おばあちゃんの家

望月俊太郎

第1話

「ねえ、おばあちゃんの家って知ってる?」

「聞いたことあるかも」

「あそこって本当に行方不明になった人がいるらしいよ」

「ホントに?」

「実際に事件になって新聞にも載ったことがあるんだって」

「それいつの話?」

「分かんないけど」


 私の通う高校で、そんな噂話が話題になったのは3学期の期末テストが終わり春休みに入る少し前のことだ。

 通学路からほど近い国道を進んでいくと見渡す限りの田園風景が広がり、そのさらに進んだ先に雑木林に覆われた一軒の廃屋がある。その廃屋を私達はおばあちゃんの家と呼んでいた。

 何故そのような名前が付いたのかも分からないのだけれど、心霊スポットで検索するとそこそこ上位に表示されるくらい有名な場所で、地元だけではなく他県からも暇を持て余した高校生や大学生などの肝試しに使われていた。


 大昔に老婆が落ち武者狩りに巻き込まれて殺されただとか、第二次世界大戦時中、夫と子供に先立たれた女性が後追い自殺をしただとか、おばあちゃんの家にまつわるいかにもな噂話を私も何度か耳にしたことがある。


 私や私の友人達は実際にその場所に行くことはしなかったが、遠巻きにこっそりのぞくように興味本位で口にしては面白がっていて、それくらいのスリルが私にはちょうどよかった。


 だから友人の1人が「今日の夜にさ、行ってみない?」と言った時にはドキリとした。噂話の全てを真に受けたわけではなかったが、実際に足を踏み入れるとなると気味が悪い。

 私は気乗りしなかったのだけれど友人達は乗り気で話が盛り上がり、結局行きたくないとは言い出せないまま、その日の夜にみんなで行くことが決まってしまった。

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