第五章 秋水の迷い、コーヒーと共に (昼編) その三

 互いの情報交換のために家主である長谷川綾子が案内したのは同じ台所の従業員用休憩スペースだった。


 台所、というよりリビングのようにテレビやちょっとした家具などもありテーブルもちょうど一体型の椅子がある。


 まず、左の長いベンチに正行と綾子が座る。

 対面する形で石動とナターシャが右のベンチの座る。

 それから、上座に当たる大きめのシングルの椅子に秋水が座る。


 まず、石動が『ポー』と名乗る男からナターシャがツンドラ王国に狙われていることを報告した。


「ポー……かぁ……」


 秋水は天井を見た。

 

 ポーという名前は北欧系では比較的多い名前だ。

 まして、苗字か名前かもわからない。


「しばらく、匿ってもらえないでしょうか?」


 ナターシャが顔を上げる。


「いいですよ」

 あっさりと家主の綾子は了解した。


「ちょうど、男ばっかりで女性が来るのは大歓迎です!」


「母さん……」


 身を乗り出す母に正行が止める。


 石動は思案をしている顔だ。


 空気を換えようと秋水は言った。


「どうだい? コーヒーでも飲まないかい?」


「いいわね。ちょうど、壊れたコーヒーサーバーの代わりを買ってきたの」

 綾子がドア前の買い物袋を見る。


「いや、出すのが面倒だ。鍋でコーヒーを淹れてやる」


――は?


――鍋でコーヒーを?


 呆然とする顔を見て秋水がいたずら小僧のようにニヤリっと笑った。

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