第42話

 モリタートに戻ってから、しばらくヘトは寝込んだままだった。以前の時もそうだったらしい。

 帰り道、話せることは話した。どう感じているかまでは分からない。

 水位はかなり上がってきている。時折激しい雷雨になる時もある。病気で倒れる人、命を落とす人も増えてきた。

 ここでは、もうすることもないと思った。彼らの持つ技術では、まだロボットを扱うことはできない。人間は自ら技術を生み出す段階にまで至っていない。異星人たちも人間に頼ろうとしている現状では、僕が望むものは手に入りそうにない。

 僕は、居場所を探していたわけではない。別れを告げよう、そう思った。

 ヘトとヴェルタは、僕の言葉を受け入れてくれた。ともに船を造った人々の中には、悲しそうな顔をする者もいた。

「……そんな気はしていた」 

 フューレンが、一番長く言葉を詰まらせていた。初めて僕から、彼女の部屋を訪れた。僕が旅立ちを告げてから、本当に長い時間、言葉を発しなかった。

「お前は、この世の者ではない気さえしていた。きっとどこか、また遠いところへ行くだろうと」

「そんなに遠いところではないですよ」

 そう、データは常に家の中にある。そして僕のハードディスクの中に、ずっと記憶は残し続けることができる。

 けれども、全てを覚えておくのがいいことだとも思えない。時の流れに任せて忘れることも、大事だと思う。

 フューレンは、そっと右手を差し出してきた。握手というものだということは、検索しなくてもわかった。僕も手を伸ばし、ゆっくりとその手を握った。彼女の手は柔らかく、少し冷たかった。

「さようなら」

 小さな声だった。

「ああ。さようなら」

 そして、自分の声も思いのほか小さかった。

 二人はなかなか手を離さなかった。

 フューレンの顔は、笑おうと努力するあまりに不自然だった。僕の顔はどうだろうか。


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