第13節 これまで

歌川視点



 クレアくんは黙っていた。


「なんでそう思うの」

「これだよ」


 アミが指さしたのは、地面に落ちている長方形の紙だった。


「これってトーテム?」

 アミに恐る恐る聞いてみる。

「トーテムだ。火のな」

「なんで、こんなところにあるの?」

「こいつが持ってたんだよ。何か落としたところ見てたけど、まさかトーテムだったとは」


 クレアくんはおびえていた。体を小刻みに震わせて、小さく丸まっていた。


「でも、クレアくんが持っていただけであって燃やしたのはクレアくんってわけじゃないでしょ」

「さっきまでの様子見ればわかるだろ。まぁ、証拠がないからなんとも言えないけど」

「クレアくんが学校に火をつけたの? 違うなら違うって言った方がいいよ」


 証拠がないとしても、今疑われているクレアくんに聞いた方が早いと思い、聞いてみる。でも、クレアくんは黙ったままだった。


「なんでトーテムを持ってたんだ?」アミはため息をついた。


 それでも、クレアくんは黙ったままだった。


「お願いだからなんか言って。私だってクレアくんの無実は証明したいよ」

優しくクレアくんの肩を掴む。


「あー! もうめんどくさいな!! もうこの際うちらがランタンつけっぱなしで帰ったから燃えったってことにしようぜ。早く連れて帰って手伝おう」

 アミが頭をかきむしり大声になる。


「それは適当すぎない? クレアくんがもしかしたら犯人見つけているかもしれないし」

「だと、しても早く帰るにこしたことはねえだろ」

「確かに」

「それじゃあ行こうか」私はクレアくんの手を握り軽く引っ張る。


 クレアくんは手を払った。


「…そうやってお母さん達を殺したの?」


目つきが今まで向けられたことがない憎しみがこもっていた。

 誰かに憎まれたこと、嫌われたことはある。


 お兄ちゃんの大切なゲームのデータを消した時。友達とおそろいで買ったキーホルダーを無くした時。親の財布からお金を勝手に抜き取ったのがバレた時。あげたらきりがないくらいあるけど、ここまで強くにらまれたことはない。


 この村に来てから、憎しみの目で見られることが多い気がする。


「どういうこと?」

「そうやって村に入りこんで、みんなを信用させて襲ったんでしょ」

「意味わかんねぇんだけど」


アミが今にもクレアくんを殴りそうだった。腕を前に出して止める。


「おまえら部族って聞いた。ここではないどこかから来たって」

「確かに私達は別の場所、世界から来たよ。でも、絶対に誰も傷つけたりはしないよ」

 

──ここで噓をついて部族じゃないって言っても無駄そうだ。真剣に言おう。

 クレアくんはどこかで大きな勘違いをしてそこから、さらに厄介な思考になっているんだろう。


「歌川が最近この近くで兵士を襲ったって聞いたし、僕の村も襲ったって聞いた」

 クレアくんは泣きながら怒った様子で言う。

「襲ってないよ。逆に私が兵士に襲われたし、この世界に来たのもつい最近だからクレアくんの村には行ってないよ」

 ムキに反論しそうなのをこらえてさとす。


「噓だ、そう王国から来た人から聞いたもん」

「歌川が言っていること本当だぜ」


 アミが地べたに座り、のほほんと言う。


「同じ部族の仲間だから庇うんでしょ」

「同じ日本人だしなー」

「アミちょっと黙ってて」アミの口を抑える。

「噓じゃないよ、ホントだよ」


 私はそっとクレアくんの元に歩み寄る。クレアくんは怯えて後退り、足元に落ちていた石を拾い上げる。


「これ以上近づいたら投げるよ」

 声と石を持ち上げた腕が震えていた。

「いいよ、私はクレアくんの誤解を解きたいからね」


 私はさらに歩み寄る。

 クレアくんは石を私の頭めがけて投げてきた。

 おでこを触ると、血が出てた。目まで流れた血を手で拭う。


「歌川!」

「大丈夫だよ」


 アミが心配そうに声をかけるが止める。


「クレアくん、私はね日本から来たの。ここからすっごく遠いところですごく高い建物がいっぱいで、人も肌が黒い人、白い人。目が青い人、黒い人。髪の色だってみんな色々でね」


 クレアくんはヒザが震えていた。


「ご飯も色々あってハンバーガー、チーズタッカルビ、マグロ丼とか数えきれないくらいの料理の数でどれもこれも美味しくて、学校に行くとね。なんか話が飛び飛びでごめんね」


 私はゆっくりと私がいたところについて話す。


「アミ、如月といつも授業中ふざけたりして先生に怒られて、放課後カラオケとかボーリング行っていつも楽しかったんだ」

「私この世界、村に来てさらに色々なこと知れて良かったよ。洗濯機がどれだけ有能か、言葉が伝わらないっていう怖さとか、大勢で食べるご飯とか、いっぱい知れて良かった」


 クレアくんをそっと抱き、優しく話し続ける。


「部族の人達じゃないよ。ただの日本人で環王高校3年の優香歌川だよ。クレアくんを絶対に傷つけない。決して可哀想とか思わない」


 私は息を大きく吸こみ。


「だって一緒にいたいもん」


 目の前がぼやけて、それからのことはわからなかった。

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