5/30(月)ファンサービス
5月30日(月)16時——。鳴尾浜球場記者室
「へぇ……明日から球場外周で『からあげ祭り』を開催ですか。『ウル猫の夏』といい、こないだの『肉祭り』といい、相変わらず、金儲けだけは熱心ですな」
取材に来ていた記者の誰かがそう言った。何のことだろうとネットをググってみると、どうやら明日からの鳴尾浜6連戦中に行われるイベントの話のようだ。
「まあ、球場の中では、しばしばお寒い『たこやき祭り』を開催しているんやから、たまには他の屋台も並べたいってことなんやろか?」
つられたのだろうか、他の記者が続けて言うと、吹き出す者が続出した。『たこやき』とは、スコアーボードに『0』が並ぶことの言い回しだからだ。
「それでも、最近はちょっとは打てるようになってますよ。借金も2になり、3位まで1ゲーム差ですか。開幕直後はどうなるかと思いましたが、補強も進んでいますし、どうやら球団も目が覚めたみたいですな」
透かさずフォローを入れてくる記者がいた。腕章から大阪日日新聞社——つまり、球団の大本営新聞の記者だということに気づく。会話の流れを変えようとしているみたいだが、周りの反応はいま一つだ。
「そうなると、やはり矢崎さんをさっさとクビにしたのが正解だったというわけですな」
誰かがまた続けていった。だが、その言葉にはこの場にいたほとんどの人が頷いた。もし、監督に居座って今でも指揮を執っていたら、選手任せのあの人のことだ。きっと、我々は連日の『たこやき祭り』を味わい、チームも最下位無限地獄をさまよっていただろう。
「しかし、ファンサービスするんやったら、いっそのこと、『チケットの順位割り』なんかやればいいのにな」
「順位割り?」
「たとえば、4位で迎えた試合だったら入場料10%分相当、最下位なら半額相当の球場内で使えるクーポンを入場時に配布するとか……。だって、試合の価値、同じじゃないだろ?」
つまり、昨年のような優勝争いをしている試合と今年のような最下位争いをしている試合の入場料が同じというのは、おかしいと言いたいのだろう。
なるほど、一理ある。しかし、実現されることはないだろう。なにせ、ドケチな球団なのだから。
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