一人芝居

「私には姉がいます」


「私の姉のことを、私は『お姉様』と呼んでいる」


「ねえお姉様、あの男が淫靡な視線を私に向けているのですが。……気持ち悪いですわ、どうしましょう?」


 彼女は尋ねるが、誰も答える人はいない。


「ねえお姉様、私のことを汚らわしい目で見つめる変態がいるのですが?」


 無論、誰も答えない。――というか、この場には一人しかいないのだ。


 つまりそれが意味することとは…………


 …………一人芝居……!


 普通の人間ならやらないかもしれないが、大事なことである。もしこういう場面に遭ったらというシミュレーション!(ただの独り言という見方もあるだろうが俺はカッコつけて『一人芝居』と呼ぶ!)


 生きる上で必要不可欠だ……!


 まあこんな場面訪れないかもしれないけど……だって性別男だし。


「私、男なのよ」


 微笑。……否、苦笑。自分すら騙すことのできないドスの効いた低い声が耳を通じて俺の中へ……!


 俺の声…………こんなんだったのか。まあ知ってはいたけどね。改めて聞くとちょっとね。気持ち悪いな。


 ……ま、でもまあ、自分で聞いてる自分の声と他人が聞いてる自分の声は違うって言うし――。


 俺は自分の声を録音し、再生する――。


 ――ピッ。


『俺は漆黒の竜騎士、どらg――』


 ――ピッ。


 あんま変わらんかった。


 ……そう。これが真実。結局俺の声はブサイクだということだ。


 自分が聞こえている声と他人が聞いている声は違うと言われるが、それは別に、他人が聞いている声の方が良い声に聞こえるとは限らない。


 仮初めの自分になったとしても、俺のような人間の運命は変わらないのだ。……なんとも悲しいことに。


 無論、時には自分を偽ることもあるだろうが、それが自分の助けになるかは運しだいだ。逆に災難が降り注ぐこともあるだろう。


 しかしそれはしょうがないことだ。そして、しょうがないけれど、大切な自分だけの物語じんせいの一部なのだ。


「よし!」

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