君を殺したのはここにいる誰ですか?

鼎ロア

第1話


ここは、どこだろう。

どこを見渡しても真っ暗闇。


「一体、僕はどこにいるんだ……?」


そうつぶやき、僕は立ち上がる。

地面は無いはず。それなのに、なぜだか立ち上がることができた。

不思議な部屋。いや、空間だろうか。


「だ、誰かいませんかー……?」

僕は少し震えた声で何もない空間に呼びかける。

すると、ピッという音が鳴ると同時に、目の前に白いなにかが映し出される。

「な、なにこれ……」

それに近づいて見ると、急に写真へと変わる。

「こ、これは……愛莉……?」


僕が見たものは、幼馴染の永海愛莉なみあいりの笑顔だった。

なんで愛莉が映ってるんだ……?愛莉が僕をここに連れて来たのか……?それとも違う第三者が僕をここに……?

考えても考えても答はでない。


「おい!僕をどうするんだ!」


そう叫んでみる。

すると、その隣にまた違う写真が映し出される。

それは、愛莉と誰かが手をつないでいる様子。

だけど、愛莉と手をつないでいる誰かは、顔をマジックペンで塗り潰されていて誰だか認識ができない。

「どういうことだよ……」

僕はまた一言呟く。

すると、また隣から違う写真が映し出される。


それは、愛莉が誰かに泣きじゃくれている写真。

これもまたその誰かの顔はペンで消されている。


次は愛莉が誰かととスウィーツを食べている写真。


次は愛莉と誰かが一緒に昼寝をしている写真。


次は愛莉が誰かに抱き着いている写真。


次は愛莉が落ち込むところに誰かが抱きしめている写真。


次は愛莉と誰かに怒鳴っている写真。


次は愛莉が道路の渡り橋で一人いる写真。


次は愛莉が、血を流し道路で倒れている写真。


そこで、写真は増えなくなった。

だけど、意味深だ。

どうして愛莉が……?どうして、愛莉が、血を流しているんだ……?

すると、急にスクリーン上に文字が映し出される。


『やあ』


とだけ。

「な、なんだよ!見てるんだろ!?愛莉になにしたんだ!!」

僕は怒鳴った。

声が張り裂けそうな程声を出し。

するとその文字はまた打ち込まれていく。


『君はまだ思い出していないのか?』


と。

思い出す……?なんの話だ。

そもそもなんで僕が監禁されているんだ。

まさか、こいつが殺したのか……?

愛莉、を……?


必死になって記憶を辿る。

すると、思い出した。

あの美しい永海愛莉という少女と、僕と彼女を必死に邪魔する存在のことを。

「お、お前が、お前が愛莉を殺したのかっ!!!!!!!!」

すると、またまた文は打ち込まれる。

『ハハッ、冗談じゃない。僕はやってないよ。僕がやるわけないじゃないか。彼女はとても綺麗だったのに。優しくて、優しくて、僕を愛してくれた。なのに、死んでしまったんだ。あの日、あの時、橋の上で、誰かに……』

と、誰かは長文を打ち込む。


こいつが犯人じゃない……?

じゃあ一体誰が……誰が愛莉を……殺したっていうんだよ!!!

僕は心の中で叫んだ。

胸が張り裂けそうなくらいに苦しい。

愛莉との思い出が、どんどん頭の中をフラッシュバックする。

どうして、どうして彼女は殺された……?

僕がついていて、どうして殺されたんだ……?


『まあ、そういうことだ。彼女は死んだ。僕は悲しいよ。彼女を愛していた。ななのに、死んでしまったんだよ。わかるだろ?お前も』


そう文章は僕に問う。

きっと、打ち込んでいる何者かはこの、僕が苦しんでいる光景をどこかで見ているのだ。


『だよね。苦しいよね。僕も、悲しくって苦しい。だからさ、もう、そこで腐ってなよ。君という存在が僕は許せないんだ。君が、邪魔をしたから。悪いんだ』

そう書き残し、文は止まった。

……は?

僕が悪いってなんだ。

僕が、なにをしたんだ……?

「おい!どういうことなんだ!僕が愛莉になにをしたって言うんだ!…………わかったぞ!お前、お前が愛莉を殺したんだよな!?さっきの言葉は嘘なんだな!!」

そう怒鳴るが、何分待っても文章は出てこない。

おかしい。

なにが起こっているんだ。


「おい!!見てるんだろ!僕がなにをしたのか答ろって言ってるだろ!!」

そう言ったが、やはりなにも起きない。

もしかして最後の、最後の腐ってろって、僕が死ぬまでここに置いとくつもりなのか……?

食事は?水分は?

僕、死ぬのか?殺されるのか?


「僕をなんで監禁するんだ!理由くらい話したらどうだ!!」


そう聞くが、やはり応答はなし。

もうダメだ。

「ハハッ、僕は一体なにをしたんだろうな」

後ろに倒れ込み、僕は自問自答を行う。

「全然わかんないや。こんな監禁行為をされるようなこと、したのかな」

記憶を遡っても、愛莉との楽しかった思い出しか思い出せない。


ふとポケットを探ると、そこには最後の愛莉の誕生日プレゼントに渡したシャープペンシルが入っていた。

「ああ、そういえば、愛莉が好きな『不真面目少女かりんちゃん』のシャープペンシルをプレゼントしたんだっけな」

その時の思い出が、鮮明にフラッシュバックする。

あの子のかわいい仕草、声、性格。

その全てが僕の心を揺すっていた。

なのに、なのに……。


「どうして……なんだよ……」

覚えのない記憶なんてない。

それが、事実。

その事実の中に、僕が恨まれるようなことはなかった。

なかったのに、あの謎の文章は、今もこの状況を見ているであろう誰かは、僕をどうして恨んでいるんだ?

被害者面して、僕を監禁して、ただの犯罪者じゃないか。


「クソッ!」


僕は思いっきり見えない地面を殴る。

痛い。骨に伝わる衝撃で手がヒリヒリする。

「どうすれば、いいんだよ……」

僕はまた倒れ込んだ。

食事もない、水分もない。

なにもない空間。

それならもう腐るしかないじゃないか。


「死ぬことしか許されてないってことなのかよ」


愛莉が好きなだけなのに。彼女にまた会いたい。

その気持ちはまた膨れ上がる。

そして、ふと思い出した。


「愛莉は、死んだんだよな……?」


うん。写真を見た限り、死んでいた。

なるほど。そうすればよかったのか。

「愛莉に会いに行こう」

僕はそう思い至り、シャープペンシルを拾い上げる。

もしかしたら、あの誰かは、僕と愛莉が再開できるように死ぬきっかけをくれているのか……?

なるほど!そういうことだったのか!

僕の体はどんどんと熱くなる。

興奮が抑えられない。


「いや、でも待てよ?」


もし、再開できるようにしていたとして、結局愛莉を殺したのは誰なんだ?誰が愛莉を、僕の幼馴染を殺したんだ?

そう疑問は頭の中を回転する。

意味がわからないんだ。

誰が愛莉を殺したんだ?なんのために?

この空間に来てからずっとわからない。

僕を愛莉とあの世で会わすためにあの文のやつが殺した?いや、でもあいつは明らかに僕を嫌っている。それなら、他人の愛莉をわざわざ殺すか?

最初っから僕をここに監禁しておけばいいんじゃないか?

どんどんと疑問は膨れ上がる。


「そっか、これも愛莉に聞けばいいのか」

僕はそう思い至り、シャープペンシルを強く握った。

これで、死んで、真相を愛莉から聞く。

簡単じゃないか。


「それじゃあ、さようなら。僕の体」


僕はそうつぶやき首にシャープペンシルを刺した。

痛みなんて気にしない。ただ、愛莉に会いたいから。

そして、僕の肉体は簡単に死を迎えた。




「ここは……どこだ……?」

聞き覚えのあるフレーズを僕は発し、立ち上がる。

またも知らない空間。真っ白で、なにもない。

辺りを見渡すと、人影が見えた。

その人影はどんどんと僕の方へと近づいて来る。

そして、顔がはっきりと見える。永海愛莉だ。


「……健くん」


愛莉は、その優しい声で僕の名を呼ぶ。

「あ、愛莉……会えてよかった……」

僕は涙をボロボロと流し、愛莉に近づいた。

「ふふ」

愛莉は、近づいた僕に対し、微笑みを向ける。

その瞬間、僕は愛莉の目の前で倒れた。

なにが起こったのかわからない。

ただ体に力が入らなくて、目が霞んで。

「あ、あ、れ……?」

震える声でそう発していた。

霞んだ目に映るのは笑顔でナイフを握った愛莉だった。


「ねえねえ、健くん。私さ、あの時、怒ったよね?怒って、逃げた。なのに、なんでここにいるの?」


愛莉は意味がわからないことを淡々と述べる。

怒った……?どういうことだ……?

それに、ナイフ……僕って、もう、死んだんじゃないのか……?痛みは、ない。でも、力はでない。

「あれ?この状況がわからないの?健くん」

愛莉は別人の用に僕を見下している。

「アハハ、アハハハハ……健くんは酷いなぁ」

僕の鼻をナイフの先でつっつく。

どういう状況だ?なんで僕は刺された?僕は肉体がないはずなのに。ここは、死後の世界?それとも、死ぬ間際に見ている夢?

「ぼ、僕は……?」

「あららー、健くん、どうしちゃったの?あんなに私のこと大好きだったのに。愛してるって言ってたくせにーなんで私に近づかないのかなぁ?」

意地悪そうに笑う愛莉は、僕にとって凶器そのものだった。


「ここで一生腐ろうよ。健くん。君の罪と、私の罪。それを分かち合ってずぅーと一緒にここにいよう?」


僕はもう、頭が全然回っていなかった。

この不自然な、一方的な話に耳を傾けることしかできない。

「ね?好きなんでしょ?」

愛莉は僕の横に寝転がり、僕に抱き着く。

なんだか既視感がある。前にもこうして一緒にいた。子供の頃の小さな記憶。


「私はもう、愛してないけど。君が私を愛すなら、一緒にいてあげる」

そう宣言し、愛莉は力を込める。

痛みなんて感じない。そこにあるのは、ただの温もり。

頭の中から綺麗さっぱり邪念が消えるようで、浄化されるようで。

「あ、あれ?なんだか、前が見えにくいな……愛莉は、そこにいるのか……?僕の、隣に……」

「うん。いるよ。一生ね。もう、君とは離れないよ」

隣から、優しい声が聞こえる。

「そっか……ありがとう……」

僕もなるべく綺麗に、応えた。

「そうだ、これ、あげようと、思って……」

そう言いながら、僕は動かしにくい手をポケットに突っ込み、一本のシャープペンシルを取り出す。

「前にも、あげた『不真面目少女かりんちゃん』のシャープペンシル。よかったら、貰って」

お腹の上にそれを置くと、愛莉はそれを受けとる。


「ふふ、ありがとう」

僕の目の前に顔を持って行き、優しく微笑んでくれた。

ああ、この状態はなんだか、落ち着く。

僕は、自然と重たくなった瞼を閉じた。

あれ、もう、眠たかったっけ。

そう思えば思うほどどんどん意識は遠ざかっていく。


「おやすみ。そして、さようなら。健くん。幼馴染として、愛された人として、私も卒業しちゃうかな」


そう最期に聞こえたのは、幻聴だったのだろうか。


──────────────────────────────

Thank you for reading!


今回はミステリアスに書いてみました。

実際の犯人は考え方でわかれます。

よければ皆さんの考察や犯人、その理由等も感想にて書いていただければ幸いです。


よければ評価、感想等いただければ幸いです!

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