第15話

 頭の中で処理が混雑している。恐竜に飛行機に重火器。時代を無視した様々なものに戸惑わされるし、それでいて世界のバランスがこのように保たれていることにも驚かされる。巨大生物は生態系に大きな影響を与えるはずだし、先端技術は人々の生活を劇的に変化させるはずだ。しかしこの世界では、そんな当たり前のことが簡単に無視されているように感じる。

「そんな……」

 今目の前には、大破した飛行機の破片が散乱している。操縦席らしき部分もあるが、どこにも操縦者の姿がない。

「どうやって逃げ出したんでしょうか」

「わからない。あの高さから……」

 周囲をサーチしてみても、人の体温は感知されない。まさか最初から誰も乗っていなかったということもあるまいが、もしもこの飛行機自体がロボットだったら、などとばかばかしい考えを抱いてしまった。

「でも、逃げ切れないんでしょう。言ってたじゃないですか」

「ああ、歩いているならば。特に日が落ちれば、凍えてしまうだろう。しかし、やつらはどこまで持ち出しているのか……」

「フューレンはどこまで持っているんですか」

「どこまでとは、何を示している、イェ。ヴィーレ、お前は私の想像以上に危険なやつなんじゃないのか」

「いえいえそんな、便利なものがありそうだなあ、と」

 実際、フューレンたちは何まで持っているのだろう。技術レベルで言えば、すでに産業革命を終えていてもいいぐらいなのだ。鉄道や電話だって作ることは可能だろう。だが、逆にそういうものを生み出す素地のようなものが見えないのだ。フューレンは技術を「受け継いでいる」と言っていたが、もしかしたら開発者たちはすでに過去の世代となってしまっているのだろうか。

「知らない方がいいこともある。私が知っていることも限られている」

 唇を噛んでいた。それは、悔しいことのサインのはずだ。

「おかしい。風が来ない」

 今度は首をかしげた。疑問があるというサインだ。

 確かに、まったく風が吹いていない。異様なほどに、空気が止まっている。まるで、動物たちが無理に息を潜めているかのように。

 そのとき、僕のハードから過去のフォルダが引き出されてくるのがわかった。かつての悲惨な体験が、何かに触発されて呼び起こされてくる。戦火にただ呆然と立ち尽くす僕。人間たちの異様な団結の前に、何も抵抗することができなかった。

「いけない。村に戻るぞ」

 冷たいしずくが、こめかみを伝った。振り出した雨粒は、一気にその回転を早めていった。再び走り出したフューレンの後を、僕は自発的に追った。同じ過ちを犯すのは、効率的とはいえない。ロボットは愚かではいけないのだ。

 過去の僕が、やはり、雨に打たれている光景が見えた。僕自身は僕を見ていなかったのだから、この映像は捏造だ。人間の脳は、こんな機能も持っているというのか。僕らが疲弊し、錆びていくまでの序章が、いつまでも流れ続けた。視界がぼやけていくのは、雨のせいだけではなかった。これはただ、欠陥から搾り出された液体が瞳からこぼれていく現象に過ぎない。けれども、思う。もしもその機能を最初から付けていたのなら、あの時僕らも、泣いていたに違いないのだ。

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