不良君、人助け部に入る

ぶっさん

第0話 不良君、走る

 夜空に煌めく無数の星々。

 それと同じように、街は煌々と輝いていた。

 場所は、北海道札幌市中央区狸小路商店街三丁目。

 蟻の巣みたいに群がる人々を掻き分けながら、少年は走っていた。

 否、正確に言うと追いかけられていた。

 ガラの悪いお兄さん方たちから。

 ――――全裸で。


「ああああもうッ!! なんでこんなことにィ!!」

「待てやゴラァ!! 騙した落とし前つけろォ!!」


 小さなマイサンをプラプラを振り回しながら逃げる少年。

 彼の名前は、佐良治郎さがらじろう

 首辺りまで無造作に伸ばした天然パーマを、幾つものヘアピンなどで適当に後ろへ流した髪型が特徴的な、目つきの悪い不良である。

 いや、今となっては不良ではなくただの変態だ。


「クソォ!! 服着る時間くらい寄越せやァ!!」

「なら止まりやがれェ!!」


 執拗に全裸の治郎を追いかけ回す大量のお兄さんたち。

 彼らは全員が、鬼のような形相を浮かべていた。


「くそくそくそォ!! なにやってんだよ部長たちはァ!!」

「部長なら、家に竹刀忘れたって取りに行ったよー」

「はァ!? ッたくあのアマッ!! 準備しとけよッ!!」

「はははは、相変わらず口悪いね」

「…………ッてかいつ現れたオマエッ!?」

「一秒くらい前、かな?」


 不意に発した言葉に、並走しながら反応する謎の人物。

 全身からキラキラオーラを放つ彼の名前は、城戸兵助きどへいすけ

 同じ部に所属している、金髪の爽やかイケメン少年である。


「つかなんでオマエも全裸ァ!?」

「キミが全裸で走っているのを見て血が騒いだのさ」


 ちなみに真正のド変態である。


「騒がせるなそんな穢れた血ッ!!」

「ハリーポッターか、懐かしいね」

「誰もそンな話してねェよッ!!」

「確かに、キミ読書とか興味なさそうだもんね」

「そういう話でもねェ!!」


「おいなんか変態が増えたぞッ!!」

「あっちはなんかイケメンだな」


 突如として現れた全裸イケメンに困惑するギャングたち。

 それでも、集団は揺れる二つの尻を逃がそうとしない。


「つかこのままだとオレら警察行きだぞッ!!」

「ドS婦警さんからのイケない尋問がボクたちを待ってるんだね!!」

「キショ!? 誰もそんなこと言ってねェよ!!」

「あーんいけずゥ」


「なんかキモいなアイツら」

「全裸だしな」


 この場に警察が来ていないのは、半ば奇跡だろう。

 駆けつけてくるのも時間の問題だと思うが。

 そんな折、


「んァ? おいアレ」

「ドS婦警さん?」


 遠くの方から何かがフラりと現れた。

 シルエットの正体は、よく見ると女性。

 腰まで伸びた黒い髪を、ユラユラと風に靡かせている。


「いや部長じゃねェかあれ!?」

「あー本当だッ!!」


 突如として現れた謎の女性。その正体に気づいた途端、兵助は目を輝かせた。

 狸小路商店街の入り口。その中央に立つ一人の少女。

 艶やかな髪と長いスカートを風に揺らしながら、彼女は静かに竹刀を構える。

 その両目は、夜だというのに爛々としていた。

 まるで、燦然と輝く太陽みたいに。


「ここまでよく耐えた、二人とも」


 透き通った綺麗な声が、走る治郎と兵助の耳に入る。

 瞬間、緊張感のようなモノが体を走っていく。


「あとは私に、任せたまえ」


「――――やばッ!? 伏せろヘースケェ!!」

「へ…………??」


 ザンッ!! そんな空を切り裂くような音が、商店街に響いた。

 ギリギリで治郎は足を滑らせて身を低くさせて回避する。


「ッぶね!? あだッ!?」


 回避する勢いが強かったせいか、思いきり尻を地面に擦りつけてしまった。火でも着いてしまいそうな激痛に、治郎は歯を軋ませる。


「あぶねェだろうが、このクソアマ!!」

「む、それは心外だぞジロー」

「くっそケツいてェえッ!」

「おかしいな、隣で寝てるへースケはなんか気持ち良さそうなのに」

「バッカ! これは気絶してんだよ! おい起きろへースケ! チ〇コ丸出しのままのびてんじゃねェーぞ!」


 恍惚とした表情を浮かべながら、泡を吹いて気絶する変態B。そんな彼の身体を、治郎は強めに揺らす。

 その度に、ついでと言わんばかりに兵助の息子も揺れた。


「ジロー、これはもう当分起きないんじゃないか?」

「ああああもうめんどくせェなコイツ!」

「仕方ないか。キミが背負ってあげたまえ」

「はァ!? オレかよ、嫌なんだけど!!」

「私だってイヤだ。背中に生チンが当たるのは」

「服着てるだけまだマシだろ! オレなんて直に当たんだぞ!」


 突如として始まる下品な押しつけ合い。

 冷たい夜風に吹かれる、誰かさんの息子が段々と不憫に思えてくる。

 そんな押しつけ合いも束の間、遠くの方からピーッという笛の音が聞こえた。


「くそ、警察だ!!」

「殺るか」

「やるな!」

「しかしどうする。早くしないと追いつかれるぞ」

「仕方ねェからオレが背負ってやるよ! だから行くぞ!」


 治郎は、急いで気絶している兵助を背中に乗せて立ち上がる。

 すかさず、彼は部長と呼ばれる少女と共に走り出した。


「き、気持ち悪い。チクチクするゥ」

「少しくらい我慢したまえ。キミも同じ男だろ」

「あーもうほんと…………ッ!」


 商店街を背景に、治郎は大袈裟に息を吸いこむ。

 そして、


「なんでこうなったんだよォ――――ッ!!??」


 夜空に向かって叫んだ。

 そんな彼らの後ろでは、大量のギャングたちが兵助と同じように白眼を向きながら泡を吹いて倒れている。

 その阿鼻叫喚とした景色に、駆けつけた警官たちは愕然とするのであった。

 後に、この出来事は狸小路ギャング卒倒事件と呼ばれる。

 こんな事件を引き起こした張本人である三人組。

 彼らの名前は、市立総人学園『活人部かつじんぶ』。

 部長、こと小鳥遊虎夏たかなしこなつが率いる人助けを目的とした正義? の部活である。

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