第13話「幸せにしてあげて」

 さて、無事に康太の告白を見届けた私は現在壮絶な修羅場に遭遇してしまっている。私がこの場に居合わせてしまったのが2人にバレてしまった。ぎょ、と康太と富永さんは目を丸くしている。私も多分同じ顔をしているだろう。


「あ……ごめん。忘れ物取りに来たら偶然出くわしちゃって……えっと、取り込み中?」


 苦しい言い訳だろうか。だけど思いつくのがこれしかない。康太は「ああそう」と冷めた感じで返し、それ以上は何も言わなかった。


「じゃあ私、これで帰るから。邪魔してごめんね」


 私は逃げるようにその場から立ち去った。これ以上ここにいたら気が狂いそうだ。何も気づいていないふりをしたけれど、最初から最後まで全部知っている。多分2人も気付いてるんじゃないかなあ。これから先どんな顔して康太に会えばいいんだろう。


「朱莉!」


 康太の叫び声が廊下いっぱいに響いた。その声で反射的に立ち止まってしまう。だけど、振り返ろうとはしなかった。


「お前、どこまで知ってんだ?」

「えっと、何のこと?」

「とぼけんな! 本当は見てたんじゃないのか? 俺が告白するとこ」


 さすが康太だ。こういうところだけは鋭い。この鋭さをもっと別のところに向けてほしかった。


「ホントにたまたまだったんだって。でも、富永さんがOKするところは聞いちゃった。そういうこと、なんでしょ?」


 あくまでも知らないフリ、だけど話の本筋はわかっている、そういう設定で逃げようとした。これが果たして康太相手に通じるかどうかわからないけれど。


「おめでとう、康太」

「お、おう……」


 私は振り返り、精一杯の笑顔を取り繕った。上手く笑えている、と思う。心からの笑顔ではないけれど。


 康太はそっぽを向いて返したが、耳が真っ赤なのが遠くからでもよくわかる。


「富永さん」

「は、はい」

「康太をよろしく頼むね」


 それは心からの言葉だった。もう私は康太の傍にはいられない。だから富永さんに託す。そう思うこともひょっとしたら傲慢なのかもしれないけれど。


 富永さんはポカンとした表情のまま「は、はい……」と返した。


「康太、富永さんを幸せにしてあげて」


 じゃあね、とそれだけ言って私はその場を立ち去った。おい、という康太の制止も聞かず、私は廊下を走る。今度こそこの場所にとどまり続けると本当にヤバい。


 やっぱり康太と富永さんが立ち並んだのを見ると、2人はお似合いなんだなというのが嫌というほど伝わってくる。私なんかよりも、富永さんと結ばれた方が絶対にいい。私も富永さんみたいに美人だったら、結果はどうだったんだろう……どうせ相手にはされないか。康太にとって私は妹みたいな存在らしいし。


 10月なのに真冬のように冷たい風が肌を突き刺す。真っ暗な夜空に光る月が憎々しいくらいに綺麗だった。

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