第一章 ただいま、銭湯中につき その13 秋水編

「そりゃあ、敵が多そうだ……」

 秋水は独り言ちた。

「マスコミ連中は珍しく日米の報道機関が手を組んで彼のイメージダウンを図っているよ」

 猪口は紙コップの入ったウーロン茶を飲んだ。

「でも、それはあくまでマスコミ連中だけだ。警察たちは、死んだ、ジイサンのほうを調べている」

 その言葉に秋水は目を細めた。

「空港側で調べると殺されたのは、アナスタシヤ・ベシカレフ。国籍はカナダ。ところがカナダ本国に問い合わせてもそんな人間いやしない。ほかにも、マルティナ・カルヒやオリガ・シハレフなどの名前でロシヤからギリシャ、オーストラリアなどの偽造パスポートを持っていた」

 声を小さくして猪口は告げた。

「名無し……ネームレスですか?」

 秋水の不機嫌な目がますます、悪くなる。

「うん……お国柄や宗教上の理由で中絶を禁止している国などで産まれた、望まれない子供たちが生きるために戦争や闇社会に入り込み、その容姿や頭脳を使い消耗品と化す。なんとも、胸糞悪くなる話しだ」

 穏やかだった猪口さえ、苦くなる。

 気分を一新する様に猪口は残ったウーロン茶を一気に飲み干した。

「で、だ。これで現場検証をして欲しい」

 そう言って猪口が出したのは、私用のタブレットだった。

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