第11節 火災

「学校が燃えてる」

 学校は全体に火がいきわたっていて、黒い煙が夜空に届くくらい出ていた。


「なんでこんなことが起きたんだよ」

 アミが苛立いらだち、声を出して、周りを見る。

「わからない。今は火を消そう」

 クロノさんがアミを落ち着かせる。

「クソ」

 アミは、クロノさんの手を振りほどき、地面に転がった木片を蹴り飛ばした。


 学校の周りには、兵士が水のトーテムを使って消火活動を行っている。他にも村人達が川から水をバケツリレーの方式で運んで火を消そうとしている。


「あたし達も手伝おう」

 如月がバケツリレーの列に組み入っていく。それに続いて孤児院の子ども達やセシルが消火を手伝う。

 私も遅れてバケツリレーに参加する、あることに気づいた。

 クレアくんがいない。いつもは学校の近くにいるけど、どこを見ても人の群れで見つけられなかった。なにせ、学校の周りには野次馬や消火をしている人が多くいる。


「歌川どうした?」

 私の後ろにいるアミが声をかける。

「クレアくんがいない」

「まじかよ」

 アミも私と同じように周りを見ているけど、見当たらなそうだ。

 私の前にいるセシルに「ごめん、クレアくんが見当たらないから一旦抜ける」、と伝え、列から出る。

 アミが後ろから「うちも探す」、とおでこの汗を拭い言った。


「私は、川の方探すから、アミは家の方探して」

 川沿いには、人が列になっている。火消し用の水を汲みにきているのだろう。学校の火消しも大切だけど、嫌な予感がする。

 今はクレアくんを探すことに集中しないと。


 探しても探してもクレアくんは見当たらない。クレアくんは子どもだから、こんな人だかりの中から探すのは難しい。

 クレアくんが学校の付近にいないことを祈るしかなかった。


「歌川見つかった?」

 アミと探している途中に合流したが、アミが聞いてくるのだから見つかっていないのだろう。

「見つかんない。火事が起きたときに学校から逃げてくれてることを祈りたい」

「そうだな」


「子どもが学校の中にいるだって!?」

 兵士達が話し合っている声が聞こえた。


 子どもが学校の中にいるってことでも、肝が冷えるっていうのにクレアくんが学校の中にいるとしたらなおさら不安だ。

「その子どもってどんな子ですか?」

 私は不安になり、兵士に聞いてみる。


「すまない、そこまでは…」

 兵士にお礼を言い、再びクレアくんを探そうとしたら、アミに肩を掴まれた。

「歌川、まさかあの中に入ろうってつもりじゃないよな」

「そんなことしないよ」

 私の肩を触れたアミの手を握る。


 正直一瞬その判断はしたけど、それは絶対しちゃいけないことだと思った。もし、クレアくんが中にいたとしても、どちらかが助かる保証すらない。

「そっか、如月達のところ戻るか。あとは兵士がどうにかしてくれるべ」

 バケツリレーの列に再び戻ろうとしたとき、1匹のミケ猫がアミの前に立った。4本足をたたんで地面に座り、私達を見つめている。

 どこかで見た覚えがある。


「この猫ってあれだよな。この前学校にいた」

「うん、普通こんな騒ぎの中猫っていないよね。野良猫に近寄ろうとするだけでも逃げ出すのに」

 私とアミは猫を不思議なものみているかのように、猫と目を合わせる。


 ふ。と猫は立ち上がり森へと向かっていく。

「どうしたんだろうね」

「あの猫うちらをどこかに案内しようとしてんじゃね?」

 アミの言う通りミケ猫は振り返って、待っていた。

「ニャー」、と鳴きまるで私達に「案内するからついてこい」と言わんばかりの態度だ。


「とりあえず、ついていく?」

「もしかしたら、クレアがいるかもしれないしな」

 私達はミケ猫の後を追うことにした。

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