監督交代をお知らせします。

冬華

4/10(日)監督休養

4月10日(日)夜——。大阪日日新聞社


関西にある各新聞社に激震が走った。


鳴尾浜キャッツの矢崎監督の【休養】である。


「いや……たしかに、1勝12敗1分けは酷いけど、何も今日発表しなくても……」


すでに、明日の朝刊の1面は、『佐々君、完全試合達成』で決まっているのである。


それは、キャッツの『大本営新聞』と言われている日日新聞であっても同様で、特に今日の試合は、宮島ギョッズ相手に無様0-1の完封負けということもあって、怒り狂った編集長の鶴の一声で早々に決まったはずだった。


すでに輪転機も回っていて、もちろん、今更差し替えなんてできない。それなのに……


「そんな関ヶ原より東側の事なんかええ。政権交代や!差し替えは当たり前や!みな徹夜や!」


……と編集長どころか社長直々のお達しでくつがえり、こうして原稿を作り直している。ブラックか!!


「しかし、誰がやるんでしょうね。監督代行は」


「普通なら、ヘッドコーチか二軍監督やろうけど」


「原田元監督は、こないだも露骨にアピールしてたから、あるいは……」


喧々諤々。深夜のノリも加わって、みんな好き勝手に言っている。球団は明日15時発表すると言っているから、それまではこんな調子なのかもしれない。


「ところで、矢崎監督の写真ってどれ載せるのさ?」


すでに時刻は23時。今更、写真を撮りに行くわけにはいかない。ゆえに、過去の写真の中から選ばないといけないのだけど……。


「なんで、どれもこれも泣いている写真ばかり?」


「いや……なんとなく?辞めるんだし」


「涙もろい監督だったからきっと今泣いてる、みたいな?」


一つ一つ手に取ってみると、いろんなことを思い出してくる。

6連勝で逆転CS進出を決めたときとか、昨年の5厘差で優勝を逃したこととか。

なんだかんだ言っても、昨年までAクラス3度は立派だった。


「やはり、キャンプ前の辞任宣言はまずかったよね」


「そうだね」


「胴上げ予祝もまずかった。アメリカでも同じ事やってダメだったチームもあったみたいだし」


……みんな、好き勝手言っている。


「おい!おまえら、いつまで駄弁っている!!」


……やべ!?チーフが戻ってきた。


それを合図に、みんな席に戻って自分の仕事に取り組んだ。

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