第17話 第三章 デレと幼馴染み。(1)
第三章 デレと幼馴染み。
過ごしやすい春は終わりを告げて、ジメジメとした時期が続く六月。
夢風にやられてから、はや二週間ほどが経過した。
特にこれといって変わったことはなく、毎日のように俺は神無月と一緒にいた。
それはもう、昼休みも放課後も下校時も。
のだが…
「今日は神無月さん、来なかったな」
「え?」
突如として、湊に話しかけられた。
しかも話題の内容は神無月。
「熱でも出したんだろうな。季節の変わり目だし。ってか、何でそんなこと俺に言うんだよ」
「最近、水無月って見るたびに神無月さんと一緒にいるからさ」
「ああ。まぁ、なんとなく仲がいいだけだ」
「なんとなく…か。ちょっと羨ましいな」
湊は含みのある笑みを浮かべていた。
「羨ましいって何がだよ?」
「神無月さんと水無月。どっちも羨ましいんだよ」
「いやいや、所詮は陰キャ同盟だぞ。湊みたいなリア充の方が羨ましい…わけではないな。すまん、俺はいまいち、湊の立ち位置に羨ましいとは思わないわ。でも、普通の陰キャから見たら羨ましいと思うぞ」
「ははっ、なんだよその取って付けたような感じは」
「バレたか」
「そんなの誰でも気がつくよ」
再び、湊は含みのある笑みを浮かべた。
「いやさ、冗談抜きで、最近の水無月と神無月さんを見てると、本当に羨ましいんだよ」
「だから何でだよ…」
「なんて言ったらいいんだろうな…。二人を見てると、なんだか本当の友達っていうか、心の底からお互いがお互いと一緒にいることを楽しんでいるような、そんな感じがするんだよ。まぁ、もちろん他にも羨ましがる理由はあるんだけど」
「いやいや待てよ。俺と神無月は話すようになってから、まだ二週間しか経ってないぞ。それなのに、心の底から楽しんでるとか、そんなことないから」
湊は少しだけ真剣な眼差しになり、俺の目をしっかりと見てくる。
「だからだよ。時間をかければかけるほど、人間って仲良くもなるし、悪くもなるだろ?」
「まぁ、そうだな」
湊の言うとおり、時間がたてばたつほど、お互いを知り、相手の短所、長所が見えてくる。
相手のことを深く知り、仲良くなる場合もあれば、
あれ? 合わないなと、仲が悪くなる場合もある。
もっとも、俺と神無月がまだその段階にすら達してないと思うんだが。
「神無月さんと水無月はもう最初から出来上がってるんだよ。まるで、昔から知り合いだったような」
その言葉に一瞬、ドクッと心臓が跳ねた。
そんな俺に湊は爽やかな笑みを見せて言った。
「冗談だよ。そんなわけないよな」
「そ、そうだろ。そんなわけないだろ」
言葉を少し詰まらせた。
それは嘘をつくかどうか迷ったからだ。
まぁ、結局は嘘をつくんですけどね。
しかし、本当にこいつは常に笑みを浮かべてて、すごく愛想が良いというか、なんというかどっかの、神無月とは大違いだな。
「でも、もし神無月さん以外に―いや、なんでもないわ。僕は部活行くから、じゃあな」
湊は真剣な顔つきで何かを言いかけたと思ったら、逃げるように俺の元から離れていこうとする。
「あっ、ああ。部活頑張ってくれ」
俺のその言葉に一瞬だけ、振り返り、「おう」とだけ返事をして、教室から出ていってしまった。
「ふぅ…」
ホッと一息。
久々に神無月以外のクラスメイトとの会話だったので、少し疲れてしまった。
しかしなぁ、湊、やけに的確に突いてきたよな。
あれがクラスの一軍男子の力なのだろうか。
そんなことを思いながら、帰ろうと席を立った時だった。
「ちょっと」
「え?」
俺を睨みつける茶髪のギャルが立っていた。
「えーと、松葉だっけ。何か用?」
「ちょっとこっち来なさいよ!」
「えっ、ちょっと何⁉」
腕を掴まれて、教室の外に連れていかれる。
どうやら今日の俺は、予想外のことが色々と起こるらしい。
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