紅眼の殺人鬼

チョーカー

第1話

 チャイムが鳴る。下校の合図だ。


 鷲見朋も帰宅の準備を終えて、席を立つ。


「あっ! 朋、少し待ってよ」


「うん、待つよ。やっぱり課題、苦戦してる?」


 親友の礼はキャンパスを前に筆を止めている。


「もう少し、何か自分を変えれる気がするんだけどね」


 親友の花牟 礼 は天才だ。少なくとも朋は、そう思っている。


(絵を変えるじゃなくて、自分が変わるって考えるんだ)


 本当の事を言うと、絵を描いてる礼の言葉を理解していない。


 理解できない事を悲しく思う。


(でも、だからこそ……う、うん!)


 朋は首を振ってダメな思考を振り払う。


「それじゃ、いつも通りに見回りの先生がこないか見ておくね」


 礼はいろんな賞を取っている。 先生からも特別扱いされている。


 遅くなっても活動は許されている。……黙認されていると言った方が良いかもしれない。


 (だから、いつもの事)


 いつも通りだ。 夜の学校。


 朋にも不安がないわけじゃない。


 生徒もいなくなり、残っている人はさらに少なく減っていく。


 コツコツコツ……


「あっ」と朋は呟いた。


 見回りの先生だ。 朋が礼に付き合って残っているのも知っている。


 軽く挨拶を―――― (あれ? どうしたのかしら?)


 朋は違和感を抱く。 でも、その違和感がどこから来るものなのかわからなかった。


(そうだ、普段なら電灯を消している廊下を見回るから……ライトを持っているはずなのに)


 きっと、ライトの電池が切れてしまったのだろう。


 朋は、一番現実的な答えを出して、足音に近づいて行った。


「お疲れ様です。今日も、礼が美術室に――――え?」


 許された光は月の明りだけ。 ぼんやりと人影が揺れて見えた。


(目が赤い!?) 


 なぜか、そんなはずはないのに――――


 朋は自然と呟く。


「……綺麗な瞳」


 その直後だった。 素早く接近した人影が、自分に抱きついて来たのだ。


 不思議と恐怖はなかった。


 自分の口と腕を抑えている人影。 


 強い力を入れていない。 むしろ、優しげですらあった。


(あぁ、わかった。どうして怖くないのか……こんなにも優しいのだから)


 殺意。 そう呼ばれるものが、どういう感じなのか朋にはわからない。


 でも、自分を襲っている人物からは感じられない。


 (不思議……だって今……私の喉元に冷たい感触があるのだから)


 冷たい感触。それは刃物。


 研磨され切れ味を有した金属が突き付けられているのだ。


(けど……)


「どうして私を? 貴方は誰?」


 自然と疑問が口から出ていく。


 ナイフから動揺が伝わってくる。 それから拘束が緩んでいく。


「すまない」と人影から声がした。


(どこかで聞いた事のある声だわ。男の人の声……)


 そう思い出そうとする朋の首に、軽く触れられた。


 それだけだ。それだけで、朋は自分の意識が薄れていく。

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