影おこし
月喰海月
底無し沼
「これがお前の言う底なし沼か?」
鈴木が言うには目の前の水たまりのような小さな沼が底無し沼らしい。
「底無しなんてあるわけがないだろ。どれだけ深くてもいずれ足が底につく。第一この沼?水たまり?の大きさだと人一人がやっと入れる幅じゃないか。」
「疑ってるのか?」
当たり前だ。そもそも何故私はたった3ヶ月前に仕事繋がりで知り合ったばかりの鈴木が「底無し沼を見つけた」という馬鹿馬鹿しい話に着いてきたのだろうか。きっと私が小学生の頃に田口くんを沼で殺してしまったことが頭をよぎったからだろう。
あれから30年の時が経った。もう時効だろう。
「帰るぞ馬鹿馬鹿しい。」
「確かめてみないのか?」
ニヒルに笑う鈴木に腹が立った。
「罪滅ぼししたくはねえのか?」
「!?」咄嗟に俺が振り返ろうとした時背中を蹴り押された。小さな水たまりの中に吸い込まれるように落ちていく体。
深い!広い!水の中で手足をバタつかせ、もがけど伝わる感触は暴れる水や沫のみ。固い壁や地面に手足が届かない。というよりもない。そんな感じがする。苦しい。生きるか死ぬかの危機、そんな中も頭の中をよぎるのは田口の姿だった。
あいつもこんな苦しい思いをしたのかな。
私はいつも3人で遊んでいた。その日も。
転校してきたばかりで友達のいなかった私にその2人は優しかった。
あの日私たちはかくれんぼをして遊んだ。
田口と一緒に隠れ場所を探していたとき、
「沼の中に隠れよう!」当時の俺は忍者に憧れていた。忍者の術の一つに水遁と呼ばれる隠れ技があった。事前に作っておいた竹筒を彼に渡して、私はあろうことか突き落とした。バタバタと手足を動かして溺れる田口を見て私は怖くなった。もう一人の関口が私たちを探しにきた時には既に沼は静かだった。
「あとは田口だな」
今でもあのようなことを言えた私には鳥肌が立つ。
「一緒じゃなかったのか?」
ドキッとした。
「…。絶対に見つからないところに俺は隠れるからお前は来るな、だって。」
関口は1時間探しても田口を見つけられず、飽きて帰ってしまった。
後日警察が捜索したが結局誰も田口を見つけることができなかった。わたしにだけ彼がどこにいるか分かっていた。
関口はその3ヶ月後に親が離婚して母親と共に違う町へ引っ越してしまった。
どれくらいこうしているだろう。苦しい。もう限界だ。
!
なんだこれは…!
水の中で初めて固いものに触れた。
これは…竹…か?
その瞬間ぎゅっと腕を何者かに掴まれ地上へ引き上げられた。
ぼんやりと鈴木の顔が見える。
「す…ず、き…」
「底無し沼だったか?」
あれ、底がある…。
「それで呼吸できたか?」
「…。」何を言っているんだ。
「1m50cmくらいだよ。」
は?
「その穴も、あの沼も。」
ああ、そう言えばお前は昔っからズルをするやつだったな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます