第5話 邂逅

 場所は空き教室。見つからないように身を隠している。


(困ったことになった)


 文は2人の会話に聞き耳を立てていた。


 彼は朋を襲うより以前、夜の学校を徘徊していた。それも度々……


 それは目的があっての事だが


(参ったなあ、やり難くなる。そもそも、どうして俺はあの時……)

 

 文には殺人衝動というものがある。


 恨みや妬み。所謂、殺意というものがなくとも人を殺しなくなる。

 

 ただ無防備な人間を見たら無性に殺したくなる瞬間があるのだ。


 それは両親が殺人鬼である事からの遺伝子……先天的な要因か?


 それとも殺人鬼である両親に育てられた後天的な要因かはわからない。


「でも……(それでも、今まで抑えて来たはずなのに、彼女に対してはなぜ?)」


 そう呟き、文は窓から朋の姿を覗き見る。


(あぁ、ダメだ。 窓からのぞくだけでもリスクは高いのに、どうして目が離せなかいのだろうか?)


 瞳に熱が入る。 


 熱い…… 痛い……


 過剰に、そして瞬時に赤く染まった瞳。


 血液が眼球を圧迫していく感覚。 


 慣れない、いつまでも……


 きっと、今の俺は怪物なのだろう。 こんなにも人を殺したいのだから……


 頭を振るう。 殺意を振り払う。


「ふぅ……」と落ち着かせるように深く息を吐く。水でハンカチを冷やして目に当てる。


「俺には、まだやるべき事がある」   


 自分の意思を再確認する。その時だった――――


「やるべき事?」


(声!? 背後から? 聞かれた――――誰だ?)


「ごめんなさい。聞こえたから」


 背後から近づく足音。もう、声の主はわかっている。


「えっと……文くんだよね?」


「あぁ、クラスメイトだよ。一応ね」  


「うぅん、そういう意味じゃなくて」


「?」


「昨日、私を襲ったのは貴方よね? 禅野文くん?」


 文は振り返り、瞳を隠していたハンカチを取る。


 赤い瞳は、黒く戻っていた。黒い瞳は鷲見朋を捉えた。


「何の事? 物騒な話をしてない?」


「ふ~ん、とぼけるんだ」


「とぼけるもなにも……」


 困惑する文。


(何を考えてるんだ、コイツ? ハッタリにしたって、襲ったかもしれない相手に無防備に近づけるものなのか?)


「――――何かの悪戯? 礼さん、花牟礼さんが好きそうだもんね。彼女と一緒にいるんだよね? 放課後は、同じ部活だから……」


「礼には、美術室に戻ってもらったよ」


「――――(わからない、本当に。何を考えている?)」


「私、人を見る目があるんだよね。わかっちゃうんだよ。礼みたいな、才能の有無」


「じゃ、俺にもあるのかな? 何か才能の有無」


「う~ん、殺人の才能かな?」  

 

 

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