二重勇者 転生したらイケメン勇者だったのでハーレム築こうと思います。

元エリート

第1話 転生したらイケメン勇者だった件

 ここは、どこだ?

 俺はさっきまで……あれ?

 どこにいたんだっけ。

 思い出せない。

 わたしは誰? ここはどこ?


 目の前には全く見覚えのない建物があった。

 しかし、そのどれもが朽ちている。


 そして、俺の方を見る多くの人々。

 その様子はどうやら穏やかではないみたいだ。


 俺、知らず知らず何かしちゃったか?

 でも、こんな大人数に恨まれることをしたら流石に覚えていると思うんだけど……

 

 何が何だかわからないがとりあえず謝る準備だ。

 こういう時はじゃぱにーず土下座だ。

 日本育ちの世渡りを披露しようではないか。


 片膝を地面につけると、一人の男がゆっくりとこちらへ近づいてきた。

 金髪でガタイがかなりいい。

 遠目でもわかるほど顔はとても男前で、外国の映画で似たような顔を見たことがある気がする。

 なんだなんだ、俺は本当に一体何をやらかしたんだ?


 記憶を振り返ろうとしても、黒いもやがかかったようで思い出せない。


 男は着実に距離を詰めてくる。

 近づいてきてあることに気づいた。

 男が殺気に満ちていることを。


 その男のオーラに圧倒されて思わず後ずさってしまう。

 しかし、思うように体が動かない。

 蛇ににらまれた蛙はこのような感情なのだろう。

 そして残り10メートルといったところで走り出してきてた。


 やばい、逃げなくては。

 逃げなきゃ殺される……

 そう思わすには必要過ぎるほどの迫力があった。

 しかし、その迫力に体が固まってしまい逃げることができない。

 そしてそのまま俺の顔面へと大きな拳を振りかざしてきた。


 口から白い何かが二つ飛ぶのが見えた。


「どの面下げて戻ってきたこの野郎!」


 ものすごく痛い。

 口からありえないほど血が流れている。


 そして続けざまに、腹に蹴りを食らった。

 肺の中の空気が絞り出される感覚。

 そして体が浮いた。

 

 少しばかりの空中遊泳を終え、地面に顔面から突っ込んだ。


「お前のせいで……お前のせいでこの村の被害が大きくなったんだ。お前のせいで、ライラが……」


 俺は死んだふりをしつつ男の声に耳を傾ける。

 俺のせいで被害が?

 全くもって意味がわからない。

 だが、この怒りようからして本当のことなんだろう。


 男は倒れた俺に馬乗りになり、顔を何度も何度も殴ってきた。

 おいおい、死んだふりしてるの気づいてるのか?

 死体蹴りは嫌われるぞ!


 男から繰り出される1発1発がまるで鉄球の様な重みを持っていて、顔の形が変形していくのを感じられる。

 もう痛いという感覚がなくなってきた。

 もう何が何なのか全くわからない。


 どうして俺は殴られてるのか。

 ライラって誰だ?

 どうして誰も止めないのか。

 人がこんなに殴られているんだぞ。

 だめだ、これ以上は……意識が……飛ぶ。




ーーー




 目が覚めると、見慣れない天井があった。

 しかし視界が狭い。

 目元が腫れているのだ。

 先程殴られたところがじんじんする。


 隣に人の気配がする。

 頑張って横を見ると金髪の優しそうな目をした女性が椅子に座ってこちらを見ていた。

 女性はニコニコしていて、見ているこっちも癒される。


「おかえり、レイク」


「ただ……いま?」


 レイク?

 俺のことか?

 いや、俺の名前は……えーと、なんだっけ?

 レイクではないのはわかる。

 しかし、えーと、あれ、本当の名前が思い出せない。


「お父さん、レイクが目覚めたよ〜」


 女性がそう言うと部屋の奥から足音がし、ドアが開いた。

 そしてお父さん……さっき俺をタコ殴りにしてくれた男が女性の隣に座った。


 お前が俺の親父だったんかい!

 ということはこの女性が俺のお姉ちゃんといったところであろうか。


 俺の親父がこちらを穴が開きそうな眼力で見てくる。

 初めて会った時と同じ目だ。

 衝撃と恐怖のあまり、俺は咄嗟に腕で頭を守ってしまった。


「お前は今までどこにいた?」


 男は低い声で俺にそう聞いた。

 どこにいたも何も全く記憶にない。

 俺は黙り込んでしまった。


「お父さん! まずはおかえりでしょ! ほら!」


「ん、、おかえりレイク」


 男は、いやお父さんはそっぽを向きながらそう言った。


「レイク痛くない?お父さん不器用だから……」


 不器用で済まされる問題か?

 どこの世界に息子を意識が飛ぶまでタコ殴りにする父親がいるというのだ。

 死んだかと思ったわ!

 いや、俺じゃなかったら死んでたぞ。


「痛いよお姉ちゃん〜」


 癒されるために女性に飛び込んだ。

 鼻の機能が失われても感じるこの花のような香り。

 やっぱりお姉ちゃんだよな。

 妹もいいけど、俺はどちらかというとお姉ちゃん派だ。


 あれ? どうしたのだろうか。

 この期にお姉ちゃんと思しき女性に甘えようと思ったのだが、どうやら様子がおかしい。


「お姉……ちゃん?」


「レイク、お母さんはまだまだ若いけどその冗談は無理があるわよ?」


 お母さん……だと? どう見ても10代後半から20代前半にしか見えない。 


 若づくりといっても限度があるだろう。


「レイク、お前、どうしたんだ?何か様子がおかしいぞ」


 初めから気づけ!

 とりあえず殴ろうとするのは息子的にNGです。


「お父さん、実は俺には……」


「お父さん?」


 どうやら父親はお父さん呼びにご立腹の様だ。

 じゃあなんなんだ? パパ? パピー? ダディ?


 選ばれたのは父上でした。


「父上、実は俺には記憶がなくて、何が何やらわからないんです」


 ありのままを告げたが、父上の反応がない。

 そりゃそうだろう。

 記憶のない息子をボコボコにしてしまったのだから。

 これを機に反省してもらいたいものだ。


「母さん、自白の魔法を」


 何それ物騒。

 ってか魔法って言ったか今?

 この世界には魔法があるのか?

 やはり異世界のようだ。

 つまり、これが待ちに待った異世界転生!

 ということは、俺は死んだのか?

 それともコンビニにいたら突然?

 まあどちらにせよ、日本の知識を使って無双する運命が見えるぜ。

 わくわくが止まらねえ。


「お父さん、それはいくらなんでも……」


「うむ、それもそうだな。おい、正直に答えろよ?」


 どうやら父上は母上には甘いみたい。


「なぜ領地を出ていった?」


 ここは、正直に答えようではないか。


「わかりません」


「なぜ村の危機に帰ってこなかった?」


「わかりません」


「なぜ今更顔を出した?」


「わかりません」


「母さん、自白魔法を」


「わかりました」


 流れるような自白魔法、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


 父上の指示で母上が俺に何か魔法を唱えてきた。


 不思議な感じがする。

 意識はあるのに身体は全く動かせない。

 まるで麻酔にかかったみたいだ。


「なぜ、領地を出ていった?」


「……」


 よかった。

 本当にわからないことは喋らないみたいだな。

 ここで俺の知らないことを俺が話し始めたら、どうなるかわからない。


「そうか、わかった。済まないレイク。どうやら本当に記憶がないらしいな」


 父上は先程の様子とは違く、本当の反省の意が込められていた。

 心なしか顔も優しくーー


「ごめんで済んだら警察はいらねえんだよクソ親父!」




 ……




 この魔法、言わなくてもいいことも自白しちゃうのね。


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