好きとひと言

「君がいてくれたら僕は生きられた。このどうしようもなく苦しくて辛くて逃げ出したい世界で、君が僕の隣にいてくれたから、僕は幸せだった」

 そう何度も君に僕は愛を紡ぐ。届かなくても失ったとしても消え逝く運命だとしても。僕は僕の世界を広げてくれた君に最大級の愛を込めて感謝を紡ぐ。

 君と一緒に生きられた人生の喜びを——


「ねえ、知ってる?」

 私がそう訊ねるとあなたは少しだけ視線をこちらに向けて「なにを?」と返事した。

「海辺の恋の伝説」

「なにそれ?」

 都市伝説?と笑うあなたの小さな笑顔が好きで、その笑顔が見たくて私は沢山の話しをあなたにする。

「あそこの海あるでしょ。そこで朝日が昇る瞬間に偶になんだけど、海がダイヤモンドダストみたいにキラキラって輝くんだって。それを恋人と見たら永遠の愛が結ばれるらしいよ」

「ロマンチックだね」

 そしてありがちだと微笑むあなたは今どう思っているのだろうか?ちょっとは意識したり興味をもったりしてくれているのかな?そうだといいな、なんて思う私はきっと臆病だ。結局はあなたに委ねているんだから。

「だよね!とっても素敵じゃない!一度でいいからそのダイヤモンドみたいな海見てみたいなー」

「朝日が昇る前に行けばいいんじゃない?」

「それはそうなんだけど……」

 と渋る私はやっぱり肝心なことは言えない。怖いと臆してしまう。たった一言。それがどうしようもなく遠くて遠くて遠くて、私は気づいてと欲してしまう。やっぱり臆病だ。情けない。

 だけど——

「なら、僕と行かない?確かに夜明け頃ってまだ少し暗いし女の子一人だと危ないしね。僕がいれば家族も許してくれるんじゃない」

 そうやっていろいろ言葉にできない感情を理屈や屁理屈で捏ねまわして私を連れ出してくれる。私の望みを私の想いを私の願いを叶えてくれる。それがどうしようもなく私は嬉しくて嬉しくて、自分が臆病なことを棚に上げてしまいそうになる。

 あなたのその優しさが大好き——

「うん!一緒に行こ!」

 やっぱり、その微笑んだ笑顔も大好き。

 私だけに向けてくれる優し気な笑顔が好き。


「お待たせ」

「うんん。じゃあ——」

「うん。いこっか」

 私たちは互いの歩幅で歩調を合わせて朝が蘇る前の世界を歩き出す。

 終わりと始まりの間。切なさと寂しさと儚さを青く淡くして静謐な空気感。

 それでも新しい世界なんだって呼びかけてくる星の微かな滲みと朝日の漏れ日。

 もう時期淡い夜は明け、輝かしい朝がやってくる。私とあなたは黙って海を眺める。

 ただあなたと君と過ごすこの時を大切と思いながら。

 ふとその手が触れた。波の音が心地よかった。海が輝きだし世界は色と光に満ちていく。誰も見たことのない二人を紡ぐ新世界を。

 僕と私は言葉以上の想いと込めてその手を握り返した。


 君がいてくれたから僕は幸せだった。

 やり残したことはあるのかと訊かれたらあるけど、それでも君が笑ってくれるなら僕は君を守り続けるよ。この命が果てるその果てまで。

 僕が僕で在り続ける限り、この鼓動を君に——


 ——好きです

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