16. チュー禁。

「チュー禁」

「はい…?」

 マナさんがみーてぃんぐコールをする前に、私の顔を見て真顔で言ったので、思わず返事に疑問符が付いてしまった。

「チュー禁?」

 俺、ちゃんと駐輪場に止めてるけど。と真顔で古江ふるえが言う。

「そのチュー禁じゃない。キス禁止の『チュー禁』」

「ち、近い…」

 キスの寸止めではあるものの、もしかして、羽佐はさって…。そういうことか。

れんちゃんとチューしたら罰金だから、ね」

「えぇー…俺、我慢できないぃー」

 そう言いながら、古江の顔が近付いて来たので、両手で拒否した。

 チューしないよ。させないよ。

「く、苦しい…」

「諦めてってばっ!!」

「諦めませんっ」

「おいっ」

 諦めずに迫って来たスレスレな顔面に、頭突きを。

「遅かった、か…」

 止めようとしたマナさんが、スタジオから出て行った。

「痛い…」

「同じく…」

 古江、鼻血が…。痛そう。やったのは、私だけど。

「ごめん…」

「いや、俺の方こそ…」

 古江は私と距離を置き、顔を合わせようとしない。反省してるのかな。

「制裁だよ。制裁」

 と言って、戻って来たマナさんが、古江の顔にタオル投下。

「蓮ちゃん、一応、古江もWEDGEウチらの大切なメンバーなんだよ…」

 羽佐が、拭き拭きしながら、

「蓮ちゃんにさえ手を出さなければ、非常に優秀なベーシストだと思う」

 一同、頷いた。

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