初夏の陽射しと白い人
KAHORU
プロローグ
21XX年7月
鳴り響くチャイムが終業を告げホームルームが終わると、見慣れた校舎を出て校庭を抜ける。 初夏なのに真夏のように暑く、エアコンの効いた教室を出たばかりなのに首筋に汗が伝うのを感じてげんなりとした気分になった。
極力、木陰がある方を選んだはずなのにこれだからこの季節は苦手だ。
置いてきた悪友に気付かれる前に学校を出てしまおう。なんて急いだのがいけなかったと後悔しても遅い。帰ったらシャワーでも浴びるかと浮かんだところで、右肩に無造作にかけたリュックが少し強い衝撃と共に激しく動いた。
「いって……おいっ!もう少し丁寧に扱えよな!」
「悪い、悪い。だが、先に約束をすっぽかしたのは君だろ?」
白い髪と青い瞳が印象的な悪友は、僕の首に腕を回して豪快に明るく笑う。
こいつとの付き合いは長い。
多分、家族の次くらいには位置していると思う。
そんな、見た目の割におかしな口調で話す少し古くさい親友(とも)を、僕はいつしかほんの少しだけ煩わしく思っていたんだ。
理由は分からない。
ああ、でも、そうだな。
僕は両親に対して反抗期というものはなかったけど、それに近い理由なくイライラするというあれだと勝手に納得している。
「生指に呼ばれたんじゃなかったのかよ」
「ああ、あれはだな……すっぽかした」
別に嫌いではない。
ただなんとなく面倒くさい。そんな気持ちなだけ。
それでも、見つかってしまったのなら仕方ないと思いながら話を振ってみれば、こいつは悪びれもなくそう返した。
「おい!それ、後で僕が怒られるんだからな!」
こいつが問題を起こすといつだって僕が注意される。
もしかしたらこういうことの繰り返しに疲れてきてるのかもしれないな。
「大体なぁ……いつもいつも髪を黒くしろだの、カラコン外せだの……
こちらの事情を無視して、あちらの意見ばかり押し付ける奴らの話なんて聞くだけ無駄だと思わんか?」
「そう思うならちゃんと書類出せよ。もう高校生なんだしさ」
「何故……俺が出さねばならん。俺の髪も瞳も生まれ持った物だ。
それを何故他人にわざわざ申告する必要がある」
「それは……」
「なぁ柊(ひいらぎ)、俺は何か間違っているのか?」
「間違ってはないけど……そういうもんだと割りきれよ」
やっぱり面倒臭い。
そんな気持ちのまま適当に説教をして初めて少し後悔した。
「俺は……」
直後に見た表情が普段から活発で明るいこいつにしては珍しく妙に暗い顔をしていて、僕はそれを初めて見たような気がしたから。
「生きづらい世の中だ……
こんな世界失くなってしまえばいい」
「おい!物騒なこと言うなよな!」
強めに言葉をかぶせた僕を少し驚いた顔で見たこいつは
「あはははは!冗談だ。さ、今日は何処へ行こうか?」
と、さっきの表情を隠すようにそう笑ったんだ……。
『ブロロロロロ!!!!』
ほんの少し気まずい空気が流れる僕達の間に、その音は大きく響いた。
「ん?今日はやけに隊のヘリが飛んでいるなぁ」
空を飛び交う無数のヘリへ視線を上げれば、嫌な予感がして胸の奥が大きくざわめく。僕達の間の空気をどうにかしたかったのと、こういう時の嫌な予感は当たったりするから余計に早く帰りたくなった。
「帰るぞ」
「あ、おい君!」
「父さんなら何かを知っているかもしれない」
最初に蔑ろにしたのは自分の癖に、いざ相手が投げやりになると焦るなんてみっともない。 そんな気持ちを誤魔化し、足早に家路を進む僕の後ろをあいつは珍しく小言一つ言わずに着いてきた。
お前は知らないだろうけど……
このほんの少し煩わしく……
だけど、心地よい聞き慣れた変な口調と共に過ごす日々が僕は……
…………だったんだ。
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