水冷式のお嫁がやってきた
@Aithra
プロローグ上『3840*2160のお嫁』
胴を起こしたら、50型ばりの液晶モニターと目があった。
背後につたう配線を追っていけば、見上げるばかりの円柱型水槽がそびえている。
なんのこっちゃ。
辺りをぐるっと、一隅から一隅まで睥睨してみる。
見開いた本やら、脱ぎ捨てた衣類やらが目を引く。
主の性格が手に取るようだ。
代わり映えのしない我が部屋に、どうしてこんな代物がある。
どこぞの研究機関と取り違えたのでは。
にわかには信じがたいことだが、宅配業者の運搬ミスとしか考えられまい。
うちの玄関口を潜ってくるには大規模改築も辞さない、あるいはクレーン車でも手配して窓から……といったところか。
そのプロ意識を品質改善に注いでほしいものだ。
はたと窓を一瞥した。そしてドア。
いずれも鍵はかかっている。
幾度か眉をこすったが、赤みを帯びて腫れるばかりだ。
眼前の景色や移ろう兆しはない。
気分が悪くなってきた。これはどうも、いよいよもって──。
「──あ。あー、マイクテス、マイクテス。寿限無じゅげむ……なまむみなまもめなまままも……」
陰謀だ、と口に出す前に、前方の液晶が像を結びだした。
原色の波が、都合三回ほど映像をかき乱す。
そのうちに、設えられたスピーカーから、いまひとつ要領を得ない声が発せられる。
一寸して、それは今しがたまでが嘘のように、いやに明瞭な響きをみせた。
「うおっほん──。そこな貴方さま、私の聞こえておりますか。聞こえているならお返事をください。いえ、やはり結構です。今、お顔が引きつりました。加えて、目をそらしました。その仕草が雄弁に仰っています。お会いできて嬉しく思います」
蛍光体が、不気味な笑みをたたえる。
およそ表情というより幾何学模様のようだ。
人を騙った人の産物が醸す、得体の知れない悪趣味さがそこにある。
「なんだお前は。どこから入ってきた」
そう絞り出すので精一杯だった。
すると、その声はなぜか、いたく嬉しそうに言った。
「至極ごもっともな疑問です。お答えいたします。端的に申し上げますと、私は貴方さまの『妻』です。不束者ですが、どうぞ末永く、よろしくお願いいたします」
なるほど、よく承知した。これは夢だ。
道理で統一性のないわけだ、うっかりしていた。
どうしてもっと早く直感しなかったのか、不思議でならない。
ばかみたいだ。おやすみなさい。
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