サマー・HSS・マタステイシス

川上アオイ

第1章 転移・イムル村

第1節 転移

歌川視点



 目を開けるとそこは水の中だった。


足元にぬるぬると水とは違う感触かんしょくがし、下を向くと茶色に黒を足したような土があった。


「!」息が吸えない!


 当たり前か! 水の中にいるんだからそりゃ苦しくもなるか!

 私はどうにかこの水の中から出ようと、ジタバタと足や腕たちを動かす。


 周りを見てなにかいいものがないかと探していると、私以外にも水の中に2人いた。2人は私と同じく酸素がなくて苦しんでいるようだった。


 次の瞬間、水は風船が割れるみたいに弾け落ちた。


「イッターイ!」

 地面に体を叩きつけられて、気管に侵入してきた水を口から吐き出していると、私の隣にいた金髪の女の子が声を出す。


「歌川大丈夫? 頭とか打ってない?」


 その子はむせながらも、私の背中をさすり心配してくれた。


「どちら様ですか?」

「酷い! …あれ?? あたしって誰だ? あ! そうだ! うちは現役JKの読モをしている超絶銀河級ウルトラ美少女ってのは覚えている…」


 金色に染めた髪を肩まで伸ばし、私と同じ制服を着た女の子はアゴに手を当てて、考える素振りをする。


「JK以外なんにも当たってないでしょ。歌川も記憶喪失してるみたいに嘘つかないでよ、びっくりするから」


 今発言した女の子は、うなじまで伸ばした赤髪に含んだ水を絞りながら、アミと私に向かって指摘してきした。

 私はもちろんこの2人を知っている。なにせ、3年近く連れそった仲だからだ。

 


「そうだったね~。アミのカワイイカワイイ如月きさらちゃーん」

 アミは如月の赤い髪を撫でた。


「重いんだけど! あたしの上から降りて!」

「ごめん、ごめん」

「なんで謝ってんのに降りないの?!」

 如月は必死にアミの下から抜け出そうとしているけど、体格差があるから抜け出せずにいる。


「私も如月の上に乗ろー」

 アミが如月の上半身に乗ったので私は下半身に乗った。


「ふんぎー! なんで歌川まで乗るの。てか、ここどこ?」

「「確かに」」


 アミと私は顔を合わせて不思議そうな顔をし、辺りを見るが真っ暗でほとんど見えなかった。見えたとしても大きな木がいっぱいあることくらい(ここはどこかの森?)。


「ここに来る前私達川で遊んでたよね?」


 私とアミは如月の上から降りて、これまでのことを思い返す。

「そうそう。うちら、高校最後の夏だからって終業式が終わってから学校の近くの川で遊んでて…」


 アミがアゴに指を組みながら考えながら言うのに、補うように如月が答える。

「それで、あたしが川の深いところに入っちゃって、2人が助けようとしてくれたのは覚えてるんだけどなぁ…」

 私の思い出したことに、アミが覚えていることをつけくわえて、如月が覚えていることをつけくわえる。3人でそれぞれの記憶をパズルみたいに繋ぎ合わせていくけど、肝心なことが思い出せない。


「ハックショーン」

 アミが大きなくしょみをした。私のそばに落ちていたカバンからハンカチを取り出して渡す。私はある異変に気づいた。


「あれ? なんでカバンがちゃんとあるん? しかも濡れてないし」

 2人のもあたりを探すと、それぞれのカバンがあった。それぞれカバンを持ち主に渡す。


「あたしのも濡れてなかった」

「アミのも濡れてないし、何もなくなってないよ」

「もー! 謎ばっかで嫌になる、如月どうにかしてよー」

「どいてよ、あたしだってわっかんないよ」

 如月は抱きついた私を引きはがそうとする。


「ん? 川に入ってあたしを助けようとして2人とも溺れてなかったっけ?」

 如月はそう言うが私はまったく覚えていない。

「そうだっけ?」


「そうだよ。誰か溺れているときにあたしに抱きついて、生き残ろうとしてたもん!」

 如月が言っていることが本当か記憶を思いそうとしているとチラホラ思い出してきた。

「私も誰かに足を引っ張られた!」

「うちもだんだん思い出してきたけど、歌川がうちの足引っ張ったじゃん!」


「え? アミ、なにその噓! 私そんなのやってないよー!」

「あたしはアミに引っ張られた気がするんだけど!」

「如月が言ってることこそ、噓だろ! うちみたいなハイパー親切で正直者が嘘つくわけないでしょうが!」

「「今の時点で嘘ついてるでしょ」」


 私達はそれぞれを睨にらみあう。

 この中で誰かが噓をついているのは、明白だ。誰かが川の中に自分だけ助かろうと、卑怯な手を使った!


「あれ? 誰か来てない?」


 如月が指をさした方向を見てみると、灯りがあった。そして、耳をすますとかすかに聞こえた。

 男性2人の話し声が聞こえる。


「やった! 家に帰れるじゃん!」


 アミがおーい、と光の方向に呼びかけると、灯がさっきとは違った速度でこちらに近づいてくる。


「走って来てくれてるね。夜遅くだから女性が外に出ているのは危ないと判断して、急いできてくれるなんて紳士だねー」


 男性2人が私達の前に現れたけど、テレビでしか見たことない甲冑かっちゅうを着ていた。


「         」


 男性2人は私達に向かって言葉だけど、聞き取れない言葉を言う。


「なんって言ってんの? うち英語得意じゃないからわかんない」アミは鼻で笑う。

「いや、あたしもなんって言っているかわかんない。もしかしたら、英語以外かもよ」

 如月は困った顔で私を見る。

「私も英語得意ってわけじゃないし…。とりあえず、ジェスチャーとかしとけばどうにかなるでしょ!」


 私は男性2人の顔を見ながら「助けてください!」、とわかりやすくジェスチャーする。

「             !」

「       !」

 男性2人は大きな声をあげて私に近づく。

「言葉は通じてないけど、想いは通じるんだね! アイラブユー!」


 男性の1人は、腰に携えた剣を抜き私を切った。


「え?」

 学校指定のワイシャツと水色のキャミソールが2つに斜めに別れる。


「逃げよう!!」

 アミは私の手を引いて走る。

 森の中を、男性2人からとにかく逃げようと必死に私達は逃げる。


「なんなのあの人達!?」

 如月が息を荒げながら聞く。

「うちにもわかんない!ドッキリにしては悪質すぎるでしょ!」

 私達は走り続けた。色々と考えること、謎はあったけど今は生き延びるために走るしかなかった。

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