第三話 いきなり大手柄

 リムジンがローマンド帝国の首都「ローマ」に到着した。

 国内最大の都市の名に相応しく、街はたくさんの人で溢れていた。人種もまちまちだ。恐らく任命式を見物しに来た観光客だろう。

 リムジンは、任命式が行われるコロセウムの前に止まった。

 リムジンでやって来たのは、今年の神託によって自然戦士に選ばれた一人の少年だ。

 リムジンの扉が開くとそこにいたのは、軍服姿のユース・Aアルペジオ・ルーヴェが……熟睡していた。

 それも当然、ユースは昨晩悪夢にうなされて寝られなかったのだから。

 「ユース殿、起きてください。着きましたよ」 兵士の一人に肩を叩かれて、ユースはやっと目を覚ました。

 「あ、もう朝ですか?」完全に寝ぼけていた。

 「控え室へ案内します。そこで任命式の段取りを説明しますので……」

 実はユース、ローマに来るのは内戦以来である。

 元々はローマに住んでいたのだが、国外に亡命してから帰国したときには、ローマには二度と行きたくないと、ローマから四百キロ離れたミラニアの孤児院に住んでいたのだった。

 なので、コロセウムに入ったユースは顔色が悪かった。いつも悪いように見えるが、いつも以上に悪かった。



 「さて、これから任命式の段取りを説明します」控え室で騎士がユースに言った。

 「ユース殿には、入場口付近で待機していただき、皇帝陛下の『新たな自然戦士の入場!』とおっしゃられると同時に、ローマンド帝国国歌が演奏されますので、その時に入場してください。その後、任命式に先立って『精霊召喚の儀式』が行われますので、指示にしたがってください」

 精霊召喚の儀式とは、任命される自然戦士にどんな守護精霊が付いているかを確かめる儀式である。

 この儀式をもって、自然戦士は初めて、どの力を持った自然戦士になるかを知るのである。

 自然戦士はぜんぶで六種類。

 太陽の精霊の力を持つ「太陽戦士」。

 氷の精霊の力を持つ「氷結戦士」。

 雷の精霊の力を持つ「雷鳴戦士」。

 水の精霊の力を持つ「水流戦士」。

 風の精霊の力を持つ「突風戦士」。

 そして大地の精霊の力を持つ「砂塵戦士」である。

 「儀式の後、任命式になりますので、皇帝陛下から武具一式を受け取ってください」

 「はい……あの、今年は僕一人だけですか?」

 控え室にはユースと兵士数人の他は誰もいなかった。

 「この地域は一人だけですね。任命式は、『王』又は『女王』のいる地域で行われますので」

 「王」と「女王」とは、六種類の自然戦士の中から、男女一人ずつ選ばれる、最強の自然戦士の称号である。

 ローマンド帝国皇帝オクタヴィアヌスは、皇帝であると同時に太陽王でもあった。

 「他には……任命式はどこでやるんですか?」とユースは聞いてみた。

 「ブリデラント王国のルンドン、アメリゴ合衆国のワトソン、ニポネシア共和国のトウキョウなどですね」

 その時、時計の針が十二時を指した。

 「ユース殿、時間です。入場口に移動してください」ユースは兵士につれられて入場口に移動していった。



 ユースが入場口の前に来ると、既に人々の歓声が飛び交っていた。

 コロセウムには十万人位の人が集まっている。出てくるのが地方の孤児院で育った少年だと知ったら、人々は失望するだろうと、ユースは内心心配していた。

 そんな心配を書き消すように、皇帝の声が聞こえた。

 「さあ、この世界の平和の礎を築く新たな自然戦士を向かえよう。入場!」

 「頑張って下さい!」兵士の声に背中を押され、ユースはコロセウムに出た。

 十万人の観客がユースを見ている。ユースを見て失望するようなものはいなく、皆が歓声をあげていた。

 ユースがコロセウムの中央に来ると、そこに祭壇があった。その奥にいるのはローマンド帝国皇帝にして太陽王、ユリウス・オクタヴィアヌスである。

 「この者が、新たなる自然戦士、ユース・A・ルーヴェである!」

 途端に、ユースが頭を押さえてうめき始めた。

 「ユース殿! 大丈夫ですか?」兵士たちが心配しながら駆け寄ってきた。

 ユースはひどい頭痛を感じていた。脳裏に写っていたのは、思い出したくもないだった。

 「だ、大丈夫です……」何とか立ち上がりながらユースはそう答えた。

 皇帝はタイミングを見計らって言った。「……では、精霊召喚の儀式を始めよう。ユース、その祭壇に手を置きなさい」

 ユースは苦痛に顔を歪ませまいとしながら、祭壇に手を置いた。

 すると、ユースの体からエネルギーがわき出てきた。

 そのエネルギーは次第に人のような形に形成されていき……やがて消えた。

 「精霊がわかりました」側にいた牧師が言った。「ユース殿の守護精霊は、天照大神です」

 「あ、天照大神!?」皇帝は驚いていた。観客の間にも衝撃が走っていた。

 ローマンド由来の精霊ではなかったからだ。

 「ユースよ、そなた何者なのだ!?」

 「さあ……僕先の内戦以降長い間外国に住んでたらしいんですけれど、児童期の記憶が無くて……」

 「なるほど、ニポネシアに亡命していたのなら、ニポネシアの精霊が付いてもおかしくないが……記憶がないとはどういうことだ?」

 「そんなこと言われましても……」

 「まあ良い。ユースよ、そなたを太陽戦士に任命する!」

 忘れていたかのように観客の勢いが戻った。

 「それでは、自然戦士のアイテム一式を授与する。来なさい、ユース」

 ユースは玉座に近づいた。玉座の側には、スマホのようなもの、カートリッジのようなもの、腕輪のようなものを持った側近が立っていた。

 太陽王はそれを取ると、ユースにそれを渡そうとした。

 そのとき、ユースは変な感触に襲われた。観客席から、何かが光ったのである。

 (カメラのフラッシュか?いや、何かが反射したような……いやまさか!)

 「危ない!!」咄嗟にユースは皇帝を突き飛ばした!


バン


 僅かに遅れて銃声が鳴り響き、ユースの前を銃弾がかすめた。

 観客席から悲鳴が聞こえる。ユースはすぐさま弾が飛んできた方向を見た。

 観客が逃げていくなか一人だけ、黒いマントを来た誰かが、狙撃銃を持って立っている!

 皇帝は倒れたまま叫んだ。「出かしたぞ、ユース!」ユースは自然戦士任命0日で、いきなり大手柄を立てたのである。

 マントの男が観客席から飛び降り、こちらに向かっている。

 皇帝は激怒していた。「おのれ、皇帝である私の命を狙うとは、絶対に許さん!!!」



第四話 初陣 に続く



 あとがき:「自然戦士」専門用語其の二


 「自然戦士」と「ギート」

 500年前にエウローシャ大陸の東からのちに「ギート」と呼ばれる怪物の大群が襲ってきた。

 精霊は人々を守るために「自然戦士」の力を人々に与え、これを撃退させた。

 ギートは今でも世界各地のどこかに現れ、悪事を働いては自然戦士に倒されているが、未だにその詳細は明らかになっていない。

 自然戦士は想像力をエネルギーとする戦士。技をイメージすることによってそのイメージ内容を現実に反映する事ができる。

また、一人一体ずつ「守護精霊」がおり、守護精霊によって 想像力の「質」や「量」が変化する。

 ユースに憑いた守護精霊は「天照大神」。太陽の精霊の力を持つだけでなく、想像力の質と量が全精霊の中でトップクラスに高い。

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