第22節 決闘
アミ視点
「なかなかやりますね。あなたのことを少々
「そんなん気にしないでさっさとこいよ」
右手をひらひらと動かしてなんともないように見せつける。
実際めちゃくちゃ痛い。鎧着ている相手に、正拳突きやったのはいいけど完璧右手折れたなぁ。だって、めちゃくちゃ痛いもん。泣きそう。
「そうですか。ならば少し遊んであげましょう」
そう言うと、デロルは右手をかざすと右手から炎が出てきて放射してきた!
「ちょっと、それは無理!」
炎に当たらないよう必死に逃げる。でも、周囲に火を防げそうなものがない。
木に隠れても一瞬で燃えてしまう。
「
「魔法せこすぎんだろ!」
何か使えそうな物はないかと周囲を見ても何もない。この辺にあるものといったら木しかなくて、木を使うにしても絶対炎ですぐダメになる。
「うお!?」
何につまずいて転んだのか見てみると兵士達が使っていた剣が落ちていた。
「くらえ!」
剣を拾い、デロルに向かって投げる。
「剣だって、燃えますよ」
「どこへ消えたのですか」
デロルは炎を放射するのをやめて、キョロキョロと周りを見ている。
「ここだよ」
デロルの背後に周りこんで、傷だらけの男にもやった正拳突きを胴体に狙う。
「部族がやりそうなことですね」、とデロルはニタリと笑った。
正拳突きが当たった感触はあったでも、左手が冷たく痛かった。
言葉にもならない声が無意識に出て叫んでしまう。うちがデロルの前で左手を抱えて
「剣を投げてそれを炎で防ぐという読みで、僕の背後に周りこんで攻撃をするというのは、なかなか良い判断だと思います」
デロルの胴体を見ると、氷の針がついた壁が張られていた。
「ですが僕は魔法が使えます。あなたとは違いますので」デロルは右手を突き出して「これで終わりです、部族の少女さん」、と
「気になったんだけど、なんでそこまで部族が嫌いなの?」
「部族に僕の家族は殺されたからです」
手を突出したままで、表情が変わった。
「クレアくんと同じだな。そんな同じ事情の子どもを騙してまで、学校を燃やさせるなんておかしいだろ?」
「いえ、僕は騙してはいません。そしておかしもありません」
話が通じなさすぎて、ため息をついた。
「あっそ」
立ち上がり、デロルの腕を掴みに飛びつく。
「な!?」
デロルが驚いているうちに、腕を掴み上にあげると、デロルが魔法で出した炎は空に向かって放たれた。
膝蹴りをみぞおちに入れると、デロルは苦しそうな声をあげる。このままの勢いに乗って、背負い投げをする。
「この、調子になるな」
背負い投げは決まらず、左手から放たれた魔法で飛ばされる。
「部族の娘、騙したな」
「クレアくんや如月騙したんだから、お互い様」態勢を立て直しながら「あんた魔法は1度に1つしか使えないでしょ」指摘する。
魔法はアニメとかゲームみたいに同時に出せるものだと思っていたけど、さっきから出しては消してって、繰り返していたのが気になった。
「それがどうしたと言うんだ、お前は結局死ぬのだからそれを知って何になる」
デロルはスカートの裾から2つの長方形の紙を出した。うちに紙を向けると、水の魔法と風の魔法が放たれた。
「トーテム!?」
「お前は持っていないよなぁ、さっき気づいた僕の弱点はどうやら無駄になったようだな」
デロルは高らかに笑いながら長方形の紙を何枚も取り出し、いくつもの魔法を使う。
うちは
クソ、せっかく勝機が見えたのに。うちも魔法を使えたら、1度だけでもいいから使いたい。瞬間移動とか時を止めるとか使いたい。
勝ち目がなくて、笑ってしまう。
「どうした、急に笑って幻覚でも見えたのか?」
デロルは高らかに笑い魔法を放つのを止めない。
「つい最近まで高校行ってただけだのに、こんな魔法なんてある馬鹿げた世界に来て死にそうになってんだから、笑うしかないでしょ」
走り続けて、何か策はないかと考える。
「なんの話をしているのだ、部族の考えることはわかんないな」
「うちは部族じゃないし、日本人だからなおさら考えることわかんないかもね」
デロルに向かって一直線で走る。
「気でも狂ったのか」
デロルはうちに向かって雷や風、炎といった様々な魔法を使う。
スカートのポケットから炎のトーテムを取り出し、炎をデロルに向かって放射する。
「なんでお前が魔法を」
デロルはとっさに水の魔法を使って、炎を食い止める。
「これはあんたがクレアくんにあげた炎のトーテムだよ」
トーテムで炎を出してデロルに近づけるだけ、近づく。
「これ以上近づくな」
デロルの水の勢いが増した。
たぶん水のトーテムを使ったんだろう。
水が体にかかるくらい炎が押されて小さくなっているけど、突き進む。
「なんでここで」
あと少しというところで炎が使えなくなっていた。
「吹き飛べ!」
水が一瞬にして襲い掛かる。
水の流れで体が吹き飛びそうだ。しかも、水の流れが強すぎて体が痛い。
「お前が、」
水の中から左手を必死に突き出してデロルの腕を引っ張る。
「そんなはず」デロルの驚いた顔が見えた。
「吹っ飛べ」
右手からの全体重を乗せたストレートを顔面に当てる。
デロルの体は後退り、勝ちを確信した。
倒れたと思った。だけど、デロルは体を立て直した!
「僕は、」
「まじか」
まさか倒れないとは、デロルより体が立派な奴でも倒れたというのに、なんというタフさだよ。
「噓でしょ」
デロルが、手のひらをかざした。
攻撃がくると思って、避けようとしたら足元がすくわれた。
──さっきの水のせいか!
「英雄なんだ」
デロルはうちに向かって炎の魔法を使う。
踏ん張って、態勢を少しでも立て直す。
デロルの炎でうちの髪を燃えたけど、右アッパーを無理やりデロルのアゴに入れる。
デロルの体は宙に舞い、地面へと落ちていった。
「クッソ」
それに続いてうちも倒れこむ。
体の節々が痛い。
デロルが使った魔法で山火事状態になっている。火がそこら中に燃え広がっていて、今すぐにでも逃げないと死んでしまうっていうのに、足が痛い。
さっき態勢を立て直したとき右太ももが、肉離れを起こしたかもしれない。
足を引きずって、ほふくで前に進む。だけど、右手は折れていて左手もケガをしていて思うように進めない。
それでも前に進むが火や煙の勢いが増して、息を吸うのが苦しくなる。
──ここで死ぬの? こんな見知らぬ世界に来て独りで死ぬ? 絶対に嫌だ。
意識がもうろうとしながらも、前に進むが力が入らずまったく進めなくなっている。
「よくがんばった、あとは任せろ」
誰かの声がした。声がした方向を見ると猫がいた。
──とうとう幻聴まで聞こえるようになったか。
燃え盛る炎の中歩く猫を見てからのことは覚えていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます