第80話 思い出のチョコレートパフェ
九月に完結した連作短編の二編目『チョコレートパフェ』では、主人公が小さい頃に食べていた思い出のチョコレートパフェが出てくるのですが、実は私にも思い出のチョコレートパフェというものがあります。
私の思い出のチョコレートパフェを語るのに欠かせない人物がいます。母の古い友人、通称『オババ』。『オババ』は友人というよりも、むしろ親戚の一人のような感じで、私にとっては実の叔母のような人です。
母よりも十三歳年上で、今は
『オババ』というあだ名は、近所の乳児が『おばさん』という言葉をうまく言えなくて『オババ』にしか聞こえなかったことから、母の兄(私の叔父)が付けたのですが、当時のオババはまだ二十代でした。
オババは、母が小学五年生くらいの頃、双子の赤ちゃんを連れてお隣に引っ越してきた若奥様だったのですが、旦那さんが仕事で家を空けることが多く、ワンオペで双子の赤ちゃんのお世話はマジで大変なので、母の母(私の祖母)があれこれお手伝いをしているうちに仲良くなったそうです。
母には三歳上の兄がいて、卒業式と入学式が被ることがあったため、その時は母の式にオババが代理で出席していたそうな。母にとってオババは母と姉の中間のような存在でした。
オババにとっても、母は妹と娘の中間のような存在だったみたいで、母の子どもたち(つまりは私と私の姉弟たち)までとってもかわいがってくれました。
私の大学の入学式には、新幹線に乗って訪ねてきてくれましたし、姉弟の結婚式などにも、直属の親族と同じように参列してくれました。
私がまだ就学前、母が一度、五人の子どもたち(ちなみに、私は五人姉弟の一人です)を全員連れてオババの家を訪ねたことがあります。一番下が二歳で一番上が十一歳くらいでした。
電車を乗り継いで三時間ほどの旅を、母一人でゾロゾロと子どもを連れて決行。私と二歳の弟はお約束通り鼻水を垂らしていました。駅まで迎えに来たオババが一瞬、他人のフリをしたくなるほど、『ザ・貧乏の子沢山』な風情の一団だったそうです(オババ談)。
オババ家の最寄り駅のそばに喫茶店がありまして。その時オババは、私たち一家をそこの喫茶店へ連れて行ってくれて、大きなチョコレートパフェを頼んでくれました。
なんせ就学前の鼻タレだったんで、その喫茶店のことはぼんやりとしか覚えていないんですが、あの時食べたチョコレートパフェのことは鮮明に覚えています。
四歳児の目には巨大で超ゴージャスなデザート。「こんな夢のような食べ物があるんだ!」と感激しました。
なぜ今になって三十年以上前に食べたチョコレートパフェのことを書いているのかというと、今週、オババの家へ行ってきたんですよ〜。今回は母と私と私の子どもたちの四人で。前回に会ったのは弟の結婚式だったので、八年ぶりの再会でした。
『オババ』というあだ名なのに、彼女ほど『婆』という字が似合わない人はいません。日本舞踊の師範を持つ長身の美女で、八十六歳の今でも、モデルのようにさっそうと歩く姿がエレガントです。
今でも家事は全部自分でこなし、シニア向けのクラスに毎週通い、駅まで三十分の道のりを健康のために歩くっていう超人ぶり。
八十代で美しくいられるっていうのは、本当にすごいことだと思うんですよ。小さい頃は体が弱くて「四十歳まで生きられない」と言われていた人なのに、今では誰よりも健康……というか強靭と言ってもいいくらい、背筋のピンと伸びた生き方をしているレディーでございました。
もちろん、件の喫茶店でチョコレートパフェを食べて帰りました。お店も店主さんも、非常に年季が入っていて(笑)、レトロでチャーミングなお店でした。私が初めて行った当時、店主さんは二十代でお店もまだまだ新しかったらしいので、時の流れをしみじみ感じましたよ。
チョコレートパフェは、期待を裏切らない豪華さとクオリティでした。旬のフルーツが盛りだくさんで、大きなイチジクがのってたのが珍しくて、おお、とテンション上がりました。
四歳で初めて食べて以来、このチョコレートパフェは数回食べてるんですが、最後に食べた時は大学生だったので、二十年以上ぶりです。それなのに、思い出と寸分違わない味と見た目ってのがまた驚きなんですよね〜。そんな食べ物、私にはこのチョコレートパフェくらいです。
なんせ、だいぶ年季の入ったお店ですから、もういつ閉店してもおかしくありません。もしかしたら、思い出のチョコレートパフェが食べられたのは、これが最後だったかもしれません。
みなさんも、思い出の食べ物とかあります?
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