【No. 065】復讐のローサ・クルエンタ 第Ⅶ章・令和JK編
「
稲光が照らす濡れた横顔。腰まで届く長髪を血の赤に染め上げ、純黒のドレスを風雨に
「久しいな、ローサ。
ローブの男が遺跡を見回し不敵に笑う。聖なる炎に手足を封じられながらも、その声色には微塵の動揺も
「この想い出の地で、再び貴様と
「ええ。この古の帝都と同じく、貴方の栄華もここで幕を閉じる!」
悲願の成就を前に震えることもなく。
「終焉の時よ。お父様を殺した槍と、お母様を殺した炎で、報いを受けるがいいわ!」
「くくっ。
どこか得心めいた響きで、男は
「だが、もう遅い! たとえ塵まで焼き尽くされようとも……吾輩は既に、
「ッ!?」
少女の見開いた赤い瞳に、
「空を渡り海を越え……吾輩を形作っていた
「……ならば、追い続けてみせる。この
胸元に
★ ★ ★
「それで、アンタの痕跡っぽい都市伝説を辿って、この時代に転生したってわけ」
朝の喧騒に面した駅ナカの喫茶店。チェックのスカートから伸びる生脚を大胆に組み、スクールバッグにぶら下げた宝珠を片手で弄びながら少女は言った。
ポニーテールの黒髪に茶色い瞳。ブレザーの制服をユルく着こなした出で立ちは令和日本のJKに他ならないが、瞳に宿る魂の光は確かにローサその人である。
「ちょっト待っテ。オマエ、日本語うまくナイ?」
丸テーブルを挟んだ金髪碧眼の男が、片言の発音でツッコミを入れた。
「上手くもなるわよ。病死したこの子の体に入って三年、周りに馴染むために必死に勉強したんだから」
「あァ、その苦労は俺もわかるケド」
アイスティーの氷をカランと鳴らし、少女は苦笑いする。
「その片言も耳障りだから、ラテン語にしましょ。昔はこれさえ喋ってれば上流には通じたのにね」
「ふむ。今とて英語で通せばよいではないか」
「私が喋れるのなんてシェイクスピア以前の古英語よ。それに、英語だろうとフランス語だろうと、異様に外国語が通じないのよ、この国。未だに表意文字なんか使ってるし」
聞き慣れない言語で流暢に喋り始めた二人組に、周囲の客達が好奇の視線を向けてはすぐに逸らしていく。
「ま、外人が溶け込むにはラクな社会みたいね」
「うむ。それで貴様、どうするのだ。まだ吾輩に復讐したいのか?」
「それねー。してもいいけど、貴方、住民登録は?」
「外国人在留
「ほら、そんなのどう殺したって足がつくじゃない。私、ここではただの病み上がりの学生なんだから」
「せめてヤクザ者の娘にでも転生していればな」
熱いコーヒーを一口
「しかし、“
「
「大切にされておるのだな」
「病の淵から生還した一人娘だもの。私が殺人で捕まりでもしたら自害しちゃうわよ、あの人達」
小さく息を吐いて、少女は話題を変える。
「てか貴方、なんで
「あんな知識、もう何の役にも立ちやせぬ。庶民の子が
「あぁ……
「言葉も通じぬ身で日銭を稼ぐには、絵くらいしかなかったのだ。この国の
「タクスじゃなくて
「あんな落書きに愚者共が何世紀も血道を上げおって。時に我が宿敵よ、貴様、進路は決まっておるのか」
「ん? まあ、どっかの大学には行くわよ。今じゃ
「
「はぁ!?」
「貴様の物語を吾輩が絵に描き、
「……なんていうか、満喫してんのね、未来を」
「ここがもう我らの『今』だからな。吾輩と組んで世界を手中に収めようぞ」
「何、その大仰なセリフ」
「宿敵の手前、少しは悪者めいたことも言わねばな」
ドヤ顔とジト目が交錯し、どちらからともなく微笑が漏れた。
「今更だけど、貴方ってそんなに悪い奴じゃないわよね」
「二千年遅いわ。そもそも、貴様の両親を殺したのも吾輩ではないぞ」
「うん……なんとなく気付いてはいたわ。バチカンの公開文書にも書いてあったし」
「カトリクスの総本山まで情報公開の時代か。終末は近いな……」
「あの
アイスティーを飲みきってグラスを置くと、少女は軽やかに立ち上がり、再び日本語に切り替えて言った。
「じゃ、あたし学校行くから。走ればギリ間に合うし。ここは払っといてね」
「オイ、漫画の件の返事ハ!?」
「考えとく。気が向いたらインスタにDMするわ」
自称錬金術師のヘンテコ外人と、自称時を駆けるJKからなるお笑いコンビが一世を風靡するのは、この僅か半年後のことである。
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