第二十三話 多少のトラブル
「ア・メ・リ・ゴ~~~~~~~~~!!!」
エリーの声がニューアムステルダムの摩天楼に響き渡る。
「当初の僕よりはしゃいでるな……」ユースは呆れながらついて行く。
「当然よ!!」エリーは輝かしい笑顔で答えた。「この解放感!公務以外で外国に行ったの何年ぶりかしら?」
「アメリゴはやはりいいところなのか?」
「もちろん!なんてったって『自由の国』なのよ!!」
「そうか……ところで、どこへ案内してくれるの?」
「まずはミリタリーショップね。」
「武器屋?」
「まあそうね。アメリゴは銃大国でね、そこら辺にいる人だって銃を持ってるわ。」
「なんだそれ。物騒だな。」
「……あそことか良さそうね!」エリーは勝手に店を選んで入っていった。
「あ!ちょっと待ってよー!」ユースは慌ててエリーを追いかけていった。
"Hello,may I help you?" 急にブリデン語で話しかけられたから、ユースは多少びっくりした。
「……てあれ?通訳機能は?」ユースはコマンドレシーバーを触ってみた。
……反応しない。
「おいちょっと待て!まさか壊れたのか!? レシーバーが!!?」
"Youth, what happened? Are you okay?"(ユース、どうしたの? 大丈夫?)
「あ! ……えーと……」多少混乱したが、すぐに日常生活程度の英語なら話せることを思い出した。
"I'm okay, Ellie. You don't have to worry."(大丈夫だよ、エリー。気にしなくていい。)
ここからしばらくは、英語による会話が続く。
"Look! this pistol is very cool!"(見て!この拳銃めっちゃかっこいい!)オッティモモールの安物武器しか見たことのないユースにとって、武器大国アメリゴの高性能な武器の数々は、男子ならではのミリタリー精神を刺激した。
"These weapons are made by major Munitions company. They are not only cheep but also have so high performance."(これらの武器は大手軍需企業が製造したのよ。安いだけじゃなくて高い性能を持っているわ。)
"There are many swords next to guns!"(銃の横には剣がたくさんあるよ!)
"Swords? Amerigon swords are not as well as bridenees. You are better not to buy it."(剣? アメリゴ製の剣よりブリデラント製のほうがいいわ。買わないほうがいいわよ。)
すると、このやり取りを聞いていた店主が、横やりを入れてきた。
"Hey, lady! With that accent, you are bridenees ,aren't you?"(ヘイお嬢さん! そのアクセントだとブリデラント人だね?)
エリーは答えた。"Yeah."
店主はさらに言った。"Amerigon swords are better than yours!"(アメリゴの剣はあんたたちのより性能いいよ!)
"What!? What are you saying in spite of the gun society!!? Briderant is Knight's country unlike Amerigo!!"(はぁ!? 銃社会のくせに何言ってるの!!? ブリデラントはアメリゴと違って騎士の国なのよ!!)
"Even though it doesn't have as high technology as Amerigo!!"(アメリゴほど高い技術持ってないくせに!!)
"Hah!!? Who are talking to!!?"(ハァ!!? 誰に口きいてんのよ!!?)
(アメリゴ人とブリデラント人は、やっぱ仲悪いのかな……?)ユースはそう思った。
"Excuse me...... may I try using them?"(あの……その剣、試してみていいですか?)
"Yeah? Okay okay!!"(ん? いいよいいよ!!)
ユースは店主に連れられて奥の部屋に入っていった。
"Ah! Wait, Youth!!"(あ! 待ってユース!!)エリーもついて行った。
武器屋の奥の部屋には、だだっ広い部屋があった。
特に奥行きがあって、たくさんのレーンが設置されていた。
部屋の奥にはマネキンが用意されていた。
"Is this...... the shooting range?"(ここって……射撃場ですか?)
"Yes, it is. Well, it's okay to do something other than shooting."(そうだよ。まぁ、射撃以外もやっていいんだけどね。)
(……この電子パネルを使うのかな?)ユースはレーンの手前にあったディスプレイにタッチした。
ディスプレイに文字が映し出された。"Put your command receiver into the connection."(コマンドレシーバーを接続口にセットしてください。)
「え~と……これかな?」ユースは台に彫られている、ちょうどコマンドレシーバーと同じくらいのサイズのへこみを発見した。
ユースはコマンドレシーバーを取り出すと、接続口にセットした。
すると、急にユースの周りの景色が一変した。
さっきまで薄暗く無機質な壁に囲まれていたのに、今ユースの目の前に広がっている光景は、荒廃した市街地のようだった。
「え……!? なんで!? 何が起きたの!?」思わずローマ語でしゃべっていた。
すると、後ろから店主の声がした。
"You have been transferred to virtual space."(あんたは仮想空間に飛ばされたんだよ。)
"V...... virtual space!?"(か……仮想空間!?)
"Yes. You don't feel any pain there, and are not tired. You also summon all weapons, too. Enjoy as you like."(そうさ。そこでは痛みを感じないし、疲れないし、どんな武器でも呼び出せるよ。好きなだけ楽しみなさい。)
まさに自然戦士にとって最良の訓練空間だ。
「やったー! いろいろ試してみるぞー!」ユースはノリノリで様々な武器、様々な戦法を試した。
"Now, I'm going to try, too!"(さて、私もやってみますか!)エリーも仮想空間に入って訓練を行った。
……二時間ほど訓練してみて、ユースはいろいろと発見をした。
ユースは狙撃が得意なようだ。エリーのように機動射撃や早打ちはできないが、正確な射撃ならユースに分がありそうだ。
さらに、ユースは二刀流戦法や、剣プラス銃の戦法も試してみた。
剣は、アメリゴの大手武器会社が開発した、軽くて丈夫な特殊耐火ステンレス製の片刃剣「トルネード・オブ・ザ・サン」が使いやすかった。
銃は、グレッグ社のP-21拳銃を使うことに決めた。
初期装備の太陽剣と、オッティモモールで買った十八万エウローの銃を下取りで出し、「トルネード・オブ・ザ・サン」二振りとP-21拳銃を一丁買った。
価格は下取り込みで三千二百アメリゴダウル。ユースはエウローしかもっていなかったが、クレジットカードで払うことで事なきを得た。
"Thank you. Please come again!"(ありがとう。また来てくれよ!)ユースとエリーが店を出た時には、日はすでに西に傾いていた。
(あらら……遊びすぎたな。今日はこっちに泊まろうかな?)ユースはそう思った。そして、同時にある疑問がわいた。
(なぜコマンドレシーバーの通訳機能が使えなかったんだろう……)コマンドレシーバーは自然戦士の体から発する微弱なエネルギーによって動いているため、充電がなくなることは半永久的に無い。
ならば、物理的に壊れたか?
「……エリー、なんか話しかけてくれない?」ユースはローマ語でエリーに話しかけてみた。
エリーは翻訳アプリをオンにしていない。理由は根が自己中だからだ。
これでエリーがブリデン語として聞こえなければ、ユースのレシーバーは確実に故障している。
「どうしたの? 何? 私が話しかけてくれなくて寂しいの?フフフ。」
しっかりとローマ語に翻訳された。
(よかった……でもなんで、一時期翻訳機能が使えなくなったんだろう?)
「そういえば、ユース。なんで今日ブリデン語で話してたの?」
「ブリデン語の勉強だよ。」
陽は傾いているが、さすがニューアムステルダムのビル群。まだまだ人が多く通っている。
「様々な人種がいるんだな……」
「アメリゴ大陸は、本当にたくさんの人種が住んでいるのよ。ゲルマン系、スラブ系、ユダヤ人、エイジャ系、アフロ系、ネイティブ・アメリゴン……あげだしたらきりがないわ。」
「そんな多種多様な社会で、なんで黒人とエイジャ系が差別されるのかなぁ?」
「白人たちは『肌に色がないこと』を誇りに思っているとされるからかしらね。」
……そんなことを言いながら歩いていると、
「ドロボーだ~~~!!」急に男の人の悲鳴が聞こえた。
「なんだなんだ!?」ユースが慌てて周りを見ると、前方二十メートルほどに、打ち倒されたされた黒人と、猛スピードでユースたちから遠ざかって逃げていく白装束に身を包んだの姿があった。
「まずい、ひったくりだ!直ちに確保して……」ユースがそう言いながらコマンドレシーバーを接続バングルにセットしようとしたとき、エリーがちょうど麻痺弾をひったくり犯に命中させたところだった。
「速い!!」これにはユースもびっくりした。
ユースがレシーバーを取り出し、セットしようとしていたわずか一秒足らずの間に、エリーは懐から銃を取り出し、「変化~麻痺~」のICカードを銃に取り付け、ひったくり犯の頭を正確に撃ったのだ。
「とにかく……犯人を拘束しないと。」
ユースはひったくり犯に近づいた。エリーは被害者の黒人に近寄った。
「おとなしく署まで来ていただこうか。」しゃがみながらユースは警官でもないのに、そんなことを言ってみた。
「ひ……ヒィィーーーーーーーーーー!!」白装束の男は結構腰抜けだった。物理的に腰が抜けながら後ずさりしている。
さらにユースは全く意識してなかったが、ユースの感情のかけらもない目に圧倒されていた。
「抵抗するな。それと大人しく素顔を見せたらどうだ?」ユースは無理やり男の白装束の顔の部分をはぎ取った。
「ヒィィィーーーーーーーー!! 助けてください!! 何でもしますからあああああ!!!」そこには若い白人の男の顔があった。
「あのさ、麻痺弾食らっておいてなんで元気なの? あとひったくりとかするくせに気が弱すぎない?」
「お願いします!! このことは先輩には内緒に……」
「へ? 先輩?」
「そうです!実は僕、最近KKKに入ったばかりで……先輩から黒人の荷物を盗ってくるように命じられたんですけれど、この通り気が小さくて……」
「なるほど……ちょっと待て。今サラッととんでもないことを言ったな?」
「え?……いやその違うんですそれは……!」
「ルーク!! 何をしている!!」急にユースの背後から鋭く、かつ野太い声が聞こえた。
ユースが振り返ってみると、ルークと呼ばれたひったくり犯の着ている白装束に身を隠した男(?)たちがいた。
先頭の男が口を開いた。まあ外見からは口が開いてるかわからないが。「貴様……うちの後輩の育成の邪魔をする気か?」
白装束の隙間から出る視線に込められているのは……殺気!
ユースはゆっくりと立ち上がった。「ジェームズが言ってたな……『K《クレイズ》・K《クルー》・K《クリア》』には気をつけろって……」
そのまま静かにレシーバーを装着。
「……エリー、臨戦態勢をとれ!」
第二十四話 K・K・K に続く
あとがき:「自然戦士」第二十三話補足
なぜユースのコマンドレシーバーが使えなくなってしまったのか。
劇中にある通り、コマンドレシーバーは自然戦士の体から微弱に放出される想像エネルギーを動力としている。
しかし、ユースは猛吹雪の中を歩くために、エネルギーを放出して体を温めていた(第二十話~二十二話参照)。
それ故に、ユースの想像エネルギーが枯渇してしまい、コマンドレシーバーが動かなくなったのである。
その後、ミリタリーショップの射撃場でコマンドレシーバーを機械にセットした時、同時にエネルギーが充填されたので翻訳機能がよみがえったのである。
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