記憶の断片

(編注:天京院満家氏の要望により、一部削除個所があります)

記事

 ○○○○氏が先日、〇号線の路上で衝突事故を起こし、乗っていた蒸機馬車が炎上したために死亡した。運転手は一命をとりとめた。運転手の居眠り運転が原因と見られる。

 ○○氏は生涯AT(アームドスーツ)搭乗に情熱を燃やしていて、友人の○○氏はこう語る。

「かれはいつも、ATに搭乗しているときがいちばん落ち着くみたいだったにゃ」

 ○○氏は帝都生まれで、生まれてすぐ東部○○に移り、そこの○○学園を卒業した。軍で任務に就いた後、いくつか職を転々としていたが、やがて○○社で業務用ATパイロットを務めていた。

 ようやく定職に就いたことで家族で過ごす時間が増えたところで、持病が発見され、AT免許が停止し、デスクワークに就いていた。

 遺族は妻の○○さんと、息子の○○くん。

―○○新聞〇月〇日


〇〇〇〇氏のご遺族へ

 元上官として、哀悼の意を表します。

 故人は、今まで旗下についた部下たちの中でも有能とは言い難いですが、愉快なヤツでした。

 改めてご冥福をお祈りします。

 〇〇AT旅団司令官〇〇〇〇〇〇


宇宙開拓使〇〇様

 大陸への移住の許可が了承されました。

 これからは帝国民としての〇〇さんの人生の始まりです。是非頑張ってください。


病院からの手紙

 拝啓、愛する我が子へ。


 お母さんはここにいます。多分、でもいるのは確かです。だってほら、あなたが今手に持っているその手紙を読んでいるんだからね。

 さてと、この手紙を読もうとしているということは、私はもうあなたの傍にはいないということですよね?……ごめんなさい。こんな書き出しじゃあ不安になるわよね。でも安心して。きっとお母さんはこの世界にいるはずだから。私が死んだなんてことにはならないはずだから。まぁ、ちょっとくらい死んじゃってる可能性はあるかもしれないけど……。

 それはそうとこの手紙を読んでくれているということはとても嬉しく思います。本当にありがとう。もしかしたら読んでくれないかなって思っていたし、読んでくれたところでどうすればいいのか分からなくて途方に暮れていたからね。だけどやっぱりお母さんにとってあなたのことは何より大切な存在だから、たとえどんな状況になっても見捨てたりしないし、どうにかしてみせるつもりよ。もちろんあなた一人のために世界を犠牲にするわけにはいかないけれど、お母さんにとってはあなたの命が一番大切だし、それに他の誰かが助けてくれるならそれに越したことはないもの。

付記

 ○月○○日に○○さんが逝去したことをご連絡します。生前は看護師を困らせるようなイタズラ好きで、ムードメーカーとして同室の患者さんや看護師を楽しませていました。

 ご冥福をお祈りします。

―○○病院脳神経外科○○○○

 追伸:以下のご遺品もお送りしました。小物類1個。


 ○○くんは元気いっぱいで、かけっこでも大活躍しましたね。朗読も得意で、いろいろなお話を聴かせてくれます。でも、思いつめることがあって、時々暗い顔でうつむくことがあり、先生は心配です。困ったことがあるなら、先生が相談に乗るよ。

―○○小学校○年○組の通信簿。○○先生から○○くんへの通信欄の書き込み


 天京院〇〇氏について、身辺にメイドとして仕えていた○○○○○○さんはこう語る。

「ええ、わたしは確かに、若い貴公子だった○○さまも、かくしゃくとした老紳士としての○○さまも見てきました。わたしもむかしはきびきび動けたのに、今ではこうして子どもたちのセーターを編むくらいしかできないくらいに衰えてしまいました。こうして記憶をたどるのも一苦労です。

1つ思い出したのは、○○さまは怒ることがなく、子どものイタズラにも穏やかに笑ってる方でしたが、どこからかたまに来る手紙を読むときだけ、怒りを肩を震わせていました」

―○○○○タイムズの、天京院○○氏の評伝の切り抜き


 評議会議事録:〇〇〇〇君の除名について

 〇〇君の父の〇〇氏は〇〇地区の評議員であり、〇〇君もボランティアとしてわれわれの活動を支援してくれたが、〇〇君に加速主義の傾向があり、周囲への悪影響を考慮して除名処分とする。


「それで、子どものころ遊んでた友だちの中で印象に残った方はいますか?」

「〇〇君と言うのがいてね、まあホラ吹きだったんだけど、誰も傷つけないホラ吹きだったね」

―○○新聞のスポーツ欄、〇〇でドラフト外から通算156勝の記録を持つ投手〇〇〇のインタビューの切り抜き


「…… ええ、彼女のことはよく覚えてます。いやあ、実に可愛い娘でしたが、育ての親が軍務に服すように命令して、彼女もそれに従ってました。私は何も言えませんでした。しかしそれから何日かして、彼女のほうから私に会いに来たんです。なんでも帝国に行くのだとか言いましたが、そこで何をするのかは秘密らしいのです。私の見たところでは、どうも危険な仕事らしいので、私は心配して制止しましたが、彼女は頑として聞き入れませんでした。それでとうとう諦めて別れましたが、その後彼女がどうなったかは分かりません」

― 宇宙からの亡命者ノグチ氏、かれと交流があったある少女について


 ○○○○様

 ○○○〇市内への入場を認めます。

 帝国北東部再生機構

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