第12話 己を知る、恐怖する



 スッキリして戻って参りました。宿のベッドから起き上がりUIの時刻表示を確認すると午前0時を回ったところだった。現実時間で20分程ログアウトしていたのでゲーム内では8時間経過したことになる。


 いくら鼻が効くからといっても流石に今から経験値稼ぎに行くのは難しい。朝になるまでログアウトしていても良かったのだが、いい加減自身のステータスと向き合おうと思ったのだ。リーゼから買ったグローブとブーツの性能も把握していないし。


 あまりにアレな称号が増え過ぎたので確認するのに変な緊張感がある。ステータス画面を開きプレイヤー詳細を選択する。


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 【プレイヤー名 マコト】 Level 1

種族 ヒューマン 年齢 17 性別 男

称号 天使の婚約者 天使の堪能者 嗅ぎニスト

   妖精姫と花畑 無謀を敷く者 

   妖精姫の弟子 淫行を止めし者

   マッチポンプ乙 call of マコト

   大衆を沸かせし者 大衆を鎮めし者

   大衆を導く者 解き明かす者 魔女の使い

   D.T.


職業 冒険者(拳闘士)

HP 132(110)

MP 42(35)

STR 8(7)

VIT 6(5)

DEX 10(9)

AGI 10

INT 4(4)

LUK 18(12)


クリティカルヒット率10%


個性 嗅覚Lv25(嗅覚探知、嗅覚解析、嗅覚増

   強、嗅覚吸収、嗅覚記憶)

   嗅覚の趣向:異性の汗の匂い


ジョブスキル 

破砕掌Lv1

居合抜拳Lv1

烈襲脚Lv1

パリィLv1


一般スキル

威圧耐性Lv1

○交渉術Lv1

生存本能Lv1

○演技Lv1

○魔物鑑定Lv1


ユニークスキル 

弱者の牙Lv1



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 改めて見てみると称号が凄い勢いで増えている。異議を申し立てたいものも含めて15個だ。まだレベル1なのに。


 前回確認した時から比較すると色々増えている。ステータスの数値に( )で表記されているのが以前と同じ値であることからこちらが素のステータスだろう。増加分は称号による補正値込みの値だと思われる。○はどういう意味だろうか。


【天使の婚約者】

 天使と婚約した証。自分以外の天使の婚約者を見つけやすくなる。

【天使の堪能者】

 天使の全身を余す事なく堪能せし証。天使と相対した時全ステータスに+10%の補正が掛かる

【嗅ぎニスト】

 匂いを愛し、豚の如く匂いを貪りし証。嗅覚が鋭敏になる。

【妖精姫と花畑】

 妖精姫とアルスの丘で出会った証。花を育てやすくなる。

【無謀を敷く者】

 圧倒的強者に対して無謀な行いをし、無傷で生き残った証。HPに+20%の補正が掛かる。(小数点以下切り捨て)

【妖精姫の弟子】

 妖精姫に弟子入りした証。レベルUP時のMPの上昇値に+2の補正が掛かる

【淫行を止めし者】

 淫気に侵されし者の凶行を大事に至る前に止めた証。VITに+20%の補正が掛かる。(小数点以下切り捨て)

【マッチポンプ乙】

 自分で騒ぎを起こし、自分で片を付けた証。交渉、演技、詐欺スキルに補正が掛かる

【call of マコト】

 英雄の如くその名を轟かせし証。「大衆」関連称号を全て集める事でユニークスキルを獲得できる。

【大衆を沸かせし者】

 多くの人々を熱狂させた証。STRに+20%の補正が掛かる。(小数点以下切り捨て)

【大衆を鎮めし者】

 多くの人々による騒動を鎮めし証。VITに+20%の補正が掛かる。(小数点以下切り捨て)

【大衆を導く者】

 多くの人々を先導した証。DEXに+20%の補正が入る。(小数点以下切り捨て)

【解き明かす者】

 隠された事柄を詳らかにした証。鑑定スキルに補正が掛かる

【魔女の使い】

 魔女の依頼を受けた証。INTに+20%の補正が掛かる

【D.T.】

 その身が女を知らぬことを認めし証。賢者へと至る道。LUKに+50%の補正が掛かる。(小数点以下切り捨て)



「えぇ…?」


 俺は単純に驚いていた。ふざけた称号だとおもっていた【嗅ぎニスト】【マッチポンプ乙】が思ったよりも使えたこと。そしてなによりも、


「【call of マコト】と【D.T.】が有能なのが1番やばい…」


 片やユニークスキルを獲得する前提称号、片やLUK+50%だ。運営の「良いことあるさ!頑張れ!」的な意図が透けて見える為素直に喜べないが破格であるのは間違いない。


 一旦気持ちを落ち着けるためにスキルの確認をしていこう。


 嗅覚探知(スメルソナー)

 嗅いだ匂いから離れた匂いの元、その位置を特定し追跡する。有効範囲は嗅覚Lv×0.1km


 嗅覚解析(スメルアナライズ)

 匂いを嗅いだ対象の情報(種族、性別、動き、心理、対象が自身のレベル以下の場合ステータス及びスキル)を嗅ぎ取る。※対象のレベルが自身よりも高い場合ステータスとスキルは嗅ぎ取れない


 嗅覚増強(スメルブースト)

 自身の嗅覚を強化し、嗅覚趣向に対応した匂いを嗅ぐことでステータスに+補正が掛かる。補正値は対象の強さ、匂いの強さに比例し高くなる。ステータスの上昇値は対象のステータスで最も高いものを参照し、最大でX×0.5上昇させる。

※ステータス補正を受けている間1MP/秒を消費し続ける


 嗅覚吸収(スメルアブソーブ)

 嗅覚趣向に対応した匂いを嗅ぐことでHP、MPを回復、または奪う。嗅覚の趣向に近い匂いほど、匂いが強いほど効果量が上昇する。リキャストタイム120秒。※一度に回復、奪うことができる量は対象の最大HP、MPの10%


 嗅覚記憶(スメルメモリー)

 嗅いだ匂いをストックし任意のタイミングで実際の匂いとして再現する。ストック可能数2

※ストック可能数を超えた場合古い記憶に上書きされる

※嗅覚記憶で再現した匂いを他の嗅覚スキルに使用した場合効力が減衰する。減衰率は20%


 嗅覚吸収は使い勝手が良さそうなスキルだ。HPはもちろんのことMPを回復できるのは嗅覚増強との相性がとても良い。現状俺が最大限の力を発揮できるのは42秒間、MP回復手段さえあればその制限がなくなるのだ。リキャストタイムが120秒と長いことを考えると無制限とはいかないが。


「オルタナの匂いをストックできてればなぁ…」


 無い物ねだりだが俺が嗅いだ匂いの中では最強格であろうオルタナの匂いは戦力として非常に魅力的だった。


 現在ストックしている匂いは尋問室内の魅惑スメル。とても素敵な香りではあるのだが効力としてはインベントリ内の靴下には及ばないだろう。しかし新たな匂いで上書きするのも躊躇われるのが男の子の辛いところだ。


 嗅覚解析は今でさえとても便利なスキルだ。俺がレベル1なせいで使いこなせていないことを考えると今後が楽しみなスキルだ。


「嗅覚って有能なのでは…?いや…他の個性はもっとぶっ壊れてる可能性が…そもそも異性の体臭限定みたいな制限もないだろうし…」


 ブツブツと思考の渦に沈み込んでいく。そしてその思考は脱線しあえてスルーしていたメタい思考に囚われる。


「フロル団長の言っていた予言…おかしいんだよなぁ…」


 俺がフィルと出会ったのは本当に偶然だし、プレイヤーの行動を予測するのは不可能だ。だからこそ騒動の中心にいるというピンポイントの予言はあり得ないのだ。


 考えられるのは俺がフィルと出会ったことで騎士団側のイベントフラグ立ち、俺に接触する為の口実として、俺の行動に当て嵌まる予言が後から作られたのだろう。つまり運営からの神託とは違い、俺についての予言は実際に下された神託ではない。イベントに関わるネファレム王国の人々はフラグによって管理され、俺がフラグを立てたことでその辻褄を合わせる為に作られた予言、ということだ。


「本来ならもっと後になってイベントフラグが立つはずだった…?」


 それならわかる。白桜騎士団がある日来て「予言があった。これこれこれをした人間が妖精姫を知ってる」といった風であれば矛盾は生まれなかったのだろう。だがフロル団長の話では、フィルは穢れを溜め込み残された時間はそう長くないって話だ。プレイヤーがこの世界に現れた時からフィルの命の砂時計が落ち始めたのか、俺がフィルと出会った時からなのか。


「もし前者だとするとフィル自体、ボスモンスターとなることを前提として作られていた、か?」


 明確なタイムリミットが分からないから断言はできないが可能性はある。そう考えると予言に矛盾が生まれた理由は…


「本来立つことのないフィルの生存フラグを立てたから」


 なるほどなるほど。うむうむ。この推論は良い線いってるんじゃないかな?鬼畜運営さん?


「俄然やる気が出てきたぜぇ!運営に泣きをみせてやる!!」


 俺はベッドから立ち上がりグッと拳を握り、やる気に満ちた決意表明をぶちかます。


 ドンッ!


 隣の部屋からの壁ドン。ロマンチックでもなんでもない「うるせぇ!」の方の壁ドンだ。俺は夜中だということをすっかり忘れ大きな声を出したことに気付き、静かにベッドに腰を下ろす。


「そもそもなんでこんなこと考えたんだっけ?」


 どこから思考があらぬ方向に跳躍をかましたのか、答えは目の前にあった。浮かぶステータス画面。


「そうだスキル見てたんだ」


 そうだったそうだったと早速続きを見ていく。と言っても気になるのは残り2つだけだが。


 生存本能Lv1

 自身よりレベルの高い相手と対峙した際AGIに補正が掛かる。補正値はAGIに5%×スキルレベル


 スキルレベルは10レベでLvMAXとなるから最大でAGlに1.5倍の補正が掛かる計算だ。かなり有能なパッシブスキルだ。レベルが高くなってもボス戦では役に立つはずだ。


 弱者の牙Lv1

 自身よりレベルの高い相手と対峙した際STRに補正が掛かる。補正値はSTRに10%×スキルレベル。

 クリティカルヒット率+10%


 流石はユニークスキルなだけあって効果量が破格だ。最大で100%、つまりSTRに2倍の補正が掛かる。加えて常時クリティカルヒット率が10%増加するパッシブ効果まで付いてる。こちらはレベルが上がっても効果量は変わらないが、クリティカルヒット率が上がるのはとてもでかい。


 

「なんだかジャイアントキリングしろって言われてるようなスキルだ」


 嗅覚増強と生存本能、弱者の牙がどのような計算をされるのか気になるが、基本的に嗅覚増強でのステータスブーストは奥の手なので、順当に効果処理が行われれば生存本能、弱者の牙による補正が掛かった後に嗅覚増強による補正の順番になるだろう。


 いずれ検証をするつもりではあるが。


「さて最後は、と」


 俺はインベントリからグローブとブーツを引っ張り出すとアイテム詳細を開く。



 [呪々八殺](解呪済) エピック

 STR+30

 DEX+30

 破壊不能

 装備制限:なし

 装備者のSTRに-90%の補正が掛かる。対象に攻撃するだびに刻印を1つずつ刻む。刻んだ刻印が8つになった時対象を絶命させる。[解呪済につき無効]

 〜フレーバーテキスト〜

 とある高僧が呪いに侵されこの世を去り、残された遺体は腐ることもなし。近づくものはなんであれその異様を前に死を抱くだろう。


 [自縛他殺](解呪済) エピック

 AGI+50

 破壊不能

 装備制限:なし

 装備者のAGIに-95%の補正が掛かる。装備者が動きを止めている間、自身を中心に半径5mの呪殺フィールドを展開する。フィールド内に足を踏み入れたものはなんであれ、動きを停止しHP-10%/秒のダメージを受ける。[解呪済につき無効]

 〜フレーバーテキスト〜

 その者は自身を鎖で縛りあげた。身動き1つできない中、唯一自由なその口で怨嗟の言葉を紡ぎ続ける。自らを、そして他者を呪い全て死んだ。

 


「怖いよ!なんか書いてあること全部怖い!」


 どちらの武器も呪いの武器だから装備制限がないのはとてもありがたい。性能も今手に入るものとしては圧倒的だ。


 ただグローブはともかく解呪済でなければとてもではないがブーツは使い物にならなかった。このブーツ、装備者は数日で確実に死ぬというシロモノだ。呪殺フィールドを展開する条件は動きを止めること、つまり寝たら死ぬということだ。なにより、


「フレーバーテキストがやばい!やばすぎる!呪いを振り撒くファンシー僧侶!緊縛プレイ好き変態ドM!こいつらテクノブレイクしすぎだろ!」


 思わず叫んでしまうレベルだ。僧侶は別に悪くない気はするが遺体が傍迷惑だからギルティってことで。


ドンッドンッ!


「ひゃぅ!?」


 突然の壁ドンにびっくりして変な声が出てしまった。タイミングが悪いんだよ!タイミングが!人がビビってる時に大きな音を出さない!まぁ俺が悪いんですが…すみませんお隣の方。


 なんだか現状確認だけで随分疲れた気がする。部屋の入り口にアンナさんが用意してくれたであろう身体を拭く布と、かつてお湯だったであろう水が入った桶があったのでありがたく身を清める。うん、冷たい。身体を拭いたついでにインベントリから歯磨きを取り出しシャコシャコ。さっぱりしたところでベッドイン。


 朝まで大人しく寝た俺は日の出と同時にレベル上げに向かった。


 

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Smelly Life 〜俺の個性の選択肢「嗅覚」しかないってなんじゃそりゃ!〜 さーりゃん @clitical-mako3

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