【No. 143】光のたま

 ある日とつぜん、光のたまが見えるようになった。

 さいしょは、見まちがいかと思った。まぶしいものを見たあとに、目をとじてもチカチカして見えるのがあるでしょう?

 あれににたようなものなのかと思っていた。

 でも、そのひかりはちっともきえなかった。お母さんとお父さんと、ときどきぼくのまわりをひょろひょろとぶ。


「おかーさん、あそこになにかある?」

「え? リモコンが置いてあるけど……どうかした? チャンネル変える?」

「ううん、だいじょーぶ」


 お母さんには見えてない。


「おとーさん、あれなに?」

「ん? あれ、って……スノードームか? あれはお前が三歳の時に旅行先で買ったんだよ」

「そっかぁ」


 お父さんにも見えてない。

 あれが見えているのはぼくだけだ。


 ぼくにしか見えないことに気がついて、もしわるいものだったらどうしようと思った。光のたまにさわることはできなかったから、何かわるいことをしそうになってても止められない。

 ぼくは毎日しんちょうに光のたまをかんさつした。


 光のたまは、お父さんとお母さんがなかよくしていると、二人のまわりをくるくるまわる。二人がちょっとした口げんかをしていると、とおくにはなれていってしまう。それか、ぼくのうしろにかくれるみたいにする。


 ぼくはなんだかそれがかわいくて、光のたまとずっといっしょにいたいと思うようになった。

 でも、どうすればずっといっしょにいられるのか分からなかった。さいしょに見たときからずっとお母さんのいるところにいるけど、いつきえちゃうかも分からない。


「きみがぼくの弟とか妹になったらいいのになぁ」


 ぼくがぼそっとそんなことをつぶやくと、テレビを見ていたお父さんがふりかえった。


「ゆうとは兄弟がほしいのか?」

「うん! 弟でも妹でもいいよ! かわいいもん!」

「ははは、そうかぁ」

「おねがいしたらきょうだい生まれるの?」

「お母さんにも言ってきてごらん」

「うん! おかーさーん!」


 ぼくはお母さんの方に行った。お母さんはだいどころで夕ごはんのじゅんびをしていて、そういうときはだいどころに入るとおこられるんだ。だからだいどころの少し手前からよびかけることにした。


「お母さん! ぼく弟か妹がほしい!」

「なに、急に、どうしたの?」

「だってかわいいもん!」

「えー、お父さんは何か言ってた?」

「うん、お母さんにも言ってきてごらんって!」

「もう……!」


 お母さんはきょうだいをやくそくはしてくれなかったけど、お父さんとかおを見合わせていた。もしかしたら、ぼくのいないところでそうだんしてくれるのかもしれない。


 ぼくは光のたまを見て、にっこりわらった。


 それからなんかげつかたって、光のたまが見えなくなった。見えはじめたときと同じで、きゅうにいなくなった。ずっと近くにあったものがなくなって、ぼくはすごくさびしくなった。

 ばいばいもさせてくれないなんて。


 でも、さびしいきもちはすぐにきえた。ぼくにきょうだいができるって聞いたから。

 お父さんとお母さんがおしえてくれて、ぼくはとび上がってよろこんだ。



 それからどんどんお母さんのおなかが大きくなって、ついに男の子が生まれた。


 生まれたばっかりの男の子は、びっくりするぐらい大きな声でないていた。見せてもらった男の子の目はキラキラとぼくを見ていて、だからすぐに分かったんだ。


「またあえてうれしいよ!」


 赤ちゃんの耳元でこっそりそう言うと、赤ちゃんはぼくを見てわらった。その顔がとってもかわいくて、ぼくもわらった。

 お兄ちゃんになったぼくは、だれよりも弟をなき止ませるのがうまかった。

 えっへん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る