(一)-3

 私はその顔を見て、驚いた。そこに横たわっていたのは、友達の八木加奈江だった。

 加奈江とは小学校以来の友達だった。中学生のときは別のクラスで交流は減っていたが、同じ高校で再び同じクラスになり、二人で大いに喜んだ。私は陸上部、加奈江は文学部と、別々に活動していたが、友達であることには変わりなかった。

 その加奈江がどうして今、担架で運ばれているのか? 飛び降りと聞いたが、どうして飛び降りることになったのか? 彼女に何があったのか? クラスで彼女はいつも通りだった。一体何があったのか? 何をどう考えても、その理由は思い当たらなかった。

 運ばれて行く加奈江に向かって叫びたい気分であったが、私は声が出せなかった。

 私は人垣の隙間から運ばれていく担架を見つめることしかできなかった。


(続く)

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