5

 なんだか嫌なことを思い出してしまった。


 だけど……


 もはや、彼女との話題はこれしかないような気がする。俺は覚悟を決める。


「なあ、史奈」


「え?」


「斎藤とは、うまく行ってんのか?」


「……え? 斎藤? 誰のこと?」


「斎藤 由之だよ。付き合ってるんだろ?」


「……はぁ?」史奈は目を丸くして、大げさに声を上げた。「私と斎藤君が? なんで?」


「だって、中学の卒業式の時、お前ら二人、一緒にいただろ?」


「あ……」


 その時のことを、彼女は思い出したようだ。


「ああ、あの時確かに私、斎藤君に告られたよ。でも私、断ったの。他に好きな人がいるから、って」


「ええっ! うそ!」


 全く予想外の答えだった。


「嘘じゃないよ。だって斎藤君、今付き合ってる子いるらしいし。同じクラスの女子で」


「……」


 マジかよ……


「尚之もさ……みっちゃんと、うまく行ってるの?」と、史奈。


「みっちゃん?……って、後藤ごとう 美羽みうのこと?」


 後藤 美羽は、同じ中学から同じ高校に進んだ同級生だ。


「うん」


「後藤さんとうまく行ってるって……何が?」


「あんたたち、付き合ってるんでしょ?」


「はぁ? なんで?」


「だってあんたたち、中学の卒業式の後、一緒にいたじゃない」


「え……」


 俺は必死で記憶を手繰り寄せる。


 あ……


「そう言えば……あの時、後藤さんに、高校の教科書のことについて聞かれたような……そのことか?」


「ええっ? それだけ?」


「ああ、それだけ。そりゃ同じ高校だからたまに顔を合わせることもあるけど、それ以上でもそれ以下でもねえよ」


「……」


 史奈はあっけにとられたような顔のまま固まっていた。が、すぐに気を取り直したように俺をにらみつける。


「だったら、なんで私をブロックしたのよ」


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