第7話 ギルド

 父上との別れを済まし、再び馬車乗り場へと戻った。


 父上との別れを済ますことができる原因を作ってくれた村長に礼を言おうと思ったが、村長は既に馬車乗り場にはいなかった。


「お客さん、そろそろ出発致します。乗り込んでください」


「はーい」


 そして再び近隣の国であるランス王国へと向かうのであった。

 今回は特に危険なことに遭わず順調な旅が進んだ。

 というか、毎回なんかあっては身が持たない。

 特筆すると言うであれば、終始上空に魔獣らしき生き物がたむろっていたことぐらいだ。

 理由はわからないが全く襲ってこず、むしろそいつらにびびってか普通の魔物が姿を現さなかった。

 そのことには俺しか気づいてない。

 ただせさえ魔獣という言葉に敏感なのだ。

 変な気を回させたくなかった。


 初めて見る景色の数々。

 見たことない動物。

 嗅いだことのない花の匂い。

 そうだよ! これが冒険だよ!


 俺は今初めて異世界転生したことを実感した。


「見てよマーチル、あの犬みたいやつら何してるのかな?」


「えーとね、あれはその、交尾だよ」


「ねえねえあの花動いてるよ!あ、なんか他の花と合体してる……」


「あ……交尾だね……」


「あ、あれは?」


「交尾だよ……」


 交尾しすぎだろ! どんだけ盛んなんだよ!

 まあこれが普通なのかもしれない。

 いつ死ぬかわからないのは何も人間だけではないのだ。




ーーー




「おー!! 流石王国! 流石のでかさだぜ」


 目の前に広がるのはランス王国だ。

 外は外壁に囲まれており、関所には兵士が多くいた。


 身体検査を済ませ無事ランス王国へと入国できた。

 大袈裟な形をしてこんな簡単な入国審査でいいのだろうか。


 マーチル曰く、外壁には王国随一のハイウィザード達が魔力結界を張っており、魔物が侵入できない様になっているらしい。

 その為、関所に来る時点で魔物は省かれており、簡単な身体検査で済むみたいだ。


「お、あんたその形なりをしてるってことは勇者希望者かい?」


 入国して早々、関所近くにいた小太りのおっさんに声をかけられた。


 おっ、さっそくフラグ発生か。

 読めるぞ。

 こいつは商人もしくはギルド関係の人だろう。

 ゲーマー歴9年の俺にはたやすく見切れるぜ。


「見たところかなり身分が良さそうに見える。もしかして貴族様かい?」


「いえ、俺はレイク。ただのレイクです」


「レイク……どこかで聞いた名だな。まあいい、よかったらうちが運営している飲み屋に来ないかい?」


 やはりな。

 この先の展開はおそらく、何か依頼を頼むんだろう。

 そして、瞬く間に俺の名が広がって、王国に呼ばれ、王女と結婚すると。


 許嫁? そんなの王女に比べれば大したことないだろう。


「マーチル、どうする?」


「じゃあ私、宿を取ってくるよ。取ったらまたここに来るね」


「わかった」


「俺の名はレバゾアってんだ。これからもよろしくなレイク殿」




ーーー




 レバゾアと名乗る男に連れられ、ある建物に連れられた。

 中に入ると、建物全体に広がるアルコールの匂いが鼻を通る。

 そこはいかにも冒険者って連中が酒を飲んで騒いでいた。


「お前らうるせえぞ! 期待の新人を連れてきた!」


 レバゾアが冒険者連中に一喝すると辺りが静まり返る。

 すごいな。

 こんな強そうなやつらをたったの一言で黙らすなんて。

 レバゾアさんは相当顔の利く人らしい。


「レイクってんだ、こいつはお前らゴミダメとは違って期待の新人だ。可愛がってやってれ」


 皆の視線が俺に集まる。

 ここは自己紹介をするべきなのだろうか。

 こんな体験、学生ぶりだ。

 うぅ、トラウマがよみがえりそうだ。

 だが、今の俺は違う。

 胸を張って舐められないようにしなくては。

 最初が肝心だぞ俺。


「初めまして、レイクでーーー」


「んだとこの野郎!誰がゴミダメだって!」


「てめえの方がゴミだろうが!」


 飛び交う罵詈雑言。

 投げ疲れる酒瓶。

 うん、これぞ冒険者ってもんだい。


 レバゾアと冒険者達の一悶着があったのち、改めて自己紹介の場が設けられた。


「初めまして、レイクです。これからもよろしくお願いします」


 自己紹介なんていつぶりだろうか。

 やはり少しきょどってしまった。

 気づかれていなければいいけど。


「おう、俺の名前はガスト、一応レバゾアファミリーの長をやってる」


「誰が長だって? 長はこの俺だろうが。あ、俺の名はマスト、俺が本当の長さ」


「なんだやんのかごら?」「上等だぼけ」


 どうやら酔いが回っているせいかどうでもいいことで喧嘩が始まるみたいだ。


「うるさいところですまんね。あ、俺はエレン。あんたアレンシュタットの坊ちゃんだろ? どうしてこんなところへ?」


 2人の喧嘩を眺めていると、隣に来た男、エレンが声をかけてきた。

 焦げ茶色の髪に、草食動物を思わせる目。

 口調も合わせて優しい雰囲気を感じる。


 しかしどうして俺がアレンシュタット家だとバレたのだろうか。


「なんでそれを……まあ、そのちょっとあって……それよりもここは何なんですか? 俺、知らず知らず連れてこられちゃって……」


「レバゾアさんたらしょうがない人だ。レバゾアファミリーってのは簡単に言うと冒険者ギルドみたいなやつだよ」


 エレンさん曰く、レバゾアさんが依頼を持ってきてファミリーがそれをこなす。

 そうやって金を儲けるって流れらしい。

 この国にはいくつか冒険者ギルドがあり、この冒険者ギルドは3年前にできた比較的新しいギルドみたいだ。


 そして、そのファミリーに知らず知らず入れられたみたいだ。

 なんかファミリーってうさん臭くてやだな。

 うわさで聞く、アットホームな職場ってやつだろうか。

 そういうとこほどブラック企業なんだろ?


「安心しろい、レバゾアさんはあぁ見えていい人だ。お前さん勇者目指してるんだろ?勇者になるには資格が必要だ。資格を取るにはもってこいさ」


 勇者って資格がほしいのか。

 各領地から選ばれた人が争って得るものではないのか?


「資格って具体的にはどうすれば取れるんですか?」


「まずは、冒険者カードを役所で発行しろ。あと、冒険者カードにはランクってもんがあって、ゴールドランク以上で資格を得られる。ま、毎日ひたむきに依頼こなしてたら勝手にゴールドになってるからあんま気にすんな」


 なんかポイントカードみたいだな。


「エレンさんもゴールドなんですか?」


「あぁもちろん」


「じゃあ勇者に挑戦したことは?」


「ダメだったよ。惨敗だった。俺はここで適当に依頼こなして、適当に生きるさ」


「そうだったんですか、なんかすみません」


 この人は強い。

 そう思わせるオーラがあった。

 しかしそんな人が惨敗だっただと……

 果たして俺が勇者になるのはいつになるのか。


「なあに気にすんな。ま、せいぜい俺に楽させてくれや」


 ガストさんとマストさんもかなりやり手だ。

 喧嘩のレベルが段違いだ。

 酒瓶を思いっきり頭にぶつけられたのにピンピンしている。

 頭に石でもつまっているのか。


「レイク殿、今日はもう仕事はない。明日また顔を出してくれ」


 空はもう暗くなり魔物が活発になる時間。

 例え行けと言われたとしても、長旅で疲れているので断ることになった。


「わかりました。ではまた明日」


「ほら、お前らもいつまで飲んでんだ、さっさと帰れってんだ」


「うっせえじじい、俺はまだ飲み足りねえんだよ!」




 騒がしいのを後にして俺は建物を出た。




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