ミス日本の日
~ 四月二十二日(金) ミス日本の日 ~
※
道義に背くこと
女子人気が高すぎて。
予約がなかなか取れない三大プレイスポット。
学校駅前のおしゃれレストラン。
地元のイチゴ専門パーラー。
そして。
「助かったよ、委員長の口利きがあって」
「末代まで感謝しなさい。でもこれは凜々花ちゃんのためで、あんたのためじゃないからね?」
「相手が委員長じゃなきゃ、デレたデレたの大騒ぎだったんだけど」
「萌えとは一切無縁の女で悪かったわね」
可愛らしいあっかんべが期待できるはずもなく。
冷たく一瞥をくれた委員長が、勝ち組メイク同好会の会長さんのもとへ去る。
そんな会長さんの指示のもと。
勝ち馬に乗るため、日々腕を磨き続けた皆さんの手でメイクを施される二年生と三年生。
そして彼女たちの技を盗もうと。
目を皿にさせる一年生のうち。
一人だけ。
「小石川さんが一番興味ありそうだったのに」
「興味はありますけどね! 見張ってないといけませんからぁ!」
「バラさないってのに」
「…………そんな言葉、信じられると思います?」
初対面の時。
まるで声優さんみたいな可愛らしい声をしてると感じたけど。
いやはやほんとに声優さん。
同一人物の声とは思えない。
みんなから離れた部室の隅で。
素の姿を現す小石川さんは。
笑顔の仮面の下で。
低くてドスが利いてるけど。
妙に耳に馴染む声で呟いた。
「勘弁してくれよな? みらいの友達がこんなんだってバレたりしたら、アイツが嫌われちまう」
「だったら彼女が紹介して来る子と友達になるのを断ってるのは何でだ? 嫌われないか?」
「友達宣言しないだけで適度な距離を保ってるよ。そうすればみんな、みらいには話しかけてくれるからな」
一晩、ずっと考えて。
秋乃の確信を否定しない場合における最適解。
この、リバーシブルな小石川さんの本質を。
秋乃が見抜いてくれてなかったら。
俺は、今の言葉の本質が分からなかったのかもしれない。
『友達の作り方』
どうやらこの現象は。
栗山さんが友達作りをしていて。
小石川さんが、それを上手く手伝ってあげている。
口は悪いのに優しい小石川さんから栗山さんへ向けられた愛情が生んだものだったのだ。
……でも。
その優しさは自己犠牲。
自分の性格は治しようが無くて。
きっと友達は栗山さん一人。
でも、こんな自分に仲良くしてくれている栗山さんには、相応しい友達を作ってあげたい。
つまりは。
そういうことなわけだ。
「うーん。秋乃はほんと、他人の本質を一発で見抜きやがる」
「何がです? 腹黒だとでも言ってました? あのメギツネ」
「昨日話したじゃない。小石川さんは優しい子だって」
「だったら見る目がねえ」
ここまで読めると。
小石川さんの口の悪さも可愛く見えるな。
みょうちくりんな外面なんて肩がこるだろうしやめればいいのに。
……メイクを施されたみんなは、普段とは違う自分に一喜一憂。
そんな姿と小石川さんがオーバーラップする。
メイクなんていらないよ。
そう言ってあげたいけども。
でも。
人間、見た目で損得ってやつが絶対あることを身をもって知ってる俺が邪魔をする。
ついこの間も体験したばかり。
見た目のせいで、俺だけ被害を背負わされた。
一緒にいたのは、綺麗選手権金銀銅。
春姫ちゃんと凜々花と。
そして。
「うわ。綺麗……」
「ミス日本、間違いなしね」
メイクを施された。
まるで化粧品のCMから飛び出して来たような美女。
昨日に続いて、今日も一同揃って度肝を抜かれているが。
俺が抱いた感想は。
ちょっとみんなと違うんだよな。
「ど、どうかな立哉君。綺麗?」
「もちろん綺麗なんだけど、なんだろ」
「なんだろ?」
「よく分からんが、正直ピンと来ねえ。お前らしくねえって言うか……」
「あ、あたしね? 一年生たちにメイクしてあげたい……!」
「……うん。その無茶苦茶な方がいい」
せっかくプロ顔負けと名高い皆さんがいるってのに。
だーれが不器用顔負けでお馴染みのお前に塗り絵されたいって思うんだよ。
「だ、だれか、塗らせて……!」
「想像通りの動詞出てきやがった! 可愛そうだからやめ……」
「凜々花、舞浜ちゃんに化粧してもらいてえ!」
「おいやめとけって!」
「じゃあ、みらいもやってもらえばぁ?」
「うん……」
「能天気と素直が画伯の餌食に!!!」
これだけ正しいことを言っているというのに。
ちょっと黙っとけと、釘を刺された俺だけど。
「いやいや。こいつ、化粧なんてまともにできるわけねえ」
「そんなこと無い……」
「どこからそんな自信が!?」
「ふ、二人のミス日本を誕生させてみせる……」
ああなるほど。
そういうあれね。
今、全世界の皆様が。
オチを悟って画面を最後までスクロールさせたよ間違いねえ。
「ん? ……スクロールって何のことだ?」
「か、完成……!」
「早えなおい! いつもの工作気分でやりやがったな!」
もう間違いない。
こいつにとってのメイクは実験とか発明と同ジャンル。
可愛そうな二人の改造人間。
その顔を、意を決して見てみれば……。
「こ、これは……!?」
想像していたのは。
真っ白な幽霊顔にたらこ唇。
真っ青なまぶたに真っ黒なアイライン。
でも、俺の想像が見事に打ち砕かれると同時に。
秋乃がプロ並みのメイクの技術を持っていたことを、はじめて知ることになった。
俺の目の前に、仲良く並んでいたのは。
見事なまでに完璧な。
ゾンビ
「特殊メイクの才能開花!!!」
「つ、突っ込みたいところだけど……」
「……うむ。見事過ぎて、その、何と言うべきか」
誰もが、何をどう評するべきか。
虚空に答えを探して目を泳がせる中。
満足げに、一仕事やり遂げた感で額の汗を拭っていた秋乃に。
ひとまずチョップだ。
「いたい……。才能に嫉妬?」
「なわけないだろ。一年生にこれは可哀そう」
「み、みんなの真似してみたんだけど、ちょっぴり上手くいかなくて……」
「ガチで立ち向かってこうなったの!?」
さすがにそれは冗談だろうと。
誰もが苦笑いを浮かべてるけど。
多分、俺と春姫ちゃんだけは。
これが本気か冗談なのか、計りかねていた。
「ご、ごめんね、下手で。頑張って、ミス日本目指したのに……」
「ミス日本? それを言うなら……、とか言うとでも思ったか? 絶対突っ込まねえからフラグは自分で回収しろよ?」
「で、でも、立哉君の好みには、すぐできる……」
「はあ? ここからどう挽回できるのか見せてみろ」
俺の呆れ顔には目もくれず。
一世紀早く生まれたせいで俺にはその美的センスがまるで分からん画伯が鞄をあさる。
もう面倒だから。
フラグを回収してこの騒動を終わらせるか。
「それはミス日本じゃなくて……? いやいや。なんで二人に制服の上から水着着させてるのですかねお前は」
「こ、これで立哉君の好きなやつ……」
「さっぱり分からん。そのこころは?」
「ミズギ本」
「うはははははははははははは!!!」
なんだか負けた気分になったので。
今日は、変態と罵られることを甘んじて受け入れた。
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