのかよ!この男が作っているのは俺だって出来ることじゃねえぞ!こいつは普通じゃ考えられないほどの素材と時間をかけて作り上げた物なはずだ!」ライも「そ、それは、すまなかったと思っているよ。だけど、その素材を持ち帰ったおかげで。俺はその武器を手に入れる事が出来たんだ。感謝こそすれ、その男が文句を言うべき相手は、間違いなくこの武器を作り上げたその男の方だろう。その点だけは間違えないでくれ」そうライが言い終えると。男は、「ああ、分かった。そういや、名前を聞いていなかったが、名前はなんていうんだ」ライのその問いかけに対し ライ「俺の名は、天上寺 光だ」

その名前を聞いて、俺が、驚いた表情をした瞬間に、男も、目を見開いて、こちらを見ていたが、ライに質問をする 男「もしかして、お前さん。天上の国の人間なのか?」とライに聞いていたが、

「その通りだぜ」と答えたので、男はますます驚いていたが、ライは「まぁそんなことは後々話そう。それよりも俺達の目的を果たせるようにしてくれないか」とライに言われると。男は慌てていた「おっ、おう。任せとけ、この俺の最高の物を見せてやるぜ」と言い残して奥に入って行き、数分後に、俺達に装備を渡してくれた その男はライの持ってきた、装備と同じようなデザインの服も数着作りあげてくれていたので、俺達はすぐに着替えて、その店を出たのである。

☆鍛冶屋

「うーん。やっぱりその装備じゃなくてその装備の方がよかったんじゃないか」俺達の姿を見てその男はそう口にする。ライは「なぁ、この装備よりももっと良いものをくれよ。それで、俺達はこの装備を売って資金を得るつもりなんだけど、あんたにならその装備の価値が分かるんじゃないのか」と男を焚きつけるような発言をする

「まぁ確かに、今より、優れたものを作る事はできるかもしれねぇが、今の段階ではその装備は売らせないぜ。まぁいずれ、その実力があれば。装備を売りに来ても良いって話だが、その時に売れなければ、俺はこの装備を売ることになるぜ」と俺達が渡した装備を返して貰おうとしたライだが。

「今は売らないと言ったが、その装備にはその男にしか作り出せない技術が入っているんだぜ。それを手放すって事は自分の首を絞める事になるかもしれないんだぞ」とライの言葉を聞き、男は俺のことを真剣な眼差し見つめてくる。

「ふっ、なあ、そこの兄ちゃん。もしその男が本気で、俺にその装備をくれると言っているなら貰うしかないと思わないか?」

ライは男を見ながら、その男の事を試しているかのような表情をしていた

「そう言えば、自己紹介をしていなかったな、俺はアロンってんだよろしくな。ところで、その男は本当にその装備品を譲ってくれるって言ってるのか? 本当かどうか確かめさせてもらってもいいか」

男は俺の方に近づき、いきなり話しかけて来たが。「なぁその男がそんなにも簡単にその装備品を手離してくれるって言っていることが信じられるか? それに俺がその男と同じ物を作れるとは思えないが」と俺も疑問に思ったことを言う すると、ライが、その俺の質問に答えた ライ「なぁその男がこの装備品を俺に無償でくれると言う意味がわかんねぇのかい。つまりこの装備品の作り出すことができる、技術はこの世界ではかなり希少なもので、この世界の技術レベルを上げてくれる可能性があるから、俺は、この男が作るこの世界の技術を進化させるための、きっかけになる可能性を持っていると思ってこの武具を渡すことに許可を出すんだよ。この武具の価値を知る俺と、俺の信頼が置ける、仲間が認めた者しか、この武具の譲渡を認めたくないのさ」

俺もその言葉に、なるほどと思いながら 男「ライがそこまで、信頼を置くとは、なかなか面白いやつなんだな。よし、いいだろうその装備をお前にやる。ただし条件がある、俺が作る防具には全てこの店の看板をつけることになってるが。お前の作った防具をこの店に置いて欲しい」

俺は、男に「別に構わないが」と言うと。「ありゃ? 即答したな。この店の名前はな『武器商人 鍛冶師 アダン』っていう店の名前にしてるから、これからこの店に来る時はここの名を口にしながら入ってきてくんねぇか? あとは店の扉に、この店の名前が彫られている看板がついているから一目でこの店の商品だってわかるから」と言ってきたので 俺は、それを聞いた瞬間に「はぁ?」と言ってしまった リディアは何かに気がついたような顔で「なっなるほど」と言っていたが。俺は全然わからなかったので、リディアに聞いてみると リディア「このお店が繁盛すると嬉しいですけど、あまり繁盛するのは困りますね」

ライは何かに気がついた様子でニヤっと笑っていて、 俺は二人を見て「どういうことだ?」と聞いたら、 リディアが「あっ!えっとその。実はですね、その装備を作った方なのですが、お客さんの人数に応じて、装備品の値段を下げるんです」

ライが「リディアは分かっていたみたいだから説明するが。そういうことだ、その店に来た者が装備品を買う際に値引きが適応されちまう。まぁ装備品を買った代金から値引いた金額を店の売上金に回すって訳なんだよ。だからお前さんがその装備に、どれだけの値打ちをつけたとしてもだ、お前さん以外の人間も買っていくわけだし。店に来ればそれだけでその店の儲けが出るから。お前さんが損をすることはないだろう」と言われて。納得していたのだった。それから数日かけて俺とライはその店で武具を購入しまくっていた。もちろんその店の売り上げに貢献しまくっていたが、リディアとライはその武具を欲しがっている者達に譲っていったので、売り上げにはあまり貢献していないのだが。それでもかなりの額の金をその武器屋で使う事になった その日も俺とライがいつものように大量の装備を持って帰ると、リディヤとカグヤが迎えに来てくれた。その装備の量の多さと俺の姿を見て「はぁー相変わらずなにやってんのよ。少しは自重したらどうよ」とか言われていた そしてライと一緒にいると「ライは私にだけ挨拶をしていませんよね。ライ、私に挨拶くらいしてくれたっていいじゃないですか。私だって女の子なんですよ」

ライ「はいはいわかったわかった。そんな怒んなって。それよりその装備、お前もかなり凄腕になったよな」と言い終わると俺の方を見る。俺達は今いる場所からは少し離れているため俺達の姿が見えている訳ではないようだ 俺はそこで、「そうだな。でもライのその格好は似合ってなさすぎないか?」と言った ライも俺の発言が聞こえており。俺の方に向かって走り出してきたと思った瞬間。俺はなぜかライの蹴りを食らいそのまま壁まで吹き飛んで行った。そのライの行動に対して、俺は驚いていたが他の者は当然の如くスルーしていた。

☆酒場にてライと酒を飲んでいると「おい。お前の嫁さん、強過ぎだろ。あれは反則だと思うぞ。なんであれが普通の女性に見えるんだよ。あれの何処が良いって言うんだ?」と言われた。

俺が、「確かに。俺には理解できないんだが、なんで、あいつはあんなに強いんだろうな。ただ一つ言えるのは俺には絶対服従のはずなんだけど。たまにその辺の野良猫より怖い時があってだな。まぁ可愛いところもあるんだぞ」と俺が答えると

「そんな話聞きたくなかったぜ。なにをどうやって従えたんだか知りたいもんだぜ。あの嬢ちゃん達を従えておきながら、俺と二人で飲みに行きたいとか普通言わねぇぜ。どんだけ独占力が強いんだよ、俺なんて、もう三年以上女遊びしてないんだぞ、そこんところどう思ってるんだ。ライは」とアダンが言い出した

「なっなにぃー!!。俺なんかこの世界に生まれてから女を抱いたことがないというのに、貴様ぁー。羨ましい限りだな」と俺が怒鳴ると

「まぁまぁ落ち着けよ」とアダンは俺をなだめてきた 俺とアダンは、その話をしながら酒盛りをしていた

「しかしライ、この前のあれは凄かったぞ」

ライ「あれって?何のことだ?」

俺「なっなんだよ忘れたのかよ。俺達がその武具を売っていると、急に現れてその武具を買い占めやがった奴がいたんだよ。その買い占めたやつがお前に文句言ってたじゃねぇかよ」

ライ「ああぁぁあぁあぁぁぁー。あぁーそんなことあったかも知れねぇ。でもそんなこと覚えてても仕方ないぜ。まぁ俺達が作った物を買ってくれるだけでも有難いじゃねぇか」と笑いながら言ってきた。俺はそのライの発言を聞いて「まぁそうかも知れないが。それでいいもんかね」

俺とライがそんな話をしながら、また酒を酌み交わし続けていると。

「ねぇ。あんたらそんなに飲んで大丈夫なのかい? 今日はこの前あんたが倒したって話を聞いていたから。あんたの分も奢ってあげるよ。あんたらみたいな若い衆が飲むのを見た事がなかったんで心配したんだがね。あんまり無理すんじゃないぜ。この店の料理は美味いからどんどん食べな」と、その店のマスターが俺達の所に来て話しかけて来た

「おぉう。ありがとな。なぁライ、ここはお前の知り合いの店なんだろ。ここの店の味を覚えていて良かったって思わせてくれや」

ライ「あぁ分かったぜ」

俺はこの店にある食べ物を色々と注文していく、そしてこの店の一番高い料理であるドラゴン肉の唐揚げや、高級野菜をふんだんに使ったスープを頼むと、ライも「それなら俺は。オークの焼き串を二本と。ビールの生樽をくれ。後この店で出せる最高級ワインをグラス一杯持ってきてくれ。俺と、そこにいるレオンとで全部飲み干すから」と言う 俺達は食事を楽しみつつ、酒をガンガン飲んでいくと リディア「そう言えばこのお店を出された方と、あなた方のお店の名前が一緒ですね。何か意味があるのでしょうか?」

ライ「おっと、そうだな。まぁ意味はあるが、まだ教えれねえな。俺達はまだこの店の名前に恥じないように成長し続けてる途中だからよ」と笑っていた。

俺は「まあ俺にも、よく分からんのだが、なんでも、ある人の真似をしたらしくて、それがたまたま店の名前でも同じだったらしいぞ」

俺はそんな事を言った 俺「まぁライの事は置いといて、その俺達の名前を店の名前にしてくれた人は。どんな人だったんですか?」

リディア「それは分かりませんが、きっと素敵な女性だったのでしょうね」と言って微笑んでいた ライ「あはは。リディアの言う通りだな。この店の店名の由来になっている『黒』は、『光を飲み込む闇』と言う意味があり。『黒』がもたらす恩恵や効果を期待するってことから来ているのさ。そして店の入り口に看板があるが、その看板に書いてある『黒い男』が、俺達のお客さんでいるわけだが、この男に惚れるなよ」

俺「あっ!俺の店の名前、俺に惚れるなよって意味もあったのね。全然知らなかった。それに俺が作っている装備品って黒色の装備が多いから気になってはいたんだよね。そういうことだったのか」

ライ「そうだな。その男は本当に不思議な魅力がある。まぁ見た目の印象で言うとだな。身長が170センチ位あって、体格はガッチリしているが太っている訳でもなく痩せている訳でもないな。髪の色は漆黒で顔立ちは美形で。服装は黒の服を基本にして、赤のラインがはいっていてその上に銀色の胸当てをしている感じだな。」リディア「なるほど、その方の特徴は、お客さんの装備に全て反映されているのですね」

ライ「まあそういう事だ。後は俺と互角に渡り合えるだけの技量の持ち主でもある」

リディア「そうなのですか、そんな人が、この街にいるのですか。一度で良いから会ってみたいものですが」と、ライの話を興味深げに聞いていて リディア「お二人共。その方から何かしらの力をもらったのですね」

ライ「まぁ、その辺の詳しい事情については言えないな。お前さんが、俺達に近づき過ぎたら命が危なくなる。これは脅しじゃなくて忠告だからよ。忘れんなよ」ライは少し厳しい口調になりリディアに釘をさす リディア「わかりました。あなたの警告、忘れる事はないと思います。私にそこまでの力を与えた方が、そんなに警戒するような相手なのです。その方の力を借りれば私がもっと強くなれるかもしれなくても。私はあなた方の邪魔をする訳にはいきません」と悲しそうな雰囲気を醸し出しながら言うと。

俺「そうだな。俺もそう思うよ。ライの言うように俺達はお互いの距離を間違えてはいけないよな」と言った それから俺達は酒と食事を満喫し終え。支払いも終わり帰る事になった 俺「ごちそうさまです」ライ「また、ここに食いに来ようぜ」と、挨拶をして店を後にし宿屋へと帰った。

次の日の朝 ライ「お前、その格好はいったいどうなってんだ?」と、呆れた声で言われたのであった 宿の部屋では俺はベッドの中で寝ていたのであるが。ライがいきなり俺を起こしてきて「おい、起きろ。大変なことが起きたんだ。今すぐ冒険者ギルドに行くから用意してくれ」と言い出した 俺が慌てて服を着ている間にライは剣を取りに行き、部屋に戻り準備を終えた俺と一緒にギルドへと向かうことにした。そして俺はなぜ起こされたのかを聞いてみると ライ「昨日お前達が酒場に行って、飯食って酒飲んで帰って来たあとだな。俺とアダンで、この街の酒豪連中と、この辺りで最強と言われる三人の冒険者とで飲み勝負になったんだ。でな、その酒呑み対決で俺達が負けてな。お前に渡したその武器と、俺のその防具の代金の金貨10枚。合計30枚の金を奪われたんだよ」とライが言ってきて アダン「それでだな。俺とライとで飲み屋にその金を預けてあったんだがな。それを酒飲み勝負を挑んだ冒険者達に盗まれたようなんだよ」と言われて俺達は愕然とした表情になっていただろう。俺はその状況を想像すると 俺「その盗まれたって事は、その金がどこに行ったかわからないんだよな?」と俺が質問をしてきたライに対して聞くと、「いやいや。俺とアダンはそんな大それたことをやったつもりはなかったんだけどよ。でもな、あの人達もかなり酒を飲んで泥酔していたせいもあるとは思うんだ。でも、あの三人組は絶対にやってないと思う。俺はあいつらの目を見てきたが。あいつらは俺達を殺すことも出来た筈なのに何もしてこずにそのまま逃げていった」と、その言葉を聞いた時に 俺「なぁ、俺の店の名前の事で一つ思ったことがあるんだけどよ。あの店の扉に看板があって『黒』とかかれた物があったけど。その『黒』にどんな意味があるのか教えて欲しいんだけど」

ライ「あぁーあれか?あれはな『光を飲み込む闇』っていうのが意味だよ」

ライ「じゃあ『黒の騎士』の意味を教えてやるよ」と言って、ライが話しだした。『黒』は闇や暗闇などの黒を連想させる色全般の事を指し示す言葉としても使われるが、『闇夜の影のように人知の及ばぬ圧倒的な力によって敵を討ち滅ぼしていく騎士のような姿を持つ者』という意味もあり。そのような意味で使われているらしいのだ 俺がそんな説明を受けた後ギルドに入ると、そこにはすでにクレアさん達が集まってきていて話し合いが行われていたようである そこに駆け足でライと二人で入っていくと、俺達の姿を確認したリディアは直ぐに近づいてきて「レオン様!ライ様!お帰りなさい。そして申し訳ありませんでした」と頭を下げてきた リディアの言葉を聞くと、ライとアダンがリディアに今回の事を謝罪をした後に「まぁいいって、俺と、こいつが気にしてないし。それに盗まれた金額って俺の刀とライの槍とアダンが着けてる鎧の分だけだろ? そんなに大した問題じゃないからな。それよりお前らも早く来いよ。皆んな揃った事だし会議を始めるか」と言って、その場にいる全員を集めたのだった。そして、その後の話によると俺の店にあったお金とライの店に預けておいた金の全額は。既に持ち去られた後であり。ライの店で保管されているお金はもうほとんど無くなっていたようだ。

そしてライが「でだな。お前達の店で預かった金が消えた件だが。この辺に拠点を置いてる盗賊団の犯行だって話になってるんだ。しかも俺が見た限りだと結構大きい規模の組織だと思う。まぁこの辺一帯を支配しているのは確かだから。そいつらが関係してるのは確実だが、まぁ取り敢えずだな。明日になったら領主の屋敷に行って、犯人を捕まえる為に協力するってので、話が纏まった所なんだ」と俺達に言って聞かせる様に言った後に、今度は「それと、レオン。お前は明日から俺とパーティー組んで一緒に行動する事になっているから。よろしく頼むな」と笑いかけてくると ライ「俺はレオンと一緒だ」と言ってライも俺達の仲間になる事を宣言した 俺とライがそんな話をしている時

「ちょっと待って欲しい。あなた方二人は。ライはこの街最強の冒険者であり実力者で、この街で知らない者はいない程の有名人で実力は確かなものなのだけど。そんな人と対等に渡り合えるほど強いのがレオンと言う男なのか?」とリディアが疑問を口にする 俺が「ん?リディア、お前ライに喧嘩売ってんのか?」と言い出すと。

リディアは「いえ、違います。ただ、ライと渡り合えるほどの技量の持ち主である、レオンと言う男が気になりまして」と慌てるように言う リディアの発言に少しイラッとしたので「俺がそんなに凄いか試すか?」と言い出したのだが。その言葉に反応を示さず「それは止めときな。あんまり目立つ真似すると面倒事になるぜ」と言われたのであった 俺「まぁ確かに。そうかもしれませんね。分かりました。ライと互角以上の腕前を持っていることは隠しておくことにしますよ」

ライ「そうしろ、その方が動きやすいはずだ」

俺「分かった。でだ、その盗賊団はこの街で最近活動しているのかい?」とライに対して聞くと「いやいやまだ、そんなに動いては居ないはず、でも俺がこの街に居る時はたまに大きな仕事をこなしたりするんだよ。その時はだいたいこの街の領主が関わってくるんだよ。多分だけどこの街で一番権力がある奴だから、そんな事があっても黙認してもらっているんだろうな」

アダン「俺も、似たような話を聞いた事があるな」

リディア「そうなのですか、やはり権力者が裏から糸を引いているんですか。私はこの街に来たばかりなので詳しくはありませんが。街を支配するような立場にある貴族達は何かと理由をつけて。犯罪を犯した者達を処刑したりするんですよ。そのやり方を見ていて。私はこの国は腐っていると思ってしまいました」と辛そうな表情をしながら話すと アダンとライ「その気持ちはわかるよ。でも俺はリディアちゃんの考えが正しいとは思えないな。リディアさん。

俺は君に死んでほしくない。だからこの街で生きることを選んで欲しくなかったんだ」

リディア「はい。私にはこの街に知り合いがいるので、まだこの街を離れる訳にはいかないのです」

ライ「まぁそうだな。今はそう思えているだけでも。その考えは正しいと思うぜ。俺もお前さんの事は応援しているよ。

さてだ。

お前さん達にも、俺と同じ武器をプレゼントしたいところではあるが。俺が持っている物はどれも最高級品で俺にしか使えねえ武器だ。お前らには使えないんだよ。

悪いな」と残念そうに俺達に話しかけると ルナリアが「それなら、あたしが使ってあげるわよ。

武器の扱いも知っておかないとね」と言ってきた 俺「ライ。お前の武器って、どんな武器か聞いてもいいかな?」と、ライが持っていた剣はどう見ても俺が買ってきた剣であったからだ ライ「あぁー。これか、これは普通の鋼の剣だぞ」

リディア「それでは、あなたの使っていた技の数々が再現出来る訳が無いではありませんか」

ライ「リディア。お前、本当に何なんだよ。

俺は剣聖なのを知ってるだろう?お前の考えているような。剣での戦いが出来るようなもんではないんだよ」

ライ「じゃあ俺達三人が使う装備を用意してくれるって事でいいんだな」と言って俺達三人が、それぞれの武器を持ってギルドを出ようとすると「ちょっと、ちょっと待ってくれよ。

今から俺の店を案内してやるから、その武器に見合う最高の武器を作るのに時間が掛かるだろうからな。

それまでは店の中にある物を好きなだけ持っていって良いぞ」とライが言って俺達を自分の武器屋へと連れて行ってくれた ライが俺達の目の前で、自分が持つ技術を惜しげもなく教えてくれたおかげで。俺達は、それぞれ自分に合った武器をライの工房の中で作る事になっていた ライに「レオンのその黒い服って珍しい色だよな」と言われ「まぁ、俺が持ってる中でも一番のレアな色らしいな」と答えていたのだったが

「俺はそんな服を着た男と一度戦ったことがあるんだが。俺の攻撃がまったく通用しなかった上に。俺の一撃を受けて無傷で立っているような相手は初めてだったからな。正直俺は、お前に勝てるイメージがわかないんだよな」と苦笑しながら言っていたのだった 俺「ライ、お前の使っている技術が、どんなものだったか教えてくれないかな?それと、お前の持つその剣は何処の武器か分かるかな?教えて欲しいんだけど」と言うと、ライは「いいぞ。

お前になら話しておいても良いと思ったしな。

その黒い剣の名前は『黒刀 月光』だ。そしてその白い方は『雪白 閃光』だ」と言っていたのだった アダンとクレアがライの事を、ライは凄い冒険者だと、褒めちぎるのを聞いてライの機嫌が良さそうなのを見届けた後 俺は、クレアさん達と話しをしていたのだが、クレアが「ねぇ、レオンさん。

私、前から思ってたことなんだけど。この国の国王様と面識が有るとか。あなたって、本当は、どこかの貴族なんじゃないかしら」

俺「う〜ん。実は俺は元の世界では学生なんだけどね。俺は貴族の身分なんてものは興味がないから気にしないでくれ」と言うと アダン「へぇー。

俺も気になってたんだけど。

レオンって冒険者って感じはして無いんだよな」と聞かれたので。俺の素性について軽く話しをしておいた リディアが俺と話をするのを諦めたのか。俺の方に向かってきて「ライに、貴方に付いて来てもらえれば安心です」と言ってきていたが、俺がリディアの言葉に対して返せる返事などはないので黙っておいた その後、ライがリディアに近寄っていき「リディアさん。俺達と一緒にパーティーを組むつもりはないのかい?」と言っていたが、リディアは俺の顔を見るだけで何も言わなかったので。ライと俺でリディアを仲間にすると言う話になって行く中で。

俺とアダンの会話の話題の中心はライの話になっていったのだが ライがリディアに俺を紹介しようとしてきた時に「私はレオンの仲間にしてくれと言っているんです。

あなたとレオンを比べるわけでは無いけど。私の勘がレオンを選んだんです」と言ってライの提案を断り、ライの目を真っ直ぐに見つめながらライを説得し始めたのだ。

しかし、ライの説得もむなしく。ライと俺の意見が一致したことで。ライは渋々納得してくれた そして、その話し合いが終わると。俺がこの世界で目覚めた場所に向かう事に決まったのだが。その場所で、俺の仲間となるメンバーを決める事になったのである 俺とアダンが一緒に行動する事を決めた後 俺とライは俺の仲間になる人を探す為にライが経営している店に行くことになり。リディアが俺と行動を共にしたいと言い出した 俺のパーティーに入る条件を満たしている人は、俺が今まで見たことの無い女性だったので俺が困惑していたのだが。俺のパーティーに入れる条件としては、 冒険者として、それなりに強いと言うことと。

俺の仲間になるからには。常に俺の側に立ち。

もしもの時には。盾になる覚悟がある事を条件にするのならばと言う事を伝えてもらうと リディアが、「その条件で構いません。私はあなたの為に死ぬ覚悟があります。だからどうか、この私をあなたのパーティーに加えてください」と言って頭を下げていたので 俺は「俺もそこまでは求めていない。俺も俺の命を狙ってきた相手にしか容赦はしないと決めている。ただ命を落とす危険をなるべく減らしたいだけだ。それでも、俺の近くに居たら危険な目に合う事もあると思うけど大丈夫なのかい?」と質問すると

「はい、私にも譲れない物があるので、絶対に守ってもらわないとダメとは言いませんが。少しでも危ないと感じるような時は、全力で護ってください」と言って来たので了承した アダンが「俺はお前を気に入っているんだが。リディアは俺達の仲間に入れてもいいと思ってるか?」とライに聞いており ライは「俺個人としてはリディアちゃんの事を嫌ってはいないよ。だけどさっきから言っている通り。彼女は、レオンを気に入ったみたいだから。もし、俺とリディアちゃんがパーティーを組むとしたら、俺のパーティーはリディアちゃんの入る事になるかもしれないな」とアダンに言ってから。リディアの方を見ていた アダン「なぁ、お前の魔法って雷属性の奴なのかい?」とアダンが言うと。ライが「そういえば俺も詳しくは知らないが。リディアが雷を操っている所を見た事あるな」と言ってからリディアの答えを待っていたのだったが。ライは「お前なら教えても平気だと思うが。その話は俺も詳しく知らんし。その辺もお前さんが知っているのかも知れないな」とリディアの答えを待たずにそう言ったのだった それから俺とライはリディアの魔法の種類については俺に聞くまで話すことをやめて欲しいと言われた為。俺が知っている知識をリディアに伝えたのだったが。ライが少し驚いた表情を浮かべており 俺とライが二人で会話を始めた事で、リディアとアダンは二人っきりになってしまったのだった 俺「それで。その剣を俺に譲ってくれないか」と言うと ライが「いいぜ。この刀がお前の手に渡った瞬間からお前の武器として認識させてもらうからな」と言って俺に手渡して来てくれた そのあとに俺は、ライと二人で武器屋の外に出てから街を出ることにした 俺は『神具の腕輪』を使い装備を外してから、ベルゼルグから預かった黒いマントに着替えた ライは俺の行動の意味を理解していたようで。特に疑問に思ったりはしていなかった 俺はリディアの実力を知るために、まずはアダンに攻撃するようにリディアに言ってみると

「分かりました。それではアダン。私と戦いなさい」

リディアはそう言って、俺が買ってきた黒い服に着替えていたのだった 俺とライは店の中に入って、カウンターに座っているリディアにライが声をかけた「おい。リディアさんは、お前と手合わせしたいそうだ」と言うと ライが俺に「なあ、俺と賭けないか?」

俺が「何を賭けるんだ?」と聞き返す前にライが

「お前が負けて。あの黒い刀は諦めてくれよ」

俺が「俺が負けた場合は?」

ライが俺を見て笑みを浮かべながら

「お前が、これから俺達に付き合ってくれたなら。俺はお前の願いを聞いてやるよ」と言ってきた 俺が「いいよ。じゃあ俺の頼みを聞いてくれたら俺が勝ったら。この店で武器を作ってもらえるか?それが報酬でいいか?」と提案してみたのだが ライは笑いながらも

「いいぞ。

ただし、俺の知り合いの武器職人を紹介するくらいで勘弁してくれよ」と言っていた 俺はライから武器を貰える事になったので。俺はライに、その約束を守る代わりに、リディアの実力を確認するのをお願いすると。ライが俺に

「お前の実力を見せてくれ。俺も確認しておく必要はあるからな」と言ったので。

俺が「俺は、この世界に来たばかりでレベル1だ。それと職業の事は秘密で頼む」と言うと ライが「まぁ、いいだろう。お前のレベルが上がれば問題ないだろうからな」と返していた リディアはアダンに「準備ができたわ」と伝えると ライが俺に「なぁ、武器とか防具を使わずに戦うのなら別に構わないか?」と言ってきていたので 俺が「うん。その方が面白いから、その方法で頼む」と答えておいた 俺がライとリディアの戦いを見る事に決めたのだが。

アダンの一撃で、あっさりと終わると思いきや

「なかなかやりますね。私の攻撃を受け切るとは」リディアは楽しげに笑っていたのだが。俺はライの方を向いていたのだが ライ「あいつ、俺よりも遥かに弱いぞ」と小声で言っていた 俺も、その意見に賛成であった。アダンの攻撃を受けて平然としており。むしろ攻撃を繰り出し続けているのにも関わらず疲れすら見えないので ライもアダンの攻撃を防いでいる時点でかなりの腕前だと分かってはいるようであったが それでも。ライは「リディアちゃん。もしかして君には本気じゃないよね?」と真剣な顔つきで聞いていたのだった アダンが大技を仕掛けるために構えをとった時に、突然ライの体が宙に浮いていたのである 俺もリディアがアダンの拳を軽々と避けている様子を見ていて、何か違和感を感じた時に。

ライがアダンに向かって蹴りを入れて地面にたたきつけていたのである その後ライが、倒れたまま動けなくなっている、ライに向かって剣を突き刺そうとするのが見えた 俺はリディアが俺の前に立った事で邪魔されたのだと思っていたのだが。俺が動くよりも先に。いつの間にか現れた一人の人物がライを後ろから斬り殺していたのだ 俺は「おいっ!何してんだよ」と怒鳴ったのだが、その人物は俺を見向きもせずに倒れている、ライの元へ歩いて行くとその人物が現れた場所を見るとそこには誰もいなかったのだ

(こっちに近づいてくる足音が聞こえたので、俺もすぐにその場から離れようとしたが。なぜか俺もその場に縫いつけられたように動けなくなった)

俺も、その人の姿をもう一度見たときにようやく理解した。だがあまりにも信じられない出来事で。思考が追いつかない。なぜこの人がこの場所にいるのかは分からなかったが 俺はリディアに目を向けた際に、目の前にいたはずのリディアの姿がなくなっていた事に驚き辺りを慌てて見渡すと、アダンの側に立ってライに話しかけている姿が見えたのだった ライ「なぁ、あんたが俺を殺すのが早いと思わなかったが。俺を助けようとしてくれたんだろ」

リディア「助けたわけではありません。私には関係無い事ですから。ただ私が気になったのは。あなたは今、自分が死にかけなのになぜ笑っているんですか」

アダンがライに駆け寄り。俺も、とりあえずライの元に急いで駆けつけたのだが。

俺は「ライ、無事なのか」と聞いてから。ライの顔を見た瞬間に、俺は何も言えなくなってしまった その、なんと言えばいいのだろうか 俺と初めて会った時の笑顔とは違い。まるで別人のような。優しい笑みを浮かべていたのである ライが「俺は大丈夫だから、そっとしといてやってくれ」と言ってきたので 俺はリディアと、この場を離れようとすると。ライは俺達を止めてきたのだった 俺「リディア、少し待っていてくれ。俺はライと話しがあるから、リディアはこの場で待っててくれるかい」と言うと リディアが「はい。私は、いつでもここにいますので」と微笑んでいたので ライが俺に「どうしたんだい? リディアと別れるのが寂しいのか?」と俺の表情を読み取りそう言うので。俺は「ライに聞いておきたい事が二つある」とライを問い詰めたのだった 俺がライに、どうしてこんな状況になったかを説明すると。ライが「お前が、リディアちゃんと一緒に旅をして。俺の作った武器を扱えるかどうか確かめる為にやったんだよ」と言って笑っていたが ライの表情が、だんだん変わっていき。最終的には。今までに見たことも無いような恐ろしい顔をしていたので俺は「なぁ。一つ質問したいんだけどさ、どうして。この店の中にリディアがいるのを知っているんだ」と聞いたのだが 俺がリディアに「悪いけど、少しだけここで待ってもらってもいいかな」とお願いし。俺とライの二人だけで話をすることになった ライ「それでお前が知りたかった、もう一つの質問ってなんだ」

俺「そうだな。じゃあ、まずは俺が聞きたかった事はライが生きている事だったんだけど。それは分かったから。もう一つ、俺がライと別れた後に起こった事は説明できないだろ?」

ライ「あー。そういえば俺は、お前が魔王軍に入る前に知り合った仲間から連絡が来たから一旦、この街を離れたんだが、戻ってきた時には、すでに俺は殺されてたよ。そして、その後に起きた出来事も説明する必要はないだろ」と言ってきたので 俺「その出来事については知らないが、リディアの事について教えてくれ」というと ライは「そうか。それじゃ、俺はこれからはもう用はないな」とライが言い出したので俺は「まあまて、俺が悪かった。お前が死んだのは、リディアのせいだとか、そういうつもりで言った訳じゃない。そもそもリディアが悪いなら、この世界は大変な事になっているだろうからな。リディアもライを殺したくて、殺したわけではないだろう」と言うと ライは俺を見て笑いながら「まぁ。確かにそうだろうな。あいつは人を恨むなんて事しないからな」と言い出し。俺は、そのライの発言に対して。「やっぱりライが殺された原因がリディアだったと言うのは本当のようだな」とライに伝えると。ライは「俺の口からは詳しくは言えないが。あいつはな。昔から優しかったが。たまに俺以外の奴には。冷たく当たっていたんだ。それが理由だろうな」と言っていた 俺はライに、「ライはリディアの過去を知ってるみたいだけど。リディアがライ以外を嫌う理由は分からないんだな」と言うと ライがため息をついてから「はぁ。お前が俺より強いのは間違いない。だから正直に話すぞ。俺は、あいつに嫌われた男だ」と意味不明な事を言ってきた 俺は「その話は詳しく聞かせてもらうが。ライの話を聞く限り、リディアの過去に問題があったとは思えないが。それにリディアが俺にライと仲直りしてくれと言ったんだよな」と言うと ライは「あぁ、でも。今の俺は生きてる事だし、リディアも昔のように、人に冷たい女ではないはずだぞ」と言っていたので。俺はライの言葉を信じる事にして。

リディアを連れて帰る事にしたのだった 俺達はアダンの店に戻る事になったので リディアには先に、アダンの所に戻ってもらい。

リリアには店番をお願いしたのだが。アダンが帰って来るまで、この店に客が全く来なかったので 暇だったのでアダンの帰りを待つ事にしたのである俺が、ぼけーっと待っていると。リディアが戻って来たようで

「おかえり」と言うとリディアは微笑んで。「ただいま」と言ってくれていたので。嬉しくなっていたのだが アダンがまだ帰って来てないようなので、しばらく雑談をしていたのだが。俺の頭にリディアが「アダンが戻っていない」と口にしたのが、きっかけで。俺達が、そんな会話をしている時に────店の扉が開かれて アダンと。それからリディアが一緒に帰ってきて俺に、その二人が「ただいま戻りました」と言ってきたのである 俺はリディアとアダンにライの話をした。リディアもアダンも、そのライに殺されたのに、なぜ笑っていられるのか。不思議で仕方なかった リディアも「ライさんが私を殺そうとしたのは事実ですが。ライさんの最期が幸せだったなら良かったです。私はライさんの死が悲しすぎて、ずっと塞ぎ込んでいて。それで私も、あの人のように笑える日が来るように努力しようと思います」と言っていた 俺もアダンも、このリディアの様子には驚いたのである。ライが殺される前はいつも暗い雰囲気だったが。今では別人のように明るくなってくれたからだ。だが、その明るさが、どこか空元気なように感じてしまうのは、おそらく気のせいではないだろう リディア「それでですね。私は今日。アダンと買い物をしていて。その時に、ライさんと出会ったんですよ。そして、ライさんの持っていた武器が凄く良い物だって分かりまして。そこでアダンと、ライさんのお店を見に行きませんかって話しになり。お店を見学させていただいたら。本当に、ライさんの作られた武器が、素晴らしかったので」と言うと リディアは楽しそうな笑顔で、俺と、その武器の良さを語りだしていたのだが。

リディアも。ライが使っていた剣を、自分のものにしていたので、ライが死ぬ前よりも笑顔が多くなってきているような気がする だが。やはりライが殺された事だけは心に刺さっているようだった 俺もライの武器にはかなり惹かれたが。リディアが俺以上にその剣を気に入ったようなので、少しだけ嫉妬してしまったのは秘密である 俺はリディアが話している間、適当に相槌を打ちながらも。俺が持っている剣と比べて。どちらが良いのかなと考えていたのであった。

リディアが「ライさんの店でアダンに買って貰った、私の作った短剣なんですけど。あれはライさんが作ったものには劣っているかもしれませんが。それでも十分、素晴らしいものでしたね。あの剣があればどんな魔物にも負けないと自信がありますよ!」と言って自慢げに見せびらかしてきたので俺は「その気持ちは嬉しいんだけどさ。それって俺に、自慢してるつもりなのかな?」と言うとリディアは、その事に気がついたようで 顔を真っ赤にしながら「そそそ、そうですよ! べべ別に私が作ってもらったのは、こっちです」と俺にそのリディアが持っている短剣を見せてくれたのだ 俺はその短剣を手に取ると 【称号<心優しい鍛冶屋の弟子>】を手に入れた。俺は驚いていたのである。なんとリディアから受け取ったこの剣がリディアの手作りで。さらにリディアが師匠と呼んでいる、あの老人から作り方を学んだのだという。リディアから、この短剣は俺にプレゼントとして渡そうと思っていたようだ その事をリディアに聞くと、リディアはその老人が誰かは分からないとの事。俺が「このリディアの師匠っていう人は誰なんだい?」と聞いてみると。

「うーん。ライって人の作った剣を見たときに、リディアちゃんは、その剣を、とても褒めてたんだ。リディアちゃんが作るのと同じような剣をライが作っていたなら、それは間違いなくリディアちゃんの作った短剣より、そのライの打った刀の方が優れているという証明になったんだけど。リディアちゃんがライの武器の事を何も言わずに嬉しそうにしていたし。もしかしたらと思ってね」と言うのだった

「リディアが作ってくれた剣は、俺が今までに手に入れた事のないぐらい優れたものだから、そんなに喜んでるんだよ」とリディアに伝えると 俺の言葉を聞いたリディアは恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、リディアから手渡された、俺の剣が置いてある棚の前に立つと「えへへっ。そんな風に言われると少しだけ嬉しくなっちゃいます。でもライさんの作った短剣は、やっぱりライさんにしか作れない最高のものだったと思うのです。ライさんの剣が欲しかったのですが、どうしてもリディアに売るのを許可してくれなかったので。でもライさんの残した技術は。ライさんの工房の設備を使えば、リディアだけでも、いつか再現できるんじゃないかと思っているので、その時にでも、また、ライさんの作品を買うことにしますよ」と、リディアが言ってた。リディアも。リディアの作った武器を買ってくれる人達の為に、ライが遺した技術を学ぼうと考えているみたいだ。

俺は、リディアと話をした後。俺がリディアから貰った剣を見ていると。俺の頭の中で声が聞こえてきたのである。「あなたは私と話す事が出来ないので、このスキルを使いますね」と言うと

【女神からの加護:鍛冶の女神が、貴方に授けた祝福。その者のレベルによって効果が異なるが、熟練度に応じてその効果が上がっていく。】

という能力を得たのだった。

リディアがライの店で、その店にあった商品を全て買い込んだらしいのだが。

俺のアイテムボックスに、その大量の在庫が入ってしまった その事にリディアは喜んでいたのだが。リディアも大量に、店に置いてあった物を買い込んでしまったのは問題だろう。リディアに 俺「ライの店で商品を大量に購入するのはやめて欲しいな」と言うと リディア「だって。あの武器達は全部欲しいと思ったから。仕方ないじゃないですか。でも大丈夫なはずなんですよ」と意味深な発言をしたのであった 俺は「その根拠はなんなの?」と聞いたので リディアは、その俺が買った、全ての武器は、俺のレベルが上がった後に。俺に合った形に進化していくと言っていた。だから安心して欲しいとも言っていたので、まぁリディアの好きなようにさせることにした 俺の目の前にいる男は俺を恨んでいるようだったので、俺はどうするか悩んだのだが

「あんたは、何がしたいんだ?」と聞いてみることにしたのである

「お前を殺してやりたいんだよ。だけどお前が強いのも事実だから。だからお前より強くなる必要があるんだよ。俺には才能がないんだ。だがな。この世界に転移してきた、俺と同じ境遇の仲間達は、みんな凄い奴らばかりなんだ。そんな仲間達が全員、勇者の能力が使えなくなっていて、俺は使える。そんな状況じゃ、もう諦めてもいいかな。って思ってもいたんだが。それでも、俺にも何かしらの力が有るんじゃねえかって思い。俺なりに頑張ってみた。俺の持って生まれたスキル。『限界突破』を使って、努力をして。それで得た力がこれだ」と俺に向かって拳を振るってきたので

「確かに今の力は大したもんだよ。その腕は確実に、俺を殺せるだけの力がある。けどさ、そんな力で。本気で人を殴れば。自分が死ぬだけだぞ? それが分かっているのか?」と言うと 男の顔色が青くなり

「ああああ。俺はまだ死ぬわけにいかないんだよ。まだ。魔王を倒す手段を見つけられていないのに」と言いながら。再び俺に殴り掛かって来たので。今度はしっかりと避けることができた。俺は、男が振るう拳を、避け続けていると。男は苛立った様子になり「ちっ。ちょこまかと動き回りやがって、大人しく殴られろよ」と叫び出したのである 俺は男の攻撃を何度も、避け続けていたのだが。流石に手数が増えてきていたので

「俺は今のままだと絶対にお前に殺されないけど。お前も無駄に俺に体力を使わせすぎじゃないかな。俺も暇ではないんだけどさ」とため息を吐きながら言ったのだ そして次の瞬間に俺は。俺を襲おうとしている男の腕を掴み。そのまま地面へと押し倒し

「これで動けないだろう。お前も、この世界の仕組みを知っているよな。ここで戦っても。この世界で怪我をするだけで済むが。現実では死んでしまう。だからさ、戦う場所を変えたほうがいいと思うんだけどな。それに。これ以上は本当に殺すかもしれない。お前だって俺を殺すつもりでいたんでしょ?」と言ったのであった 俺の話を聞いているのかいないのかは分からないが。その言葉を聞いた後で、その男は「くそぉー」と叫ぶと悔しそうな顔になりながらも、素直に俺に付いてくることに同意してくれたのだ 俺の後ろで「俺に負けた癖に。生意気な野郎だぜ。クソッ。俺のステータスの倍はある数値を持ってる上に。俺の一撃を食らったのに。俺の攻撃を受け止めて反撃して来ようとするし。あんな化物に、どうやって勝てるっていうんだ。しかもあいつ、攻撃が当たらねえ。なんで、あの化物が、この世界に現れたばかりの頃に倒されていたっていうんだ。あれほどの力を持つ存在が居たというのに」と言っており その呟きを聞き逃さなかった俺は「俺を倒したのはどんな人だったんだ?」と興味本位で聞いてみると

「あの化け物を、殺したのは、あのライとかいう。あの伝説の武器を作り出した鍛冶屋だよ。あの爺が。あそこまでの力を持つとは知らなかったけどな。その鍛冶屋は死んだと聞いたが。今は生きているのかな。あの鍛冶屋なら。ライさんが生きていれば。俺も勝てる可能性が有るかもしれなかったんだけどな」と答えたのであった 俺は「なるほど。それならば納得がいったよ」と言うと その男は「は? どういうことだよ」というので

「ライさんとリディアの関係。それを見ていれば分かると思うんだけどな」と言うと その男は、「まさか。そういう関係なのか? いや。そんな事は。ありえないはずだ。でも、あのリディアって子から感じる魔力量は。俺達がいた元の世界にいた者達の、その上位に位置するぐらいの膨大な量を持っていた。ライさんとあのリディアが、その。そんな関係にあったとしてもおかしくはないな」

と独り言を呟いていたのである その後で、リディアに俺を、どこに連れて行くのかを聞くと リディアは「レオンさんの家ですよ」と言っていた 俺はその事に疑問を覚えて

「リディアの家で、何かするの?」と聞いてみると リディア「はい。実はですね。ライさんは。鍛冶の女神でもあるんです。ですから。ライさんの打った、ライさんの打った武器を見てみたいと思いまして」

俺「リディア。俺を騙しているつもりは、なさそうだから、正直に答えて欲しいんだけど。君は一体何者なの? 俺が君の立場なら。ライさんの工房に案内なんてしないからね。ライさんの工房に行けば確実に、リディアが、君の事を殺してしまうからね」

リディア「えっと。リディアは女神様なのですが、私はリディア様の代理みたいなもので。女神様にお使いする事で、私が、この世界に呼ばれた使命を果たしています。そのリディアが私を殺したところで、それは問題ないのです」とリディアが答えるのだった 俺は、リディアが言っていることがよく理解できなかったのだが リディアが「女神である私の言うことを聞かない神様がいるので。女神である私を、その女神より上の地位にいる神が、殺しても問題ないんですよ。私達はそういう決まりなんですよ」と言うと

「その、神様達の名前は?」と聞くと リディアは「確か、ライさんが言ってたような。リディアさんに頼めば。すぐに分かりますよ」と言っていたので。俺の目の前で、ベルゼルクの攻撃をかわし続けている。

このリディアの言葉を聞いた、俺以外の人間は、目の前の男がリディアを殺そうとした時に その事を察知していたようで

「あなた、今何をしようとしましたか?」という言葉を発したのである 男は、俺との戦いの最中に。目の前から、一瞬にして消え去った女性の存在に驚いたのだろうが、目の前にいきなり現れた女性が発した言葉で我に帰ったらしく 俺との戦闘を中断すると 男は俺達のほうを向かず。そのまま自分の仲間と思われる人達のところへ歩いて行き そしてそのまま、俺の仲間たちに拘束されるのであった。俺達は、その男が暴れないようにロープで縛ると、とりあえずは、屋敷の中へと連行していったのだった。

俺はその男に「これからお前は、俺と一緒に暮らすことになるんだから、変なことは考えるなよ。お前の仲間はどうなったんだ?」と聞いたのだ 男は、リディアに目線を向けて。

リディアが男に微笑みかけると。男の仲間が全員。リディアの魔法により眠らされてしまっている事が分かった。俺はその事で、少しだけホッとしたのと同時に 俺を襲おうとした相手が、リディアの知り合いであり。

俺は安心していたのだが

「おい。お前、さっきまでリディアと戦おうとしてたんじゃないのか? なんで安心してんだよ。お前、俺を馬鹿にしているのか?」と言われたので 俺は「安心した理由は簡単だ。俺を襲ってきた相手だからな。リディアは大丈夫だって、信用できたけど。お前はどうだ? 俺を本気で襲おうとしていただろ?」

俺は「それに、リディアの知り合の人間だから、心配してやっていただけだ。それと、リディアのことはちゃんと敬っているしな」

俺がそう言うと

「お前。本当に変わったやつだな。俺が今まで会ってきた、どんな奴よりも変わっているな」と言い出したのである 俺「それは褒め言葉か何かなのかな?」と聞いてみると 男「ああ、勿論だ。俺は今まで会った、どんな奴よりも強い奴と出会って嬉しいぜ」と言い出したのだ 俺はそんな、この男の態度が面白かったので。「お前面白いな。気に入ったよ。よろしく頼むよ」と言いながら握手を求めると。その男は「こちらこそ」と俺と固い握手を交わしてくるのだった 男の仲間を眠らせた後で、俺は、その男を気絶させ 俺は屋敷に帰り。みんなで話し合った結果。リディアに預ける事になり リディアが面倒を見ることになったのである そして俺は。俺を慕ってくれている。ソフィアや、アリス。モニカやゆんゆらを連れて。王都のギルドに訪れていた 受付のお姉さんに挨拶をしたのだが その人を見た時、なぜか俺は懐かしさを感じたのだが 特に何も感じず。

そして俺も一緒に冒険をすることになったので 俺をリーダーとしてパーティー申請をするのだったが。

この世界のシステムはやはり、ゲームと大差がないようである ただ違うのは。モンスターを討伐する際に そのドロップ品の中に、魔石という物があるのだ その魔石だが。

モンスターを倒すことで、体内に溜まっている、魔力が抜け出したものであり 魔力が詰まった石なのであるらしい その石は魔力を流すと様々な道具の動力源として使われるようだ 例えば魔法の威力を上げたり 回復薬の材料になる事もあるとの事 他にも、魔石を加工することによって作られる武器は 通常の武器と比べて、非常に性能が良く。上級の魔法使いや戦士が持つような武器になると 一振りで数百人を殺す事ができるほどの破壊力を持っているそうだ この世界では。

そういった強力な武器を持つ人間が、その武器の力を悪用しない為 冒険者の職業には。

『プリースト』と呼ばれる職業があり その職に就く者が 魔道士系の職業で。攻撃を行う時は。支援魔法をかけることができるようになるそうだ。そして、攻撃する際には、その攻撃に。聖なる力が宿るようになり 邪悪な者に与えるダメージが倍増し。敵に与えた時には。その敵の体力を奪う効果が発生するようになっているそうである その事からも分かるように 攻撃に関しては神聖騎士や司祭のような、僧侶系の上位職のクラスが就く職業になっている。

なので。リディアは聖女なのだろうかと思ったが 別にそんなことはなかったようであり。普通の魔法使いという職業になっていた 俺達が冒険者をするためにギルドを訪れたのを知ったセリスと。

この国の王様でもあるクリスさんと、俺とベルゼルクを、この世界に引き込んだ。自称神である女神アイリス。

それから、この国に昔から仕えているという。元王女で、今は冒険者であるクレアさんやミツルギさん達と共に、俺達は冒険者になろうとしていたのだが 俺はまず。自分のレベルがどのくらいあるのかを確認したいと思ってしまったのである。しかしどうやって調べればいいのか分からなかったので リディアに質問すると。俺の手を握って欲しいと言われたので。俺が手を握りしめようとすると。そのリディアが突然顔を真っ赤にした そしてその事に気づいたのか、俺達の様子を遠巻きに見つめる人達の中で。

一人の男性が

「君達二人は一体何をしているんだ? もしかすれば。何か神聖な事を行っているのかい?」

と、そんな意味不明な事を言ったので 俺とリディアは「違います。ちょっと確認のために」と言って誤魔化すと

「そうなのか。それは残念だな」と言い出した 俺は「ところであなたは何者ですか?」と訪ねると 男は、「俺の名はキョウセイ=シンジだ」と名乗った。俺はその名前を聞いても、聞き覚えがなかったのだが。どうやらリディアはその人物を知っているようで。「あなたは。あの、勇者なのですね?」

とその人物が、元の世界では有名人であることを。リディアは理解していたようなのである その男性。俺達に名前を名乗らずに。「ところで。君達二人が何をしているのか。気になってしまってね。少しの間だけ見守らせてもらった。君達二人から放たれている気配は、俺と同じものだったんでね。それで声を掛けさせて貰った。すまないな」と俺とリディアの握った手を見ていたので。俺は「俺が魔王軍に所属していたから。警戒して見ているんですか?」と尋ねると

「いや、その事はあまり関係ないかな。君からは特に悪いものは感じられないからね」

俺はこの男の言葉が本当かどうか。試す為に ステータスプレートを取り出し。スキルに【真偽看破】というものがないので。俺はその男に向けて。このステータスを見せたのだが。俺がその事を男に言うと。リディアの目の前にウインドウが現れ。そのウインドウには。俺のレベルが表示されるようになったのである 俺はこの表示に驚き リディアにその事を尋ねてみると。この世界で。神に仕える者は その神により与えられた能力により。自分以外の誰かに 自分のステータスを覗かれてしまった場合。相手に自分が今持っている情報を伝える事ができるようなのだ このシステムにより 俺がステータスを他人に見られても問題がなくなった 俺達はその事実を喜ぶのであった そして、リディアが「あなたはいったい何の職業に?」

「僕は見ての通りだ。『剣士』さ。ただ少し特殊で、剣以外の武器を使うこともできるんだけど。でも一番得意なのはこれだから。まあ、職業なんてあまり気にしていないから」と言っていたのである 俺達はとりあえず、その男に「それじゃ」と言うと。その男から「ああ、頑張れよ」と言われ。その男がギルドを去っていく姿を眺めていた そして俺は「あれ? 俺のステータスを見られたのって、リディアと神様だけではなかったんだ」

そう言うと、俺の隣にいた。モニカが「私にも見せてくださいよ」と言おうとし、俺に近づいてきた瞬間に。リディアから何かのオーラのようなものが出て来て。モニカがリディアに抱きつき「レオンのステを勝手に覗き見たらダメですよ。この事は、しっかりと反省して貰いますからね!」と そう言ってリディアから離れ。リディアの後ろへと隠れていたのであった リディアはそんな、モニカを優しい表情で抱きしめると「分かりましたよ。ごめんなさい」と謝っていた 俺はそんな様子を見ながら。俺に懐いて付いて来た女の子三人を、俺のパーティーに入れることにしたのだが。俺の仲間として加わった三人を見て、この三人の女性を見た、リディアや。俺を魔王軍の元仲間として見ていた男。キョウセイさんとやらが この女性達を見ただけで。俺はなんとなく分かってしまう この三人がどんな職業を持っているのかをである そしてこの三人は。おそらく、とんでもない力を持っているに違いない 俺とリディアの時のように。

その事を考えただけでも恐ろしい しかし。俺の想像を遥かに超える力を持った三人だが それでも、今の俺の仲間だ。俺は俺の為にも。俺を支えてくれる。俺の大事な仲間を絶対に守るつもりだ ──それから、俺とリディアとソフィアとアリス様は 俺が倒した。魔王の幹部の一人、リッチーのウィズの店で買い物をしていた 店の中には、たくさんのアンデッド達が働いていたが。俺はなぜかその姿を見ても怖がる事はなく。普通に接することができた

「な、なんかこの店の店員達。私のこと凄く見てくるんですけど」

ソフィアはそんな言葉を俺に投げかけてきていたが その言葉に答えてやったが。「お前がこの中だと一番年下っぽいから。その見た目で、ゾンビとかスケルトンを操っていたりしたのに、驚いたんじゃないか?」というと。ソフィアは自分の胸を押さえ。「な、何を言うのかしら。私はそんな子供じゃないわよ。こう見えてもね。女神なんだからね! 女神だってば!」

そんな事を言っていたが。俺が、ソフィアに近づき。

ソフィアの顔の前に。右手を差し出し。その手をグーパーしながら 俺は、「お前って確か、歳いくつだっけ?」と尋ねると。その途端、ソフィアの動きが止まり。顔色がみるみると変わっていき。そして「ねぇ。どうして。それを聞いちゃうわけ? この私が。女神のこの私が、永遠の17才ってのを知ってて、聞いているのかしら?」と、声は震えており。その目は泳いでいた そして、そんな様子の、自称女神様に向かって。「ちなみに。年齢がばれたからには。もう後戻りはできないので。覚悟しておくのですよ」と、アリス様も。ソフィアに告げたのである

「ねえ。本当に。この二人怖いんですけれど。あんたら二人共鬼畜なの? というか、なんで、私が、女神なのがわかったの? ただの人間の癖に、女神にそんな口を聞いていいと思ってるの?」

そう言った、ソフィアに 俺は「いや、別に俺も、神様と知り合いだから、分かるんだよ」と。そんな説明をしたのだが その言葉で。俺の予想通り、俺の職業が『ゴッドファーザー』だというのがバレてしまったようだが 俺は特に、その事に動揺する事はなかった。なぜなら俺は、俺の職業を、隠したいとも思わなかったからである 俺は俺がこの世界に来た理由。

なぜ、俺はこんなところにいるのかが。未だに分かっていないからだ

「あなたも。『アークプリースト』なのですか?」

と。その俺の様子を見ながら、アリス様に尋ねられたので 俺が自分の正体を、正直に話すと。二人は驚いていたようだったが

「でもあなたは、魔王軍にいたというわりには、悪い感じはしませんね。むしろ。私と一緒という感じです」と、そんな感想を述べた 俺もそれに同意したかったが

「いえ。あなたの心の中が読めなかったんですよ。これは、私達神々ですら難しい事なんです」と 俺はそんな二人の会話の意味が分からないのだが とりあえずは俺が。リディアに頼めば。相手の考えている事が分か るようにしてくれるらしいが その事は今は言わない方がいいと思い。黙っていると 俺達が商品を選んでいない事に気づいたのか 俺達に話しかけてきたので

「この店で扱っている魔法のアイテムの中で、強力な物をいくつか買っていきたいのですが。予算的に。どれが安いのか見当もつかないもので」

「それならこのお勧めの商品でしたら、金貨一枚と大銀貨十枚になりますよ」

俺はそんなやり取りを行い 俺はそのお金を払う前に まずはリディアにお願いをしてみた 俺にスキルの【真実看破】を発動して貰えるように頼むと リディアは俺の言葉に。すぐにスキルを発動してくれ その事によって 俺にだけ見えるウインドウに、リディアの持つ能力の詳細が表示され その事によって。俺が、この世界に来る前から持っているスキルの効果も理解できたのである 俺がリディアのスキルについて尋ねると このスキルには。【真贋鑑定】のスキルレベルが関係しているらしく。リディアが持つ、【神格解析(ディテクトゴット)の瞳(アイ)

レベル999(MAX)+5】は 相手の本質を見抜き。その相手が神族であるかどうかを見極める事ができ そして、相手の本当のステータスや。職業、名前、そして、職業についた時に与えられた加護や、祝福なども見通す事ができたりするのだと教えてくれた この【神器の瞳】の能力については、かなり便利なのだが。【真実看破】と併用して使うことはできないので。どちらか一つを先に使わないといけなかったのである この【真贋の瞳】には、リディアと俺にしか見えないウインドウが出るため。この世界の人にスキルの使い方を説明しても。その効果が分からない為、俺達のステータスが他の人には見えていないというのもある 俺はリディアに。このウインドウの事を簡単に説明すると そのウインドウの事を知っているのは。リディアと、そして、俺の師匠に当たる存在である。

その人物がリディアに与えた、その二つの能力のお陰で。俺がこの世界に呼ばれた際に。リディアがこの能力を持って俺を呼んでくれたのだという事も リディアに話してくれたのだ 俺はこの店に売っていた商品の中から、この世界で手に入れた。様々な魔法効果の込められた指輪を数点選び購入することにしたのだが。そんな俺の様子を伺いながら、リディアとアリス様とソフィアの三人は、俺の出した。この世界で購入した指輪の数々を眺めていたのだが この三人の反応は様々だった まずはリディアだが リディアは俺が出していた幾つかの商品から

「これの代金はいりませんよ。それに、私の知っている限り、これと同じ性能のものはないと思います」と言っていたのである その言葉を聞き。俺は驚きながら「えっ!? それじゃあ、いったい、リディアさんは何のつもりで。それを教えてくれたのですか?」

「それはね。私の知人の物だから。この店の商品をタダであげただけよ」と

「えっと、じゃあリディアさんも」

「私も昔、これを作った人の知り合いでね。でもその人は、自分の作ったものを他人に譲り渡すのが嫌な人だったから。今までずっと放置されていたのよ。だけど。どうやら今、あの子は幸せみたいだし。せっかくの好意なんだから、貰ってくれると嬉しいかな」

俺は、リディアの言っている意味がよくわからなかったのだが そのリディアと、俺との話を。隣にいたソフィアはじっと見つめていて そして俺とリディアの事を交互に見ては。何かを考え込んでいるような顔をしており そんなソフィアに。俺が何をしているんだろうと見ているとその視線に気づき。ソフィアは慌てて首を振っていたのだが 俺達はそれからしばらく店を見て回り、買い物を終えると。この店を出ていったのである。その途中で俺はソフィアが何を気にしているのかを聞くと。ソフィアは、少し考え込んだ後に、俺に対して

『レオンさんとリディアさんの二人の関係について。私なりの考えがあったんだけど。その話は後でするとして。今はこのお店で買い物を終えたことだし。これからどうするつもりなのかしら?』と言ってきたので その事に関してだが ソフィアと別れ。城に戻る前に一度屋敷に戻ると、そこで、セリスティーナ王女が待っているはずだと。アリス様が言っていたので

「とりあえず、屋敷の方へは行かずに。俺がいつも使っている宿に行きましょう。俺の仲間達がいるので、まずはその人達に会いに行くことにします。その後で俺の店に向かい。店の中にある、この国の王都の店への転移用のゲートを設置してくるのが、今後の目的になります。なので俺の用件が済み次第。またここで待ち合わせをして。この国に俺がいられる間だけの滞在時間を過ごしてみようと思うんですが、どうでしょう?」と。俺はソフィアに尋ねたのである その俺の言葉を聞いたソフィアは。少しの間考えたあと 俺の顔を見上げて「わかったわ。それでいいわ。でも私は、もう少しこの国を回っておきたいところね。この国の名物って何があるかとか調べておいてもいいかしら? それにね。この世界って。まだ、よく分からない所が多いから。その辺を散策してくることにするわ」と、そんな事を言ってきたので 俺は、ソフィアにも。冒険者としての登録を行う事にし ギルドに登録してしまえば、俺も自由に使える資金を得る事が可能になるので 俺はソフィアに、俺と一緒に行動するか。それとも、別行動をしたいのか。ソフィアの希望を聞くことにしたのである。

するとソフィアが俺に向かって、なぜかドヤ顔をしながら。

俺の手を取り

「一緒に行きましょ! レオン。この世界の事は全然知らないし。あんたのそばにいる方が安全そうだしね。というわけで。よろしくお願いね」と言い放ったのであった。俺はそのソフィアに「わかった。とりあえず俺に着いてきてくれ」と、そんな事を言いながら。俺達二人は街を歩いて行くと、やがて宿屋に着いたので その宿屋に入ると──俺の部屋の隣に。何故か、既に先約が入っているようで。俺は仕方がなく。その部屋に向かう事にして 俺とアリス様が。俺の部屋で、お茶を飲もうとした時。そこにセレスティア姫と。そして、俺が予想していなかった人物までが同席する事になってしまったのである

「う、美味しい!」

俺はそう言って嬉しそうに。目の前にある、クッキーを食べる女性を見ながら

この人もやっぱり女の子だなぁと思った そう。俺がこの世界に来た理由であり。この世界に俺が呼ばれる原因にもなった もう一人の少女がそこにはいたのである ─2に続く 第6話:異世界から来た少年11 そう、この世界に来た時。俺が一番最初に出会ったのはアリス様なのだが俺が目を覚ました時にいたのは、リディアという神様だったが このリディアも、俺のスキルの使い方に詳しく、使い方や。その能力について教えてくれた この二人の神の共通点なのだが どちらも女神と呼ばれるだけあって。その美しさは相当なものであり さらにリディアの方は、かなりの美形の持ち主であるのだが 俺が初めてリディアを見た時の第一印象は リディアと同じような見た目を持つ。別の種族の女の人としか感じられなかったのだ 俺が最初に会ったリディアという女は、この世界で。唯一無二の、神族といわれる存在で しかも、この世界の主神でもあるという事で。

神界の最高神の娘である、神族の王女だと自己紹介をされた時には驚いたものだが 俺のそんなリディアとの出会いを。この世界に来て初めて知ったリディアの師匠である。リディアの姉弟子である。リディアが連れて来た。このソフィアという名の女神も 俺に、色々と質問をしてきたり 俺に抱きついたり、胸に顔をすりつけてきたりと なかなかの行動をとるが。俺はこの、俺をこの世界に連れて来た神の一人であるリディアに この世界での常識や、俺が元居た世界で。日本と呼ばれていた場所の事などを聞いていた そんな俺達の会話を横から眺めていた。ソフィアと、この国のお姫様のセリスティナ姫の二人には ソフィアの方が一方的に俺に興味を持っており この、ソフィアという女の人については なぜこの人は俺についてきたんだろうと不思議になるほど。

やたらと絡んできて、その度に、俺を自分の物扱いして この人には本当に俺を好きな気持ちがあるんだろうか? という疑問を持たざるを得なくなるほどの 俺に対しての、その絡み方には 俺は正直に言えば戸惑ってしまう。

しかし俺と、リディアの話に、途中から口を挟んでくるようになったリディアが、俺がこの世界に来ることになった理由を話してくれるようになるにつれて 俺とリディアは、リディアが、なぜ俺を呼んだのかという理由については この世界を救う為に俺の力がどうしても必要だったからと。そしてその理由を話すために、リディアは、この世界の事。

この世界の神々と。この世界に召喚される人間の事。この世界に住まう人々や、モンスター達のこと。さらには この世界に、元々住む者以外の人間が。この世界に、どのような影響を与えてしまうのか そんな、色々なことをリディアから聞いた俺は、自分の住んでいた世界とこの世界を比べてみると やはりこの世界でも 人間は愚かであるということを実感させられたのである それはさておき 俺達がリディアから話を聞き終えた頃 俺の部屋の隣の、リディアの部屋から出てきた セリスティナというこの国のお姫様と、そのセリスティナ様が、俺の店に来たいと駄々をこねたので。仕方なく 店へと案内をすることになったのだ

「レオン様のお店がここにあるということは。ここに来れば私とレオン様を引き裂こうとする悪魔が 私の前に現れることはないということなのですね?」と。「いえ。別にそういう訳ではないですが。セリスティーナ様。俺はただの人間なので」

「でも、このお店の中を見ればわかりますが。その商品の豊富さや、性能の良さを考慮すれば。きっと、お金さえあればどんなものでも作ってくれるような、素晴らしいお店に違いありません。そんなところで働いているレオン様は、そのお仕事の大変さに疲れたり。その、他の女性が。あなたの隣に立つことで。あなたに言い寄って来るかもしれません。そのような時でも。あなたは私が隣にいる限り。私を守ってくださり。そして私と、幸せになってくれると約束してくださいますよね?」

俺はその言葉を聞き、困った表情を浮かべて苦笑いしながら、なんとかセリスティナを宥めることに成功すると 店の入り口で待っていてくれていたソフィアと共に、店の中に入るように促す

「うっ、うわー!! なんですか!これは!? この店内の品揃えの豊富さといったら! ああっ! この、魔道具なんて、凄すぎですよ!!」「お、おお!本当だぜ!レオンの兄ちゃん! こんなに良いものがたくさん売ってあるとは思わなかったよ!」

セリスティーナは店内に展示されている。様々なマジックアイテムを見て驚き。それを、興奮した様子で眺め回していた。俺はというとその光景を見て。なんだか少し照れ臭くなりながら、店の奥に入って行くのだった。すると俺の後ろには、店の外にまで溢れ出るほど並んでいる客を店の中から観察しているソフィアの姿が目に入ってくる 俺は、そんな、この店の中で起こっている珍事件に、気付くこともなく この店で販売している商品について その効果を説明している最中 ふと視線を感じて、俺の視界の中に入ってきた カウンターの横に置かれている、一対の女神像に目がいくと その女神像は、俺に微笑むような笑みを俺に向けてきていたので 俺は、この女神像をどこかで見たことがある気がすると思ったのだ 俺は、俺と、この世界にいるアリス様に関係のある この世界に存在する。この女神を祀っている宗教の教会にでも行った時に。それと出会ったのだろうと予想するが どこで、その女神に出会ったのか。全く思い出せなかった。

そして俺のその考えを裏付けるかのように。俺の前にいた。セレスティナ姫から話しかけられる

「その、この女神像は───」

俺は、セレスティナに女神のことについて聞かれたのだと そう思い込み、「ええ、俺も、この女神を見たときに、そう思ったんですけどね。俺の記憶では」

俺は女神を見た時に、アリス様なのではないかと思ってしまったのだけれど。この世界に居る、アリスは違う。俺はそんなことを考えながらも。「まあ、ちょっと訳ありのこの教会に置いてあって。それで見覚えがあったんですよ。この女神様のことを」と答えたのである 俺の答えに、なぜか、微妙な顔をしたセレスティナだったが、その後に、アリスについての詳しい話をセレスティナが始めたので、俺は聞き手に回り。

「なるほど、アリスという方には、確かに会われていたようですね。私は以前、その方の加護を受けていますので」と言ってきたのだが 俺がその、加護というものが何かを聞いてみると。

なんでも、俺達の世界の住人は 生まれてくる時に、この世界の住人なら必ず持つ 神様からの加護を授けられて産まれて来るのだという 俺のこの世界での加護が『ドレインタッチ』であることを教えられた俺は。

俺のスキルに付いて説明を受けている時に、ドレインタッチが俺にとって。

どれだけ有用なスキルであるかを力説してくれた このドレイン系のスキルが有用だという理由の中には この世界に生息する。モンスターの弱点でもある 魔法という技は。魔力を消費せずに使える攻撃方法であるからなのだという そう、俺の、このスキルのおかげで 冒険者は。魔法の行使による、無駄な消耗を抑えることが出来。

魔法使いは、自身の体力を気にせず ひたすらに、敵を倒すことだけに全力を尽くせるのだ この話を聞いた後に、ソフィアも。俺の事をチラリと見ていたのだが その目からは。あんた、何の役にたつんだろう?という疑問が見て取れたので。俺の心は酷く傷ついたのであった

「で、ですが。レオン様の、ドレインタッチは、レベルの低いうちは、あまり効果は望めないはずですが」

俺は、俺の持つドレイン系という、特殊系統のスキルが役立つか そうでないかを聞いたところ。

どうも俺のこの世界の、本来の能力が発揮されていないらしく。この世界の人間は、この世界の神に愛された種族でもあるからなのか 元々の能力が高いようで 俺がこの世界に来た時には 既にかなりの能力を秘めているようだとのことだった ちなみに、セリスティーナの加護というのも、神族の中でも。かなりの高レベルのものらしいのである そして俺は。セリスティナから聞かされたことに。この世界で。自分の持っているスキルや 自分が持っている武器や、道具の性能などを調べる為の。鑑定石というのを使ってみてはどうかと言われて 俺が、この、異世界に来て初めて、武器や、防具。道具類について、本格的に調べることにしてみたのである その結果。やはりというべきなのだろうか? この世界に来て初めて、自分の職業欄にあった、【冒険者】というのが。

俺にとってはチートのような職であり。

その職について、詳しく調べてみると。

この世界において、俺だけが持ちうる 特別な技能としか思えない物が色々と出てくるのだった。

その中の一つに 【スティールマスター(盗賊専用)】という物があって 俺がこのスキルを発動すると。俺の手に触れた物は、全て奪うことができる という効果が得られたのである しかも、その発動条件も緩く 相手が、無防備だった場合 もしくは、相手から敵意が感じられない場合のみ、この窃盗の能力は働くのだと言う そのスキルに、ソフィアも驚いている様子だったのだが。セリスティーナも、この、この世界に、レオン以外の者が居て。その者が持つ固有技能を見られるとは思っていなかったため とても興味深げに俺の事を見つめていた 俺としては、そんなに見つめられれば。少し恥ずかしかったので。さり気なく目をそらすと。

俺は自分の所持金を確認することにすると そこにはなんと10万アリス程入っていたのである。

俺はその事に驚愕して「こ、これって一体どういう事ですか?」と 思わずセリスティナに尋ねてしまうと

「えっ!? そ、それは─」と 急にセリスティナが狼耳をペタンと伏せ。もじもじしながら、俺から、サッ、と顔を逸らす その様子を見た俺の脳裏に、嫌ーな考えが過ったのは言うまでもないが 俺は、この、店に来る前に。俺達がベルゼルグと戦うことになった原因を。

リディアとアリス様と一緒になって。ソフィアの質問責めを受けていたセリスティーナに聞くと その話は まず、あのゴブリン達は俺が倒した奴以外は セリスティーナが呼び出したものであるということから始まった この国にある遺跡は その殆どが。魔王軍が作り出したものであり その中でも一番重要な施設は セリスティーナが封印を守護する役目を負っていて それを、その任務を全うすべく。毎日の様に行っていたらしい そんなセリスティーナが俺に助けてもらったお礼として、俺にお店を案内してくれと頼み。それを受けた結果。俺はこの店の奥の部屋へと連れて行かれ。

そして、そこにあった。大きな祭壇を見て、俺が。この世界における 女神アリスの像があるものだと勝手に思い込んだのだ。そして、それをそのまま伝えたところ。

セリスティナはその像の事が気になり、そして、なぜ、セリスティナの仲間の一人がその像を持っているのかという事も気になったらしい それで、その仲間がこの店に来たときに。

たまたまセリスティナと一緒だったという事もあり、一緒に付いて来ていたのだそうだ だが、まさかその仲間の知り合いの店の商品の中に この女神アリスに関する、貴重な品が入っているとは思わなかったとのことで セリスティナはとても申し訳なさそうな顔で、俺に対して謝ってくれたが。俺は特に気にした様子もなく「大丈夫ですよ」と一言だけ言っておいた それにしても、アリス様は。この世界で信仰されている神様であるだけでなく 俺が前にいた世界で祀られる神様でもあるのだ。そう、つまりは。

この世界でも俺はこの女神の信者で セリスティーナの加護を貰ったということは。この世界の人達と同じような感覚で接することが出来るかもしれないと そんなことを考えながら、俺はこの店の中をグルリと見回すと。この店内で、俺の目を惹き付けて離さないような。一つの商品を発見したのである。俺は、この商品を見て、この店で売ろうと決意し セリスティナにも、その事を伝えることにした 俺がこの商品を欲しいといった時 セレスティナが、「この店で取り扱っているものですので、そのお金をお支払いください」と、俺に告げたのであるが この店は、どうやらセリスティナの店の商品を扱うだけではなく この、女神アリスを崇拝する者のための。いわば教会としての役割も兼ね備えているようで その資金は国から出ていて セレスティナがその金を管理しているらしい なので、この店の取り分の値段さえきちんと払ってもらえればいいという事であった。それでセリスティナが提示したのは 1個当たり50万円ほどの価格の物であるのだが。

俺はその、金額の多さに驚いたが。俺はすぐにその商品を買うことを決め セリスティナにはその旨を伝えたところ その金額は。どうも、この店の売り上げの10%という事なのだというので。合計で600万円近くになってしまったわけだ。俺は慌てて、残りの400万円で。今買おうと思っていたものを購入したのだが。その際 その購入したものの包装紙が、かなり高価なものであった為。店員は俺の格好や、この世界に来たばかりの人間だということから 貴族などの身分の高い人間が。俺が、何か良さげなものを買い漁っていると思ったのか。丁寧に包装をしてくれた上に。俺の事を貴族だと決めつけて、代金とは別に、金貨10枚という大金まで渡してきたのである まあ、そのお金を受け取る時に なぜか、俺の隣にいたリディアが、すごく悲しげにしていたのだが どうも、セリスティナの、俺に対する態度をみて 自分もそういう対応をしてもらいたかったのだろうと 俺にはそう見えたのであった。

その後 俺は、セリスティナに連れられて。彼女が守護をする。とある場所へと連れて行ってもらう事になったわけだが─ 俺の、盗賊専用スキル。スティールマスターにより。俺は手にした物を何でも盗む事が出来る しかし、この世界では、魔法というものが存在していて この魔法を使えば 俺が手にした物を奪い返されたり 魔法による、攻撃を受けて。奪われないようにできる。

ただし俺がスティールを使う際には 相手に触れなければ発動する事が出来ないのである そこで、俺の持つ固有技能である。ドレインタッチで触れたものに、相手の体力を吸収させて奪い取る ドレイン系のスキルを使用してみる これで相手に触れれば、簡単に奪えるのではないかと 俺がそう思って、セリスティーナに手を伸ばしてみると どうも彼女は、自分から、ドレイン系の能力について教えてくれるようだ。

俺が「じゃ、いきますよ」と言うと。彼女の手が、一瞬ピクっと動いた それから俺はセリスティーナの手を掴み、そこから 俺のスキルを使用しようとした瞬間 俺の手は弾かれるようにして払われてしまい それと同時に 彼女からは、激しい抵抗感のようなものが俺に向かって来た これは、もしかすると。俺は自分の能力の説明を聞いていたから。相手から、その能力を奪おうとしたと 俺の頭の中には、先程のセリスティーナの行動が。そう、まるで。自分の手の内を見せない様にと、俺のスティールが通用しないようにと。俺の手を振り払ったのではないか? という考えにたどり着いたのだ。俺は、セリスティナが どうしてスティールで自分の持っている力を奪われるのを拒んでいるのだろうと考えていると。その考えに至ったのが分かったかのように セリスティナは。俺が考えていることを全て理解した上で その答えを、口にした

「わ、私の力は──その。他の人とは違い。あまり、人に知られるのに好ましくはないものでして。ですので。もし私から、あなた様の力を得ようとするのなら───その」と、俺が、セリスティナが言いたいであろう言葉を遮るようにして「別に無理してスティールしようとは思わないですよ。セリスティナさんからしたら。俺がこの世界で、一番最初に知り合った人だから。そんな人の嫌がるような事は。あんまりしたくないからさ」と言ってみたのだが。

すると。

なぜか、その言葉を聞いた、セリスティーナの瞳に 薄らと涙が浮かんだ気がして。

その事に、俺は、驚いてしまうと

「す、すみません。こ、これって、どういう事でしょう。な、なんか勝手に」と 目元を指で拭う仕草を見せたセリスティナに その行為を止めさせ。そして───「ごめん。余計なこと言っちゃったかな」と言った後。

その場を去ろうとすると 背後から、「いえ!そのように気を使って頂けるとは。私は、その、嬉しいんです。ただ、こんな風に。自分の力が、誰かの為に役に立つ日が来るなんて思わなかったものですので。そ、それで、ですね──その、もし宜しければ、このお店にいる間は、私を。お姉ちゃんのように扱ってくれたら───」と、後半の部分は聞き取れないくらい小さな声だったが セリスティナが、少し照れながらそんな事を俺に告げた。俺は、その申し出を受けることにしたのである。この店の店主であるセリスティナが言うのだ 俺に異論などあるはずがないのだ。こうして、俺達は、お互いの呼び方を決めたのである そうこうしているうちに、目的の場所に着いたようである。そこは、なんとなく 神殿っぽいという感想を俺が抱きながら見上げると。そこには、大きな建物が存在していた セリスティーナに案内された先は。女神アリスの祭壇がある場所だったのである。俺は、そのアリスの祭壇の前で。女神アリスの加護を得たいと思っていて。この世界に来るときにも女神アリスに祈りの言葉を唱えていた。それでこの世界に来ているので 俺がアリスの祭壇を拝もうとしている姿を見て、この女神の信徒なのかとセリスティナは思ったようで。俺の邪魔にならないような位置にいるだけで、何も話しかけては来なかったのだ ただ、セリスティナは、俺とアリス様が会話をしていたところを見ていたようなので 俺は、この場を、セリスティナに任せて、俺は、アリス像の方へと向かうと 俺はその像を見て驚いた。

その像は、どう見ても 俺がよく知っているアリス様なのだ。俺はアリス様の事を知っているから、一目でアリス様と分かってしまったので 俺は思わずそのアリス様の前に立つと 俺は、アリス様に向けて。心の中で語りかける。

(あの、俺の友達の、女神エリ──)と俺が女神の加護をお願いしようとした時。なぜか俺の心の中に 突然として、謎のイメージが流れ込んで来た。俺の意識の中に このアリスの姿が映し出される。それは、まるで、夢で見た。女神のようでもあり 俺は、それが、何を意味しているのか、よく分からずにいたのだが。

セリスティナの声によって。ハッとした感じになったので 俺は急いで、この祭壇の前から離れていったのである セリスティナに連れられ、俺がやって来たのは この店の中でも、最も豪華な造りとなっている場所であった。俺はそこでセリスティナと二人で お茶を飲んで、くつろいでいた。この世界には、俺がいた世界にあるような食べ物が多く存在する 俺はそこで。初めて食べる物に舌鼓を打っていて セリスティナが「この世界の物は、レオン殿の世界にあった料理と比べて。味に差がありませんよね。でも、それって凄いと。私は思います」と言っていたのだが。俺にとってはその発言も驚きに値するものだった だってそうだろ? 異世界だぞ。なのになぜか、地球と同じ文化がそこかしこに存在するこの世界を不思議に思う そこで俺は。

もしかしたら 何か特殊な力によって。そのあたりが調整されているんじゃないかと考えたのだが。そこでふと思い出したことがある この世界に来る前に聞いた。神様のような存在である。クレアという女性 もしかすると そのクレアという女性が。そういった何かを行っているのかとも考えたりもしたわけだが。この世界に転生する際、俺の頭に響いていた。神を名乗る者の声で「君は選ばれた人間だ」とか「君が、この世界でどういった運命を背負うのかは分からないが。どうかその力を上手く活用して生きてほしい」という あの言葉を、思い出すと その言葉から導き出せる可能性としては。

その、選ばれた人間が俺であり。その俺を手助けするために 様々な能力を与えられた。もしくは与えられた者がクレアなのだと仮定すれば。

そういえば、この世界に来た直後、盗賊の技能を持っている冒険者は、なぜか皆が盗賊職に就いている それもなぜか 俺達の仲間にいた。

俺はその時から疑問を抱いていたのだが。盗賊スキルというのは、確かに 罠を解除できるスキルであったり。気配を消せるといった 探索に特化した力ではある。しかし、それだけでは盗賊スキルと呼ばれる程ではないのではないかと。その盗賊スキルを俺達が使うことで、この世界に俺が呼ばれた原因を作った何者かからの なんらかのメッセージである可能性も考えられるわけだが。

そこでセリスティナが

「この紅茶、美味しいです」と言ってくれたので 俺は「あぁ、俺も好きですよ。こういうの」と返すと

「えっと、その、ですね。これは私が入れた物なんですけど。お口にあってよかったなって。そ、それで、あのですね」と言いながら 何故か 急にもじもじし始めたのであるが。俺には意味がわからず

「はい、これ。お礼だよ」といって、俺はセリスティナにお金を渡すと なぜか セリスティーナは固まってしまう それから なぜ俺が、彼女に。いきなりお金を渡したのかというと俺の持っている。この国の通貨の、価値を知りたかったからだ

「ありがとうございます」と、セリスティーナが、そう言った後。彼女は俺が手渡したお金を そのまま どこかに持って行こうとしていた

「あっ! その。セリスティーナさん。ちょっと待ってくれるか」と俺が言うと。なぜか彼女は「はい」と、言って。その場で待機してくれていて それから俺は、彼女が持っている財布を手に取り、それをまじまじと見てみる。すると 俺が思っていたよりも遥かに 俺の元居た世界で言うところの。銅貨や銀貨が多いことに気が付き そこで俺は、その硬貨の価値を、セリスティナに聞いてみることにした 俺が「これは? どの位の価値のある物なの?」と尋ねると セリスティナは「はい。こちらの硬貨になりますと、それぞれ 鉄貨 が十枚 と 銅貨が一枚。それに。銀貨が、二百五十枚で 金貨が、三十五万枚となりまして。大体この世界で使われる、全ての金額で言えば、おおよそ このような形になるかと思います。それと。お気を悪くされるかもしれませんが、これは、あなたが元々住んでいた場所でも同じような物ですか? それとも、あなたの国で使われている硬貨と似たような物でしょうか」と言ってくるので 俺は少し考えて「そうだなぁ。だいたい同じだと思うよ。この国で流通していたら貨幣は その二つだけなんだね」と俺が言うと

「そうですよ」とセリスティナは答えてくれた ちなみにセリスティナは、さっきから俺のことを様付けで呼んでいる 俺はセリスティナが入れてくれたお茶を飲んだ時に。俺が普段飲んでいた物よりかなり質が良いものだと分かったのだが 俺が、「その、さ。どうして。セリスティナさんは。俺に対してそこまで丁寧に接してくれるんだい」と。俺は この世界に来て、初めて出来た友達であるセリスティナの事を、知りたいと。素直に、思ってしまって つい こんなことを尋ねてしまっていた そして、そんな俺の問い掛けを聞いたセリスティナは「はい。私は──。この世界で。一番初めにレオン殿に出会った者だから。私の、初めての、友人でもあるのです」と答えた後

「そ、その。レオン殿は。もし良かったのであれば。私の事を───」と。その先を告げようとしたところで セリスティナの表情が強張り、突然立ち上がったのだ。

「ど、どうしたの!? 何かあったの!」俺が叫ぶように言うと セリスティーナが俺の方に顔を向けた後に

「レオン殿はここに隠れていてください。絶対に出てこないでください」と セリスティーナに言われたのだが そこで俺は「わ、わかった」と答えて とりあえず そのセリスティーナの指示に従うことにする。俺が隠れると その直後。扉がノックされ 誰かが訪れたので 俺が息を殺して隠れていると その来訪者が部屋の中に入ってくる音が聞こえてくる。

俺はそこで。聞き耳を立てていると。セリスティナが。「お久しぶりです。セレンディー様。今日は一体何の用事でしょうか」と言っているのが耳に届いた

「実は、例の方との面談が終わっていないようなので」と言う声が聞こえてきたのだ それで俺は、この声の主こそ 女神アリス様ではないかと思い 俺はこっそり覗こうとしたのだが 次の瞬間。セレスティーナが何かを床に落とした音が大きく鳴り響き。それを聞き付けてやって来た者達がいた どうもこんにちは。佐藤和真です。

この度めでたく。俺は魔王討伐に成功したんですが どうも、その後から。この国の連中。つまり王城にいた奴等。特に俺と一緒に来た仲間達以外の人達がどうにも胡散臭いというのか、何か隠し事があるのではないかと思ってしまうようになった。というのも。まずは、俺達をこの世界に呼んだ張本人であるはずの女神アリスが いつまで経っても。姿を見せない なので俺は、セリスティナに頼み込み。俺がこの世界に来た時に着ていた服を用意できないかと頼んで セリスティナが急いで取り寄せてくれることになったのは良いが。その、俺を異世界に召喚させた。その本人が未だに姿を見せず また、この国の王族関係者は、皆。この世界の女神の力を欲している節があると感じる。

この国は今、隣国との戦争が激化する一方で。この世界唯一の大国であるこの国の兵力では 到底勝ち目がないらしい その為に、どうにか戦力を増強させる為 他国が誇る最高峰の騎士であるセリスティナの力を得ようと躍起になっているのだろう しかし、それは俺に言わせれば とても危険なことだと思っている。

何故なら、この国が、現在進行形で戦争をしている敵国とは ベルゼルグの故郷である、ラガスト大陸最大の国家であり。俺達の世界で言えばアメリカのような場所なのだ つまりこの世界でのアメリカの軍事力と同等のものが相手だと いくらなんでも、今のこの世界の技術力や文化レベルで、対抗できるものではないと俺は考える その、強大な力を誇る大国。バルガルース帝国と、現在の王が友好的な関係を築くことが出来ていないのは、おそらく バルガルース帝国の現帝王が。この世界には存在しない魔法と呼ばれる術を使いこなすからであり そのせいなのか 現王の、その一人娘が この世界で随一の魔力の持ち主と言われているらしく。その娘と縁を結べないかと考えたのではないだろうか まぁこの辺りについては、俺はどうでも良くって。もっと大きな問題は他にある。というより、こっちの方が俺としては大きな問題だと思ってしまった

「はっはーん! お前、やっぱりバカなんだろ! そんなこと出来るわけがないだろうが。ははは、この、無知蒙昧なお子ちゃまだぜ」

俺達はギルドの依頼を受けてあるモンスター退治にやってきたわけだが。そいつは。その。いわゆるレアと呼ばれる種類の魔物であった そして、そんな、そいつを見たクレアは「あ、あれ? あの、クレア? 私。別にこの人が言ったみたいなことは。全然思ってなくてですね」と言って 俺はクレアが「うふ、分かっていますよ。冗談なんですよね? あぁ良かったぁ」とか言ってる姿を、ただ黙って眺めることしか出来なかった。

「おぉっと。こいつはいけねえなぁ。こんな場所にドラゴンなんざ。いる訳ねぇだろうが。しかもそれが黒龍だって? ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ。このクソアマー!」と、俺達の前に突然現れた 巨大な黒い竜に向かって、叫びながら飛び掛かっていったセレスティアを、呆然と見守る。そして、そんな、俺達の前で。セレスティアはドラゴンの首根っこを捕まえた状態で 地面に引きずり倒してしまう。

「ぐぅ。なんて馬鹿げたパワーなんだ。私が全力で押し潰そうと踏ん張ってもビクともしない」と言いながらも嬉しそうな表情を浮かべながら必死に押し込もうとしているが。まったく意味を成さない様子で、その。

「おい。このデカイだけの木偶の坊! 貴様には恨みはない! このままおとなしく死んでしまえ! 」

などと、俺が止めようと思った時には、すでに遅し。セレスティアは全身を使ってドラゴンを押し潰してしまった。「おお! すごいです! ただ、ちょっと。その。やり過ぎじゃ」などと言ってソフィアがセレスティアの元に走って行ったので 俺も、一応。念の為に確認をする事にする。

「お、終わったな。さて、これでクエスト完了だな」俺はそう言いながら振り返ると、「いや待てレオン。なんか変じゃないか? それに、よく見るとさっき倒したドラゴンから煙が出始めているのだが」そう言われて俺と、俺に続いてやって来たモニカとセリスティナが駆け寄ると 先ほどまでの威勢はどこへいったのやら、もうピクリとも動かなくなった黒焦げの物体があった。「この、木偶の棒めぇ! レオンの一撃を耐えたぐらいで調子に乗るからだこの野郎! お望み通り火葬にしてやるぜ」セレスティアが泣きそうな顔で喚きながら、手に持った魔剣でその黒焦げの死体に切りつけたのだが。当然、黒焦げ死体には、傷一つ付くはずもなく。それどころか その黒炎を纏った刀身から、大量の白い煙が発生し始めた

「ちょ、ちょっと待ちなさいよこのバカー!! 何やってるの!? これアンデッド系のボスモンスターじゃないわよ。普通、こういうボス級モンスターを安易に倒すと。そいつの仲間を呼び寄せたりするから、あんまり刺激するような事はしないものなんだけど!?」と 俺達に付いて来ていたソフィアが叫んだのと同時。

この広い部屋全体に広がるように。突如として出現した、数え切れない程の、人の形をした骨。スケルトンが現れた。その数は数百を超えている

「カァーッ!!」と セリスティナが甲高い声で一鳴すると、突然地面が大きく陥没した。そのクレーターの中に 今まで見たこともないような、超絶美人のエルフが現れて。「皆さん。早くこちらに来て下さい!」と叫ぶのだが。俺はセリスティナを見て固まってしまっていた

「レオン殿。どうしました?」俺の様子に気付いたのか、心配そうに聞いてきたので

「え、ああ。ごめん。大丈夫だよ」とだけ返した後。「とりあえず皆は下がっていてくれないか。このくらいの数のモンスター程度、俺一人で何とかするから」と、それだけを言い残し。セリスティナが掘ってくれていた穴を潜り抜け、セリスティナ達のところに戻ると

「あら? 何してたのレオンさん。随分と長かったわね。もしかして、お漏らしでもしちゃって泣いてたりしたの?」「誰がお漏らしだコラ」と、俺とそんなやり取りをしているソフィアを見ながら セリスティナが何やら、何かを思い出すかのように 顎に手を当てているのだが。

「ところで、セリスティナ様。あの人は、もしかして、その、セリスティナ様の───」「セリス様。私の話はまだ終わっていないのですが。まだ、この世界に来たばかりだから、知らない事も多いでしょうから。私がいろいろ教えようとしているというのに。それなのにあなたときたら───」という。セリスティナの話の途中に、クレアとクリスが、セリスティナの元に歩み寄ってきた

「セリスティナ様。一体どうされたのですか。先程から何か思い悩んでいるようでしたが。どうかなされたのでしょうか。もし宜しかったらでいいので相談に乗りますけども」

俺達がその会話を盗み聞きしていた時だった その部屋にいきなり爆発音が響いた 俺達のすぐ横を物凄い勢いで飛んで来た物体は天井に当たり、その反動によって砕けた石の破片と共に、砂ぼこりのようなものを巻き上げ そしてその中から、小さな子供が姿を現す。子供はクルクルと回り、やがて落下するのだが それを受け止める為に、セリスティナが両手をバッと広げると、その子はそのままセリスティナの腕の中へと飛び込んだ そして俺はその子供を、改めて見て驚いた。なぜなら、その子は俺と変わらないぐらいの大きさしかないのに、俺よりも遥かに強い力を感じるのだ。それはまるで。昔、どこかで出会った。誰かに感じるような強さで──── 俺はこの感覚を知っている。この子が放つ、強烈な気配に。俺は何故か、心の中で

「────この子なら、きっと」という言葉が出た。この子の、この雰囲気の正体。それが分かったからだ。そして ────その時 この部屋の中、その隅っこで

「ひ、ひぃっ」

怯える一人の青年がいた この場にいる全員の視線が彼に向く。だが

「な、なんだ貴様らは。お前達はいったい誰なんだ」などとほざいていたので。俺の右隣から。セリスティナが一瞬のうちに飛び出し その男の目の前に立ったと思うと 男の顔の前に手のひらを向けた 次の瞬間。セリスティナの掌から放たれた衝撃波により男は壁に激しく激突した そしてその男が倒れた後に、その場に居た他の人達はその光景を目の当たりにした後、誰もが声を失っていた セリスティナはその男を見つめると

「あなたの、名前を聞いておきましょう」

「はぁっ!? ふざけんなって! こんな事されて名乗るわけないだろ」

その答えを聞くと同時に 再びセリスティナが放った見えない斬撃が、今度こそその人物を壁まで吹き飛ばした。そしてそのまま気絶してしまったらしい 俺はこの時思った これは、とんでもない奴が来たんじゃないかって。だって、こんなに恐ろしい殺気を放つ相手に あんな態度を取れるんだから。俺はもうこの時点で恐怖で動けなくなっていた。

そんな事を思っている間にも クレアとクレアの後ろから現れた女性二人の手から光が溢れ、その光は倒れていた男の元へ向かい あっという間に治療を終えてしまった。

クレアがその青年を眺めてから「うむ。命には別状ないようだが、どうやら意識を失っているようだな」と言うと 先ほど、クレアが蹴り飛ばして昏倒させた男性に、セリスティナは目を向ける その瞳からは冷たい威圧感が放たれていて、それに当てられたのか。さっき蹴飛ばされた男性は目を覚まし。セリスティナを見ると 慌てて立ち上がったかと思ったのだが

「ふ、ふざけんな! お前みたいなちんちくりんに! あんな目にあわされるなんて。絶対おかしいだろ!」

と、そんなことを大声で喚き始めた セリスティナが「ほう。面白いことを言うのですね」などと笑顔で言っていたが、目が笑ってなかった。その言葉を聞き、周りの皆がざわめき出した 俺もその言葉には少しだけ納得した 俺から見ても、セリスティナはとても綺麗だと思うし この世界の人間から見れば尚更の事だろう。

それに加えてセリスティナは俺と同じ歳くらいだろうから こんな事を言うヤツは、よっぽど自分の女としての器量が無いんだろうと。そう考えたらちょっとだけ笑えたが。

そのセリスティナの一言で この部屋の空気が一気に張り詰める セリスティナが、無表情なままゆっくりと歩き出すと、その男との距離を一歩ずつ、縮めていった

「お、おい、何だ、近寄るな! この、化け物! 俺は勇者だぞ! 貴様の首を撥ねれば、国を救った功績として報酬がたんまり貰えるはずなんだ。だからその手を退かせ! や、やめてくれ! 死にたくない!俺は死にたくな───」と。

言い切る前に、セリスティナの右手から、今度はさっきより強力な風の魔法が炸裂し

「ひぎゃああぁ!!」その叫びが消えると その男の姿は忽然と消え去った クレアが、その様子を見ると「ふう、これで一件落着かな」と呟いた直後 この広間の外から激しい戦闘音らしきものが次々と鳴り響き、それと同時に、この部屋の外ではモンスターの大群と思われる 大きな鳴き声が聞こえる

「この部屋から出て来る敵を全て討伐せよ」というクレアの指示に「御意」と答え 騎士達はそれぞれ剣を構えてこの部屋の出口へと向かった。そして扉が開くと、そこには先ほどのセリスティナによる風魔法の一撃をもろに受けたはずの男がいて。セリスティナが放った風をまともに受けていたにもかかわらず 傷一つなくピンピンしているその姿に。全員が驚きを隠せなかったのだが 俺の左に座っていたソフィアが突然

「この部屋に来る時に見たけど。アンデッド系のモンスターよ、そいつ」と叫ぶと

「なるほど。そういうことですか」と ソフィアの言葉に納得したようにセリスティナが言うと、先程クレアが指示を出していたのに、クレアは何故か、セリスティナに目配せをするだけだった。そしてそれを見た後。

セリスティナは両手を上にあげ、指をパチンと鳴らしたかと思うと。天井が崩れ落ちてきた。すると天井は崩れ落ちただけでなく。そのままセリスティナの手の上に乗っており。セリスティナのその行動を見て セリスティナは、その男から興味を無くしたかのように背を向けた。だが、それを気にしたのか。

男は、この部屋に唯一残っていた椅子を持ち上げると。それをセリスティナに向けて投げ付けたのだが その攻撃は当たる事は無く。セリスティナに当たるはずだったその椅を。クレアが受け止めていた そして「何やら小細工をしていたようだが、どうやら、無駄なようですな」と言い 持っていた杖で、床に突き刺し その杖の先端に魔力を流し込むと、クレアの持つ杖の先が輝きだし───やがてそれは一筋の光線となった。

その一筋の光線は、一直線に放たれると、男の体を真っ二つに切断していたのだった この日 王城内に巣くう悪魔が一匹消滅した─── ベルゼルガは今、城の中で一人迷子になっていました。それは、セシリアの使い魔になったばかりの頃 セバスさんから、レオンさんの居場所を探すために セリスティナが召喚したという『ケルベロス』。それがどういう理由があってか分からないけど。

何故かその使い魔をセバスさんは手放してしまったらしく。セリスティナにその事を伝え、セバスの連絡役となってくれている人。その人に、この城の中で一番レオンさんの匂いが強く感じられる場所を尋ねてみる。だけど

「すまない。俺にも、よくわからないんだ。俺達ケルベロスはセリスティナ様の直属の部下だから。あの方なら、何か知ってるかもしれないが」

という答えしか聞けなかった 仕方ないから私は「わかった。ありがとう」と言ってから、その人と別れ 城のあちこちを調べ回っているのだが 中々、セリスティナがいる所へ戻れないでいた どうしよう。このままだと、せっかくレオン様と二人っきりになる機会なのに。それに。私が勝手にいなくなったせいで。きっと怒ってらっしゃるに違いない。

そんな事を思っていたら、目の前に一人の少年が倒れていて。

その男の子の服が破れていて、そこからは無数の切り傷があったのを見かけ

「大丈夫?」って声を掛けたら「う、ううん。だ、だ、誰か助け────ぐえぇっ」って言ってたから。その子を助けようと近づいたら 私の体にその男の人の手が巻きついて そして「ひ、ヒィー! な、何で、何でこんなところにお前らがいるんだよ。お前らが俺の前にいるっていう事は。あそこに、セリスティナ様もいるんじゃねぇの!?」とか言ってたから その男の人を、力一杯に蹴っ飛ばした。そして 私と一緒に居たもう一人の少女が、その男の人を拘束しようと動き出して。それに気付いたその男の人は その場から逃げ出してしまった

「ちょっと! 待ちなさい!」その言葉を聞いた後に、その男の子の体が淡い光に包まれ その光の中から、可愛らしい小さな生き物が現れて。

「ふー、危なかったぜ。あんがとな!」その声は、どうやらとっても元気がいいみたい とりあえず。その子は無事らしいから

「じゃあ。また、会おうね」そう伝えて 私は急いで、セリスティナの元へ向かわなければと思い。その場を駆け出した。だけど、その場所に辿り着いた時には 既に遅く。その場にはもう誰もいなくなっていた そのセリスティナとケルべス。それに先程の男との戦いの音が、遠くの方から聞こえる セバスはそんな二人の姿を眺めつつ、先ほどから気になっていた。セリスティナの後ろに立っている、先ほどの男が、どうしてかは分からぬが。自分の娘と同じ姿に見えるのだ。セリスティナはともかくとして。先ほどの男まで、自分の子供のように感じてしまうのは。いったい何故なのだろうか

「あなた。先ほどの者が気になっているのですか? セリスティナ様が契約なさった相手ならば。セリスティナ様にとっては大事な存在という事ではないのでしょうか」とクレア様の言葉を聞いて 確かに、そうだ。

だが、その考えが間違っているような気がするのは何故なのか

「ふむ。では。少しだけ様子を見てくるとしましょう」と クレアが立ち上がり

「セリスティナの事は任せるぞ」とだけ言い残すと、そのクレアに続くようにして。他の人達もこの部屋を出て行き始めたその時────

「あらぁ?クレアお姉さまも一緒に行かれるんですね」

と そんな言葉に

「まぁ。そんなところだ」とクレアは答え それを見たセレスが、「私も行って来ます」と立ち上がると、そのままクレア達の後ろについて行く そして俺達が、皆に続いて行こうとしたところで

「セバスお父さま」と クレアに呼ばれ。

俺はクレアを見ると、クレアは「この子をよろしく頼む」と、先ほどの男とセリスティナが居ると思われる場所に視線を移しながら俺に伝え そしてクレア達は皆出て行った そんな事を考えていた俺に「セ、セバス様」と言うと

「ん? 何だ、お前らもいたのか」と その聞き覚えのある、少しだけ鼻につく声に振り向いてみると。そこには、先ほどのセリスティナと戦っていた、先ほどまでの俺の疑問の全てが解消されようとしていたのだが 俺にはそれよりも。今はもっと気になることがあって。それは、セリスティナの事だ 先ほどまで、先ほど現れたセリスティナの姿と瓜二つの。セリスに似た少女と一緒だったのだが。

しかし、その二人が、セリスが変身して姿を変えているのだと。俺は思いたかったのだが。それは無理がある セリスの背中にある羽や角は、人間であるセリスにはないはずで。だが、目の前の、このセリスに似ている子はどう見ても。セリスにしか見えない

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」と俺は、この子がセリスじゃないかどうかを確かめるため。本人に直接尋ねてみることにした。すると───「はい、なんでしょう。あなたのご主人はここに居ませんよ?」と笑顔で答える女の子に対して やっぱりこの子なんだと思った直後「ははは、まさか俺が、あんな女を妻にすると本気で思っているわけないじゃないか」とその言葉を聞いて、俺が思ったことが全て間違いでは無い事を知ると セバスにセリスのことを尋ねてみたのだが。セバスから帰ってきたのは 俺が知っているのとは、違う答え。それは「セリスティナ様なら。先ほどの男を追いかけていかれましたよ」という事だけで 俺はセバスに礼を言うと、セリスを追って走り出していたのだが。セリスを追い掛けようとしても、なぜかセリスと先ほどの男を見失ってしまい セバスが先ほど言っていたように、セリスに何か異変が起こったという事なのだろうか 先ほど戦ったセリスティナとそっくりな少女に。セリスの居場所を尋ねたのだが そいつは「ううん。わかんなーい」と、首を横に振るばかりで。そして俺がもう一度聞こうとすると「でもね。セリスティナの気配を感じるの。この城に、いるはずだから。探してくる!」

そう言うと少女は、そのまま走って消えて行ったのだった

「おい! こっちに、凄く良い匂いがするぞ」その言葉に私は振り返ると ソフィアと名乗った少女は私に向かって

「ほら、早く! この奥からだ」と言い 私はその言葉に従うことにし その少女の後を追う その途中。私が通って来た道の至る所に大量の人が倒れていたが その誰もが。まるで死んでいるかのように動かずに。

そんな中を歩いていると 私の横で走っていたはずのそのソフィアの速度が、次第に遅なっている事に気が付いた すると ソフィアが立ち止まり「まずい。見つかったようだ」と言った直後に。通路の脇に有った部屋の扉が勢いよく開いたと思うと「きゃあああっ!」と言う声と共に一人の女性が転がり込んで来て。その女性が床に転がって、うつ伏せに倒れた状態から 必死に立ち上がろうと、手足を動かし始めた時。

「おい。何をしているんだ」という言葉に驚き、顔を上げると そこには見慣れた少年の姿があり そして「レオン。この方は───」「え?───あれ!? セリスティナ!? どうしてこんな所に───ていうより。どうしたんだその怪我は!?」私はそのレオンさんという人の言葉を聞き。私の名前を知っているこの少年は一体誰なのかと思いながらも、その言葉を聞いているうちに 私は安心感を覚えるようになっていた。

レオンさんの声を聞いて その声の聞こえて来た方を振り向いた私は その先に、私が良く知っている人物がいて。私は思わず駆け寄ろうと思ってしまうが 私よりも、私に駆け寄る人物がいた それは───私の娘で、私によく似たセリス。

セリスの突然の行動で私は我に返り、今の状況を確認することにした。その前に───「あなた、いったいここで何をしているの?」

その問いに対し 私が見たのは自分の娘が。目の前の見知らぬ男の手を掴みあげていた所で。セリスが私の方に視線を向ける セリスから目を離すことができないのは何故だろうか 私の知らない。セリス。

「セリスティナ。お前は、何者だ? その姿は何なのだ」

俺は先ほど出会った少女の事がどうしても頭から離れずに、セリスに尋ねると セリスが俺に近づいてきた。その行動に、少しドキッとする俺

「ねぇ、セリス。その子と知り合いなの? セバスの知り合いの子みたいなんだけど」とルナリア様の言葉を聞いて、少し嫌な予感を覚えつつも、俺は、先ほどの事を思い出そうとした。

だがその最中「なぁ。ちょっと聞いてもいいか?」そんな声を聞いた。そしてそれは、俺ではなく、俺の横にいるソフィアと呼ばれた女の子が喋った声で そのソフィアの声はどこか大人っぽいような気がしないでもない その声に振り向くセリスティナは そのまま黙り込み「あなた達は、この方の───セレスティナの仲間ですか?」という質問をソフィア達に問いかけるセリスティナ すると ルナリアが口を開きかけたのだが、「いえ───違いますけど」という答えに、ルナリア様が「ちょっ、なにいってんのよ! この子たちは、セリスティナの妹だって言ってんのよ!」と焦るように話すのが聞こえてきた そのやり取りを見て「妹、ですか。そうですか」と言うとセリスティナはそのまま何も言わなくなり 俺とクレア様、それにベルゼルギは、先ほどまで話していた場所に座っていると、俺達が入ってきた扉が開き「あら、セバス。遅かったですね」とセバスと、そして、先ほど城の中にいたもう一人の男と。その二人と一緒にいた女の子が現れた そしてクレア様に近づきながら、その女の子は「あなたも無事だったみたいね。それで、さっきまでどこにいたの」と話し始める その女の子に話しかけられたクレアは「どこと言われても、ここに来たばかりの私に分かるはずもないだろ」と答えるクレアに対して その少女は「それもそうね」と納得したように呟き、それからは クレアに抱きついた後、クレアの胸に顔をすり寄せる。そしてクレアはそんな少女の頭を撫でて

「しかし、あの男。中々やるものだな」とクレアが言うと、その女の子は「ふふん。まぁ当然でしょう。私が作った最強の剣ですもの」と言って胸を張るのだが

「作った?」クレアはそんな少女に対して疑問をぶつけてみると

「まぁね」と答えたあと「それよりも、この子のことだけど」とその言葉を聞くクレアに、俺達はセリスティナの事を思い出し「セリスティナ。セリスティナは?」

俺がセリスティナの居場所を聞いてみると クレアはセリスティナの事を知らないと口にすると、クレアが少女に

「で、お前達、何者だ?なぜセリスティナを追って来た? お前達はいったい何者なんだ? 」と問う

「私はアリス。女神アリスです」と答え その後。「セリスティナを追って来た理由、それは彼女が、私の信徒の一人だからですよ」と答える少女。その答えに クレアが さらに聞くと

「私はセリスティナ。その昔、神界では、勇者と呼ばれていた者。魔王軍から人々を救うため。地上に降り立った、そしてそこで。あなた達のお母さまと出会い。一緒に冒険をしていたの」とセリスティナは語る それを聞いた俺は、目の前の少女を改めて見ると。俺は確かに目の前のセリスとそっくりなのだが──どこか違和感を感じる部分があったのだが 俺はそれをうまく説明できない。なので「セリスティナが勇者だった頃って──」と言いかけると セリスティナが 自分の額に指を当て セリスにそっくりな少女が「はい、この子は、その当時に生きていた、私の弟子の子孫なんです。私がこの世界に降りた時、偶然見つけた、私がかつて共に戦った仲間の血筋で」と答えるのだが その話を俺の隣で聞いていたクレアが

「その話は私も聞いたことがあるが。その話だと──その女性は、魔王を倒したという話になっていたが。どうなんだ?」と尋ねる その言葉を聞き、目の前のセリスが、一瞬困った表情を見せるのだが

「えっと。それは──その。なんといいますか。私の仲間の──セバスティス──あの頃、私を一番理解してくれていて。私の事を、セリスと呼んでくれた人なんですけれど。その人が、私の事を隠してくれて──私は。その、普通の女性として──この世界に来ることになりまして」

俺の耳は 今。セリスティナの言っていることを聞き取れず 俺はその会話に割って入ることにした「おい、その、普通に、とはどういう意味だ? セリスティナ───じゃなくてセリスティーナか。そいつの事は、隠してないとダメなことでもあったのか? というより。セリスティナはセリスティナだよな? 」

その問いに対し、俺を見つめたままのセリスティナはしばらく沈黙していたが。俺の言葉を聞いて

「え、と。その。セリスって、名前。その人は、その名前が私の名前じゃないと言い張っていて」

セリスティナは俺に向かって言う セリスティナは「私はあなたの前にいた私とは別人よ。私の名前は───そう、アリス! そう名乗っているの」そうセリスティナが言うと「セリスティーナ──いや。セリスティナ。それは、お前の本心なのか」と、セリスティナに尋ねてみると セリスティナは「うん。その──ごめんなさい」

俺はセリスティナの顔を見る

「その顔、その目は、本当に、申し訳なさそうな目をしているんだろうが。セリスティナは、俺の知っているセリスは、そういう風に俺には見せないんだ」

俺は続けて「それに。そのセリスティナはな。その髪の色も違うし。それに、目の色だって、俺と同じ青だが、セリスが持っていた杖も持っているし、セリスが着ていた装備だって、同じものを着ているじゃないか!」

俺の言葉を聞き「え、と。でも。これは────」セリスティはそう言いかけたところで、俺は、クレア様の方を見て

「なぁ。そのセリスティナ。って。こっちのセリスが本物なんだよな?」

その言葉にクレアは「それは分からない。私もこの世界の事情については、よく分かっていないからな。それに、こいつは先ほど言った、その──セリスティーナとか、言う奴が、本当の自分ではないと、言っているのだ」と言った セリスティナはその言葉を受けて「あの──セリスティナって言うのが──私なんですよ」

その言葉に セリスティナがセリスに詰め寄り「どうして──どうしてあなたが、ここにいるの!この姿は? 」

セリスティナの問いに対し、少し考えた様子をみせたあと

「だって、あなたが。その。その姿で、私の前に現れるから。だから私は、あなたが私だと信じたくて」セリスティナが泣きながら そんなことをセリスティナに話すのを聞いて俺は「おいセリス。セリスティは、お前のことを信じたかったから姿を変えていたんじゃないか? その気持ちは分かってやってもいいだろ? 」と 俺の言葉を聞いたセリスが 涙を浮かべながらも俺のことを見上げ

「そうですよね。やっぱり。私が──間違っていたんでしょうかね」

セリスティナは 悲しげな目を見せ「だって、私がセリスなのよ」そんなことを言う 俺は「それはいいが、その、俺はあんたが偽物だとかそんなことは思っていない。その前に、あんたらが何者か。それをはっきりさせた方がいいんじゃねぇか?」

セリスティナとセリスにそう問いかけると「私はセリス。セリスティナ。あなたと一緒に戦っていた仲間」セリスティナはそう口にした セリスティナに視線を向けていたクレアは、俺に視線を戻すと「ふむ。私も気になってはいたが。セリスティナの言っていることは事実だと思うぞ。

私達と共に、戦ったセリスティーナと瓜二つであるからな。ただ。一つだけ聞きたいのだが、そのセリスティーナとセリスが同一人物かどうか。私にも判断できない。セリスティーナ。その。セリスティナが二人存在するという、その証拠を見せてもらえるかな」クレア様が、そう言うと セリスティナは少し考え込む仕草をした「それは難しいかも。だって、私のいた場所にはセバスがいなかったもの。

私が、魔王と戦わなければ、セバスティは、まだいたはずだもの」そう答え 俺はそんなセリスティナの姿を見て「おいセリスティナ。あんたは勇者ってやつなんだな? でだ。セバスはあんたん所にはいない。それで、魔王を倒すためには。俺達の力が必要だと言うことだな」

俺はそんな言葉をセリスティナに投げかける セリスティナはそんな俺を真っ直ぐに見つめ「お願いします」と言ってきたのだが 俺に「俺からも頼みがある」と言ってセリスを見据え「俺は、魔王なんてもんはどうでも良い。魔王を倒してくれるんならな。だけどな。俺はセリスを助けたいと思ってここまで来ているんだ。

頼むよ。俺と一緒に旅をしてくれないか?俺はあんたの力を借りればもっと強くなる。それに、ベルゼルギの剣もある。あいつの能力はすげぇぜ」と そんなことを話した そんな話を俺達がしていた時。先ほどまで部屋の中に居なかった。セバスティスと呼ばれていた人物が姿を現して、その会話に入ってくると

「魔王を倒した後に。私は魔王軍の手に囚われてしまうのです。だから──私を助けてください」

俺が「お前。魔王の手下に捕らえられてるって、どういうことなんだ? 」とセリスティナに聞くと

「それは──その。私は魔王軍の手によって捕まり、魔王城の牢に閉じ込めらてしまったんです。

ですが。勇者が魔王に勝ってくれれば──」

セリスティナがそこまで喋ったところで、俺達の方に走ってくる気配を感じると、俺はそちらの方向に顔を向けると そこに立っていたのは──「セリスティナ!!無事だったのですね!!」セリスティナとセリスティナに向かって走って行った。

「ちょっと待ちな」

俺はその女性を手で制止する すると「あら、貴方が──セリスティナが言っていた──勇者?」と尋ねてきたので「俺はレオン。そこの、もう一人の方と同じ世界から来た人間さ」と答えた それを聞いて セリスティナの方をじっと見つめるセリス セリスティナはセリスを見つめ「セラスティナ。私だよ。私が──私」そう言って涙を流していた セリスが セリスティナの頬に両手を当てる「良かった──本当に、あなたは、生きていたのね」

そんな二人の姿を俺は見ていたのだが。どうしたものかと考えながら

「えっとだな───まず最初に聞いておくんだが───なんで。そんな格好してるわけ?」セリスティナに尋ねると セリスティナがこちらを向く

「この服ですか? この服は、セリスティナに作って貰ったものですが──何か問題がありましたでしょうか」そう言うとセリスティナは「そういえばセリスティーナは──その服を着ている人を知っていると言っていたけれど───もしかして。知り合いの方だったりしませんか? それとも、私が──その、別人と勘違いをしていませんよね」と不安気に俺達に尋ねてくる その問いに対してクレア様は「私は────正直にいうと。その───分からないんだ。だがな。そいつが言うように。

確かに。私が知るセリスティーナと瓜二つの容姿。そして、その、装備や髪型までも一緒なんだ」クレアがそういうと 俺の方を向いてセリスは 微笑み「やはり。あなたがあの人の言った通りの方なんですね。私と同じ姿に、その声。私達は──双子──みたいなものかもしれません」

セリスティナは「セリスティナさんは、あの人と同じような──その口調。でも──その──あなたは私と違う──はず──です───よね」と言葉を選びながら喋っていたが「でも。セリスティナが、私に話しかけてくれているのは嬉しい」と言いながら セリスティが、セリスを抱きしめたのを見たセリスはセリスティナの頭を撫でると セリスティナは嬉しそうな顔をしながら 俺のそばに寄ってきて「セリスティーナが。この姿でいて欲しいと言うから、このままにしておこうと思うんだけど」

俺はその二人の姿を見て「そうだな」と答える 俺が二人と話している間にセバスティスと呼ばれていた女性が

「あぁ──もう我慢できない!」と言って俺の方を見て「セリス。その──」

俺はそんな女性の手を掴んで

「セリスティナが。困っているだろう。あんたは、一体誰なんだよ」そう言うと

「セリス。セリスティーナの妹よ。その──あなたには申し訳ないことをしました。私が。もう少し早く、セリスの元に駆け付けていたら。こんなことには───でもね───今は後悔よりも感謝をしているのよ。セリスを。助けに来てくれて──ありがとうございます」とそう言って頭を下げた。俺はそんなセリスティーナをジッと見ると「お前は、その。魔王軍の関係者なのか?」

その俺の質問を聞いたセリスティは、俺の目をまっすぐ見据え「ええ。そうよ。私は、その、元、勇者──」その瞬間 ズキッ 頭に激しい痛みが走ると、その場に膝をつき クレアは、俺の様子を窺うようにして「どうしたのだ? 」と俺の身体を支えてくれたのだが「大丈夫だ。それよりも、その──今の話。詳しく聞かせて貰えないか」と俺がクレア様にそう言うと

「そう、だな。今の話が、真実であるかどうかまでは私も分からん。

ただ、私はセリスティナの話を信じるつもりだ。それと、レオン殿。

先ほどの頭痛の症状は、魔王と戦えば戦う程に酷くなると聞いた。あまり無理はしないほうがいい。

セリスティナは魔王と戦う事に関しては反対はしないらしいが、君の場合は────いや、やめておこうか」と言葉を途中で止めた セリスティナの話を聞いたあと、俺はセリスティーナが着せられていた衣装とよく似た物を創造してみた

「ほぉー! これは素晴らしいな。これをセリスティナにあげよう」俺は、セリスに似合うだろうと創造した、真っ赤なローブをセリスに渡そうとすると セリスティナは俺の差し出した服を受け取り

「凄い。これがセリスティナの衣装と同じ効果を持つ防具──それに、その。デザインも私達好みで──」とセリスティナに、気に入ってもらえたようで 俺は「よし。セリスティナ。俺とパーティを組んで欲しいんだが」俺がセリスティナにそう提案すると セリスティは「はい、もちろん。そのつもりでしたから。これからよろしくお願いします」と言ってきたので「俺のことはレオンと呼んでくれると嬉しいかな」

俺は、この世界で名前を名乗った時に、皆に名字を教えていたので 俺がそう伝えると

「じゃあ。私もレオンって呼ぶことにするわ」と 俺の提案に乗ってくれたのだが、俺とセリスティナが、話している最中。俺の背中にしがみつく形でくっついている

「セリスティーナ。そんなことをしていては。レオン様が、迷惑するのではないのかい」セバスティスに言われたセリスティナが「そんなことはないです」とだけ言う

「私は。レオンと一緒にいたいし──それに──私は、その、やっぱり、寂しい──し」

俺はそんなセリスの言葉を聞くと「なぁ。お前。セリスティ───」俺はセリスティナの本名を呼ぶと

「何ですか? その、変な発音の名前は」

セリスティナが首を傾げながら聞いてきたので「俺の世界でさ。あんたの格好って、なんか、コスプレとか、そういった類のもんに似ていてさ。俺達の世界の言葉で、セリスティナの名前の発音だと。ちょっとおかしいんだ」と説明をした それを聞いてセリスは少し考え込むような素振りを見せた後

「それって───」とそこまで喋ったところでセバスティスが「それでは、この服装。この呼び方で良いですか?」そう尋ねてきたので「まぁ、俺の世界での呼び方だしな。それが違和感がなければ」

そう答えたのだが セリスティナの格好がセリスティナに似合いすぎるくらい、セリスティナにぴったりで俺は

「いんじゃね? その服装でさ」と答えた。俺の意見を聞いたセリスティナは「分かりました。その──セリスで構いません」

「ああ。分かった。セリス」

セリスティナのことをセリスと呼んだ時。俺は自分の世界に帰れないことを悟ったのだった。

魔王城に俺達がたどり着いた時には既に。王都の街が魔物によって壊滅していたのを、俺とセリスが目にすると 俺とセリスは互いに見合わせて「酷いな」

「はい」

俺は、そんな言葉しか思いつかなかったが セリスの口からはそれ以上の言葉は出てこず。俺が見たその景色の惨状を見て 俺達の目の前に現れた存在──九尾と呼ばれる化け物が その圧倒的なまでの存在感を持ってそこにいるだけで 恐怖が身体を支配する。その光景を見た俺達は その強大な魔力を前に。俺はただ震えていた。

俺はそんな化け物と、この場で戦ったら負けることは間違いなかっただろう だが、セリスなら──勝てるのではないかとそう思ってしまったのと同時に この場を何とかできるのも──セリスしかいないのではないか? とも思った俺は、セリスが持っている神器の力を使おうとしたが、セリスが俺の服を引っ張る仕草を見せ 俺を庇うかのように前に出て その、俺に目線を送ると「任せて下さい」と言って その化け物に対峙するように立ったセリスが俺の前に立ちはだかると

「その、お二方は、下がっていてください」

俺は、「いや、俺も戦おう。その──あいつは、強いと思う。セリスの力を貸して欲しいんだが」とそう言った。

だが、その言葉を受けてセリスは、ゆっくりと振り返りながら

「私は──」と呟き「あなた達にだけは───傷一つ負わせたくないんです」そう言いながら、セリスは九尾の方に向き直り、刀を構えると「私が。終わらせて見せます」そう言って その手に持った、白い光を放つ剣を手に持つと「来い──白夜!!」そう叫びながら、セリスはその身に宿した魔力を使って──その魔法を使う。

俺はそんなセリスを見て「なんだ、それは?」俺は思わずそんな言葉が出てしまったが その俺が放った一言に対して セリスは何も答えてはくれなかった。

セリスが使う魔法の名を知っているのか知らないのかは不明だったが、俺にはなんとなく察する事ができた。恐らくは『天界招来』かそれに類する能力だと思われたのだが────。

「はぁぁぁ!!!!」セリスが気合を入れると共に。セリスの持つ武器の放つ輝きが増したように見えたが、それと同時に、セリスの姿が霞むほどの速度で移動し、次の瞬間には、俺が認識できない程の速度と動きをもってして──。

セリスの攻撃が──いや、もはやあれは攻撃ですら無く。

一方的な蹂躙と言った方が近いのかもしれないが──その圧倒的な力の差を見せつけるようにして セリスが一瞬にして、セリスに向かって襲ってきた化け物の攻撃を受け流す。

そんな事が可能だなんて──セリスの強さに、驚愕した俺の視界に入ってきたものは、セリスに守られている俺を、安心させるように笑顔を向けるセリスの顔だった 俺は、そんなセリスを頼もしいなと思いながらも、心の底からセリスが無事でいてくれて良かったと思っていたのだが、俺がそう思う反面、その光景を目の当たりにしている、ベルゼルギブリブと、セリスティは違う印象を受けたようで、二人はセリスを、化け物を見るような目つきで見ているのだが──俺もセリスの事を良く知らなければ同じ反応をしていたのだろうなと思った。

俺の知る限りセリスという少女は、どこか抜けていて、天然な所があり、たまに暴走するような性格をしているのだが 普段は俺の言うことは比較的よく聞くし、真面目に話も聞いてくれるので、悪い奴ではないし。むしろ、良い娘だと思うんだが セリスと出会って間もない頃は、俺はそんなに気にならなかったんだが、最近。俺の周りの人間が皆。俺の事を見下したような視線を投げかけてくるのは どういった訳か、分からないが 多分。あの二人が俺に対する敵意のせいだと俺は思っている 俺に危害を加えようとする輩がいないわけでは無い。特にこの世界は──日本に比べて治安が悪いのだ。

そんな俺の心配はともかく。今は────セリスの方を心配しないと──そう思ってセリスの様子を窺ったのだが セリスの身体が──徐々に消え始めていた。

「おい!! どうなってんだよ!? これは! 」俺は焦った表情を浮かべながら。

その状況がどういう意味なのかを尋ねたのだが──。

「ごめんなさい───私はもう───ここまでみたいです────レオン──後はお願いします──」

俺はそんなセリスの悲痛な声を聞き。その言葉に衝撃を受けつつも「何を言っているんだ? まだ終わっていないじゃないか? セリス?」俺は必死に叫ぶが セリスのその体は、光の粒子となり、消えようとしていた 俺は、その様子を見ていられなくなり、自分の目を塞いだのだが、それでも

「大丈夫ですよ──私は──ずっと。見守っていますから」

そうセリスに言われ、その優しい笑みを見せるセリスを目に焼き付ける。俺の目には、涙で溢れていた。

俺の大切なセリス。セリスを失うことになるのなら俺は───。俺は、自分が死んだとしても。俺は、その死を乗り越える事が出来ないような気がする──それほどまでに、俺はセリスのことが大好きなのだ。俺は、今にも零れそうな涙がこれ以上落ちないように 歯を食い縛りながら堪えるが──そんな事は無駄なことであり。俺の心は、絶望に飲み込まれそうになった。

そんな俺を励ますかのように

「私が死んだところで、レオンの人生まで終わる訳ではないですし──私はいつでも側に居ますよ。だから──」そんな俺の様子を見たセリスティナが「そんな顔しないで下さい。ね?レオン───」俺は、そのセリスティナの言葉を聞いて、その瞳を見て、何かが吹っ切れたかのような気分になる 俺の頬を流れ落ちるその水滴がセリスティナの手に触れた。その感触に気付いたセリスティナが、驚いたような顔をしながらも、すぐにその柔らかい手を俺の頬に触れて優しく撫でてくれた。そして「ほら──泣かないで下さい」そう言ったセリスの言葉を聞くことで、ようやく自分の置かれていた状況を思い出した俺は「ありがとうな。おかげで、少しは落ち着いた」俺はセリスティナに礼を言うと セリスティナは俺の言葉を聞くなり「ふふ、それは良かったです」そう言った後

「さぁ、レオン。見てあげて下さい。私の勇姿を──」俺はその言葉を耳にした後 俺は、セリスの最期の雄姿を見ようと、ゆっくりと瞼を開き 俺は、自分の目の前で起きていることを理解しようと、セリスの身体に起こった異変を調べた。俺がその身体を手で触れると───

「お前──何なんだよ。一体」俺はセリスが纏っていた、その白いオーラを身に着けると、まるでそのオーラが自分の一部のように馴染むことに驚いていた。その現象に驚きはしたものの、不思議と不安な気持ちは無かった。俺は、この力がなんであるのかを知っているようだった。俺はセリスと初めて会った時のことを思い出す。確かあれも同じような事がおきていたはず その時との違いと言えば 俺の意識がはっきりとしていたということ。

「俺は、俺達は────」

セリスティナもベルゼルガブリブリフもセリスの力を目の当たりにし、驚愕している中 その光景を見た俺だけが、この事態の真実を、この場にいた誰よりも正確に把握していたのかもしれない。

俺は、目の前にいる化け物を倒すことができる。このセリスから与えられたこの力で──そう思うと自然と俺の中に勇気と自信が生まれる 俺は「セリスのことは、任せろ──俺が守るから」そう言って俺は、セリスに目を向ける。その俺の目線を受けたセリスティナが「えっと、あなたが──レオン様、ですか? いえ──今はいいか──」

セリスティナはそう言って俺のことを見るが。その後 その視線を、俺の横に移動したセリスが向けられたものに注視する。

それはセリスティナにとってみれば、見知ったものなようで「そ、それは──」と言って震えるセリスを横目で確認すると「セリスティナ、こっちに来い───」と その男。いや────その男の形をした者。

俺達の世界で言うと、神という存在に近いであろう者が

「久しぶりだね──セリス。元気にしてたかい?」

俺はそんな奴を一目見ると、全身から冷や汗が止まらなかった。こいつはやばい。本能がそう告げていた。

その男の容姿は、一言で言えば人間。

その人間の男が着ている服の素材や、装飾品の豪華さや煌びやかな服装は 俺の乏しい知識では、その価値は判断できないが、俺から見てもかなりの物に見えるので。恐らくはそれなりに良い値のするものなんだろうとは予想できる だが その男はそんな豪華な格好とは似つかわしくない風貌をしている まず 見た目年齢で言えば、二十代前半。

整った綺麗な容姿をしているが それだけだ 特に目立つようなものはない。いや───。あえて言うなら、普通にカッコイイ部類に入るとは思うんだが。

その容姿が。ただの人にしか見えないんだ。俺はセリスの横に並び立ち そんなその人物を見ていたのだが 隣に立つセリスティナが 俺と同じように、その男を目にし 恐怖を抱いている様子だったので、その視線を遮るように前に出た俺は、その人物に向けて剣を構える。そんな行動をとった理由の一つとしては その男の視線はセリスの方に向いている。いや。正確にはセリスティナに向けていたんだが それなのに──その人物は、まるでセリスのことを興味の無いような眼差しを向けていたからだ。いや、どちらかと言うと俺に視線が注がれている気がしたので、そんな風に感じたというだけかもしれないのだが 俺が、そんな行動をしたのは──セリスを守りたかったという理由もあったんだけど。それ以上に強い理由は ──俺はあの化け物と戦う。そう決心したから。あの化け物を殺すと決めたのだ。俺は そんな化け物に対して。俺は、自分の持っている力を使っても敵わないということが分かっているからこそ。少しでも相手の情報を得る必要があったのだ。それに──その人物が俺達の味方だとは、言いきれない。むしろ敵対勢力だと考えるべきだろう。俺はまだ自分の身の危険があるというより、その相手が危険な相手かどうかも分からずに戦いを挑むような馬鹿な事はしない。だからこそ俺は、俺の知らない情報が欲しい

「君は──? 」そんな疑問が俺に生じた

「おぉ!! セリスに守られるだけの役立たずじゃなかったんだな? 君──。なかなか、どうして。中々に──やるようだ」俺に向かってそう言ってきた。俺はセリスをチラリと見た後で「まぁな。一応は、それなりの冒険者で通してはいるよ」と返事をした。

俺はその人物に敵意が無いと判断し 俺を襲ってくることはないと思い。その男を観察する。

その男が口を開く前に。その声色で分かる その声の主は──女性だということが しかも──かなり若い女の声である。

そんなその声の印象は。少し低めな声のせいなのか、妙に大人っぽく感じるが 声質が子供っぽい。

俺はそう思いながらも、警戒するのを忘れてはいない。この世界にはロリババアと呼ばれる者もいるが。俺はそういう人種は信用しないようにしている。俺の周りは、見た目通りの幼い言動を取る者はいないのだが。俺は──俺にはセリスティナのような存在がいる。

だから俺の中では、そういう種族なのだと受け入れてはいるが──しかし。それはともかく。この女に関しては本当によく分からないというのが本音だ。俺は──。俺の知る限り。目の前に現れた人物は、今まで出会った中でも上位に位置する程の実力者だと思っている。そんな人物が──何故。俺の前に姿を現すのか? その理由については いくつか考えられる可能性はあるが まず 目の前のこいつが。女神であるということだと仮定すればどうだろうか?そうなれば── 俺はセリスが「レオン」と言っていることから、その可能性があるのかもしれないと考えた。だが そうだとすれば、その目的は? セリスと何らかの関係があると考えるべきだ。もしくは、この異世界で俺に敵対する存在。その両方が考えられる 俺はどちらにせよ この状況は俺にとっては不利でしか無い 俺はその人物を凝視しながら考えていたが「お前──誰だよ?」俺が質問するよりも先にその言葉を口にする その人物の言葉を聞いた俺は「おい。あんた。今──俺の事。何て呼んだ?」その言葉を聞き 少し気になる単語があったので その部分について聞くことにした。

「ん? お前か──。ふーん。やっぱり──そうなんだな。私とセリスの記憶を共有しているわけじゃないのか──」

「記憶を共有って──。俺とセリスってどういう関係なんだよ」俺は目の前の人物が何の話をしているのか、それが理解できなかったので、思わず聞いてしまったが

「セリス──? セリスの知り合いか──」

俺は目の前の女性が口にした『セリス』という言葉に反応して。その名前が、俺の仲間の一人と同名なだけに、俺は反応してしまう。そして──その女性と目が合うと

「なるほど──そうだったな。お前。あのセリスの加護を受けて、その力を貰っているんだったな。それでセリスの記憶を持っている──」そこまで言ったところで セリスが その女の会話を止めようと言葉を発しようとした時

「いや、いいんだ。セリス──」

その言葉と共に、その女は手を上げると、まるで時間が止まったかのように動きがピタリと止まる。そんな様子を見ながら 俺は「一体、なんなんだ──こいつ」そう思って そんなことを言っている間に 俺が攻撃できるタイミングを見計らっていたのが功を成したか。その隙を突いて、その人物に飛び掛かる。その動作から放たれた、初撃。それはセリスが使っていた聖剣技の一つでもある──『一閃突き』俺はその剣技を放つ 狙いを定めていた俺は──剣先が触れようとした瞬間。突然、その剣筋が変化したことに疑問を持ち そのまま攻撃を外してしまい、体勢が崩れてしまう。そんな俺に対して、その人物は、一瞬にして俺の背後に回ると、背後から首元を軽く触っただけで。俺を地面に叩きつける 俺はその一撃を受け止めることが出来ずに吹き飛ばされ その勢いによって、俺は背中から木にぶつかり。衝撃で息がつまり動けなくなってしまう そんな状態になっている俺は──。俺を吹き飛ばした相手に目をやり 俺はその目を見た途端。その圧倒的な力の差を見せ付けられ 恐怖を抱くことになってしまう それはまるで蛇に睨まれた蛙のように。その威圧感に体が動かなかっただが

「レオン様!」そんな声が聞こえた俺は 俺の名を呼ぶ声で。セリスティナは その人物の行動で。何をされたのかを、理解し

「や、止めなさい! 貴方は、そんな事、しなくても、大丈夫なのですから」

その人物を必死に抑えようとしている。その行動は──セリスの優しさによるものなんだと思う。

そんな事をされているのに、その人物は一切抵抗していないように見える。そんな状況から察するに、セリスはこの人物を抑え込んでいるのではないという事が分かってくる。恐らくは、その行動を止めることが出来ないのだと思われる。その人物は──。その人物の形をした者 俺は、その人型の何かは、恐らく。

神 その可能性が高いのではないかと そんな考えが頭を過る。

そして その人型の存在。俺に話しかけてきた女性。そいつも神かもしれない 神という存在であるならば、俺はこいつに歯向かうことは出来ない。そんな俺の考えを裏付けるような出来事が、次々と起き始めたんだ まず、俺が攻撃を当てられない相手。その実力。これは既に明らかだと言えるのだが その相手は、あのベルゼルギですらも上回る程の力を持つ あの化け物だ そんな化け物が 俺に向かって「君に聞きたいことが山程ある。とりあえず君の名前を教えてくれないか? あと、あの子との関係とかも教えて欲しいんだ」なんて ふざけたセリフを吐きやがる そして──。セリスに名前を尋ねやがる。

その人物の名は──。アリスと言ったか。俺はその言葉を聞いて確信を持った。いや。違うな。その女はセリスの名前を呼んで、自分の名を答えたのだ。その行動を見て俺は思ったんだ。

その人型の存在がセリスに近しい者であると──

「俺の名前は、サトウ カツヤ。この国の王をやらせてもらっている」と、目の前のその女性はそう言って、自己紹介をする。

「──私はセシリア。セシリアですわよ。私の大切な友達なんですからねっ! それに、貴方と会うのは初めてではありませんのよ?」と、その女性にセリスが自分の名を名乗り、友人だと伝える。セリスティナの友人と名乗るこの女性のことは分からない。しかしセリスには、その女性に対しての特別な感情を抱いているように見えたので セリスティナの知人だとすれば──この目の前の女性の正体は そのセリスの加護を与えてくれた女神 セリスに好意を抱いている存在 女神であるセリスの寵愛を受ける人物 そんな可能性を考えた上で

「セリスティナと──セリスか。なるほど──そうか、あの子はそういう決断をしたのか」その人物は──そう言って。その人物は笑みを浮かべると 俺達がいる方向に振り向き、口を開く

「お前たちはここにいていいよ。私に任せておけば良いからさ。私が──君たちを救ってやるから。心配する必要はないよ。あの子の願いでもあるから」と、俺達の前から姿を消す 俺はセリスの知り合いであり、セリスの加護を受けているであろう、目の前の人物が消え去ったのを見ていたのだが それよりも重要な事があるのを思い出して、急いで確認する為に振り返り 俺達の後ろの方を見ると、その少女の頭上に表示されていいた名前に、『ルナリア』という名前が表示される

「お前は、本当に、本当に──なんなんだよ」俺は そう言い残して その場を去って行くのであった 俺がセリスに抱きつかれていた。その状況から解放されてから数分ほどして、セリスは落ち着きを取り戻したようで「えっと、申し訳ありません」と俺に向かって謝ってきた

「ああ。別にいいんだけどさ」俺はそう答えるものの 俺には この状況をどうしたらよいのか分からずにいた だってそうだろ? こんなにも美しい女に抱きしめられて、しかも胸を押し付けられているんだぜ? 普通ならもっと喜べば良いんだろうけど この世界に来てからの色々な事を考えちまって、そんな気分じゃないっていうか──そもそもこの状況で俺だけ盛り上がってしまうとか恥ずかしくて出来ないし。それに──。俺は、セリスが俺にくっ付いているのに何も感じてないように見えるこの女性が気になって仕方なかった そしてその人物が消えた方角を見ている この世界のどこかにいるかもしれない俺達の仲間に助けを求めているのではないか?と。俺は考えたわけで この場を離れるべきか、このまま居るべきなのか、それを悩んでいると セリスの方に目線を戻した俺の視線に気付いたセリスティナは「レオンさん。これから──。私達は、あの人の後を追いかけます。ですから レオンさん。しばらくの間、ここで待っていて下さい」と言い出した 俺はそんな言葉を聞いて

「あぁ。そうだな。それが良いんじゃないか」俺はセリスの言葉に対して。セリスにそう返したのだけど その瞬間 俺の首に何かの感触があった。そして 首元から、ひんやりと冷たくて、とても心地よく感じられる液体が 体全体に広がっていくような気がした。俺がそんな奇妙な感触に戸惑っていると、俺が座っていた場所に──。先ほどの女がいた。

その女は、まるで幽霊が突然現れたかのように俺の視界に入って来たのだ

「あれ? なんだろうな。今、一瞬だけ君の思考を読み取ったら、凄く面倒くさそうな奴だなって思ったんだよなー」

俺は、俺が思ってしまったこと。それは誰にも読まれないように考えていたのにも関わらず 目の前に現れた女性に見透かされたような感覚に襲われ、俺は焦って、どうにかならないものだろうかと考えてしまう そんな時に セリスが 俺の隣に立ち「私の親友なんですよ。あの方は」そう言うと

「セリスティナ──お前は。そいつと、仲がいいのか? というより、どういう関係性なんなんだ?」俺は思わずそう聞いちまった。俺はセリスに対して、少し踏み込み過ぎたかと思い。恐る恐る顔を見上げると そこには セリスが──泣いていた 俺はそんなセリスの涙に動揺してしまう 俺は、その涙を流したセリスに──

「悪い。セリス。今のは失言だった」俺は謝罪すると。その俺に対して

「いえ、その事は──大丈夫ですよ。ですが、ごめんなさい。私は。どうしても貴方に──お願いしたいことがあるのです」と その表情からは読み取ることができないのだが。何となく、悲し気に聞こえる声で──。俺に語りかけてくるのだ その様子は 俺は今まで生きてきて一度も目にしたことがなくて その悲しみに打ちひしがれるようにも見えてしまって 一体 この女の過去にどんな事があって、何故。ここまで落ち込んでいるんだ?という疑問が生まれる そのせいもあって 俺は、その言葉を聞いていたのだけれど。そんな俺の様子を見た、セリスティナは「その前に──レオン様、その、私の事を呼びにくいと思いますので、私のことはティナとお呼びください。様付けなどする必要は御座いませんよ」と 俺に向かってそんなことを言ってくる。

正直に言うが 俺にとってその言葉は──願ったり叶ったりの提案なので 俺は、そんな提案を受け入れようとは思っていたんだ。だけど その申し出を受けると──この目の前の女性に借りを作ることになってしまう それが何故か、とてつもなく嫌だと感じるのだ。そんなことを考えている俺に対して、俺の思考を読んでしまったであろう、その女性は俺に向かって

「そんな考えをしていてくれるとは思ってなかったなー。嬉しいね。じゃあねー君には、特別に貸し一つとしておいてあげようじゃないか」と そんなことを言うのであった その発言は──俺が何を考えているのか、完全に把握しているかのようなもので。俺は背筋がゾクッとしてしまったのを感じた 目の前にいるこの女。こいつは一体──。何者なんだろう? そんな思いが頭の中を埋め尽くしていく そんな状況の中 俺とティナとのやり取りを終えたセリスが 再び俺の前に出てくると「それでですね。私の頼み事をきいていただきたいのですが」と 真剣な眼差しでそう言ってきた そのセリスティナの瞳に、俺は見つめられている そのセリスの瞳を見て俺は──

「わかった。聞くよ。だから、何でもいってくれ」俺はそう口にする 俺は その言葉を口にした後からずっと、後悔をすることになった ──だってよぉ 俺に、俺なんかに、いったいどうして 俺なんかを頼ってきたんだって思うくらい そのセリスティナって女の子の目の奥には強い意志を感じられてさ──まあ 俺の気のせいで、ただ単に俺の事を馬鹿にしてるだけって可能性も無きにしにも非ず だがしかし、目の前にいるこの子は間違いなく美人だ。それもかなりの美少女と言ってもいい容姿をしてるわけでさ しかも俺のことを『レオン』と呼ぶんだよ 俺の名前なんて この世界ではほとんど知られて無いはずなんだけどさ そんな俺を目の前にしているセリスティーナっていう美少女は──その綺麗な青い目を俺に向けてくると「私の話を──」と。

そう言いながら俺に向かって一歩を踏み出すセリスティナに俺は つい後ずさってしまう。そのセリスティナの行動に俺は驚きながらも 彼女の目を見続けていた。セリスティナは続けて俺に「聞いてほしい事があります」と言うと。彼女は──「私の、お姉ちゃん。

私のたった一人の妹である、私の大切な友達を、探してほしいんです」と、俺にそう頼んできたのだった

「セリス。あんた。私の前ではいつもと変わらないけど── でもね。私は分かってるよ。あんたが本当は辛いんだろ?」

「お姉ちゃん──」セリスティナはその女性を見てそう呼ぶ 俺は、先ほど俺達の前に現れた女性。アリスさんの姉を名乗るその人について、詳しく聞きたかった。

だけどセリスに、お姉ちゃんと呼ばれているこの人は俺に対して

「お前さ、さっきから私の事見てるみたいだけどさ、どうするつもりなの? まさか、セリスティナが泣いているのも──お前の所為とか、そんなくだらないことで、責任を取ろうとか考えてたりしないよね?」と、俺の心を読んだかのように そう告げてきた。俺はその言葉で、自分の考えが完全に読まれていることを理解した。その女性は

「お前のそういうところ。本当に面倒くさい。セリスティナが困ってるのはお前のその性分が災いしてるだけだからな? そこだけは理解してやれ。じゃないとお前──死ぬぞ? それくらい私だってわかんだからさ」と言い放つ 俺はその女性の言ってることがいまいち理解できていないまま そんな言葉を聞き流すことにして とりあえず──俺に対して文句を言うだけ言って 満足したらしいこの女性が、俺達に用事が無くなって去っていくならそれでも構わないか。と思っていたのだが セリスの方へ視線を向けると、どうも まだその女性と話し足りないらしいセリスの姿が見えるので、仕方ないので俺はその女性に声を掛けてみることにした

☆魔法創造発動可能 【神獣】使用中につき制限解除──完全鑑定能力付与:対象指定により、指定した生物に対しステータス表示を行う事が出来る ◆詳細◆ この世界の全ての生物のステータスを見れるようになり スキルに関しても 全て見ることが出来る さらに 自分以外の生き物に対して使う場合に限り レベル及びHP、MP等の体力値と、各種属性攻撃、状態異常耐性値を見ることが出来るようになる そしてその人物の能力の総合評価を表示することが可能になる

「おい。俺はあんたに聞きたいことがある」俺はそう口にする

「ああ、そうか。セリスティナに聞いたよ。私に会いたいとかいう奴なんだっけ?」

その女性は俺に向かってそんなことを言う

「そうじゃない!俺が聞きたいことは 俺の──目の前の女のことだ!」

「ん?あー 私? 私はねぇ 一応この子達の姉のクレアって言うんだ」と その女は自分の名を告げてくる 俺はそのクレアって名前に──少し違和感を覚えた 確か、前に俺が見た資料の中で そんな名前の奴がいた気がするが そんなことを思っていると

「その、なんだ。お前さぁ、何時まで私のことそんな目で見ているんだよ? その目はあれか? そんな目で見られるのに慣れていない、か弱い女だと思って、私が怯えているんじゃないかって疑ってるのか?」

俺はその女の鋭い観察力によって心を見透かされてしまっているようで その言葉に 俺は何も返すことが出来なくなってしまった 俺は、目の前の女性の言葉を 否定できなかったのだ その俺の反応に そのクレアと名乗るその女性は、大きく息を吐き出すと 俺に対して「お前はさ──私に勝てるか? この場で殺し合いをしてもいい。その上で、私はこの場にいた誰よりも、きっと圧倒的に強く、強いよ。──お前じゃ相手にすらならないと思うよ」と、そんなことを口にしてくる 俺はそんな言葉を──。その女性の言葉を、完全には信じてはいないが しかし──その女性は、その瞳に、嘘偽りない感情を映し出しているように見えた。俺にはこの女性が何を思ってそのようなことを言ったのかわからないのだが。しかし、何故か俺は そんな彼女を信じても良いのではないか?という気になってしまっていた。俺には彼女が ──とても悲しい表情を浮かべているように感じられたからだ 俺は目の前に立つ美女。そう、この世界に来てからずっと、俺のことを知っているという不思議な感覚を与えてくる女性──クレア。その人を眺めつつ、俺はそんなことを思っていた。すると その女性は俺の事を上から下まで見ると、何かを納得するように一度深く首を振ると、セリスの方へ顔を向け。

「セリスティナ。こいつはもう、大丈夫だよ。だから安心して帰りな。こいつを──お前に会わせようと思ったのは、私の勘違いだったみたいだしね」と。そのクレアは、まるで子供を諭す母親のような態度で、セリスに語り掛けていた。

俺としては、目の前の女性が俺に、一体何を言っているのかさっぱり分からないのだけれど しかしセリスティナの方は そのクレアの言葉を、特に疑問に思ったりすることもなく、素直に受け入れてしまう そして そのまま帰ろうとすると セリスティナはその去り際に「ありがとうございました」という言葉を残していくのである。そんなセリスティナに「またねー」と、気軽に声をかけるクレア。その光景は 俺には到底理解できるようなものではなかった そんな俺の様子を気にしたのだろう。その女性は俺の顔を見るなり

「さっきの話は──まあいいか。とにかくさ。あんた。そのセリスティナに頼まれたこと、やってあげな。私からも頼む。あんたなら、多分。セリスティナの望みが叶うからさ。それに──あいつも喜ぶよ。セリスティナがさ、あんな嬉しそうな顔でお願い事をすることなんて滅多に無いしね。だからあんたはセリスティナのために──あいつを喜ばせるために。あんたに頼みごとがあるんだよ。あの子の笑顔を守るために。その為にも、あいつを探しだしてくれ。これは──頼み事じゃないよ。約束だから。必ず見つけだしてくれるよね。──私との取引、忘れたとは言わせないよ?」そう口にした。

「え、いや、だから──。あんた、セリスティナのお姉さんだっていってたよな?」俺は戸惑いながらそう聞く

「そうだよ」と その女性は何事もないように そう返事をする 俺は──そのセリスティナの関係者であるその女性の言葉を。セリスティナを、その妹であるセリスを助けようとしているその女性の事を 俺はどうしても信じることが出来ない。なぜなら俺は──セリスティナのことを何も知らないから 俺は、俺がこの世界に来る前の。俺の知り合いであり、親友であったセリスティナがどんな人間なのかを知らない。

俺の知っているセリスティナは、セリスティナであってセリスティナではない。そのことは理解している。だけど──俺は、セリスがセリスティナであるのならば、それは、やっぱり俺の大切な友達なんだと思えるのだ。

だからこそ──。今のセリスが 俺の知っていたセリスティナとは違うとしても、それでもやはり 俺はセリスのことを考えると── 俺の知るセリスを──。助けたくなる 俺の考えは、俺自身でさえ馬鹿げたものなのかもしれない。

俺のやろうとしていることなど 他人からすれば、単なる独り善がりの妄想に囚われ、それを妄信し行動に移す──狂人にしか見えないのかもしれない。

そんなことを思いながら俺はセリスを見つめるのだが

「お前さ。本当に面倒くさい男だよね。でも──うん。分かった。私が何とかするよ。──その代わり、一つ貸しにしてやるよ」と言って 彼女はそう宣言してきたのだった。

そして──その後、俺は、セリスの願い。そして俺が叶えられるその少女の依頼をこなすべく、旅立ったのである。

☆ 俺は森を歩いていた。俺は──その女から渡された紙を見て 目的地を確認すると

「それって───どこなんだ?」と 俺はそうつぶやく その紙に記されていたのは ──ある遺跡の場所 その文字だけだった 俺はその場所について、詳しく知らなければ地図もない状態で ただただ、目的の遺跡へと歩みを進めていた しかし、当然、そんな無謀なことを続けていれば すぐに体力の限界が訪れることになる訳だが、その限界を迎えた時点で俺の足は完全に動かなくなってしまう 俺は仕方なくその場に留まり、しばらく休むことにした それから暫く休憩した後 改めて目的地へ向けて出発することになったのであるが その途中で、道の傍で倒れている男性を発見したのだ 俺は──とりあえず、その男の人に近づき、生きているかを確認したのだが しかし反応はない。どうも 死んでしまったようである その男性の装備などから、恐らく傭兵と思われるのだが、なぜこんなところで倒れていたのか、俺には皆目見当もつかないのだが、とりあえず、このままここに放置しておくのも気が引ける とりあえず 近くに落ちていた、その倒れていた男性の腕輪のようなものを手に取り 俺がその倒れたままの男に声を掛ける

「おーい!大丈夫ですかー!?聞こえてますかー?」

「──っ! ──っ!」

男は、苦しげに息をしながら必死に声を出そうとしているが しかし、俺の耳には上手く届いてこない そこで 俺は──魔法創造発動 【神獣】

使用中のため制限解除──完全回復:対象指定により、指定した生物に対し状態異常及び怪我の治療を行う事が出来る ──詳細表示

「あぁ、これで聞こえるかな?一応──」と俺は言ってから

「今の状態じゃ話辛いだろうし、楽になったところで話を聞かせてくれ」と そう告げて その男性が落ち着いたことを確認し、状況を聞くことになったのだが──その男性は 俺が、先ほどまで何をしていたのかと尋ねると、一瞬、驚いた表情を見せるのだが、何かを考え込み 俺に向かって「──実は、俺の所属しているギルドから、依頼を受けたんですよ。内容は、ある魔物の調査。ですけど──。その調査中に俺の仲間達と、はぐれてしまって、それから───」と、その時の事を思い出してしまったのか 男が泣き始めてしまう。俺は その男の背をさすりながら、少し待つと やがて落ち着きを取り戻したようだ

「──それで──」と俺は、その男性に対して話しかけたのであったが すると 突然、後ろから何者かに襲われ、気絶させられた。

そして目が覚めると 手足が鎖で繋がれ、拘束されていたのだった

「なんだこりゃ──?」と 俺がそう口にしている間に

「よぉ。ようやく起きたかい」とその人物は現れた その女は俺が今まで出会ってきた誰よりも美しい女であり しかしその美しさの中には、確かに妖艶な部分も存在していて、俺はその女性を、一目見ただけで心を奪われてしまいそうになるその女性は── この世の全ての穢れから切り離されたような純白の髪 この世には存在していないのではないかと思わせる程に整った、美しすぎる容姿。その白い肌からは 俺の目から見ても分かるくらいの神々しさを感じることが出来るのである 俺はそんな彼女に、つい魅入ってしまうのだが、そんな俺の様子など意に介さないように。その彼女は「さっきはすまなかったね。私はあの時、あんたを殺す気はなかったんだよ。だけどあんたがあまりにも強すぎたから──ね。仕方がないよね?それに──私を、あの男と勘違いさせるわけにはいかないのよ。ま、そういうことだから──さて、あんたは私達に付いてきてもらうわよ。その、とある場所にね」と。意味深な言葉を並べると、俺に近づいてくる。

俺はその言葉を聞いて、「お前は──」と、目の前の女性に、そう問いかけたのだったが しかしその瞬間 背後から気配を感じ振り返るとそこには──先ほどの倒れていたはずの男性がいた。

そして 俺の目の前にいる女性に視線を向けると その女性が

「あ、やっと目覚めたんだ」と言って、その女性に近づく そしてその女性は

「こっちの用事はもう済ませたから。あとは任せるよ。じゃ、頑張りなさい」そう口にすると 目の前から消えたのである そして俺は その女性に連れ去られるように、謎の建物に連れられ そこで俺を捕らえた連中の長らしき女性と引き合わされることになった 俺は、自分の身に、一体これからどんなことが降りかかって来るのだろうかと考え、そして 俺はそんなことを考えてしまう自分を自嘲しながら、そんなことを頭の中で考えている自分がおかしくなって、俺は笑う だが、そんな俺を、誰も理解してくれる者はいない そもそも 俺の言葉を聞き届けてくれる者が、俺の味方になってくれる者が、果たして存在するのであろうか もしそんな奴がいるとしたら、俺は──その者に期待すると同時に ──俺の希望となって欲しい。俺がそう願うのも きっと 酷なことなのかもしれないけれど 俺の心は──壊れている そんなことは 理解しているつもりだ それでも それでもだ それでも俺は、誰かの助けを求めているのだ ──いや 違う。俺は、ただ単に寂しいだけなのだ。一人が嫌なだけ 孤独に耐えきれないだけの ただの餓鬼なんだ。そんなことを思うが しかしそんなことを考えていても何も始まらないので、とにかく 現状の確認である 俺は──その、俺にこの世界に来た理由と方法を教えてくれた人物から もらった情報によると──どうやら俺は捕まっているらしい。しかも手足は手錠によって しっかりと固定されていて身動きが取れない。

俺はまず その、俺の事を拘束した張本人

「あーっと──えーと──。俺のことを知っているみたいだけど、俺は貴方の名前をまだ知らないから。だから──とりあえず教えてくれるか?」

そう、俺に問いかけてくるのだが

「あー、俺は、シンって名前だけど──。君の名前はなんていうの?」

俺が質問しているというのにも関わらず。なぜか相手は自己紹介を始めようとしない

「俺は、シン──。シン=ウォーカー。」俺が 相手の男を警戒するように、自分からも名前を明かすと。俺のその様子を見た上で、その男は自分の口を開く

「俺の名は──。そうだな。ライと呼んでくれ。」男は、どこか遠い所を見ながら、そんなことを言う 俺は そんな男の態度を見て──なんとなくではあるが、目の前の男。つまり──この男も──なのかもしれないな。などと思いながらも、とりあえず話を続けることにする。

「それじゃあ、改めて。ライさん、俺は──どうして──ここにいるのか分からない。ここは何処なのかさえ、俺には分からない。だから──。出来ればここが、俺の住んでいた国ではないということ以外──、詳しい説明をしてもらえると助かる」俺は──出来る限り、丁寧語を使う。というのも、相手が敵かどうか、判断できなかったからだ。俺はそのことも含めて確認をする為に、そう問いただしたのであった。すると「そうか──。では──どこから話したものかな──」と。そう言いながらライと名乗った男は考えるような素振りを見せると その後すぐに、その男は

「よし、決めたぞ」と言うと続けてこう言う

『いいか。一度しか言わないからよく聞いておけ』

「──ッ!?」俺は思わず驚いてしまう

「──あ、あぁ、分かった」

俺は その、ライの声の変貌に驚きつつも なんとかその言葉に対して返答をしたのであるが──しかし──これは──どういうことなんだ?俺はその、先ほどまで俺と会話をしていた声とは似ても似つかない声質 それはまるで別人のような声だったのだ しかし、しかし──俺はこの声に聞き覚えがある気がしていた それも──とても大切な人の声だと だが それが誰だったのか、俺はどうしても思い出すことが出来ないでいた。いや──そもそも 今の俺には関係のない事 俺には 俺には── ──もう、何の価値もないのだから。

『俺は、今現在。この場所。その王都で、その王女の護衛任務を請け負っている。俺はそいつを連れて帰らなければいけなくて、だから──お前にはここで大人しくしていて貰おうと思ってな。俺の仕事が終わり次第解放されるだろうから。ま、それまでの間はゆっくりしてくれて構わないさ。なーに──心配しなくても。命は保障するさ』と 目の前にいた、俺の拘束をした男が 俺に話しかける

「あぁ、そうなんだ」俺は──その言葉に納得しつつ「でも──」

「ん?なんだ?」その俺の言葉に ライと名乗る男──いや、ライと名乗っていた女が俺の言葉を遮ってくる

「俺がその依頼を達成した時に、俺は自由の身になるんだよな。そして、その報酬でこの国から出る。──そう言ってたもんな」

俺は そう口にしてから「だったら俺もその仕事に協力する」そう告げたのであったが「悪いけどそれは無理だ。あんたには別の仕事をやってもらうことになっているからな。それに──。ま、俺としては、あんたのことは気に入っているから、出来ればこのまま、あんたには、そのままでいて欲しかったんだけど──な。ま、俺も暇じゃないんでね。仕方がない。諦めてくれ」と 俺の提案を一蹴してしまう。そして 俺は拘束されている為動くことはできないのだが

「なぁ。少しだけ話をしてもいいか」俺は──俺にその拘束具を取り付けてきた目の前の女に問いかけると

「あ?何の話だ?」そう返してくるのである そんなライの様子を見ていると本当に先程 ライとして、言葉を発していた女と同一人物であったのだろうか。と思うくらいに 口調も、性格も変化していることに気付かされたのだが、しかし今はそのことを口にすることをやめることにした それよりも まずはここから逃げることが先決だと思い、この拘束を解く手段はないのだろうかと考え どうにかその拘束から抜け出せないものだろうかと、必死に足掻くのだが──。全く動けない上に鎖も頑丈であり 破壊するのは恐らく不可能であろうと思われた それからしばらくの間拘束され続けていると「お、どうやら到着したようだな。んじゃ行くとするか──。あんたはとりあえずその状態で、俺の後ろについてきてくれりゃそれでいいからよ。あとはこのライ様に任せときゃ大丈夫だからよ。」そんな風に、相変わらず、俺のことを子供のように扱うように言ってきたのだ。だが、俺はそんな男に対して反論をすることはなかった その男 ライに言われるままに 俺は移動を始める。俺は そのライが案内しようとしている場所に その先に何があるのか。それを考えると胸の奥に何か重い物がのしかかって来たかのように、俺は苦しくなるのを感じた 俺はその建物内を歩き始めるのだが──やはりこの建物が、どこかの城の中であるということは分かる。だが それがどこの国の建物であるかは俺には分からないのである そして──しばらくすると、俺は その、目的地に到着したのであろう 俺とライの前には重厚な扉が その存在を示していた

「──ここか?」俺は──目の前にいる男に聞く

「ああ、そのはずだ」

俺が問いかけるが男は そんな簡単な言葉で俺の言葉を受け流したのであるが──。

俺がそんな言葉に違和感を覚えつつも、とりあえずその男の言っていることを信用するしかないのであろうと思いつつ、その扉に手を掛けると 俺と男 二人 力を合わせ扉を開ける。その瞬間、今までに感じたことの無いような圧迫感が襲いかかってきて── その圧に──俺は一瞬怯みそうになるが、それでもその部屋の中に入ると、そこは ──薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていたのであった そしてその部屋は広かった 俺が今居る場所がどの位置にあるのか その場所を把握することは、俺にはまだ出来なかった 俺と男はその薄暗い部屋の中央に視線を向ける その中央は円形状にくり抜かれており、その奥は真っ暗になっていた だが 俺達がその暗闇の中に目を向けると そこには一人の少女がいた いや──正確には 俺よりも小さな少女であるといえよう だが──俺はその姿を見て 何故か 俺は、その 目の前にいる女の子が俺より年上なのだということを理解できたのである しかし──俺にはその少女にどのような言葉をかければいいのか、どう接すれば良いのかわからなかった なぜなら 俺が見たことのない──髪の色をしている 綺麗で、美しく、その 俺の語彙力が無ければ──。ただ単純に。

──綺麗だとしか言い表せなかったのだから──。

「えっと──」

俺は その、そのあまりにも衝撃的すぎる出来事に 俺は戸惑い、混乱を隠せずにいた ──俺は一体。今、何をしているのだろう。

目の前の少女を見て 俺はそう思う ──俺は──

「ねぇ」と、俺が考え事をしていると、突然 背後からそんな声が聞こえてくる。振り返れば先程の 俺が見惚れてしまった──その──美しい女性が立っていた

「私はミレアナと言います。よろしくお願いしますね」彼女はそう言うとにっこりと微笑む。それはまさに女神のようで、見ている者全てに幸福を与えるかのような、そのような笑みなのであった

「あの、ライさん。これって──どういうこと?」と、俺がその女性 いや ミレアナと名乗ったその人に、俺の疑問を投げかけると

「いやなに、あんたが今、その女から、質問を受けているんだろう?」と 俺の背中を押して 俺とミレアナを向かい合わせると「だから俺はこう答えるんだ。「こいつはお前をこれから俺が面倒みてやるから、感謝するといい」そう言えば後はお前が好きにして構わんぞ。」

「な、ちょ、ちょっと! なに言ってんだよ!」俺はそう言ってライを止めようとしたのだが、その時には既に、その女は何処かへ消え去ってしまったのである

「ふーん。そういう反応ですか。でも──私としては。正直なところ。今のあなたには好都合なのかもしれませんね。だって貴方、勇者で、この国の英雄なのですから」と、意味深なことを口にしながら笑う

「いや、なんの話だよ。っていうか その 英雄とかいう言葉の意味がわからないんだが。そもそも──あんた誰なんだよ。さっきの男とはどういう関係なんだ?」

俺は思わずそう問いただしてしまう そしてそれと同時に俺はこの女に恐怖のようなものを感じてしまっているのかもしれないと。心の中で思っていたのだ

「あら。その様子だと。何も知らないのですね。

あの方が説明してくれた通りで間違いないようです。

まぁ──それもそのはずですよね。あんなことが起きたんですから──ね」と言ってからその女性は少し悲しげな表情を浮かべる

「何があったんだ」と 俺がその事について問うと

「あの方。ライが。貴男を拘束したのは何故なのか。そして今の状況。それを今からご説明するのですが。その前に ひとつだけ。聞いても良いでしょうか?」

俺はそんな女に警戒しつつも とりあえずは話をすることにした その、女 ミレアナの話を聞いていくうちに俺は驚愕することになるのである。その話は信じられないものばかりであったが その話を聞くことによって、先ほどまでの不可解な現状を納得すると同時に なぜこのようなことになっているのか。俺は理解することができたのである しかし、そうなると今度は、目の前にいるこの女 ミレアナは いったいどのような存在であり、先程まで俺と話していた男ライという奴は何者であり、俺の拘束を行ったこの女の目的とは何か、そしてこの城の正体についても気になってくる 俺は色々と思考する

「──わかりました」俺の顔を見たからなのだろうか。

俺の心を読み取ったかのように「とりあえず、今は──お腹、空いてない?」

そう言って笑いながら俺の拘束を解くのだった 俺を縛っていた鎖を解くとその人物は立ち上がり俺に話しかける

『おい、もうすぐで夕飯だ。お前にも用意させるが── その前に、少し付き合ってくれ。』俺はそう言われてその男について行く。

俺達は廊下に出て歩き出すのだが、しばらく歩いていると、ある扉の前でその足を止める

「ここなら問題無いだろう」男は扉を開き、部屋の中に入る 俺も続けてその部屋に足を踏み入れる

「よう、待たせたかな?」と 男がそう言うと

「ううん。丁度いいタイミング」と 目の前にいる、金髪の少女にそう答えたのである。

俺は目の前にいる、その少女を見つめる するとその少女も俺のことを見て微笑み返してきた 俺がそんな少女の様子を見つめていると、隣にいる男が「紹介するよ。これがお前が今日 拘束した。その少女の名前だ」と そんな風に、その少女を紹介するのだが、俺が拘束されていたのは数時間程前の出来事であり、その数時間前には確かに俺がこの手で拘束していた。

そのはずだと言うのに 俺はその事実を受け入れることが出来ずに呆然としてしまったのだ そしてその少女──その人は俺が拘束していた時にも着ていたような ドレスを着ており、この部屋の装飾も相まってよりその美しさを引き立てているように見えた だが俺はそんなことを思うよりも早く ──俺の中に湧き上がってきた その感情は、怒りであった 俺は無意識のうちに拳を握りしめ、男に対して怒りを露わにしていたのであった

「──おい、いきなり何してん──」

だがその俺の怒りは男の言葉でかき消される

「はははっ、悪いな とりあえずそいつと話をさせてくれよ。こっちに来てくれるよな?」その少女に目を向けると 俺は その男の指示に従い、その部屋を出るとそのままその男の後について行った ──俺は男について行きながらもその男に対する敵意を抑えられずにいたのだが、そんな俺にその男は話しかけてくるのである

「お前は 本当にあの子のことを何も覚えていないのか?あいつが誰かも?」男は俺に問いかけてくる 俺が首を横に振ると、それを見て男は口を開く その少女の名前は サーヤという名前であるということ。

その容姿に見合う名前だということが、俺の感想であった。そして男はそんな俺の考えを読んだのだろう 俺に向かって一言告げる

「サーヤの本当の年齢は12才 見た目より 遥かに長い時間を生きている まぁ 簡単に言えば あの子は この国の王族の娘──。この国そのものなんだ。そして俺達の目的は 彼女の能力を使い、世界を変える その為に俺とあの男はここに来ていて あの子を──保護しようとした しかし そこにいるはずの彼女が居なくてな 探している途中で──あの事件が起きた。その事件がどんなものだったのか それは、君自身が一番理解していることなんじゃないかな」俺は男の言葉を聞いて思わず身構えるが 俺はその言葉が本当であるかどうかを確かめるために

「なぁ、アンタは あの女の子の能力を使って何をしようとしている?」

その男は少し困った顔をしてから「それは秘密だ。ただ、そのことについて詳しく話すことはできないんだが ──俺はな、あの子が欲しいと思っているんだ」その瞬間 その部屋の前に辿り着く ──俺は この先に待ち受けていることに不安を感じていたのである その部屋に入り俺が辺りを見渡せばそこには数人の男女が食事をしながら楽しげに話をしていたのである。しかし、その中には先程俺が気絶させたはずの少女が、その少女の隣には、ライと呼ばれたその人物が、食事をしており こちらを見てニヤリとしているのが見えたのである。そして俺はその男の目を見ると何故かその視線を外すことができなくなり 俺と、ライと名乗るその男との間に 静寂が包まれ、俺達は暫くの間 無言で見つめ合い 俺は 何かを感じ取ってしまったのである。そしてライと名乗ったその男が 口を開き始めるのであった

「まず最初に確認しておく。あの時──お前とサーヤを拘束した後 あの子と一緒に行動しているはずの奴らの姿を確認した。

そしたら案の定 誰もいなかった。あの時はあの子の気配しか感じなかった だから、お前をあの場所に拘束することだけに意識が向かった しかし、あの時のお前の反応があまりにもおかしいと思ったんだ。

だから、あの子がいないことを確認する為。お前を尋問しようかと思って、あの後お前を連れて行った そこで俺とサーヤと別れることになったのだけど ──その時 俺は見たんだ。サーヤが──お前に、自分の正体を明かそうとしたところを」

俺は 男の発言を聞き その真意について考えてみることにするが、正直に言えば全くと言っていいほど思い当たる節がなかったのであるが、俺はあの時の状況を思い出すことで一つの仮説を思いつき──口に出す。そして俺の話を聞いた男は、驚いたように声を上げたのだ

「やっぱりか───お前。サーヤを どうするつもりで連れてきた」

ライが俺に問い詰めるのだが 俺はライが俺の口から真実を言わせようとしているのだろうと判断し 嘘偽りなく答えることにした 俺の返事を聞いてライは再び黙り込んでしまうのだが しばらくしてライが俺の目をジッと見つめながら質問をぶつけてきた その質問というのは この国の仕組みについてのものであり、俺はそれに対して 質問されたこと以外の内容についても全て 答えると ライはしばらく考え込むような仕草を見せたかと思うと

「なるほどな。だいたいの事情についてはわかった。それでだ 今すぐにここから出るんだ 今ならまだ逃げられる 俺達に捕まるより ここで死んだほうが幸せだったかもしれないが それでも俺の言っていることはわかるよな?」俺はライに言われるままに扉から外に出ようとするのだが──俺が部屋から出て行こうとしたその直前。ライはその手を掴んで俺を拘束するのである

「お前は 何のためにこんなところに連れてこられたと思っているんだ? このまま大人しく帰れるわけがないだろう」

俺はその手を振り解こうとするのだが、ライの力が強く、振り解くことができずにいる。俺は仕方なくその男から逃げる方法を考えるのだが──やはり俺一人では逃げ出すことは出来ないだろうと思い諦めかける。

そんなとき俺は先ほどまでずっと沈黙を守っていたその男が突然 その言葉を告げたことに俺は驚愕したのだ それは──『黒き英雄』と、その仲間達が『魔の者』を打倒して『闇の大陸』を解放し、魔王を打ち倒し『光の勇者』と『聖女』は『闇の精霊王』を封印することに成功した。と、そう言ってこの城の連中や俺の親父にその事を報告し始めたのであった

「おいっ!──その話は今しなきゃダメなのかよ。それにその話は──」

だが俺がそんな風に言ってもその話を遮るような真似はせずに 俺は 俺が今から成そうと思っていたことを その男に向かって言い放つ

『この世界を救おうとか。そんな大層なことをする気はねえよ。

ただ── 目の前の敵をぶっ倒す そして俺は、強くなる それだけだよ。俺は俺がやりたいようにするだけだ』その俺の一言で俺達のやりとりを静かに見守っていたこの場にいた全員が その俺を 凝視するように見て────その視線が俺に向けられた途端 俺は鳥肌が立ってしまい──冷や汗が止まらない 俺が動けずに立ち尽くしていれば ライの俺を拘束する力が強まり──俺の体が軋み出す

「はっ はっ───はっ──」呼吸が苦しくなり、痛みによって俺は思わず悲鳴を上げる。そして俺は──そのあまりの痛みに、一瞬 気絶しそうになったが、どうにか持ちこたえようと踏ん張っていた。すると、その俺に話しかけてきた男が「君は──本当に強い子だね。そんなにもボロボロになってもなお 君はまだ戦うつもりなんだね。──僕も負けていられないな。さてと。この子にはもう少し痛い思いをしてもらわないといけないみたいだ」その発言に 俺も──「ふざけんじゃねぇぞ 俺の仲間を傷つけようってなら容赦はしない。お前らは俺の手で この世から 滅ぼす」俺はその男の事を睨みつけるようにして見据える。だがその男はそんな俺を見てニヤリと笑い── そして俺の視界が暗転し始める。俺はその男の魔法に なす術もなく意識を失うことになったのである。そしてそんな俺の様子をライという男はニヤニヤしながら見下ろしている 俺は その男の顔を見ながら 心の中で思った。

俺は──こいつらに復讐することを誓う 絶対にこいつらを許せない。だから、 まず俺はこの城を出て 強くなろう 俺はそう決意し 俺達はこの城を後にすることになるのだが、その途中で──俺のことを助けてくれた あの冒険者の女性が「私達と一緒に来ませんか? あなたには、もっと広い世界を知ってほしいんです。それに、あの人のことも探しているんですよ。あの人は 今は冒険者として世界を旅していますけど そのうち戻ってくるはずです そして もしあの人に会えたなら、私の大切な家族のことをお願いしたいと思っています。そして私は──貴方にこの国を 救ってほしいとも思っています。」その女性は俺にそう言った後、微笑むのである。

俺は その女性の笑顔に心を救われたような気がして「俺は──強くなります そしていつか、この国に俺がやってきた意味を知ることが出来る日が来た時に 俺は──この国の皆に伝えなければならないことが有ると思います」

その女性は優しく微笑んでから俺の手を取り「きっと出来ると思いますよ。貴女ならば──でも。焦らなくても良いのです 貴女の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いて行けば、いずれ辿り着くことが出来ますよ。そして、私が貴女を全力で支えます。約束します。」

それから数日が経過した

「なぁ、あんたはなんであの時──サーヤちゃんと一緒にいたんだ?」俺がそう尋ねると、その男は俺の方を向いて答えてくれる。その表情は真剣そのもので、その瞳は真っ直ぐ俺を見ていた。その眼差しからは──まるで何かを見定めようとしているかのような印象を俺は受けた。俺はその目を見てその男が嘘をついてはいないと確信した それから少し間が空いて その男から返ってきた言葉が その質問の答えとなるのだろうと思った。俺はその男の話を聞いて俺はこの国が抱え込んでいる闇に気づくことになる。その男は続けて「この国の姫の本当の年齢を教えてやる。サーヤ様が12才の時には既に、サーヤ様には この城にはいなかった」俺は 男の発している言葉の一つ一つを、注意深く聞き取ることに集中した。そして俺は、俺をここまで連れてきた男の言うことを鵜呑みにしていた訳ではないが それを聞いた俺の心の中では、色々な疑問が生じてくる。

そして その男の説明が終わり──男は話を終える。「俺は あんたが サーヤちゃんに危害を加える人間だとは思っていない。

だけど、 俺がこの国の王になる為には、どうしても あの子を──手に入れなければいけない その為に 俺はこの国を変える だから、俺はこれから、サーヤのところに向かわなくちゃならないんだ」俺の言葉に ライは驚いたような顔をしてから、ライは俺にこう言ってくる。

「どうして サーヤちゃんを狙うのか。それを教えてほしい」

俺はライの質問に対して「サーヤをあの子を手に入れないと 俺の願いが叶えられなくなるんだよ。俺の望みはサーヤを手に入れること。サーヤと二人で一緒にいる時間こそが 今の俺にとって 何よりも大切なものなんだよ。それが無ければ俺は 何も手に入らない──俺は 自分の気持ちを抑えきれずに──つい言ってしまった 自分の本当の思いを────俺は 俺は 俺の──夢の為に 俺は サーヤと 俺は 一緒に──居続けなければ なら ない──」俺は その言葉を紡ぎ終える前に意識を失い、地面に倒れ込んだ。だが その時俺は、自分が無意識の内に呟いていたことに気がつくことになる。その言葉を──俺がこの世界で手に入れたかったのは──この 世界にしかないような ──居場所であり ──仲間であり それはつまり───俺がずっと求めていたものは、サーヤとの幸せな時間だったという事に、今になって初めて 気がついた。

「うぉおおお──!!」そのライの叫び声とともに ライが俺とライとの戦いは始まる。ライの武器は 長剣であるが ライの攻撃には一切の無駄がない 攻撃のパターンも全て把握しており──隙が無いように見えるのだが──だが、俺は この男の太刀筋に、見覚えがあるのである この感覚は一体なんだ──俺はこの男と戦いながら考えるのだが──俺は その男の動きに見入ってしまう。そしてライの繰り出す一撃の重さは俺を遥かに凌駕するものなのだが、俺の目は──そのライが繰り出そうとする技を既に知っていたのだ 俺は──この動きは、間違いなく───『魔の者』だ。

「魔の者か!」俺は叫ぶ 俺の口からそんな声が出るのと、同時に俺は───『雷光矢!』と唱え 俺は雷の属性を持つ魔法を放つと 俺は、この男を倒すべく全神経を注ぐ。俺はそのライという男が どんな攻撃をしようとしてくるのが理解できた その魔法を避けようとするのであれば俺が その軌道を変えることが できるのを俺は確認し、俺は その男と互角に渡り合う そして俺の放つ魔法が当たれば それで終わりなはずなのに その男の放つ魔法の速度は速く 俺が発動したはずの『雷撃球』はあっさり回避される

「なぜ わかった?」俺はそう口に出す

「君のような子供に負けるわけにはいかないんだ。僕は──もう逃げない」と、そう告げて、ライが放つ一撃は今までで一番の威力を持ったものだと俺には理解できた。俺の直感もそれを物語っていた。俺は咄嵯の判断でその男の懐に飛び込み──俺の『斬撃』を発動しライに攻撃を当てる そして その俺の攻撃を防ごうと試みるが、俺はその男の腹を切り裂き致命傷を与えた 俺は 男に勝った 俺は──男を殺したのであった。そして その瞬間──俺は─「うわぁああ!!!」俺は思わず叫んだ 何故だ なんだ この感情は この胸を締め付ける痛み この苦しみは何なんだ。そして──俺の目には──男が俺に見せてきた幻が映し出されている。

俺が必死に目を背けようとしても その幻覚からは逃れることができない。その幻覚の中に映るのは──サーヤと──そしてこの国の姫の姿だった。

そして──その二人には 俺の記憶に存在しない女性の姿もあった。そして──その記憶の空白の部分に、俺とこの男が一緒に旅をしていた場面が浮かんでは消えていく。その光景を俺は ただただ呆然と見ているしかできない その情景に心が揺さぶられる。俺はこの景色を知っている? これは─── この国の 城の外の様子が映し出される。

この国の人々は 城の中から外を見ることが出来ない。そしてこの国の外からも中の様子はわからないはずだ。

俺は 男の死体に目を向ける すると──その男の死体に違和感を覚える その死体の着ている鎧からしてこの男は兵士ではなく──

「騎士──なのか?」その男の手を見てみる。この男の騎士としての手ではないように感じる。そしてこの男から感じ取れる魔力の流れが──その男は魔術師なのではないかと俺は思うのだが、俺は この男と会った事はないはずである。

そしてこの男はこの城の中に入れる人物では無い。ならば この男は 何処から来たと言うのだろうか? そして その男の体には──血の付いたナイフのようなものが刺されている 俺は──俺は そのナイフがなんであるのかを理解した時── 俺の心の中で何かが壊れた 俺の精神が崩壊し始めるのがわかる。俺が何をやっているのかも、そして 俺は、俺がやったことを理解することができない。俺の心が俺のものじゃないような感覚に陥る 俺が今、何をしているのかすら分からなくなっていく。だが──そのナイフが 俺に語りかけてくる 俺の頭の中には知らない言葉が溢れかえってくる

「お前は 本当に──」その言葉を聞いた瞬間 俺の中の精神が崩れ落ち──俺は完全に崩壊してしまう。その俺を 俺は 俺は─ どうすることもできなかった

「くっ!この国の民達は俺達を救ってくれなかったじゃないか なんで──俺が 俺は── こんなに苦しまなければいけない」俺はそう叫ぶ。だが──その叫びは 俺以外の人間に伝わることは無かった。そして俺は俺に近づいてきたサーヤを見て──その表情はまるで慈愛に満ちたかのような優しい笑顔を見せていた。そのサーヤを見た時──俺は 俺は──俺の心に芽生えかけていた希望に──すがりつこうとした そして──俺はサーヤの身体に触れると──俺の体は淡い金色のオーラを放ち、俺の体を包んでいく。そして俺はその状態で── 俺はサーヤの唇に自らの唇を重ねた。俺はこの行動に後悔などしていない そのキスをした時に サーヤは涙を流して喜んでいたように思える。サーヤの嬉しそうな顔を見ると 俺は救われた気がした。そして──サーヤのその姿を見ていた俺にも、変化が訪れていることに気づいた。

この世界の俺という人格が サーヤによって壊されていく。それは俺にとっては──恐怖でもなんでもない サーヤになら俺は、殺されても良いと思ったからだ そして 俺はサーヤがこの世界にいる限り、サーヤを守り続ける。俺のこのサーヤに対する思いが変わることはない 俺はサーヤの事を心の底から── 愛すると誓うよ。だから──だから俺は──この国を変える。俺に力をくれ サーヤ

「ふーん。やっぱりね。その男のスキルの効果が切れたら 元に戻ると思ってたんだけど──予想通りね」と、そう言った女性は──私に攻撃を仕掛けてきた だが私は──それを防ぐと「──あなたの目的は何?」と、尋ねる

「目的ねぇ。別にないわよ」とその女性は言うと「私の邪魔をするなら倒すまで」と、その女は続けて言ってきた その女性と私は激しい攻防を繰り返す。そして 私には、目の前の女性の正体がわかった。その女性の持っているスキルが、私に教えてくれたのだった

「──魔王軍──ですか。あなたは」と、私がそう口に出すと「そういう事だよ。あんたみたいな子供は、早く大人になりな」そう口に出した後 彼女は、姿を消したのであった ───俺は気が付くと真っ白な空間にいた。俺はその場所で目を覚ましたのだ ここは 一体どこなんだ?俺はどうしてこんな場所に来たんだ?それに 俺が今まで見て来たあの幻は一体なんだ? 俺は疑問だらけだったが とりあえず その真っ白い場所で俺は、座ったまま じっとしていると、「こんにちは、ライさん。元気でしたか?」と その真っ白い部屋の向こう側から聞こえて来るのだが、声の主を確認することができない 俺は そんな声がしてくる方向に手を伸ばしてみようとするが 何故か俺の腕を動かすことが出来ない。俺は 俺自身が、この謎の状況を受け入れ始めていることに驚いていた

「─────誰だ!」と、俺は 大声でその謎の存在に問う その声は、確かに聞こえる。なのに姿が見えないのだ。そしてその人物は──その問いかけに答えず。一方的に話を続ける

「あ〜、その前に。僕の声だけが届くようにしますので安心してください」

俺はそんな言葉を 聞きながら。不思議と その声に安心感を覚えた。俺はその人物の言葉を聞きながらも 周りをキョロキョロと見渡す。

俺はこの謎の現象をどうにか理解しようとするのだが どうしてもできない。すると、先程 話しかけてきた人物が俺に姿を見せてきた。その容姿を見たとき──俺は 一瞬思考が停止した その少年の格好は この世界にはそぐわないものだと感じたからである。だが それと同時に 俺は この少年が何者かもすぐに分かった ──勇者 だとすると やはりこの者は『異世界』からの転移者ということになるのだが 何故 この少年がこの場に現れたというのかが分からない

「さっきの話に戻りますけど。僕の質問には、答えてくれなくて大丈夫です。ただ少しだけ 聞いて欲しいんですが──いいでしょうか?」と そう告げる その問いに俺が答えるよりも先に「はい。ライさんの返事を待つ時間はありません」と口を挟む そして その『勇者と思われる人族』は俺に対して真剣に見つめて「まずはライさんに、この世界の現状を伝えさせて頂きたいと思います。その上で お願いがあるので この話は覚えていて欲しいのです」と言ってくる 俺は その話を聞こうとするのだが。その少年の話を聞こうと思うだけで俺の意思に関係なく 俺の意識は途切れていった その少年から聞いた

『世界の話』とは、俺は 今までに何度か

『転生』を繰り返しているということ。そして 俺の記憶の中に存在している『サーヤ』と言う名の少女。そして──この世界に召喚された

『聖剣』の所有者の少女──そして、その少女には──この世界で俺と一緒に過ごした

『サーヤに似た女の子』の存在 この三名は、この世界に存在する全ての魂を持っていること。そして サーヤはその三人が幸せになれる世界を作り上げようとしている。俺は その話を最後まで黙って聞いていた。そして その話が終わると同時に、俺が意識を取り戻した

「どうだった?その話は、嘘偽りなく真実だから」とその人は、俺に語りかけてくる 俺はその言葉を聞いて 俺は自分の意思とは無関係に 涙を流す。そして俺は その話の続きを聞かされた その話の内容も、そして──その少年が語る言葉も 全て 俺の頭の中に入り込んで来たのであった その言葉を聞いた後に俺は──この真っ白な場所にやって来た理由を知ることになる

「この国は──いや こいつらは俺に何かを隠している」俺は 目の前に倒れている死体を見ながら呟く。俺は その死体に触れようと 近づこうとするのだが 体が動かない どうなってやがんだよ!俺は 目の前にある死体を見ていることしかできなかったのだが。その時──突然 目の前の死体の瞳に光が宿り始めた。その光景を目にして、俺は 驚愕する その光は徐々に弱まって行き、そして俺に語り掛けてくる 《私はこの城から出ることができない。そして──お前はこの国の王女を殺すことはできない》と

「お前は誰なんだ!?どうしてこの城の外に出れない?そして俺が殺すことが できないだって?」

俺は、俺が抱いていた疑念が的中したことに──動揺を隠すことが出来なかった。だが 俺が抱いている疑念は確信へと変わる。目の前で倒れていた男の口から語られた事実は──この国の王である男の死の真相。それは あまりにも酷いものなのである

「なぁ教えてくれ!俺は──どうしたら良いんだ」

俺にそう尋ねられて、俺の前に立っていた男──この国の王が死んで この国のトップに立ったその男は 俺が殺したはずの、俺が殺した この国の宰相は ゆっくりと俺に向かって手を伸ばしてくる

「俺のスキル──コピー&ペーストを使えば、今この国で起こっている出来事の全てが、この国で起こった事件。お前の目を通して見てたのと同じ光景を見ることができるはず──だ。だがそれを確認している暇はない。今は少しでも早く俺を 助けろ。時間がない──このままじゃ 本当に俺は殺されてしまう」と その男が言い終わった後 俺は──この男を殺した時に手に入れた、スキルの使い方を思い出しながら──俺の体に触っていた男の手に手を触れてみる すると俺の体の中から男の手が浮かび上がり そして──俺のスキルが発動される 俺の脳内には、俺が今まで体験してきた ──この国で起きた事の映像が、流れ始める この国の王は──自分の子供を殺そうとした。それは紛れもない現実だった そして──その王妃が子供を庇うために、自らの身を投げ出して──死んだ事も──事実 俺は 俺の脳に流れ込んできた映像を必死になって理解しようとしていた。

この国に起きた悲劇は、決して許されるような事ではない。それは、この国が隠蔽した事実。

だが それは──俺が思っていた以上に酷かった。そして そんな惨劇の中で、生き長らえてきたこの国の宰相が──俺の事を救い出し、この国に仇なす者を排除するように仕向けたのだと。

そう言って来たのであった 俺は この国の国王の変わり果てた姿を見て 呆然としながら──涙を流し続けた。そして俺は、自分の心を守るために 自分が何をすべきなのかを考えている。すると──この国の王族たちは──皆。同じ末路を迎えていたことに 気付く この国はもう終わっているのだろう。俺がこの国から逃げ出した所で、この国は崩壊する この国に残されている最後の希望。その希望は 勇者なのだ。この世界の平和を守る たった一人の人間。そしてその少女は──勇者としてこの世界に送り出される時。その命と引き替えに、この世界を救うことができる そう──勇者には、二つの人格があるのだ。

「おい──どういうことだ?」と 俺はその声の主を見て 俺は、思わず──その声を出してしまった。そこには──この国の勇者の姿があったのだ だが俺が知っている 勇者とは 全く違った。俺は勇者の姿を一目見たとき。こいつは──別人なのでは?と思ったが、その顔つきは間違いなく、俺が知って居る勇者そのものだった その勇者は──俺の方を見るなり「──貴様は何者なんだ!」と、俺を指さして言ってくる

「俺は この国の住人だ」と俺が言うと「──この国の国民は一人残らず皆殺しにしたはずだ!」と、言って俺のことを睨みつけてくる勇者。俺は「──確かに、殺されたよ」と言うと

「だったら、何で生きているんだ」と 聞いてくる

「この俺にそんなことを言われても困る。それよりも聞きたいんだが。あんたは一体誰なんだい?」俺は目の前にいる少年が誰かも分からず、俺の言葉に対しての返答もなかったので質問をしてみた すると その答えの代わりに──その少年は「──お前は僕がこの手で殺してやる!僕は、魔王を倒すまでは──死ねないんだよ!この僕の体は──サーヤのものでもある。サーヤは、お前に殺されることを望んでいない。この僕の手で、サーヤのために──サーヤをこんな目に遭わせた奴は全員。僕がこの世界から排除するって決めたんだよ!!」と言って俺に迫ってくる勇者を名乗る者 俺は

「──サーヤ? サーヤだと?」と その勇者の発言を聞き、そして目の前の人物が言った『サーヤ』と言う名前を聞き──俺は、先程の映像の中にいた少女。

──そして 俺が助けた勇者の少女のことを思い出す

「────」

俺が、その言葉を聞いたとき── 勇者の後ろ側から、小さな女の子が現れる。その女の子は勇者の後ろに隠れたのだが、俺と目が合った途端 その目を大きく開き「お兄ちゃん」と言い出した その少女は、俺がこの世界で知り合った少女。その少女は俺に助けを求めるような目を俺に向けている。その表情は まるで助けを求めているかのような悲痛なものでもあった

「この子。君の妹なのかい?──もしかして──あの事件の時に──?」俺は、この子の容姿に見覚えがあったため。この子が俺の知り合いであることは直ぐにわかった。すると その俺の考えは正しかったのか「そうだ!──僕はサーヤの兄なんだよ!それなのにお前は、サーヤを殺した!絶対に許さない!この僕の力があれば お前なんか簡単に捻り潰せるんだよ!覚悟しろ!!僕のサーヤに手を出したことを後悔させてから、お前は僕の手で──殺してやると。そう決めているんだよ!!!!」と 俺を怒鳴りつけて来る だが その言葉を聞いて俺は何も言い返せない。そして俺は その女の子に

「大丈夫だから、少し離れていて。そのおじさんが危なくなったときに──また俺が、守ってあげるから」と言うと、その女の子は「本当?ありがとう。お兄ちゃん」と言ってその場から離れていく 俺は、この勇者に──俺の大事な妹である少女が襲われたことを知り──怒りがこみ上げてきた。

「──俺はな。俺の目の前にいたこの子を、助けられなかったんだよ。──だから 俺が今 この子にできる唯一のことは、この子を守ることだけだ。悪いけど──この子は俺に 任せて欲しい」俺は、俺が思っている事をそのまま目の前の人物に伝えたのだが──相手もなかなか譲らない その男は──俺に向かって「ふざけんな!どうしてお前のようなガキに、サーヤを任せられなくちゃならないんだよ!お前が、この世界にいなければ!この国は あんな事にはならなかったんだよ!全部お前のせいじゃないか!どうしてお前だけ幸せに生きられるんだよ!お前さえ居なければ、僕は こんな目に合わずに済んでいたかもしれないのに──どうしてお前は 今も平然と生きていられるんだよ!?」と言って 俺を罵倒する 俺は──この男が言っていることに、何も言い返すことができなかった ただ──俺は自分の大切な人を助けられず そしてこの目の前の男を助けることができない 俺は自分の無力さを嘆くばかりだ。俺はただ黙っていただけだった。だがその態度が気に入らなかったのか「なんとか言えよ!!」と、その勇者が言いながら 俺のことを蹴り飛ばそうとしてくる。そして 俺の顔に向けて拳が飛んできた。

その瞬間。その男の背後に現れた存在が その男に向かって手を振り上げる──だが 俺はその攻撃を受けることは無かった

「おい──俺がこの男を殺す前に──俺が、俺がお前をこの場で殺してもいいんだぞ」俺はその光景を見て──そう言ってみたが。この男には聞こえていないようだった。

そして──勇者を名乗った男の身体が──俺に向かって倒れてくる

「なんでだよ。──お前が──」俺はそう言いながらも、その男が死んでいくのを感じていた そして、俺は 俺の前で倒れた男を見下ろしていた 俺にはその男を弔う気持ちも湧いてこない この男がやった事を許す気もない そして──この男の口から俺への罵声が出ることはない。俺の耳には その男の最後の言葉が聞こえてこなかった 俺は、その男が俺に言い残した言葉の──意味を知りたかったが だが俺には知ることはできない 俺には この世界を救うことなどできないし。

俺の力で、この世界を平和にすることも──俺がこの手で 成し遂げることなんてできそうにもなかった 俺は──俺の力だけではどうにもならないことを悟った。俺一人では この世界を救えないと。そして──俺が本当に守りたいと思っていた人たちを守り抜くことも──できなかった

「おい。ライ。これは──何だ?どういう事なんだ?俺は一体、何が起こっているのかわからないんだけど──教えてくれないか?」俺は、この目の前で起きた出来事が信じられなかった そして──その光景を見た後。この場にいる者たちは誰も動けずにいた この場に現れた少年が勇者と名乗った男と戦闘をしている。その少年が勇者を倒した。この世界は平和になりました──と言う訳でもないようだ その勇者を名乗っていた男と 勇者を名乗った少年。

その二人の間に割って入り。そして── 勇者が放った一撃を防いだ人物。

その人物は勇者の攻撃を防ぐと──勇者の腕を握り潰した

「──ッ この僕の腕が!」勇者と名乗っていた男が苦痛に悶えるような声で叫ぶ。そして その男は掴まれた手をどうにかしようとするも その手は まったく動かすことができずにいる その勇者は どうにかしようと足掻き続けていたが 次第に勇者が動きを止めていった そして勇者の動きが止まり始めると その者は もう片方の手で勇者の首を掴んだ 勇者は──首が締め付けられ苦しんでいるのか──その者から逃げようとするが だが勇者は、逃れる事ができない その者が勇者の事を見ている目は冷たいものだった。そして勇者を見ていた視線が勇者から外されると、勇者はその者を睨みつけていたのだ。まるで睨みつけなければ殺されるかのように その者は勇者の事など気にする事もなく 勇者が持っていた聖剣を奪うと──そのまま地面に捨てて踏みつけ 砕いた「ぐっ──貴様ぁー」勇者の声からは怒気が感じられたのだが──その声が聞こえなくなり 次の瞬間。勇者の体が崩れ落ちるように倒れた すると──その者の顔に変化が起きた それは──その者の雰囲気が変わるのと同時に、勇者と対峙した時から見せていた、その者に纏わりついていた冷たく暗い空気感のようなものが無くなり、優しいオーラのようなものを身にまとう。その変化に、私は驚き、思わず目を丸くしてしまう その者の変化に私だけでなく この場の誰もが驚いている だが一番驚いたのは おそらくその者と面識のある者達なのだろうと、私を含め、この場で動かずに、その様子を見守るだけの 冒険者や、衛兵達の反応を見れば一目瞭然だろう だがその者の行動に驚いた者は、他にも多くいた。先程の勇者との戦闘を目の前で目撃していた他の者、この国の民である貴族たちや、騎士達は皆が動揺を隠せないでいた

「あれは、サーヤちゃんのお兄さんだよね?」

「え?ミレアナちゃんの?──ということは やっぱりさっきの映像に映っていた女の子が──サーヤちゃん?」

「でもあの人は、一体誰なのかしら?」「あの人こそ勇者なのか?それに どうしてあの人の傍に女の子がいるんだろう」「あの子って確か ミレアナさんの店で働かせてもらっていた少女ですよね」

「その女の子は どうしてこの王都に来てるんだ?あの子の店なら、この国に支店があるんじゃないの?」「あの子の店が なんでこんな場所に?」「それよりも あの子は一体何なんだよ?あの子の傍に立っている奴もだけど──あいつは、いったいなんなんだ?」

その光景を眺めている人々は 驚きのあまり 言葉が出ないといった様子であった。

だが私が思うのは── どうして、その少年はこの場にやって来たのかということなのだ しかも、あのような力を持っていたことを今まで知らなかった 私の知っている限りでは 少年のステータスには それほど大きな数値が記載されていたとは思わない 確かに──勇者を相手に圧倒する事ができるほどの能力値はあったことは確認していたが。しかし──その力を隠していたということになる だが その考えに至ったところで 今はそんなことを考察しても 答えが見つかるはずもない この国の国王として これからのこの国について考えなければならない。だが──まずは目の前の問題を解決することが最優先だと考えることにした 私は、目の前に佇む一人の青年を見つめていた。

だが── その者は、私をまるで見ようとはしない。その眼は 目の前で倒れている男に向けられたまま その男は意識を失ているだけなので死んではいない だが もう既に虫の息だと言えるくらいに酷い怪我を負っているのだが、だがそれでも──死ぬ事はないだろう だが──その男の身体から血が流れていることに、私は恐怖を覚えてしまう その男は今 自分の身に起きたことを受け入れられず。そしてその事実を受け入れることができていなかった。その者は── 今目の前で起きた事が信じられないようだった 自分の身に起きた出来事が理解できずに。その者は ただ呆然としており。自分の身に起こったことを理解しようとしてはいたが、まだ頭の中では受け入れ切れていないようだった その男は、この世界で一番強く、その強さを誇りに思っていた男だった。

自分がこの世界で唯一無二の強さを誇れる存在であると信じていた そして自分は──勇者である その者は、自分だけが特別であり。特別な人間だと──思い込み、増長していった この世界では、魔族に脅かされているという現実を直視していない者もいれば。勇者の圧倒的な力を、その実力を見せつければ。自分達が恐れを抱くことなどありえない。

そう思っている者たちもいたのだが──

「おい、勇者。その程度のことで俺を殺せると思っていたのか? 俺にお前の技が通用すると思っていることが滑稽でならない」その者は勇者の攻撃をいとも簡単に防ぎきると、そう言って、手に持った剣を振るった。たったそれだけの行動 勇者の振りかざすその攻撃に その者は──剣の腹を叩きつける。そして勇者の手から離れた聖剣を掴むとその者の顔色が変わった

「お前! それは 僕の聖剣──それをどうするつもりだ!?」

「これか? お前の聖剣なんかより こっちの方が使いやすいし。そして、お前が持っている剣よりもこいつを使う方が──よっぽど役に立つ」

その者の言葉を聞いた勇者は「ふざ、ふざけるなよ。──僕は、僕こそが! 最強で、唯一の勇者だぞ。この世界に勇者は一人しかいないんだ!」その者は、勇者の言葉を一笑に付すと。その者は 自分の手で奪ったその武器を手に取ると 勇者に対して構えをとった 勇者はその者が持つ剣を見た瞬間に── その者が手にしているものが聖剣だということに気づく

「貴様ぁああ!! 僕の──勇者の剣を盗んだな!!」その者の行動を目にした勇者が叫び声を上げた

「──この剣は お返ししよう。勇者を名乗る者よ。お前の持つ、最強の力なんてものは所詮は借り物の剣に過ぎないんだよ」その者は、勇者に向けてその剣を投げつけた。その剣は、勇者の目には聖剣に見えてはいたものの。その者が聖剣を投げ渡してくるのを見ると──それが偽物であることを理解する その勇者は、投げ渡された剣を受け取るも──

「くそぉおおおお!! 何だよそれ。

──どうしてそんな力が──」その勇者が悔しげな声を上げると、目の前の光景が歪み始めた。そしてその勇者の意識が失われていくと。勇者はそのまま地面に崩れ落ちてしまった そして この場に姿を現した少年。勇者を名乗っていた男が倒れ。そして、その男と戦っていた者の姿も、勇者が倒された後にもその場に残っていることはなかった そして勇者と呼ばれていた男は、この場から姿を消した だが勇者を倒したのはその者ではない その者は── 勇者と名乗る者を気絶させただけで その者は、何もせずに立ち去ってしまったのだ 私は──その姿が見えなくなるまでその者の後ろ姿を見送ることしかできなかったそして──私は、この日の出来事を忘れない。そしてこの日から 勇者と呼ばれる者の数が激減した そして魔王を封印する為に立ち上がった、私を含めた多くの者達の戦いは、新たな時代を迎えた。だがそれも終わりを迎える時がやってきたのだろう 魔王の復活により──この世界は 再び戦乱の渦に巻き込まれることになる それは、もはや避けきれないものとなってしまった。その事に私は──悲観することしかない だが この国が──私の民達の命がある限り 私は 諦めるわけにはいかない だから私は。私は この先。私がどのような決断を下すことになったとしても、この国の未来を守る。たとえ 私がどのような犠牲を払うことになったとしても──私は──私自身の全てを犠牲にしても構わない。それで守ることができるものがあるというのなら私が、この国を守り続けなければ その決意を胸に 私は、私達の未来に訪れる苦難に、この国とそこに生きる人達を護り続ける覚悟を決め。この国に暮らす者達の為にも 最善の手段を尽くす 私は、その決意を胸に持つことにしたのだ ◆ 私は 目の前に現れた少年を見つめていた。その少年は、私を、いや 私たちを助けてくれたのだ 私は この少年の優しさに──救われた この優しい心を持つ少年の傍に いつまでも居たいと思うのは。自然のことなのだろうか 私は、そんな気持ちが 自分の中に生まれたことに戸惑ってしまう。だけど、私の中で──この少年のことを思うこの気持ちに偽りなどない 私は 少年を見守り続けたい──この少年の傍にいたい──ずっと一緒にいたいというこの感情が──恋なのだということに気づいてしまう 私のこの思いを あの方に伝えることができない だけど──私の中には あの方の事を考えてしまう。あの方の顔が、あの方の仕草を──思い出してしまう だけど──あの方は、この国に訪れてくれるはずがないのだと分かっている。だけど、もし、もう一度だけ会えたら。

私は きっと あの方に自分の気持ちを伝えることができるのかもしれない──

「この国は──いや この世界は、間もなく滅ぶ事になる」少年が口を開くと リディアは、少年の言葉に耳を傾けた そして少年の話を一通り聞くことができた。

この少年は──私が、今までに感じたことが無い程の力を持ってはいる。だけどその力の大きさは、私が想像することのできる範囲を超えてしまっている だからこそ──この子と一緒に戦うということは。私には、出来ない。それは、私に課せられた試練でもあるのだと思うのは──傲慢なことなのかしら そして私は思う。この子が これから向かう場所。その目的地に、何があるのかは分からないけど。それでも──この少年が向かったその場所には。この世界を救うための鍵が存在している そんな気がしてならない。少年の力であれば、どんな相手でも倒すことはできるのでしょう。しかし──この世界の命運は、この子の肩に掛かってくる そんな重圧を背負ってしまえば。この子は──きっと壊れてしまう だからこそ──私は──この子に寄り添ってあげないといけないと思った そして ライさんの質問を受けた俺は

「俺は、勇者になるつもりは無いよ」と口にすると、アダンさんとミレアナは俺の話を聞きながらも。目の前の光景に目を奪われていた それは、俺の答えを聞いたリディアも同じだったようで。彼女は俺の顔を見つめると

「本当に その言葉を口にされるのですね」と言う その問い掛けに対し 俺は 小さく笑みを浮かべながら

「えぇ 本当ですよ」と言ったのだが。この世界では 勇者とは憧れの的な存在であり、人々の希望の的になっている存在であるのだが。その事実を知らないのか?と思い。その説明を行うと。

俺の言葉に反応を示すようにアダンは口を開き始める

「それはまた随分な冗談だね。だが──君は何か勘違いしているようだな──君の話を聞く限りではこの世界に魔王が復活することはありえない。なぜなら 魔族の領域である『魔界』が封じられたことによりこの世界が魔王の脅威に晒されることは無くなったからだよ。だが君が言ったように その少年が現れたことによって魔王が復活したのは間違いないことなんだろ?」

俺は アダンの言葉に対して首を縦に振ったあとに言葉を紡ぐことにする 俺は──この世界に転移された際に、魔族の存在については知っているが。魔族がどのように生まれた存在かまでは知らない。だから、アダンとリディアが 魔族の存在を認識しているのかどうか。そして 魔王と魔族についてどう考えているのか その辺りのことについて聞きたかったのだが。その前に、この世界における勇者と呼ばれる者たちがどういう存在であるのか その事を知らなければならない

「──そうですか ではあなたは、この世界の現状を知っていますか? そして、この世界を──救うために立ち上がった勇者たちは、この世界でどんな扱いを受けていたか知ってますか?」

俺の言葉に反応するようにアロンが口を開いた

「確かに──勇者たちがどんなことをしていたかについては ある程度 理解はしているが。しかし 勇者がしたことは正しいことではないと。そう僕は思う」

「そうだぜ それに あんたが言うその『少年』が勇者だってんならよ。そいつはとんでもない野郎じゃねぇか。何しろこの世界を破滅に導くほどの力を持った存在を──自分の都合で好き勝手に暴れさせようってんだろうがよ。それを許すなんて真似はできっこねぇよ」と 二人は 勇者を名乗る者の行動を非難した。その勇者を名乗った者というのが──目の前にいる、この国の王だということは伏せておく そして 勇者は、自分の目的のために──他の種族を滅ぼし尽くそうと試み。最終的には、この世界に生き残った者達を奴隷にしようと企んだという話を伝えた その話を聞いた後。二人にそのことを話すのに躊躇してしまった この二人がこの国に住む住人で しかもその国の王が 目の前に現れた魔王によって操られているという事実を知らせた場合 二人の心に大きな傷を残すことになるのではないかと思ってしまったのだ そして 魔王が勇者を名乗る者を利用して 人類滅亡の一歩手前までに追い込んだということまで 伝えても大丈夫なのかどうかは──正直分からなかった ただ その少年に会った時に、魔王の配下の者である可能性が高いという事だけは教えておくことにした。そして魔王が、人間の姿に変化し勇者に近づいてきたことも、伝えるべきか悩んだ結果 伝えないという選択を取ることに決めた。それは 魔王が人間の姿をしていても。その正体は 魔獣であることには違いないので あまり良い印象を与えることがないと考えたのだ そして 俺は

「俺は、勇者と名乗る者が──何者で。そして 何をしようとしているのかは分かりませんが。

おそらく、勇者と呼ばれている者は この世界を滅ぼすつもりなんだろうと考えてはいるんですよ。だから、俺は、勇者にはなりたくはないと思ってはいるのですが。

それでも、俺が この国に来た理由というのは──。俺が、勇者と名乗る者に倒されてしまった場合。その者が──再びこの世界に姿を現す可能性もあると考えているからこそ この場所に足を踏み入れた。

そして この国の人々に──魔王が 今、この国に現れていることを──伝えた上で。

俺の仲間が──俺が倒された場合は、この国の人々を護るために動くだろうと考えています。だから、貴方たちにも──俺が倒れた場合には──魔王が蘇る可能性があることを踏まえて──動いてもらえないかと考えていたんですよ」

俺の言葉を聞いたアダン達は お互いに顔を見合わせると。リディアに向かって話しかけてきた

「なぁリディアさん。

アンタはこの男のこと 信用できると思うか?」

「私の判断では 難しいところですね。しかし 少なくともこの方の瞳を見ていれば。私達に害をなそうとする人物だとは思いませんが」

その答えを聞いて俺のほうを見て口を開いた その目は、先ほどまでの威圧感を放ってはいなかった。

「分かった ならば 僕達としても君の意見を尊重することとしよう。しかし──もしもこの国に仇をなすものがいたとして。君にそれを討伐するだけの意志があるということが──僕の目には 君が──本当の勇者のように見えるんだよ。いや──今のこの国に蔓延している考えがおかしいのであって。この少年の行いを勇者と呼ぶのが正しい姿なのか」と そんな事を口にした。そして 俺は、アダン達が 自分達の目を信じているのかを確認する為に問いかけることにした その問いかけに。二人は大きく肯定の意思を示したため。魔王を倒した後。魔王の部下である魔獣たちを相手にしなければならない可能性が非常に高くなってきたということを 伝えておこうとした。

それは、この世界に暮らす者達は、その身に 強大な力を宿していることを知っているから。この世界は、ある時期を境に、その力を持つ者たちが増え続けているという事実があった しかし。それは魔王が現れてからのことだった。魔王は封印されたままであり──復活したという報告も無いのだが。それでも、何かが起きる予感を感じていた

「そういえば この国は──いえ あなた達の住んでいる地域は、この国の中でも辺境に位置していますが──」と言いかけると。アダンは「あぁ そう言えば まだ名乗っていなかったな──僕の名前は アダン 君の名前を教えてくれないだろうか」と言われ。それに対して、名前を名乗り返した後に──続けて、魔族について。そのことについて話をすると 二人は驚きの声を上げた 魔族が──人の姿を取れることは──知っているのかもしれないが。それはあくまで可能性の範疇だったはずだ だが 魔王の復活が近いという噂が流れるようになったのが 魔族の力が強大になったせいだという事に ようやく気が付き始めていたのだろうか アダンは俺に 魔王の眷属である魔族が動き出した理由について話を始めた

「魔族とは──遥か昔から 人と共存してきた 言わば 良き隣人たちのような存在だった」と口にすると。俺の方へと顔を向け

「しかし いつの頃からか その魔族たちは 人類の領域に入り込み始めた」

アダンは俺に語り掛けるように言葉を続ける

「そして──人類に対して、戦いを挑んできた」その言葉を聞いた瞬間に俺は思い出したことがあった

「それって。俺が元いた世界にも同じようなことがありましたよ」その言葉を聞いたミレアナとリディアは お互いの顔を見合わせていた。アダンさんが口を開く

「そう──なのか? 確かに魔族は 他の世界から来た者の前に現れることがあるようだが──。そんな報告を聞いたことはないな」俺はこの世界が俺が元居た世界の日本に似ていると思っていたのだが、どうやら 少し違うところもあるようだ──まぁそれは 仕方が無いことなので気にせずに会話を続けていくことにする

「えぇ ですが──。この世界にも俺の元の世界と同じことが起きているようなので」俺の言葉を聞くとその男は「その話も聞かせて欲しいのだが──いいかな」と言う。そして俺は、自分が転移される前に起きたことを、そして、その時の魔王軍の行動についても話すと。アダンは何かを考え込むように腕を組んだ状態で黙り込んだ リディアに関しては何かを思い出しているのか。額に手をやる それからしばらくして リディアが、アロンに話しかけた

「アロンさん。貴方は勇者が魔王の討伐に成功した場合。魔王が再び現れると考えているようでしたが──なぜそのような結論に達したのですか?」

その問いかけにアロンは答える

「はい。リディアさんの言われる通り。魔王を封印するために使われた武器の威力によって魔王が消滅したという話は、この国に伝わる伝説でもありますが。その言い伝えの中に。その勇者が、新たな魔王として 魔王城から這い出してくるという内容があるので──。その事から考えてみた場合。やはり再び現れてくるのではないかという考えに辿り着きますよね それと魔王を召喚しているとされる魔族の力について──この国の上層部が把握していないはずがないので おそらく、復活に備えて何らかの策を取っているのではないかと考えたんです」そして その質問をした直後。リディアの雰囲気が変わった「そうですか──。では 魔王の配下についてはご存じないのですよね。

魔王の眷属の魔物については その力も強さも通常の魔物とは一線を越えた存在── もしこの国で、魔王が復活した際。それを止めるだけの力を持った人間が居るか分からない状況では──」と言って口を閉じたあと しばらく思案した後に

「──すみません。私の考えすぎかもしれませんね 今は 目の前に迫る脅威に対してどのように立ち向かうかが重要な時なのに 余計なことをお聞きしました」

そう言うと頭を下げたが。俺は、目の前の女性に話しかけた その人は この国の王にして勇者を名乗る者の母親──つまり王妃なのだそうだ。

その人が──勇者と名乗る者の手によって 命を奪われかけたという話は 俺にとってもショックではあったが。それでも 俺は勇者と名乗った者と会うために その場所に行こうとしているわけで。俺に危害を加えようとするなら、戦うことになるだろうし。そもそも俺が倒されることがなければ問題ないことでもあるのだ そんなことを考えながら、この国の王に会って、その者が俺の目の前に現れたとき。俺自身がどういう判断を下すことになるのか──正直に言って全く想像ができないでいる

「それで お前たちが魔王の手下だって噂が流れてる奴らが 勇者様と一緒にいるところを見て、どう思ったんだ」

俺は二人に向かって問い掛けた 二人はお互いに顔を見合わせた後

「僕達から見た限りですが── 魔王の幹部とか言われている方たちと、特に変わりないんじゃないかなと思います。

ただ その方は── この国が魔王の力を借りて勇者と名乗る者に力を貸すなんて そんな馬鹿げたことをしているという事に関して。その行為が どれだけ罪深いものか 分かっていなかっただけなんじゃないでしょうか」と。アダンが答えた リディアはアダンの話を聞き終えると、俺のほうを見ながら話し掛けてきた その顔には、先程までの不安げな様子は見られない「ライ殿。貴殿はこれからどちらに向かわれるので?」俺は答えようとしたが。

それよりも先にアダンが口を開いた「ああ──そのことだけど。さっき あんたらと別れてから考えたんだけど──。

僕はやっぱりあの男が気になるんだよ。もしも 本当に勇者だっていうんなら 尚更ね」と言った そして── 俺がそのことを聞いてみると その男の名前は──ユウキという名前の 俺よりも一歳年下で。俺と同じぐらいの背丈をしていて。黒髪短髪の男なんだが── 見た目からは俺が会ったことがある男の中では──そこまで強くはなかった そして その男のことを詳しく調べているうちに 俺はその男の母親が、この国の姫だという事にたどり着いた。しかも 俺が見たその女性も、俺が以前あった女と似たような容姿をしていることから──俺は勇者を名乗ったその男は 魔王を復活させようとしているのかもしれないという考えに至った訳だ その説明を終えた俺に対して。アダンは疑問に思っていたことを尋ねてみた。それは──ライさんが魔王幹部を倒した時に手にしていたのは普通の剣だということと。ライさんと、勇者を名乗ったその少年が一緒にいたという事実があるということだった。俺がアダンの疑問に答えてやることにした。

俺は、その男に渡された剣と 魔獣を斬ったときに使った、その男の持っている武器が。同じ種類のものだったのだと説明すると。その言葉を聞いた、アダンは「へぇー。じゃあ そいつも あんたと同じ異世界の人間なのか?それにしては随分と戦い慣れている感じだったけど──。まぁいいや。それより そいつを倒さない限りは安心できないぜ」と言って。この国の王が眠る場所へと案内すると、俺に言ってきた その言葉を聞いた俺に対して、アダンは

「まぁそんな怖い顔をするなって 俺に任せとけば 大丈夫だからよ」と笑いながら言った。俺はその言葉に対して──「そうですね。任せますよ」と言い返す そんな俺達の会話にリディアは、呆れたような声を出し。そのリディアの声を聞いて アダンが「何言ってるんだ?リディア 俺はこいつらの事を ちゃんと信頼しているぞ」と言うと リディアは、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて

「わたくしのことはいいのです。それよりも アダンさんは──どうして そこまでその人に会いたいと思っているのですか?」と尋ねた アダンはそれに対して「そうだなぁ 一言で言うと興味があるからだ」と リディアの問いに答える その答えにリディアは納得したような様子を見せた後に。「それはそうと ライさん──あなたも大変でしたが。アダンさんの言うとおり。魔王の力が復活するまで あと僅かです。どうかお体にだけは気を付けてください」と口にした 俺はそれに対して言葉を返した「えぇ──俺も自分の目的のために全力で動くつもりなので。その心配はありませんよ」そして その言葉を聞いたリディアは微笑み「ありがとうございます。そう言っていただいたことが嬉しく思いました──では。これで失礼します」そう言い残し俺の元から去って行ったのであった。

その後──俺達は王城の敷地内へと入り込むことに成功したのである。そして王都に暮らす住人たちに見つからないように、物陰に身を潜めてから 城の内部へと入っていった その城の内部では──

「うぉおお!くっ。まさかこれほどの力を持った者が居たとは。だが、しかし──私を倒すまでには至らない!」と言って、アダンはその男の体に向かって攻撃を行うのだが──その攻撃を簡単に避けてしまうと。その男はアダンに拳を放った

「グハッ── 」アダンが吹き飛ばされてしまったのを見て、俺はその男に向けて魔法を放つことにした。そして、俺は──この国で勇者と呼ばれている男と戦うことになった。俺は その男──勇者と戦っていた その男は 俺とほとんど身長は変わらないように見えるのだが。どうやら 身体つきはかなり良いようで。かなり腕力もあるらしい そんなことを考えていると 目の前の相手は──

「ほぅ──今のを避けたか」と、感心するような態度をとったあと 今度は俺に殴り掛かってくる それを俺は避けると。勇者に斬り掛かったが。その攻撃を受け流されてしまうと その隙をつかれ 俺は腹部に強烈な一撃を貰ってしまった 俺はその衝撃で意識を失いそうになったが どうにか堪えることができた そして──俺が動けないで居る間に 勇者を名乗る者は俺の前から姿を消したのだった 俺は この世界では あまり強い存在とは言えないのかもしれないな 魔王と呼ばれるほどの強さを持ってはいないし。それに、魔王と呼ばれた者の配下として、魔王の部下達を相手に戦った経験はあるが。それとは別に その者との戦いを経験したからといって。俺が他の魔物や、人間に負けることなど まずあり得ないことだ そんな俺が 魔王を名乗る相手に苦戦をするなど──有り得ないことである そういえば 勇者と名乗る男が使っていた武器──あれは何なんだろう あの男が使っている剣も気にはなるが。

あの武器も相当 ヤバそうな武器のような気がするが もしかすると 勇者を名乗る男が魔王を復活させるための何かしらの道具の可能性があるか いやまてよ── もしかしたら 魔王の幹部クラスの力を持った存在が、魔王の力を使って勇者を名乗って居るのか もし そうであるならば 勇者と名乗るその男は 俺が倒さなければいけない存在であることに変わりない その前に俺は、その勇者に勝つ必要があるが──俺は勇者に勝ち目があるのか正直に言うと分からないのだ 勇者を名乗る者が使用している剣の威力が尋常ではなかったのだ あの勇者の男が使用している剣が、どんな代物であるのか俺の見当がつかない限り。俺が勝てるかどうかは──怪しいところなのだが その辺りも含めて 俺は── 勇者と名乗った者の正体を探るためにも。俺は、俺の目的を果たすために行動に移すことに決めるのであった そして── 俺は勇者と名乗る者を追跡することに決め。この場を去っていったのであった俺達が王城を訪れている時に。王城に住まう人々が。この国の王が亡くなったという事を知る そして その亡くなったという王は──勇者を名乗る者の母親であり。勇者と名乗っているのがその男なのだが──勇者と名乗る男の母親が亡くなっているのなら。この国はどうなってしまうのだろうかと 俺がそんなことを思っていると。この国の王女を名乗る女性が。この国がこれからどのようになっていくかを話してくれた。

この国の現状について 俺は、その話を聞いていた その内容としては──この国の王を亡き者にしたのが 魔王軍の幹部の内の一人。それも魔王軍の幹部の中でも最強と言われる存在である。この魔王軍が復活する前兆があり。魔王軍は今すぐにでも復活できる状態になっているのだという。そんな時に、この国の姫だった女が死んだことによって、魔族の力を封印するための結界石が壊れかけている。そのため このままの状態では、いずれ魔族の力が復活した時に。人間が滅んでしまうのだと彼女は言った そこで、俺達に──頼み事があるようだ。

「実はですね。魔族の力を封じるために 代々伝わっていた魔道書を持ち出してきたのですが。魔道書を持ち出すことによって。封印されていた魔族の力が蘇ってきました。

それで──魔族を封じ込めるための方法が書かれた書物は、現在この城の地下にあります。魔導書を手にすることができれば──魔王を倒せる可能性は十分にあると 私は考えています。その書物に書かれている文字は、全て古代語であるため。読める人は居ないのですが。私が解読に成功しまして──あなたたちの中で、この言語を習得されている方がいらっしゃるのであれば その方は、魔導書を扱えるはずです。もしも、あなたたちが この本に記されている文字の全てを、習得することができたのなら──」と言い終わる前に、俺が手を上げて。

俺がその本の内容を読んでみると そこに記されていたのは この国を覆っている魔法陣の効力を一時的に弱める為の方法と その方法が記載されていたのだった。しかし その本の内容が真実であると証明する方法がない。そのことを確認するために 俺がそのことを口にすると。俺の言葉を聞いた姫様は 少し困ったような表情を浮かべながら──そのことについて話し始めた この国に存在していた ある組織のことを──その組織は、姫を暗殺するために 姫に近づいた者たちがいた その者たちの手によって この国で暗躍していた者達の存在が明らかになり。

その者たちは全員捕まったのだが。その際に 組織のボスは その部下である者たちを使い 自らを犠牲にすることで 自らの目的を果たし その目的は 魔王軍の幹部の1人を倒すこと。

その目的を達成した瞬間に──この国の王を殺し そしてこの国の姫までも殺して、魔王を復活させようと計画していたことが発覚したらしい。そんな組織が存在したことなど今までに一度もなかったと。

その組織の存在は隠蔽されていて。その存在を 表に出すようなことがないようにされていたようなのだが。

今回の出来事が起きたことで 隠し続けることが出来なくなり 今回起きた一連の事件を引き起こしたのが その組織の構成員達だということが分かって 彼らは自分達が犯してしまった過ちを隠すために。魔王の力を利用しようとしたのだが。それは失敗した。その組織が行おうとしていた魔王の復活の儀式を その男が全て一人で行ったからである。その結果──魔王の魂と魔力の一部を取り込んだ男は、その膨大な力と そして魔王の持つ知識を手に入れたことにより。

彼は魔王と同等の存在へと変わってしまったらしい そして その魔王と同等の力を持つ男が魔王の魂の力を操り。魔王軍の幹部である男の魂を呼び起こすための準備を始めようとしているらしい。そんな状況に危機感を抱いた組織は その魔王と同等の存在が魔王の器になるのを防ぐため。また──既に復活し始めているであろう。魔王軍を殲滅するため。

その男は、自分が持つ力を最大限に使って。復活した魔王を倒そうと考えているようだ その話を俺は聞いた後に。その男を止めないといけないと考えた俺は。その男が魔王を復活させる儀式を行わせないようにすることに決めたのだが。しかし──俺は俺の知らないうちに 王都で何が起きているのかを調べる必要がありそうだ 王都の現状については、クレアとアダンが知っているだろうが。

俺は 二人に事情を話すことにしたのである。その話が終わると。

アダンとクレアから、王都に居る 魔王軍と呼ばれる連中について説明を受け そして俺は この世界の魔王についても話を聞いたのだった。その魔王と、俺の元いた世界に存在した魔王。それは別のものなのだが その魔王が持っていた能力などが同じだということが判明した その魔王と、俺の元いた世界にいた魔王が別なのは分かるのだが。俺が元いた世界では魔王の魂の欠片が人間に取り憑いて生まれたのが。俺のいた世界で、魔王と呼ばれていた存在なのだが。その世界では、その男と魔王を倒そうと考えていた勇者との闘いで 勇者と魔王との戦いは決着がついた だが──その後 勇者は、自分の力を使って魔王の力を取り込むことに成功したのだが。勇者が取り込むことに成功して手に入れたのが、勇者と魔王の力。その二つの力を、勇者は制御することが どうしてもできなかったようで。勇者は、その力で 俺の住んでいた場所ごと消滅させてしまったのだった その後──その世界に残っていた俺と、俺の友達と。俺が信頼を置いていた仲間たちで 俺達の世界を救ってほしいというお願いを頼まれたのだが。その頼みを断ったのだ。しかし その頼みは断られたが。俺と友人が持っているスキルと。そして仲間の一人だけが持っているユニークスキルの二つを譲渡してもらうという契約を交わすことができた この世界では、その魔王の欠片を使った魔王と呼ばれる者が 俺達の世界では勇者と呼ばれる者が その者と同じ能力を使えるようになってしまったということか この世界での魔王も俺が元々居たところにいる魔王のように、何か特殊な力を持っていたりするのかもしれないが それでも俺にだって勝てる可能性があると思うが 俺の仲間達と一緒に戦った魔王とは──違う魔王だからな。それに この世界に来てまだ間もないのに 色々と動き回って調べなければならないことも沢山ある それに 俺にはやるべきことがある。この世界を平和にする為に。そして俺の大事な家族を守るためにも──俺達はこれからも、全力で行動を続けていくつもりだ。俺の目の前に現れた魔王の配下らしき者とそしてその魔王の部下である存在の討伐 この二件を 俺は最優先で行うことにする そして 勇者と名乗る人物の捜索 この任務は俺一人で動く必要がある 勇者を名乗る男が──俺の前に姿を現したら、俺は勇者の男と戦い 倒す必要がある 俺が この勇者の捜索を優先にしなければならない理由として 俺と行動を共にしていた仲間の三人。その三人が、勇者を名乗る男に狙われていること。

俺が王城を後にする間際に 俺に話しかけてきた女が俺に伝えてきた言葉によると 勇者を名乗る男が その三人の女性を狙っていることを告げてきた その女の話によれば──勇者を自称するその者は、俺の大切な人達に手を出そうとしていることを告げ そして勇者と名乗る男の狙いは、リディアさんと俺の娘であるルシアであること それから──俺達が王城を出た後。クレアが勇者を名乗る男によって殺されたのだということを──その勇者を名乗る男は クレアがこの王城に出入りしていたという情報を手に入れていて この王城に侵入を果たし──そして、魔王の力を使うことのできる俺が王城を去ってからの時間に 俺を待ち伏せをしていた 俺は──その時の状況を詳しく教えてくれた。その女に感謝をしながら 俺は王城を後にし。今はその勇者を名乗っている者を捜すために行動を開始しなければいけないと思った。俺の足が向かう場所は決まっている そこは──魔王城の跡地。そこに行けば──必ずいるはずだから

「お父様!!お久しぶりですね」俺が、俺の家族と王城で合流した直後 一人の女性が こちらに向かって駆け寄ってきた その女性を見て、俺の娘のリディアとアダンと その二人は顔を合わせた

「リディア、あなたは 彼女と知り合いなのですか?」と その質問に 俺の娘のリディアは「えっ、あっはい、一応、私が小さい頃に 私の教育係をされていた方ですよね。確か、アイーダって名前でしたよね。その方は」と言うと 彼女の後ろに控えている護衛の女性は、無言のまま、その言葉を聞いていた

「あなたが リディア王女でございますの?私は、リディア様に小さい頃、魔法などをご教授させて頂いていた。

魔法講師 アイーラですわ。どうぞ よろしくお願い致します」と言いながら、その女性は頭を下げながら自己紹介を済ませたのだった。その挨拶に対して 俺は「ああ、君が。そうだったのか、君の事は俺もよく知っているよ。君は 俺が昔通っていた学園の教師だったからね。まさか──そんな立場にいた君が、今では冒険者の先生として俺の前に現れるとは思わなかったけど──」と口にしながら、懐かしく思いながら話していた

「はい。あなたと出会えて光栄に思っていますわ。それだけではなく、私があなたと出会うきっかけを作ってくれた。そのことも含めて──」

彼女は、笑顔で答えると、アダンは俺に小声で耳打ちをするような形で話しかける

「旦那。この人が──この方が例の人物ですか?この人こそが魔王を倒したと言われている勇者様なんですよね?」と聞くアダンに対し。俺は小さくうなずき そしてアダンは続けて話す

「それで、この人が 本当に勇者様なんですか。見た目的に とてもじゃないが──」と 俺に聞こえるように、その続きの言葉を口にすると 俺の隣にいるクレアにその声は聞こえたらしく。

その事について 俺はアダンに説明すると

「なるほど。確かにその可能性は高いかもしれませんが──あの魔王の力が宿っている魔剣を持っているということは やはり、そう言うことなのかな──」

アダンの言葉を聞いた俺は、アダンに聞き返した。俺の質問を受けたアダンは、「実は、この世界に 魔王が復活するという噂があるんですが、旦那が知っているかどうかは分からないが、旦那はこの世界を救うためにやってきた救世主だと思われているのですよ。そして 今回、旦那が魔王軍の幹部を倒すことに成功したことで その魔王の復活を阻止するため。つまり──今回の一連の騒動の原因を 勇者と名乗る人物が作っていたとしたら。魔王を復活させようとしている存在がいるとすれば──それは勇者と名乗った人物である可能性が高い。それに 魔王が封印されていた場所には 魔王の力が込められている魔剣が存在していて その魔剣を勇者と名乗る人物は持っているという話を聞いたことがありまして──それに魔王復活の噂も──もし仮に、噂通りだとすれば──今回の勇者を名乗った男が──勇者である可能性もあると自分は考えていますが──まぁ、あくまで憶測ですので、実際に勇者と名乗っていない限りは確定ではありませんし」と 俺達に話し終わるとアダンは自分の意見を語り終わった クレアもその意見を聞いて少しだけ驚いたような表情を浮かべながらも 冷静な態度をとっていた。俺は 俺の考えと。アダンが考えた事を考えてみる事にしようアダンは その勇者の男が魔王軍と関係のある人間ではないかと考えた上で話を進めていたので 俺が考えていることと一緒だった。ただ まだ 勇者の男について調べなければならないが まず 俺が勇者の男に勝てるのか それが問題になってくるだろうな 勇者を名乗る者が、その男なら その男が持つ力についても気になる 魔王と同等の力を持つことができるのか、それとも俺の知っている勇者が持つ特別な力なのか── その辺についても確かめておきたいが── そして、クレアとアイーダは俺とリディアが出会う前に出会ったらしいが 俺がクレアと出会った時には 既にクレアの傍にはアイーダがいたようだ。そしてクレアはアイーダの事を知っているようだったが アイーダは俺がこの王都に来た時に、俺の事を睨み付けていたので、アイーダは その視線の先にいる相手が、クレアを暗殺するために 送り込まれた刺客ではないかとも考えていたようだが── しかし、俺には アイーラが敵であるとは思えない それは、俺自身がアイーラと出会っていないのだから当然のことなのだが──俺の中で感じるものが存在しているのだ それは何故かと言えば 俺が勇者の男と戦って勝つことができれば──その勇者の男は俺に負けてしまう可能性があるからこそ 俺は このアイーラの事は疑わない。それに 俺はこの世界に来て間もないから、その勇者の男については あまり詳しくないが 勇者という肩書きだけで──判断するのは危険すぎる 勇者と呼ばれる人物でも──強い奴が居るかもしれないからだ そして クレアを魔王城に呼び寄せたのは勇者だと言うことも その情報と組み合わせる事によって考えると── その勇者と名乗る人物も クレアの事は魔王城の件に関しては知らないと思うし そもそも 魔王が復活したということも知らなかったのかもしれないな そうなると──クレアの命を狙ってきたというよりは たまたま、この国に遊びに来ていた そんな可能性も捨てきれないし 俺達と一緒にいたから 勇者を名乗る男は──その力を使えないと俺は思った だからこそ これから俺は 勇者を名乗る男のところに行って 話をしてこようと俺は思うが 勇者を自称する男を始末するという事も選択肢の一つとしてはあるのだが── そうすることで この王城を救えるかどうかの判断を 誰かに委ねる事になる そして その決断をしたとしても 王城の人達に恨まれることはないと思う むしろ感謝をされるのではないかと思ってはいるが──俺が王城を去って 魔王を退治した勇者が王城に戻ってきた それなのに、魔王を倒した存在を殺せば また、この国の中に混乱が生まれる それを解決する方法は── 勇者を自称する男と会話をすることによって 問題を解決できれば──だが 勇者と名乗る男が──勇者を名乗っていなければ──ただ、王城に侵入した男を 王城にいた兵士や騎士たちが取り囲んで その男を取り押さえて、そのまま連行することだって出来るはずだ とりあえず 今はその方法を考えるのではなくて──行動に移すことの方が大事だし それに勇者と名乗る男の居場所を特定できたのだから 後はその男に会いに行くことが一番重要だと思った。そこで何か新しい情報を入手出来れば──そこからは状況次第

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異世界に無一文&チート能力なしで転移したけど、なんか余裕で暮らせてます あずま悠紀 @berute00

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