私のこと好きでしょ。と勘違いしている女の子はどうすればいいですか?

水色

第1話 プロローグ 昔の自分と今の自分は違う。

プロローグ 昔の自分と今の自分は違う。




それは夢だったのか、現実だったのかは分からない、曖昧なもの。




大きなゾウの滑り台が印象的な公園。


そこに三人の小さな子供が座り込んで話している。


「これから俺達は、何があってもずっと一緒だ」


威勢の良い男の子がくさい台詞を口にする。


「うん、そうだね、相棒の言うとおりだよ。僕もその意見に賛成だよ!」


「相棒って、ずっと俺のことそう言ってるよな」


「おかしいかな?」


「いや全くもって、おかしくないぜ!」


少し気の弱そうな男の子が、威勢の良い男の子と拳を合わせて、ニコニコと笑い合っている。


「もう、二人ばっかりずるいよ。私もその約束に入れて。それに相棒は私の方でしょ?」


そこに入っていく、とても寂しがり屋な女の子。


「よし、しーちゃんも俺達と約束したからにはずっと一緒だからな。あっ、でも、相棒が二人いるのはおかしくないか?」


威勢の良い男の子が寂しがり屋な女の子にそう言うと、少女はホッとしたようにえへへっと微笑む。


「いいんだよ、相棒!」


そして、三人の視線は、もう一人の不思議そうにこちらを見つめる少女へと送られる。


威勢の良い男の子が、声を張り上げて、少し遠くにいるその少女へと声をかける。


「おーい。お前も、もう俺達の仲間だからな」








ドスンっと、背中に強い痛みが走る。


「痛ぇ……」


勢いよくベッドから落ちた俺はしばらく天井を見つめて呟いた。


「また、あの夢か」


今の俺に見せられても、困るんだよな。


そう思う理由ははっきりとある。


ちょうど十年ほど前のことだ。


まだ七歳だった頃、俺は交通事故に遭った。


幸い、命に別状はなかったのだが、頭を強く打った衝撃で、記憶を失った。


目覚めたときには、家族の名前はおろか、自分の名前さえも分からなかった。


当然のように、自分の記憶がないことに困惑した、頭の中に何かぽっかりと空白が出来たような、そんな気味の悪さが当時の幼い俺を襲った。


だけど、今はもうそんなマイナスな気持ちなどない。


さっき見ていたあの夢。


おそらくは俺の記憶なんだろうけど、


今見せられても自分の記憶というか、誰かの想い出を見ているような。


そんな気分にしかならない。


正直に言ってしまうと、今の俺にとってはどうでもいい。


過去のことはしょせん過去だし、何せ、記憶を失ったのが、七歳の小さい頃だ。


これが大人ならば、こんな簡単にはいかないだろう。


だけど、小さかったということもあって、今現在、十七歳になった俺にはもうどうでもいいことになっていた。




「自分の過去なんて…興味ねぇよ」


そう呟きながら、俺は家を出た。

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