【No. 022】再かい発中、立入歓迎区域

「はぁ〜」


 僕はため息を付きながら、家路につく。

 新品のしわがないスーツに身を包んでいるのは、成人式の帰りだからだ。

 なぜ落ち込んでいるかいうと……。


「あれ?」


 なんだこれ。

 今までこんな看板なんてなかったよな。

 よく工事現場で見るような、縦に長い看板が道の脇に立っていた。

 そして、その先には舗装されていない道路が続いている。


「おかしいな……」


 今朝通ったときは、絶対になかった。

 それに、工事現場ならなにかしらのお知らせ的なのも置いてあるはずなんだけどな……。

 それらしいものはなく、手がかりは看板だけだ。


「再かい発中、立入歓迎区域?」


 どういうことだ?

 再開発……だよな。

 なぜか「かい」だけ、漢字に変換されていないが。

 立入……歓迎ってのは?

 工事現場なんだから、禁止の間違いでは?


「……」


 さきほど述べたように、今立っているコンクリートの道路とは違い、むき出しの地面が横には続いている。

 コーンなどはなく、簡単に立ち入ることができそうだ。


「歓迎……ね」


 気持ちが落ち込んで半ばやけくそだった僕は、九十度向きを変えて脇道に踏み出した。


「こんな道が、あったんだなー」


 左右は延々とブロック塀に囲まれている。

 塀の向こうは、どこぞの庭先が見える。

 あまり人様の家を見るのは趣味が悪いので、今度は行先を確認する。

 しかし、なぜか霧がかかっていてはっきりと先が見えない。

 退屈した僕は、一人考え事を始めた。


 再開発って言うくらいだ。

 もともとは利用者もいたんだろう。

 それが寂れて、また工事ってことかな。

 じゃあ、この先にはなにがある?


「あ……」


 着いた。

 道の終わりは、古びた神社に繋がっていた。

 木造建築で、周りはすっかり蔦などに覆われている。

 賽銭箱にはほこりも積もっている。

 誰もがここの存在を忘れているような、そんな場所。


「ここで出会ったのも、なにかの縁かな」


 そう独り言ち、僕は財布に入っていた小銭を賽銭箱に投げ入れた。


【ピロン!】


 その瞬間、俺のスマホにメッセージが届いた。

 誰からだろう。


「田中君、今から会えない? 高校の思い出、一緒にお話ししたいな。駅前のファミレスで待ってます」


「え!!」


 み、美香ちゃんからだ。

 僕の初恋の女の子。

 ……さっき成人式の会場で話しかけそびれた。


「うん、いいよ!」


 断るはずがない。

 居ても立っても居られなくなり、来た道をそそくさと戻る僕。

 入口まで来て、看板の裏にも文字が書かれていることに気づいた。


「この神社は疎遠になった人を再会させる縁結びの神様として、かつては村人によって大切に管理されていました。今回我々〇〇建築会社は、町の目玉としてこの神社を再開発する計画を……」


 なるほど、そういうことだったのか。

 ありがとう、神様!

 感謝もそこそこに、僕は急ぐのだった。

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