第3話 出会いの日 快晴③
協力関係になった僕と「感情がわからないという」女子高校生の
「
「いや、お礼を言われることはまだ何もしてないからその言葉はまだ必要ない。それで僕は何をすればいいの?」
僕に向き合うように座っていた日照雨さんは僕の隣に座りなおす。
「よいしょっと。おぉ~、ここ涼しいね~」
彼女の顔に陰が降りる。
「じゃあまずは天空くんの力について天空くんの口から聞いてもいいかな」
隣に座った日照雨さんは僕の顔を覗いてくる。
「そんなに説明することは正直ない。ただ単にその人の感情に合わせて天気予報で使われるような天気マークがその人の頭上に見える。晴れマークなら嬉しい・楽しいとかポジティブな感情、雨マークや曇マークならネガティブ、雷マークなら怒っているとそんな感じ」
日照雨さんは感心したような様子で大げさに相槌を打つ。
「じゃあさ、今の私の頭の上には何が浮かんでいるの?」
随分と直球な質問だと思った。
今まで他人からどうなっているかを聞かれたことないから少し答えるのにためらいがある。
けれど、今は事情が事情だ。僕は彼女に協力すると決めた。
「晴れマーク。晴れマークしかない。つまり快晴ってこと」
「ふーん。やっぱり……ね」
日照雨さんは僕の言葉を聞いたあと、少しだけ目線を下に向け――何かを口にした気がした。
けれどその言葉は小さく、僕の耳に内容が届くことはなかった。
「何か言った?」
「あっ、ううんなんでもないよ」
日照雨さんは顔を上げて、首を左右に振る。
『感情がわからない』と彼女は言っているが決して表情が乏しいわけではない。
むしろとても豊かな人だとこの短い時間でもわかる。
ころころとその顔は様々な色を帯びていき、変化する。
きっと彼女は周囲の人に愛されているのだろう。
それと同時に嫌なことも想像できる。
誰が日照雨瑞陽に感情がないなんてわかるんだろうか。
誰にもわかるはずがない。
彼女を愛している人でさえ、その状況も苦しみも葛藤も何もかも。
僕は頭に思い浮かんだことを口に出さないように唾液と一緒に飲み込む。
「じゃあ僕からも聞きたいことがあるんだけどいい?」
「うん! もちろん」
日照雨さんは笑顔で応えてくれる。
「感情が――感情がわからないってことをもうちょっと具体的に教えてほしい」
僕は日照雨さんがさっき言った衝撃的な一言を掘り下げることにした。
これはきっと核心であり、一番触れたくないところかもしれない。
けれどここで聞いておかないといけない。
情報を正しく知らなければ彼女の感情を探すことなんてできない。
当の日照雨さんは目をぱちくりして驚いている様子である。
必要なことだからって直球すぎた……か?
「日照雨さん……?」
不安が過った僕は恐る恐る顔色を窺う。
「ふっ――あはは! いやー、まさかそんなど真ん中にストレート投げるとは思ってなかったからさー」
日照雨さんは腹を抱えて笑っている。
「私も大概ド直球だけど、天空くんも私と同じだね。駆け引きしないとホームラン打たれちゃうよ」
「駆け引きなんて君から一番縁遠そうな言葉だけど」
「確かに!――じゃなくて! そういうところだよ!」
日照雨さんはノリツッコミで場を和ませてから、息を短く切る様に吐き出す。
体を起こして僕を瞳を見つめる。
「うん。いいよ。教えてあげる。感情がわからないってことがどういうことか」
芯のある透き通った声。彼女の声や所作の一つひとつに覚悟が感じられる気がする。
これまでとは違う真剣な眼差しに僕は思わず生唾を飲み込まされた。
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