第6話 出会いの日 快晴⑥
「ビックリしたー……。天空くんもそんな大きな声出せるんだね」
「日照雨さんが急にデートとか言うから……」
日照雨さんは僕の言い訳を聞いて動きがピタリと止まる。
そして、笑い転げる。
「あはは! それでそんなにビックリしてたんだね」
「そんなに笑わなくてもいいでしょ……」
「それにしてもデートという単語を女の子の口から聞いただけで動揺するなんて天空くんはとてもとても純粋なんだね~」
日照雨さんはニヤニヤしながらここぞとばかりに俺をいじってくる。
さっきまでの真剣な雰囲気はどこにいったんだ!
「僕はただ君の言い方に驚いただけだ。デートくらいしたことある」
キーンコーンカーンコーン。
僕が日照雨さんに追い込まれていると思わぬところから救いの手が差し伸べられた。
「ほ、ほら予鈴なったぞ。もう教室戻ろう」
「ちぇっー、せっかく天空くんの弱みにつけこめると思ったのになー」
弱みを握られてたまるか。
ほぼ握られたみたいなもんだけど。
「まだ話したいことあるからさ、帰りのホームルーム終わったらまたここに集合ね。んじゃあ、また放課後!」
日照雨さんは一方的に約束を取り付けて、そそくさと走り去ってしまった。
俺は日照雨さんが見えなくなるまでその背中を見届け、中庭に大の字で寝そべる。
「なんか大変なことになったな……」
昼休みの40分の間に今までの人生で経験したことにないような濃密な時間が流れていた。
自分の感情がわからないから感情を教えてほしいという
決して感情がないわけではない。どうして笑っているのか、泣いているのか。それが次の瞬間にはわからなくなる。
そんな彼女が頼ったのは他人の感情が天気のように浮かび上がる力を持った
どうして彼女が僕の力のことを知っているのか。いつかその口から聞かなくてはいけない。
自分の感情がわからない人間と他人の感情が浮かび上がる人間。
運命なんて神様の悪戯。いや、暇つぶしか。
眩しく地球を照り付ける太陽を隠すように右手を天に突き出す。
彼女の頭上に浮かんでいたのは晴れマークのみ。この昼休みの間それ以外のマークが浮かぶことがなかった。
天気は移りゆくもの。感情も同じだ。
なのに彼女の感情は――快晴から変化する様子もない。
嫌な仮説が青空を漂う雲のように頭を流れる。
やめろ。
ただの自分の感覚だ。
たった16年の人生のなかで得た仮説。
根拠なんてない。
思考の中心から流れはするが、端にこびりついて消えてくれはしない。
突き出して右手で太陽を掴むように力強く握る。
握ったままの右手をそのまま額におろす。
他人の為にこの力をもう1度使うことになるとは。
もう諦めたはずだったのに。
この"力"がどう彼女の感情探しに役に立つのかはわからない。
けれど感情を教えることができるのは少なくとも僕だけ。
「やれるだけやってみるか……」
勢いをつけて上半身を起こす。
本鈴が鳴る前に教室に戻らないとな。
太陽が熱く照らすなか僕は歩き出した。
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