第一章 ただいま、銭湯中につき その14 秋水編

 秋水は目の前に出されたタブレットを自然に受け取る。

 既に起動されパスワードを打ち込まれた状態だ。

 一見すると、検索サイトや旅行用のアプリなど普通だが、一つだけ白い真四角のアプリがあった。

 それを秋水の太い指が数回叩く。

 最初に出てきたのは頭を撃ち抜かれ文字通り死んだ目で血の池に頬をつける白髪の老人だ。

 彼が猪口が追いかけている名無しらしい。

 スライドさせる。

 今度は全体写真が出てきた。

 体の周りを白線で覆っていることから鑑識が撮った写真だという事が分かる。

「……猪口さん、相当危ない橋を渡りましたね」

 画面から目を離さず、秋水は言った。

「元からさ……すいませーん、ウーロン茶おかわり!」

 猪口がアルバイトに追加注文していても秋水は熱心にタブレットの写真を見た。

 戦場を渡り歩いた秋水からすれば、落ちていた弾丸や解剖されて出てきた弾頭を見れば武器の選定や撃った距離などはすぐ分かる。

――M24

 アメリカ・レミントン社が誇るベストセラーである。

 発売から年月は過ぎているが、値段が安いだけではなく、ボトルアクションの最高傑作に名に恥じない飛距離と頑丈さがある。

 ただし、問題もある。

 テキスト化された目撃談などを見るとほとんどの人間が倒れた老人に気が付いたとき、『発泡音などは聞いていない』という。

 さらに、秋水を悩ませたのは『誰が撃ったか?』である。

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